映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「エンパイア・オブ・ライト」 オリヴィア・コールマン&サム・メンデス

2023-02-27 18:23:43 | 映画(洋画 2022年以降主演女性)
映画「エンパイア・オブ・ライト」を映画館で観てきました。


映画「エンパイアオブライト」は名匠サムメンデス監督がアカデミー賞女優オリヴィアコールマンを主演に迎えた作品である。2作の007シリーズや一筆書きワンショット作品の「1917」とサムメンデスの作品にはハズレがない。晩年のポールニューマンが出演した「ロードトゥパーディション」が個人的にお気に入りである。今度は80年代の映画館を舞台にしたヒューマンドラマのようだ。


80年代の英国、海辺に建つ映画館エンパイアで館内マネジャー的存在のヒラリー(オリヴィアコールマン)は、館長のドナルド(コリンファース)のセクハラに耐えながら働いていた。映画館に新しく入ったスティーヴン(マイケルウォード)は建築家になる夢をもつ黒人の若者だ。人種差別の観客からスティーブンをかばううちに、2人の間に信頼関係を超えた絆が生まれる。

居心地の良い映画である。
バックに流れるピアノベースの音楽のセンスが良い。映像もきれいで伝統的な造りの映画館の階上の大きな窓から見える景色が素敵である。そこで2人が近づいていく。単調な暮らしに疲れているオリヴィアコールマンが徐々に変わっていく。ずっと年下の黒人男性に惹かれていくのだ。その女性としての仕草の変化に注目してしまう。


それだけでは、ストーリーは成立しない。コリンファース演じる館長との不倫関係、黒人従業員スティーブンへの人種差別、精神不安定なヒラリーのパフォーマンスなどで物語をつくっていく。黒人に仕事を与えると、我々の仕事がなくなると白人たちがデモをするシーンには、現在は日本に比べて移民に寛容な英国でも80年代にこんな人種差別があったのかと驚く。

でも、かなり辛辣な場面はあれど、居心地が良い気分を保てた。これだけ大暴れをしても、同じ映画館で働き続けるヒラリーの姿を見てホッとしたのかもしれない。


オリヴィアコールマン「女王陛下のお気に入り」でのアン女王「私が愛した大統領」での英国王ジョージ6世夫人などで皇室の女性を演じたり、「帰らない日曜日」では高貴な家の夫人をコリンファースと共演している。アッパークラスな出立ちの役も多いが、今回はごく普通の精神を軽くわずらう一般人だ。でも、アン女王を演じた時とキャラに大きな遜色はない。


オリヴィアコールマンがいると、コリンファースがいないとバランスが悪いのかもしれない。2人のアカデミー賞俳優に変態不倫関係を演じさせるのはサムメンデス監督ならではなのかもしれない。さすがである。
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映画「少女は卒業しない」河合優実&小野莉奈

2023-02-26 17:38:05 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「少女は卒業しない」を映画館で観てきました。


映画「少女は卒業しない」は朝井リョウの原作を映画化した作品。頻繁に映画に出演している河合優実を含めた4人の女子高校生が卒業式まであと2日になった日々を描く偶像劇である。往年の山口百恵を思わせる趣きをもつ河合優実には、同世代と違う大人びた色気を感じる。「アルプススタンドのはしの方」野球オンチの女子高生を演じた小野莉奈もここで登場する。いずれも2000年生まれだ。若き日に思いっきり目線を下げる決意で映画館に向かう。

校舎の解体が決まっている山梨にある高校で、4人の女子高校生が卒業式を迎える。それぞれに悩みを持っている。4人は卒業式を迎えることでは一緒でも、クロスしていない独立した関係である。

山城まなみ(河合優実)は料理部に所属して、卒業後は地元の栄養の専門学校に行くことが決まっている。付き合っている彼氏に弁当をつくってあげていた。卒業式で答辞を読むことが決まって、本文の推敲を重ねて臨む。いざ本番になるときにある出来事を思い出し、胸に込み上げてくるものがある。


後藤由貴(小野莉奈)はバスケットボール部に所属している。卒業後は東京で心理学を勉強しようと進学を決めた。男子バスケ部に付き合っている彼氏がいるが、地元進学予定と進路が別々となり、数ヶ月疎遠になっていた。これではマズイと卒業式に一緒に登校しようと誘いかけるのであるが。。。


作田詩織(中井友望)は引っ込み思案で、クラスでみんなの会話に入れないまま図書館にいることが多かった。図書室担当の教員にクラスメイトと馴染めない話をすると、卒業式前に話しかけてみたらと言われる。思い切って実行してみると、感触が今イチであり、先生にグチってしまうのであるが。。。


神田杏子(小宮山莉奈)は軽音楽部の部長である。卒業式の記念ライブに出る部内の3つのバンドの人気投票をすると、森崎率いるパンクバンドが圧倒的人気だった。結局、杏子は投票通り森崎バンドにトリを任せることにしたが、投票結果はヤラセだと反感する部員が出てきた。そして、当日を迎えようとしたとき突然バンドの楽器やメイク道具が行方不明になるのであるが。。。


これらの4つの話が並行して時系列通りに進んでいく。「え!どうなっちゃうんだろう?」と思わせるのはバンドの話くらいで、あとはごく普通に話が進む。田舎町の普通の高校にビックリするような話は起きない。卒業式を題材にしたこの映画を観ながら、すっかり忘れていた自分の学生時代のエピソードが次々とよみがえる。そんなこともあったなと振り返るには良いきっかけになる映画だった。

⒈山梨の県立高校
いかにも山梨らしい盆地にある高校だ。見渡す風景は田舎町の風景である。全員が大学に進むわけではない。進学校ではない。地元の大学に進学する者もいれば、東京に進学することでウキウキしている者もいる。専門学校に進む生徒も就職する者もいる。ある意味バラバラだ。でも卒業式まであと何日と黒板に書いてあるけど、その時期って高校には行っていなかった気がする。

ただ、こんなふうに進路がバラバラな方が、物語をつくりやすい気がする。オムニバス映画に近い構造である。

⒉卒業式の同伴登校
小野莉奈演じる由貴が東京の大学に進学するけど、相手が地元進学で進む進路が違うことで仲違いして疎遠になっている。でも、このまま高校生活をおえるのはマズイと彼を電話で誘いだして、明朝一緒に登校しようと誘いだしたのだ。このシーンを観て、自分が高校を卒業する時に同伴登校する2人がものすごい話題になった事件を思い出した。

男はラグビーの名プレイヤーで、自分の学校では一大行事だった運動会の団長であった。女は陸上走り幅跳びの選手で、各スポーツクラブの人気者から羨望のまなざしで見られた女子高校生。このスクールカースト上位の2人が卒業式に同伴登校しただけで、卒業式はその話題で持ちきりとなり、それから1年以上現役進学、浪人と進む進路が分かれた面々がそれぞれこのカップルの話題を持ち出した。


夜のクラブの女の子と同伴出勤するのとは異なり、高校時代は一緒に登校すること自体が付き合っているのと同値になっていたからだ。こんな話をずっと忘れていた。映画ってすごいよね。押し入れの奥底にしまっているような想い出を引き出してしまうんだから。ちなみに、その2人は結局結婚して2人の子供を作ったが、離婚した。そこにもドラマがあったが、ここではやめておこう。

⒊自分の想い出
幼稚園の卒園式だけはどうしても思い出せないが、小中高、そして大学それぞれの卒業式に想い出がある。高校の卒業式は3月18日講堂でクラスの代表が卒業証書を受け取る場面が脳裏をよぎる。東大をはじめとした国立の発表は3月20日だった。その結果がわからない状態でも私立は合否がわかって、浪人覚悟も大勢いた。

今時だったらコンプライアンスでエライ大騒ぎになる話だが、当時目蒲線だったある駅にある飲み屋で卒業式打ち上げをやった。自分が部活のOB会の飲み会で使ったことのある飲み屋をアテンドした。いつもOBに飲まされていた。2日後に東大や京大に合格する男もその場にいたし、女性陣もいた。結局、酔っ払いすぎて、前後不覚になって御嶽山にある友人宅に担ぎ込まれた。まあ、ひどい話だけど、楽しかったなあ。本当、今の高校生はかわいそう。


⒋卒業したくない
今回の主人公たちは「卒業したくない」とそれぞれ言う場面がある。今のままでずっといたいと。先日大学の同期5人で飲んだ。その会話の中で、「戻るんだったら、いつの時代に戻りたい?」という話題になった。紅一点の女性は高校時代と言っていた。


小学校から一気通貫の彼女は、名前を言えば誰でも知っている人の子孫にあたる上級国民出身で教育ママ羨望のルートを歩んでいた。若い頃は大学で3本の指に入るすごい美人であった。「なぜ高校なの?」と言うと、小中が共学で、高校で女子高になって、それがムチャクチャ楽しかったそうだ。自分にはわからない世界だ。

でも、その彼女がずっと幸せだったわけではない。夫の不貞で財産問題と離婚訴訟が起こり、ハチャメチャになる。一時はあの美貌がかなり衰えた。美形で何もかも恵まれた人が必ずしもずっと幸せになるわけではない「ずっと卒業したくない」と言っている時がいちばん幸せなのかもしれない。
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Netflix映画「ちひろさん」 有村架純

2023-02-25 10:12:21 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
「ちひろさん」はNetflix映画


Netflix映画「ちひろさん」は原作漫画を有村架純主演今泉力哉監督が映画化したものだ。映画館の予告編で観ていたが、すぐさま発信されたので覗いてみる。有村架純が風俗嬢を演じるという設定が気になる。予告編で観た時に、印象に残るセリフがいくつかあった。

海辺の小さな町の弁当屋で、ちひろ(有村架純)が店員をしている。ちひろは元風俗嬢で、そのプロフィールは隠さず務めていて、来店する男性客にも人気だ。ちひろのパフォーマンスを追う地元女子高校生や小学生もいる。そんな時、友人とお祭りに行くと、そこで元店長(リリーフランキー)に偶然出くわした。以前お世話になっていた。


こんな調子で進む。どこのロケかな?と思ったら、変わった名前の釣具屋がある。この看板は本物だろうとネットで検索すると静岡の焼津だった。ごく普通の漁港で、素朴な出演者たちを描く。


Netflixで予算はもらえたのか、有村架純をはじめ出演者はまともだ。リリーフランキーや風吹ジュン、平田満などに加えて今泉力哉作品常連の若葉竜也もでてくる。いつもの今泉力哉監督作品ほど長回しはない。くどくはない。田舎町での小さなエピソードを集めているけど、大きな紆余曲折はない。そんなに大きな出来事が起きるところでもないだろう。昨年から今年にかけて海辺の町を舞台にした「ツユクサ」「とべない風船」もそうだった。静かに始まり、さらっと終わる。


有村架純演じるちひろさんは、人生に疲れてもうダメだと思った時にリリーフランキー店長の風俗店に救われる。そういう履歴を経た29歳の女の子だ。ホームレスのおじさんに弁当をあげたり、不登校気味の高校生と仲良くなったり、夜の商売で働くシングルマザーの1人息子に食べさせたりする。そういった海辺の町の住人との交情がずっと描かれる。それぞれに心の闇を抱えている人たちに癒しを与える存在だ。この映画の予告編はこの映画の重要な会話を簡潔にまとめている。傑作というわけでもなくあっさりした映画だけど、悪くはない。
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映画「ベネデッタ」 ポール・ヴァーホーヴェン

2023-02-23 07:23:38 | 映画(フランス映画 )
映画「ベネデッタ」を映画館で観てきました。



映画「ベネデッタ」は奇才ポールヴァーホーヴェン監督の「ELLE」以来の新作である。17世紀に修道院の院長だった修道女ベネデッタの物語である。日経新聞の映画評で宮台真司が宗教的な背景も書いて、絶賛している。寺の墓はあれど、無宗教の自分はその解説を読んでもさっぱりわからない。ただ、「氷の微笑」以来長年の付き合いになったポールヴァーホーヴェン監督の作品だけは見逃せない。「ベネデッタ」の題名文字は70年代前半の東映エログロ路線を連想させる。

17世紀、修道院に1人の特殊能力を持った少女ベネデッタが親がカネを積んで入所する。やがて大きくなったベネデッタ(ヴィルジニーエフィラ)はキリストと対面して、しかも聖痕も受けたと認められて修道院の院長になる。ベネデッタは町の有力者になった。ところが罷免された前院長(シャーロットランプリング)の娘がベネデッタの傷は自分でつけたヤラセで、前院長はベネデッタが入所させた女(ダフネパタキア)とレズビアンの関係にあるとされて窮地に立たされる話である。


この映画の感想も難しい。17世紀欧州の物語だけど、内容はすんなり頭に入る。言葉はフランス語だ。宗教上の世界で若干現実から飛躍した場面があっても、わからなくなることはない。修道院をめぐる権力闘争と教会の権威、きびしい聖職生活の中でのレズビアンでの性的発散、ぺストの流行まで描かれる。ベネデッタはベストが流行しないように街の中に他のエリアの人たちが入ることを禁ずる

ポールヴァーホーヴェン監督は強烈な女主人公をいつも用意する。当然、主役ヴィルジニーエフィラは期待に応えている。窮地に陥りそうになると、男のような声で反発する。ダイナミックなボディを何度もあらわにして、予想通りのエロティックなシーンが用意されている。ただ、「ショーガール」の水中ファックシーンを思わせるような主役の性的歓喜の声があっても、衝撃を受けるほどの激しいシーンはなかった。18禁だけど、エロきわどいシーンは多い訳ではない。でも、40歳過ぎでこのナイスバディを保つのはすごい!


シャロンストーン「氷の微笑」では、エロスとヴァイオレンスに当時30代だった自分はものすごく衝撃を受けた。戦争を描いてスケールの大きな「ブラックブック」でも主役の女性カリス・ファン・ハウテンをいたぶるきわどいシーンがあった。ポールヴァーホーヴェンの作品でいちばんよくできた映画だった。そのレベルからすると驚きは少ない。
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映画「別れる決心」タンウェイ&パクチャヌク

2023-02-20 05:09:14 | 映画(韓国映画)
映画「別れる決心」を映画館で観てきました。


映画「別れる決心」は韓国映画界の巨匠パクチャヌク監督の作品。中国から「ラストコーション」の演技で世界をアッと言わせたタン・ウェイを迎えているミステリー仕立ての映画である。評判が良いので注目していたが、タンウェイが韓国映画に出るのはどうして?と思っていた。今回は悪女を演じる。


役所の職員が岩山の山頂から転落死する事件が発生する。中国人の妻ソレ(タンウェイ)が、夫の死に落胆していない様子を見て、ヘジュン警部(パクヘイル)はソレが犯人ではないかと疑い取り調べをはじめる。ソレにアリバイがあり、捜査は一段落するが、ヘジュン刑事はスマホの解析である事実に気づく。同時にもう一度ソレを問い詰めるという話である。

比較的難解な映画である。
スマホの解析が捜査のポイントになっている。スマホ機能を巧みに使った現代のIT事情に即した話だ。この映画を理解するには2度以上観ないと難しいかもしれない。いったんアリバイで取調べが終了しているのに前半戦でスマホである事実がわかる。それでもいったんはそのまま無実となる。

意外にアッサリしてこんなもんかと思いきや、後半戦に入り一気におもしろくなってくる。まさに、映画の構造はアルフレッドヒッチコック「めまい」である。あの時は、一度は死んだと思わせたキムノヴァク別人になって再び姿を現すのには驚いた。この映画ではタンウェイはすぐは死んでいない。いったん捜査は終了していたので地方に異動していたヘジュン警部の前にソレが突然姿を現したのだ。しかも、また何か起こるのかと思ったら、起きてしまうのだ。


映画を観終わった後に、ネタバレサイトに行くと、え!こういうことだったのかと思うことばかりである。観ている最中には気づかないことが多い。数多くの伏線がいろんなセリフや行動に含まれているのだ。比較的称賛の声が多いけど、一度観ただけでみんなわかるのかな?と率直に思う。

⒈パクチャヌク
衝撃的だったのは名作「JSA」で、「シュリ」とともに韓国映画のレベルが高くなっていることを日本人にも知らしめた。ソル・ギョング主演でカンヌ映画祭グランプリを受賞した「オールドボーイ」の表現は残虐そのもので、日本占領下の朝鮮を舞台とした「お嬢さん」エロそのものである。米国映画デビューのサイコスリラー「イノセントガーデン」にもえげつない要素がある。


でも、この映画では、残虐、エロティックという表現はほとんどない。殺人が絡んでも韓国映画独特の残虐な場面はない。どうもそれは意識したようだ。「ベニスの死」でも使われたマーラーの交響曲で情感を高める。あくまで、刑事と被疑者の交情に焦点をあてるためなのだろうか。空間を感じさせるカメラワークは終始一貫してうまい。山と海の両方で見どころをつくる。

映画では「高級寿司」が会話のネタになり、実際に寿司の折詰弁当が出てくる。「お嬢さん」戦前の日本統治を話題にするくらいだから、パクチャヌク監督もそれなりに日本に関心を持っているのかもしれない。

⒉タンウェイ
アンリー監督「ラストコーション」ではトニーレオンとの絡みが本当にやっているのでは?と思わせるような激しい演技だった。あの当時から15年ほど経っているが、変わらぬ美貌を持つ。まさにサイコサスペンスとも言えるこの作品で、表情の変化だけでセリフなしでも何かをわれわれに感じさせる「悪女映画」の系譜に加えられる作品になった。


映画を観る前に、韓国映画だけど中国語で話すのかな?と思っていたら、韓国語のセリフをきっちり話していた。うまい下手は自分にはわからないが、韓国語を勉強したようだ。その上で、自動翻訳機に向かって中国語で話して、それを機械が韓国語で伝えるシーンがいくつかあった。今後はこういうハイテク機器の利用が増えてくるかもしれない。真意は母国語でないと伝わらないことも多い。最後に向けて、ディテールは違っても物語構造「めまい」と似ているので、キムノヴァクと妙にダブって見れてしまう。
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映画「BLUE GIANT」

2023-02-19 06:46:21 | 映画(自分好みベスト100)
映画「BLUE GIANT」を映画館で観てきました。


映画「BLUE GIANT」は以前ビックコミックに連載されていた石塚真一の同名漫画を立川譲監督でアニメ映画化したものである。恥ずかしながらこの漫画の存在自体知らない。そもそも長い間漫画雑誌はまったく読んでいない。ビッグコミックにさいとうたかをが亡くなってもまだ「ゴルゴ31」が連載されていることを知っていても、ほかに何が連載されているかも知らない。

そんな自分でも、プロのジャズミュージシャンを目指した成長物語のアニメ映画が公開されると知り気になる。今までこんな設定の作品ってあっただろうか?目の付け所がいい。しかも、映画ではアニメ映像に合わせて現役のジャズプレイヤーがバックで吹替え演奏しているとなるとアニメ映画はめったに観ない自分でも観に行きたくなる。結果、大正解だった。


高校時代からジャズプレイヤーを目指して、テナーサックスの練習をしてきた宮本大(山田裕貴)が卒業して仙台から上京する。行くあてもなく、大学に進学した玉田(岡山天音)の家に居候し、橋の下で練習を始める。ライブハウスで演奏していたピアニストの沢辺(間宮祥太朗)のプレイに惚れ込み、一緒にやろうと誘いジャズで身を立てようとする話である。

気分が高揚するすばらしい成長物語だった。
映画が始まり、いきなり、ジョンコルトレーン「インプレッションズ」の旋律が流れる。イイぞ!と興奮してくる。そこから主人公宮本大がサックスで身を立てようとする物語が始まる。大がそのピアノプレイに惚れたライブハウスで演奏している沢辺は、ピアノを4歳からやっている天才肌でプライドの高い男だ。大の演奏を聞いて一緒に組んでもイイということになる。こんなプロとしてモノになる寸前の演奏でも本物のプロのプレイヤーが吹替え演奏している。これがイカしている馬場智章のサックスソロが実にいい。


ピアノの上原ひろみを中心にオリジナルの曲を作ったのであろう。連載漫画では当たり前だが、音はない。普段漫画を読まない自分のようなジャズファンが聴いても気にいるような映画にしようとする意気込みが感じられる。登場人物が演奏する曲も練って作っている感がある。石原裕次郎時代の日活映画でジャズマンの成長物語があった気がする。でも、流れるジャズのレベルが違う。

物語の流れは比較的単純である。スポーツ根性モノ劇画のような成長物語だ。素人ドラマーの玉田がこんなにすぐうまくなるのかよと思ってしまうが、所詮はアニメ映画、いいんじゃないと受け入れる。実写でなくてよかったなとは思わせる。


元ジャズ歌手のジャズクラブの女性オーナーや無理やり出演させてもらったライブハウスのオーナー東京で一番のジャズスポットのオーナーなど登場人物も巧みに設定している。スポーツ根性劇画で甲子園出場を目指すが如く、10代のうちに「BLUE NOTE 」を意識した架空の人気ライブスポット「SO BLUE」のステージに出演しようと頑張るなんて話もいい感じだ。紆余曲折もいくつか用意して緩急をつける。実に楽しい。


コロナでジャズのライブステージができない時期もあり、酒を飲みながら楽しむジャズクラブ通いも減った。ジャズ人気に翳りが出てきている中でこの映画が公開される意義は大きい。映画館で周囲にいる若いカップルがじっと見入っている姿にジャズを知らない人たちもこれをきっかけにジャズを好んで聴くようになるのではと感じた。

大学時代から一緒にジャズクラブ通いを続けている仲間たちにも薦めたい。

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映画「いつか君にもわかること」ウベルト・パゾリーニ&ジェームズ・ノートン

2023-02-18 18:09:28 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「いつかの君にもわかること」を映画館で観てきました。


映画「いつかの君にもわかること」は映画「おみおくりの作法」の監督ウベルト・パゾリーニの作品である。「おみおくりの作法」は日本でも阿部サダヲ主演で「アイアムまきもと」としてリメイク公開された。実に泣ける作品だ。そのウベルト・パゾリーニの作品であれば間違いないだろう。この作品も泣けるという評判だけ確認して映画館に向かう。

妻と別れて4歳の息子マイケルをシングルファザーとして育てる34歳になろうとするジョン(ジェームズノートン)は自分の余命が短いことを知る。育ててくれる親を探そうと、ソーシャルワーカーとともに子をもとめる親に会いにいく話
である。


ジーンとくるものがあるが、感傷的ではない
一般にこの手の映画は、お涙頂戴のエピソードを重ね合わせることが多い。でも一歩置くウベルト・パゾリーニ監督のインタビュー記事によると

これを映画として届けるには、観客のための余地をきちんと作る必要があると思いました。それはつまり感傷的なメロドラマにはしないということ。登場人物たちが泣き腫らしたり、成長した息子が父の墓に行くようなシーンがあると、あまりに極端で深刻な状況が続くことになり、観客がそこに入り込む余地を失ってしまう。

普遍的な生活の積み重ねを一つの風景画のように見せることが出来れば、観客は共感してストーリーに入っていける。(CINE MORE 香田史生インタビュー記事引用)


泣ける映画という評判があったので、映画を見終わったとき、あっさりとした印象を持った。もっと観客を感涙に誘導するシーンがあってもいいのになあと思ったものだった。なるほど、こういうことだったのね。

それでも、映画館の中では、終盤に向かうにつれて女性陣のすすり泣く声がずっと響き渡っていた。何せ、息子マイケルを演じるダニエル・ラモントかわいいこんなかわいい子と別れるなんてと想像しただけで、別に自分の子供でなくても悲しくなってしまう。しかも、「養子はイヤだ」というセリフがあったり、「死ぬ」ことについての素朴な疑問が次々と出てくる。そんなセリフだけでも切なくなるのだ。


父親役は「赤い闇 スターリンの冷たい大地」でナイーブな英国人記者を演じたジェームズノートンである。2020年日本公開では個人的には評価している映画だ。ただ、映画を観ているときには同一人物だとまったく思わなかった。ときおりやけになるときもあるが、子供のことを思うと養父母を淡々と探す父親になりきっている。好感が持てる。

映画を観ながら、父の本当の親のことを思った。この映画を観る前は、まったく考えもしなかった。父は1才になる前に、養父母の元へ行った。父の実父母は戦前は不治の病だった結核に2人ともかかり、父が預けられてまもなく2人とも亡くなっている。映画に近い状況である。

細かい言及はあえて避けるが、父を預けるときにどんな気持ちであったのであろうか。この映画を観ながら、ふと考えてしまう。父の実父母の親族との付き合いはまったくないので、当時何を考えていたのかはわからない。


父の養父母は2人の子どもを授かったが、幼い頃に亡くなっている。大正から昭和にかけての医療事情ではやむを得まい。私はその祖父母にかわいがってもらった。本来だったら孫はいない。人一倍ぜいたくさせてもらった。感謝しかない。父を引き取ったときの気持ちは母が祖母からきいている。いろんなことを振り返るきっかけにもなった。
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映画「銀平町シネマブルース」 小出恵介&城定秀夫

2023-02-17 20:03:27 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「銀平町シネマブルース」を映画館で観てきました。


映画「銀平町シネマブルース」は次から次へと驚異のスピードで質の高い新作を送り込む城定秀夫監督の新作だ。城定作品の常連とも言える俳優たちとともに小出恵介が主演で登場する。名画座のスカラ座に集まる映画好きの男女をめぐる人間模様の物語である。どちらかというと、ルンペンと生活保護の境目を生きる生活力のない面々の貧困ストーリーとも言える。

以前、転勤で埼玉の小江戸川越に2年半住んだことがあった。今や観光地化された蔵の町川越の一角に川越スカラ座があり、自分はそこから徒歩5分程度のところに住んでいた。今回、好きな城定秀夫作品というだけでなくスカラ座で撮影されたということも気になっていた。

銀平町に来た金のない男近藤(小出恵介)が公園である女性(浅田美代子)に声をかけられていくと、生活保護でしのいで行こうとする連中の集まりだった。そこには、似たような金欠男たちがたむろっていて、近藤のカバンを盗んだ男佐藤(宇野祥平)もいた。

そこでスカラ座という名画座の経営者梶原(吹越満)と知り合う。映画館の開館から60年も経つのに客が不入で給料をまともに払えないし、借金は積み上がる。それでも近藤はスカラ座でバイトして梶原のアパートに一泊1000円で同居する。傷を舐めやっているときに、スカラ座にたむろうメンバーで60周年記念デーをやろうと思いつく。


城定秀夫作品にしては普通の映画だった。
日本映画には貧困、生活保護のテーマが多すぎて嫌気もさす。日本の映画人ってみんな貧困のドツボにハマっているのかな?と思ってしまうような「いまおかしんじ」の脚本である。

演じるのは日本のインディーズ映画の常連たちである。その中で浅田美代子が生活保護者を騙して金を巻き上げる貧困ビジネスの親玉を演じているのが印象的だ。こんな悪党もできるのかと思わず吹き出してしまう。


映画の中の映画の手法を使う。
小出恵介演じる近藤が元映画監督で、離婚した上に1人で放浪してようやく青春時代に過ごした銀平町に戻る。ホラー映画界ではカルト的存在という設定だ。スカラ座60周年で上映するお蔵入りのゾンビ映画では元夫人が出演していて、この映画をきっかけに再会する。いつも不思議に思うんだけど、こういう自主制作の映画って何でいつもゾンビ映画なんだろう。

あともう一本の記念上映の作品は、城定秀夫監督「アルプススタンドのはしの方」でいい味を出していた小野莉奈が監督したという設定の作品だ。その2本を公開すると、観客も大勢きてめでたしという展開だ。2本ともいかにも商業ベースというよりも自主映画のレベルである。城定秀夫の近作に比べると、脚本の底が浅くて残念だった。

ロケ地の川越スカラ座は全面的に協力したようだ。いかにも昭和30年代にできた映画館である。川越市役所の近くにあり、周囲には老舗の料理屋がなぜか多い。スカラ座に隣接した洋食屋太陽軒も歴史を感じさせる趣きある建物である。以前は客は少ないさびれた店だった。川越にくる人が増えてからはかなり垢抜けた。


他にも川越のロケがあるかと期待したが、田舎の川風景や海が出てきてこれは明らかに違う。どこかな?とエンディングロールを探すと、木更津の文字はあったけど、どうなんだろう。

映画の持つ雰囲気はのどかだけど、他の作品をさておいてみる価値はなかった
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映画「茶飲友達」岡本玲&外山文治

2023-02-15 18:50:29 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「茶飲友達」を映画館で観てきました。


映画「茶飲友達」は老人向けの風俗に焦点をあてた作品。自分も60を超えたので、ある意味気になる題材で映画館に向かう。この映画も東京ではユーロスペースでしか上演していない。そのせいか、地味な映画なのに「コンパートメントNo.6」同様超満員で驚く。外山文治監督の前作「ソワレ」村上虹郎主演の若者の物語だったけど、がら空きだった。

老人パワーはすごい。客席には男女を問わず老人が多い。身近に感じられるのであろう。岡本玲や名脇役渡辺哲など一部の俳優を除いては、一般人の老人がかなり出演している。


非常によくできた映画である。
傑作と言っても良い。素人も混じっているのにリアル感が半端じゃない。ドラマ仕立てで、ドキュメンタリータッチというわけでもないのに真に迫るものがある。それぞれのセリフに不自然さがない。一定の年齢に達した人がこれを観ると、誰もが思うことがあるだろう。

妻に先立たれた1人住まいの老人が新聞を読んでいると、「茶飲友達」募集という三行広告に気づく。電話すると若い女性が「ティーフレンドです」と応答した。会ってみると、お相手とスタッフの2人の女性と面会する。メニューは普通のコースと玉露コースに分かれていて、玉露コースではハードなお付き合いもできるのだ。運営者の代表は元風俗嬢のマナ(岡本玲)で、若者たちで運営している。送迎やトラブル対応をしていて、大勢の老女コールガールを抱えている。


⒈勧誘
店のオーナーであるマナがスーパーで買い物をしていると、万引きをしようとする初老の女性に気づく。おにぎりをバッグに入れたところを店員に見られ摘発されそうになっている。その場をマナが見つけて、お母さんレジに行きましょうと助けの手を伸ばす。まったく関係ないので初老の女性は啞然とする。そして、マナは自分たちのアジトに連れて行って勧誘する。当然、最初はそんな気はないと抵抗するが、未亡人の初老の女性マキは気がつくと「ファミリー」に入っているのだ。


あとはパチンコ屋にいるいかにもカネを突っ込んで金欠の女性などにも目をつける。みんな金がない。前借りもしょっちゅうだ。浪費家がその道に入っていく。ある意味、貧困ビジネスの要素もある。何かのきっかけで、「ティーフレンド」に来た女性をスタッフが手取り足取り初歩から教えていくのだ。

⒉男性たち
ネットというよりも全国紙の三行広告の方が効果がある。「茶飲友達募集」ということで連絡すると、待ち合わせ場所には初老の女性と若いティーフレンドのスタッフが待っている。そして、雑談を少しした後でバイアグラを差し出す。気がつくと一気にディープなコースに進んでしまうのだ。リピート率も高い。深い仲になったあと、男性側は普通の付き合いも求めるがそれには応じない。タイマーが終了したら、さっさと出ていく。


ここで「ティーフレンド」は別の需要に気づき一歩先に進んでしまう。老人ホームの個室で対応するのだ。お見舞いのふりをして、若いスタッフと初老の老女が部屋に入っていき、あとは老女にお任せだ。偉そうなことを言っても男は女性にキスされるともうダメ。かなりの重症で自分で何もできないような要介護老人にも対応する。白髪まじりの老女が入っていったら、施設の人も心配しない。


しかし、ずっとうまくいくことはない。ある時点で転換期を迎える。ここからはネタバレなので言えないが、万一の時にどうするか?ということもマニュアル化しておけばうまく逃げ切れたのかもしれない。当然、こんな映画の存在で実際に商売のネタにする人たちがいることも考えられる。その際には、いい事例になるだろう。

スタッフの人間模様にも着目する。
ただ、ここまでやらなくてもいい気もした。そうすると、120分以内で簡潔にまとめられるかもしれない。
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映画「コンパートメントNo.6」

2023-02-14 19:54:01 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「コンパートメントNo.6」を映画館で観てきました。


コンパートメントNo.6はフィンランド映画カンヌ映画祭でグランプリを受賞している作品である。大好きなフィンランドの名監督アキ・カウリマスキ作品のテイストもあるという話で行こうとすると、予約で一杯。東京ではシネマカリテしかやっていないのだ。それでもネット予約して何とか行くと、受付で門前払いされている客が多いのに驚く。もちろん満員だ。

基調はロードムービーだ。
舞台はロシアだ。モスクワからサンクトペテルブルグを経由して北端の駅まで2昼夜走る寝台列車に乗っていくのだ。外は雪が降り続く。主人公ラウラ(セイディハーラ)はフィンランド人だけど、モスクワに住んでいる。女性の恋人がいる。でも、一緒に行くはずだったのに、結局一人旅になってしまう。


何故か、まったくの他人の男女が同じ客室で一緒になる。何それ!と思ってしまう。同室のプーチンのような顔をしたいかにもロシア人リョーハ(ユーリーボリソフ)が大酒をくらって絡んでくる。これはヤバイと女性の車掌に部屋を変えてくれと訴えても無視される。


それが、仕方なしに列車に乗っているうちに、粗暴なリョーハの態度も少しづつかわる。お互い徐々に好感を持つようになるという話だ。それを見せつけるエピソードと小話を積み上げていく。

カネがかかっている映画ではない。元々、アキ・カウリスマキの映画に出てくるバックの風景のように、いかにもノスタルジーな世界である。二人の男女は美男美女ではない無愛想な女性車掌にカウリスマキ映画のテイストを感じる。列車で知り合った男の知り合いのおばあちゃんの肌合いも同様だ。純粋なロシア人の素朴な感じがにじみ出る。


好きなタイプのやさしい映画だ。列車は札幌から稚内に向かうような雰囲気だけど、この映画の移動距離は半端じゃない。しかも、行き先が世界最北端の駅ムルマンスクだ。嵐のシーンの風雪が凄すぎる。かなりのロングタームの旅の中で、狭い空間にいる二人の嫌悪の目が徐々に恋に近づいていく空気感にほのぼのとした感触をもった。日本ではなくなりつつある食堂車がいい感じだ。
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映画「バビロン」 ブラッドピット&マーゴットロビー

2023-02-13 20:37:53 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「バビロン」を映画館で観てきました。


映画「バビロン」は映画産業創成期のハリウッドを舞台にしたブラッドピット主演の新作である。メガホンをとるのは「ラ・ラ・ランド」でアカデミー監督賞を受賞したデイミアン・チャゼルだ。予告編で映る派手なパーティシーンが気になり、189分という長尺の上映時間に後ずさりしつつも映画館に向かう。

1926年サイレント時代の映画界の人気スタージャック・コンラッド(ブラッド・ピット)に大勢の取り巻きがたむろうド派手なパーティが開催されている。パーティには人気女優に這い上がろうとする新進女優ネリー・ラロイ(マーゴット・ロビー)が入り込む。パーティの見せ物に象をトラックで運ぶイスパニア系のマニー(ディエゴ・カルバ)が気がつくとコンラッドに気に入られて映画コミュニティに入っていく。

やがて、字幕付きのサイレント時代からトーキー時代に移り、映画界の情勢も少しづつ変わっていくという話だ。

個々のシーンはよく考えられて実におもしろい
お金もかかっていて娯楽としての映画の醍醐味を味わえる。しかも、美術、音楽ともに完璧だ。ただ、いかんせん長すぎる!ハーバード出身のインテリ監督デイミアンチャゼルは出世作「セッション」は106分、「ララランド」も128分にまとめた。映画史を振り返る一面があったとしてもあと30分は縮めたほうがいいと感じる。


ブラッドピットほど黒タキシードが似合う男は見当たらない。まったくの適役だ。でも、割と正統派な役柄だけに、今回は自由奔放なマーゴットロビーの活躍がきわだつ。イスパニア系の映画プロデューサーになるディエゴ・カルバにも焦点が徐々にあてられる。


⒈喧騒のパーティー
いきなりド派手なパーティーシーンとなる。まさに酒池肉林だ。ゴチャゴチャしているように見えるが、全体で見ると「木」が「森」になるような均整がとれている。裸の男女が戯れる中でそれぞれのダンスやパフォーマンスがバラバラなのに、不思議とよく見えた。近作ではバズラーマン監督版の「華麗なるギャツビー」がずいぶんときらびやかだった。あの時も、トビーマグワイアがニックキャラウェイ役で出演していた。

トビーマグワイアは今回総合プロデューサーで、かつマフィア役で出演している。うぶなスパイダーマンが気がつくと悪党にというわけでないが、奇妙なメイクをして出てくる。その悪の住処で、ガチンコ格闘技をやっていたり、凶暴なワニがいたり、猿人のような男が出てきたりで「ナイトメアアーリー」の見せ物小屋のような雰囲気を持つ。ともかく、美術には凝っている。


⒉マーゴットロビー
喧騒のパーティーからひたすら目立つ。最終的に落ちぶれる設定のブラットピットよりも目立つ。サイレントからトーキーに移る時代に、TAKE1から8回演技を繰り返すシーンは笑える。上流パーティーに連れて行かされて、場にあわずにキレるシーンの迫力がものすごい。毒ヘビに対峙したり、中国人歌手とキスしたり、この映画はマーゴットロビーのためにあるように見えてしまう。


他にもイスパニア系のプロデューサーもマーゴットロビーとともに活躍させるし、黒人トランペッターにも見せ場を与える。ただ、誰もこれもとちょっと登場させすぎた分長くなりすぎたのかな?これも「ララランド」が当たりすぎて予算がもらえすぎたのかもしれない。デイミアンチャゼル監督はもう一度「セッション」の原点に戻るくらいに次作は調整してほしい。
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映画「崖上のスパイ」チャン・イーモア

2023-02-12 18:30:18 | 映画(アジア)
映画「崖上のスパイ」を映画館で観てきました。


「崖上のスパイ」は中国の巨匠チャンイーモアが1934年満州国統治時代のスパイ活動を題材にした新作である。2つのオリンピック開会式で演出をつとめたチャンイーモアは中国映画界では最高の監督であるのは誰もが認めること。日本の傀儡政権満州国の特務組織に対して、正体を隠しての潜入者も含めてスパイ活動を描いていく。

1934年ソ連で教育を受けた4人の共産党のスパイが満州国の大雪が降る山間部に降り立つ。2人の男女で二方向に分かれて行動するのを、内偵者によって満州国の特務警察はつかんでいた。泳がされながら移動するが、リーダー格が当局に捕まる中で寝返りした者たちも作戦に助言を与えてスパイ戦が続く。


いかにもチャンイーモア監督の映画らしく映像は美しい
騙しだまされて敵味方が交錯するのはスパイ映画にはありがちなパターンだ。ただ、それぞれの場面の理解がしづらい。あまり事前情報を得ずに映画を観るタイプなので、女性陣はわかっても男性陣の顔が同じように見えてしまう。深く雪が積もる山間部にパラシュートで降り立った後も、極寒のため服で顔が隠れている。登場人物がよくわからないままにストーリーが進む。それでも、列車の中での緊迫感のある場面など見どころは数多く用意する。

この映画をこれから観る人は作品情報で登場人物の顔を確認してから行くことを勧める。

映画ではずっと雪が降り続く。音楽も極寒の景色にあっていてムードを高める。ハルビンの街の撮影はセットなのであろうか?それともそのまま残っている古い建物の中で撮影されたのであろうか?戦前のクラシックカーでカーチェイスのシーンもある。こんなに車潰して大丈夫なんだろうか?と思ってしまう。


中国共産党の先人にはこういう人たちがいたという宣伝映画の様相も呈している。すこし興ざめしてしまう。サスペンス映画としては弱い気がする。

巨匠チャンイーモア監督の新作であると同時に、中国共産党を評価する映画なので映画予算はふんだんにあるのであろうか?気になったのは、満州国の特務警察の中に日本人がいなかったこと。さすがにトップは日本人だったんじゃなかろうか?


あとは、女性スパイの1人がいかにもチャンイーモア好みの女の子だったこと。コンリー、チャンツィイーの若き日を彷彿させる小蘭役のリウハオツンがかわいい。出演しているチャンイーモアの前作「ワンセカンド」はコロナ期で上映館が少なく観れていない。おそらく人気スターになるだろう。
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2022年キネマ旬報ベスト10を見て(邦画:映画芸術との比較)

2023-02-05 16:43:07 | 映画 ベスト
2022年キネマ旬報ベスト10 (邦画)
洋画のベストの方はすんなりブログにアップできたが、邦画のベスト10はなんかスッキリしない。「え!そうなの?」と思うことが多いからである。10作で観ていないのが、「夜明けまでバス停で」「土を喰らう十二ヶ月」である。

荒井晴彦主宰の「映画芸術」の邦画ベスト10も発表になっている。自分の経験では両方のベスト10に入っている映画はまともな作品が多い。両方を比較する。「ケイコ 目を澄まして両方の雑誌でトップになってしまう。これはあまりあることではない。ただ,日本アカデミー賞の作品賞の候補には入ってはいない。


1位の「ケイコ 目を澄まして」で文句なしという感じはない。もちろんいい映画だったけど、女性ボクシング映画の名作「ミリオンダラーベイビー」「百円の恋」のような中間点での高揚感がなかった。岸井ゆきのパンチが自分にはどうにも貧弱にしか見えなかった。それでも、哀愁漂うストーリーに三浦友和の存在が光った。キネマ旬報助演男優賞受賞は当然という感じがする。

2位の「ある男」は予告編で観てみたいと思わせる作品だった。話の展開も単純ではなく、よくできていた。でも、配給の松竹が今期減益になった理由に「ある男」が予想以下の興行成績と記事が出ていた。残念である。3位「夜明けまでバス停で」はぜひ観てみたい。映画芸術でも2位で評価が高い。高橋伴明健在である。


4位の「こちらあみ子」は風変わりなキャラクターのあみ子を子役が巧みに演じた。実にのびのびとしていた。映画芸術でも6位である。井浦新、尾野真千子が脇役にまわってフォローする。5位の「冬薔薇」は殺人が起こっているのに昭和に戻ったような事件処理で、監視カメラがあるハイテク時代の捜査にそぐわない映画だった。絶対におかしい。時代設定が昭和から平成の初めなら良いけど、阪本順治の脚本には難ありだ。小林薫や石橋蓮司の好演はあっても、これでは気の毒だ。ここでいい点数をつけているのはいずれも老人評論家


なぜか6位が3作、こんなに審査員がいるのに同点になるのも奇妙だ。10作の中で今回イチオシなのが「ハケンアニメ」である。アニメ道を極めようと奮闘努力する若き面々を描いていてパワーをいただいた。怠け者を描く映画が多いので,真摯に働く人たちを見ていると気持ちが良い「PLAN 75」の老けてしまった倍賞千恵子を見るのが切ない。年下だが同世代の吉永小百合が妖怪に思える。今年も多くの作品で河合優美の活躍が目立つ。


「土を喰らう12ヶ月」を避けてしまったのは, ジュリーが嫌いなわけではない。野菜を中心とした料理のメニューを見て,肉や魚中心のワイルドな食事を好む自分には合わないと思ったからだ。同年代からは称賛の声も多い。そろそろ考えを変えてみる時期が来たのかもしれない。その時にはプラスでブログに書いてみる。


9位も2つだ。今年はどうしちゃったんだろう。「さがす」は単純に捜査するだけではない話をうまくまとめた。構成力に優れた作品であった。懸賞金付き犯人を追う父親を探す娘の話が中心ではあるが、かなりきわどい場面も用意している。「千夜一夜」情感のこもったいい映画だった。孤島で行方不明になった夫を待つ女を田中裕子がしっとりと演じた。共演の尾野真千子は他にも「こちらあみこ」や自分が昨年いちばん好きだった「サバカン」でも脇にまわっても良い活躍をする。

今回不思議だったのが、こんなに頑張っているのに今泉力哉監督作品と城定秀夫監督作品が入ってなかったことだ。「愛なのに」はベスト20にも入っていない。でも、映画芸術では9位だった。日本映画の審査員はちゃんと観ているの?と思ってしまう。


12位の「夜を走る」や13位の「マイスモールランド」は残念。「夜を走る」は低予算だけど、脚本はうまくまとめておもしろい「マイスモールランド」映画芸術では7位に入る。やっている映画館少ないからなあ。


「あちらにいる鬼」は16位、寺島しのぶが髪を剃って体当たりで頑張った。キネマ旬報で助演女優賞を受賞した広末涼子が一皮剥けたと自分は感じた。でも、映画関係者である新宿ゴールデン街のママにそう話したら,広末涼子は脱いでいないじゃないと酷評だった。そうか、ダメか。
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映画「仕掛人 藤枝梅安」 豊川悦司&天海祐希

2023-02-04 19:53:48 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「仕掛人 藤枝梅安」を映画館で観てきました。


映画「仕掛人 藤枝梅安」は池波正太郎の原作の映画化で、豊川悦司藤枝梅安を演じ、天海祐希と片岡愛之助、菅野美穂という主演級の共演と豪華キャストである。予告編に夜のムードの表現がうまい大映時代劇のテイストを感じる。

藤枝梅安は今も五反田に現存する雉子神社のそばに住むという記述がある。自分の初参り、七五三はいずれも雉子神社である。今は、ビルの中に囲まれている神社だ。しかも、池波正太郎はわたしの品川の家から徒歩10分程度のところに住んでいた。藤枝梅安に何かのご縁を感じて、事前情報なく映画館に向かう。

品川で鍼医者を営む藤枝梅安(豊川悦司)には隠密に殺しを請け負う裏稼業があった。その元を依頼人の仲介者(柳葉敏郎)が訪れて、料理屋万七の女将を殺してくれという依頼が来た。梅安には以前、前の女将を始末したことがあった。偵察のため万七に行くと、女中のおもん(菅野美穂)が相手をしてくれ、聞き出すためにおもんと深い仲になる。その場に女将(天海祐希)が挨拶に来ると、梅安は既視感に襲われる。


これが実に良かった。
何はともかく、天海祐希の存在感に圧倒された。現代劇にいくつか出演しているが、これほどの当たり役はないだろう。年相応に貫禄十分で、色気もある。セリフの間の取り方も絶妙だ。登場人物が並ぶポスターを見て、てっきり天海祐希が仕掛け人の一人だと思っていた。実は、最重要登場人物であるが、ネタバレになるのでここでは言わない。もちろん豊川悦司の冷徹な仕掛け人もさすがのうまさである。殺し方は痛快だ。長身の天海祐希なので、主役は豊川悦司しかないでしょう。

一流どころの俳優が適役に恵まれただけで、映画の質がグッとあがる良い例であろう。もちろん、梅安の相棒片岡愛之助も彼のキャラクターを生かせる役だし、梅安の自宅の女中である高畑淳子が味のあるコミカルな演技をする。最初に映る依頼人役の中村ゆりが、ここ最近の作品同様に実にいい女だった。

登場人物は割と多い方だが、状況がわかりやすく混乱しない。2時間以上まったく退屈しなかった。法律用語で言う双方代理になりかねない展開に進みそうになったり、情に揺らいでくる部分もある。仕掛人がきっちり職務を果たすと思っても、いったいどうなるんだろうと思う展開に進む。バックの音楽スリリングな雰囲気を盛り上げる。予想外の掘り出し物であった。


この映画もある意味悪女映画の一種である。歴史的に悪女映画というと、女性の狂乱を招くマイケルダグラス「危険な情事」クリントイーストウッド「恐怖のメロディ」の類はある。それよりも、美人が登場する保険金殺しにからんだビリーワイルダー監督「深夜の告白」の匂いがある。

天海祐希は料理屋の女将だけど、けっしてイヤな女ではない。裏があっても、銀座の高級クラブでよく見る涼しい顔をして店を捌くやり手美人ママに近いのではないか。客にいい女中紹介しますよと天海祐希の女将が言って、「女将がいいよ」と客に言われた時にかわす言葉がまさにやり手ママのセリフそのものだ。時代を現代に移して松本清張のミステリーに登場するようなクラブのママ役もやらせてみたい。

エンディングロール終了後、オマケがあるのでご注意を。
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2022年キネマ旬報ベスト10を見て(洋画)

2023-02-03 21:44:35 | 映画 ベスト
恒例のキネマ旬報ベスト10が発表された。

日本の映画評論家筋の評価が集積するということで、いつもこのベスト10には注目している。おそらく審査員全員が代表作といえるものを観ているわけではない。抜けているものも多いのではないか。自分はたまたま今回の洋画ベスト10をすべて観て、感想をブログにアップしている。作品名の上をクリックください。


ただ、今年の洋画のトップに「リコリスピザ」が登場するのには驚いた。いくらキネマ旬報とは言っても、本来であれば、娯楽作品の頂点と言える「トップガン」がトップになるのが普通であろう。世の中には素直でない人も多い。意外な展開が生まれたのであろう。

1位の「リコリスピザ」は確かにおもしろい。見どころも数多く用意されている。でも、着想豊かなポール・トーマス・アンダーソンが、あれもこれもと題材を入れすぎた感じがした。2位の「トップガンマーヴェリック」にはいい刺激を受けた。ジェニファーコネリーの起用も絶妙だった。周囲には何回も観たと公言する連中もいる。娯楽の最高峰であるのは間違いない。


大好きなペドロアルモドバル監督「パラレルマザーズ」が3位となる。いつもながら完璧な色彩設計の映像が堪能できる。これも良いけど、前作の方が自分にはよく見える。脚本にアルモドバルらしい重層性が感じられない。ペネロペクルスは歳を重ねても美貌がかわらない。


4位の「クライマッチョ」は意外にも上位という感じ。90を過ぎて大人の恋を演じるクリントイーストウッドには頭が下がる。いつも思うけど、キネマ旬報ベスト10では過大評価されすぎてる感をもつ。5位の「アネット」は久々のレオンカラックス監督作品で、奇想天外な絵づくりをしたミュージカル仕立てだ。予算も豊富という感じで盛りだくさんの内容だけど、強く心には響かなかった。6位の「コーダ愛のうた」アカデミー賞作品賞を受賞したのには驚いた。障がいの夫婦を中心とした話自体が多様性を求める世界の時流にのったのでは?普通に健常者だった娘が自分にはよく見えた。この中では「トップガンマーヴェリック」の次に好きな作品だ。


7位の「ベルファスト」子ども体験の回顧はモノクロでいい映像だった。人形劇時代のサンダーバードが出てきて童心に戻れた。8位の「ウエストサイドストーリー」では完璧なダンスが見れてよかった。その中でもアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリアナデボーズの迫力あるダンスはピカイチだ。主役2人がちょっと弱かった。ただ、リバイバルの存在意義を問う屁理屈人間には閉口する。


9位の「戦争と女の顔」では主役2人の熱演は認めても、説明が省略されすぎで自分にはわかりづらかった。10位の「あなたの顔の前に」では超絶長回しで難しい演技を要求される。人生の末期にさしかかった渡米した女優が韓国にもどって過去を振り返る展開だ。2作ともインテリ群の好みそうな映画だ。


今回はアジア系少なかった気がする。

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