映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

Netflix映画「浅草キッド」柳楽優弥&大泉洋

2021-12-16 05:29:38 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「浅草キッド」は2021年のNetflix配信


「浅草キッド」はビートたけしが浅草フランス座で下働きをしている時代の物語、座長で師匠の深見千三郎との関係を中心に描かれている劇団ひとりがメガホンを持ち、ビートたけしを柳楽優弥、深見千三郎を大泉洋が演じる。毒の強いビートたけしの創成期がこんなにナイーブだったのかと思わせる柳楽優弥の演技には調子が狂う。一方で大泉洋演じる大衆娯楽の座長ぶりはうまい。

計算尽くされ洗練された外国映画を観た後で、映画の序盤戦はどこかB級というよりC級の匂いでどこか中途半端な感じがする。ストリップ小屋とはいえ、裸は見せない。でも、中盤からなんとか這い上がろうとするたけしを映し出し良くなっていく師匠深見千三郎のセリフの数々には重みがあるものも多い。正直70点以上の点数はだせない作品だが、見ておいた方がいい。泣けてくるシーンもある。

北野武(柳楽優弥)は浅草六区のストリップ小屋フランス座のエレベーターボーイである。こんな仕事をやるつもりで入ったわけでないと劇場のおばちゃんに愚痴を言っていると、座長の深見千三郎(大泉洋)が通りかかリ、この子芸人になりたいんでと声をかける。
「お前何か芸あるか?」下を見て黙り込むたけし。「それで芸人になろうというのは甘い」たけしは何も言えない。


しばらく経ってまたたけしを見た時に深見千三郎はタップダンスを見せてやった。「芸というのはこういうもんだ。」
たけしは密かにタップダンスの練習を始める。フランス座のストリッパーには深見千三郎の連れ合い麻里(鈴木保奈美)と歌手志望の千春(門脇麦)がいた。ストリップダンスの合間に演じるつなぎのお笑いで自らの技をみがくのであるが。。。

⒈小林信彦の「日本の喜劇人」と深見千三郎
お笑いコメディアン史には古典ともいうべき名著小林信彦「日本の喜劇人」がある。そこでどのように取り上げられているか気になるので書棚に向かう。ビートたけしについて書かれている項目で深見千三郎のことが書いてあるので引用する。

深見千三郎は戦前派の浅草芸人で,萩本欽一の先生でもあった。萩本の話では,たけしは,深見千三郎の芸風にそっくりだと言う。たけしに言わせると, 「捨て台詞と田舎者を莫迦にするところが似ている」そうだ。(小林信彦 日本の喜劇人p314)


大泉洋はいつものスタイルと変わらない。でも深見千三郎ってこんな人だったんだろうなあというのが映像から伝わってくる。

たけしについて
上昇志向のみの人間には見えない真実を,さりげなく,下町の土着的な笑いのオブラートに包んで言ってのけるところに,たけしの本領がある。ドロップアウトした人間のみに見える真実,と言っても良い。文化的ニセモノ,うさんくささをかぎつける彼の能力,本能は,ちょっと,類がない。(同 pp.315-316)

さすが小林信彦の評価である。そのテイストはこの映画の根本に流れている。

⒉ビートきよし
途中からフランス座でくすぶっているたけしのもとに、辞めて別の道を歩んでいたきよしが一緒にやらないかと訪れる。フランス座では所詮ストリップを見に来た客に、ステージの合間に芸を見せるだけ。誰もちゃんと見てくれない。たけしにはそういうストレスが溜まっていた。しかも、フランス座の懐具合は最悪。そこで親方の逆鱗に触れる覚悟で退団を申し入れるのだ。

強烈なビートたけしの横でいつもボケ役だったビートきよしという存在は昔から気になっていた。とても主役を張れるタマではない。毒舌満開のたけしの横で「やめなさい!」というだけ。ナイツ土屋の柔らかさがいい感じに見えた。


⒊門脇麦
好きな女優だ。特に若松孝二監督の下にいたアシスタントを演じた「止められるか俺たちを」から追いかけている。今回はストリッパーだけど、歌手になる夢を捨てられないという役柄だ。「さよならくちびる」でも歌を唄っていたが、今回も誰もいないステージで弘田三枝子の「人形の家」を披露する。


たけしが気を利かせて歌を披露するタイムを用意する。とりあえず観客は拍手はする。しかし, いつ脱ぐんだいとみんなから言われる。ドロップアウトしていく姿を演じるのは門脇麦には得意技だ。悪くはないが,せっかくのストリッパー役でもう少しサービスして欲しかった。

最後のエンディングロールは桑田佳祐、これがまたいい曲だねえ

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映画「メランコリック」

2021-11-30 19:53:38 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「メランコリック」は2019年公開作品


映画「メランコリック」は低予算で作られた作品で、当時意外なヒットとなった「カメラを止めるな」と同じように面白いといううわさであった。しかし、「カメラを止めるな」自体をあまりいい映画と思っていない自分からすると、俳優も知らないメンバーばかりでつい後回しになってしまった。

このところ公開映画に興味をもてる映画が少なく、Netflix映画のラインナップに「メランコリック」を発見して、ダメ元で見てみた。そうしたら、予想に反してむちゃくちゃおもしろい。たしかに、映画界周辺でさまよう30代に足を踏み込んだばかりの3人が中心になって低予算でつくったと言われるとそのようだが、そうあまり感じさせない田中征爾の脚本と演出の巧さに満足した。自分の心境からすると、超掘り出し物である。

大学を出ても就職せずにフリーター稼業を続けていた男が、近くの銭湯でバイトをすると、その銭湯の洗い場では深夜殺された死体の処理をしている秘密を知ってしまう。やむを得ずに自分も銭湯の関係者と一緒となってその稼業に従事するという話だ。


「カメラを止めろ」がゾンビ映画の制作に絡んだ話で、「メランコリック」の作品情報を軽く読んで、死体の酷い処理をする「冷たい熱帯魚」のようなおぞましい世界を想像していた。実は死体は出てきても、見るに耐えない映像が出てくるわけではない。むしろ、コメディタッチの青春映画を観ているような感覚をもつ。作品のタッチは柔らかい。有名俳優はまったく出ていない。だからといって素人の映画づくりレベルの稚拙な作品ではない。見応えもある。

東大を出たにもかかわらず、就職もせずフリーター稼業の鍋岡和彦(皆川暢二)は実家暮らしでうだつが上がらない。風呂の湯が切れてたまたま行った近所の銭湯松の湯で高校の同級生・百合(吉田芽吹)と出会ったのをきっかけに、百合の勧めもありその銭湯で働こうと思い立つ。

もう1人の仲間松本(磯崎 義知)と2人面接をしてオーナーの東(羽田真)に採用されて働き始める。ところが、百合と飲みにいった帰りに電気がついている深夜の風呂場を覗いてみると、そこで同僚の小寺による殺人と死体処理が行われているのを見てしまう。小寺に見つかり脅されドキッとしたが、結局オーナーの東が助け舟を出して、死体処理を手伝うことになる。

東は裏社会筋の田中(矢田政伸)に借金があり、この稼業をやらざるを得なかった。また、別の機会に同僚の松本も死体処理の仲間であることを知る。ところが、続けて殺し屋稼業に従事していた小平が襲撃を失敗すると、同僚の松本に殺しの仕事が降りかかってくるようになるのであるが。。。

⒈ありえない話ではない
殺し屋って日本にいるのは間違いないだろう。豊田商事社長やオウムの幹部が大衆の面前で無残に殺された。あんな風に世間に顔もさらす殺し屋は少ないだろうが、表に出てこない殺し屋っているだろう。確かに、銭湯は死体遺棄には都合がいい。死臭はすぐ処理すれば換気で大丈夫だろうし、釜の入り口がそれなりにあれば、映画「冷たい熱帯魚」のように細かく死体をカットしなくても処理できる。


⒉裏社会への借金
銭湯のオーナーも裏社会の筋者に借金をしている。ヤクザが絡んだ借金といえば、事業がうまくいかず高利の金を借りたのか?博打やノミ行為のツケで借りることも考えられる。少しずつ返すといっても、減らないから裏稼業の死体の遺棄を手伝い続けるのだ。始末させられなければならない奴もそんなにいるんだろうか?組同士の抗争だけでなく、ひっそり行方不明にさせて財産をふんだくる連中もいるのだろう。


そういうイヤな世界は映画では大げさには見せない。そもそも裏社会もどきの田中がヤクザとか組のものというセリフはない。死体の処理についても、借金の理由についても、なぜ殺されるのかもディテールは語られない。そういうセリフもない。こちらが映像で想像する域を超えない。ここでは、女に縁がなかった主人公の元同級生との純愛を織り交ぜる。青春ドラマ的要素でトーンを下げる。緩急自在だ。


そんなムードで流れる。

⒊浦安市猫実
松の湯の玄関横に猫実と住居表示がついている。全国的に有名な町名でないが、千葉で仕事をしたことある自分にはわかる。東西線浦安駅から近いアドレスで実在だ。浦安といえば、東京ディズニーランドのあるところ。浦安市の名前なら誰でもわかってしまうが、猫実ではわからない。しかも、映画の中で浦安の地名は出てこない。見ようによれば、どこかの地方都市にも見える。

たぶんロケハンティングで松の湯がうまい具合にハマったのであろう。浦安は漁師町でもともとディズニーランドがあるエリアや新浦安駅付近の広大な住宅地は海だったエリアで埋立地である。海に近いという利点は純愛物語に少しだけ活かせているかもしれない。

⒋ラストに向けての逆転とツッコミどころ
最終的に銭湯のオーナーと2人の従業員はある殺しに絡む。ここでは詳細を語らない。単純にことが運ぶかといえばそうではない。でも、修羅場での展開は事前予想を裏切った。オチはよく考えている気もする。個人的にはマーティンスコセッシ監督の「ディパーテッド」が歯切れよく結末を迎えるのを連想した。

でも、ここまではリアル感があっても最後に向けてはちょっと雑だな。

ツッコミどころ(ネタバレ少しあり)

車の逃走
殺しに挑んで、不意に松本が銃弾をうける。すぐ死んでもいいはずだが、そうならない。とどめ射ちもされない。その負傷した松本を鍋岡が車を走らせて運ぼうとする。でも、鍋岡は運転できない。アクセルもブレーキもどこを踏んで良いのかわからないと言う。でも、無理やり発進させる。気がつくと2人は鍋岡の自宅にいるのだ。

運転って未経験者にそう簡単にできるもんじゃない。教習所でいきなりエンジンを円滑に発進させられるのは余程のやつだ。まあ、これってありえない。運転はできる設定にすべきにして展開を考えるべきでは?しかも、銃弾を受けて大丈夫なわけがない。気がつくと、鍋岡の母親が銃弾を処理している。事情を知らない身内がこんなことするか。しかも、夜には回復だ。この辺りは実現性が薄いので醒めると言わざるをえない。その後の銭湯営業を含め、リアル感へのちょっと詰めが甘い。とはいうもののおもしろかったのは確かだ。
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映画「護られなかった者たちへ」 佐藤健&阿部寛&清原果耶

2021-10-26 10:01:46 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「護られなかった者たちへ」を映画館で観てきました。


「護られなかった者たちへ」は予告編で何度も見て気になっていたが、後回しになった作品である。佐藤健と阿部寛の共演でクライムサスペンス風のタッチのようだ。桑田佳祐の主題歌が鳴り響く短い予告編は佐藤健が顔を泥水につけるシーンなど印象的なショットが多い。でも、完全に老けた倍賞美津子の風貌を見るのが忍びない気もしていたのが遅くなった理由である。公開して時間が経つが好評なんだろうか、映画館は割と満席で中年の夫婦連れが目立った。後ろのおばさんが途中から泣きまくっていた。

東日本大震災から9年たった仙台で、周囲に善人と言われる2人の公務員が殺される連続殺人事件が発生。宮城県警の刑事・笘篠(阿部寛)が被害者2人からある共通項を見つけ出し犯人を追う。以前、放火事件で服役し、刑期を終えて出所したばかりの利根泰久(佐藤健)が、容疑者として捜査線上に浮かび追うという話だ。

殺人事件の検挙に向けた動きと並行して、大震災後に家族を亡くして喪失感をもつ人たちを映す。時代は2011年と2020 年を交互に映すが、セリフで内容が理解できるように考えられていて頭は混乱しない。謎解きの要素よりも、生活保護の苦しみにスポットをあてる映画である。でも、途中で様相が変わる。ミステリー的に思わぬ方向に展開する。観ている人間も予想外の進み方に戸惑ったのではないか。

⒈生活保護
生活保護が大きくクローズアップされる映画である。佐藤健と阿部寛とともに重要なキャストが区役所で生活保護の相談をする清原果耶である。娘の給食費すらまともに払えないシングルマザーが生活保護受給者なのにバイトで他に収入を得ているという垂れ込みがあって清原演じる相談員は訪問する。切羽詰まっている。一方で生活保護を受けているのに外車を乗り回すヤクザ風の男に文句をつけにいく。両極端の生活保護受給者を映す。


生活保護を受けないと自活できないような老女の元にも訪問する。生活保護を受けると世間様に申し訳ないという。実は世の中には手続きをしないこういう人も多いらしい。どういう生活保護受給者を取り上げるのかは考えただろうが、いい例をピックアップする。勉強不足で自分は生活保護についてあまり知らない。生活に苦しんでいる人だけでなく、対峙する相談員の辛さもわれわれに訴えている。いい歳なのに普通に給料をもらえて自分は恵まれているなと思ってしまう。

⒉東日本大震災のダメージ
原発を絡めて福島の震災被害をクローズアップした映画が目立ち、宮城県で被害を受けた後の苦しみについて言及した方が少ない。街にリアリティがないと、人物を描いても臨場感が出ない。臨時待機所になった学校のロケなどを見ると、身内を亡くして辛い思いをした人物も浮き上がってくる。宮城県でのロケハンでリアリティに富むセッティングはできている。うまく作られている。


⒊倍賞美津子と清原果耶
先日倍賞美津子の80年代の姿を名画座で観た。イイ女だった。その良き日の姿を見たのもこの映画の予告編で老けた倍賞美津子の顔を見たからだ。まあ歳を重ねてずいぶんと変わったものだ。「」でも年老いた姿を見せてくれたが、あの映画も瀬々敬久監督作品だった。連続して起用した。ここでは、震災の避難所で佐藤健と知り合う老婆である。気のいいおばあさんだけど、生活保護を受けないと生きていけないという役柄だ。あの倍賞美津子がこんな姿になってしまったかと思うとなんとも言えない気分になる。


清原果耶は成田凌との共演作まともじゃないのは君も一緒で注目した。ませた高校生の役だったが、実にうまい。大物になりそうな予感を感じた。気になっていくつかの映画を観たが、たいしたことはないものが多い。やっぱり作品によるのであろう。ここでは区役所の生活保護の相談員で高校生時代の映像も映す。みようによっては童顔なので、らくらくこなす。これで一皮むけたんじゃなかろうか?


佐藤健と阿部寛のダブル主演はいずれも手堅い。いつもより目つきのキツい佐藤健が役になりきってうまかった。阿部寛のサブ刑事が好かねえやつだと思ってみていたら、大島優子の亭主らしい。驚いた。

⒋瀬々敬久
監督は瀬々敬久で、最近も明日の食卓」「と高回転で作品を作り出す。自分は「友罪」「64」や「最低なども含めて監督作品はずっと観ている割にはブログ記事に監督の名前を出していない。ちょっと悪い気がした。

これまでプロフィルに関心を持たなかった。自分と似たような世代だ。もともと京大出のインテリだけど、キャリアは裏街道まっしぐらのようだピンク映画の世界で量産した後に、「ヘヴンズストーリー」「感染列島」でメジャーな世界から声がかかるようになったようだ。現代のサスペンス小説をもとにした題材も多く、連続して人気俳優のそろったメジャー作品で起用されるのも長めのミステリー小説を簡潔にまとめる力に優れていると評価されているのではないか?


ピンク映画は量をつくらなければならない。客も興奮させねばならないので、単なる自己満足に終わらないサービス精神が旺盛になるかもしれない。佐藤健の今までなかったパフォーマンスも観客へのサービスだろう。でも、自分なりの評価は「」も「明日の食卓」も5点中3.5〜4点という感じだな。逆に、一番よかったのが最低」、これは濡れ場もある。本当はこういう方がうまいのかもしれない。
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映画「Blue/ブルー」松山ケンイチ&東出昌大

2021-09-13 05:58:14 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「Blue/ブルー」は2021年公開


「ブルー」𠮷田恵輔監督松山ケンイチ主演のボクシング映画である。タイミング合わず見損なった映画がNetflixに登場して見てしまう。でも、これって不思議な映画である。こんなボクシング映画ってちょっと経験ない。何せ主人公がひたすら負け続けるのである。きっと途中で何かあるのでは?と思って見続けるが、意外な後味である。

𠮷田恵輔監督の作品ではさんかくが良かった。その後ずっと観ているわけではない。どうも吉田監督は長きに渡ってボクシングをやっているらしい。そんな中で生まれた作品だ。派手さはないが、見ておいた方がいい映画だ。

誰よりもボクシングを愛する瓜田(松山ケンイチ)は、どれだけ努力しても負け続き。一方、ライバルで後輩の小川(東出昌大)は抜群の才能とセンスで日本チャンピオン目前、瓜田の幼馴染の千佳(木村文乃)とも結婚を控えていた。


千佳は瓜田にとって初恋の人であり、この世界へ導いてくれた人。強さも、恋も、瓜田が欲しい物は全部小川が手に入れた。それでも瓜田はひたむきに努力し夢へ挑戦し続ける。しかし、ある出来事をきっかけに、瓜田は抱え続けてきた想いを二人の前で吐き出し、彼らの関係が変わり始めるー。(作品情報 引用)

⒈ボクシング映画の定石外し
映画とボクシングの相性はいい。ハングリーでひたすら闘争心に燃えるボクサーがはいあがろうとする。「ずっと負け続けで最後に勝つ。」「最初は負けているが、徐々に勝ちはじめていくが、最後で負ける」などいろんなパターンがある。類似作を脳裏でいくつも彷徨って探したが「ブルー」と似た作品は記憶にない。


ボクシング映画の最高傑作「ミリオンダラーベイビー」クリントイーストウッド、モーガンフリーマン、ヒラリースワンクの3人の物語である。並行して3人を語るが、ヒラリースワンクの成長を語るのが基本だ。女性ボクサーの物語でこの流れを引き継ぐのが安藤さくら主演「百円の恋で、いずれも序盤戦の気だるい雰囲気から高揚感を感じさせる流れに持っていく。結末は悲劇的であっても、途中は浮上するのだ。「ロッキー」でも「レイジングブル」でもボクシング映画でわれわれの気分が盛り上がるのはそういう上向きな場面である。でも、ここではそうしない。ある意味監督の意志が感じられる。

⒉ずっと負け続けのボクサー
松山ケンイチが演じる。練習は一生懸命やる。後輩の練習にも付き合ういい奴だ。ジムの仲間が対戦する相手の過去の試合をひも解いて弱点を集めて教えてあげる。こうするといいよと具体的にアドバイスをしてあげるのだ。


でも、後輩から「ずっと負け続けの瓜田さんのアドバイスを聞いても勝てない」と言われる場面が2度出てくる。それを言われても、瓜田はムカッとするわけではない。そのまま黙るのだ。つらい場面だ。でも、このアドバイスは的確なのだ。長くボクシングをやってきたという吉田監督は同じような先輩をかつて見てきたのであろう。名選手名コーチにあらず、ということわざの逆に「名コーチは名選手にあらず」ということもいえるというわけだ。


栄光に向かう選手がいる一方でこんなボクサーもいるんだよと我々に問いかけているような気がした。的確なボディブローのように見終わってしばらくしてから心に響いてくる。
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映画「孤狼の血 LEVEL2」 白石和彌&鈴木亮平&村上虹郎

2021-08-22 17:46:40 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「孤狼の血レベル2」を映画館で観てきました。


孤狼の血level2は好評だった前作に引き続き白石和彌監督による続編である。日本の映画界で常に一定レベル以上の作品を供給する貴重な存在の白石和彌だけに期待して映画館に向かう。深作欣二、笠原和夫コンビが産んだ傑作県警対組織暴力に心酔しているという柚月裕子が書いた原作に基づき、前作孤狼の血役所広司演じる不良刑事を映画に放ち、われわれを楽しませてくれた。傑作だと思う。第2作目は平成3年(1991年)の広島を舞台にしたオリジナルのシナリオである。

今回は鈴木亮平演じる新しい凶暴な狂犬が映画に放たれる。それだけで一定以上のレベルは確保する。でも、ちょっと脂っこいかな?食材がいい焼肉屋で、おいしいけど胃が疲れているときに脂がギトギトしたものをもう一度食べるような感じのしつこさでちょっと疲れた経済学の限界効用低減の法則のように一作目ほどの良さは感じない。でも、これは主役松坂桃李の存在の弱さによるかもしれない。


昭和63年(1988年)が舞台だった前作から3年経った。広島では大きな抗争も減っていた。呉原東警察の刑事日岡(松坂桃李)は裏社会にも影響力を持っていた。そんなとき、五十子会の元幹部上林(鈴木亮平)が刑務所を出所してきた。いきなり、出所後刑務所時代に自分をいたぶった刑務官の親族を残忍なやり方で殺した。県警は特別本部を作るが、手が出せなかった。

勢いがついた上林は仁政会の幹部にケンカを売り、五十子会2代目の角谷(寺島進)を痛めつけ自らの地位を高めていく。一方で日岡は旧知のチンピラ幸太(村上虹郎)を上林組にスパイとして侵入させて、組織を錯乱させようとするのであるが。。。

⒈鈴木亮平
実質主演というべき存在で大暴れである。あえて模範囚として、刑務所を出所することになるが、最も危険な人物を町に泳がして裏社会をムチャクチャにする。いきなり、刑務官の家族宅に押し入り目をくり抜く。鈴木亮平は身長186cmで体格もいい。暴れ回ると迫力がある。この映画は鈴木亮平のための映画と言ってもいい。


「仁義なき戦い」が大ヒットした後の2作目で深作欣二、笠原和夫コンビはテキヤ筋の極道、千葉真一演じる大友という狂犬を映画に放つ。まあ、大友のハチャメチャぶりは映画史上でも屈指である。「孤狼の血」の好評で2作目を作るにあたり、白石和彌が千葉真一を意識したのは間違いない。映画は主人公に対峙する悪役も強くないとバランスがとれない。そういった意味では成功なんだろう。

寺島進、宇梶剛士といったヤクザ映画の常連強面を痛ぶり、吉田剛太郎を怯えさすそのパフォーマンスで今後の俳優としての存在感を持てるようになったのは鈴木亮平にとっては大きい。ただ、今後続編を考慮に入れるなら、エンディングに向けての結末は正解ではない


⒉松坂桃李
元々ははぐれ刑事役所広司演じる大上のもとで刑事稼業を学ぼうとしていたのが第1作である。刑事映画は黒澤明の「野良犬」の志村喬と三船敏郎、もっとアバズレで言うと「トレーニングデイ」のデンゼルワシントンとイーサンホンクというように未熟者と熟達者の対比を見せるのが常道である。まさに1作目はそんな関係だった。


まず、たった3年で裏社会に睨みをきかすことができるのかな?という疑問がある。あとは、主役としての有能さがストーリーに見えないのが実に弱いところだ。裏社会の方々に手を打っているつもりだが、うまくいかない。頭が悪い。逆に鈴木亮平は刑事の悪だくみを見抜く。頭がいい。村上虹郎演じるチンピラを大暴れする上林組に潜入させるが、相手に見透かされてしまう。この作品にもう一歩乗れないのは松坂自身の問題ではないが、主役の弱さもある気がする。

⒊村上虹郎
少年の輝きを持った河瀬直美監督の「2つ目の窓からまだ7年しか経っていない。個人的には出演する作品と相性がいい。前作ソワレもいい。ようやく映画界で存在感を示せるようになったときのこの役柄である。


架空の街呉原市のラウンジのママの弟で、日岡刑事に頼まれて上林組に潜入するチンピラだ。時おり、日岡とコッソリ会って情報を与えているが、所詮は下っ端のチンピラ、警察とヤクザの両方にいいように利用される悲しい役柄である。見ていて切なくなる。「仁義なき戦い」で言えば、川谷拓三のようなものだ。でも、この役演じて役者としての村上虹郎の今後に期待できる気がした。ある意味、松坂桃李と対照的である。

⒋女性陣の弱さ
この映画で弱いのは女性の存在感だと思う。その昔「極道の妻たち」でダイナマイトボディで活躍したかたせ梨乃を久々登場させたけど、60すぎたかたせには女盛り当時の片鱗は感じられない。あとの女性陣は小者ばかりである。


「仁義なき戦い」2作目では千葉真一という粗暴な野獣を放つと同時に、梶芽衣子と北大路欣也の哀愁の恋にもポイントをあてた。女性の関わりが少なすぎると映画として弱いのではないか。

白石和彌監督作品だけに当然レベルは高いけど、もう一歩と感じさせるのはそんなところか。
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映画「ドライブマイカー」 西島秀俊&濱口竜介&村上春樹

2021-08-22 06:46:28 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「ドライブマイカー」を映画館でみてきました。


おお!こう来るか、そんな場面に魅せられる。

「ドライブマイカー」村上春樹の短編集「女のいない男たち」の中にある同題作品が原作である。濱口竜介監督が脚本演出する。題名「ドライブマイカー」はビートルズ「ラバーソウル」の一曲目。この短編集は2014年発売とともに読んでいて、個人的にシェエラザード」と「木野」が自分のテイストに合う。「シェエラザード」の感想は7年前ブログにもアップした。題名を聞いたとき、「ドライブマイカー」のあらすじをすっかり忘れていたのに気づく。

東出昌大と唐田えりかの不倫話で別の意味で有名になったけど、濱口竜介監督の前作「寝ても覚めてもには強い衝撃を受けた。ヒッチコックの「めまい」のような展開かと思ったら、あっと驚く逆転場面を用意する。好き嫌いが激しい蓮實重彦寝ても覚めても」と唐田えりかを絶賛する。元東大総長のインテリじいさんには世間のゴシップ話は一切関係ないようだ。

主人公の舞台俳優、女性運転手、俳優の元妻、元妻が関係を持った青年と主要4人で成り立つストーリーである。妻(霧島れいか)に先立たれてひとりになった舞台俳優家福(西島秀俊)が、チェーホフ作の舞台演出を依頼され、広島に向かう。現地での移動には女性ドライバーみさき(三浦透子)をつけてくれた。演劇には亡き妻と関係があった若手俳優高槻(岡田将生)がオーディションを受け加わる。亡き妻をめぐっての高槻との心の葛藤を持ちながら舞台稽古を進めていくという話である。

原作のベース設定は変わらないが、濱口竜介監督短編では触れていないストーリーを加える。原作は自分を愛してくれていた元妻がなぜ他の男と寝ていたのかという謎を探る要素があり主人公へのスポットが強くあたっている。確かにそれもあるが、ドライバーと元妻が関係を持った青年の存在感を拡張する。これはこれで悪くはない。


映画を見る前は、3時間というのも随分と長いなあ、チェーホフの「ヴァーニャ伯父」の演劇の場面が多いのかな?と思っていた。でも話の広がりに興味が持て、思ったよりも時間を長く感じない

カンヌ映画祭で脚本賞と聞いたときは村上春樹の原作短篇もあるので「何で?脚色賞でないの?」と思った。でも、こうやって見終わると、短篇小説で描かれていない「ないもの」を想像して脚本化を進め、映像でわれわれに見せてくれる濱口竜介監督の巧みな手腕に感服する。

⒈シェエラザード
映画の解説に「ドライブマイカー」に加えて、「女のいない男たち」から「シェエラザード」と「木野」からもエッセンスを引き出していると書いてある。自分なりに映画でどう使われるか推測していたが、映画が始まってすぐ「シェエラザード」の中の空き巣に入る話を主人公家福の妻がベッドで語っている。そのシーンが出てきて自分はハズレと気づく。女性ドライバーが語ると推測していた。「木野」については1か所だけかな?

原作では、戦前の日本共産党にいた女性給仕ハウスキーパーのような存在の女がアラビアンナイトの「シェエラザード」の如く語り役になる。高校時代に好きな男の子の留守中の家に忍び入って引き出しを覗いたりした昔話を語っていくのだ。この空き巣感覚は、映画でいうと、香港映画「恋する惑星」やキムギドクの「うつせみを想像するような話だ。


元妻音の語りを聞き、そうか、こういうところで使われるんだ。と思っていたら、それだけでは終わらなかった。ベッドで語るその話は夫にだけ話しているわけではなかったのだ。ここからは濱口監督の脚本が冴える。想像を超えるある解釈を聞いて、背筋がぞくぞくした。しかも、岡田将生の語りがいい。濱口監督の前作寝ても覚めても」で唐田えりか演じるヒロインが予想外の行動をするのを見るときのドキドキと同じような驚きを自分は感じた。

⒉広島と瀬戸内海
主人公家福が演出する演劇を広島で公演する。それに伴い広島に2ヶ月ほど滞在するのだ。期間中はしまなみ海道で瀬戸内海を渡ったところにある島に滞在する。移動する車でセリフを聞いている。泊まる旅館から眺める景色は絶景で、海岸沿いを走る赤いサーブを高所から俯瞰して撮る映像コンテも美しい


ドライバーは稽古場と島を往復する。市内の島が見える海辺で主人公とドライバーがたたずむ高いアングルからのショットも自分にはよく見えた。当然、原作とは無縁の場所でロケハンには成功している。


⒊演劇の場面
家福が演出を受け持つ演劇は、ちょっと変わっていて、さまざまな人種の役者がそれぞれ母国語で演じるのだ。演劇に詳しくない自分はこんな劇あったんだ。そんな感じである。家福と一緒にコーディネートするプロデューサーが韓国人で、中国、アジア系も含め色んな人種の人がいる。聞くことはできるが、話は出来ず手話で演じる韓国人女性もいる。映画の配役リストを見て外国人が多いなあと思っていたけど、そういうことだ。


この場面については好き嫌いあるかもしれない。韓国人プロデューサーに関する逸話とか、もう少し縮められても良かった気もする。村上春樹作品は同じく短篇を基にした「バーニング」が韓国で製作されている。きっと「ドライブマイカー」も韓国でも公開予定なのかもしれない。

⒋ドライバー
淡々と運転をこなす寡黙な女性ドライバーである。逸話が増えて存在感は原作より増している。北海道の小さい町の出身で23歳、喫煙者だ。実質母はシングルマザーで苦労して育つ。演劇の主催者側から、移動には必ず運転手をつけてくれと言われ、いったん主人公は拒否する。でも、安心して運転を任せられるとわかる。事情があって、中学生から車を運転していたので、年の割には運転歴は長い。


「おそらくどのような見地から見ても美人とはいえなかった。ひどく素っ気ない顔をしている」原作ではこうなっている。村上春樹はこういう感じで容姿を表現することが多い。もともと絶世の美女が出てくることはほとんどないし、少なくとも「女のいない男たち」に出てくる女性は美しくない。三浦透子は適役かもしれない。田畑智子にも似ている。彼女のプロフィールを見ると、自分が観ている映画が多い。え!そうだったんだという気分だ。チャラチャラしたところのないこういう感じの女の子って職場にはたまにいる。この映画の三浦透子に好感を覚える。

彼女が運転している場面で、すべての音が消えてしまうシーンがある。「ゼログラビティ」でも宇宙空間でのシーンで突然音が消えたのを思い出す。映画館の中が静寂に包まれる。別世界にいるみたいで、すごくいい瞬間だった。

でも、最後のワンシーンこれってどう解釈するんだろう?わからない。
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映画「ねばぎば新世界」 赤井英和&上西雄大

2021-08-17 20:44:35 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「ねばぎば新世界」を映画館で観てきました。

「ねばぎば新世界」は大阪通天閣のふもと新世界を描いた赤井英和主演の映画である。その昔の新宿昭和館跡地のk’sシネマで上演しているというだけで。BC級映画の匂いを感じさせる。実際そうだが、たまにはいいものだ。



ボクシングジムをたたんで大阪新世界で串カツの店員をやっている主人公(赤井英和)が、かつてぐれていた頃の舎弟(上西雄大)が出所して再会する。新世界の町中で浮浪者のように彷徨う少年とたまたま出会う。ある新興宗教のアジトで母親ともども囚われていることに気づいた上に、かつての恩人(西岡徳馬)の娘(有森也実)も幹部になって布教していることを知り、少年と恩人の娘を救出しようとする話である。

見つけた少年は言葉がしゃべれない。母親が子の将来を心配して新興宗教の狂信的信者になっているのだ。少年もその宗教の囚われから抜けきれない。主人公と舎弟にボクシングを教えた恩人の娘に至っては、自分を助けてくれた教祖を信頼しきっている。そう簡単にはいかない。しかも、ヤクザが新興宗教の用心棒のように絡んでいるのだ。

⒈積み上げた人情話
「ねばぎば新世界」の根底に流れるのは人情物の色彩である。知性や教養とは無縁の世界だ。大阪の下町でお互い助け合って生きている面々に、町のヤサグレ者も絡んでいく。人間関係はいろんなところでつながっていて絡み合う。

ヤクザと赤井英和たちのアクションも何回か登場するが、それがメインではない。おそらくは、監督脚本の上西雄大が温めて積み上げていった町の小さな逸話をここぞとばかり登場させているという印象を受ける。

⒉赤井英和と大阪が似合う出演者たち
赤井英和はまさに土着の大阪というイメージが強い。腕っぷしが自慢で男を競い合う大阪人の典型みたいな男だ。浪速のロッキーと言われていた全盛期を知る人も少なくなったであろう。「どついたるねん」や「王手」での俳優への転向は成功だし、一時期出番が妙に多かった。こうやって元気な姿を見れるのはうれしい。


「ねばぎば新世界」では、そういう赤井英和に相性の良い上方俳優を選んで、出演させている。大島渚の初期作品に「太陽の墓場という西成近辺が舞台になる下層社会を描いた映画がある。もう60年も前の映画なのにそこに出てくる出演者たちとほぼ同類に見えるのに気づく。阪急エリートカラーとは対照的なキャラだ。それに加えて、Vシネマの帝王小沢仁志や田中要次をはじめとして、この映画にあった俳優がうまくキャスティングできている。まさに新世界が舞台なので、ロケハンもやり易いはずだ。


⒊有森也実と西岡徳馬
親子役だが、最悪になっている2人の関係をどう取り戻すかというのがこの映画の主題の1つ。そんな2人を見ていて、ちょうど今から30年前の「東京ラブストーリー」にともに出演しているというのに気づいた。ちょうどその頃大阪にいた。え!そんなに時が過ぎたのかと驚く。有森也実は江口洋介と織田裕二の間をさまよう女の子、西岡徳馬は鈴木保奈美の元恋人で織田裕二の上司だ。2人に役柄上つながりがあったわけではない。

それにしても、あんなに可愛かった有森也実も歳とったね。女に嫌われるタイプなのか?いじめられてたいへんだったと聞き驚く。


⒋大阪新世界と自分の大阪
平成に入ってすぐ、生まれて初めて東京を出て大阪へ異動した。辞令の一言はショックだったが、行ってみると良いところだった。昭和の最後に東京のバブルに陰りが出ていたのに対して、平成元年に限って関西は異常なくらいのバブルであった。事務所は難波で、担当エリアは堺より南の泉南地区である。住む人たちの身なりは良くないが、南大阪は自営業者が多く得体のしれない大金を持っている人が多かった。ある意味、前近代的資本主義で貧富の差が激しい場所である。大阪の事務所の近くには、ミナミの大繁華街があったので新世界には行かずに用が足りていた。

当時、天王寺より一駅先で阿倍野区に住んでいた。車で会社に行くと、西成のあいりん地区や新世界の近くを途中通る。でも、大阪の地元の人たちからは通天閣のそばには行くな!と言われていて、素直に守っていた。結局、新世界のディープエリアに行く機会がなかった。


当時自分も若かったので、全盛時のあべのスキャンダルには行った。裸の女のこみんなかわいかったな。あべのの街もごちゃごちゃしていた。でも、家からがんばって歩けるくらい近いのに飛田新地には行っていない。病気があるからやめろと地元の人に言われていたからだ。

関西には結局5年いて、お世話になった人が多い。付き合いが長くなるほど情が厚くなり、その良さがわかるのが関西だと思う。コロナ騒ぎで、この1年は結局1度しか行けていない。義理が果たせず残念だ。それだけにこんな映画が観れてうれしい。
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映画「キネマの神様」沢田研二&山田洋次

2021-08-08 09:22:50 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「キネマの神様」を映画館で観てきました。


高校の大先輩山田洋次監督の新作ということで早々に映画館に向かう。ジュリー(沢田研二)が主役ということ以外は予備知識はなし。「キネマの神様」という題名から映画が題材と推測される。あの沢田研二もいい年だ。今回はギャンブル好きの78歳のダメ老人を演じる。その昔の妖艶さは見る影もない感じだが、風貌が変貌したのでこの役にあっている。


バクチで借金をつくって同居の妻や娘に迷惑をかけている沢田研二演じる不良老人が、若き日に映画の助監督をやっていた杵柄で一発逆転を狙うという話だ。不良老人の若き日を菅田将暉、のちに妻になる松竹撮影所近くの食堂の看板娘を永野芽郁が演じて50年以上前の恋物語を並行して語る。看板女優を演じる北川景子はいつものキツイメイクから若干変えていて悪くない。

映画自体は、ここ数作の山田洋次作品のテイストと大きく変わらない。殺しが絡むとかエグい話はない。序盤戦は、いつもながらの松竹系アカ抜けないセリフが続く。ありきたりだ。それなのに、次第に心をつかむ。若き日の助監督時代の自分を菅田将暉にかぶらせているのがよくわかる。もうすぐ90歳になる山田洋次監督の思いに映画の出来以上に心に感じるものがあり泣けてきた。

無類のギャンブル好きなゴウ(沢田研二)は妻の淑子よしこ(宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)にも見放されたダメ親父。そんな彼にも、たった一つだけ愛してやまないものがあった。
それは「映画」−−− 。行きつけの名画座の館主・テラシン(小林稔侍)とゴウは、かつて映画の撮影所で働く仲間だった。


若き日のゴウ(菅田将暉)は助監督として、映写技師のテラシン(野田洋次郎)をはじめ、時代を代表する名監督やスター女優の園子(北川景子)、また撮影所近くの食堂の看板娘・淑子(永野芽郁)に囲まれながら夢を追い求め、青春を駆け抜けていた。
そして、ゴウとテラシンは淑子にそれぞれ想いを寄せていた。しかしゴウは初監督作品の撮影初日に転落事故で大怪我をし、その作品は幻となってしまう。
ゴウは撮影所を辞めて田舎に帰り、淑子は周囲の反対を押し切ってゴウを追いかけて行った・・・。(作品情報 引用)

⒈沢田研二のダメ男
何せ太った。いかにも怠惰なこの役柄にピッタリな風貌である。ギャンブル好きで借金を重ねて、娘のところまで借金取りがやってくる。でも、映画界を去ってこの年まで何を生業としてやっていたのかと思ってしまう。ただ、フーテンの寅さんをはじめダメ男に妙に愛情を示すのが山田洋次監督である。そこは巧みに操縦する。


何かというと、金貸してくれとしか言わない主人公ゴウは家族中から呆れられている。白いヘビの夢を見たので、ツキがまわるとばかりにカネを貸せと孫にいう。でも、オタクでネットのweb designをやっている孫がゴウが昔書いたシナリオ「キネマの神様」が面白いとばかりに、一緒に書き直して映画会社主催の賞に応募しようという。ある意味ギャンブルでない正統派の一発逆転だ。孫と一緒にシナリオを整えようとする沢田研二のおじいちゃんぶりがなんかいじらしく見えてくる。いいシーンだ。

⒉沢田研二の全盛時代
沢田研二は今でもコンサートはやっているというが、往年のファンの前でこの風貌で歌っているのであろうか?そもそも今の若い人はソロ時代のジュリーのことも知らないのではないか。そんなことを思っているうちに、沢田研二が主役を演じる映画を映画館で見るのは53年ぶりということに気付いた。

もちろん3億円事件の犯人を演じた、TVドラマ「悪魔のようなあいつ」を高校時代に喰い入るように見ていたし、videoでいくつかの主演作を見ている。思い起こせば、1968年メキシコオリンピックの年に有楽町で小学生の自分は母と一緒にジュリーの映画「世界はボクらを待っている」を観た。「銀河のロマンス」が映画のメインの曲で、繰り返し流れた。今でも口ずさめる。主演はタイガースとなっていても、沢田研二を引き立てるための映画だった。ヒロインの女の子久美かおりが思春期に入る前の自分でもきれいだなと思った記憶がある。


⒉狂ってしまう時代の設定
たぶん、ラグビーワールドカップやコロナ騒ぎを映画に取り入れることで、時代の設定が狂ったのではないかと思う。主人公は78歳ということで普通に考えると、1942年(昭和17年)生まれである。今の奥さんと知り合った助監督時代が25歳と仮定すると、1967年になってしまう。映画で、北川景子演じる人気俳優は原節子を意識しているが、もうその前の1962年には映画界から引退している。映像に映る車は1950年代のものだ。矛盾だらけになる。


2019年から2020年という時代設定でなく、2010年前後にして、山田洋次監督と同年齢の設定にしたら、時代設定は合っていたのであろう。当初志村けんさんを主役に考えていたこともあり、まずは、コロナのことを組み入れざるを得なかったというのが主眼だった気がする。助監督時代の振る舞いでは、おそらくは直接師事した野村芳太郎監督や当時のスタッフのことなどを意識したと思しきセリフが取り入れられている。カメラアングルなどのセリフはいい感じだ。リリーフランキー演じる亡き名監督もいつもながらの好演である。


時代考証はちょっと合っていないとはいえ、永野芽郁には山田洋次監督が亡き妻の昔の面影をかぶらせているというコメントもある。明るくて感じがいい。この女の子がちょっとネクラな役の宮本信子みたいになるかしら?でも、いちばんしっくりいったのが、めがねをかけたそのお母さん役だな。こういう顔って大正生まれの女性にはよくいたタイプである。昭和40年代までの親戚の寄合で、こういう顔をしたおばさんに囲まれた自分の写真がある。自分にノスタルジックな感触を呼び起こさせる。
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映画「名も無き日」永瀬正敏&オダギリジョー&今井美樹

2021-06-14 20:52:26 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「名も無き日」を映画館で観てきました。


「名も無い日」は名古屋出身で米国在住のカメラマン日比雄一が自らの体験に基づき監督脚本した作品である。ここのところ、永瀬正敏が出演する映像を見る機会が多い。オダギリジョーが共演で、久々に今井美樹が登場するという情報で映画館に向かう。他にも、真木よう子、木内みどりをはじめ出演者は豪華で、藤真利子は久しぶりに見た。その夫役で井上順が出てきてもっとビックリ。

ニューヨーク在住のカメラマン(永瀬正敏)が、弟(オダギリジョー)が亡くなったという知らせを受けて故郷の名古屋に帰る。死後しばらくして発見され、どうして死んだのかもわからない状況の中、親類や昔の旧友と過ごす日々を描いている。

こういうネクラな題材だけど、どん底に落ちる訳ではない。じんわりと胸にしみる。カメラマンが作った作品だけに、映像の構図はきれいで、岩代太郎の音楽もいい。永瀬正敏が演じるカメラマンがまさに適役で無頼な感じがいい。いい映画だと思うけど、もう少し短くできたんじゃないだろうか?無理に逸話をいくつか加えた感がある。

⒈弟の真相があらわにならない序盤
弟が亡くなって主人公が帰国したというのはすぐわかる。下の弟夫妻に会ったり、叔父さん夫婦(井上順&藤真利子)や昔の同級生の母上(木内みどり)や居酒屋を営んでいる旧友(中野英雄)の元へ行って昔の仲間と飲んだり、古い女友達(今井美樹)に会ったりして軽いストーリーを積み重ねていく。ここではあっと驚くようなことはない。

しかし、何で死んだのかはハッキリしない。DNA鑑定の結果がでないというセリフからは、変死体で見つかったのではと想像するしかない。そんなストーリーが続くと同時に、熱田神宮が映る。数年前に家族と行った。ここでは祭りと思しき場面に、提灯がクローズアップされる。主人公はカメラのレンズを被写体に焦点あてようとするが、結局写さない。

⒉永瀬正敏
自由人で所帯の匂いが感じられない無頼のカメラマンである。こんな感じの役が実にうまい。今回も彼ならではの役柄だ。茜色に焼かれるでは風俗店の店長、空に住むではペット葬儀屋を演じた。ちょっとアウトローくらいの役を、実にうまくこなす。別に主演にこだわっていない。いろんな作品で永瀬正敏を見る。ジム・ジャームッシュ監督「パターソンでのアダムドライバーとのやりとりも良かった。いい俳優になった。


⒉オダギリジョー
明日の食卓でもあっさりあの世にいってしまい、ここでも死んでしまう役柄だ。なんか続いちゃったね。序盤戦では、兄弟の中で1人大学それも東大経由でハーバードに行き、いちばんのインテリだという場面がある。オダギリジョーの役柄にしては珍しい設定だ。でもこの主人公の弟、周りですごいと言われても本人は自慢もせずにその場を去る内気な感じだ。


そして、中盤戦になり、引きこもりのようになった姿を見せる。目には星が見える。視力に問題があるようだ。ゴミ屋敷と化した家の中で変貌した姿を見せる。。オダギリジョーらしいひょうひょうとしてすっとぼけたような明るさは見えない。でもこの場面に到達して、オダギリジョーがその実力を発揮する。

⒊今井美樹
工場勤めのようである。ネクラな女というのを映像で醸し出す。地元にいても、高校の同級会にも出席しないというセリフがある。でも、永瀬正敏と会う。見ている途中は昔の彼女で別れ別れになった存在なのかと思った。


そんな今井美樹を久しぶりに見た。昭和の最後から「プライド」を大ヒットさせた平成のヒトケタ後半まで実に輝いていた。個人的には昭和ラストの「意外とシングルガール」が好きだった。藤井フミヤと踊るシーンが印象に残る。今でも別に色あせてはいない。まだまだきれいだ。ただ、せっかく出たのにこの出番じゃもったいない。そういえば今井美樹も永瀬正敏2人とも宮崎県出身だとふと気づいた。

⒋豪華共演者
真木よう子はトラブル続きだったけど、今回は普通。実力のある女優だけに主演級の作品で見たい。往年の艶やかさは消えたけど藤真利子はまだ生きていた。その夫役で井上順が出てきてもっと驚いた。最近は息子の仲野大賀の活躍が目立つ父親中野英雄が居酒屋の店主役だが、正直ラストのクレジットではじめて中野だと分かった。そこに飲みにきている主人公の同級生役の大久保佳代子永瀬正敏や今井美樹よりちょっと年下のような気もするが、老け顔だから通っちゃうのかな?


オダギリ演じる次男が何で死んじゃったのかは結局よくわからない。引きこもりになり、目に異常が出て本来手術すべきなのにしない。次男は東大出の設定だ。なんか仕事で辛いことあったんだろうか?悩みは誰でもあること。でも、自分の周囲にいる東大出身者はみんなそつなく要領がいい。ましてや滅入って自死するような奴はいない。(弟のキャラどこまで実話なのであろうか?)むしろ高校の同級で京大に行った奴がこのオダギリジョーのキャラクターに近いような気がした。そして40代に入って自殺で死んだ。彼を連想し映画を見終わって同級生の冥福を祈った。


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映画「キャラクター」 菅田将暉&小栗旬& Fukase(SEKAI NO OWARI)

2021-06-13 18:02:06 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「キャラクター」を映画館で観てきました。

これはすごい!日本発A級クライムサスペンスである。


いくつかの場面で思わず大きな声が出てしまい、近くに座っている観客にじろっと見られた。映画オリジナルだというストーリーは実に練られていて、予想外の展開もある。サイコスリラーという宣伝文句はあるが、クライムサスペンスというべきであろう。たまたま殺人現場を目撃してしまったウダツの上がらない漫画家のアシスタントが、それをネタに漫画を描いたら大当り。ところが、その漫画の中身をネタにした殺人事件が次々と起こるという話である。

韓国映画のクライムサスペンスはレベルが高く、日本映画は残念ながら差をつけられている。あっさりしすぎて残虐さとストーリーの意外性に欠ける気もする。でも、この作品なら、まだまだいけるという感じだ。自分には割と相性の良い菅田将暉主演で、直感で選んで予備知識わずかで観に行ったが、これは成功。観に行かれる方は先入観なしで行ってほしい。

漫画家のアシスタントをやっている山城圭吾(菅田将暉)は独り立ちしようと新人賞にいくつか応募しているがいつも佳作止まり。今回も漫画雑誌の敏腕編集者にサスペンス系の自作を持ち込む。絵を描く能力は認められるが、人がいい性格ゆえにリアルな悪役キャラクターを描くことができず、認められない。


漫画の世界から足を洗おうとしていたときに、師匠から「誰が見ても幸せそうな家」のスケッチするように言われて、夜に住宅街に出かける山城。大音量のオペラが流れる一軒家を見つけスケッチしていたときに、ふとしたことで家の中に足を踏み入れる。すると、4人の家族がテーブルに座って刃物で血だらけに惨殺されていた。そこで山城は殺人鬼と思しき一人の男を遭遇するのである。


事件の第一発見者となった山城は、警察で真壁班長(中村獅童)と清田刑事(小栗旬)の取り調べを受ける。殺人推定時間にはアリバイがあり、シロとなるが、犯人は見たかという問いに対して「見ていない」と嘘をついてしまう。

恋人の夏美(高畑充希)と暮らす部屋に戻って、事件現場を思い浮かべ、残虐な現場を再現して描き始める。一方、すぐ近所で1人の容疑者が逮捕され、自白した。TVニュースに映ったその顔は山城が現場で見かけた顔とは明らかに違っていた。


山城は自分が出会った犯人の顔をもとにしてサスペンス漫画「34(さんじゅうし)」を描き始めると、予想以上に大ヒットして山城は売れっ子漫画家となる。その一方で漫画の中で描いた殺人事件が次から次に起こっていくのであるが。。。

⒈リアル感
漫画家のアシスタントから一足飛びに独り立ちしようと、編集者に売り込みに行く。しかし、殺人の経験は当然ないだろうけど、キャラクターにリアル感がないと門前払いを喰らう。映画「37セカンズ」で漫画家のゴーストライターである主人公が、編集者にきわどいエロ漫画を売り込みに行った際に、エッチの経験がないとリアル感がないと言われた場面を思わず連想する。

ところが、4人が血まみれになっているリアルな殺人現場を偶然見てしまうのだ。しかも、犯人の顔も一瞥してしまう。実際にそんな場面に出くわしたら、卒倒してしまいだろう。でも、ここで実際の殺人事件を見たというリアル感が生まれる。殺人犯を主人公にして事件を創作するのだ。


漫画の原案→編集者への売り込み→人気作品になる→印税が入る→結婚→高級マンション購入

映画では以上のプロセスは省略されている。こんなのいちいち説明したら、キリがないから仕方ないけど、漫画原案作成売り込みに2ヶ月→掲載に1ヶ月→人気が出て多額の印税が入るのに(この中に結婚を含んでも)1年→高級マンション購入に向けて1年

最初の事件が起きてから2年半はかかるよね。この映画だけ見ていると、タイムラグはあまりないようには見える。まあ、そんなこと気にしなくても良いけど、刑事たちはついこの間あった事件のように、連続する事件の殺人現場に行くのは不自然かな?

⒉連載漫画をなぞった殺人事件
人里離れたエリアで、2回目の殺人事件を起こす。神奈川県も山間部もそれなりにあるから、こういう辺鄙な場所もあるだろう。この殺人事件が何かあると気づくのは、最初の事件担当の刑事(小栗旬)である。犯行に使ったナイフが隠されている場所も漫画に書いてある通りなのだ。


最初からの展開はテンポがいい。サイコスリラーというが、そのジャンルだったら、もっとえげつない殺人の様子が映像化されるのではないか。いずれも、すでに殺しは終了している。薄気味悪い見辛いシーンが多いわけではない。最終的には捕まるんだろうなあ。でもどう捕まるんだろう?謎の異物をこちらに放つ。でも途中で伏線を与える。

若干のネタバレあり(以下は観るまで読まないでください)
この映画の注目点
⒈戸籍

中国では戸籍のない子供が数多くいると言われている。ひとりっ子政策も拍車をかけたかもしれない。真相はわからない。長い歴史の中で中国には「溺女」という風習らしきものがあり、将来稼ぎをもたらさない女の子が間引きされてきた。実際には酷いことはせずにそのまま育つ戸籍のない女の子がいるのかもしれない。日本ではあまり聞かない。でも、戸籍のない子は一定数いるだろう。

自分の戸籍を捨て、売った人から無戸籍の人が戸籍を買ってぬくぬくと生きている場合はあるだろう。ここでは日本映画では珍しくそこに焦点が当てられる。インチキくさい宗教法人のアジトで、子供の頃から育った名前がない無戸籍の犯罪者に焦点があたる。


⒉重要人物の死亡
設定の強引さはあっても展開は次にどうなるか謎?をつくる。観客に考えさせる要素を残す。そんな最終場面に向かうときに予想外の展開を作る。ある重要人物の死亡だ。これには驚く。本来のストーリーの定跡では、苦しんでも生き延びる存在だ。このシーンに驚き思わず声をあげてしまった。しかも、滅多打ちにやられるのである。意外な人物をそこに添えてくる。ここで大半が見えるが、最後の修羅場にはかるい迷彩をつくる。実にうまい!

韓国映画ではあっても、日本映画ではこういう展開は比較的少ない。実話ならともかくフィクションはここまでやってもらわないと刺激がない。そこにこの映画の深みを感じる。


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映画「アンダードッグ」森山未來&瀧内公美&北村匠海

2021-05-28 21:27:58 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「アンダードッグ」は2020年日本公開


長丁場の作品「アンダードッグ」をようやく観る。誰もが傑作と認める百円の恋監督武正晴、脚本足立紳のコンビが再度ボクシングを題材として制作した映画である。昨年の年間トップとしてあげる人も多い。前編後編それぞれ2時間を超える。前編は芸人ボクサーとの対決、後編は児童養護施設育ちで這い上がったボクサーとの対決が中心となる。ともかく長い。

寺山修司原作で菅田将暉主演のボクシング映画あゝ荒野も前後編に分かれる。前半戦の方が躍動感にあふれ、本来は後半のラストに向けて盛り上がるはずであったが、逆にだれた印象を持った。逆にこの映画の場合は、前半戦に八百長まがいの設定があったせいか馴染めない部分もあり、むしろ前半戦よりも後半戦のほうが数段良く見えた。

落ちぶれた格闘技選手というのはプロレスのレスラーのように映画の題材になりやすい。ただ、それだけでは面白くない。メインのキャストそれぞれ人生に葛藤がある。主人公末永が妻に息子を連れて逃げられたり、ライバルになる大村が児童養護施設出身でグレていて過去にとんでもない事件を起こしていたり、末永に挑戦するお笑い芸人宮木もスター俳優の父との確執があったり、ストーリーに重厚さはある。


長時間のドラマ仕立てで配信するのが基本だったというが、二本の映画にせずに140〜150分程度の一本にまとめて欲しかったな。もちろん後半に厚みを持たせながら盛り上げるように。そうすればもっと良かった。

一度は手にしかけたチャンピオンへの道……そこからはずれた今も〝かませ犬(=アンダードッグ)〟としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々をおくる崖っぷちボクサー・末永晃(森山未來)。幼い息子・太郎には父親としての背中すら見せてやることができず“かませ犬”から“負け犬”に。一抹のプライドも粉砕され、どん底を這いずる“夢みる”燃えカスとなった男は、宿命的な出会いを果たす。

一人は、 “夢あふれる”若き天才ボクサー・大村龍太(北村匠海)。児童養護施設で晃と出会いボクシングに目覚めるが、過去に起こした事件によってボクサーとして期待された将来に暗い影を落とす。

もう一人は、夢も笑いも半人前な “夢さがす”芸人ボクサー・宮木瞬(勝地涼)。大物俳優の二世タレントで、芸人としても鳴かず飛ばずの宮木は、自らの存在を証明するかのようにボクシングに挑む。三者三様の理由を持つ男たちが再起という名のリングに立つとき、飛び散るのは汗か、血か、涙か。(作品情報引用)


⒈末永(森山未來)
元日本ランキング1位まで登りつめている。頂点直前にタイトルマッチで敗れた。妻(水川あさみ)は息子を連れて飛び出している。その息子はボクサーとしての父親を尊敬している。母親に隠れてTVで父のボクシング姿を見ている。未練もあり妻と復縁したい希望を持つが、バクチ好きの父(柄本明)と一緒に暮らす。


仕事はデリヘル嬢を溜まり場から送迎する運転手だ。キャバクラなんかでも、「送り」の運転手に送ってもらってと話には聞くが、そういう運転手が登場人物になるストーリーってあまり見たことがない。送る風俗嬢の中でも親しいシングルマザーのデリヘル嬢(瀧内公美)がいる。


そんな末永に、プロボクシングのライセンスを取ったお笑い芸人との試合がTV局から持ちかけられる。ギャラに目が眩んで、ボクシングジムの会長も無理やり勧める。でも、会長は終わったらボクシングをやめろと言う。相手になるお笑い芸人の宮木も所属ジムの先輩に厳しく鍛えられながら彼なりに頑張って試合に臨む。

⒉大村(北村匠海)
下位から上りつめていこうとするボクサーだ。すべて1ラウンドで相手をKOしている。家族に恵まれなかったのか?児童養護施設で育った。その時一緒だった女とずっと付き合って女は懐妊している。もともとは育ちの悪い奴にありがちに、不良グループの一員として悪さをたくさんしてきた。

実は、末永が飛び鳥を落とす勢いだった時に施設に来たことがある。その時生意気盛りだった大村が向かっていこうとして、あっさり返りパンチを喰らう。その時から末永が弱くなってもずっと追いかけていた。いつかは復讐してやろうと。


そんな大村も悪さの度を超していた時期があった。相手を半殺しにする目にも合わせていた。やられたことに長い間恨みを持っている男もいる。それが、突然遭遇する。そのことでストーリーが大きく急旋回することになる。

⒊デリヘル嬢明美(瀧内公美)
末永が運転手をやっているデリヘルで働いている。娘がいる。夜もくっついて、末永の車で待っている。いつも指名してくれる男は車椅子生活だ。金はありそうだ。男は母親の溺愛を受けていて明美はチップをもらっている。男はいたせないので、バイブで責められて明美はアヘアヘ言っている。そんな女が運転手の末永を誘惑する。

でも、この女も恵まれない。家に男がいるけど、度を超したDVだ。自然と幼児虐待にも向かう。後編の中でも重要な要素となる。


瀧内公美も大胆な濡れ場をこなした火口のふたりからいい女優になる素地を固めつつある。けだるい売春婦的雰囲気が表面に湧き出ている。かわいい娘がいながらもあまりに人生に恵まれず悲嘆する女にもなり切る。まさに適役だ。

⒋前編
そんなキャラクター3人とプロに挑戦するお笑い芸人ボクサーがいる。前編では、お笑い芸人ボクサーがジムの先輩にランキング1位に挑戦して勝てるわけないだろうと言われながら、末永に挑戦する。末永もTVディレクターから1回くらいダウンしたら面白くなるからやって見てと言われている。でも、決して強いわけないボクサーの挑戦は話としてはまったく面白くない。いくらパンチで倒れて立ち上がっても前半戦はどうものれない。


⒌後編
でも、そんな八百長じみた試合を戦って、一度はボクシングから足を洗おうとした末永が後半そもそもドツボに落ちているプライベート生活がむしろ悪い方向に進んでいく。その昔施設にいた時に末永のパンチでやられたことでの復讐に燃える大村の姿も追っていく。ボクシングどころじゃなかった末永も挑戦を受けて立ち上がる形になっていく。

でも、大村もここでとんでもない怨念に呪われる。末永が運転手をやっているデリヘルもグチャグチャ。ストーリーらしくなるのだ。映像にぐっと引き寄せられる。いろんな葛藤をそれぞれ通過して、対決に向かう。その始まる前の高揚感は「百円の恋」に通じる。

正直、芸人の話は弱めて後半戦中心に組み立ててくれればよかった気がする。
いずれにしても、しっかり鍛えられた身体に自らを仕上げた俳優たちはすごい!
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映画「罪の声」 小栗旬&星野源

2021-05-26 18:18:42 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「罪の声」は2020年公開


映画「罪の声」は公開の時にはあまり引き寄せられなかった作品である。DVDで見てみると割とおもしろい。グリコ森永事件を連想させるが、一連の食品毒物混入事件の中でもハウス食品への脅迫事件が近い存在である。事件の途中経過と80年代の時代背景をもとに作られたフィクションだ。当時の事情を丹念に調べながらできているのがよくわかる。原作は未読だが、おそらくは読み応えあるのではないか。

グリコ森永事件の時には自分は社会人になっていた。まだ、大阪には異動になっていないので、関西は怖いところだなあと思っているだけだった。ここでは、元警察官、ヤクザ、相場師、学生運動経験者などが揃って事件を企てている設定だ。確かにこれだけのスタッフがいないとできなかった脅迫事件なんだろう。登場人物は多いが、映像はわかりやすく事件をまとめている。

平成18年、大日新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は既に時効となっている未解決事件を追う特別企画班に選ばれた。事件の真相を追い取材を重ねる中で、犯人グループが脅迫テープに3人の子どもの声を吹き込んだことが阿久津の心に引っかかる。


一方、京都で亡くなった父から受け継いだテーラーを営み家族3人で幸せに暮らす曽根俊也(星野源)は、ある日父の遺品の中から古いカセットテープを見つける。何となく気に掛かり再生すると、聞こえてきたのは確かに幼い頃の自分の声であるが、それはあの未解決事件で犯人グループが身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと全く同じ声でもあった。

真相を知りたくなり、事件に絡んでいる叔父の歩んだ道を追いかけていく。調べていくと、俊也の他にも脅迫テープに声を使用された子どもがいることがわかる。そうやって調べていくうちに、まったく別方向で動いていた阿久津と曽根の距離が徐々に接近していく。そして出くわすのであるが。

⒈事件に関与する人たち
曽根(星野源)本人が叔父に頼まれて、子供の頃身代金受領のための道筋を録音するわけである。何でこんなことに巻き込まれたのか真相を追う。

ちょっと突っ込むと、小学校くらいで本人に記憶がなかったのかなあ?子供心に世間をあれほど騒がした事件なら気づくはずだと思うなあ。まあいいだろう。同じように録音した姉弟がいて、そちらはその後かなり悲惨な状況となっている。


取材をすると、ヤクザやら、株式相場関係者など様々な人物が絡む。実際のグリコ森永事件では身代金は奪えていない。でも毒チョコやハウス食品事件でいえば、毒シチューを入れたとして世間を恐怖に陥れるのだ。会社の評価が下がり業績も悪化すると、空売りで儲けようとしていたなんて話もある。でも、一定量以上空売りしておいて、買い戻しとなったら、いくらこの当時に架空名義の口座が多かったとはいえ、特定できるようにも思える。


そんな風にツッコミどころだらけだけど、おもしろい。しかし、例によってこの時代設定によく出てくるのが、学園紛争上がりのクズだ。まさしく主人公曽根のおじさんがその1人。もともと学生運動で日本をよくしようと高い志を持っていて、国家への復讐で事件を主導したなんていう今の日本を社会主義思想に誘導してダメにしている世代ならではのセリフである。

⒉星野源
星野源は京都で仕立て屋を営んでいて、ある日突然カセットの存在に気づくという素人なのに、たどたどしく事件関係者をまわって歩く。性格的にこの役柄には適役かも。

新垣結衣とくっつく話で今や日本中の男性諸氏からの羨望の眼差しをうけている。仕事に手がつかないだろうからとガッキー休暇としたIT会社もあるらしい。ただ、それでブーイングというわけでない。ひたすらいいなあと思うだけである。誰もが性的な欲望というより、あの新垣結衣にやさしくされて癒されたいという気持ちなんだろう。よくわかる。

正直いい年こいても自分もうらやましい。彼女かわいいからなあ。結婚しても別にいいけどね。

⒊キャスティングがすばらしい
小栗旬と星野源のダブル主演でそれぞれは普通で可もなく、小栗旬の上司役の孤独のグルメ松重豊、古舘寛治もそれなりの活躍。それよりも、事件の真相を追う人探しの中で、思わず懐かしくなる人たちが多数でてくる。佐藤蛾次郎やかしまし娘の庄司照枝を見ると思わず唸ってしまうし、柔道家として桜木健一はまさに昔の名前で出ていますという感じ。我々小学校時代には「柔道一直線」でクラス中のヒーローだった。


一体どこで出たっけと思うが、宮下順子の名前には背筋に電流が走る。反体制派としての宇崎竜童と梶芽衣子の使い方もうまかった。キャスティングについては絶妙としかいいようにない。
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映画「生きちゃった」仲野大賀&石井裕也

2021-05-24 22:58:27 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「生きちゃった」は2020年公開


久々の石井裕也監督作品茜色に焼かれるは良かった。監督の前作「生きちゃった」は不義理して見ていないのに気づき、DVDで見てみる。映画のポスターでの仲野大賀の泣き面がなんかイヤな感じだったので、スルーしたが、意外にイケる。

作品情報によれば「香港国際映画祭(HKIFFS)と中国のHeaven Picturesが共同出資し、各映画製作者に同じ予算が割り当てられ、「至上の愛」をテーマに映画製作の「原点回帰」を探求するというコンセプトのもと、アジアの名だたる監督たちが各々映画作りを行う。」
見たらわかるが、低予算映画である。それでも、映画を愛する石井裕也組というべき俳優陣が集まっている。

主演作が続く仲野大賀に加えて、ここのところ活躍が目立つ若葉竜也や元AKBの大島優子がメインキャストで、脇役陣も地味に揃っている。幼稚園児の娘がいる幸せな家庭が、妻の不倫がきっかけで一気に崩壊して、夫婦共々転落していく姿を描く。捨てられた男という意味では泣く子はいねえがと設定が類似している。夫の方もズタボロだが、妻の大島優子の役がめちゃくちゃ支離滅裂なイヤな最低女である。


幼馴染の厚久(仲野太賀)と武田(若葉竜也)。そして奈津美(大島優子)。学生時代から3人はいつも一緒に過ごしてきた。そして、ふたりの男はひとりの女性を愛した。30歳になった今、厚久と奈津美は結婚し、5歳の娘がいる。ささやかな暮らし、それなりの生活。


だがある日、厚久が会社を早退して家に帰ると、奈津美が見知らぬ男と肌を重ねていた。その日を境に厚久と奈津美、武田の歪んでいた関係が動き出す。そして待ち構えていたのは壮絶な運命だった。(作品情報より)

⒈仲野大賀
泣く子はいねぇがでは、生まれたばかりの娘がいるのに、酒飲んでの醜態で妻に愛想を尽かされる役であった。今回は、可愛い5才の娘がいるのに妻に不倫されて別れる役だ。せっかく可愛い妻をめとったのに逃げられるという意味では共通している。本当にムカつく話なのに、ともにその妻に対して、えらい剣幕で怒ったりはしない。


本当はもっと言いたいことあるんだろうけど言えない。自分だけが悪いんじゃない。「何だお前」と最低の女どもに言いたいところだろう。でもしない。そういうキャラに合っている。ただ、どっちにしても「本当のこと言えたためしがない」という仲野大賀の役柄に感情流入してしまうなあ。

最後に向けては一世一代の勝負に挑むということでは「泣く子はいねえが」に似ている。

⒉大島優子
ちょっと前までAKBのクイーンだった訳で、今もってもファンだって大勢いると思う。でもそんなに活躍していないよね。最近よくいるかわいい若奥さんモードを出していたのに一気にエロモードだ。30すぎて女優に軸足置くなら仕方ないだろう。いつプライド潰されて脱ぐのかな?


ただ、この大島優子が演じるこの役柄は最低の女だ。自分が不倫している姿を見られてもあんたが悪いとばかり開き直る。そして、その浮気男と一緒になるのだ。でも、この男はまともに働かない。そうなると、きわどい女を売る世界に向かうのだ。

それにしても、最近の映画はすぐ風俗系に女を落とし込む。尾野真千子はキャバ嬢やったと思えば、今度は口で奉仕する風俗嬢だ。大島優子もホテトル嬢、生活のために口で奉仕もする。おいおい日本の女みんなそっち系になっているみたいだな。

⒊意外な伏兵
ストーリーはよくあるダメ男落ち込みパターンにのめり込むだけかと思ったら、意外な伏兵を石井裕也は映画に放つ。麻薬に狂ったことがある仲野大賀の兄役だ。映画を見ている時、マジに是枝監督かと思った。ソックリである。

最後までそう思ったけど、韓国人のようだ。だからセリフ話さなかったんだね。兄が起こす事件で転機を迎えて、その後もう一度ターニングポイントをつくる。露骨なシーンは作らず最悪の場面を連発する

90分強に簡潔にまとめた中でも、意外性を詰め込んで驚かせてくれた。
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映画「ヤクザと家族」綾野剛&舘ひろし

2021-05-09 17:25:32 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「ヤクザと家族」は2021年公開の日本映画


公開時に観ようか迷った映画である。これも早々にNetflixのラインナップに入ってきた。地方都市でぐれていた青年がヤクザの道に進み、暴力団抗争に巻き込まれて懲役刑を受ける。出所後、反社への取締りで以前の勢いを失った組に戻っていく姿を描く。反対勢力との激しいドンパチに焦点を当てるというよりも、世間の反社への風当たりの強さの中でギリギリしのいでいく暴力団員や堅気になった元組員の姿をクローズアップする。

思ったよりも面白かった。飽きずに見れた。

主人公の綾野剛はここでも安定した演技を見せる。舘ひろし演じるヤクザの親分も悪くはない。化学コンビナートがある海に近い架空の町煙崎市が舞台だ。映画のエンディングロールで富士市が舞台だとわかるが、途中では街を特定させる要素はない。

富士市が舞台であれば、富士山が映し出されていても良さそうだが、映ってはいない。そりゃそうだよね。今のご時世ではヤクザの抗争が繰り広げられる街とは全国に言われたくないよね。でも、井筒監督の「無頼静岡が舞台だったな。静岡にそういう素地があるのであろうか?

1999年、派手な金髪に真っ白な上下で全身を包んだ19歳の山本賢治(綾野剛)は、悪友の細野(市原隼人)・大原(二ノ宮隆太郎)と連れ立っては、その日暮らしの悪さをしていた。ヤクザの息のかかった売人から覚せい剤を横取りしたりしていた。


そんなある日、山本は行きつけの焼肉屋に居合わせた柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)を中国系のチンピラの襲撃から救った。その後柴咲にお礼で呼び出され組に来ないかと誘われたが断る。店を営む愛子(寺島しのぶ)の亡き夫は柴咲の弟分でもあった。後日、山本と仲間が侠葉会の若頭・加藤(豊原功補)と若頭補佐の川山(駿河太郎)によって報復され港に拉致されリンチを受ける。たまたま先日柴咲組長からもらった名刺を見て、その時点では組同士手打ちしていたのでかろうじて助かる。


一命を取り留めた山本は柴咲と再度会う。柴咲はがケン坊と呼んで優しく手を差し伸べてくれたことをきっかけに、二人は親子の盃を交わし、山本はヤクザの世界へ足を踏み入れた。

2005年、柴咲組の一員となった山本は、細野や大原とヤクザの世界でのし上がっていた。そんな中、街を二分する因縁の相手・侠葉会との争いは激化していた。その日も柴咲組の配下にあるキャバクラの店内で勘定高いとイチャモンつけ揉めていた川山と山本とがやり合いになる。その時、傷の手当てをしてくれたホステスの由香(尾野真千子)に、山本は惚れ込み、堅気の学生だった由香にむりやり近づいていく。


しかし加藤の差し金で車に乗っていた柴咲が襲われ、代わりに運転手だった舎弟の大原が犠牲となる。緊張の場面となったが、刑事・大迫(岩松了)はこの件で復讐しないよう柴咲組に釘を刺す。
それでも山本は、子分の敵討ちと柴咲組を守るために、加藤たちがいる店へ単身乗り込む。川山の背後から拳銃を構えたとき、包丁を握った柴咲組若頭の中村(北村有起哉)がその横を追い抜いたのであるが。。。

2019年、山本が獄中から出てきたのは14年後。そこで山本を待ち受けていたのは、暴対法の影響で存続も危うい状態に一変した柴咲組の姿だった。組長もがんを患い元気がなく、シノギにも四苦八苦していた。一方で、愛子の息子・翼(磯村勇斗)は22歳になり、ヤクザと一線を置きながら半グレの道に入り、夜の町を仕切っていた。子どものころから知っている山本を慕っていたのであるが。。。


ヤクザ映画のテイストも変わってきたと言っても良いだろうか?井筒和幸監督「無頼」は長期にわたる時代の流れを映し出すが、この映画はスタートが1999年と比較的最近だ。「無頼」でも反社への取締りが厳しくなってきたことが軽く取り上げられていたが、ここでは露骨だ。ある意味、西川美和監督「すばらしき世界の題材も役所広司演じる主人公が元ヤクザである。落ちぶれたヤクザを取り上げるのが一つのトレンドになるかもしれない。

井筒監督「無頼」は登場人物が多すぎで、訳がわからない感じであった。ここでは登場人物を妙に広げすぎず、わかりやすい。題材的にも、堅気になった市原隼人やムショに入る前に関係を持って今は公務員になっている尾野真千子を絡ませる。ヤクザと一線を置きながら、実質はそのものの半グレの青年も取り上げているので、現在の世相でありえそうな話としている。両作品を単純に比較すると、この作品が良くできているのがわかる。
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映画「AWAKE」 吉沢亮

2021-05-04 18:09:54 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「AWAKE」は2020年日本公開


人工知能とプロ棋士との対決には以前から関心を持っている。「AWAKE」は公開後スケジュール合わず観れなかったが、早速Netflixのラインアップに入ってきて助かる。

「AWAKE」将棋の奨励会からドロップアウトした青年がCPU将棋の開発に進路を変えて、奨励会時代ライバルだった棋士と戦うという話である。人工知能が将棋やチェスと対決する話は好きな方なので、ストーリーに没頭する。敗者復活戦的な話というのは、大抵、下から這い上がった方のサクセスストーリーが多い。しかし、この場合は実話としてのCPU将棋の弱点にプロ棋士が分かっていても突くのかという論点を絡ませている。ただ、あくまでフィクションなので、ストーリーにもうひとひねりあってもよかったのに感じさせる映画である。

英一(吉沢亮)は、かつて将棋連盟の棋士養成機関である奨励会で棋士を目指していた。長き奨励会生活の末、英一は入会時からライバルだった陸(若葉竜也)に残留がかかった試合で敗れ、プロ棋士への道を閉ざされる。


そして、普通の学生に戻るべく大学に入学したが、周囲となじめない学生生活を過ごしていた。ある日、英一は父親がパソコンで遊んでいたコンピュータ将棋が指す独創的手筋に目を奪われる。CPU将棋のプログラミングをやってみたいと思い、英一は大学の人工知能研究会の部室に飛び込む。

研究会の主のような先輩・磯野(落合モトキ)から、プログラミングの基礎本を全部暗記しろと渡され、CPUの道に入り込む。気がつくと、強いCPU将棋を作りたいとプログラム開発にのめり込んでいた。徐々にソフトの形ができていった数年後、自ら生み出したプログラムをAWAKEと名付けた。CPU将棋同士の他流試合でも勝てるようになってくる。CPU将棋の大会で優勝したawekeは、棋士との対局である電王戦の出場を依頼される。その相手棋士が若手新鋭として活躍するかつてのライバル、陸と知ったのであるが。。。


⒈人工知能と将棋
シンギュラリティには関心があるし、人工知能の開発者が書いた本山本一成「人工知能はどのように名人に超えたのか」は読んだことある。わかりやすく人工知能が理解できた。まず、CPUは考えるだけの展開を探索し、局面を評価する。評価の良いものから、順番に次の展開を探索する。(山本  p27)この映画でも、勝負でまずかったところから評価のポイントを変えていくようなセリフがある。でも、機械学習と言われた時代から、ディープランニングという進化した姿に変わっているのだ。


2014年以前はプロ棋士が打っていた手をお手本に評価の精度を向上させていた「教師あり学習」だったのが、教師を必要としない「強化学習」により、実際にあり得そうな局面で6〜8手進めてみて、結果が良かったのか悪かったのかを調べ、その結果が良かったかどうかをフィードバックして、評価の部分を微調整する。そうした積み上げで現在では約一兆の局面を調べていく。そうしていくうちに人間同士ではあり得ない手筋が出てくる。(山本 pp.123-128)

まあ、すごい話である。その後、プロ棋士の佐藤名人が2017年に敗北する訳である。


⒉チェスの世界チャンピオンとIBMコンピュータとの対決
もう随分と経つが、この対決を新聞で読んだときには、興奮した。人間は要らぬ感情が入ってしまい、正確さを欠くものである。コンピュータは億の手筋から選択するという当時の記事を見て、これができればビジネスで色んなことに応用できるなとすぐさま思ったもんだ。でも、結局何もできなかった。

当時のチェス世界チャンピオン カスパロフの書いた体験記は実に面白い。IBMチームとの凄まじい心理戦という印象も受けた。カスパロフもCPUの裏をつく。チェスだけでなく、将棋や碁もいずれはCPUに軍配が上がる様になるのでは?でも複雑なゲームだからそうは簡単に負かせないだろうと当時言われていた。でも、CPUが人間を凌駕する時代はすでに来てしまっている。


⒊父子家庭
主人公英一は父子家庭である。母親がなぜいないのかは語られない。小学校の時、父子一緒に将棋盤で指すのがスタートで、町の将棋道場で無敵になり、そう簡単には入れない難関の奨励会に入る。当然、日本中の腕自慢が集まるわけで、そこを抜け出すのは容易でない。結局ドロップアウトしてしまう訳だ。

21才で入った大学では酒場で他の学生と大げんか、父親が警察へ引き取りに向かう。でも、そんなことが続いても父親は横で優しく見守る。妙に説教じみたことは一切言わない。他の人はどうこの映画を見るかわからないが、この父親が見ていて良い感じだった。

⒋超越した頭脳の持ち主
伝説の受験指南書の著者有賀ゆうが著書「スーパーエリートの受験術」の中でこう言っている。「世の中には頭の良い人っている。頭の良し悪しは関係ないと言っている人は屈辱的な思いをしたことがない人だ。」能力でかなわないと思ったのは、小学生までに頭をフル回転した人として「灘、御三家の出身者、将棋の強い人、そろばんの有段者」という人たちをあげている。灘や御三家の全員がすごいわけではないだろうが、地方公立高校出身で東大理3出の有賀ゆうの言うことには経験としての実感がこもる。そういう一歩抜けた頭脳レベルの奨励会出身者が将棋ソフトを本気つくったらそれは凄いだろうと思わせる話でもある。

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