映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「ハドソン川の奇跡」 クリントイーストウッド&トムハンクス

2016-09-25 16:17:14 | クリントイーストウッド
映画「ハドソン川の奇跡」を映画館で見てきました。


クリントイーストウッドの新作は、全エンジン停止のトラブルでやむなく旅客機をニューヨークハドソン川に着地させ、乗員乗客全員155名を助けたパイロットの物語である。パイロットをトムハンクスが演じる。この顛末をテレビで見てアッと驚いたし、全世界で報道されたので、誰もが知っている話だろう。しかし、運輸当局よりその判断が正しかったのかと操縦士が事情徴収を受けていることを知っている日本人はほとんどいないと思う。


数多いイーストウッド映画の中で、実話に基づく作品はいくつかある。ドキュメンタリータッチではあるものの、当代きっての名優トムハンクスが奇跡の救出劇をしたにもかかわらず、疑いをもたれてしまうことへのパイロットの苦悩を実にうまく演じている。原題の「sully」は機長のニックネームだ。イーストウッド作品の中では小品に位置されるであろう作品だが、見る価値は十分ある。

2009年1月15日ニューヨークのラガーディア空港をUSエアウェイズ1549便の旅客機が離陸した。離陸後まもなく鳥の大群がエンジンに飛び込み、全エンジンが完全停止してしまうトラブルが発生する。サレンバーガー機長(トム・ハンクス)は、管制塔からは別の空港への着陸の指示が出ていたにもかかわらず、状況を判断してハドソン川への着水を決意する。スカイルズ副操縦士(アーロン・エッカード)と巧みに連携したことにより、ハドソン川に無事着水ができた。


「乗員乗客155名全員無事」という奇跡の生還であった。着水後も、機長は浸水する機内から乗客が避難するのを指揮してから脱出した。この事実は全世界に報道され、サレンバーガー機長は国民的英雄として称賛を浴びる。しかし、空港に戻る選択を選ばなかった彼の判断を巡って、事故直後から国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われていたのであるが。。。


事故の状況をまず映像で映すのかと思ったら、違っていた。事故後厳しい追及を受けて、機長が苦悩するシーンからスタートする。「片側のエンジンは動いていたのではないか」、「シミュレーションをしたらラガーディア空港に戻れているぞ」など尋問を受けるシーンが続く。一般市民からは至る所で行動を称賛されるのに、事故調査委員会の追及はきびしい

1.クリントイーストウッドの皮肉
クリントイーストウッド「ダーティハリー」の頃から体制的、官僚的なものへの反発を表現してきた。異常犯罪者を取り締まることができず、街にのがして治安をよくしていないサンフランシスコ警察への反発が「ダーティハリー」の中で読みとれる。西部劇であれば、自警団のような集団が本当のワルを抹殺するのに、何でそうしないの?とばかりにイーストウッド演じるキャラハン刑事には自警団的正義の味方を演じさせている。イメージはちがうが、運輸当局という官僚組織への痛烈な皮肉がこの映画でも充満している。


2.配役
エンディングロールでは配役のところで、himself,herselfというのが目立った。本人が自ら配役を演じているのである。これは珍しいケースだ。機長の機転が155人の命を助けたのは言うまでもないが、女性乗務員や救助するフェリーの船長、救援ヘリコプターの乗員などかかわった人たちが多い。みんなでこの奇跡を分かち合いたいということなんだろう。クリントイーストウッドもエアバス一台購入してこの映画に臨んだという。さすがだ。


それにしてもこの機長神がかっているね。本当にすごい!
最後に向かって,音楽のムードはいかにもクリントイーストウッドらしいセンスのあるもので、ああやっぱりイーストウッドだな!と感じながら映画を見終えた。この人には晩節を汚すという言葉はありえない。まだまだやってほしいなあ。



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映画「怒り」 綾野剛&松山ケンイチ&森山未來

2016-09-22 05:49:52 | 映画(日本 2015年以降主演男性)
映画「怒り」を映画館で見てきました。

「悪人」に続く吉田修一原作、李相日監督の作品、「悪人」が好きだっただけにチェックしていた。出演者は現代日本映画界で主演を張っている面々ばかりで超豪華である。


八王子のある住宅で夫婦の惨殺死体が見つかる。1人の男が指名手配される。やがて、千葉、東京、沖縄のそれぞれに素性のよくわからない3人が現れる。それぞれ指名手配犯に通じるところがある。一体誰が犯人なのかを映像で追っていく。この3人を演じるのが松山ケンイチ、綾野剛、森山未來の3人である。オムニバス系の映画はそれぞれが独立していてもあるとき急接近する場面がある。ここではまったく平行線で語られていく。設定自体になんじゃこれ??と思うことも多々あるが、坂本龍一の音楽もよく全体的な映画のレベルとしては高い。

八王子の閑静な住宅地で、惨たらしく殺された夫婦の遺体が見つかる。室内には、被害者の血で書かれたと思われる『怒』の文字が残されていた。犯人逮捕に結びつく有力な情報が得られないまま、事件から1年が経ってしまう。

千葉の漁港で働く洋平(渡辺謙)は、家出していた娘・愛子(宮崎あおい)を新宿歌舞伎町から連れて帰ってくる。帰郷した愛子は漁港で働き始めた田代という男(松山ケンイチ)と親密になり、父洋平に彼と一緒に住みたいと告げる。


二人のアパートを決めようとするとき、田代が前住所を偽っていることが判明する。さらに田代という名すら偽名だとわかり、洋平が愛子を問いただすと、彼は両親が残した借金でヤクザから追われているとわかる。そんな中、テレビで整形して逃亡を続ける八王子殺人事件の犯人の似顔絵が公開される。父娘は犯人の特徴に類似点があることに気づくのであるが。。。

優馬(妻夫木聡)は普通のサラリーマンに見えるが実はゲイ。ゲイの男たちのたまり場で直人(綾野剛)と親密になり、住所不定の彼を家に招き入れる。直人は末期ガンを患う優馬の母・貴子(原日出子)とも親しくなっていく。彼には犯人の特徴である3つのほくろがほほにあった。しかし、見知らぬ女性と一緒にいることを直人が隠していたことを問い詰めると関係がおかしくなる。そんなとき優馬のもとに警察から電話がかかってくるのであるが。。。


母と沖縄に引っ越してきた泉(広瀬すず)は、同い年の辰哉(佐久本宝)と離島を散策中、廃墟のような住居で一人暮らす田中(森山未來)と出会う。田中はここに住んでいるのは誰に言うなと伝える。ある日、辰哉と訪れた那覇で田中にばったり会い3人で酒を飲みに行く。飲み終わったあとはぐれてしまう泉がとんでもない事件に遭遇するのであるが。。。


最初淡々とそれぞれのストーリーが語られていて、いったいどういうことなんだろうと思うが、途中でそれぞれの話の中に登場する3人の中に真犯人がいるということが想像される。でも、よくわからない。綾野剛の3つのほくろが強調され、犯人が犯行に及ぶ時の映像は綾野が演じているように思える。整形後のエレベーターの犯人映像は松山ケンイチに似ているし、犯人の特徴と松山のしぐさが一致する。でも整形後の顔は森山未來が一番似ている。そう考えていくと、最後まで見ないとわからないな?と思ってしまう。

(以下は軽いネタバレあり)

印象に残るシーン1
妻夫木聡がゲイが集まるディスコではしゃいでいる。そして赤黒暗い照明のゲイがたむろう場所で1人の裸の綾野剛を見つけ、強引にバックから挿入し自分のものにしようとする。なかなか刺激的なシーンだ。映画「ブエノスアイレス」で香港の大スタートニーレオンとレスリーチャンの男色からみのエロさが印象的だが、この映画でも妻夫木は何度も綾野とキスをする。ゲイのたまり場での映像がなかなか刺激的だ。これはセットなのか?それにしても最後に妻夫木聡が思いあまって泣き出す。このあたりの心情もよくわからない。


印象に残るシーン2
宮崎あおいが泣くシーンが気になっていた。今回は家出して歌舞伎町の風俗嬢として働いていたところを父親への通報があり、連れ戻すという設定だ。宮崎あおい にしては珍しい設定で、普段演じる役よりちょっと知能が弱い役柄を演じる。これはこれでうまい。テレビに映る殺人犯の映像をみて、全然似ていないよねと言っていた彼女がなぜか警察に通報してしまう。そして家の中の指紋をとった結果を警察が持ってきた瞬間彼女は泣き崩れる。この涙はかなり情感がこもる。


あれと思ったところ?
沖縄に来た広瀬すず が離島で風来坊のような森山未來を見つけて、近づいていく。ただでさえも人のいないところで、乞食のようなかっこをしている男に怖くて親しく近づくかしら??

那覇で広瀬すず演じる泉が3人で飲んだ時、酔っていた同じ年の辰哉とはぐれてしまう。これって変じゃない?何ではぐれるのかしら?しかも、ちょっと気がつくと、米軍兵がたむろってオープンエアで飲んでいる場所にたどり着く。怖がりながら、公園を歩いていてレイプされる。おいおいいくらなんでも町のど真ん中で米軍兵がここまでやるかい?これは米軍兵への侮辱だよ!やばいんじゃない。しかも、その姿を遠くから辰哉が見ていたなんて話も滑稽
このあたりはかなり変!!

宮崎あおいも広瀬すずも好きな女優だけど、彼女たちが泣いてもこっちはちっとも泣けない。妻夫木の涙も変?まあ泣けない映画であった。
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映画「コップ・カー」ケヴィンベーコン

2016-09-21 10:43:02 | 映画(洋画:2016年以降主演男性)
映画「コップ・カー」は今年公開のアメリカ映画


不思議な小品である。コーエン兄弟映画のようなブラックユーモア的な要素が強い。
ご存知ケヴィンベーコンはありとあらゆる映画にでつくし、ケヴィンベーコン数なんてけったいなものがあるくらい共演経験者が多いことで有名。その彼が出演を願望したという作品がこれだ。保安官であるが、どうも悪徳な匂いがプンプンする。そんな保安官が自分のコップカーを盗まれ、右往左往する話である。


放浪している2人の少年が荒野の草陰で無人のパトカーを見つける。好奇心だらけの2人がドアの取っ手をまさぐると開いてしまい、ダッシュボードには車のキーがある。面白半分にいじくるとエンジンがかかり、2人は運転をし出し、その場から遠く離れていく。。


時間をずらして、保安官を映す。死体をパトカーのトランクから引きずり降ろして、穴に埋めている。ケヴィン演じる保安官が悪であることはわかるが、どんな悪であるかはわからない。ところが、車を置いた場所に戻るとそこには何もない。大慌てで走り回る。保安官は車を盗まれたと言わず、署の女子職員に連絡して、無線に異常がないかを確認する。特に問題はないようだ。どうしたんだろうとあたりを探し回るあとに、放置されている自動車に目をつけ、盗んでしまう。発進した後、気づくと後ろからパトカーが追いかけてくる。検問のようであせるが。。。


少年の車はそのまま広大な大平原を通る一本道を走り回る。しばらくして、前方から一台の車が走ってくる。運転している女性は前面から蛇行運転をしているパトカーを避けると、そこに少年が運転していることに気づき驚く。


彼女は町で出会った警官に少年が運転していたよと訴えるのである。一方で、少年たちは車を止めた時にトランクで物音がするのが聞こえる。どうしたんだろう。空けると血だらけの男がいる。どうやらうごめいているようであるが。。。


たった半日の物語である。短編小説のようなものである。
凝縮して、ブラックユーモアを語り続ける。余計なことは言わない。登場人物は少ない。ここに関わるのは2人の少年、保安官、トランクの中にいる血だらけの男、子供が運転していると警察にタレこむ女が主要人物だ。少年たちの会話にそれぞれの家族の話が出てくるが、保安官と血だらけの男との関係はわからない。タレこむ女はただの通りすがりだ。


離れているように見える人物が、あるとき収束する。
そして考える。この先どうなるのか?と
こういう瞬間が一番楽しい。



予想と違うストーリーが続くは言うまでもないが。。。
伏線が散りばめられ、ここで終わりかと思った瞬間に逆転する。

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映画「オーバーフェンス」 オダギリジョー&蒼井優

2016-09-19 21:25:34 | 映画(自分好みベスト100)
映画「オーバーフェンス」を映画館で見てきました。「そこのみにて光り輝く」に続く函館出身で悲運にも自殺した佐藤泰志原作の映画化である。


呉美保監督、綾野剛主演「そこのみにて光輝く」は胸にしみる傑作であった。今回は「マイパックページ」、「苦役列車」山下敦弘監督がメガホンを取り、オダギリジョーの主演である。期待して映画館に向かったが、「そこのみにて光り輝く」ほどストーリーの浮き沈みは少ない。でも独特の後味はなんとも言えずよかった。

今年はなぜか函館に縁があり、6月と8月の2回函館に行った。昔は会社の事務所があったが、函館経済の衰退と同時に撤退。6月は同業者の重鎮たちと旅して、おいしい海の幸を楽しんだ。8月は家族で北海道新幹線に乗り連泊した。2年前にも旅したこともあり、函館の街に詳しくなってしまった。こうして函館の映像を見ると今まで以上に故郷のような親近感を覚える。

妻と別れ世捨て人のように故郷函館に帰った白岩(オダギリジョー)は、実家に顔を出そうとせず、失業保険を受けながら職業訓練校建築科に通い、大工になるための訓練を受けている。一癖も二癖もある同僚とも距離を置き、訓練校とアパートを往復するだけの生活を送っていた。ある日、同じく訓練校に通う代島(松田翔太)にキャバクラに連れていかれた彼は、聡という名の風変わりなホステス(蒼井優)と出会う。帰りがけ車で送ってくれた彼女に白岩は親近感をおぼえ、急速に2人は接近するのであるが。。。


蒼井優演じる聡は普通のキャバ嬢よりもかなり精神が不安定な女の子である。器用に付き合えないもどかしさを感情に表わす。オダギリ演じる白岩に何で別れたんだとしつこく聞く態度が、男性からすると、強烈でまわりくどい面倒くさい女性に見える。その感情の起伏の激しさをみせるところが映画の見どころだろう。それを受け止めるオダギリジョーの演技は落ち着いていて、男から見ると好感が持てる。でも何で泣きじゃくるんだろう。やさしさに胸を打たれたという設定かもしれないが、自分にはよくわからない。


⒈函館
市電が走る人口が30万弱から50万程度の都市の雰囲気って好きだ。ロケハンティングもうまく、何気なく市電が走るシーンを映像に組み込む。見事なカメラ構図だ。「そこのみにて光り輝く」が海岸線に沿っての映像だったのに対して、函館山のふもとの美しい坂や函館公園の遊園地、海を見るデッキなどを映像にとりいれているのもいい。


実際にこの映画に出ている飲み屋街を昼間に訪れると、さびれた感が強い。デパートなんかも同様のさびれ感だ。中国台湾からの観光客が急増すると同時に、北海道新幹線も函館まで通って経済的に落ちぶれた函館を観光で復興させるように見えるけど、まだまだだろう。ただ、この街は妙に相性が合う。

⒉印象に残るシーン
函館公園の中に遊園地や小さな動物園がある。そこを貸し切ってうまく映像化している。キャバ嬢の蒼井優は昼間は遊園地でバイトをしている設定だ。そこでオダギリジョーとケンカしたりくっついたりするが、なかなか味わいあるシーンもある。


また、蒼井優がめずらしく肌を見せる。実家の敷地内の離れに住んでいる。そこには風呂がないのか、昔式の台所で水道の水を身体にかけている。もちろん胸は見せないが、背中をあらわにする。今まで見たことがない。それ以外では、この映画はエロティックな雰囲気は少ない。あとは一癖も二癖もある訓練所の同僚を映しだす映像がいい感じだ。

⒊函館を舞台にした映画
高倉健主演の「居酒屋兆治」での倉庫街の映像が一番印象に残るが、日活映画では石原裕次郎と浅丘ルリコのコンビの「夕陽の丘」小林旭の出世作「ギターを持った渡り鳥」が先駆しているのではないだろうか。この映画でも函館の護国神社に向かう坂を映しだすが、50年以上も前になる「ギターを持った渡り鳥」でも同じ坂が映像に映し出される。


実に美しい函館の坂だ。今までの佐藤泰志作品と同様に人生に疲れ果てた男女をうつしだすので、裏函館というべきエリアの映像がこの映画でも出てくる。逆にその方がいい感じだ。

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映画「後妻業の女」 大竹しのぶ&豊川悦司

2016-09-07 19:55:32 | 映画(日本 2013年以降主演女性)
映画「後妻業の女」を映画館で見てきました。金持ち老人の後妻に入り、全財産を狙う大竹しのぶ演じる「後妻業の女」と彼女に翻弄される人々の姿を描いている。


矢沢永吉ファン仲間の女性の友人から男性からみて映画「後妻業の女」どう感じるか?と聞かれた。予告編の段階で見てみようかと思っていたけど、自分の信頼するブロガーさんたちの評判も今一つ、それでも彼女が気にする映画はしっくりする場合も多いので、思わず映画館に行ってしまう。でも、彼女自体この映画は好きでないみたい。

見に行くと、老人の男女の比率が高い。しかも、おばあさんたちが仲間同士できていて観客席は埋まっている。平日の名画座もリタイア―した方々が目立つが、おばあさんたちはあまりいない。これって老人の中で評判になっているのであろうか?独身をとおしたシルバーたちや、伴侶に先立たれた老人たちが婚活パーティに参加するなんて話は自分が知らない世界だ。でも老人の財産が狙われるなんて話は皆さん関心があるのであろう。


これもいわゆる悪女映画である。究極の悪女映画といえば、レベッカデモーネイ「ゆりかごを揺らす女」、レナオリン「蜘蛛女」、グレンクローズ「危険な情事」など数々あるが、保険金殺人を描いた元祖悪女映画名匠ビリーワイルダー監督バーバラ・スタンウィック主演の「深夜の告白」に軽く通じる部分がある。比較的近いのは伊丹十三の一連の作品や園子音「冷たい熱帯魚」あたりか。

大竹しのぶは怪演で悪女役がうまい。若き日のNHKテレビ小説や映画「青春の門」で見せた清純な姿はまったくみえない。彼女自身がひねくれて人生をすごしているのか?こういう役は実にうまい。「尼崎事件」の首班角田美代子を題材にして映画化されたとしても、彼女ならこなせるだろう。
娯楽としてはそれなりに楽しめた。

結婚相談所主催のパーティーで可愛らしく自己紹介する武内小夜子(大竹しのぶ)の魅力に、男たちはイチコロになっている。その一人、耕造(津川雅彦)と小夜子は惹かれ合い、結婚する。


二人は幸せな結婚生活を送るはずだったが、2年後、耕造が亡くなる。葬式の場で、小夜子は耕造の娘・朋美(尾野真千子)と尚子(長谷川京子)に遺言公正証書を突き付け、小夜子が全財産を相続する事実を言い渡す。納得のいかない朋美が調査すると、小夜子は後妻に入り財産を奪う“後妻業の女”であったことが発覚する。その背後には、結婚相談所の所長・柏木(豊川悦司)がいた。朋美は裏社会の探偵・本多(永瀬正敏)とともに、次々と“後妻業”を繰り返してきた小夜子と柏木を追及する。

一方小夜子は、次のターゲットである不動産王・舟山(笑福亭鶴瓶)を本気で愛してしまう……。(作品情報引用)

1.後妻
いろんな悪女映画はあるが、ここまで後妻をクローズアップするの初めてではないか。いきなり全財産が後妻(愛人)にいってしまうと遺族が大騒ぎするのは古くは山崎豊子原作「女系家族」が一番有名だろう。でもこの愛人はワルではない。むしろ、歴代の首相たちに影響を与えた思想家安岡正篤細△数子女史と婚姻してしまうなんて話がこの後妻業の話に一番通じる気がする。


カモの金持ち夫が死のうとしている時に大竹しのぶ演じる小夜子が現れ、全財産を小夜子に渡すという公正証書をだして遺族が大騒ぎになるという構図が続くのだ。公正証書は当人が公証人の前で伝えるのが基本だが、考えてみたら、当事者それぞれが代理人をだして公証役場で成立することもある。確かにこういうことはありうるんだ。とはいうものの法定相続でなければ、遺産分割協議書を書かなくてはならないはずなのに、こうなるのかな?そんなこと思っていたら、遺留分の請求を娘たちが請求するなんて話も当然出てくる。いずれにせよ、それなりの財産が後妻にいってしまうのだ。


色々あるが、大竹しのぶと豊川悦司のコンビは生き延びるという設定だ。その昔だったら、ワルの生き残りは映倫でひっかかってしまうだろう。あえて生き延びているのは、この世の中には、表ざたになっていないけど、同じような事例がいくつもあって、大金をせしめているワルがいっぱいいるということを語りたかったのであろう。

2.探偵業
後妻大竹しのぶに財産が行ってしまうのはどうもおかしいと尾野真千子演じる娘が同級生だった弁護士に相談して警察官上がりの永瀬正敏演じる探偵本多を紹介される。本多はきっちり調べて、大竹しのぶと豊川悦司を揺さぶる。やがて2人は追いつめられるのかと思ったら、永瀬が金目当てで2人を脅迫するような設定に移行する。実は探偵もワルというわけだ。


最近見た阿部寛主演「海よりまだ深く」という作品で、阿部寛演じる探偵が浮気調査で判明した写真を持って、調査対象者のところへ行ってお金をゆするなんて場面があった。探偵ってそんなもんなのかなあ。こんな映画ばかり見ていると探偵って信用できなく見えてくる。これも警鐘かな。

主演2人の演技は抜群だけど、大竹しのぶと尾木の取っ組み合いも面白い。老人役の津川雅彦をはじめとして脇役の演技が冴えている。世間の評判よりはましかなと感じた映画であった。

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1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代

2016-09-04 12:35:03 | 
「1974年のサマークリスマス」はTBSアナウンサーであった林美雄の半生記とも言うべき物語である。ノンフィクションとしては最高峰のレベルの作品だ。同じころに青春を過ごした自分としては実にハイな気分になれる。


1970年代前半の深夜放送の絶頂期、TBSラジオ「パックインミュージック」の第二部深夜3時はスポンサーもつかない中、DJの林美雄が自分流で曲の構成も考え、まだ人気の出ていなかった石川セリや荒井由美(松任谷由美)に注目する。同時に公開当時はほとんど注目を浴びなかった藤田敏八監督作品「八月の濡れた砂」などの人気のなかった映画にも番組内でスポットをあてる。そういう内容は一部ファンから強く支持されていた。


その時間帯のライバル番組に長寿番組日野自動車提供「走れ歌謡曲」がある。深夜運転するドライバーが聞く番組だ。それに対抗して、いすゞ自動車がTBSの午前3時からの時間帯を丸ごと買い取るのだ。TBSとしては大歓迎だが、林美雄のパックインミュージックは終了が決まる。1974年7月26日林美雄は突然番組で8月いっぱいでの終了を告げる。

本来、一人でじっと聴いている視聴者が交流を持つことなんてありえない。しかし、林パックを聴いている女性視聴者が自分一人では敷居が高いから「深夜映画を観る会」をつくってくれれば行きやすくなると投書をする。それに乗ったのが林美雄だ。放送中に呼び掛けるとあれよあれよという間にその会ができてしまうのだ。

深夜映画を見る会が誕生したことで、本来は出会わないはずのリスナーたちが、横のつながりを持ちはじめる。マニアックな若者たちが、最先端の日本映画情報を発信し続ける林パックに集結し、映画業界も音楽業界も注目するようになった。(P171)

若者たちは、愛する番組の消滅を座視することができず、パ聴連(パック 林美雄をやめさせるな!聴衆者連合)を結成して、番組の存続を求める署名活動を開始した。(P179)。。。。8月25日サマークリスマスと名づけられた林美雄の誕生日は400人のリスナーが集まり、石川セリ、荒井由美、中川梨絵のゲストたちも番組存続の署名にこぞって参加した。(P179)

その後署名を持って番組存続を希望するファンがTBSに押し掛けたけれど、放送は終わってしまう。最後の放送は劇的なものだった。しかし、これで終わってしまうわけではない。林美雄をとり込む仲間たちがものすごいプロジェクトを企てるのである。そういうドラマが続いていく。

ここでは林美雄の人生も語られる。東京生まれの林はいろんな商売をやって失敗していた父のもと育った。学校の名簿には全員の電話番号が書いてあったけど、僕の家だけ空白だった。お金がなくてひけなかったからだ。(P117)裕福ではなかった。都立第三商業高校から三菱地所に就職する。ところが、高校時代放送部でNHK杯全国高校放送コンテストのアナウンス部門で優勝していた彼は、アナウンサーになるなら大学卒しかとらないので、早稲田大学の第2法学部に進学し、難関の試験を経て1967年4月TBSに入社するのだ。久米宏と林美雄は早稲田の同窓でかつ同期入社である。

その彼の同棲していた女性、高校の放送部の後輩だった妻になる女性の2人との絡みも語られていくが、ちょっと複雑でなので語らない。

1.荒井由美(松任谷由美)
まだ無名時代の荒井由美をラジオで支援したのが林美雄だ。のちのスーパースター松任谷由美はデビューからおよそ1年半にわたって、林パック以外のメディアでは取り上げられなかった。ただひとり林美雄だけがデビューアルバム「ひこうき雲」を一聴して「この人は天才です!」と絶賛。「八王子の歌姫」と紹介し、他の番組が無視する中、前週は三曲、今週は四曲、翌週は録音したての新曲と執拗に紹介し続けた。(P17)
大人になった時の演奏だけど、ベルベットイースター

密かに荒井由美を支援する人たちは増えていったはずだ。このころ自分の学校でもクラスに数人彼女の歌はいいよという連中が出ていたと思う。でもそれは1974年の暮れごろではないだろうか。自分が初めて荒井由美の歌をまともに聴いたのは従兄の部屋で1975年になってからだ。そのすぐ後にレコードを買い、レコードがすりきれるくらい「ひこうき雲」「ミスリム」「コバルトアワー」を聴いた。そして、1975年10月にテレビドラマの主題曲だった「あの日にかえりたい」が大ヒットする。しかも、作詞作曲でバンバンに提供した「いちご白書はもう一度」が11月に連続して大ヒットする。この時の勢いは記憶に新しい。それからはご存じの大ブレイクである。

松任谷由美いわく「林さんとの関係は「旅立つ秋」を贈ったくらいまでがタイトだったけど、私がメジャーになったからといってつきあいを変える人ではなく、会えば以前と同じ感じで接してくれた。少数が支持しようが、多くの人が支持しようが、林さんにとっては関係ない。かといって、自分はまだ誰も気付かないときに(ユーミンを)見つけたんだという振りかざしもまったくなかった。林さんはそういう人です。」(P271)
林美雄は素敵な人だ。

2.石川セリ
映画「八月の濡れた砂」の主題歌を歌ったのが石川セリである。その後井上陽水の妻になる石川セリはエキゾティックな容姿で「ダンスはうまく踊れない」のヒット曲などで人気を集めるようになるが、まだその時期はきていない。林パックで映画「八月の濡れた砂」を紹介し、石川セリの歌う主題歌が数カ月にわたって流され続けるのだ。この映画がいろんな名画座で放映されるようになり、徐々に注目を浴びるようになる。

石川セリと井上陽水との馴れ初めも語られる。林美雄のパックにゲストとして石川セリと荒井由美が出演する。荒井由美が「あの日にかえりたい」で大ブレイクしたころだ。その時、なんと吉田拓郎と井上陽水が番組に乱入してくるのだ。どうも陽水は石川セリに興味ありげだったようだ。そして番組が終了して4人は飲みに行く。いきなり石川セリをお持ち帰りとは行かなかったようだが、これがきっかけだったのは確かだ。当時陽水には妻がいた。でも子供がいない。それだったらいいっかというのが石川セリの言い分だ。

3.パックインミュージックでとりあげる映画
紹介したのは「八月の濡れた砂」だけではない。
初期の林パックが特に力をこめて紹介したのは、日活ニューアクションと呼ばれる作品である。たとえば澤田幸弘監督の「斬りこみ」「反逆のメロディー」、藤田敏八監督の「新宿アウトロー」「野良猫ロック 暴走集団71」。。。など。かつて日活のアクション映画には石原裕次郎。。に代表されるハンサムでかつかっこいいヒーローが不可欠であった。だが、ニューアクションには明確な主人公が存在しない。原田芳雄、藤竜也。地井武男らアンチヒーローたちの偶像劇なのだ。(P136)

やがて林美雄は、日活がロマンポルノに移行してからの作品も紹介するようになった。たとえば田中登監督の「牝猫たちの夜」であり、村川透監督の「白い指の戯れ」であり、神代辰巳監督の「濡れた唇」「恋人たちは濡れた」などである。(P137)

そして林美雄の最愛の映画はキャロルリード監督ミアファロー主演「フォローミー」だ。林美雄の映画紹介は短い。印象的だったシーンへの共感を語っても映画論を語ることはない。それでも不思議なことに「フォローミー」林美雄にとってかけがえのない映画であることは、リスナーにははっきりと伝わる。(p157)

4.このころの自分と荒井由美と石川セリ
1970年代前半オトナ文化に関心を持ちはじめた時、自分は中学生だ。各放送局で深夜放送のスターがいた。文化放送は落合恵子、土居まさる を筆頭にしてみのもんたが力をつけ「セイヤング」が人気だった。一番人気はニッポン放送の「オールナイトニッポン」で、TBSは「パックインミュージック」だった。中学1年から洋楽のヒットチャートに夢中になり、夜遅くまで起きようとするのであるが、自然と10時半くらいになると眠くなるので続かなかった。

高校の時一人の女性のことを好きになる。なぜか荒井由美と石川セリのファンであった。いつか同窓会があった時に確認してみたいのであるが、もしかして林パックを聴いていたのではないか?従兄の影響で荒井由美を聞くようになったが、彼女に話を合わせるために荒井由美の歌を深く聴くようになった。石川セリの話題もなぜか出てくるので、「朝焼けが消える前」が入っている「ときどき私は」のLPはレコードがすりきれるくらい聴いた。この本を読みながら、75年~76年くらいの想い出が鮮明に映像化されてきた。著者柳沢健氏は自分と同世代で同窓のようだ。どんな青春を過ごしてきたんだろう。

1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代
今年一番のノンフィクション


八月の濡れた砂
テレサ野田の妖艶さ
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