透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「アウトブレイク」読了

2020-04-08 | A 読書日記

 『アウトブレイク 感染』ロビン・クック(ハヤカワ文庫1988)は390ページもある長編だが、再読を終えた。海外の長編を読むことはもう無理だろうと前から思っていた。登場人物の名前すらきちんと覚えられないのだから・・・。だが、この作品を読み終えて「なんだ、まだ海外の長編読めるじゃないか」と思った。もっとも、この作品の登場人物は少ないが。  この作品の作者、ロビン・クックはアメリカの医師。

エボラ出血熱という過去にアフリカで流行した致死率が極めて高い伝染病のウイルスを意図的に感染させるという医学界の凶悪な組織的犯罪の顛末を描いた作品。サスペンス小説だから、ストーリーや結末は書かないでおく。

例によって、本文を引用する。

**(前略)流行が故意に引き起こされたのではないかという考えをどうしても棄てきれないでいた。また、どうでなくとも、どこかの医者が研究をしていてコントロールできなくなったのかもしれない、とも思う。**(190頁)

**「(前略)エボラの脅威を控え目に思わせるのはかえって逆効果だ、と考えます。エボラの流行はこれで終わりだ、と信じる科学的な根拠は何もありません。もう一度起こらないうちに原因を探りたい、とわたしはそれに最善を尽くしているつもりです」(196頁)

これは事件の真相を追う、主人公のマリッサ(嫉病管理センターのウイルス学部の女性医師)の台詞。

**恐ろしいウイルスの取扱いにしか使われない精巧な設備を備えた研究所で、超保守派の医師の集団がいったい何を企んでいるのだろう?**(277頁)

**震える手で注射銃をこちらへ向け、その丸い先端をよく見て、この中に入っているのはエボラ・ウイルスだと察し、(後略)**(285頁)

読みながら恐怖を感じ、先が気になって読み進んだ長編。

新型コロナウイルスの感染拡大が続く今、カミュの『ペスト』を読むのもいいけれど、この作品もいいだろう。


 


「滅びゆくものへの賛歌」

2020-04-08 | H 「あ、火の見櫓!」





■ 安曇野在住の作家・永田浩幸さん(過去ログ)には『あ、火の見櫓!』(プラルト2019)を中日新聞の「旬」という月1回発行のタブロイド紙で紹介していただいた(2019.11)。

『安曇野文芸』は1998年に創刊された文芸誌で年2回、4月と10月に発行されている。この雑誌の最新号(2020年4月号)に永田さんの「滅びゆくものへの賛歌」と題した作品が掲載されている。この作品でも『あ、火の見櫓!』を取り上げていただいた。

「滅びゆくもの」と火の見櫓の現状をズバリ表現されると、もちろんその通りなのだが、現実を直視したくない者としては寂しい気持ちになるのも事実。

で、「賛歌」。「賛歌」と聞くと「雪山賛歌」という歌が浮かぶが、この賛歌とはほめたたえる気持ちを表す歌のこと。「滅びゆくものへの賛歌」、なるほど確かに。私の現在の火の見櫓に対する気持ちを的確に表現したタイトルだと思う。**次々と姿を消していくもの。だから愛おしい。**(75頁)

永田さんも本を読んでから火の見櫓が気になるようになったと書いておられる。発見した時は、なんだかうれしかったとも。

嬉しい。