映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「現金に手を出すな」 ジャンギャバン

2014-04-30 20:34:40 | 映画(自分好みベスト100)
映画「現金に手を出すな」は1954年のフランス映画(日本では1955年公開)
戦前「望郷」「大いなる幻影」という名作で主演を張ったジャンギャバンの戦後の代表作である。


すべてに無駄がない。こういうのを真の傑作というべきだろう。
アクションものではあるが、常にドンパチやっているわけではない。引退して余生を暮らそうとしていたギャングの数日を追う。ジャンギャバンも50過ぎで枯れ切った動きをする。当時のフランスの夜を的確にヴィジュアル化した映像もすばらしい。

オルリ空港で強奪された5000万フランの金塊が1カ月見つかっていないという新聞記事を見ながら、主人公マックス(ジャン・ギャバン)と20年来の相棒のリトン(ルネ・ダリー)2人はレストランで食事をしている。そこにはナイトクラブのダンサーも同席していた。ダンサーと同伴出勤でナイトクラブへと向かう。
ナイトクラブを仕切るピエロの部屋にはアンジェロ(リノ・ヴァンチュラ)がいた。アンジェロはこの店に酒類を納入していた。ショーが終わり、ジョジィ(ジャンヌ・モロー)の控室にマックスが入ると、ジョジィとアンジェロがいちゃいちゃしていた。ジョジィは相棒リトンといい仲になっていたのにどういうことなのかとマックスは問い詰める。


マックスがナイトクラブから帰ろうとすると、後ろから車が追跡してきた。救急車のようだが、何かおかしいと感じたマックスが銃を持って待機するとアンジェロの手下がやってきた。威嚇をしてマックスはその場を立ち去り、ホテル住まいのリトンの部屋に電話した。そこにはアンジェロがいるようだ。マックスは場所を指定し、アンジェロにばれないように来るように指示した。


2人はオルリ空港で五千万フランの金塊に目をつけその強奪に成功していたのだ。ところが、リトンがナイトクラブの女ジョジィに金塊のことを口走り、それがアンジェロに漏れているようである。それでアンジェロは二人を捕えて金塊の隠し場所をつき止めようとしていたのだ。マックスが隠れ家として借りていた部屋にリトンを足止めして、翌朝、金塊を持参して故買商の伯父を訪れる。事態が進展し慌てて伯父に現金にかえるよう依頼した。

マックスが留守中、リトンはジョジィに会いに行くと、そこにはアンジェロの一味が来て拉致された。隠れ家に戻ってリトンの不在に気づき、行方を探すが判らない。そこヘアンジェロから、五千万フランと引換えにリトンを渡すという電話がかかって来る。やむなくマックスはピエロを連れて金塊を車に積みこんで指定の場所に向かったが。。

フィルムノワールというジャンルがある。ノワールは文字通り「黒」イコール暗い。
ジャンギャバンの渋さがそれを増長する。最後まで徹底したノワールだ。

1.脚本の巧みさ
ストーリーのキーとなる金塊のことは、映画が始まってから新聞記事以外は語られない。レストラン、ナイトクラブと女性と戯れるシーンばかりが出てくる。ジャンギャバンの車が追跡されるあたりから徐々に状況が語られるが、元々無口なジャンギャバンのセリフは簡潔なセリフが出てくるだけだ。本当に無駄がない。完ぺきな脚本だ。それを「肉体の冠」のジャックベッケル監督が映像として巧みに具現化する。


2.ジャンギャバンのモテモテぶり
落ち着きはらった振る舞いは貫禄充分だ。同伴出勤しながら懸命にギャバンにすり寄るダンサー、本命と思しき美女、故買商の伯父の秘書などたった1時間半のなかに3人の美女が出てくる。レストランのマダムも20万フランを平気で託すところを見ると、いい仲だったと連想させる何かがある。他にもボリュームたっぷりの美女が次から次へと出てきて目が離せない。でも明らかな素性をそれぞれ語っていない。何かを観客に想像させようとする魂胆だろう。


3.夜のパリ
映画のイントロでムーランルージュの店構えが映る。ここで映るナイトクラブ「ミスティフィック」も印象的な店だ。中ではレビューショーで、色っぽい若い女性が踊りまくる。中には乳首にだけ隠している姿で踊るダンサーもいる。この時代ではどぎつい方だ。ナイトクラブのオーナー室にバストトップが出ている写真が飾られている。しかもリトンが寝る病室にかかった絵画がヘア入りの全裸である。1955年の日本公開時これってどう処理されたのかが気になってしまう。


4.オチ
何もかもうまくいくことがない。ある意味同じフランス映画「恐怖の報酬」を連想させる展開だ。重要なものが積まれた車の処理に同じ流れを感じる。ほんのわずかな時間の中に収縮している。しかし、逆にギャバンに疑いがかからないようになるという筋の絶妙さは脚本の巧みさだろう。


5.リノ・ヴァンチュラ
敵対するアンジェロを演じているのはフランスのレスリングチャンピョンだったリノ・ヴァンチュラだ。この映画を機としてフランス映画でなじみの顔となった。死刑台のエレベーター」や「シシリアン」にも出ている。そのリノの顔を見て柔道の金メダリストのドゥイエを連想した。篠原の誤審問題で大騒ぎになった時の相手だ。よく似ている。

6.ジャンヌ・モロー
これが撮られた時はまだ26歳だ。顔立ちはまだ幼さが目立つ。この映画のダンサー役もある意味悪女だが、死刑台のエレベーターで見せる真の悪女ぶりや「夜」で見せる倦怠感はまだ見せない。それにしても80歳半ばにしてまだまだ現役のその姿はどちらかというと妖怪じみている気もする。


7.テーマソング
何よりすばらしいのがテーマソングだ。最初のレストランのジュークボックスで流れてから、部屋の中のレコードなどで何度も流れる。誰もがよく知っているメロディだ。だいぶ前、タバコがたちこめる名画座の休憩時間にいつもこの曲流れていたなあと懐かしくなる。フィルムノワールを意識させる名曲だ。

本当にすばらしい!

死刑台のエレベーター
ジャンヌモローの悪女ぶりを堪能


望郷
カスバの中で恋に揺れるジャンギャバン


シシリアン
15年後のジャンギャバンとリノ・ヴァンチュラ。アランドロンも全盛
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「共喰い」

2014-04-30 07:33:41 | 映画(日本 2013年以降主演男性)
映画「共喰い」は昨年公開の日本映画だ。

田中慎弥の芥川賞受賞作を青山真治監督で映画化したものだ。原作は未読
下関の「川辺」と呼ばれる地域を舞台に社会の底辺を彷徨う人たちの偶像を描く。映像を見ると汚れた下水が流れる全然冴えない地域だ。自分の感触としては普通

昭和63年の夏、山口県下関市の「川辺」と呼ばれる地域に篠垣遠馬菅田将暉は住んでいた。産みの母仁子田中裕子は川一本隔てた魚屋で一人暮らしをしている。戦争中の空襲で左腕の手首から先を失った仁子は、終戦後、父の円(光石研)と出会い結婚した。父の円には悪い癖があった。セックスの時女を殴りつけるのだ。仁子は籍を抜かぬまま、遠馬を家に残して魚屋に移り住んだ。

17歳の誕生日になり、遠馬は千種(木下美咲)と社の神輿蔵の中で交わった。
今は琴子(篠原友希子)が円と遠馬と一緒に住んでいる。飲み屋街の店に勤める琴子は、円に殴られ頬や目の周りにあざを作っていた。 ある日、琴子は遠馬に赤ちゃんができたことを報告する。 「馬あ君は承知してくれるかいねえ」「なんでそんなこと俺に訊かんといけんの?」 遠馬は家を飛び出すと千種を神輿蔵へ呼びつけ押し倒した。

祭の前日、大雨の中を琴子は出ていった。家へ戻って来た父に、遠馬は琴子がもう家へ戻らないことを教える。「わしの子、持ち逃げしやがってから!」下駄を履き、琴子を探しに飛び出した円は、遠馬を待つ千種がいる神輿蔵へと向かっていくが。。。

きわどい映画だ。映画を見た後、中上健次の作品を読了した時のような感触を得た。中上健次は紀州半島南部の被差別エリアを描いている。昨年は若松孝二監督が中上作品「千年の愉楽」を遺作として残した。ここで描かれる下関の「川辺」も同様な場所なのであろうか?ドツボエリアを映す「赤目四十八瀧心中未遂」と同じようにうなぎなどの生きものの画像の混ぜ方がうまい気がした。

1.荒井晴彦の脚本
個性が強いので色々と言われることも多い。自分が好きな脚本家の一人だ。80年代の「遠雷」「ダブルベッド」は大好きで、原田芳雄の遺作「大鹿村騒動記」もよかった。今回はにっかつポルノを意識したという。アブノーマルな絡みが多くまさにその色彩が強い。荒井は当時かなりの日活作品をのこしているからお手のものか?成人指定になるのは仕方ないだろう。

2.若手女優の活躍
監督は木下美咲と篠原友希子に大胆な演技を要求する。特に父親の女である篠原友希子の演技が光る。

この脱ぎっぷりの良さがいい。しかも、顔にあざを作ったりする。まさか本当に殴られたわけでもないだろうけど、大変な役柄だ。主人公の彼女役木下美咲のバストが普通でリアリティを感じた。

3.田中裕子
本当に変な顔になってきた。80年代に天城越え」「夜叉あたりで見せた妖艶なムードがまったくない。何せ当時人気絶頂の沢田研二を仕留めたくらいの色気を持っていたと言っても、この作品や「はじまりのみち」あたりしか知らない若者からすると、往年の魅力は信じられないだろう。映画後半にかけて意外な活躍を見せる。光石研のダメ男ぶりに合わせるような絶妙な演技で実にうまい。「いつか読書する日」あたりから能面の表情を見せるようになった。この顔を求めて彼女を起用する監督も多いのであろう。

どん底に落ちていくような感覚で神経が麻痺した。

第30作 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎
田中裕子と沢田研二の出会い


天城越え
松本清張の傑作、田中裕子が妖艶


夜叉
影のある男高倉健にからみつく田中裕子が可愛い
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「ヒステリア」 マギーギレンホール

2014-04-29 18:07:32 | 映画(洋画:2013年以降主演女性)
映画「ヒステリア」は2011年の英国映画だ。

バイブレーターの映画というと、引いてしまう感じもする。いやらしさは極めて少ない。その昔、女性のヒステリーを治すために発明されたのがバイブレーターというわけだ。今ではエロショップにしかないのかと思っていたバイブ誕生の意外な一面をみせてくれる。マギーギレンホールが帝国主義時代の英国の女性闘士を演じている。滑稽な映画であり、流れるムードはやさしい。

1890年英国のヴィクトリア王朝は帝国主義最盛期を迎えていた。その頃女性たちに、すぐに泣く、異常な性欲、不感症、うつ病など様々な症状を引き起こすヒステリーが広まっていた。婦人科医の権威であるダリンプル医師(ジョナサン・プライスは、女性特有のヒステリーに対して「マッサージ療法」でそのうっ憤を静めていた。ダリンプルの診療所に欲求不満のご婦人が大勢詰めかけている。ダリンプル医師には女性に選挙権をと強く訴える女性闘士シャーロット(マギーギレンホールと骨の形で人間の性格を見る学問をしている美しいエミリー(フェリシティ・ジョーンズの2人の娘がいた。


一方グランビル医師(ヒュー・ダンシーは医師としての正義を重んじるがあまり、勤務先の病院でいつも上司とけんか別れをしてしまう。そのグランビルがダリンブル医師の診療所に入ってきた。ダリンブル医師の技をまねて治療にあたる。

ダリンプル医師の娘シャーロットはその治療法に対して嫌悪感を抱いていた。ところが「マッサージ療法」をしすぎて腱鞘炎になったためにグランヴィルの利き手が動かなくなり、彼は診療所を解雇されてしまうのだ。その後長年の友人である発明家のエドモンド(ルパート・エヴェレットの元へ相談に行く。エドモンドが試作中の「電動ホコリ払い機」にグランビルが手を触れていると気持ちがいいことに気づく。それをもとに治療用マッサージ器ををつくり、再度ダリンブル医師の元へ行く。治療を始めるとうまくいき、口コミで診療所は大盛況となる。

やがてグランビルはエミリーと婚約することになり、その婚約パーティに姉のシャーロットが出席する。女性地位向上に執念を燃やすシャーロットは会場で口論になり警察に連行されることになるが。。。

コメデイと考えてもいいだろう。おばあさんやおデブちゃんなど診察を受ける脇役のおばさんたちがうまく演じる。脇役がいいと主たる配役も引きづられる。この映画は演技で見せてくれる。

1.マギーギレンホール
傑作「ダークナイト」ではヒロインとなる。でもそれ以上にいい演技を見せるのはクレイジーハートである。念願のアカデミー賞主演男優賞をジェフブリッジスが受賞した作品だ。彼が演じる飲んだくれミュージシャンが親しくなる子連れ記者の役を演じる。この映画のマギーギレンホールが優しいムードを醸し出していて素敵だった。ここでは一転女性闘士になる。女っぽい妹と正反対なキャラクターで、警官にも立ち向かう。これはこれで悪くない。弟ジェイクも有名俳優だ。

2.ルパート・エヴェレット
クレジットで彼の名前を見て、久々だなあといった印象だ。「恋するシェイクスピア」「ベストフレンズウェディング」での演技が印象的である。特に「ベストフレンズウェディング」では若いキャメロン・ディアスと女を競い合うジュリア・ロバーツの親友役を演じる。

この映画でいちばん素敵なのはレストランでエヴェレットとみんながバートバカラックの「小さな願い」を歌うシーン。あの盛りあがりはいつ見ても背筋がぞくっとする。ゲイと言われる彼の卓越した演技はここでも活かされると言っていい。

3.英国の女性参政権19世紀末はインド支配を完成させインド帝国も成立させた。グレートブリテンが帝国主義を完成させる時期だった。産業資本家、労働者と選挙権を徐々に開放していったにもかかわらず女性は後回しになる。マギー演じるシャーロットのような女性も多くいたのであろう。裁判でのグランビルの証言がこの映画のヤマになっている。女性地位向上をふだんから唱えている人から見ると痛快な場面であろう。英国女性が男女平等の参政権を得るのは何と1928年だ。

4.何で姉にのりかえるの?
これだけはよくわからない。主役だから?
妹エミリーと婚約までしているのに姉に主旨替えする必要性がつかめない。ちょっと引っかかるなあ。


5.バイブレーターの歴史
エンディングロールでそれぞれの時代にどういうバイブが使われたか映像が出る。1980年代になって急にきわどい映像になったのが笑えた。これは日本製じゃないかなあ?AVじゃよく見るしろものだ。気持ちいいのかどうか男性の自分には皆目見当がつかない。ヒステリー治療はやっぱり下半身なのであろうか?

ダークナイト
マギーギレンホールがヒロイン


クレイジー・ハート
ジェフブリッジスと恋仲になるマギーギレンホールが素敵だ


ヒステリア
バイブレーターの歴史を再検証
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「コールドウォー 香港警察」 

2014-04-28 20:00:56 | 映画(アジア)
映画「コールドウォー 香港警察」は2012年製作の香港映画だ。

宣伝文句はかなり派手なコピーだ。「インファナルアフェア」に並ぶ傑作で、香港の映画賞を独占しているとのことだ。香港好きな自分は見るしかない。
警察の緊急部隊の5人が消息不明になる。直後に当局に身代金の要求があり、香港警察が動き出す。そこに次期長官の椅子を狙う2人の勢力争いが絡み複雑化するという構図だ。
昔の香港映画よりも予算が捻出できるようになったのか?香港の町をスタイリッシュに描く映画が増えてきた。この映画もストーリーを抜いてもビジュアル的に楽しい映画だ。 ガラス張りの高層ビル内にある警察オフィスからビクトリア湾を眺望する映像もきれいだし、香港映画では見たことのないようなカーチェイスもある。満喫したが、ちょっとテンポが速すぎで理解に苦しんだ。
他のできのいい香港映画同様、何度も見たほうが良さが分かるのかもしれない。

香港九龍の繁華街・旺角の街中で爆発事件が起きた。犯人が乗っていると思しき車を警察の緊急部隊の車両が追いかける。ところが、追跡した5人の警察官が車両ごと消えてしまう。謎の男から警察当局に電話がかかり、警官5人と武器がいくらになるか計算しろと言う。明らかな警察に対する恐喝であり、当局は慌てる。
香港警察の長官は欧州へ出張中のため、行動班を率いる副長官・リー(レオン・カーファイが捜査の指揮を執ることになる。緊急車両の中にリーの息子であるジョー(エディ・ポンがいるのだ。リー副長官により人質救出作戦「コールド・ウォー」が着手され、非常事態が宣言されようとしていた。

香港警察には、親族が関係した事件の捜査には関与できないという内規がある。保安管理班を率いる副長官・ラウ(アーロン・クォックは、その内規を理由にリーが指揮するのは望ましくないと考える。指揮権を取り上げようとして警察内部は分裂し、2人の長官は対立する。結局内部の根回しが通じて、ラウが指揮権を取ることになる。犯人の身代金の提示に対し、ラウ自ら取引現場に向かうが、犯人の指示に翻弄される。それとともに事態は一層混乱し、密告者により汚職捜査機関が介入するが。。。。

登場人物が多く頭が若干混乱する。鑑賞者がそうなるものと仮定して最初から映像で登場人物を説明している。それだけじゃ分からない。それでも原作はよく練られていると思う。当然中国政府の検閲もあるわけで、それを満たすためには矛盾をつくらず緻密にストーリーを練らねばなるまい。

香港好きな自分は別の視点で追いかけてみる。  
1.香港を俯瞰する
映画は香港のビル群の谷間を空から俯瞰する映像でスタートする。意外にありそうでない映像だ。香港を舞台にした1955年の映画「慕情」「Love Is a Many-Splendored Thing」の美しいメロディにのって、上環方面から香港島へ向う空からの映像を映し出す。英国の新聞記者ウィリアムホールデンと中国人の混血女医ジェ二ファージョーンズの悲哀物語で当然高層ビル群はない頃だ。あの映像を連想した。今回は九龍、香港島を連結する橋や青衣周辺、市内のメインスポットをベストショットで映し出している。わくわくしてくる。

2.カーチェイス
いきなり映る爆破事件の映像のあとで、BMWと警察車の追いかけっこが始まる。そのあとに強烈な衝突の映像がでる。ちょっとちがうなあと思わせる。その後、身代金の要求に対してバックを抱えた副長官が走り回るシーンで、激しいカーチェイスの場面が出てくる。自動車専用道の映像だ。
これって以前啓徳空港が香港のエアポートだった頃、空港からチムサーチョイの街中に向うとき通った道路ではないだろうか?

仮にちがったとしてもこういった道路でのカーチェイスは香港映画ではあまり見たことない。対決する両者の銃捌きといい、迫力ある場面だ。

3.花火師
最終に向かいセントラル(中環)の高層ビルの階上で花火を上げるシーンが出てくる。
毎日夜8時になると、香港島のビル群で美しい照明のショーをやる。ビクトリア湾を隔てた九龍側ラウンジから見ると非常に美しいシーンだ。
同様にイベント事のときに、ビクトリア湾で花火が打ち上げられる。これも実にきれいだ。その花火が事件に絡んでくる。
 

4.沢木耕太郎がこの映画を褒めている。
(朝日デジタルに掲載の文章を引用する。)
同じサスペンスと言っても、追いつ追われつのシンプルなサスペンスでなく、謎が謎を呼ぶという複雑な展開を持つサスペンスの場合、秀(すぐ)れた作品では、途中で、巧みに、僅(わず)かな謎の亀裂が挟みこまれることがある。観客の意識が一瞬そこで立ち止まり、「あれっ?」と思わせる要素が入る。だが、それはあまり強すぎても弱すぎてもいけない。その疑問が展開のスピードの中に溶けていき、いつの間にか意識から離れていくくらいがちょうどいいのだ。
やがて、クライマックスに近づいたとき、観客に、そうかあのとき自分が「おやっ?」と感じたのは正しかったのだと思わせることができた瞬間、映画の作り手は勝利する。なぜなら、その観客は、それによって、二重の興奮を覚えることになるからだ。そしてこの「コールド・ウォー」の監督たちは、少なくとも私に対しては、明らかな勝利を収めることになった。

素敵な文面だ。
沢木耕太郎といえば「深夜特急」である。あの小説は香港の猥雑な重慶マンションからスタートする。第一部は何度も読み返した。特にマカオの場面は臨場感があって最高に面白い。

一度や二度カジノをやっただけではあんな小説は書けない。究極のギャンブル小説といえる。その昔麻雀新撰組の一員だった田村光昭はマカオでバカラをやって生計を立てていた。「魅惑の魔都マカオでバカラ浸け」という彼の本がある。面白い本だ。ここで巻末に田村と沢木耕太郎が対談している。それを読んでいても沢木がリスボアのバカラにはまったのがよくわかる。沢木も自分と同じで香港好きなんだろう。

5.夜警国家香港
この映画を見ると中国返還後での香港警察の構造がよく分かる。もともと関税のない自由貿易の香港では低い一定税率で小さい政府を目指してきた。自分が敬愛する経済学者ミルトンフリードマンは著書「選択の自由」で香港を理想国家と賞賛している。その香港は返還前に貴重な税収を公安に使ってきた。夜警国家といっていいだろう。しかし、警察の末端にキナ臭い人物がいるのは「インファナルアフェア」を始めとした各種映画で理解できる。その後、中国返還後は中国政府当局から人員が送られているようだ。

政府保安局局長(アンディ・ラウが登場し、香港の治安の良さをアピールする。中国で公開するにはそのあたりも強調する必要があるだろう。IT担当、広報官、緊急部隊隊員まで大勢の警察職員が登場して、複雑な構造の内幕を描いている。


6.パート2への布石

最後に重要人物が現れる。これをみると、次があるのかな?と思ってしまう。いったい誰を中心とするのか?
面白そうだ。

コールド・ウォー 香港警察 二つの正義
激しいカーチェイスとスタイリッシュな香港を堪能する


慕情
50年前の香港を楽しむ
ウィリアム・ホールデン&ジェニファー・ジョーンズ
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「処刑の部屋」 川口浩&若尾文子

2014-04-27 11:28:07 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「処刑の部屋」は昭和31年(1956年)の大映映画

石原慎太郎の原作を映画化した。「太陽の季節」で芥川賞をとってまもない時期に、川口浩と若尾文子共演で市川崑監督がメガホンをとった映画だ。原作は未読。評論家筋からの評判もよく、三島由紀夫も絶賛している。「太陽の季節」同様に遊び人学生にスポットを当てている。若大将シリーズは1960年代を映しだすのに対し、1950年代の大学生の実像が果たしてこの通りだったかどうかを別としても貴重な映像が盛りだくさんだ。内容には??となる部分は多い。価値観が違うのかもしれない。

タイトルバックには大学野球の熱烈な応援風景が映る。
一転東京の田園地帯にある工場が映される。1人の銀行員島田(宮口精二)が融資勧誘している。彼が銀行の支店に戻ると、息子島田克己(川口浩)と友人伊藤が待っていた。金持ちの息子である息子の友人が180万円の手形を出し、この手形を割ってほしいという。いきなりなので戸惑う島田はとっさにポケットマネーで3万円を出して渡す。これを元手にダンスパーティをしようとする魂胆だ。授業に久々にでると、他大学とのディベートの最中だ。そこにはK大学の女子学生青地顕子(若尾文子)もきていた。克己も参加しようとするが、教授の都合ですぐ終了してしまう。

その後元金を使ってダンスパーティを開催して、克己と仲間は大儲けしたが、ケンカ早い克己は他大学の学生竹島(川崎敬三)たちとケンカを始める。

大学野球では島田が通うU大学(優駿大学と書いてある)はリーグ優勝した。その夜新宿で大騒ぎをしている時に、以前ディベートで出会った女子学生顕子たちもいた。酒の勢いで小料理屋へいき一緒に飲み明かす。その時、克己は悪知恵が働き、睡眠薬の入ったビールを彼女たちに飲ませ、寝た隙に犯してしまおうと考える。作戦はまんまとはまり、女子学生は眠ってしまう。克己たちは仲間の高級アパートにタクシーで連れ込み、克己は犯してしまった。泣き崩れる2人は警察に言ってやるといいながら、怒りにむせぶ。タクシーに乗せて送る途中克己と仲間は逃げてしまう。

顕子から手紙が送られてきた。会いたいという顕子との待ち合わせ場所へ行くと、どうして私を選んだの?と話しかけてくる。自分に気があるなと克己は感じる。「好きって意味がわからない」と克己はその場を抜け出す。その後も顕子は近づいてきたが、そっけないそぶりをした。
克己たちは仲間と再度ダンスパーティを開く。他大学の学生も大勢来て大盛況だ。このパーティには前にケンカしたことのある竹島もきていた。主催仲間からはこの席ではケンカするなよと、ケンカ早い克己はくぎを刺されていが、竹島をみると外に引っ張り出す。克己は共同主催の仲間たちがなんかうっとうしく思えていた。そこでパーティの売上金を持ち運ぶ車を教え、売上金を竹島たちに強奪させ、分け前を3割もらうという提案をする。竹島たちは克己に言われたとおりに売上金を持ち運ぶ車を襲うのであるが。。。

「処刑の部屋」と言われる題名の主旨が出てくるのはこの後である。そのシーンには不可解なことも多く、今の学生たちから見ると到底想像もつかないようなことかもしれない。何でこんなことするの?と自分は思うだけである。

この映画ではロケ地映像で当時の世相を楽しみたい。
1.大学野球の観客席の光景
いきなり大歓声の大学野球の観客席が映し出される。誰がどうみても早慶戦だろう。凄まじい熱気である。自分のころでもそれなりに活気があったが、むしろ昔の方が観客の騒ぎ方が凄かったのかもしれない。フクちゃん、ミッキーマウスの両大学の看板はまだ出ていない。その実際の早慶戦を映した実写と観客席に俳優たちを集めて応援姿を映すものと両方ある。

2.新宿の祝勝会の風景
早慶戦のアフターは、昔から慶應は銀座、早稲田は新宿と決まっている。ここでは主人公はU大学となっているが、早稲田同様に新宿でアフター祝勝会をやっている。一部は早稲田側のリアル映像と思しきものも混じっている。新宿駅が昔の駅の風貌だ。その前を騒乱の学生が肩を組みながら大勢で大騒ぎしている映像だ。今の東口駅ビルは自分が小学生の時にできた。今もある「武蔵野館」という文字も目立つ。小料理屋の2階の映像がいかにも昭和40年代以前を連想させる。いい感じだ。

3.ダンスパーティ
人数が多すぎて入りきれないといったパーティである。お互いに踊っているが、なんかぎこちない。ジルバを踊っているが、この間隔じゃ踊れないでしょう。男性はそれなりに男前だが、女性がみんな不細工だ。現代と比較するとまったく男女正反対である。大学生の時、仲間と一緒にディスコでパーティを開いたことがある。それをきっかけに人脈を広げたいという気持ちが自分は強かったが、友人の一部は違った。金儲けというと一瞬引いたが、自分も金を手にするとなんか嬉しくなったものだ。

4.若尾文子の風貌
ふっくらとしている。女学生風洋装で出演して、ディベートでは理屈っぽい。当時23歳で女性として一番きれいなころだ。同じ昭和31年には溝口健二監督「赤線地帯」で娼婦役を演じている。でも、彼女に関しては美のピークを迎えるのが、数々の映画を見ている限りこの2,3年先のような気がする。

5.不可解な川口浩演じる主人公
いきなり他校とのディベートで観念的な言葉をしゃべりまくる。何が何だかわからない。当時自分でも何を言っているかわからないような変な学生が多かったのであろう。それなのに軟派である。しかも、何でこんなにケンカ早いの?硬軟入り乱れてまったく不可解。

6.薬を飲ませての強姦
強姦か?合意の上のエッチか?映画「さよなら渓谷」の主人公2人は大学生の集団強姦事件に絡んで、加害者と被害者だ。「処刑の部屋」の2人も同じで、「さよなら渓谷」の2人の営みを連想した。男って基本的に悪意じゃないけど、飲ませてエッチの発想を持っている奴は多い。いかにも合意のように持っていきたいのだ。最近では柔道金メダルの内柴による強姦裁判の判決があり、合意によるエッチを主張した内柴被告は実刑となった。相手に飲ませて犯すという悪さはより一層減るだろう。

7.当時の銀行
主人公の父親宮口精二が演じるのは、どこにでもいそうな実直な銀行員だ。息子たちにせびられ、自分のへそくりからお金を払う。預金通帳を事務員に与え、現金引き出している姿が滑稽だ。銀行の名前は架空の「共和銀行」となっている。今のりそな銀行の前身で都銀の「協和銀行」でロケさせてもらったのであろう。でも若干ドジなのは映像の中で本当の「協和銀行」の文字が映ってしまっている。今だったらCGで消せそうなものだが、そのまま映るところが笑える。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀座の神戸牛ステーキ

2014-04-27 05:47:23 | 食べもの
金曜日、銀座の神戸牛ステーキを食べに行った。
個室に入って、料理人が目の前で鉄板を使ってやいてくれる。
実においしい、絶品だ。

最初は牛のたたき、特製ソースで食べる

そのあとはオックステールのスープだ。骨のまわりの肉がおいしい。

アワビが現れる。新鮮で何かを連想させると言いながら笑う。


どかんと現れた肉


アワビは特製ソースにくるんで食べる。
おいしすぎ!


目の前で鉄板で捌かれていく牛肉
特製野菜とサラダが一緒だ。ワインがあう。


そのあとは銀座の谷間に出没だ。
その夜は安倍総理も銀座でステーキ食べていたようだ。身体の調子が肉を求めているということか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「母なる復讐」 ユソン

2014-04-24 19:32:51 | 映画(韓国映画)
映画「母なる復讐」は今年日本公開された韓国映画

サスペンスものでは、日本映画はどうしても韓国のどぎつい描写には勝てない。
話題になる韓国映画はついつい見てしまう。テーマはレイプ犯罪である。実話に基づくようだ。
未成年の青年による犯罪が韓国で急増しているらしい。被害を受けながら、泣き寝入りに近い話があるようだ。
モラルに欠ける韓国人らしい話である。ムカムカしながら最後まで見てしまった。緊迫度は高い。

ソウルが舞台、夫と離婚したユリム(ユソン)は、一人娘の高校生ウナ(ナム・ボラ)と新生活を始める。そんな中、ウナは転校先の学校で、男子生徒チョハン(ドンホ)に恋心を抱く。チョハンは一年落第しているという。不良じみたところがあるが、ウナは魅かれた。

ある日の放課後、ウナはチョハンにプレゼントをあげようとメールをする。学校の屋上が待ち合わせ場所に指定された。ルンルン気分で会いにいった。2人だけのはずが、後ろから仲間の不良たちが現れる。力づくでウナを暴行する。不良たちはその場面を動画で映していた。病院で傷ついた娘の姿を見て母は怒りに燃える。

犯人はすぐさま警察に検挙された。性犯罪の判例は被害者に不利であり、刑事も上司から示談で済ますように指示される。母の元には不良たちの家族が来て、示談話を持ちかけた。ところが、加害者にもかかわらず相手の母親たちの態度は横柄で腹を立てたユリムは罪を受けるのは当然とばかりに訴訟を起こす。

ところが、判決は少年法に守られ、チョハンは証拠不十分で無罪、その仲間も保護観察処分となる。罪の軽さに2人は落胆する。ウナはチェロのレッスンも休んで無気力状態に陥った。
そのウナの携帯に顔が映っている暴行現場の動画が送られてきて、こちらに来ないと動画をネットにアップするぞと脅かす。ウナはそのことを母親に言わず、不良のたまり場に1人で向うのであるが。。。

最低の話だ。レイプ映画はどの映画を見てもつらい。
ただ、これは日本とはちがう倫理観を持つ韓国ならではの映画とも言える。

映画を見て「何でこうなるの?」と思わせる部分が多すぎる。
もし、この話が本当だとすると、被害者も脇が甘いといわざるを得ない。

疑問(ネタばれなので注意)
1.何で相手先に1人で出向くのか?娘も母親も
復讐をしようと、不良の元へ出向く。でも所詮は女だ。1人じゃ男の腕っ節にかなうわけがない。
人に相談する余裕はなかったのか?(それで離婚という設定にしたのかな?)

2.レイプ画像を母親に見せたくなかったのか?画像を警察に見せたらそれで終りじゃないか?
レイプ画像が来てアップするぞと脅迫されたとき、親に見せたら警察に訴えて終りだと思う。保護観察処分だから相手の居場所もわかっているはず。確かに高校生くらいのときは、親にいいづらいことを黙って行動するってこともあるかもしれない。でもこうなるのかなあ?

3.娘が死んだあと、携帯に残っているメールを母親が見るのが遅すぎる。
お互いのプライバシーということはあっても、こうなった以上もう少し娘の携帯の着信を気にしてもいい気がする。
普通このタイミングで見るかなあ?

.刃物で相手を刺すのではなく、ピストルが用意できれば一発でしとめられるではないか?
「嘆きのピエタ」「息もできない」などで韓国の雇われチンピラが出てくる。目には目をではないが、この映画に出てくる不良たちを懲らしめる方法がある気もするんだけど。。
車を使った始末だけは理にかなっている気がしたけど

5.韓国の法律はそんなにレイプに甘いのか?
確かにこの判決は納得がいかない。ずいぶんと甘いねえ。
こんな奴ら野放しにしてしまうのか?イヤー怖い怖い。韓国には行けないよなあ。

6.実話に基づくというが、この被害者と同じくらいバカな話だったのか?
被害者の受けた犯罪を軽く見るわけではないが、相手に復讐しようとしても、こんな脇が甘いようじゃどうにもならない。不良に向って女一人で対抗できるのかと思っているのだろうか?いくらなんでもこれは創作だよね。でも創作だとしたら、ちょっと女2人をバカにしすぎといった印象

7.犯罪起こした少年の家宅捜査ってないの?
動画事件も普通であれば、家宅捜索でパソコン、携帯等が押収されてわかってしまうはずだ。何もしないのかな?
韓国警察のザルぶりが露呈されるってこと?それとも脚本が稚拙?

8.ラスト
このオチもわからない。銃の狙いは何も相手の心臓でなくてもいいじゃない。

突っ込みが多い映画であった。ドキドキはしたけど
こういう映画は高校生に見せた方がいいかも。道徳の時間なんかで

母なる復讐 女子高生強姦事件
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「黒い画集 ある遭難」 

2014-04-24 18:37:33 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「黒い画集 ある遭難」は1961年の東宝映画

これも松本清張の短編集「黒い画集」の一つだ。3作見たがこれが一番スリリングかもしれない。
「網走番外地」や東映お色気路線で有名な映画監督の石井輝男による脚本が上手にまとまっている。時間軸をずらす処理もうまい。以前原作は読了しているが、内容は覚えていない。映画を見ていくうちに、ドキドキ感が高まりどういう風に決着をつけるのかをわくわくしながらみた。傑作だと思う。

山男たちが、崖から滑落した山男の死体を引き上げている。鹿島槍で銀行員3人のパーティが、ガスで道を見失い、その一人が谷に滑落してしまった。死体が荼毘に付されているのを見つめながら、姉(香川京子)は初心者の浦橋が助かって弟が遭難したことに疑問を持っているようだ。

山岳雑誌の「岳人」に同僚浦橋による寄稿文が載る。

浦橋の回想が始まる。快晴の鹿島槍頂上には銀行員の江田(伊藤久哉)、岩瀬秀雄(児玉清)、浦橋(和田孝)の3人が映る。 その後、下山を始めると先ほどまでの好天がウソのようにガスが立ち込めてくる。「引き返そう」と江田が言うと、岩瀬は強硬に進もうと主張する。それなのに岩瀬は息苦しそうだ。目的地まではあと少しだが、やむなくパーティは今来た道を引き返した。

ガスの中をさまよいながら浦橋は同じ道を引き返していると思っていた。しかし、江田が牛首山の方に紛れ込んだようだと言い出す。黒部側で反対だ。布引岳と牛首山がよく似ているので間違えたのだ。雨は激しくなる。岩瀬はグッタリしている。江田は小屋に救援を頼みに行ってくるといい2人は残された。激しい雷雨で、岩瀬の容態が悪くなっていると浦橋が感じたとき、岩瀬が意味不明なことを言いつつ、走り出し崖から落ちていった。
今回の山登りでは、江田の好意で寝台車で行った。しかし、浦橋がトイレに起きると、岩瀬が真っ青な顔で、デッキに立っている。眠れないようだ。山に入ってからも岩瀬の体調は悪そう。江田が頻繁に休憩をとるが、かえって岩瀬は疲れていく。水を飲む量も次第に多くなっていく。小屋に泊まっても、岩瀬は眠れない様子だ。浦橋は改めてそう追想した。

銀行で勤務中の江田に岩瀬の姉の真佐子から会いたいと電話が入った。約束の場所にいくと、もう一人東北の電力会社につとめている従兄の槙田(土屋嘉男)がいた。真佐子は弟の遭難場所に花を捧げてやりたいと言う。ただ、自分では冬の登山は無理。代わりを松本高校の山岳部だった従兄の槙田に頼んだので一緒に行ってくれないかという。江田は休暇を取れたら一緒に行くと答えた。
2人は新宿発の夜行列車に乗って山に向った。列車に乗ると、槙田は「岳人」に掲載された浦橋の記事を思い起こさせる話をしてきた。槙田は夜中に寝もせずにいたりしたので、江田は不気味に感じた。
山に入ると、槙田は遭難した登山スケジュールを再現するような行動をとる。やたらと休憩を取りたがったり、同じ場所で水筒に水を入れたりする。それにしても何でこんなに休んだり、水を飲みまくるのかと江田に問う。山小屋に入っても、寝床で槙田は江田を追及する。自分の調べでは、松本の気象台が当日天気が崩れると予報を出していたと指摘する。

翌日、遭難現場で献花を終えたあと、槙田は江田に向って話を始める。寝台車で眠れなかったのは、江田がショックを与えることを言ったからではないか?天候も予報で予知したはずだし、休憩を多くとって疲れさせたのもおかしい。しかも、黒部側の山の地図を持って行かせなかったことなど意図的なものが感じられると言うのであるが。。。

最近でも名カメラマン木村大作がメガホンを取った「剣岳」など登山を描いた映画は見応えのあるものが多い。撮影の困難さがにじみ出ている。機材を運ぶのも大変だろう。監督、カメラマンはもちろん演じる出演者たちもかなりしんどい仕事だ。黒澤明脚本谷口千吉監督による「銀嶺の果て」や井上靖原作の「氷壁」という名作もあるが、この作品も登山ミステリーとして記憶されるべき作品だと思う。
前半のガスが立ち込める中の夏山登山のシーンはもとより、伊藤久哉と土屋嘉男の雪山登山シーンはCGがない時代だけによくやったなあと感じさせる。特に最後の転落シーンはおいおい大丈夫?と驚く。

メジャーと思しき俳優は香川京子だけである。撮影の困難さで断る人気俳優もいたかもしれない。最近亡くなった若き日の児玉清が遭難した岩瀬を演じる。精悍な風貌も見せるが、ここでは苦しい表情が続く。突然発狂した時は、「山月記」の虎になった男が猛然と走りだす場面を連想した。土屋嘉男は最近までTVによく出ていただけに親しみがある。香川京子の美貌は愁いがあり、いつもながら素敵だ。

映画を見ていて、リーダーの江田を槙田が責めていく構図は途中から見えていく。でも、映画をどう決着をつけるかは想像つかない。2人の間に取っ組み合いもあるのか?どういう結末になるのかをドキドキしながら見守っていった。やはり最後5分以内までドキドキさせる映画はスリリングだ。ヒッチコックの映画が製作されている時代だが、似たような緊張感を呼び起こす。
結果的に結末は原作と異なる。映倫がからんでいたのであろうか?どっちがいいかは人によるだろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「42 世界を変えた男」 ジャッキーロビンソン

2014-04-23 17:42:01 | 映画(洋画 2013年以降主演男性)
映画「42」は2013年公開の野球映画である。

野球映画好きの自分からすると、公開時に当然いくべき映画であったが、スケジュールが調整つかなかった。
題材、映像のセンスともに抜群だ。球場で選手を捕らえるカメラワークがいい。これは自分の相性にあう映画であった。
ジャッキーロビンソンが初の黒人メジャーリーガーであることはあまりにも有名である。名前は知っていたが、活躍ぶりは知らなかった。改めてこの映画を見て、強い差別の中で這い上がっていった彼に賛辞を述べたくなった。「それでも夜は明ける」ほどの黒人差別映画ではないが、一時代前の暗黒時代を匂わせる。

第二次大戦が終了して、戦争で中止となっていたメジャーリーグも再開された。ジョーディマジオ、テッドウィリアムズらのスター選手も球場に戻ってきた。そのころアメリカでは、トイレやレストラン、交通機関などあらゆる公共のものの使用が白人と有色人種とで分けられ人種差別が横行していた。まだ黒人選手はメジャーリーグにはいなかった。
メジャー球団ブルックリン・ドジャースのゼネラルマネジャーであるリッキー(ハリソンフォード)は1人の黒人野球選手に注目する。黒人リーグにいたジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)を採用しようとすると、球団内からも大きな反発を受けた。しかし、初志貫徹でまずは3Aのロイヤルズに入団させる。テストをすると、抜群の能力を見せるが、監督も黒人に対する差別心を持っていた。リッキーは彼を使えないようならお前はクビだと監督に言い、ジャッキーを起用する。早速力量を発揮しはじめて、試合で活躍をつづけた。

1947年ジャッキーはメジャーリーグへ昇格しブルックリン・ドジャースのユニフォームを着ることになった。背番号は42番である。しかし、チームメイトの中から強い反発が起き、追い出そうと署名運動まで起きた。それを感知したリッキーGMは監督にそれを抑えさせた。ついにジャッキーは試合に出ることになる。だが、試合に出ると黒人差別の激しい地域の球団のメンバーから激しく攻撃されるのであるが。。。

黒人差別の映画は最近も含めて多々ある。オスカー作品だけを取り上げてみても、「アラバマ物語」「夜の大捜査線」が印象深い「アラバマ物語」は1人の黒人少年の冤罪の話である。正義の味方グレゴリーペックはいれど、いいように白人にやられている。「夜の大捜査線」では、一般の白人たちが群がって黒人たちを懲らしめようとするシーンがある。主人公の黒人エリート刑事から見ても町の保守的白人が脅威の存在となっている。この映画でも同じようなシーンがある。

ジャッキーロビンソンは1947年にで打率297、29盗塁の成績を残して新人王を獲得している。1949年には打率342で首位打者もとってナショナルリーグのMVPとなる。破竹の勢いで活躍する。ドジャースも好調が続く。1947年と49年はリーグ優勝だ。時代背景を確認すると、ドジャースが所属するナショナルリーグに対して、ヤンキース、レッドソックスが所属するアメリカンリーグがある。ヤンキースではジョーディマジオが活躍し、1948年に本塁打王、打点王の2冠、レッドソックスでは最後の4割バッターテッドウィリアムスが同じ1948年に首位打者になる。1947年には三冠王もとっている。同世代の天才2人が別のリーグにいただけにジャッキーのデビュー後の活躍は目立ったろう。

印象深いシーンはフィリーズと対決した際、相手側の監督が執拗なくらい黒人差別ととれるヤジを飛ばすシーンだ。
「ニガー」という言葉を連発して、攪乱させる。今でもこういうヤジはあるとは思うが、確かにやりすぎだ。それを見るに見かねて味方の選手が助っ人に出る。「止めろ!」と相手の監督にくってかかる。それまでは、黒人の仲間ができることに嫌悪感を抱いて仲間たちも一緒になっていく。これ自体は序の口で色々とややこしい話があったのであろう。テロップが流れたが、この差別監督は退団後二度と声がかからなかったようだ。

もともとはかなり短気だったジャッキーに対して、ハリソンフォード演じるGMが何があっても抑えろという。ムカついて仕方ない時でも忍耐の一文字だ。そういうやるせない心理をチャドウィック・ボーズマンが上手に演じている。もちろん枯れ切った演技を見せるハリソンフォードも抜群にいい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「凶悪」 ピエール瀧&リリー・フランキー

2014-04-21 20:14:11 | 映画(日本 2013年以降主演男性)
映画「凶悪」をようやくDVDで見れた。昨年の映画賞をずいぶんと受賞している作品だ。

これは強烈な映画だ。そもそもの題材は実在する話である。

こんなにむごいことをやりつづけた男たちっているんだなあと思うと、どうあっても裏社会との縁を持たずに生きねばという気がしてくる。リリーフランキーも好演だが、ピエール瀧の怪演が光る。映画「冷たい熱帯魚」と似たテイストがあるが、あの映画でのでんでんと今回のピエール瀧の演技は甲乙つけがたい強烈さをもつ。いずれも死体を肉屋のようにカットしていく。凄すぎる!

スクープ雑誌「明潮24」の記者として働く藤井修一(山田孝之)は、東京拘置所に収監中の死刑囚 須藤純次(ピエール瀧)から届いた手紙を渡され、面会に行き話を聞いてくるよう上司から命じられる。

面会室で向かい合った須藤は、「私には、まだ誰にも話していない余罪が3件あります」と話しはじめる。その余罪とは、警察も知らず闇に埋もれた3つの殺人事件だった。そして、これらすべての事件の首謀者は、“先生”と呼ばれる木村孝雄(リリー・フランキー)という不動産ブローカーであり、記事にしてもらうことで、今ものうのうと娑婆でのさばっている“先生”を追いつめたいのだと告白される。

半信半疑のまま調査を始める藤井だったが、須藤の話と合致する人物や土地が次々と見つかり、次第に彼の告発に信憑性がある事に気付き始める。死刑囚の告発は真実か虚構か?先生とは何者なのか?藤井はまるで取り憑かれたように取材に没頭していくのだが…(KINENOTEより引用)

須藤が死刑囚となった事件の映像が映る。むごい映像だ。
あっさり銃で撃って殺した方が、苦しまずに死ねる。
彼はもったいぶって相手が生きたままに、地獄に陥らせるところがいやなところだ。

一番印象的だったシーンは保険金殺人に加担している場面だ。
借金地獄の電気屋の家族が父親に多額の保険金をかける。保険金で清算しないと借金は支払えない。
ピエール瀧とリリーフランキー演じる殺人鬼は、手下を使って父親に大酒を飲ませる。酒を飲みすぎて死んでしまったという形にするためである。もともと大酒のみなので死んでも不自然ではない。家族は殺人鬼が父親をむごい目にあわせるのに合意する。
父親は死にたくない、まだ生きたいというが、殺人鬼たちは手数料をもぎ取るため次から次へと酒を与える。同時に道具を使っていたぶる。でもそう簡単には死なない。最後は90度以上の酒を一気飲みさせる。死んだあと死亡推定時間を遅らせるために冷たい風呂に入れる。死体は殺人鬼たちにスタンガンでいいようにやられているのに、警察がそのままにしているのが不思議だ。
でも悪いことをやっていると必ず天罰が下る。

こんなようなシーンが続く。
水戸ナンバーの車が映る。茨城が舞台の殺人事件が次から次からおき、死体を他人地に埋めていく。
親から相続した茨城の土地がある。正直使い物にならないような土地だ。
死体を埋めている映像に出てくる土地に似ている。おいおいこんな奴うろうろしないでくれよ。

主人公である記者も変な奴だ。
認知症の母親と若妻と3人で暮らしている。母親の認知症は悪化する一方なのに、妻に任せっぱなしだ。
若妻が母親を施設に入れようとすると主人公は拒否する。お前が面倒見ろよという。おいおいお前本気かよ!!
事件の真相をつかむために、夜を徹した取材が続くが、家のことは無関心。妻は怒る。当然だろう。
この母親は主人公の母親である。それってないじゃない!!
あまりに変な奴なので主人公に感情流入することはなかった。山田孝之の顔を見てもムカつくばかりだった。

どいつもこいつも変な奴といった印象の映画だった。

(その後)
原作を読了した。よくできたドキュメンタリーだ。実名入り。
本の中に書いている殺人をうまく映像化したなと言う印象を改めて持つ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「ぼんち」 市川雷蔵&越路吹雪

2014-04-19 05:08:51 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「ぼんち」は1960年の市川崑監督による大映映画だ。

山崎豊子の出世作で船場ものである。足袋屋の跡取りを市川雷蔵が演じて、正妻、二号に当時の日本映画を代表する美女が出演する。御大山田五十鈴が母親役で、雷蔵の相手役は大映の若尾文子、中村玉緒、京マチ子に加えて、東宝から草笛光子、なんと越路吹雪まで出演する。まさに映画全盛時代を飾る作品といってもいい。

昭和の初めの大阪船場が舞台だ。
四代続いた船場の足袋問屋河内屋の一人息子喜久治(市川雷蔵)は、女系家族の中で育った。河内屋は三代も養子旦那が続き、父親(船越英二)は丁稚奉公から婿に入った。祖母・きの(毛利菊枝)、母・勢以(山田五十鈴)にすすめられ砂糖問屋から弘子(中村玉緒)を嫁にもらう。二人は家事の細かいことに文句を言い、弘子をしめつけた。妊娠した弘子は病気と偽って実家へ帰り、久次郎を産んだ。喜久治には不満はなかったが、姑たちは弘子を離別するよう仕組んだ。

昭和五年、弘子を離縁してからの喜久治は新町の花街に足を入れるようになった。「富の家」の娘仲居・幾子(草笛光子)が好意をよせた。父が死に、喜久治は五代目の河内屋の若旦那におさまった。

襲名の宴を料亭浜ゆうで開いたが、仲居頭のお福(京マチ子)にきのと勢以は魅せられた。彼女を喜久治にとりもち娘を生まそうと企んだ。喜久治は待合で芸者ぽん太(若尾文子)と馴染みになった。妾となったぽん太はしきたりに従って本宅うかがいに現われた。さすがの勢以も気をのまれた。ぽん太に男の子が生れた。

きのは五万円の金で生れた子と縁切りをするよう言った。喜久治は幾子が芸者に出るのを知ると彼女も囲った。
日中戦争が始まり、世の中は不景気の一途を辿っていた。喜久治は道頓堀のカフェーで女給比佐子(越路吹雪)と出会った。愛想のない女だったが気にいった。幾子が難産の後、子癇を起して死んだ。妾の葬式を旦那が出してやることは許されない。喜久治はお福のはからいで浜ゆうの二階から幾子の葬式を見送った。男泣きに泣く喜久治を、お福は自分の体を投げ出して慰めた。日中戦争から太平洋戦争へ。喜久治は灯火管制下にも妾の家をこまめに廻った。空襲で河内屋も蔵一つを残し全焼した。ぽん太、比佐子、お福がやって来たが。。。

凄い女優陣である。
京マチ子をはじめとした大映スターのことはこれまで繰り返し語ってきた。
草笛光子についても語った。「光子の窓」の時代からまだ現役を続ける彼女には敬服する。

(越路吹雪)
越路吹雪についてはブログで初めて取り上げる。この映画での彼女の顔つきは印象的だ。

まだ小学生になってまもない時、紅白歌合戦の赤組で異色な女性がいることに気づいた。越路吹雪である。まず顔が普通の顔をしていない。歌も異彩をはなつ。子供の自分からすると怖く見えた。テレビ画面に向かって目を伏せた記憶がある。
その彼女の良さがわかるには時間がかかった。中学生になり洋楽を聞くようになった後で、彼女の歌の良さがわかるようになっていた。当時彼女のコンサートチケットを入手するのは困難だった。ライブ映像を見た時、凄い人なんだと思う。

宝塚出身である。テレビのワイドショーで乙羽信子と一緒に出ていたことがある。同期だ。雰囲気があまりにも違う2人だが妙に気が合ったそうだ。乙羽らしくやさしく「コーちゃん」と呼ぶ声が今でも印象に残る。月丘夢路も一緒らしい。
そんな彼女をスケッチした絵がある。文化勲章を受章した日本画の小倉画伯によるものである。

いかにも彼女の特徴をつかんだ女性画家らしい傑作である。。ちょうどこの映画と同じ時期だ。

映画の中でお風呂で若尾文子、京マチ子と戯れるシーンがある。

こんな肌を見せるシーンは他にはないだろう。それを見るだけでもこの映画は価値があった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「サイド・エフェクト」 ジュード・ロウ&ルーニー・マーラ

2014-04-17 20:44:16 | 映画(洋画 2013年以降主演男性)
映画「サイドエフェクト」はスティーヴン・ソダーバーグ監督による2013年のサイコサスペンス映画だ。

ジュードロウの主演だが、脇を固めるのが「ドラゴンタトゥの女」のルーニー・マーラとキャサリン・ゼタ・ジョーンズだ。特にルーニーマーラがいい。迷彩がかなりちりばめれているサスペンスで、当初はルーニーマーラの狂言をどうとらえるのかに戸惑う。しかも、ジュードロウはドツボにおちていく。途中からの逆転劇はうまいストーリー展開だと思う。



精神科医バンクス(ジュード・ロウ)は、女医シーバート博士(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)の患者であったエミリー・テイラー(ルーニー・マーラ)の診察にあたっている。エミリーは、地下駐車場で、自らの車を壁に激突させてしまう。しかし事故現場にブレーキ痕が無かったことから、エミリーが自殺を図ったのではないかと推測された。



エミリーはウォール街で働いていた夫のマーティン・テイラー(チャニング・テイタム)がインサイダー取引で収監されたため、うつ病が再発していると判断して、バンクスは抗うつ剤「アブリクサ」を処方するとともに、カウンセリングを受けることを条件にエミリーに対し退院許可をあたえた。



しかし、その薬のおかげで夫との関係も回復したはずのエミリーは突如夫を殺してしまう。その後、落胆したマーティンの母親がテレビ出演し、アブリクサの製造元であるサドラー・ベネルクス社を副作用があると糾弾する。
エミリーの裁判の証人として出廷したバンクスは、エミリーはアブリクサの副作用で夢遊病になり、意識がないままマーティンを刺したのではないかと証言する。心神喪失を認められたエミリーは殺人罪に問われず、精神医療の治療を受けることになる。

しかし、バンクスは主治医の責任を問われ、窮地に追い込まれた。妻(ヴィネッサ・ショウ)との仲も険悪になっていく。自らの名誉のため、独自の調査に乗り出し、殺人事件の背後に渦巻く衝撃的な真実があることに気づくが。。。

奥行きの深い映画である。
ルーニーマーラは、主人公の恋人を演じた「ソーシャルネットワーク」から一転狂気のような女性を「ドラゴンタトゥの女」で演じた。この演技にはあっと驚かされた。同一人物には見えなかった。今回は「ソーシャルネットワーク」の顔で心神喪失の女を演じる。心神喪失と言えば堤真一&鈴木京香主演日本映画「39刑法第39条」の出来はよかった。その展開も連想したが、それだけではない。心神喪失で助かる人を懲らしめる「脳男」のような映画もあるが、もっと複雑だ。キナ臭い金儲け話が奥に残っていたのだ。



薬の副作用が明るみになり、薬品製造会社の株価は暴落するのだ。
株というのは値上げする時だけ儲けられるわけでない。急落でニッコリ笑う人もいる。それこそ911のビンラディンはカラ売りポジションやコールオプションの売りでかなり儲けていたと言われる。イスラム原理主義者のふりでテロを仕掛ければ仕掛けるほど儲けられるのだから笑いが止まらないだろう。映画の中で売りでもうける話をわかりやすく解説しているが、まさにそういう裏話が隠されていた。

処方した主治医ジュードロウをものの見事を突き落としたと思ったのは一瞬で、その後は復活に向かって進む。
それでも結末が想像つかず、途中で最後のオチがどうなるのかわくわくする。そう思わせるだけいい映画なのであろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「にっぽん泥棒物語」 三國連太郎

2014-04-17 05:26:13 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「にっぽん泥棒物語」を見た。1965年の東映映画でキネマ旬報4位という作品だ。
題名の通りに三國連太郎演じる泥棒の武勇談かと思って映画を見たのだが、まったく違う結末となった。監督は社会派の巨匠山本薩夫監督である。終わってみると納得するが、最初はそんな様相はまったく示さずストーリーが進む。途中からの展開はあれよあれよという感じで、当時の演劇界を代表する有名俳優が軒並み出演して、いかにも社会派らしい映画になる。その意外性に驚く。

東北のある町が舞台だ。最初に映るシーンは、家屋侵入して泥棒を働き荷台に盗品を積んだトラックを嫁入り道具の輸送車に見せようとしているところだ。検問の警官に助手席に座る花嫁の姿を見せ、あっさりくぐりぬける。そしてその盗品を「盗品買い」の業者に持っていくのだ。

主人公林田義助(三國連太郎)は妙見小僧と言われる「破蔵師」である。狙いをつけた家に押し入り土蔵に穴を開けて品物をリレーで運び出すと、盗品買いの処へもってゆき現金に代えるのだ。
義助が前科四犯の破蔵師になったのは歯科医の父が死んだあと、母(北林谷栄)や妹(緑魔子)を養うため、歯科医を継ぐが、戦争で薬が手に入らず、この商売に入ったのだ。

義助が仲間たちと温泉に遊びにゆき、芸者桃子(市原悦子)と仲良くなり世帯をもつことになった。桃子は歯科医師と結婚できると喜んだのだ。しかし、里帰りする桃子に、手土産をと盗品の着物を渡したのがケチの始まりだ。生活費の足しにしようと桃子は着物を買い取りに出し、盗難届の出ている着物とわかってしまう。安東刑事(伊藤雄之助)につかまって拘置所ゆきとなった。

ここで自転車泥棒庫吉(江原真二郎)と知り合う。義助は保釈になると庫吉と計画を立てて、深夜2時過ぎに呉服屋に忍びこんだ。ところが、巡回中の消防団に追われ線路づたいに逃げた。そこで深夜義助は九人の大男とすれちがった。その夜明けのこと、大音響と共に杉山駅で列車転覆事件が起った。悪さの数々がばれて刑務所に行った義助は、杉山駅列車転覆事件の犯人だという三人の囚人に会った。無実を訴える三人の男を見て、義助はあの夜会った大男とは違うと思っていた。

4年刑務所にいて出所した義助は、親の死に目に会えなかった。そして田舎の村のダム工事現場でまじめに働きだした。うっかり村人の歯を直したばかりに、医者とみなされもぐりの歯医者をやることになる。そんな時重病にかかっていたはな(佐久間良子)を助けてくれと言われて口移しの水を与えたら助かってしまった。結局はなと結婚することになり子供も生れた。その後村で平和な生活を送っていた。義助は昔の仲間(花沢徳衛)と酒を酌み交わすときに、杉山事件の夜、線路際で偶然大男に出会ったことを話してしまう。そうしたら昔仲間の弟が弁護士を連れてやってきた。法廷で兄に話したことを証言してほしいというのだ。法廷に出廷すれば、自分の前科がばれてしまうと急遽妻を引き連れて引っ越した。

しかし、引越した先は警察にばれてしまう。旧知の安東刑事から「あの場所で出会ったのは三人だ」と言わなければ、愛妻に前科をばらすと脅かされていた。しかし、弁護士、報道機関はあきらめずに義助の元を日参するのであるが。。。。

古き良き時代の話だ。今でも泥棒はいるだろうが、昔の田舎の資産家はさぞかし狙われただろう。
今でも田舎町には蔵がたくさん建っている。そこには貴重な財産が隠されているのであろうか?


この話も冤罪の話だ。
まさか有名な「松川事件」がネタになっているとは思わなかった。その昔はこんな冤罪で一生刑務暮らしをせざるを得なかった人たちが数多くいたのであろうか?戦後まもなく長きにわたり牢獄に入っていた日本共産党員がGHQの指示で釈放されたのはいいが、労働運動で大暴れしまくる。しかも、共産化の波はアメリカ本土でも吹き荒れ、マッカーシズムと言われる赤狩りの流れになる。アジアでも中国大陸を共産党が支配することになった。まだ占領下にあった日本でもGHQと日本政府がグルになって共産主義者を再度弾圧するようになっていた。そこで冤罪がいくつか生まれる。実際共産党がしかけたテロ行為もあったかもしれないが、労働運動に携わる人たちが図らずも犯人扱いされた事件も多かっただろう。
DNA鑑定が定着した現在の科学捜査のレベルは冤罪を減らしていると思われる。

何よりも面白いのが最終の裁判場面だ。これ自体は社会派の山本監督が万人を楽しませようとした内容だ。
こんな裁判ないだろうなあ!と思いながら爆笑の渦を巻き込んだ三國連太郎の演技は天下一品だ。東北弁もいい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「黒い画集 寒流」 池部良&新珠三千代

2014-04-16 17:18:04 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「黒い画集 寒流」は1960年の東宝映画だ。
「黒い画集」松本清張の傑作短編集で、先日も「あるサラリーマンの証言」を見たが、実におもしろかった。「寒流」はサスペンス仕立てであるが、殺人事件はからまない。昭和35年前後のサラリーマン状況を巧みに映し出しており、面白い。

池部良の銀行支店長ぶりは、冷静沈着な振る舞いでいかにも一時代前の支店長像である。何よりも見モノは新珠三千代の美貌である。「けものみち」の時に少年のころは池内淳子に関心を持たなかったという話をしたが、新珠三千代も同様である。はやりまくった「細うで繁盛記」はときおりみていたが、彼女を見ても何も感じなかった。でもここでの新珠は気品があり、本当にきれいだ。年齢を重ねて初めてわかる女性の美しさである。「洲崎パラダイス」のあと、「女の中にいる他人」の前でこのあたりが一番いいのかもしれない。

安井銀行の役員会の模様が映し出される。常務の桑山(平田昭彦)は池袋支店の支店長に本店貸付課長の沖野(池部良)を推している。反対派閥の副頭取(中村伸郎)一派はまだ時期尚早と反対するが、多数決で沖野の昇格が決まる。桑山と沖野は大学の同窓、前頭取の子息ということで桑山は早くも常務に昇格している。桑山は女に手が早く、沖野は銀座のホステスとの手切れ問題処理を密かにしていた。

池袋支店長となった沖野は、新任の挨拶廻りの時に料亭「比良野」の女主人前川奈美(新珠三千代)の元を訪れた。未亡人で美人の女将であった。その後、奈美が増築のため一千万円の融資を頼みに来た。自身の決裁範囲を超える多額の融資のため、桑山常務に相談した。お店に一度寄ってみろよといわれ沖野は1人で飲みに行った。店が繁盛しているのを確認して、この大口取引を承諾した。
未亡人の奈美は相談する男性が欲しかったところだった。やがて二人は親密の度を増し、奈美は沖野と体の関係を待った。
結婚を口にする奈美に、病弱の妻(荒木道子)をかかえる沖野の心は動いた。

そんな時、桑山が池袋支店に沖野を訪ねて来た。成績が好調ということで激励に来たのだ。沖野の部屋に遊びに来ていた桑山は奈美を見て一目惚れした。帰り際に料亭まで送っていった。
桑山は週末湯河原へゴルフに行こうと沖野と奈美を誘った。手の早い桑山は早朝に奈美の部屋に忍び込む。
桑山は、都内に進出するための追加融資を種に奈美を口説いたのだ。一方沖野が自宅へ帰ると、妻のところへ医者が往診に来ていた。どうやら睡眠薬を飲んで自殺未遂をしていたのだ。
沖野は自身が興信所で女性関係を調べ上げられていることを知った。わかった以上、奈美との結婚を本気で考えようとしていた。ところが、奈美は急によそよそしくなった。

しばらくして、沖野は宇都宮支店に転勤させられた。異動の送別会で関東の大支店長と沖野を持ち上げたが、桑山は沖野がじゃまになったのだ。
嫉妬心から沖野は、宇都宮支店にあって仕事が手につかなかった。沖野は秘密探偵社を訪れた。そこで探偵の伊牟田(宮口精二)に桑山の素行調査を依頼する。しばらくたち伊牟田が調査報告書を持参してやって来た。奈美は旧大名屋敷を買い取り六千万円はする店内の改装、それに桑山との情事の日取りまでが詳細に記されてあった。
沖野はこの資料を持って上京、総会屋の福光喜太郎(志村喬)に会う。株主総会でスキャンダルと不正貸付をバクロ、桑山を社会的に葬るためだ。総会の前に福光が桑山の常務室を訪れるのであるが。。。。

映画を見ながら「半沢直樹シリーズ」を連想したが、現代とは様相がまったく違う。
総会屋やヤクザなんて人種は、平成金融不況時代から銀行とは縁がない存在になってきているのではないか?(裏ではわからないが。。。)ネット社会となり、わずかなヤバイ関係を発見するだけで大騒ぎとなる。この映画で志村喬丹波哲郎が演じる役柄は現代では抹殺された存在になっているかもしれない。特に丹波哲郎のシーンは異様な雰囲気だ。
「半沢直樹」と「寒流」に1つだけ共通点がある。悪党の常務を演じる俳優が香川も平田も東大出身である。俳優になったというだけで世間でいう東大エリートとは違う立場だけど、ちょっと間違ったらそうなっていたという訳だし、2人とも悪党がうまい。

宇都宮に左遷というストーリーとなる。池袋支店の業績がいいというセリフがあるのに、そんなにすぐ異動させられるものなのかと感じてしまう。映像ではどうやらJR宇都宮駅前の大通りを映しているというのがよくわかる。自分も30代半ばから宇都宮に5年行っているので、立場は同じようなものだが、ホンダ、キャノンが進出して工業団地が充実している現在よりもこの時代の方がもっと衝撃が大きいかもしれない。「半沢直樹」シリーズでもやたらと出向や左遷話が出てくる。地方を楽しむのも悪くないと思うんだけど、世間の若手はあのテレビを機に出向や地方勤務を嫌がる傾向があるという。もったいない。

それにしても平田と池部は大学の同窓で、平田の女関係の清算にも池部が関わっている関係なのになんでこんなにいがみ合うのかなという感じがする。そこが不思議かな?3人でお風呂に行く場面もちょっと不自然だ。映画でゴルフ場に行く場面がある。湯河原に行くと言っているが、海が見える打ちおろしの美しいゴルフ場だ。平田がショットを打った後、新珠の登場でカットだが、湯河原カンツリーみたいだ。

ここでのオチはその後どうなるのかをはっきり言わない。
でもこの時代の映画はどれもこれも大物の方がうまく逃げるという展開だ。その時代背景だったのであろうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「けものみち」 池内淳子

2014-04-12 07:17:02 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「けものみち」は1964年製作の松本清張原作を映画化した東宝映画
政財界の裏の世界にスポットをあて、その中でしぶとく生きていこうとする男女の生きざまを描く。あえて白黒映画でつくられているが、それがいい形で緊迫感を高めている。武満徹の音楽も絶品でかなりよくできている映画だ。


池内淳子といえば、60年代後半から80年代にかけては視聴率20%を確実に稼げる女優としてもてはやされていた。自分も東芝日曜劇場「女と味噌汁」などはよく見ていたものだ。しかし、まだ少年だった自分にはさほどいい女には見えなかった。それは自分の母と同世代だったからなのかもしれない。息子は母親に女というものは感じないものだ。同時に母親と同世代の女性にも関心を示さない。きっとそういうことだったんだろう。
この映画で見る池内淳子は美しい。逆に彼女がよく見える年齢に自分が差し掛かったのかもしれない。ある意味悪女であるこの映画の池内淳子は金持ち老人の前で肌をあらわにしてもてあそばれるが、肝心なところは見せない。それでも入浴シーンなんかを見るとドッキリしてしまう。20%女優と言われたころにこんな大胆な場面を見たことはなかったので意外であった。そんな池内淳子を見るだけでも価値がある。

主人公成沢民子(池内淳子)は、寝たきりの夫寛次を旅館の女中勤めで養っている。ある夜ついた客のホテル支配人小滝(池部良)は魅力的な男性で2人は魅かれあった。小滝に誘われ、深夜自宅に戻り、事故死をよそおい夫を焼き殺した。小滝と一緒に旅館にいるというアリバイをつくったのだ。そして民子は翌日、小滝の紹介で弁護士秦野(伊藤雄之助)と共に鬼頭洪太(小沢栄太郎)の豪邸を訪れた。身体の不自由な老人鬼頭の世話をするため民子は選ばれた。金にまかせた華美な生活、民子は鬼頭に身体をまかせながら、いつか小滝が忘れられない人となった。


一方焼死事件に不審を抱いた警視庁捜査一課の久恒刑事(小林桂樹)は、当日現場付近に民子らしい女がいたことを聞きこみながら、民子のアリバイを崩せず、次第に民子の美しさに職業を逸脱したみだらな行為を迫るのだった。

久恒の調査で、鬼頭は元満州浪人で、戦後莫大な金を手にし、政治を裏から動かし、右翼団体を握っている人物であり秦野とは、かつて鬼頭のもとで働いていた鉱夫の偽名で、本物の弁護士秦野は満州で行方不明となっていた。また小滝は左翼くずれで、満州から古美術を盗み秦野らに近づいて、一つのラインを形成していることが判明した。
その頃政界では、ある殺人事件にまきこれた高速道路公団総裁香川が辞職し、新しい総裁が椅子についた。鬼頭のさしがねであることは当然ながら、確証がつかめず久恒はいらだった。だが鬼頭の手は久恒のうえにものびたが。。。


普通の旅館の女中が気がつくと、政財界を揺さぶる大物と接触するようになる。この映画の鬼頭は児玉誉士夫がモデルではないかと思う。戦後20年たっていないころは、まだ戦争の影がチラチラする。戦後のどさくさを没落せず生き残った人たちは本当に強い。満州という場所を舞台にして大金を得て、それをそのまま日本に持ち込んだ人は少ない。その少ない人が戦後を牛耳っていたのは皮肉だ。左翼崩れなんて言葉は徐々に死語になってきている。松本清張は常に共産党を応援してきたある意味アカだが、政財界の裏側はしっかり観察してきた。切れ味は鋭い。それがこの映画にもよくあらわれている。

この時代の映画では、黒澤明監督「悪い奴ほどよく眠る」もそうだが、政財界の大物がうまく生き延びるという設定が多い。汚職もうまく握りつぶしている。今はどうだろうか?インターネットで悪いうわさが広まわるので、大新聞を一時的に抑えても簡単には握りつぶせない。児玉誉士夫は戦後の汚職事件にかなりかかわったと言われる。でも結局ロッキードで失脚した。むしろ日本の悪しき慣習を嫌ったアメリカの手で葬られた。古き良き日の日本というより、悪い時代の日本といった方がいいかもしれない。みんなとやかく言うけど、今の方がましだ。

池部良演じる支配人が勤めているというホテルは、赤坂という場所からいってホテルニュージャパンと推測される。横井英樹がオーナーで起こした火災のことでしばらく騒がれていた。当時大学生だった自分は、赤坂紀尾井町でバイトをしていて、偶然出くわした。あの騒乱ぶりは今も目に残る。今のプルデンシャルタワーを見るたび思い出すが、世紀の悪党横井英樹はよくもあの土地を手に入れたなと感心する。

(参考作品)
けものみち
艶っぽい池内淳子
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする