■ 楡 周平の『虚空の冠』、今日(20日)下巻を一気に読み終えた。文庫化するとき副題の「覇者たちの電子書籍戦争」を加えたそうだが、この説明的な副題が必要だったのかどうか。私は不要だったと思う。
上下巻で約730ページの長編は終戦から3年後のある事件から始まる。極東日報の掛け出し記者の渋沢大将(ひろまさ)は緋色島で発生した火災取材に船(きく丸)で向かう。当時遠距離の情報伝達手段として一般的だった鳩と共に。
船はアメリカの軍艦に衝突されて日本人50人と共に沈没する。この時衝突した軍艦は救助活動もせずに現場を立ち去った・・・。アメリカ軍艦の当て逃げ事件。この不祥事は日米間の政治的判断によって隠蔽される。
漂流の末、ただ一人救助された渋沢大将。
時は流れて現代。高層ビルから見る夜の東京、光の洪水。
渋沢は日本最大のメディアグループのトップの座に就いている。メディアグループとIT業界の寵児率いる通信事業会社との「プラットフォーム」と「コンテンツ」を巡る熾烈な戦い。
戦いの勝利、新メディアの確立に貢献した功績による最高位の叙勲。渋沢は成功の頂点を手にして、人生の終焉を迎えることができるかと思われたが・・・。ラスト、戦後のあの事件の真相が明らかにされる、それも鳩によって。
長編を一気読みさせる楡 周平の力量に脱帽。