透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「12 男はつらいよ 私の寅さん」

2021-07-03 | E 週末には映画を観よう

人間として生きていることの証ですよ

 週末は寅さん、昨日(2日)は第12作「男はつらいよ 私の寅さん」を観た。第1作から順番に観ていきたいが、レンタル中では仕方がない。
寅さんの妹さくらが夫の博に相談しておいちゃん、おばちゃんに感謝の気持ちを込めて九州旅行をプレゼント、みんなで出かけることに。折り悪く寅さんがとらやに帰って来たのは、出発前日。ひと悶着あるも、寅さんとらやで留守番というまさかの逆パターン。

タコ社長や源ちゃんにも手伝ってもらって、旅行から帰ってくる「家族」を迎えるために奮闘する寅さん。茶の間の掃除、食事の準備(意外にも割烹着がよく似合うタコ社長)。家族が帰ると隠れるように風呂場で湯舟をかき混ぜる寅さん、照れくさいのだろう。

映画は後半へ。小学生の時、寅さんと大の仲良しだった同級生(前田武彦)がとらやを訪ねてくる。何十年ぶりかの再会。同級生にはりつ子(岸恵子)という画家の妹がいて・・・。会ったその日から恋の花咲くというのがいつものパターン。だが、今回は寅さん、マドンナと大喧嘩。でも後に引くことなく寅さんいつもの通り恋に落ちて・・・。

*****

とらやの茶の間では例によってタコ社長も加わって一家団欒。

「人間食うために生きてるんだぜ」とおいちゃん、「そうだよ」とおばちゃん。

こんな場面で山田監督は自分の想いというか考えを博にストレートに語らせる(*1)。

「確かに食っていくってことは大変なんですよ、この世の中じゃあ。でもね、人間が生きていくってことはそれだけじゃ決してない。だからこそ、りつ子さんみたいな人が必要なんですよ、つまり芸術家がね。美しい音楽を聴いたり、すばらしい絵をみて感動するためにだって僕たちは生きてるんじゃないですか」
(略)
「兄さんが美しい女性(ひと)に恋をする。これは兄さんが人間として生きていることの証ですよ、そうでしょ兄さん」

第12作はこのやり取りが見どころ、聞きどころ。


*1 せりふは正確には表現できていません。


ブックレビュー 2021.06

2021-07-03 | A ブックレビュー



 早くも7月。時の流れは速い。子どものころは1年経つのはずいぶん長いと感じていた。だが、今ではそれこそあっという間だ。さてと・・・。6月に読んだ本は4冊。

『人新世の「資本論」』斎藤幸平(集英社新書2020年)

自然を単なる掠奪の対象とみなし、無限の成長を目指す資本主義が地球環境を危機的状況に陥れた。この状況から脱するために採るべき方策のキーワードは晩期マルクスの思索から読み解く「脱成長コミュニズム」。

巻末に載っている参考文献リストは細かな活字、上下2段組で10ページにも及ぶ。内容の充実ぶりがこのことからも分かる。


『夜明け前』島崎藤村(新潮文庫1954年)第一部上巻2013年92刷、下巻2014年76刷

何年ぶりかの再読。全4巻の長編小説の1、2巻をようやく読み終えた。第一部の2巻には江戸末期の世情が細かく綴られている。木曽街道の宿場、馬籠に暮らす主人公の青山半蔵も大きな歴史の流れを描く両巻ではほんの脇役に過ぎない。第二部で長大な歴史小説が個人に焦点を当てて大きく動き始める。ようやく半蔵が活躍しだす後半、この小説はここからだ。


『本所おけら長屋(十六)』畑山健二(PHP文芸文庫2021年)

既に16巻目。この小説は一体何巻まで続くのだろう。とにかく読み続ける。

ぼくは女医のお満さんと万造の結婚を望む。もしそうなったら長屋を出ていくだろうなぁ。万松コンビは解消かなぁ。いや、それはないだろうなぁ。ふたりは結婚しないのかなぁ。結婚したら万造、案外真面目に働いたりして・・・。ふたりの今後が気になる「あいぞめ」だった。