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■『本所おけら長屋 九』畠山健二(PHP文芸文庫2019年第1版第7刷)を図書カードで購入。そして一気飲み、もとい一気読み。
この巻にも短編が5編収められている。その五「うらかた」のラスト。**お糸は、下駄を突っかけると、外に飛び出した。涙がこみ上げてくる。どうしようもなく、涙がこみ上げてくる。お糸は、その涙を拭おうともせず、おから長屋の方を向いて、両手を合わせた。**(299頁)このようなラストに向かって、物語が展開していく・・・。お糸さんは本所おけら長屋で暮らす左官職人の八五郎とお里夫婦の娘。結婚して長屋を出ている。
おしえてほしいの涙のわけを(*1) ときかれても おしえてあげない。
それにしても作者の畠山健二という人はストーリーテラーだなぁ。短編だが物語の展開が単純ではなく、実におもしろい。また、長屋の住人を物語にうまく関わらせている。
カバーのイラストは「すがたみ」に登場する紫月花魁(しづきおいらん)と清吉という紫月が贔屓にしている髪結い。ふたりの悲恋物語、と括るほど話は単純ではない。
*1 黛ジュンの「夕月」というむかぁ~しの歌の歌詞より。