映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

チリ映画「ナチュラルウーマン」ダニエラ・ヴェガ

2018-03-07 19:14:15 | 映画(自分好みベスト100)
チリ映画「ナチュラルウーマン」を映画館で観てきました。

すばらしい映像美を見せる作品である。いやー今年は豊作だ。
恋人を失ったトランスジェンダーの女性歌手が、偏見や差別に負けずに生きていく姿を描く。ここではチリの首都サンティアゴを舞台に、なめるようにカメラが主人公の姿を追っていく。ストーリーの流れをつくるそれぞれの映像カットが練られてつくられている。スペインのペドロ・アルモドバル監督の作品を思わせる色彩感覚あふれる映像には、セバスティアン・レリオ監督によって丹念につくられたそれぞれのカットに対する思い入れがにじみ出ている。トランスジェンダー映画という偏見を持たない方がいい。すばらしい映像を楽しむことができる。

主人公のトランスジェンダーの女優ダニエラ・ヴェガは脱ぐとバストのふくらみが男性のようにも確かに見える。それでもしばらく見ると本当の女性のようだ。この映画では主人公以外の第三者どうしでの映像というのが少ない。ほとんどダニエラは出ずっぱりである。存在感が強い。まるでサンティアゴ観光案内のように市内のいたるところを徘徊し、その風景をバックに彼女を映し出す映像にムードたっぷりの音楽が絡む。邦題は「ナチュラル・ウーマン」としたが、これは映画の中で流れるアレサ・フランクリンの名曲からとったものであろう。この映像作りにチリ映画のレベルの高さを感じる。

アカデミー賞外国映画賞受賞は当然と思われるすばらしい出来だ。

ウェイトレスをしながらナイトクラブで歌っているマリーナ(ダニエラ・ヴェガ)は、年の離れた恋人オルランド(フランシス・レジェス)と暮らしていた。


マリーナの誕生日を中華レストランで祝った夜、自宅のベッドでオルランドは突然体調不良を訴える。意識が薄れ階段から転落したあと、病院に運ばれるがそのまま亡くなってしまう。最愛の人を失った悲しみにもかかわらず、病院の医師と性犯罪担当の女性刑事は、マリーナに犯罪の疑いをかける。そこにオルランドの元妻ソニア(アリン・クーペンヘルム)がやってくる。ふたりで暮らしていた部屋から追い出され、葬儀にも参列させてもらえない。しかも、容赦のない差別や偏見の言葉を浴びせられるのであるが。。。。

いきなり南米アルゼンチンの国境にある世界三大名瀑の一つイグアスの滝がタイトルバックに映し出される。ウォン・カーワァイ監督のゲイ映画「ブエノス・アイレス」にも映し出されるこの滝は、マリーナと亡くなった恋人が一緒に行こうとしていた滝だ。

ナイトクラブで軽快なラテンミュージックに合わせて歌うマリーナの姿やディスコで2人抱き合って踊る姿や中華レストランでの会食姿をまず映し出す。そのあと美しいサンティエゴの夜景を見渡せるマンションに移り、2人が抱き合う。その姿がスタイリッシュだと思っていた時に一気に暗転する。


監督は主人公に次から次へと容赦なく試練を与える。ひと通り疑われた後、全裸姿を刑事や医師の前にさらされたり、強い偏見をもつ元妻や息子たちのいじめにあう。そこでも絶えずマリーナの姿は映像から外れない。そして、1つ1つのカットを見るたびごとに、それぞれのカットが意味をもつことにうなってしまう。こんなに多くの種類のカットに魅せられることはそうはない。構想力豊かな監督である。すさまじい突風のために前傾姿勢をとって前に進もうとしてもなかなか進めないなんていった映像も楽しめるが、それは序の口


しかも、撮影とスクリーンの中の構図が巧みである。ワイド画面をうまくつかって昼も夜も魅力的なサンティエゴの街とマリーナを同化させる。すばらしい!



日本題にもなったナチュラルウーマンアレサフランクリンのスマッシュヒットだが、もともとはキャロルキングの作曲、世紀の大ヒットアルバム「タペストリー」でも自ら歌っている。これはこれでいい。You Make Me Feel のセリフが耳について離れない。

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映画「シェイプ・オブ・ウォーター」サリー・ホーキンズ

2018-03-04 19:30:02 | 映画(自分好みベスト100)
映画「シェイプ・オブ・ウォーター」を映画館で観てきました。

素敵な映画である。
話すことができない1人の独身女性が、異形の生物と恋に落ちていく話というとちょっととっつきにくい印象を持つが違う。60年代前半の冷戦時代の時代設定で、スパイ映画的緊張感をもちながら、ムーディーな音楽や美術で恋愛をうつくしく映し出す。「ET」のような優しさをもつ映画だ。監督脚本ギレルモ・デル・トロの手腕が光り実にすばらしい。

1962年、映画館の上にあるアパートメントで1人暮らしをする聞くことはできるが、話すことができない障がいをもつイライザ(サリー・ホーキンズ)はアメリカの秘密機関で深夜掃除婦をやっている。同僚の(オクタビア・スペンサー)や隣人の売れない画家(リチャード・ジェンキンス)と仲よくしている。イライザはある時、仕事場の水槽の中で異類の生き物が暴れているのを見てしまう。何かと思っていたら、仕事中にその生き物が水槽から姿を現す。ゆで卵を食べさせてあげながら、手話をするとその生き物が真似をするではないか。イライザは隠れて水槽のある部屋に行き、食べ物をあげたり音楽を聞かせたりするようになる。


一方、そこで働くストリックランド大佐(マイケル・シャノン)はアマゾンで神のようにあがめられていたその生き物を連れてきたが、何かというと反発するその生き物を手なづけられずに指をかまれたことに腹を立て虐待していた。しかも、生体解剖するように上司と打ち合わせしていた。時は冷戦時代、その秘密機関にはソ連のスパイも科学者ホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)として働いていた。そのロシア人も生き物に興味をもち、生き物が生体解剖にならないように、イライザが脱出をたくらむのを手伝っていたのであるが。。。


1.60年代前半のアメリカ
主人公は映画館の階上のアパートにいるという設定で、看板や映写する「砂漠の女王」などの映画が映る。テレビでは白黒の画面で人気コメディを映している。時代設定をよくつかんだ美術がいい感じだ。しかも、この映画のアレクサンドル・デスプラによる音楽はその時代を反映するイージー・リスニング的で映像にピッタリあっている。アンディ・ウィリアムズの「夏の日の恋」なんかが流れる。ラストエンディングロールにも歌われるボーカル曲「ユール・ネバー・ノウ」がよくて、なかなか席を立てなかった。

イライザがレコードプレイヤーをもってきて生き物に音楽を聞かせてあげるシーンが可愛い。

2.サリー・ホーキンズ
ウディ・アレン監督「ブルー・ジャスミン」ケイト・ブランシェットの妹役が印象的だったが、その他はあまり知らない。そんな感じで観たら、いきなりのオナニーシーンや肌を大胆にさらけ出す姿に驚く。話ができないというのはある意味セリフがあるよりもむずかしい。地味な掃除婦なんだけど、異類の生き物に徐々に魅かれていく。その心情が母性たっぷりに見えていじらしい。情感たっぷりである。ちょっと古いが異星人との交友を描いた「ET」にも通じる部分がある。


アパートの部屋を閉め切って、部屋中に水を貯めて裸で抱き合うシーンがいい。その階下の映画館への水漏れも含めて笑いを誘う。サリー・ホーキンズは水の中に長時間もぐるのでちょっとしんどかっただろうなあ。

3.魅力的な脇役
マイケル・シャノンは悪役が続くが、毎度のことながらうまい。60年代前半の家庭を描くのに美人妻と2人の可愛い娘と一緒の彼の生活が描かれるのがこの映画のミソ。個人的には「ドリームホーム」の不動産ブローカー役がいちばん性に合っていた気がする。似たような題名だが「ドリーム」に続いてギョロ目の存在感が強いオクタヴィア・スペンサーはここでは亭主の話とか他愛のないおしゃべりをいつも黙って聞いてくれる主人公をかわいがる役。これもまさに適役。

「スリー・ビルボード」もよかったが、個人的にはこちらのほうが好き。
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