映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「ダラス・バイヤーズクラブ」 マシュー・マコノヒー

2014-02-25 20:36:41 | 映画(洋画 2013年以降主演男性)
映画「ダラス・バイヤーズ・クラブ」を映画館で見てました。

いよいよ週末に発表になるアカデミー賞
主演男優賞の下馬評では、マコノヒ―がとる可能性が高いと言われている。であれば、発表前にきっちり見てディカプリオと比較をしてみたいという誘惑にかられた。余命30日のエイズになった主人公が、認可されていないエイズの特効薬を自ら使って効果を確かめ、自己利用だけでなく、同じような悩みを持つ人たちに売り渡すためにつくったのが「ダラスバイヤーズクラブ」である。何度も取り締まりを受けながらもしぶとく生き延びていく。実際エイズになってから6年間も生存したようだ。

映画としてのテンポは正直どんよりして、アカデミー賞作品賞には到底およばないだろう。ただ、主人公の演技は極めてすばらしい。「リンカーン弁護士」の彼を知っているだけに役作りも半端じゃない。その昔トムハンクスはエイズにかかった弁護士を演じた「フィラデルフィア」でアカデミー賞主演男優賞を受賞した。この映画は個人的に好きな映画である。ここのデンゼルワシントンが彼のベストだと自分は思っている。トムハンクスも当然いいのであるが、「ダラスバイヤーズクラブ」を見ると、エイズを演じた2人では明らかにマシュー・マコノヒーの方が上と言わざるを得ない。

1987年のテキサス州が舞台だ。
ロデオ好きの電気工のロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)は酒とドラッグと女に狂うその日暮らしをしていた。当然家庭を持っていない。男っぷりを競うロデオ好きはゲイを毛嫌いしていた。ところが、ケガをして行った病院で、血液検査をしたらHIV陽性反応が出て余命30日と医者に伝えられる。彼はゲイでないのに何故?と驚き、図書館でエイズについて猛勉強を始める。

生きたい欲求にかられた彼は、自分を診察した女性医師イブ(ジェニファー・ガーナー)を訪ね、AZTという未承認の薬を処方してくれるように頼むが、断られる。そこで彼はメキシコへ渡り、毒性の強いAZTではなく、アメリカでは未承認だが効果がみこめる薬を国内に持ち込み、患者たちにさばき始める。


同じくエイズ患者であるレイヨン(ジャレッド・レト)とともに非合法組織ダラス・バイヤーズクラブを設立し新薬の提供を始めたところ、会費を取る代わりに、政府が承認していない薬を会員に配布したのだ。最初は自分自身のためにはじめたことだが、それが奇妙な広がりをもっていく。ネットワークはどんどん拡大した。しかしそんな彼に薬事法を管理する当局は目をつけるが。。。。

堕落しきった男である。まともな人生とは程遠い。
金と引き替えに無理やり医者に処方箋を作ってもらって、エイズ特効薬を外国で仕入れる。それを密輸のように運び込む。
世間のために尽くしてというわけでもない。自分のためにするわけだ。でも幾分か悪知恵が働く。当然当局は目を付ける。薬の販売は日本もそうだが、当局の管理が厳しい。でも認可している薬ではむしろ容態が良くなるどころか、悪くなる一方である。まわりは彼のことを頼りにするわけで、口コミでクラブは繁盛する。
そんな役柄を実にうまく演じたと思う。

マシュー・マコノヒーの一人舞台と言えるが脇を固めるジャレッド・レトやジェニファー・ガーナーの存在もよかった。
単なる女医と患者だった関係が少しづつ変わっていく。絶対に接近しそうもないと思われる2人が少しづつ接近する。そこには女医とも友人であるレイヨンの存在が媒介となるのであるが、淡々と双曲線のように近づけていく構図を見るのは悪くない。

あとはマークボランの使い方がうまかったことが印象的かな。日本へ買い付けに行くシーンが出てきたのには驚いたが、どうも現代の渋谷のようだ。「林原」という会社の固有名詞もでてきた。

どうやらマシュー・マコノヒー有利で決まりそうな印象

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映画「ラッシュ」

2014-02-23 17:41:32 | 映画(洋画 2013年以降主演男性)
映画「ラッシュ」を映画館で見た。ロンハワード監督の新作である。
これはなかなか良かった。実話と聞くとますます背筋がぞくぞくするノンフィクション映画だ。


カーレースの迫力がすごいとは聞いていたが、そればかりではない。
ジェームスハントとニキ・ラウダのライバル物語である。基本的にスポーツマンのライバル物語は幼少時から好きなので2時間じっくりと楽しめた。2人の性格、こだわりに焦点をあてている人間ドラマとしても見れる。2人の絶頂の場面だけでなく、落ち目乱調の場面、復活する感動の場面と見せ場が盛りだくさんだ。出来過ぎのフィクションのようなこんなすばらしい対決がこの世に存在していたことは知らなかった。

1976年8月のドイツF1レースでのレース前の光景が映し出される。
そこでは2人のレーサーが視線を合わせている。ジェームスハントとニキ・ラウダだ。
雨が降っているので、タイアの選択に各レーサーとも戸惑っており、他のレーサーの動きに敏感になっている。

続いて1970年に時間軸を戻す。
ジャームスハント(クリス・ヘムズワース)はF3の人気レーサーである。ナンパで女と見たらすぐに声をかけ、イタしてしまう。病院で知り合った彼女と付き合いながら活躍を続けていた。イギリスの貴族であるアレクサンダー・ヘスケス卿のレーシングチームに入って、タバコなどのスポンサーに頼らずにレースに出ていた。一方、ニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)はオーストリアの実業家の家に生まれ、育ちがよかった。親の反対を受けながらもレーサーを目指し、多額の持参金つきで財政難のF1レーシングチームに入った。そこで、すぐさま車のメカの知識を活かして車を改造してスピードのあるレーシングカーを作りだす。ラップは大幅に短縮だ。周囲も彼に一目を置き、ニキのチームも強くなっていく。

やがて2人は互いにF1に参戦する。
75年にはニキ・ラウダはフェラーリがエースドライバーとなっていた。勝利を重ねて年間ワールドチャンピョンとなった
一方のジェームスハントはニキ・ラウダの活躍を横目で見ながら、虎視眈眈とトップを狙う。チーム・オーナーであるヘスケス卿の懐具合が悪化して、新しいスポンサーを探さなければならない状況に陥る。売り込みを続けた挙句、土壇場で「マクラーレン」のチームに入ることができた。ところが、妻との間は徐々に不仲になっていた。
翌76年のシーズンもニキ・ラウダは絶好調であった。徐々にポイントを重ねてトップを走っていた。一方ジェームスハントはリタイアとなるレースが続く。勝ったスペインGPも車体幅が若干広いということで後日失格。しかも、妻が俳優のリチャードバートンと付き合っているというゴシップがマスコミで広がる。結局離婚となるが、ツキに恵まれない不遇な状況だった。

そして映像はドイツGPのシーンに戻る。
もともとドイツのニュルンベルクのレース場は難コースとして有名だった。しかも、雨が降る中レースをするのは危険とニキ・ラウダは参戦するレーサー全員とミーティングをした。ニキ・ラウダの中止要請に対して、ジェームスハントは反対し、多数決で結局レースは実施されることになった。
しかし、レース中にニキ・ラウダの車は大破して炎上してしまう。400度の火を1分間浴びて彼は大やけどを負ってしまったのであるが。。。

ちょうど彼らがF1を走っているころは、自分史では最も自動車に関心がない時代であった。それなので、こんなライバル関係があることは知らない。村山対長島などの野球対決や今回のフィギュアのキムヨナ、浅田真央対決のようなライバル物語が存在する。どちらかというと、矢吹ジョー対力石徹のボクシングのライバル物語に近い気がしている。でもここまでのドラマティックなストーリーは珍しい気がする。シーズン途中まで不遇だったジェームスがニキの事故によって浮上、しかもニキが奇跡の復活を遂げる。

この復活自体ちょっと信じられないフィクションのような話だ。そして最終決着をつけるため2人は再度日本の「富士スピードウェイ」で対決する。うーん、しびれるなあ。

印象に残るのは
女好きのジェームスハントが自由奔放に遊びまわるシーン。彼は屈託なく明るい。先日「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でディカプリオ扮する主人公の遊び人ぶりが映し出されるが、それに匹敵する。レーサーというのは女にもてる。特に、ジェームスハントは気にいったら、どこにいてもすぐイタす。動物学者で素敵なエッセイを書く竹内久美子さん流に言うと「シンメトリーな男」なのだ。



ニキラウダがのちの妻と知り合うシーンもいい感じだ。ニキがある上流のパーティに誘われていった際、自分は合わないと先に帰ってしまう。その時に1人の美女に街まで送ってもらう。途中でニキは車の不調に気がついていたが、彼女は整備したばかりだと言いきる。でもニキの言ったとおりにエンストしてしまう。そこでヒッチハイクで通る車に助けてもらおうとするが、なかなか引っかからない。そこで彼女が手をあげると、車が止まる。彼女目当てかと思った2人の男は美女を無視して、「ニキ・ラウダがいる」と大騒ぎ。でも彼女は彼の存在を知らない。その後ニキガ普通に静かに運転しているのを見て、まさか彼がレーサーなんてわけないでしょと言ったら、ニキラウダが豪快に運転を始める。するとヒッチハイクで助けてくれた2人が大騒ぎ、彼女が唖然
このシーンなんかほのぼのしていいなあ


そしてニキラウダが復活する場面で、自分のテンションが高くなる。トップをとったわけではない。でもレース中の炎上から奇跡の復活を遂げて第4位だ。本当にすごい!しかも事故から40日ちょっとしかたっていないのだ。感動した。実在するニキ・ラウダには改めて称賛のエールを送りたい。

小学生のころ、街で暴走族が荒れた運転をしている話題になると、自分の担任の先生は「そんなにスピード出したいなら富士山に行けばいいんだ」とよく言っていた。レーシングカーと言うと富士スピードウェイと当時の子供たちは連想した。富士でF1のレースがあって、大事故になったのはテレビで繰り返し報道されていた。でもここに描かれているようなすごい悪条件でよくやったものだ。

いずれにせよ、途中だれることなく楽しめた。
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映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」 レオナルド・ディカプリオ

2014-02-16 12:48:12 | 映画(洋画 2013年以降主演男性)
映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を映画館で見てきました。
レオナルド・ディカプリオがウォール街の異端児という役柄に没頭する。

マーティンスコセッシとの名コンビで、今回はディカプリオから監督やらないかとお誘いしたという。
アメリカ証券界で一世を風靡した男の半生記をもとにつくられた作品で、見るのを楽しみにしていた。
内容はちょっとぶっ飛ぶ。1年前に同じように贅沢三昧を前面に出す「華麗なるギャツビー」を演じたが、今回は時代が80年代後半から90年代と現代に時代を移し、ドラッグ、sexとかなりきわどい場面が多い。若干品がなく長いかな?という気もしたが、ディカプリオのパワーに驚く。

ニューヨークの中流家庭に育ったジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、22歳でウォール街に株式ブローカーとしてデビューするも、その日に87年のブラック・マンデーが発生し、会社がつぶれてしまう。未上場企業のボロ株を売りつける転職先で先輩(マシュー・マコノビー)からコツを教わり、ブローカーの才能を発揮する。26歳で(ジョナ・ヒル)や仲間と証券会社を設立する。


ベルフォートの指導でセールスのコツをつかんだ営業も金持ちの顧客を次から次へとつかみ、会社の規模をどんどんと拡大した。ベルフォートは年収49億円を稼ぎ出すようになる。稼いだ金で仲間たちと連日ドンチャン騒ぎで「ウォール街のウルフ」と『フォーブス』誌に取り上げられる。



ジョーダンは、苦労時代を共にした妻を捨て、元モデルの金髪美女(マーゴットロビー)と再婚し、我が世の春を満喫する。しかし、36歳になった彼には、FBIの捜査官(カイルチャンドラー)の手が迫っていた。
ジョーダンは贅沢な暮らしを維持するために、違法な株取引で稼いだ裏金をスイス銀行の頭取(ジャン・デュルジャン)のもとに運び込んでいたが、手口は読まれつつあった。



マーチンスコセッシ監督の音楽好きは有名だ。今回は彼の好みでロックを基調としたバックミュージックで、映画のテンポにはピッタリだ。エンディングのクレジットを見たら、ザ・バンドのロビーロバートソンの名前もあった。
個人的趣味でいうと彼の作品でも好き嫌いがある。一番好きなのはロバートデニーロ主演の初期の傑作「レイジングブル」だ。猛獣のようなボクサーの主人公が荒れ狂う姿に圧倒された。この主人公と同じような匂いをさせるのが「ギャングオブニューヨーク」のダニエルデイルイスの悪党ぶりである。リズミカルでテンポの良い「ディパーテッド」も大好きだ。逆に「ヒューゴの不思議な発明」は全然いいと思えず退屈だった。ノミネート多数にもかかわらずオスカーで受賞を逃したのは当然だろう。



この映画は「レイジングブル」ジョーぺシが演じたようなマネジャーと同じように、ジョナヒルをフルに活躍させる。このあたりがマーチンスコセッシの人使いがうまいところだ。映画「マネーボール」ジョナヒルブラッドピットと組んだ。同じような二枚目俳優との組み合わせの妙で今回も三枚目ぶりが冴える。「マネーボール」ではイェール大出の数字オタクであるインテリ策略家の役柄だったが、今回はまじめ一筋ではない。2人で一緒になって、ドラッグにSEXに狂うディカプリオの相棒を演じる。刺激の強いドラッグでメロメロになったり、立ちションをオフィス内でしたりするシーンが笑える。



この映画では営業を高揚させる場面が何度か出てくる。アフターファイブの時間でなく、真昼間からオフィスで売春婦を呼びながら大フィーバーするシーンは珍しい。今回のアカデミー賞主演男優賞候補のライバルでもあるマコノビーに営業を教えてもらうシーンもなかなか味がある。

自分で証券会社を始めてからの経営者としてのパフォーマンスはビジネスマンとして勉強になる。学歴も職歴も半端者みたいな連中をかき集めて、セールスを電話営業へと駆り立てる。営業マン達の潜在的パワーやモチベーションを全開させようとする姿は見ていてカッコいい。ここで見る限り、人心掌握はお手のものといった経営者だ。。

映画では集団での売り買いを株価操作という話にもつなげているが、実際バブルと言われた時代の日本の証券会社の支店フロアは同じような感じだったのだろう。推奨銘柄を支店長、営業課長が先頭に立ってこれを売れとばかりに営業に鼓舞し、顧客への電話営業に駆り立てる。当時シナリオ営業と言われN証券の得意技だった。

昨年のディカプリオ「ジャンゴ」ですごいワイルドな演技を見せ、「華麗なるギャツビー」は贅沢な雰囲気を楽しんでいる印象を受けた。ここでも若い美女を次から次に周辺にはべらせ前よりも楽しんでいる印象だ。この主人公同様ディカプリオがちょっとやそっとの刺激では満足できないようになっているのであろう。ドラッグで運転するシーンなんて面白くて笑えるが、映画を見終わる頃に、心なしか少し太って見える彼の姿をみると、公私ともども楽しんでいたのであろう。
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映画「小さいおうち」 山田洋次

2014-02-12 21:39:46 | 映画(日本 2013年以降主演女性)
映画「小さいおうち」を映画館で見た。
後味がよかった映画を見た。山田洋次監督作品は欠かさず見ている。
(ちなみに自分の高校の大先輩:最近母校が甲子園に出ることになって周辺は大騒ぎ)

中島京子の直木賞小説を原作にした家族を描くのがうまい山田洋次監督らしい作品だ。(原作は未読)前作「東京家族」が小津安二郎のオマージュを意識しすぎて不自然に自分は感じた。それに比較するとずっと良くなっている。クレジットの主役は格で松たか子であるが、今回は黒木華が純朴な家政婦を好演した。これはうまい。

物語は現代ではじまる。大学生の健史(妻夫木聡)の大伯母タキ(倍賞千恵子)が亡くなった。健史はときどきタキの家に遊びに行き話し相手になっていた。タキは生涯独身だったが、その身の上をノートに綴っておくように健史が勧めていた。

昭和10年、純真な18の娘布宮タキ(黒木華)が雪深い山形から上京してきた。最初は文京区の作家(橋爪)の家で女中奉公したが、すぐに東京雪が谷の住宅地に建つモダンな赤い三角屋根の家に移り、女中として住み込み奉公を始める。家の主人で玩具会社の常務である平井雅樹(片岡孝太郎)、その妻・時子(松たか子)、5歳になる息子の恭一とともに穏やかな日々を過ごしていた。息子の杏一が高熱を出して小児麻痺になる恐れがあった。名医がいる日本橋までタキが連れていって病状が好転したことで家族の信頼も得られていた。

ある日、雅樹は部下の板倉正治(吉岡秀隆)という青年を連れてきた。弘前出身の美大出で他の若い社員とは若干違っていた。時子とは気が合い、下宿も近いので何度も家に遊びに来るようになった。時子も心が板倉へと傾いていく。そんな時、板倉にお見合い話が出てくる。若者が次から次へと出征する中、丙種合格の板倉は適齢期の娘を抱えた親からは貴重な存在と思われていたのだ。夫からこういうのは女性がやった方がいいとお見合いをまとめるように指示を受けるが、時子の気持ちは複雑だった。それでも彼女は板倉の下宿に出向いて、説得にあたろうとするのであるが。。。



松たか子はどちらかというと現代的なお嬢さん顔をしている。一方で「ヴィヨンの妻」でも好演したように戦前の若奥さんを演じても不自然さを感じない。梨園の家庭に育ったせいか、着物もよく似合う。今回は不倫の香りをちらつかせるが、露骨でない。彼女にしては普通の演技といった印象だ。



今回は黒木華がまさに適役である。現代的女性を演じた「舟を編む」とは正反対だ。ウブな家政婦という設定がピッタリの演技で、決して出しゃばらない。その彼女も同じ東北出身という同郷のよしみで、はっきりと言葉にはしないが、板倉に好感を密かに持っている。そこが後半ポイントになってくる。山田監督もぐさっと脚本のセリフでだすわけではない。でも観客にそれとなく感じさせる。この柔らかさがいい。

最初吉岡秀隆が出てきたときに、松たか子が夫の部下にしては「素敵な人」という表現をする。さすがにこれには違和感を感じるが、津軽生まれの美大出身の男という設定からは決して外していない気が徐々にしてくる。「三丁目の夕日」の売れない小説家に通じるキャラクターで演じる。これはこれでいいのではないか。どちらかというと、最初の松たか子のセリフを外せば何も問題なかったのかもしれない。山田洋次作品なので、身近に接触しても露骨に2人が交わるシーンはない。あくまでも想像に任せる。この感覚は昭和30年代の映画のスタイルだ。おそらく別の監督がつくったら違うつくり方をしたかもしれないが、自分はこの映画のスタイルが好きだ。

今回の出演者は前作「東京家族」とかなりダブる。橋爪功、吉行和子夫妻役に加えて小林稔持や三平のせがれ、中島朋子、妻夫木聡と新しい山田組が勢ぞろい。それに加えて約50年の付き合いと言える倍賞千恵子とその息子役だった吉岡秀隆を起用する。使いやすい俳優をベースにした方が監督からするとやりやすいだろう。倍賞千恵子は年とったなあ。意外にもいい味を出していたのはラサール石井だ。もともと松竹では喜劇中心だった山田洋次監督はこういう役者の使い方はうまい。

大きな問題なく心地良く映画が見れたが、ちょっと違うなあ?と思ったのが昭和10年代前半の厨房だ。これって完全な現代のシステムキッチンだ。昭和30年代を映したとしてもここまでは進化していない。あとは概ね大丈夫だけど、ちょっと時代考証おかしいかなあ?あとは妻夫木のトンチンカンな時代考証のセリフはわざとやっている印象を持ったが、それでも最後にかけての手紙のやり取りはちょっと違うかなといった印象を持つ。
時子が手紙を出す住所を見ると、雪が谷の自宅から上池台の下宿に出している。電車は池上線だ。以前「おとうと」でも石川台付近を舞台にしていた。今回最寄駅は石川台と長原と考えるべきだろう。原作を読んでいないのでピントはずれかもしれないが、このエリアって山田洋次監督に何か縁があるのであろうか?

快適な2時間半だった。
この映画をみると、とんかつが食べたくなる。見終わってから大盛りのキャベツと厚切りのロースを食べた。
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映画「暗黒街大通り」 高倉健

2014-02-12 17:07:04 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「暗黒街大通り」は昭和39年の東映映画
東映が徐々に時代劇から方向転換しているころだ。
若き日の高倉健、梅宮辰夫が兄弟分として出ている。映画としては普通だが、高倉健はさすがの存在感だ。
昭和30年代後半の東京が写しだされる。

博徒中万組の中田万造(金子信雄)とグレン隊東京地下警察会長黒岩元(安倍徹)が手打ち式を行っていた。「成金」の刺青をした任侠人忍朝二郎(大木実)は、中万から黒岩を叩くよう依頼された。失敗に終わった後、狙われ自宅で命を落した。忍鉄也、銀二郎、健三の三兄弟は、まだ幼かった。死ぬ前に父からは何があっても三兄弟で行動を共にするように言われた。
元凶を黒岩とみた三兄弟はこの手打式の会場に殴りこんだ。子供ながらに復讐に向かう姿を見て中万は三人を引き取った。
十数年のち、中万は関東総代となり、黒岩はグレン隊の大組織東京クラブのボスにおさまっていた。中万と黒岩は暗黒街で牙を競い合う。鉄也(高倉健)、銀二郎(梅宮辰夫)、健三(待田京介)の兄弟は関西から九州へと流れたが、育ててくれた中万の元へ戻っていた。

中万の長男勝雄が興行主となった人気歌手三条早苗(中原早苗)の公演が黒岩組の手で邪魔されていた。三兄弟は早速に手際良く黒岩組の愚連隊を捌く。中万組には3人と幼なじみである組長の娘(三田佳子)がいた。彼女は密かに鉄也に心を寄せていた。兄弟は彼らの父の通称であった「成金一家」の再興を条件に、黒岩傘下のシマを次々と奪っていった。黒岩組にとっては今や勝雄に代ったこの兄弟の存在が大きかった。黒岩は色仕掛けや様々な方法で兄弟を危地に陥しいれようとしたが。。。

この昭和39年当時の映画製作でアラが目立つ。ストーリーもありがちで大きな変化はない。
ここでは俳優を追いかけるべきだろう。

高倉健の芸歴でいえば、この年は時代劇では「宮本武蔵」の佐々木小次郎役、「飢餓海峡」の刑事役を演じている。任侠映画は前年の鶴田浩二との共演「飛車角」から演じはじめてきている。このころは、演じればすべて主役というわけではない。それでも後年でも感じる彼でなくてはならない強いオーラがある。どちらかと言えば、二枚目俳優の色彩だ。

梅宮辰夫も後年の「仁義なき戦い」あたりと比較すると、まだまだ若い。ピストル扱いの名手で、人気歌手と恋仲になる役だ。相手はのちの深作欣二監督夫人の中原早苗が演じる。梅宮辰夫はある意味同郷で、彼の父上は自分の小学校の校医だった。風邪引いた時よく診察してもらった。母に言わせると、父上の方がハンサムだと。梅宮医院には美人の看護婦がそろっていたのが子供心に印象に残る。

脇役が自分の役割を心得ているのがいい。
金子信雄は「仁義なき戦い」で見せる意気地のないずるい親分役がここでもうまい。この間見た「総長賭博」でも同じようなテイストだった。晩年の料理評論家ぶりもよかった。

安倍徹はこのあといったいどのくらい悪役を演じたのであろうか?自分が初めてドラマを見るようになってから中年になるまで彼は徹底して悪役だった。ここまで徹することが大事なんだろう。

大木実の任侠人も悪くない。

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悪魔が来りて笛を吹く 山本邦山死す

2014-02-10 17:36:16 | 映画(日本 昭和49~63年)
山本邦山が亡くなったと報道されている。
人間国宝となっている尺八演奏者だ。

ついこの間映画「悪魔が来りて笛を吹く」のDVDを久しぶりに見た。

この映画は大学時代に劇場で見たことがあった。
横溝正史の原作で、近親相姦の絡んだ生臭い映画であった。当時はやりの密室殺人の謎解きがテーマ
西田敏行が金田一耕介を演じるレア版でDVDでは見かけなかったので久々見れて良かった。
何よりも当時30代の熟れきった鰐淵晴子のヌードが拝めるのが凄い。貴重な存在である。


ここでは山本邦山が音楽を担当している。
彼の存在を知ったのは中学生のときである。ジャズに目覚めた自分がどういう経緯か彼のことを知った。
尺八でジャズを演じるなんて話自体、興味深かった。
石庭のジャケットが美しいレコードを購入して、これまた凄い衝撃を受けた。
モダンジャズのリズムにこれ以上ないフィット感である。


山本邦山、菊地雅章、ゲイリー・ピーコック、 村上寛というすばらしいメンバー
和のテイストとモダンジャズの混在が美しい世紀の名盤だと思う。
ご冥福を祈ります。
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映画「競輪上人行状記」  小沢昭一

2014-02-06 21:07:10 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「競輪上人行状記」は昭和38年の小沢昭一主演の日活映画だ。
原作は直木賞作家寺内大吉でその後ロマンポルノで数多くの作品を監督した西村昭五郎がメガホンをとる。
その気がないのにやむなく実家の寺を継いだ主人公が、競輪に狂って財産を失い転落していく姿を描く。普通であれば、一気に終りのところが最後にかけて面白い展開を見せる。そこで見せる小沢昭一がいい感じだ。

主人公伴春道(小沢昭一)は坊主が嫌いで中学校の教師をしていた。バレーボールの顧問で女子生徒の指導をしていた。家庭環境がうまくいっていなくて、家出をした教え子サチ子の面倒を見ていた。そんな時、実家の宝寺院の住職兄伴玄道が突然亡くなってしまう。
葬儀で戻ると、住職の未亡人みつ子(南田洋子)は悲しんでいた。そして、父玄海(加藤嘉)から兄嫁と子もお前が面倒をみて、寺を継ぐように言われる。兄嫁はもともと好きなタイプだったが、父親には反撥した。ところが、父は教師の退職願を出してしまう。しかも、オンボロ寺の本堂再建の資金を集めるのに檀家を回ってあるかねばならなかった。資金集めに奔走したがうまくはいかなかった。

ある日、松戸競輪で車券を一枚買ったのが、運よく大穴となってしまう。突然競輪に目覚める。しかし、ビギナーズラックは続かない。徐々にエスカレートした彼はすぐさま有り金を使い、本堂再建費として父親がためていた百万円余りをも使い果してしまうのだ。そうした時父が突然死んでしまう。春道は坊主になる決意を固め、頭をまるめて京都大本山に行った春道は修業の末、下山し寺の再建に精を出すが、競輪狂いの悪い虫がまたでてくるが。。。

ギャンブル狂いの没落する姿を描いた映画は多い。ここでも同様だ。
(ネタばれあり)
思わぬ大穴が出て、次も買ったら当たりそうな気がする。同じように大金を次から次へと車券買いにつぎ込むが外れる一方だ。絶対使ってはいけないお金に手を出すと同時に、ノミ屋にも手を出し、たちまちツケがたまってやくざに追われる。無理やり実家の寺も売りに出される。よくある話だ。

でもここから夢をつなぐ。。。。
最後は公営ギャンブルにいる予想屋だ。坊主の格好をしているからハクがついている。
横には教員時代の教え子が手伝いをしてくれる。身寄りがなく、預けられた家でも虐待を受けた悲しい女の子だ。セリフにも出てくるが、「社会の底辺を彷徨う子」が慕ってずっと付いてくる。頼られるっていうのはいいよね。
もっと早く気がつけばいいのにと思うが、そうはならない。バクチは買う人よりも胴元が儲かる。同じように予想屋も自分で買わなければ、わずかな予想代だけどチリも積もれば山となるといったところだろう。

寺内大吉と言えば、小学生のころキックボクシングの解説をしていたベレー帽のオヤジだ。当時いったい何者と思っていた。まさに生臭坊主ここにありといったところだ。

最初に出てくるのは大宮駅である。自分も現在埼玉居住であるが、昭和50年代半ば以前の大宮は知らない。現在と同じように、ものすごい人ごみだ。同じように昭和37年の「キューポラのある街」にも大宮駅のホームが出てくる。確か大宮の次の駅は蓮田ってホームの看板に書いてあったな。
あとは都内のドヤ街、昭和30年代後半って、自分は生まれていたんだけど、なんか汚いよな。
「三丁目の夕日」のように美化した姿だとどうも違和感を感じる。
これぞ30年代の日本の下層社会だ。

競輪上人行状記
ギャンブル好き特有の転落映画
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伊勢に向かう

2014-02-05 16:50:20 | 散歩
久々に伊勢方面に向かった。
伊勢~鳥羽~二見への旅である。

名古屋から近鉄特急で伊勢駅へ
朝9時から酒を飲んで騒いでいたら、新幹線では珍しく車掌に注意された。
近鉄特急は大丈夫

ひつまぶしを食べてから外宮へ







神宮徴古館
シンメトリーが美しい素敵な建物だ。




神宮美術館にうつる
屋根が美しい建物






鳥羽の町を臨む

そして宿泊、いかにも鳥羽らしい風景
泊るのは10年ぶりだ。


夜はコンパニオン入れて宴会だ。
活きているアワビに火を入れたものがおいしい。

翌朝は2日酔い残る中
御木本パールへ
海女さんショーが見ていて楽しい
すげえ寒かった。彼女たち1日に何回もやるそうだけど、すごいなあ




二見浦近くにある旧皇室の貴賓館「賓日館」へ


ひな祭り前で、ものすごい数のお雛さんが各部屋に飾ってあった。

富士山びなというのもすごい

NPO法人が管理しているだけあって、きれいに整っていた。



皇室のためにつくられた建物だけあって、過去には皇族が来ている様子だ。



そしてメインの内宮へ
いやーすごい人だった。過去に何回も行ったが、平日にこれだけ混んでいたのは見たことない。
改めて歴史を感じる。





さようなら、ご利益あるかな?



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映画「偽りの人生」 ヴィゴ・モーテンセン

2014-02-05 13:52:28 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「偽りの人生」は2013年公開のアルゼンチン映画だ。
サスペンススリラーと言うべきスタイルだが、双子の兄を殺した弟が兄になりすますという構造だ。

主演ヴィゴ・モーテンセンは「ロードオブザリング」などのハリウッド作品に出演して、名声を高めている。彼は少年の時にアルゼンチンに住んだことがあった。その彼が今回監督をするアナ・ピターバーグから自分の脚本を呼んでくれと言われ、読了した。重層構造の脚本に引き込まれ、一人2役を演じることになった。ヴィゴ・モーテンセンが加わることで、映画界から資金を引き出すことができ、映画としての体裁が整ったようである。

アグスティン(ヴィゴ・モーテンセン)は医師としてブエノスアイレスで妻(ソレダ・ビジァミル)と裕福な暮らしをしていた。

2人には子供がなかった。養子をとりたいという妻の申し出に対して、夫は拒絶した。立腹した妻は家を出る。アグスティンは何をやるにも気ののらない抜け殻のような状態で家にいた。
そんな時、長らく離れていた一卵性双生児の兄ペドロ(ヴィゴ・モーテンセン/二役)が突然訪れてきた。兄は末期癌であることを告げる。痛みに耐えられないので、自分を殺すよう懇願する。話を聞いて主人公は驚いたが、風呂に入っている時、兄が発作を起こしているのを見て、とっさに殺害してしまった。

アグスティンは自分が死んだことにして、ペドロになりすまそうと考える。ブエノスアイレスから北へ30km程のデルタ地帯ティグレへと帰った。ペドロはそこで養蜂をやっていた。ボートでペドロの家へ戻ると、川岸の周囲からは白い目で見られた。ペドロは仲間たちと闇の犯罪に関わっていたようだ。町の人からさかんに仲間の行方も聞かれる。そこにはもともとペドロが親しかった若い女性もいたようだ。

アグスティン自身もペドロが今まで生きてきた人生が少しづつわかっていくのであるが。。。

映画っていいよなあ。ティグレなんて町存在することすら知らなかった。調べるとブエノスアイレス近郊の水郷エリアのようだ。ティグレではみんなボートを使う。密林の中を流れる川をボートで行くシーンが繰り返し登場する。描かれる景色は美しい。バックに流れる音楽がすばらしく、情感を高めてくれる。

川とも水郷とも運河とも観光案内ではいろんな書き方がされている。非常に美しい町と書かれているが、映画に映る世界は多少泥臭い。

ヴィゴ・モーテンセンといえば「ヒストリーオブバイオレンス」だ。自分の中でもベスト20に入るくらい好きな映画だ。そこでは、昔マフィアで今はごく普通のカフェの店主になっている影のある男を演じた。そこではカッコよかったが、この映画ではむしろドツボの世界を彷徨う男だ。双子って映画の題材にしやすい。映画「美しい妹」ではマリオン・コティヤールが死んだ妹になりすました役を演じた。その映画ではむしろ華やかな世界の人になりすますわけで、医者から裏稼業まっしぐらの男になる彼からすると真逆である。

印象に残るシーンはたくさんある。まずは兄を殺すシーンだ。1人二役なので撮影はかなり難儀したと思うが、殺してくれと言ったのにもかかわらず、いざというときには抵抗する。その暴れ方がリアルでうまい。あとは蜜蜂に顔を刺されてしまうシーンは大変だなあと同情する。別れた妻との牢屋での再会シーンなどシリアスな雰囲気を醸し出す部分も多い。ソフィア・カスティリオーネという女優がティグレに帰った主人公の恋人になった。彼女のキャスティングは成功だと思う。華美な女性が出てきてもここではおかしい。胡散臭い世界をイメージさせるにも彼女でよかった。

ただ、ここでのメインはやはりティグレという水郷に面した町だ。この景色をバックに練りに練られて撮影されたと思われる映像コンテは実に美しかった。

この映画は2回見た方がいいと思う。関係が一度見ただけではわかりにくい。2度見て初めて良さがじんわり来る。
コメント
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