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『諸職画鑑』北尾政美(鍬形蕙斎)1794年(寛政6年)
国立国会図書館デジタルコレクションより
■ 狛犬。今は両方の像をまとめて狛犬と呼ばれるが、もともと違う霊獣で、向かって右が獅子、左が狛犬だ。本来獅子は口を開いた阿像で角は無く、狛犬は口を閉じた吽像で角がある。ところが、江戸時代、寛政6年に刊行された『諸職画鑑』には逆の姿が描かれていて、右の獅子に角があり、左の狛犬に角はなく代わりに宝珠(*1)がある。
『諸職画鑑』に描かれたこのイラストを参考にして「獅子に角あり狛犬に角なし」像が各地につくられた。このような説明が『狛犬かがみ』たくきよしみつ(バナナブックス2013年)に載っている。
先日(16日)ひのみくらぶ会員の藤田さんの案内で茅野市と隣りの原村の火の見櫓を見てまわったが、最初に見たのが茅野市宮川の酒室神社のすぐ近くに立っている火の見櫓だった。その時、酒室神社の狛犬も見たことは既に書いた。この時は狛犬を見ることが目的ではなかったので、下の写真を撮っただけだった。
酒室神社の狛犬も『諸職画鑑』と同じ様に「右の獅子に角あり、左の狛犬に角なし」像だ。頭についているものが角なのか、宝珠なのか判然としない像もあるが、この狛犬は違いが分かる。右の霊獣には宝珠ではなく、角が付いている。また「獅子は口を開け、狛犬は口を閉じている」はずだが、写真では両方とも口を開けているように見える。それでどっちが獅子でどっちが狛犬なんだ、とぼくは混乱していた。
上の写真左側のように角ではなく、宝珠をつけた狛犬(宝珠狛犬)は明治期になると姿を消すと『狛犬かがみ』にある。となると酒室神社の狛犬はかなり古いものではないか・・・。
狛犬の見どころのひとつである尾を後ろから見なかったし、台座に建立年が刻まれているかもしれないのに、それも見なかった。
もう一度見なくては・・・。
*1 宝珠ってなんだろう・・・。ぼくは桃をモチーフにしているのではないか、と思い始めている。古事記にも出てくる桃には邪悪なものを追い払う力が備わっていると言われている。イザナギの命が黄泉の国から逃げ帰る時、追手に投げつけた桃だ。眉唾な珍説じゃないと思うけどなぁ。