透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「ナマコに学ぶスローライフ」

2017-06-14 | A あれこれ

■ NHKラジオ深夜便の朝4時過ぎからのコーナー「明日へのことば」を今朝(14日)も聞いた。

今朝のゲストは生物学者の本川達雄さんだった。本川さんは『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』中公新書で有名になった。

話の中で興味深かったのは、生き物は多様だけれど形の上での共通性は円柱形だという捉え方、認識。ヒトの指も円柱形、首も円柱形、胴体も円柱形。ヘビもミミズも円柱形、木の枝も円柱形。ここで言う円柱形は幾何学的な形として厳密なものではもちろんなく、輪切りにした時の形が円形ということだと理解した。タコの脚も、バナナもこの意味では円柱形だ。

なぜ生き物は円柱形なのか?

平たい形は薄い方向に弱いけれど、円柱形には弱い方向が無いというのが答え(ということでよかったと思う)。

この話題の他にはハツカネズミもヒトもゾウも心臓の鼓動が15億回で寿命だということ(この話は『ゾウの時間 ネズミの時間』に出ていたような気がする)。ヒトの場合、60回/分として電卓を叩いて自然の寿命を計算すると47年半くらいになる。話の中では自然の寿命は41、2年とのことだった。安静時は60回くらいだが、もっと多いことももちろんあるから納得できる数字だ。

その倍くらいの今の寿命は技術がつくり出したもので人工生命体だという話に、なるほど、確かにと納得した。便座は温まっているし、冷暖房の効いているのも寿命を延ばす。たくさんのエネルギーを使って寿命を技術的に伸ばしている。

本川さんは35年間ナマコの研究を続けてきて、ナマコに人生のあり方を学んだ、というかナマコの生活から人生を考えたそうだ。ナマコは海底に天国をつくっていると本川さんは言う。何もしない、じたばたしない、エネルギーをほとんど使わないナマコ的生活は今の社会、現役時代には無理。でも定年後は生活を便利にしてきたものをできるだけ遠ざけてそのような生活をすべきだと語っていた。

話の内容に感じ入り、本川さんの著書『ウにはすごい バッタもすごい』中公新書をさっそく買い求めた。


 


わかりにくいのであれば

2017-06-14 | A あれこれ








 上田市のサントミューゼには先月(5月)出かけ、吉田博展(~6月18日)を鑑賞してきたが、今月11日に再び出かけた。吉田博展に行ってきた人から館内が分かりにくいという声を聞いて、なぜ分かりにくいのか、その理由を知りたいと思ったから。

模型(写真⓪、①)で分かる通り、サントミューゼは円環形の回廊に沿って劇場・ホール、美術館をはじめ必要諸室を配置する構成だ。

駐車場に車を停め(写真⓪の模型に表現されている駐車場)、正面エントランスから館内に入ると、正面に円環回廊に縁取られた美しい芝生が目に入る。このような空間は魅力的だが、その演出故、エントランスホールの正面か側面にあることが多いチケット売り場が見当たらず(写真②)、ここに初めて来た人は美術館に行きたいのだけれど、右?左? どちらに行けばよいのだろうと困惑してしまう。分かりにくいという評はこのことに因ることろが大きいのではないか。







注意して回廊を見ると、細い円柱に「吉田博展」の垂れ幕が掛けられていることに気がつき(写真②左側3人の来館者の後ろ、写真③2本の円柱)、あの先に美術館があるのだな、となんとなく分かる。

回廊が直線であれば、先まで見通せるから、③の位置から④の美術館の入口が分かるけれど、円弧状であるために先に進まないと見えない。先が見えないことを期待感が高まるということで評価する向きもあるが、不特定多数の利用者のある施設は分かりやすいことを優先すべきだと思う。(過去ログ

回廊を進むと、青い壁のところにカウンターが見えてくる(写真④)。よかった、あのカウンターでチケットを買い求めれば良いのだ、と初めての来館者なら誰しも思うだろう。ところが・・・。




このカウンターではチケットを買い求めることができない。カウンターの女性が示す先にミュージアム・ショップ(写真④で左側に写っている)があるが、そこでチケットを売っているという。このこともまた、分かりにくいという評となるだろう。ミュージアム・ショップでチケットを買い求めるという経験はしていないと思うので。

サントミューゼは2014年10月のオープンしたが、その時から美術展のチケットをミュージアム・ショップで販売してきたそうだ。ちなみにコンサートのチケットは総合案内カウンターの後ろの事務室で売っているそうだ(電話して確認した)。

しばらく様子を見ていると、カウンターでもぎりをする女性がチケット売り場を案内することが何回かあった。女性はこの日、何回このような案内を繰り返したのだろう・・・。







これだけ大きくて立派な施設に総合案内が無いはずはない。エントランスから回廊に入り、左に向かうと美術館に至るが、総合受付は右側にある。エントランスの木製ドアが写真⑦の中央に写っているが、このドアから入り、振り返って右側後方を見なければこの総合案内のカウンターには気がつかない。人の基本的な行動パターンは「前へ、前へ」だから気がつかないのだ。


⑦ 総合案内カウンターに職員が常駐していない。




サントミューゼは、劇場・ホールは赤、美術館は青というシンボルカラーを決めていて、両施設の入り口近くの大きな壁をこの色にしている。このシンボルカラーを有効に使って施設内の案内をすることを考える。例えばエントランスの真正面のガラスの壁面(写真②)にこの色で方向を示すタペストリーを吊り下げたらどうだろう。この施設の名前の由来(サント=蚕都)にもなっている上田紬のタペストリーなら最高!

要するにメインエントランスを入って右が劇場・ホール、左が美術館という情報を分かりやすく、そしてこの美しい空間に相応しいデザインで示せばよい、ただそれだけのことだ。


⑨ 表参道ヒルズの外壁に付けられた小旗、繰り返しの美学な光景 撮影2006年11月

回廊の壁面にこのように小旗を付けて来館者を誘導するという方法も有効だと思う。美術館方向へ赤を基調とした美しいデザインの小旗を繰り返し、劇場・ホール方向へ青の小旗を繰り返す。もちろん時々旗は変える。コンサートや美術展のPR旗を加えてもよいと思う。

それから青い壁の前のもぎりカウンターを美術展のチケット売り場にすればよいのだ。このようにすれば館内が分かりにくいという不評は解消されるだろう。

このような工夫によって、コンセプチュアルなプランの建築が活きてくると思うのだが・・・。


⑩ エントランスと美術館との位置関係 チケット売り場のミュージアム・ショップはこの案合図の14。




本稿のテーマには関係ないけれど、回廊の休憩スペースがこんなことになっていることも気になる。下の外観写真で分かるように、とても大きくて立派な施設なのに、地域の公民館的な運営になっているのではないか、と思う。


⑫ サントミューゼ外観 劇場・ホール 


⑬ サントミューゼ外観 美術館



⑭ 国立新美術館

東京は六本木の国立新美術館の空間構成は実に分かりやすく、この大きなホールに入ると、目指す展覧会場が一目で分かる。会場が分からないなどということはない。