透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「手習」

2022-09-24 | G 源氏物語

「手習 漂う浮舟の流れ着いた先」

 昨日(23日)、朝カフェ読書で「手習」を読んだ。前の帖の「蜻蛉」には浮舟の失踪が描かれていた。宇治川に投身したことが分かり、匂宮も薫も浮舟の死を嘆き悲しむ。

ところが・・・、浮舟は生きていた。死んでしまったと思われていた登場人物か実は生きていた。このような展開は今の小説にもある(具体例が浮かばないが)。

横川の僧都(そうず)には八十歳あまりの母親の尼と五十歳ほどの妹の尼がいた。この二人の尼君は初瀬(長谷寺)に参詣したが、その帰りに母親が具合を悪くしたために宇治に留まり、母親は宇治院に運び込まれた。

母親の急病を知った僧都は急いで山を下り、宇治にやって来る。夜、院の裏手の僧都一行。うっそうとした木々の中。**「なんとも薄気味の悪いところだ」とのぞきこんでみると、何か白いものが広がっているものが目に入る。「あれはなんだろう」と立ち止まり、灯を明るくして見ると、何かがうずくまっているようだ。(後略)**(511頁) 

なんだかホラーな雰囲気。狐が化けた? たちの悪い魔物? 魔物ではなく浮舟だった。浮舟も院に運び込まれた。僧都の妹の尼は浮舟を亡き娘の身代わりだと信じ、看病した。

容体が落ち着いた母親と浮舟は比叡の小野にある母親と妹の住まいに移された。それから二カ月、ようやく浮舟は意識を取り戻した。死ねなかった・・・。

匂宮と薫の板挟みで苦しんで死のうとしたのに、浮舟は僧都の妹の娘婿の中将に見初められてしまう。

浮舟は願っている。**この先どんなことがあろうとだれかと縁づくなんてあり得ない。そんなことになったら忌まわしい昔のことを思い出さずにはいられない。男と女のことなどはいっさい考えずに忘れてしまいたい**(528頁)、と。浮舟は女一の宮(一品の宮)の祈禱のために再び下山してきた僧都に懇願して出家を遂げた。

女一の宮の病気は僧都の祈禱の効験で快癒した。僧都はすぐに山に帰ることなく、宮中に控えていた。ある夜、僧都は后の宮(明石の中宮)らに**「本当に不思議なめったにないことに遭遇いたしまして・・・。この三月に、年老いております母親が、宿願があって初瀬に参詣しましたその帰りの中宿りに、宇治院というところに泊まったのです。(後略)」**(555頁)と女君を見つけた時のことを話して聞かせた。

中宮と小宰相の君(本文では**大将(薫)が親しくしている小宰相の君**(555頁)と説明されている。要するに薫の愛人)は僧都の話に出てきた女君は浮舟ではないかと思った。

望み通り出家してから浮舟は少しばかり気持ちも明るくなって、経文を読み、妹尼君と冗談を言い合ったり、碁を打ったりして暮らしている。ある日、浮舟は薫が自分の一周忌の法事の準備をしているということを耳にする。**見し人はかげもとまらぬ水の上に落ち添ふ涙いとどせきあへず(昔馴染んだ人の面影もとどめていない水の上に、落ち続ける私の涙はますますせき止めようがない)**(565頁)薫は宇治川に涙をこぼしているということを知る浮舟。

小宰相の君は僧都の話を薫にとりついだ。浮舟が生きているかもしれない・・・。話を聞いて驚いた薫は真偽をたしかめようとする。薫は比叡山参詣のついでに横川に僧都を訪ねようと浮舟の幼い弟を連れて出かけた・・・。

紫式部はストーリーテラーだ。話の展開が上手い。

浮舟の回想。**袖ふれし人こそ見えね花の香のそれかとのほふ春のあけぼの(袖を触れた人の姿こそ見えないけれど、花の香りがその方の匂かと思わせるほど漂ってくる春の明け方よ)** 袖ふれし人とは薫?それとも匂宮? 両説あるようだが、私は薫だと思う、思いたい。

紫式部が物語最後のヒロインにした浮舟は物語に登場した大勢の女性たちの中でもリアルな存在感のある女性だと思う。

残るはラスト1帖「夢浮橋」。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋 



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