スターバックス コーヒー松本なぎさライフサイト店(2024.12.25 閉店の日)
■ 2013,4年ころ、このスタバで朝カフェ読書をするようになった。それから今までおよそ10年間、週2回ほど、出社前の小一時間、読書を続けてきた。クリスマスの25日はこのスタバ閉店の日だった。20年の営業に幕を下ろす日、最後の朝カフェ読書をした。
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『日本近代随筆選 1 出会いの時』(岩波文庫2016年4月15日第1刷発行、2018年9月5日第4刷発行)を読み終えた。
森鷗外、北原白秋、幸田露伴、太宰 治、斎藤茂吉、正岡子規、永井荷風、中島 敦、井伏鱒二、夏目漱石、伊藤 整、寺田寅彦、中谷宇吉郎、湯川秀樹、朝永振一郎・・・。本書に収録されている42篇の随筆の作者は作家や詩人、科学者と多彩な顔触れ。
本書を買い求めたのは、柳田国男(国は本書の表記)の「浜の月夜/清光館哀史」が収録されているから。
11月10日、この日の午後、塩尻で行われた作家・関川夏央さんの講演を聴きに来ていた高校の同期生たちとカフェトークした。読書に話題が及び、Tさんからこの随筆が印象に残っていると聞き、読んでみたいと思ったのだった。驚いたことに、Kさんは中学生の時に谷崎の『痴人の愛』を既に読んでいたという。Iさんは浅田次郎をよく読むとのことだった。
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さて、「浜の月夜/清光館哀史」。
「清光館哀史」は高校の教科書に載っていたようだが、ぼくは全く記憶にない。本書の解説文に**戦後になって高等学校用「国語」の教科書にも採録されてよく知られるようになったけれど、(後略)**(330頁)とあるから、Tさんの記憶の通りなのだろう(*1)。
お盆。岩手の小子内という小さな漁村。
柳田國男の一夜の宿は清光館。
月夜。柳田は勧められて盆踊りを見にいく。
歌に合わせて踊っているのは女たちばかり。
歌詞が聞き取れない。
柳田が見物役の男たちに尋ねても誰も教えてくれない・・・。
翌朝。前夜に何も無かったかのように、早くから女たちは日々の暮らしに戻り、水汲み、隠元豆(いんげんまめ)むしりと、仕事をしている。
六年後。柳田は小子内を再訪する。
あの清光館は既に無かった・・・。
海難事故で宿の若い主人が亡くなり、女房は奉公に出て、子どもは引取られれ・・・。
六年前、盆踊りで聴いたあの歌。
何遍聴いてもどうしても分からなかった歌詞の意味。
年かさの一人が鼻歌のように歌ってくれた。
なにャとやれ なにャとなされのう
柳田が歌詞の意味を解く。
何なりともせよかし どうなりとなさるがよい
男に向かって呼びかけた恋の歌。
柳田の洞察。
**この日に限って羞(はじ)や批判の煩わしい世間から、遁(のが)れて快楽すべしというだけの、浅はかな歓喜ばかりでもなかった。忘れても忘れきれない常の日のさまざまの実験、遣瀬(やるせ)無い生存の痛苦、どんなに働いても尚迫って来る災厄、如何に愛しても忽ち催す別離(後略)**(102頁)
なぜ、宿の細君に歌詞の意味を尋ねても、黙って笑うばかりで教えてくれなかったのか・・・。洞察は続く。
**通りすがりの一夜の旅の者には、仮令(たとえ)話して聴かせてもこの心持は解らぬということを、知って居たのでは無い迄も感じて居たのである。**(103頁)
実に味わい深い紀行文。
柳田國男は民俗学者だが、優れた作家でもあった、と思う。
さて、次は『江戸東京の明治維新』横山百合子(岩波新書)。
*1 昭和40年から59年まで現代国語の教科書(筑摩書房)に採録されていたことが分かった。