『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』三浦英之(集英社文庫2017年)第13回 開高 健ノンフィクション賞受賞作。
■ 少し前のこと。塩尻の「本の寺子屋」で9月8日に行われた三浦英之さん(朝日新聞記者・ルポライター)の講演を聴いた。講演会場で講演内容とも重なる本書を買い求めた。他にも読む本があったために、なかなか読めなかった。
講演を聴くまで満州建国大学という大学があったことすら知らなかった・・・。
満州建国大学は日中戦争の最中(1938年)、日本が満州国に設立した大学。日本、朝鮮、中国、モンゴル、ロシアという五つ民族から選ばれたエリートたちが学ぶ。「五族協和」というスローガンを実践し、日本の傀儡国家を担う人材育成を狙うという国策大学だ。この大学は日本の敗戦に伴い満州国が崩壊したことで消滅する(1945年)。開学からわずか8年で。
本書はこの大学で学んだエリートたちの戦後のルポ。著者の三浦さんは国内はもとより、大連、長春、ウランバートル、ソウル、台北等に卒業生を訪ねる旅をする。
カザフスタンのアルマトイ国際空港。第六期生の元ロシア人学生のゲオルゲ・スミルノフさんと宮野 泰さんは65年ぶりの再会を果たす。
「スミルノフ!」「ミヤノ!」
宮野さんは5,000キロ離れた日本からはるばるカザフスタンまでやって来たのだ。再会のシーンには涙が出た。加齢とともにますます涙もろくなった。
アルマトイに残された日本人抑留者たちの墓参りをする宮野さん。その時のことを三浦さんは次のように書いている。
**「日本から来ました」という声だけが私の耳に届いた。
それが、宮野が「彼ら」にかけることのできる精一杯の言葉だったのだろう。(中略)六五年前、宮野もまた中央アジアのキルギスの地で、彼らと同じように生活していた。そして六五年後の今、土の中にいる人々と土の上にいる自分とを分けたものは、ほんの少しの偶然でしかなかったことを、彼は誰よりも知り抜いていたに違いない。(292頁 太文字化は私による)
生きるとはどういうことなんだろう・・・。生きているということはどういうことなんだろう・・・。