1949年の作品。まだ日本が米軍の占領下にあった時代である。二次大戦前銀座2丁目で「東京ジョー」というカジノバーを開いていたハンフリーボガートが空路東京羽田にやってきた。戻ってきてすぐに元の場所に向かったが、お店は閉じられていた。しかし、イトウという昔の友人がいた。柔道仲間の彼とボガートは旧交を深めた。そして、ボガートはイトウに元の妻であった女の行方を聞き、中野の家に訪ねた。彼女はいたが、すでに在日米軍将校の人妻になっていた。ボガートは美しいロシア人元妻とよりを戻そうとするが、無理だと彼女は言う。この後、早川雪舟扮する日本の黒幕「キムラ男爵」が登場する。彼に職を紹介してもらおうと頼み、空輸会社を設立する。しかし、許可は下りず、元妻の今の夫に頼み込み会社ができる。しかし、韓国との輸送には何かきな臭いことがあるようだ。。。
昔の女が別の男と暮らすという話で「カサブランカ」の二番煎じを思わせるストーリー展開だ。戦後まだ間もない東京の街が出てくる。皇居前から銀座にかけてあたりだ。室内の撮影はほとんどがセットだと思うが、最初のころは明らかな東京ロケのシーンもある。ボガートが人力車に乗ったり、新橋?あたりの闇市を歩くシーンもある。黒澤明の「酔いどれ天使」と同時期でダブるシーンだ。日本人の顔がまだ苦しさから抜けきっていない顔つきである。日本語はちょっと不自然にも聞こえるが、日系人が話す日本語ってこんな感じなのかもしれない。ボガートもやたらと日本語を連発する。これはご愛嬌だ。
悪役で登場する早川雪舟はデイヴィッドリーン監督「戦場にかける橋」の日本人将校が一番印象的。無声映画時代に相当活躍していたというが、残念ながら見たことはない。ここでは日本の裏社会に通じている「元男爵」という役。戦犯すれすれで逃れた黒幕はきっといたのであろう。面構えが昔の正統派日本人の男らしくていい。昭和天皇の口癖「あ、そう」を何度か使う。タイミング的には不自然だが、アメリカ人にはあの口癖が頭に残るのであろう。
ボガートにとっては、「三つ数えろ」「黄金」のあとで「アフリカの女王」の前だからまさに彼の全盛時代である。よくもまあ日本を舞台にした映画に出てくれたものだ。ハードボイルドを貫いてはいるが、かっこ悪いところを見せる。考えてみれば、「黄金」も「アフリカの女王」もけっこう汚れ役的な要素がある。
ボガートの店はバクチもかたわらでできる「カサブランカ」のカジノバーを意識した設定だ。西洋的あか抜けさはない。キャバレーといっても良いかもしれない。それこそ黒澤明「酔いどれ天使」で三船敏郎が木暮実千代と遊ぶキャバレーで、笠置シズ子が「ジャングルブギ」を歌うシーンがある。その店を思い出した。
映画にあわせて、音楽が高らかに鳴り響く40年代から50年代のスタイルで、劇場内はボガートの振る舞いにずっと目を奪われている印象だった。寝ている人など誰もいず、映画を楽しんでいた。