ある忘年会の席上、まだみんなが集まる前の会話記録
「乾杯! Yちゃん、昨日見立てについて書いたけれど、読んだ?」
「え、昨日は読んでません。見立てって、落語家が扇子を箸に見立てて使うとかいうときの見立て、ですか?」
「そう。夜空に笑顔が浮かんだって、この間話題になったでしょ。そのことと、鹿島槍ヶ岳って代々木体育館に似てるなって思ったんで、見立てについて書いたんだけれど、上手くまとまらなかった・・・」
「ここで質問。竹の枝ってどこから生えてる?」
「竹の枝は、節のところから生えてます。絵に描くと・・・」
「だよね。筒状になっているところからは生えてないよね。で、ここで見立て。Yちゃんが今描いた竹って鉄骨造に見立てることができると思うけど」
「鉄骨造・・・」
「そう。すると枝は筒状の鋼管柱に付いている梁ってことになる。するとさ、節は?」
「鉄骨の柱に梁が付いているんだから、節は・・・。そうか、ダイヤフラム!」
「そう竹の節はダイヤフラム。見立てって、まあ、そういうこと。いろんなものを建築に見立てると面白いし、技術やデザイン的な発想にも繋がるよね。竹の節は挫屈止めの働きもしていると思う。だから鉄筋コンクリート造のフープ筋」
「なるほど、そうですね! 竹ってうまくできてる~っ。そういえば以前、バイオミミクリーについてブログに書いてましたね。バイオミミクリーってあまり馴染みのない言葉ですけど、生物模倣ってことですよね。生物の形や生態系そのものにヒントを得て様々なものやシステムのデザインに採り入れること、とでも理解すればいいんですよね」
「そう。朝のラジオ番組で月尾嘉男さんがそのことを話題にしたことがあって、そのことを書いた」
「鉄骨造の柱と梁のジョイント部分の構造的な処理を仮にさっきの話のように竹の節とそこに付く枝をヒントに発想したとしたら、それってまさにバイオミミクリーってことですね」
「そうだね。ガウディはすべての答えは自然にある、とかって言ったらしいけれど、あの独特のデザインは自然から学んだものなんだよね。自然のアナロジーとして発想するってすごく有効なんだね」
「そうですね・・・」
「デザインといえば、原さんは、京都駅を自分が育った伊那谷に見立ててデザインしたんだよね」
「そうなんですか? でも京都駅の一体どこが伊那谷なんですか?」
「え、あの大きな階段で構成された空間」
「へ~、そうなんですか」
「それから、せんだいメディア・テークの床についてはトンボの羽の構造との類似性を佐々木さんが書いているけれど」
「佐々木さんって、構造の・・・」
「そう。まつもと市民芸術館の構造も担当した佐々木さん。合理的な形は自然に見出すことができる・・・」
「そうですか。見立て、アナロジー、バイオミミクリー、類似性・・・話に出てきたキーワードってみんな関係ありそう」
「まあ、全く知らないものって発想できないと思うから、今挙げたキーワードが発想に有効だろうね」
「U1さんもそうですか」
「たぶん」
「え~、例えばどんな」
「あのボールト屋根のカーブって、Yちゃんの胸のカーブから発想したとか」
「きゃは、だったら、もっと急カーブなはずですけど・・・」