映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「ふきげんな過去」 小泉今日子&二階堂ふみ

2016-06-29 20:12:03 | 映画(日本 2013年以降主演女性)
映画「ふきげんな過去」を映画館で見てきました。

小泉今日子二階堂ふみと共演するという。予告編を何度か見たが、死んだはずのオバサンが突然戻ってくるという設定が興味深く、そのオバサン扮する小泉今日子が姪の二階堂ふみに自分が母親だと告白するシーンに対するあっけない娘の反応が滑稽で見に行きたいと思っていた。

映画を見はじめると、わけがわからない会話が続く。登場人物の名前をだして、あの人がどうしたこうしたと会話するのであるが、何が何だか良くわからない。状況説明もなく進行し、いよいよ小泉今日子の登場となるのであるが。。。

東京・北品川にある古びた食堂で生活している女子高生・果子(二階堂ふみ)の前に、18年前に死んだはずの伯母・未来子(小泉今日子)が突然現れる。古びた豆料理屋『蓮月庵』を営む果子の祖母サチ(梅沢昌代)と母サトエ(兵藤公美)、そしてなにもしない父タイチ(板尾創路)は、未来子との奇跡の再会に慌てふためく。そんな家族の様子を、果子は小学生のいとこのカナ(山田望叶)とともに冷めた目で見つめるのだった。


未来子は果子の母の姉だが、事件を起こし前科持ちとなり、死んだはずだった。戸籍もなく何かに追われているらしい未来子は「しばらく匿ってよ」と告げ、家族は果子の部屋に未来子を居候させようとする。図々しい未来子に苛立ちを隠せない果子だった。


果子は、商店街の喫茶店に通ってはその店に出入りする黒い帽子を被った謎の男・康則(高良健吾)を観察することで退屈をしのいでいた。その喫茶店の店主からある誘拐事件の話を聞き、いったい何かと聞きまわるのであるが。。。

1.小泉今日子
若いアイドル時代から彼女には好感を持っていて、「なんてたってアイドル」の奔放に踊る姿が大好きだった。でも40代すぎになり、年相応の魅力を若い時以上に感じるようになる。


映画では「トウキョウソナタ」でのリストラになった香川照之の妻役や「空中庭園」で崩壊する家庭の妻役が印象的だ。「空中庭園」で夫役だった板尾創路は今回も共演だ。TVドラマ「あまちゃん」で歌う「潮騒のメロディ」のメロディもいかにも昔のヒット曲ぽく自分もずいぶんとカラオケで歌ったものだ。紅白歌合戦での薬師丸ひろ子とのメドレー歌唱に感動したのが記憶に新しい。


気がつくと50歳になったんだ。この映画でも今の彼女の魅力が満ちあふれている。
いい女になったものだ。

2.北品川の町
東海道53次の最初の宿が品川で、現在の京急北品川駅の周辺が宿場になっていた。自分が小さい頃、品川区役所は第1京浜沿いにあった。五反田生まれの自分は幼い頃鉄道好きで、東海道線の車両を見に御殿山のソニー本社の前を通って八つ山橋から祖母と一緒に毎日のように眺めに行ったらしい。うっすらとその記憶はある。前田司郎監督は「五反田」出身らしい。もしかしたら、自分と同じような幼少期をおくっていて、たまに品川の宿場あとあたりをうろうろしていたのかもしれない。

そういえば、川島雄三監督フランキー堺主演の「幕末太陽傳」は時代劇だが、昭和33年売春防止法が施行される前の北品川の旅館が映るシーンがある。赤線地帯と思しき特飲街が立ち並んでいたらしい。今回は北品川の古典的商店街を映しだす。同時に屋形舟が停泊する運河を映しだすが、高層のマンション群が立ち並びいかにも東京のウォーターフロントの匂いが前面にでている。

3.二階堂ふみ
今回の二階堂ふみは決して悪くはないし、彼女らしいパフォーマンスは見えるのであるが、ひねくれた反抗期の女の子という設定があまりに極端すぎてちょっとついていけないようなセリフが多い。予告編を見ると見てみたい気にさせられるが、実際にの映画の場面でそれ以上のシーンがない。予告編がベストといった感じの映画という気がする。

このセリフのわけのわからなさは脚本家の頭脳の混乱を示している感じだ。そういえば彼女は八潮高校出身だから、このあたりは地の利があるのかな?

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映画「教授のおかしな妄想殺人」 ウディ・アレン

2016-06-26 12:58:32 | 映画(洋画:2016年以降主演男性)
映画「教授のおかしな妄想殺人」を映画館で見てきました。


ウディアレンの新作は、前作「マジックインムーンライト」の主演女優だったエマストーンと再びコンビを組むという。いつも通り映画館に向かう。ホアキンフェニックス演じる大学教授とエマストーン演じる女子大生が恋に落ちる話にサスペンス的な要素を持たせた映画である。


軽快なテンポでセリフを話すチャーミングなエマストーンウディアレンの好みなんだろう。いかにもウディらしい脚本のセリフがいつも通りセンスが良く、ホアキンフェニックスはウディのような早口ではないけど、少し変わりものの大学教授を巧みに演じる。
感銘を受けるといった作品ではないけれど、ミステリーだけに最後までスクリーンから目が離せない映画である。

並外れた変人と評判の哲学科教授エイブ(ホアキン・フェニックス)が、アメリカ東部の大学に赴任してくる。若い頃は政治活動やボランティアに熱中し、世界中を飛び回ったエイブだが、今では学問にも恋愛にも身が入らず、慢性的に孤独な無気力人間になっていた。

そんなある日、たまたま立ち寄ったダイナーで迷惑な悪徳判事の噂を耳にした瞬間、エイブの脳裏に突拍子もない考えがひらめく。それは誰にも疑われることなく、自らの手で判事を殺害するという完全犯罪への挑戦。すると、あら不思議、奇妙な“生きる意味” を発見したエイブはたちまち身も心も絶好調となり、ひたすら憂鬱だった暗黒の日常が鮮やかに色めき出す。一方、エイブに好意を抱く教え子ジル(エマ・ストーン)は、まさか彼の頭の中におかしな妄想殺人が渦巻いているとはつゆ知らず、ますます恋心を燃え上がらせていくのだが......。(作品情報より)

作品情報が肝心なところに触れないこんな紹介になっている。
でもあえて言ってしまうと、教授は自分でシミュレートした殺人を実際に試みるのである。


ウディアレンのミステリーは、末梢神経を刺激したり、血をみるような激しいものはない。ここでもいつもながらのウディらしい会話を楽しむ物になっている。「マッチポイント」で昔の映画であればありえないラストに持っていったウディアレンだけに最後までどういう結末にもっていくのか想像させないうまさがある。


ロケハンティングもうまい。緑あふれるキャンパスなどバックの風景が美しく、2人が歩きながら会話する姿をカメラを引っ張りながら撮っていくドリーショットの手法もウディ映画の定番のようにここでも見られる。見慣れた映像が展開するのを見ているのは妙な安心感がある。

1.女教師との不倫
鳴り物入りで異動してきたエイブ教授を意識する女性は多い。でも数年前に離婚した後は女性不信で下半身もどうにもならない。化学の中年女教授がワインをもって家を訪ねてきてエイブに押しかけ女房のようにちょっかいをだす。女性からの強いリードでベットに入るがうまく機能しない。


これと限らず、男性に積極的にいい寄る熟女って、最近はキャリア中年女性に目立つようになってきた。以前は英雄色を好むといわれたが、こういう熟女は何を好むと言ったらいいのだろう。それにしてもこの女優はそういう積極女性をうまく演じている。このミステリーの進展に大きくかかわっている肝の女性だ。

2.女子学生との不倫
美人女子大生ジルに対して、エイブ教授はレポートにユニークな意見が書かれてあるねと声をかける。インテリに知性をくすぐられたので、ジルは舞い上がる。ちょっと変わった男だけど、確かに哲学の道には詳しい。一気に彼女は引き寄せられる。


ジルには大学生の彼氏がいる。それでも、教授への想いは募るばかりだ。こんなかわいい女の子に言い寄られ我慢できる男は、男色家以外はいないだろう。腹が出ているホアキン・フェニックスがそんなにもてるかい?てな感じだが、エマストーンが中年知識人に惹かれる女の子をウディアレンのリードでらしく演じている。そうしていくうちに事件が起こり、取り巻く環境が一転する。謎解きが進むにしたがって、エマストーンのパフォーマンスに味が出てくる。

3.センスのいい音楽
ラムゼイルイストリオの64年の曲ジ・イン・クラウドが繰り返しバックでかかる。バックががやがやしたライブ録音の曲だ。いいねえ。



自分の世代だと、アースウインドアンドファイアモーリス・ホワイトと組んでファンキーなフレーズを奏でていたラムゼイ・ルイスの曲が脳裏に浮かぶ。
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映画「レジェンド 狂気の美学」 トムハーディ

2016-06-22 19:24:26 | 映画(洋画:2016年以降主演男性)
映画「レジェンド 狂気の美学」を映画館で見てきました。


「マッドマックス」「レヴェナント」と人気作に出演し今一番の赤丸急上昇中といえるトムハーディが、英国ロンドンに実在した双子のギャングを一人二役で演じるという。しかも監督のブライアン・ヘルゲランド「LAコンフィデンシャル」の脚色で有名で、最近は映画「42」を監督している。これはみるしかない。

1960年代初頭、活気に満ちたロンドン。強い絆で結ばれた双子のギャング、レジーとロンのクレイ兄弟(トムハーディ一人二役)は、その頭脳と暴力で街を支配していた。アメリカン・マフィアと手を組み、政治家やセレブリティと親交を深めた彼らは一大犯罪帝国を築いていく。


そんな時レジーは部下の妹フランシスと出会い、恋に落ちる。フランシスのために悪事と手を切ると約束したレジーはナイトクラブの経営に注力するようになるが、それを快く思わないロンは破滅的な行動を連発。組織内に不協和音が生まれ、さらに警察の執拗な捜査が迫り、兄弟の絆と栄華は脅かされようとしていた―。 (作品情報より引用)


映画はレジーの恋人フランシスのナレーションで誘導される。ロンドンのイーストエンドのスラム街で育ったこの2人の兄弟はいずれも野獣のような凶暴性をもち、シャバと刑務所の往復である。レジーの方がフランシスという恋人を得て堅気に近い事業を進めようとするが、精神を病んで精神安定剤なしでは生活できないロンはハチャメチャになってしまう。そんな兄弟の異常とも言えるパフォーマンスを60年代の空気を感じさせる音楽をバックに描いていく。

1.トムハーディ
彼の存在を意識したのは、「ダークナイトライジング」においてバットマンを圧倒し、マスクをはがしてしまう極悪人を演じたときだ。その後キネマ旬報ナンバー1作品「マッドマックス」で強烈な印象を残し、近作「レヴェナント」ではレオナルドディカプリオの敵役を演じた。完全に主役が張れる存在になっている。


自分としては、DVDスル―になった格闘技映画「ウォーリア」でのトムハーディの強さに感嘆したクチである。「ダークナイト」ではマスクをしたり、「レヴェナント」ではヒゲもじゃであるのと対照的に「ウォーリア」では男前の素顔を見せてくれる。
この映画でもダンディなレジーがイタリアンスーツをカッコよく着こなす姿には女性ファンはぞくぞくするであろう。

2.印象深いシーン
銃で撃ち合うというよりも凶暴性を示すようなケンカシーンが多い。相手の陣地に弟と一緒にの乗りこみ、トンカチをもってロンが相手にぶち叩くシーンには目をそむけてしまう。

あとはレジーが刑務所に入った時、刑務官5,6人にリンチまがいにコテンパンに殴られ、留置された後に、最初は死んだふりをしていたレジーが水を飲ませてくれとオリの外に刑務官を呼んだとき、相手の手錠をさっと奪って刑務官の手をオリに手錠をかけてしまい、ボコボコにするシーンもすげえなあ。


でも一番は二人の兄弟げんかだろう。作品情報によるとトムハーディの専任スタントと2人でまじな殴り合いをしているそうだ。そりゃ迫力あるなあ。

大暴れぶりはここ↓



3.60年代のテイスト
政界や貴族にも影響力をもったクレイ兄弟が、要職の人物と記念撮影をしてその写真を送りつけたり、マスコミにリークして大騒ぎをさせて脅す。この時代は労働党政権でハロルド・ウィルソン首相時代だ。映画の中でも政治家がらみのシーンがいくつか出てくる。
自分の小学校低学年のころで、自宅には父親が持っていた「ハロルドウィルソン」に関する本があった。あの頃、イギリスでは「ゆりかごから墓場まで」の素晴らしい福祉政策が繰り広げられていると日教組系教員は絶賛し、小学校でも教えていたが、英国経済の停滞を招いたのは間違いない。ハイエク の影響を受けたマーガレット・サッチャー政権で真逆の自由主義になってようやくまともになった。


ケイト・ブランシェット「キャロル」に近い時代だ。映像のテイストは「キャロル」のようなしっとり感は皆無だが、音楽とファッションや登場する車で60年代の匂いがプンプンする。同時代のビートルズはまったく流れないが、ブリティッシュ・ロックやモータウンサウンドそして「夏の日の恋」のようなイージーリスニングを交えて映像に合わせて流れ続ける。これはこれで快適だ。

この2人に無記名債券を持ちこまれる。盗品もふくまれている。これを現金にしたら、盗んだ人に20%あと残り80%は持ち込んだ人間と換金したクレイ兄弟一家に半分づつという取り分だ。無記名債券で金丸信元副総理のことを急に連想した。彼が逮捕された時、無記名債券が金庫から億単位ででてきたなあ。クレイ兄弟に頼んでいれば換金できたのにね(笑)

(参考作品)
マッドマックス 怒りのデス・ロード
トムハーディ主演絶叫映画



ウォーリアー
トムハーディの格闘技映画これがかっこいい
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映画「64 後編」 佐藤浩市

2016-06-12 20:38:42 | 映画(日本 2015年以降主演男性)
映画「64 後編」を映画館で見てきました。


横山秀夫のベストセラーミステリーの映画化である。わずか7日しかなかった昭和64年1月におきた未解決幼児誘拐殺人事件の時効があと1年に迫る中で、同じような誘拐事件が14年たって発生する。当初から刑事として捜査に加わっていた現在広報官になっている佐藤浩市と幼児を誘拐され悲痛に暮れていた永島正敏を中心に事件の推移を語っていく。

捜査当局と警察に入っている記者クラブとの関係、県警本部での地位を守ろうとする幹部と本庁幹部との関係それぞれにおきた葛藤を語りながら、事件を紐解いていく。佐藤浩市、三浦友和、夏川結衣のベテランに綾野剛、瑛太といった若手がうまく交わり合った豪華配役陣がうまくこなすのに加えて、久々登場の緒方直人がいい感じの演技を見せる。


昭和最後の年、昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件は刑事部で“ロクヨン”と呼ばれ、被害者が死亡し未解決のままという県警最大の汚点となっている。その事件から14年が過ぎ、時効が近づいていた平成14年、“ロクヨン” の捜査にもあたった敏腕刑事・三上義信(佐藤浩市)は、警務部広報室に広報官として異動する。記者クラブとの確執、キャリア上司との闘い、刑事部と警務部の対立のさなか、ロクヨンをなぞるような新たな誘拐事件が発生する。そして三上の一人娘の行方は……。
(作品情報より)

1.群馬のロケ
横山秀夫上毛新聞の記者をやっていたせいか、舞台が群馬となる。原作では架空の町となっていたが、地理的にもこのエリアを連想して書かれているので当然そのロケが中心である。


是枝監督の「そして父になる」でも群馬が舞台になったが、河川が流れる周りに発展するいかにも典型的な北関東地方都市風情の町は映画にはしやすい。古典的昭和チックな喫茶店もまだまだ残っているのもいい。

2.未解決事件
もともとの未解決事件があって、時効間際に同じような事件が起きるというパターンは割とある気がする。クライムサスペンスが得意な韓国映画にも「悪魔は誰だ」といういい作品がある。もちろん途中からの展開は異なるが、正直真犯人もこのひっかかりは間抜けじゃないかと思ってしまう。


群馬は人口20万前後の都市がいくつもある場所で、こういう狭い社会だったらきっちり調べれば犯人は特定するのが容易のような気もするんだけど、この映画のモデルにあった未解決事件やすぐ隣の両毛地区での「足利事件」など割と凶悪な事件が未解決になってしまうのはいかがなものかと感じる。

3.豪華な配役陣
やはりこの映画の主役は佐藤浩市がベストだろう。安定感が抜群である。三浦友和もヤクザ映画などへの出演をへて、ちょいと悪い奴の演技がうまくなってきた。永島正敏が犯人を見つけるために執念をしめした行動が凄いが、その時に見せる表情が狂気に迫る。好演である。

今回久々に見たのが緒方直人だ。


彼の近年の出演作を見ると、ほとんど見ていない。平成の初めの頃の大人気ぶりを思うと、何でこんなに影をひそめてしまったのかと思う。緒方直人の顔を見てすぐわかったが、しばらく出くわしていないので違う人と勘違いしたのかと思ってしまう。エンディングクレジットでは綾野剛よりも下になっている。オヤジのような凶暴なイメージはない。でも一見まじめ風で何をするかわからないなんて役は適しているかもしれない。今回の大活躍で少しは株をあげたのではないだろうか?

映画としてはまあまあといった感じかな
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映画「海よりもまだ深く」 阿部寛&樹木希林

2016-06-12 06:46:27 | 映画(日本 2015年以降主演男性)
映画「海よりもまだ深く」を映画館で見てきました。


阿部寛主演、是枝裕和監督の新作が気になっていたが、ようやく見れた。元妻に未練たらたらのできの悪い作家くずれの物語で、大きな衝撃的な出来事があるわけではない。ギャンブル好きで夫婦関係をたたざるを得なかった阿部のダメ男ぶりが絶妙で、その母親である樹木希林がかなりアドリブが入っているんじゃないかと思わせるセリフを語っていく。いずれもうまい。さりげないセリフに味わいがある。

15年前に文学賞を一度獲った売れない作家の長男・良多(阿部寛)は、今は探偵事務所に勤めている。団地で気楽な独り暮らしをしている母・淑子(樹木希林)の家に行き、収納をほじくり出し金目の物を探して質屋に持ち込んで金策をしのいでいる。元嫁・響子(真木よう子)はギャンブル好きでふらふらしている良多に愛想を尽かして離婚した。良多は11歳の息子・真悟(吉澤太陽)の養育費も満足に払えないくせに元妻に未練たらたらだ。それでも響子を張り込みし、彼女に新しい恋人ができたことを知ってショックを受ける。


ある日曜日、良多と真悟が定期的に会うことになっている日だった。相変わらず、養育費が支払えない良多だったが、子供のために野球のスパイクをかったあと、むりやり母・淑子の家に連れて行った。響子が迎えに来たが、台風が強くなり、暴風雨で帰れない状態になった。団地の中で4人は一つ屋根の下で一晩過ごすことになる。


「歩いても歩いても」は同じ阿部寛と樹木希林のコンビで、無職になった主人公阿部がある夏に帰郷したときの日常を描いた非常に味わいのある映画であった。流れるムードはその映画と似ている。とてつもない事件が起きるわけではない。離婚した妻が偶然夫の実家に泊ってしまうということは、そうはある話ではないけど完全に日常を逸脱しているわけでない。

そんな状況の中での阿部寛と樹木希林の動きを楽しむ映画なんだろう。是枝監督が28歳まで過ごしたという清瀬の団地での映像がほとんどで、狭い団地の部屋で大柄な阿部寛が窮屈そうに演じているのがいい。

1.阿部寛
今回の阿部寛はダメ男である。ある文学賞を受賞したけど、その後泣かず飛ばずで気がついたら探偵業をしている。おそらくはギャンブル好きで、働いた給与も全然家庭に入れなかったのであろう。愛想を尽かさせて妻と息子は家を出ていってしまう。でもその妻に未練たらたらだ。
探偵業といっても、依頼人から妻の素行調査を引き受けて、浮気の現場をおさえた後にその写真を妻に持参し金をゆするなんて悪いやつだ。高校生に対しても同じようなゆすりをしている。真面目な人ならその不良ぶりに見て気分悪くする人もいるだろう。でも何か単なる悪とちがうムードがあるんだよなあ。


ゆすったお金を競輪場にいって、もっと増やしてやるとばかりに賭けてしまい外れて競輪選手に罵声を浴びせたり、妻が今付き合っている男を探偵業の業で見つけ出し、こっそり追っていくシーンなどあーあと思ってしまう。台風できっと帰れなくなるだろうと予測しながら息子を実家に連れていくなんて気持ちはわからなくもない。でも何やっても夫婦関係の修復は駄目なものは駄目である。どうやっても逆転しない。最後までそんなシーンが続き、ダメ男に徹しているのもいい感じだ。


2.樹木希林
夫に死に別れて、独立をした息子と娘が残った。めったに帰ってこない息子が金がないので、金目のものがないかと実家の押し入れの中を物色している。それを見て母はあんた金がないんでしょうというが、そうでないと言い張る阿部寛だ。調子に乗って母親に一万円札を小遣いとしてあげてしまう。でもそのお金は阿部寛が姉の小林聡美からせびったものだ。嬉しくなった母が姉に電話をしてばれてしまう。姉に呆れられる阿部寛。そんな逸話が続いていく。


元夫の実家に連れられて行った息子を迎えに行き、本当はすぐさま帰ろうとしたのに風雨がキツイ。絶対イヤなのに元姑は盛んに泊まっていけとうるさい。そもそも離婚していないとしても、こういう時、女が夫の実家に泊まりたがらないのは自分も経験あるのでよくわかる。でもタクシーもすぐさま来そうもないので、元嫁はついに泊まることを決断する。そこで樹木希林が大喜びだ。その後のパフォーマンスが妙に現実味がある。 同じような場面を経験したことがあるので、亡くなった母を思い出し樹木希林の動きが健気な気がした。

もう一度戻ってほしい気持ちが強い姑が戻れないかと元妻に懇願するシーンもどこかつれない。元嫁に帰ってほしい夫の母の気持ちがにじみ出ている。元妻には何の悪いところがないけれど、元夫だけでなく姑にまで言われるのはつらいなあ。

ここでも樹木希林の演技は神がかりの粋に達しているような気がする。コメディタッチが強い渥美清の演技がアドリブのセリフを織り交ぜて、境地に達したのと同じ類いだ。

そしてテレサテンの歌がしみじみとラジオ放送の中流れる。なんと情念のこもった歌なんだろう。香港のマギーチャン主演「ラブソング」の時に感じた同じような衝動を感じながら静かなラストを体感した。

(参考作品)
歩いても歩いても
是枝監督&阿部寛&樹木希林の名コンビ
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