映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「メランコリック」

2021-11-30 19:53:38 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「メランコリック」は2019年公開作品


映画「メランコリック」は低予算で作られた作品で、当時意外なヒットとなった「カメラを止めるな」と同じように面白いといううわさであった。しかし、「カメラを止めるな」自体をあまりいい映画と思っていない自分からすると、俳優も知らないメンバーばかりでつい後回しになってしまった。

このところ公開映画に興味をもてる映画が少なく、Netflix映画のラインナップに「メランコリック」を発見して、ダメ元で見てみた。そうしたら、予想に反してむちゃくちゃおもしろい。たしかに、映画界周辺でさまよう30代に足を踏み込んだばかりの3人が中心になって低予算でつくったと言われるとそのようだが、そうあまり感じさせない田中征爾の脚本と演出の巧さに満足した。自分の心境からすると、超掘り出し物である。

大学を出ても就職せずにフリーター稼業を続けていた男が、近くの銭湯でバイトをすると、その銭湯の洗い場では深夜殺された死体の処理をしている秘密を知ってしまう。やむを得ずに自分も銭湯の関係者と一緒となってその稼業に従事するという話だ。


「カメラを止めろ」がゾンビ映画の制作に絡んだ話で、「メランコリック」の作品情報を軽く読んで、死体の酷い処理をする「冷たい熱帯魚」のようなおぞましい世界を想像していた。実は死体は出てきても、見るに耐えない映像が出てくるわけではない。むしろ、コメディタッチの青春映画を観ているような感覚をもつ。作品のタッチは柔らかい。有名俳優はまったく出ていない。だからといって素人の映画づくりレベルの稚拙な作品ではない。見応えもある。

東大を出たにもかかわらず、就職もせずフリーター稼業の鍋岡和彦(皆川暢二)は実家暮らしでうだつが上がらない。風呂の湯が切れてたまたま行った近所の銭湯松の湯で高校の同級生・百合(吉田芽吹)と出会ったのをきっかけに、百合の勧めもありその銭湯で働こうと思い立つ。

もう1人の仲間松本(磯崎 義知)と2人面接をしてオーナーの東(羽田真)に採用されて働き始める。ところが、百合と飲みにいった帰りに電気がついている深夜の風呂場を覗いてみると、そこで同僚の小寺による殺人と死体処理が行われているのを見てしまう。小寺に見つかり脅されドキッとしたが、結局オーナーの東が助け舟を出して、死体処理を手伝うことになる。

東は裏社会筋の田中(矢田政伸)に借金があり、この稼業をやらざるを得なかった。また、別の機会に同僚の松本も死体処理の仲間であることを知る。ところが、続けて殺し屋稼業に従事していた小平が襲撃を失敗すると、同僚の松本に殺しの仕事が降りかかってくるようになるのであるが。。。

⒈ありえない話ではない
殺し屋って日本にいるのは間違いないだろう。豊田商事社長やオウムの幹部が大衆の面前で無残に殺された。あんな風に世間に顔もさらす殺し屋は少ないだろうが、表に出てこない殺し屋っているだろう。確かに、銭湯は死体遺棄には都合がいい。死臭はすぐ処理すれば換気で大丈夫だろうし、釜の入り口がそれなりにあれば、映画「冷たい熱帯魚」のように細かく死体をカットしなくても処理できる。


⒉裏社会への借金
銭湯のオーナーも裏社会の筋者に借金をしている。ヤクザが絡んだ借金といえば、事業がうまくいかず高利の金を借りたのか?博打やノミ行為のツケで借りることも考えられる。少しずつ返すといっても、減らないから裏稼業の死体の遺棄を手伝い続けるのだ。始末させられなければならない奴もそんなにいるんだろうか?組同士の抗争だけでなく、ひっそり行方不明にさせて財産をふんだくる連中もいるのだろう。


そういうイヤな世界は映画では大げさには見せない。そもそも裏社会もどきの田中がヤクザとか組のものというセリフはない。死体の処理についても、借金の理由についても、なぜ殺されるのかもディテールは語られない。そういうセリフもない。こちらが映像で想像する域を超えない。ここでは、女に縁がなかった主人公の元同級生との純愛を織り交ぜる。青春ドラマ的要素でトーンを下げる。緩急自在だ。


そんなムードで流れる。

⒊浦安市猫実
松の湯の玄関横に猫実と住居表示がついている。全国的に有名な町名でないが、千葉で仕事をしたことある自分にはわかる。東西線浦安駅から近いアドレスで実在だ。浦安といえば、東京ディズニーランドのあるところ。浦安市の名前なら誰でもわかってしまうが、猫実ではわからない。しかも、映画の中で浦安の地名は出てこない。見ようによれば、どこかの地方都市にも見える。

たぶんロケハンティングで松の湯がうまい具合にハマったのであろう。浦安は漁師町でもともとディズニーランドがあるエリアや新浦安駅付近の広大な住宅地は海だったエリアで埋立地である。海に近いという利点は純愛物語に少しだけ活かせているかもしれない。

⒋ラストに向けての逆転とツッコミどころ
最終的に銭湯のオーナーと2人の従業員はある殺しに絡む。ここでは詳細を語らない。単純にことが運ぶかといえばそうではない。でも、修羅場での展開は事前予想を裏切った。オチはよく考えている気もする。個人的にはマーティンスコセッシ監督の「ディパーテッド」が歯切れよく結末を迎えるのを連想した。

でも、ここまではリアル感があっても最後に向けてはちょっと雑だな。

ツッコミどころ(ネタバレ少しあり)

車の逃走
殺しに挑んで、不意に松本が銃弾をうける。すぐ死んでもいいはずだが、そうならない。とどめ射ちもされない。その負傷した松本を鍋岡が車を走らせて運ぼうとする。でも、鍋岡は運転できない。アクセルもブレーキもどこを踏んで良いのかわからないと言う。でも、無理やり発進させる。気がつくと2人は鍋岡の自宅にいるのだ。

運転って未経験者にそう簡単にできるもんじゃない。教習所でいきなりエンジンを円滑に発進させられるのは余程のやつだ。まあ、これってありえない。運転はできる設定にすべきにして展開を考えるべきでは?しかも、銃弾を受けて大丈夫なわけがない。気がつくと、鍋岡の母親が銃弾を処理している。事情を知らない身内がこんなことするか。しかも、夜には回復だ。この辺りは実現性が薄いので醒めると言わざるをえない。その後の銭湯営業を含め、リアル感へのちょっと詰めが甘い。とはいうもののおもしろかったのは確かだ。
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Netflix映画「ブルーズド」 ハルベリー

2021-11-28 17:47:54 | 映画(洋画:2019年以降主演女性)
Netflix映画「ブルーズド 打ちのめされても」は2021年配信のNetflixオリジナル映画


Netflixで面白そうな格闘技映画「ブルーズド 打ちのめされても」を見つける。アカデミー賞女優ハルベリーが監督主演のようだ。底辺から這い上がっていくファイターを描く格闘技映画って好きだ。ついこの間も北朝鮮脱北者がボクサーになる話を観たばかりでおもしろかった。ここ最近Netflix映画にはつまらなく外されることが多く、Netflixオリジナル作品はいくつも感想が棚上げになっている。逆にこれは十分楽しめた。

総合格闘技の世界で勝ち抜いていたのに惨敗して引退して堕落しきった状態の女主人公が、離れて暮らしていて言葉を失っていた6才の息子を引き取りながら、黒人女性トレーナーの下、再度UFCのチャンピオンを目指す話である。

元UFCで活躍していたジャッキー・ジャスティス(ハル・ベリー)は元マネジャーと怠惰な生活を送っていたが、地下の本気ファイトの会場で周囲に正体を見破られる。アングラで闘う「男にしか見えない大女」にファイトを挑まられて、元の杵柄で倒す。開始早々のこのファイトシーンでハッと目が覚める。ハルベリーの身の交わしに驚く。すげえなあ!

アクションに度肝を抜かれたあとは、アメリカ下層社会特有に共通する家庭内問題を連続でさらけ出す場面が多い。上昇志向で上を目指すトレーニングシーンは、代役に任せているとは思えず、ハルベリーが映画製作に向けて鍛えた基礎体力の凄さがよくわかる。これって男優でもそう簡単にはできない。挑戦してもあっさり秒殺されるという世間の評価とは裏腹に懸命に頂点を目指して闘う姿を身をもって表現する。今や若くはないハルベリーに敢闘賞をあげたい気分になる。

⒈ハルベリー
「チョコレート」黒人女優初のアカデミー主演女優賞を獲得した。大胆に脱いで形の良いバストを披露して度肝を抜いた。ボブソーントンとの絡みシーンは今でも脳裏に残る。いい映画だった。考えてみると、あれから20年も経つ。映画見終わって年齢見直したら55歳だって。それなのに、この映画の格闘パフォーマンスは信じられない。


アカデミー主演女優賞を受賞した後の2000年代前半、ボンドガールを演じたり、ラジー賞とはなったが、「キャットウーマン」を演じた。自分にはいずれも世評以上によく見えた。ハルベリーの映画を感想アップするのも10年ぶり以上経つ。ブルースウィリスとの共演「パーフェクトストレンジャー」以来だ。

割と気前よく脱いでくれ、しかも裸体は美しく映画映えする。ここでも、ヒモのような元マネジャーとの激しいファックシーンやレズビアンシーンも用意されている。通常こういうトレーナーは絶叫型の男性が常道である。トレーナーのブッタカンは,東洋の神秘みたいな振る舞いだ。混血黒人のハルベリーと違いアフリカの陸上選手のようなイメージで色も黒く逆に存在が新鮮だ。そして硬い話だけではもたないと、黒人トレーナーとの絡みレズビアンシーンで柔らかさを出すのも悪くない。

⒉下層社会のネタ満載
映画では、下層社会に彷徨う姿をこれでもかとあぶり出す。元マネージャーだった恋人のデシもろくに働いていない。ジャッキーを非公式のファイトクラブに連れていって、再度格闘技の世界に入らせてちゃっかり儲けようとしている。

ジャッキーがむかし作って別れた子の父親が殺されてしまい、実子は言葉を発することができなくなる。そんな子を引き取るが、ジャッキーの恋人は連れ子へ家庭内暴力をふるって、日本のワイドショーまがいの話となってしまう。それに加えてジャッキー本人が受けた少女時代のレイプの話で母親ともめたり、常にいさかい起こしての家出の連続とか下層社会を象徴するような最近の日本映画と同じ展開はちょっと見飽きたかな。


それでも、最後の試合シーンは自分が見た中では、形勢が逆転に次ぐ逆転で迫力ある演出になっていたと思う。メイクでできたケガも多いけど、実際にも生キズものであろう。あえて言えば、下層社会の面倒な部分はもう少し適度な量にして、下層から這い上がろうとする勝利のファイトシーンを見せてくれる方がもっとよかったかな?その方がみている方には高揚感が高まる。でも、そうできるほどにはハルベリーは若くないという気もする。
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映画「赫い髪の女」 宮下順子&石橋蓮司&神代辰巳

2021-11-27 16:43:23 | 映画(日本 昭和49~63年)
映画「赫い髪の女」を名画座で観てきました。


映画「赫い髪の女」は1979年2月公開で日活ポルノでも傑作と名高い作品である。最近はDVDあるようだが、以前はレンタルで見たことなかった。初見である。名画座の日活ポルノ特集で観たかった映画だ。

奇才中上健次原作神代辰巳監督がメガホンを持ち荒井晴彦脚本というだけで一定以上の質は保証と確信する。宮下順子と石橋蓮司の主演作で、若き日の石橋蓮司の髪がフサフサだ。神代辰巳作品特有のねっとりした絡みのリズムがここでも顕著だ。「赫」という文字に不思議な感情をおぼえる。

ストーリーはどうってことない。うらぶれた海岸沿いの町でダンプの運転手をしている光造(石橋蓮司)が、ドライブインで赤い髪の女(宮下順子)が1人たたずんでいるのを見つける。同乗している光造の仲間と女をひろう。乗っていて突然生理になったと女はダンプを飛び出すが、光造の部屋に向かう。女は名乗らない。どうも亭主がいて、子供もいるらしい。でも、お互いに詮索はしない。あとは情交の連続である。

⒈70年代の地方の情景
石橋蓮司は海沿いの町の土木工事に関連したダンプやブルドーザーの運転手をしている。定職というわけでもなさそうだ。住むアパートはかなりボロい。階下からシャブ中毒の男女の金切り声が聞こえる。お風呂すらない。宮下順子も外の銭湯に行く。たまにインスタントラーメンをすするが、それ以外はひたすら交わる。


70年代のうらぶれたアパートから町に買い物に行く。地方の風景が懐かしい。これが、80年代を過ぎて90年代ともなると、地方にもロードサイド店舗が増えてファミリーレストランが全国どこでもあるようになる。まだ昭和の車が走る街道沿いにドライブインがポツリポツリとある世界だ。

どこでロケしたのであろうか?和歌山出身の中上健次がイメージする海辺の町の肌合いがいい感じだ。ひたすら雨が降り続ける映画である。それも汚いアパートの外でかなり降る。抱き合う2人の情感が高まる。

⒉肌をあわせる宮下順子と神代辰巳
脚本の荒井晴彦はごく最近に火口のふたりという柄本佑と瀧内公美が肌を合わせ続ける映画を撮った。大胆な演出で話題になったが、神代辰巳監督のワイルドな映像に比べればまだまだエロ映画演出の修行が足りないという印象を受ける。ここでも、神代辰巳の演出はワイルドで、宮下順子も応えている。79年の作品なので、火口のふたりのようにヘアがポツリと見えるちゃんと前貼りしているのかいというほどの映像になりえない。番外編のように肉感的な絵沢萌子にトルコの泡踊りの真似事をさせるシーンがいい感じだ。


それにしても、宮下順子の動きに情を感じる。肉感的なボディではないし、乳房も小ぶりだ。若い頃は大して興味なかった。ここでは、ネットリしていて汗をかきながら石橋蓮司と何度も交わる。こんなにいい女だっけ?と思わせるほど今の自分にはよく見える。

⒊中上健次
原作「赫髪」短篇集「水の花」の中の作品である。中上健次和歌山の新宮で生まれている。平成のはじめに自分も和歌山にいたことがあり、親しみを感じる。古代からの歴史があるところ特有に差別は激しいエリアで、小説でも被差別エリアのドツボさを取り上げている。性描写が尋常でない。

映画化した新宮と新宿歌舞伎町を舞台にした軽蔑、紀伊半島の古いおぞましい慣習が映像に覗ける千年の愉楽、王子から十条で働く新聞配達の受験生をピックアップした十九歳の地図いずれもブログで取り上げた好きな映画である。それぞれの主人公はいずれも変わった奴だ。中上健次は文学者としてはそれなりに成功した男なんだけど、死ぬまで劣等感を持って生きて来た感じがある。

「赫い髪の女」の主人公は昭和の田舎町によくいるただの運転手だ。女も教養のかけらもない。社会の底辺をさまようそんな2人が言葉も交わさずにひたすら交わるこんな本能的な感じも悪くない。
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映画「ファイター、北の挑戦者」 イムソンミ

2021-11-16 10:57:34 | 映画(韓国映画)
映画「ファイター、北の挑戦者」を映画館で観てきました。


「ファイター、北からの挑戦者」北朝鮮からの女性脱北者がボクサーになって這い上がろうとする話である。ボクシングと映画の相性はいい。個人的には成り上がりのボクサーの映画が好きである。育ちが良くなく不遇な人生を送っていた主人公がボクシングに活路を見出だし這い上がっていく。そんなストーリーが多い。ただ、ここでは若干展開が違う。

ストーリーも単純には行かず、演じる俳優もいい感じで、なかなかよくできている映画である。すごくよかった。これも自分にあっている映画だ。

女性ボクサー映画といえば、ヒラリースワンク主演のアカデミー賞映画「ミリオンダラーベイビー」安藤さくら「百円の恋」という傑作がある。ドツボからボクシングで腕を磨き這いあがっていく高揚感とその後のエレジー的展開はこの2人の好演と合わせて心に残る。「ファイター」はこの2作に接近する要素を持つ傑作と言える。

ソウルの片隅、脱北者の女性リ・ジナ(イムソンミ)が、入国後支援センターでの生活したあと、小さなアパートに入居する。公的な援助はあれど、生活のためにジナは知り合いの紹介で食堂で働き出す。父は中国にまだ残っている出国できない。呼び寄せるためにはカネがいる。でも、水商売はいやだ。ボクシングジムの清掃の仕事を掛け持ちですることになった。

ボクシングジムでは館長とトレーナーのテスが2人で切り盛りしていて、女性も数名ジムで練習していた。スパーリングを興味深げに見ていたジナにテスが声をかけるが、自分はやらないと言う。それでも、早朝にサンドバックを叩いているジナをジムに泊まっていた館長が見つけると同時に素質を見出す。ジナは北朝鮮では軍に入って格闘の訓練を受けていたのだ。いくつもの事件が起きカネを稼がねばならない状況となってきて次第にトレーニングに身が入るようになるのであるが。。。


⒈脱北者の主人公と心の闇
素朴な風貌だ。韓国風派手な化粧はなく、美人ではない。会社の同僚にでもいそうな感じである。働き者で、食堂やボクシングジムで黙々と仕事をする。ただ、周囲にも、積極的に接してくる韓国男性にも心を閉ざしている。

ここでは具体的に触れていないが、やっとの思いで父と脱北したのであろう。中国に行ってから、韓国に入国している。最初に携帯電話で父親と話しているシーンを見て、え!北朝鮮と電話できるの?と思ったが、父親は中国にいるようだ。でも、中国への密入国がわかって父親は収監されてしまう。しかも出るにはお金がいる。


北朝鮮では軍に所属したこともあるらしい。格闘能力の素質がある。いくつかの暴力沙汰のトラブルを起こしてしまう。

⒉予想を覆すストーリー
寒々としたアパートの一室には何もない。トレーラーハウスで暮らす家庭で育ったヒラリースワンクと怠惰な人生を送っていた安藤さくらと同様に下層社会からのスタートであることには変わりない。2人がボクシングに生きがいを見出し、グイッと這いあがっていくのと同様にジナにも転機が訪れる。


そこからは若干違う。リングでのファイト場面での高揚感は両作に比べると少ない。それよりも、周囲との葛藤と対立に焦点をあてる。心理戦だ。脱北者というのは、韓国では異端なのだ。言い寄ってきたアパートの斡旋業者の男やジムで練習する意地の悪そうな女たちはいずれも脱北者を自分より下と見ている。葛藤が起きる。それに加えて、韓国にはジナが12 歳の時にに1人で脱北した母親がいるのだ。しかも、裕福な家庭で娘もいて幸せそうだ。昔の幸せだった家族写真を眺める姿がせつない。

こういう適度に多すぎない登場人物を絡めてストーリーを進める。展開は予想外の方向に進む。この辺りのストーリーテラーぶりはお見事だ。つらい中で生きていくジナへの共感も高まる。満足度は高い。


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映画「花椒の味」サミーチェン

2021-11-13 20:24:31 | 映画(自分好みベスト100)
映画「花椒の味」を映画館で観てきました。


花椒の味は2019年の香港映画である。デモの後はコロナ禍で大好きな香港にも行けないので、映画だけでも楽しみたい。現代香港の様子が垣間見れそうなので映画館に向かう。スター女優サミーチェン主演で、インファナルアフェアなどでコンビを組んでいたアンディラウが友情出演する。妹役で台湾と中国の女優も加わり、結果的によかった。

心地良い快適な時間が過ごせた。こういうムードがいちばん自分に合う。
急逝した父親に異母妹が2人いることが死後わかった姉が、父親が営む火鍋料理店を妹の協力を仰ぎながら引き継ごうとする話である。

香港、台湾、重慶と遠く離れた三つの街の現代の姿を映し出す。ストーリー展開に意外性はない。香港アクション映画の肌合いは当然皆無で、色恋沙汰も濡れ場もない健全な展開だ。それでも妙に安心感がある。父娘で情感こもる気持ちを交わしあう話にはどうも弱い。

香港の旅行会社で働くユーシュー(サミー・チェン)は、母と死別し、浮気がちだった父との関係は良くなかった。ある日、父が倒れたという連絡が入るが、病院へ駆けつけたときには既に亡くなっていた。父の遺品の携帯を探ると、台北に暮らす次女のルージー(メーガン・ライ)と、重慶に暮らす三女のルーグオ(リー・シャオフォン)という異母妹の存在がわかる。葬儀の日程を遠く離れた2人にも知らせる。

父の葬儀で3人は初めて会う。あっけらかんな三女の個性もあり、わだかまりなく気持ちを通じ合うことができる。


長女は父が営んでいた火鍋店をたたむつもりであったが、残された店員の強い要望で継続することにする。しかし、火鍋の秘伝のスープは父以外の誰も作ることができず、レシピはなかった。手探りでつくっても予約してきた常連客も味の違いに戸惑う。そんな時、帰国後それぞれに葛藤を抱えた次女と三女が香港にやってきて姉を助けるのであるが。。。


⒈3人の娘をつくった父親
亡くなった父親はもともとは台湾生まれであった。周囲に馴染めず香港に来たあとに家庭を持ち長女をつくる。ところが、台湾に帰郷して昔の恋人に再会し、次女ができる。それだけにおさまらず、重慶で三女ができてしまうのだ。

クールな出で立ちの台湾の次女はプロのビリヤードプレイヤーで身を立てていた。大きな大会にも出場する。母親は金満家と再婚し、異父妹もいるが一緒に暮らさない。どぎつく髪を染めた重慶の三女はネットでファッションの通信販売をしている。母親は再婚し別居、祖母と暮らしている。

そんな2人と父親は連絡を取り合って心が通じている。でも、2人とも本国で複雑な家庭独特の悩みを抱えている。


⒉サミーチェンと長女
反抗心の強い長女である。台湾に女をつくって、火宅の人だった父親のせいで母娘は肩身の狭い生活をしてきた。父親は長女にも強い愛情を持って接しようとするが、まったく通じない。今回2人の妹が来て、自分が知らない父親の一面を知り驚くのだ。求婚されている恋人(アンディラウ)はいても、相手が忙しくて一歩踏み出せない。


むしろ妹2人と父親との関係を眺めながら、父親への想いが変化していく。むしろ、生前に優しくしてあげられなかった想いが強くなる。そんな姿を見ていくと、娘を持つ父の立場からすると評価が高くなってしまうし、心地がよくなる。

派手さを抑えてものすごくナチュラルなサミーチェンも今までの中でいちばん良く見えた。

⒊相続と争族
この姉妹驚くほど、仲良く接するが、普通こんなにうまくいくだろうか?どうしても遺産の分配というのが気になってしまう。まったく離れている姉妹でも法定相続の遺留分に注目して、もめ事がスタートするのが日本の常。


どうにも香港の争族問題がよくわからないので、これについてはなんとも言えない。ただ、ここでは詳しく言えないが、自分も似たような問題を抱えているのでこの映画を見て別の思いを心に抱いた。


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番外2懐石

2021-11-12 19:40:50 | 食べもの
またまた東京のど真ん中の超高級料理店にておまかせ

カニでスタート




お椀がきれいなので

中身は鴨


ふぐ刺し、これが超うまい。お酒は森伊蔵で


箸休め


生ぼたんえび


さわら


フカヒレがはいっている極上スープ仕立て煮


なぜかハンバーグみたいな


牡蠣ごはん


感染者増えるな!!
まだまだ行くぞ
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映画「アンテベラム」ジャネール・モネイ

2021-11-09 21:47:42 | 映画(洋画:2019年以降主演女性)
映画「アンテベラム」を映画館で観てきました。


「アンテベラム」は映画評を見て行きたくなった映画である。どんでん返しがあって、あらすじすら知らないで行った方がいいネタバレ厳禁映画と言われると好奇心がわく。南北戦争時代の奴隷による強制労働と黒人人種差別が映画の根底に流れるようだ。そんな基礎知識だけで、映像を追う。

映画としては、「ショーシャンクの空」を監督したフランクダラボンによるスティーブンキング原作の映画「ミスト」を連想させる秩序を失う世界に持ち込まれた。スリラー的要素も持つけれど、スプラッター系、ホラー系ではないので苦手な人はご安心を

最初にアメリカ南部の綿花畑が出てきて、南北戦争の南軍の白人兵が見張る状況で、無理やり働かせていて脱走しようとする黒人が迫害されるシーンが次々出てくる。その1人に監視の白人兵から個室でお仕置きを受けている黒人の若い女性がいる。名を名乗れと言われても黙っている。すると、リンチじみた仕打ちで痛ぶられ、やむなくエデン(ジャネール・モネイ)と名乗る。暴力や虐待を耐え忍び、エデンは奴隷仲間とともに密かに何かを企てる。


一方でリベラル派として知られるベストセラー作家のヴェロニカ(モネイの二役)を映し出す。夫、幼い娘と3人で、ゴージャスな住まいで暮らしている黒人セレブである。エリザベスと名乗る謎めいた白人女性からのオンライン取材をこなした後、講演会のために単身ニューオーリンズを訪れる。自己啓発的セミナーの講演で喝采を受けた後に、女友達とリッチなディナーを過ごすヴェロニカに注目する者がいるのであるが。。。


あくまで、1860年代と思しき、黒人が奴隷として残酷な仕打ちを受けている酷いシーンが最初続く。黒人人種差別の映画なんだろうなあと思う。黒人同士で南軍兵の悪口をこそこそ言っていると、強烈な虐待を受ける仲間がいる。このタコ部屋のような処からは到底逃れられないような印象を受ける。

そう思ったら、奴隷の女エデンが目を覚ますと突如現代の黒人セレブの生活になっている。大学や院の卒業証書もあって、言うことも偉そうなゴージャスな雰囲気で固めた女になる。


この対比した2つの映像がどう繋がるんだろうと思う。奴隷のエデンがセレブのヴェロニカの祖先なのか?その呪いの映画なのか?と推測する。そして、映画の場面は現代と1860年代を交差する。ありがちな場面移動だ。どう映画が進むかと思ったときに、遊びの帰りのデリバリータクシーでヴェロニカが罠にはまる。ブライアン・デ・パルマの映画の世界へ急に飛び込む。どうなのかと思ったときに、気を失ったヴェロニカの前に監視役の南軍兵が映る。ところが、次の瞬間、「なにそれ?」というシーンとなる。


まったく予測がつかないと思っていた映画に、1つの仮定を脳裏で推測する。いつも当たらない自分の推理だけど、不思議と予測どおりに進む。結果はほぼ近かった。予測があってしまうというのもある意味残念かもしれない。期待しすぎはしない方がいいかもしれない。


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映画「リスペクト」アレサフランクリン&ジェニファーハドソン

2021-11-07 19:31:41 | 映画(洋画:2019年以降主演女性)
映画「リスペクト」を映画館で観てきました。


映画「リスペクト」アレサフランクリンの人生をジェニファーハドソン主演で描く伝記的作品だ。自分の映画ベスト3の1つ「ブルースブラザース」の中で強烈な存在感を示している1人がアレサフランクリンである。映画の中で歌われている「シンク」を予告編でジェニファーハドソンが歌っているのを見て、早速映画館に向かう。

非常に感動した。圧倒的な歌唱力をもつジェニファーハドソンが素晴らしく、ウガンダの独裁者アミン大統領を演じてアカデミー賞を受賞したフォレストウィテカー演じる父親とつかず離れずの関係にやさしい父娘の交情を感じた。男運のないアレサフランクリンの人生の浮き沈みはまったく知らなかったので、興味深く映画に溶けこめた。自分の好きなタイプの作品である。



⒈シンク!
映画「ブルースブラザース」で刑務所を出所したブルースブラザースの2人が、もう一度バンドを組もうと堅気で仕事をしているミュージシャンのところをまわる。ギターリストのマットマーフィーとアレサフランクリンが夫婦でやっている「ソウルフード」という店にも勧誘に行くのだ。
「せっかく夫婦仲良くやっているのに、私を置いて出ていくのかい?」「よく考えろ!」と歌うのが「シンク!」だ。

このシーンは何度見ても滑稽でおかしい。女性バックコーラスを引き連れながら歌い、マットマーフィーに何度も「シンク!」と迫る店の厨房で働いているサックスプレイヤーもサックスを吹き出し、ブルースブラザースの2人も奇怪なダンスを踊りだす。歴史的迷シーンといえる。
シンク↓



この映画でも夫兼マネジャーのテッドと大げんかした後に、ステージで「不当に扱われたことのある人へ」とMCで一言言った後に「シンク!」をジェニファーハドソンが歌い出す。全世界の不良亭主をもつ女性への賛歌である。こればかりは訳詞を一度見てアレサフランクリンの歌声を聞くことをお勧めします。

最後のエンディングロールで、ブルースブラザースのダンエイクロイドとジョンべルーシとの記念写真を見たときには思わず涙が出てきた。

⒉リスペクトと誕生秘話
映画「ブルースブラザース2000」という続編が20年の月日を経て作られた。前作で出ていたアレサフランクリンやジェームスブラウンに加えてエリッククラプトンやBBキングなんてもの凄いメンバーも出演する。出てきたときは自分もおったまげた。その映画でアレサフランクリンは「リスペクト」を歌う。

映画では車のディーラーの社長になっていたマットマーフィー、アレサフランクリンの夫婦のもとにジョンべルーシ亡き後ダンエイクロイドが新制ブルースブラザースを引き連れもう一回バンドをやろうとやってくるのだ。そこで歌うのは「リスペクト」である。「私のおかげでここまでなったのよ!尊敬しなさい」とばかりに、大デブになったアレサフランクリンが歌う。これぞ、アレサフランクリンがメジャーに登りあがる全米ヒットチャート1位の曲である。


デビューした後のアレサフランクリンは、なかなかヒット曲が出ずに悩んでいた。アラバマ州の白人ミュージシャンと組むことになってようやく芽がでてくる。もともとオーティスレディングのヒット曲だった「リスペクト」をスタジオの中のセッションで、ゴスペル風、スイング風に緩急アレンジしながら試行錯誤して、アレサの姉妹のアイディアを取り入れ生まれて行ったのがアレサフランクリン流「リスペクト」である。人生の絶頂期に向かっての生産過程を見るのはこちらもウキウキして楽しくなる。


⒊男運のなさ
黒人のシンガーというと、育ちの悪さを想像するがアレサフランクリンは違う。アメリカンスタイルのきれいな一戸建に住んでいる。フォレストウィテカー演じる父親は超有名な神父さんである。幼少の頃からホームパーティをやると、デュークエリントンやエラフィッツジェラルドのような有名アーチストが家に遊びにくる。父親はキング牧師とも友達で黒人ハイソサエティというべき存在だ。そんなすごいメンバーの中で10歳のアレサが歌うシーンからスタートする。これは予想外だった。演じる少女の歌もうまい。

むしろステージパパというべき存在で、レコード会社にも圧力をかけてデビューしてしまうのだ。でも、アレサフランクリンはどうも男運がないようだ。アレサの子ども2人が家庭内にいるシーンがあり、その年号だとアレサが19歳なので一瞬何かの間違いかと思った。そうでないのが映画をずっと観ているとわかる。具体的な言及はないが、少女時代に妊娠して腹が大きい姿も映画で見せる。


でも、若い時に一目惚れしたテッドとの付き合いは切ってもきれないものとなる。どこかの国の皇室がらみの恋のように恋は盲目状態で、いったんはステージパパの父親から離れるが、結局はうまくはいかない。そういった男運のなさが映画の根底に流れる。


ジェニファーハドソンの歌はキャロルキングがつくった「ナチュラルウーマン」などどれもこれも良かった。聴きながら何度か感涙してしまった。ひとつだけ残念なのは自分の好きな「小さな願い」を最悪期にステージで歌い、ぶっ倒れてしまったこと。まあ仕方ないでしょう。
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