映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「あのこは貴族」門脇麦&水原希子

2021-02-27 19:52:13 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「あのこは貴族」を映画館で観てきました。

予告編で気になった映画である。何気なく見た「あのこは貴族」の映画紹介の記事で水原希子が慶大生を演じるというのも気になった。門脇麦は若松孝二監督のアシスタントを演じた止められるか、俺たちをさよならくちびる」などでの演技に好感度を持って見ていた。水原希子は広告でよく見かけるが映画では「ノルウェイの森」以来かな?


政治家の家系で育ちの良い弁護士をめぐる2人の女性、お見合い相手のご令嬢と慶応中退の女性の2人を対比して描く物語という構図である。最近流行の格差社会というテーマに結びつけるならちょっと大げさかもしれない。外から見ると奇異に見えることもあるが、内部の感覚では案外とそうでもないのだ。

主演2人の演技は悪くないし、キャラクターとしても好意がもてる。ロケハンにも成功して、映画のテンポもいい。セリフもこの学校の内部事情やブルジョア育ちの人たちの生活ぶりをそれなりに取材している感もある。でも、最後に向けては「え!これで終わっちゃうの?」というような尻切れトンボの終わり方だったのは脚本の詰めの甘さと編集のミスかもしれない。

渋谷松涛で開業医の三女として育った榛原華子(門脇麦)は幼稚園から名門私立大を卒業したご令嬢だ。周囲の同級生はバイオリニストの相楽逸子(石橋静河)を除いては結婚へのしあわせな道のりを歩む友人も多い。交際している男性と別れ、紹介で数人と会うがうまくいかない。ようやく、お見合いで弁護士の青木幸一郎(高良健吾)と出会う。抜群の好感度の青木に惹かれていき、家柄の良い青木家の家族からも認めてもらい婚約の運びとなる。


一方、富山県で育った時岡美紀(水原希子)は地元で勉学に励んで慶應義塾大学に入学した。内部進学者のブルジョアぶりに違和感を感じながらも、学生生活を送っていた。ところが、父親が失業して家計は火の車、キャバクラ嬢をやりながら通おうとしたが断念して中退する。その後、オミズの道を歩んでいる時に青木にお店で再会する。美紀が履修した講義のノートを慶応生だった青木が借りたことがあったのを美紀が覚えていたのだ。それをきっかけに2人は逢うようになる。付き合いは腐れ縁というくらいに長い。


バイオリニストの相楽があるパーティで演奏している時、パーティーに参加していた美紀が相楽の演奏を気にいる。近づいて連絡先を交換しようとしたが、名刺の持ち合わせがなく、そばにいた青木の名刺の裏書きで自分の連絡先を伝えようとした。親友の華子からフィアンセと聞いていた青木だと相楽は気づき、あわてて華子に連絡する。そして、仕事のふりをして美紀を呼び出し、華子を含めて3人で会うのであるが。。。


⒈松涛のお嬢様
ホテルで華子がおばあさんを含めて家族一同で会食をしているシーンを映す。小学校から一緒のご学友との会食場面や、松濤にタクシーで向かうシーンなどセレブぶりを際立てようとするシーンが続く。居住地を他の町でなく、松濤を選択したのはセレブを強調するには適切でだろう。


松濤、神山町はもともと佐賀の鍋島家が所有していた借地が多い。先のバブル時代で所有権はかわったところも多いかもしれないが、高級マンション以外では自分の感覚からすると実業家が多く、医者がそんなに住んでるかな?という気もする。あと、華子が幼稚園から付属校というセリフもあるが、時期にもよるが松濤幼稚園なんて超セレブ幼稚園もあったので、ここに住んでいる人がそういう女子校付属幼稚園に行くかな?という気もする。

それでも門脇麦は大衆的な役柄だったこれまでの作品と違い、性格の良いお嬢様になり切っている。好演だと思う。名門女子大に附属小学校から行っている子たちは、会社でずいぶんと出くわした。昔はともかく最近はそんなに浮世離れしていない。

⒉大学内での格差
水原希子演じる真紀が慶応大に入学して、友人と歩いているときに、「あれは内部生」とたむろっている派手な学生をみるシーンがある。確かにその光景は自分が学生時代から伝統的にあるかもしれない。時間を経ていく内に、いろいろな交流はあるが、最初の印象はそんな感じかもしれない。ただ、慶応女子高出身者2人と一緒に食事に行ってランチ4200円に驚くシーンはちょっと大げさかな?

自分は受験組で、しかも学窓を離れて久しいけど、学校時代からいろんな付き合いのあった中に同窓や上司部下とかも含めて内部生はかなり多い。深く付き合ってみると、実はそんなに出生レベルが違うわけでもないこともわかる。偏見は避けたい。


今から40年も前のことが今に当てはまるかわからないが、自分もそうだが自営業を含めた経営者の息子が周りに多く、超有名企業勤務の父親の息子、政治家や公務員でもお偉方系などの息子が目立つ。地方出身者も県でトップないし有数の進学校を出て地元ではそれなりの素封家の息子が多い。そうでない普通のサラリーマンの息子もいる。ついこの間、田舎の国鉄職員の息子が大出世した。出世は出生にあまり関係ない。

幼稚舎出身者はその経営者の息子系が多いけど、超老舗系でちょっとレベルが違う。さすがに、そのレベルの違いがわかっているだけに子どもを中学から入れても幼稚舎から入れる気にはなれない。でも幼稚舎出身でも没落している家庭もあるんだよなあ。

慶応は二年連続で進級できないと、今はどうかしらないが通称「ホッポリ」で退学になる。でも、起業した会社が成功して長期に在学して中退した奴とかいるけど、金欠の中退ってあまりいないんじゃないかな?地方出身の自分の友人も普通の成績で学校奨学金使ってタダで学校へ行った奴いるけどね。

銀座のホステスで慶応生は何人か会ったな、その一人が母校教授になった先輩のゼミに入ったのにはびっくり仰天した。それと、各種キャバクラで早稲田の女子学生も出会ったけど、母子家庭が多かったね。賢くて話は面白いしいい子だった。

この映画の真紀のイメージだ。何が何でも這い上がるというしぶとさを感じたし、みんな卒業している。時代が変わったのか、真紀の存在は現実にはありえる。


それでも、いくつかのセリフはそれなりに不自然さはないように取材しているとは思う。

⒊気の利いたセリフ
華子と真紀がばったり出会うシーンがある。あのあとで、真紀がこんなことを言う。
「同じところにずっととどまるということでは、そちらの世界もこちらも同じだよね。」
なるほど、これはセレブを超越したお言葉


同窓会に行った真紀が、地元の土建屋の三代目に誘われるシーンがある。それも意識しているけど、都会で同じように老舗の家系に生まれて育った人間に対してもその比較を示しているのだと思う。都会という範疇で言うと、バブル崩壊もあり、うまくいっているのとそうでないのと落差が激しい気もする。

よく言われるように、永く続く同族企業って結構経営がしっかりしている会社も多い。そういう場合は親の意向でそのまま東京や地元に残るだろうけど、今の世の中なかなかそうはいかない場合も多い。でも、真紀の言うセリフの意味はよくわかる。
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フィンランド映画「世界で一番幸せな食堂」 ミカ・カウリスマキ

2021-02-23 06:58:34 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
フィンランド映画「世界で一番幸せな料理店」を映画館で観てきました。


これは心温まる牧歌的でやさしい映画である。

映画「世界で一番幸せな料理店」はフィンランド映画の名監督カウリスマキ兄弟の兄ミカ・カウリスマキ監督の作品だ。どちらかというと、弟のアキ・カウリスマキ監督作品を追いかけているが、雰囲気良さそうなので映画館に行ってみる。これは観て心洗われる。

昔の恩人を探しにフィンランドの田舎にやってきた中国人の父子が、世話になった女主人がいとなむ食堂で、料理人としての腕をふるうとみんなに大うけするという話だ。

映画がはじまってしばらくして、料理映画なんだと気づき、料理版「シェーン」とも言える伊丹十三の「タンポポを連想する。凄腕の料理人がひなびた食堂に現れてという設定は似ている。でも、ここでは森と美しい湖に接したフィンランドの田舎に、朴訥なカントリーおじさんたちや気のいい人たちを映画に放つ。その振る舞いが誰も彼もが純粋である。クリスマス以外では滅多に見ることのないトナカイまでが登場して、自然の豊かさに囲まれて純朴な世界を映し出す。

都会の荒波に日ごろさらされている自分にはこの安らいだ世界にはいやされる。おすすめだ!

森と湖に囲まれたフィンランド北部の田舎町にある食堂へ、中国人のチェン(チュー・パック・ホング)と息子のニュニョ(ルーカス・スアン)が入ってくる。この食堂はシルカ(アンナ=マイヤ・トゥオッコ)が一人で切り盛りしていて、チェンはフオントロンという人物を探している。シルカも常連のおじさんも知らない。地元にはホテルはなく、シルカは親子に空き部屋を提供し、しばらく居候して、食堂に来る人たちにフォントロンは知らないかと尋ねるのだ。そんな食堂に中国人観光客を連れてきたガイドが入ってくる。

日ごろビールのつまみの大味なソーセージしか出していないシルカは無理と思った矢先に、チェンが自分が料理をつくってあげるという。あわててあり合わせでつくった中華料理は大受け、ガイドはお客さんを連れてくるという。また来るということで、隣町まで食材と調味料を買いに行き、絶品の中華料理をつくり、地元の常連のおじさんたちもたべるという。そうしていくうちに、フォントロンの正体がなんとなくわかっていくのであるが。。。


1.フィンランドの田舎町と素敵なショット
弟のアキ・カウリスマキ監督作品ではむしろフィンランドの首都ヘルシンキ付近を映し出すことが多い。いきなり映す湖と森がこの映画のベースになる。われわれにはクリスマスにアニメでしかその姿を現さないトナカイが森の中を悠然と歩く。そういうところにあるシルカ食堂では、すでにリタイアしたと思しき初老のおじさんたちが常連で一人でビールを飲んでいる。これがまたいい味を出している。


森の中で迷子になったチェンの子どもを、日本のスーパーボランティアおじさんのように探し出してきたり親身になってくれる。最初はこんなもの食えるかとチェンのつくる料理に口をつけなかったが、途中からおいしいと食べる。チェンをサウナに連れて行ったり、イカダのような舟の上に乗っての飲み会なんて素敵なシーンが満載だ。

弟のアキ・カウリスマキ監督作品に映る登場人物は無表情で愛想がない。しかも、これでもかというくらい不幸の谷底に突き落とす。でも、この映画に映る田舎町の人からは笑顔が常に見える。そこがいい感じだ。

2.欲のない中国人料理人
チェンがいきなり料理人だとわかるわけではない。部屋まで提供してくれて、お世話になった女性店主シルカが困っているのをみて、自分の料理の腕を見せるのだ。でも、チェンに妻がいるのか?探しているフォントロンってどういう人物なのか?一緒にいるのが本当の息子なのかもわからない。そういう謎をつくる。そういう映画の展開がいい感じである。

しかも、思いがけず大勢の中国人が入ってきてお金を落としてくれた訳なのに、報酬をうけとらない。中国人というと金の亡者というイメージを与えるが、そうは見せないのも映画のツボであろう。この映画政治的要素もないし、ここまで中国人を美化した外国映画って少ないから中国で公開したらヒットするだろうな。


この主人公初めて見たけど、永瀬正敏に似ているな。

3.料理映画の傑作
とっさに、伊丹十三の「タンポポを連想したが、影響された部分はいくつかあるだろう。料理映画の傑作デンマーク映画バベットの晩餐会も田舎町が舞台になる。ここでも腕利きの料理人が恩人に腕をふるうという設定だ。田舎のグルメ的な生活をしていない人たちが絶品料理に驚くという設定は「バベットの晩餐会」のテイストに通じるものがある。


最初は鳥をベースにした麺を観光客に出して大受けして、湖で釣った魚をベースにしたスープがおいしそうだった。中華料理というと、アカデミー賞監督アン・リーが台湾時代につくった恋人たちの食卓でのよりどりみどりの中華料理もおいしそうだったなあ。エンディングに映る中華料理をみて「恋人たちの食卓」を連想した。中国人は北海道が大好きだけど、同じような感覚でフィンランドのこのエリア好きなんだろうなあ。

ただ、題名が俗っぽくていやだな。こんないい映画なのにもったいない。
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映画「裸体」嵯峨三智子

2021-02-20 18:32:52 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「裸体」を名画座で観てきました。


裸体は1962年(昭和62年)の松竹映画である。永井荷風の原作を脚本家が本業の成沢昌茂がメガホンを持つ。嵯峨三智子が主演で、男のもとを次から次へと渡り歩く女を演じる。出演者は当時としては豪華で、それぞれ短いショットで映る。

B級映画というよりC級といってもいいような映画である。もともと傑作とか感動するといった映画を見れるとも思っていない。オリンピック前、すでに生まれていた自分の記憶が薄い昭和37年の東京を見てみたいのと、アバズレの印象が強い嵯峨三智子の主演作ということに関心があった。

若尾文子主演で前年昭和36年公開の大映映画女は二度生まれるは次から次へと男を渡り歩く九段の不見転(みずてん)芸者を映し出す。自由奔放に生きていく女を映すということでは、基本的に流れるムードは同じである。勤め先の税理士に手をつけられ囲われることになった若い女が、それをきっかけに秘密クラブのホステスをやって政治家に抱かれたり、好き勝手にやるのだ。

でも、成澤昌茂監督赤線地帯で描いた女のような社会の底辺で生き抜くというような暗さがない。実家で地主さんから賃料を取り立てられるシーンがあるけど、深刻ではない。嵯峨三智子演じる主人公はあっけらかんとしている。

⒈嵯峨三智子と演じる女
当時27才になるところ、なかなかの美形である。自分にはもう少し歳をとってからの妖怪じみた姿と顔つきが頭にこびりつくが、総天然色映画にも耐えうる美貌である。このスチール写真では映っていないが、映画では腋毛が映る。なんとなくエロっぽい。


漁師たちが住む船橋の海辺に近いエリアで銭湯を営む家から東京の税理士事務所に通い事務員として働いている。ひょんな経緯で、税理士の先生に口説かれ、アパートで囲われることになる。1人住まいをした後は、不動産屋の男から紹介され金物屋の二階で下宿する。昔の知り合いから秘密クラブを紹介され政治家と夜を過ごしたりもする。

若尾文子の映画と同様に、売春防止法が施行された後で、こういう感じの裏売春で男を渡り歩く女が街には溢れていたのかもしれない。

⒉豪華な出演者
オープニングの松竹の富士山が映った後に、「にんじんくらぶ」制作とスクリーンに映る。岸恵子、久我美子、有馬稲子の3人でつくった制作会社だ。この3人は出演していない。所属俳優では杉浦直樹とダンサーを演じた宝久子の2人が出演だ。脇役で出てくるのは主演級が多く、出演者はそれなりに豪華だ。アレ?所属映画会社違うのでは?という人もいる。それぞれの出演時間は短い。

昭和40年代前半にかけ、子どもだった我々もてTV番組でよく見かけた顔ばかりだ。地元船橋でサキコに好意を寄せる男に川津祐介、税理士事務所の所長が千秋実、囲われる部屋を斡旋した不動産屋が長門裕之、主人公が間借りする下宿の大家が浪花千栄子、秘密クラブのママが嵯峨三智子の母親である山田五十鈴、夜を共にする政治家が進藤英太郎である。松尾和子がクラブ歌手として色っぽい歌声を聞かせるが、まだ若い。美のピークで美形である。

傑作なのは浪花千栄子だろう。嵯峨三智子と一緒に銭湯の湯に浸かるシーンがある。そこで、ポロっと小さな乳首が見えてしまうのだ。当時55才なんだけど、昔の人は老けているから今でいうと70才に近いくらいに見える。もともと喜劇役者だったわけど、先日同様ファンキーな役柄演じているところが笑える。

今月の日経新聞私の履歴書はホリプロの堀さんだけど、これがなかなか面白い。ロカビリー時代の話で佐々木功を和製プレスリーとして売り出すなんて話が書いてあったな。ここでは主人公に誘惑されるウブな若者を演じている。

⒊永井荷風と成沢監督
永井荷風の原作だけど、当然読んでいない。独身を死ぬまで謳歌した荷風だけに女給カフェかどこかで出会った女をモデルにして書いたのであろう。途中で出てくるストリップ劇場では、全裸を見せないが、ダンサーが色っぽく踊る。戦後は浅草ロック座で、贔屓の女の子たちを可愛がるのが晩年の生きがいだった永井荷風らしい。

千葉の市川に住まいを移した荷風だけに、船橋育ちの女は描きやすかったのかな?主人公の実家付近を映すのが船橋の原風景だったのであろうか。今や埋立が多く、面影がない。

成沢昌茂溝口健二監督作品「赤線地帯」「噂の女といったいった代表作でも脚本を書いている名脚本家だ。監督作品は少ない。長野県の上田出身のようだ。そういえば、成沢という上田高校出身のやつがいたな。大学の時同じクラブの先輩と後輩に割と上田高校出身者がいてみんな真面目だった。会社に入ってお世話になった上司も上田高校出身だけど、質実剛健なイメージが強い。

でも、赤線地帯を書いた成沢昌茂はむしろ軟派なのか歓楽街で働く女性のこともよくわかっている。それだけは今までの上田高校出身者のイメージと違う。
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映画「すばらしき世界」西川美和&役所広司

2021-02-11 18:02:46 | 映画(自分好みベスト100)
映画「すばらしき世界」を映画館で観てきました。

傑作である。心にじわっとくる。ここ一年の日本映画では1番の娯楽性を持った作品だと思う。たぶん今年有数の作品と評価されるであろう。



つい先日、神保町の東京堂書店の映画コーナーに西川美和監督の本が置いてあった。そこで、この新作があることを知った。好きな監督の本だけど、映画見てからと購入はためらってしまう。西川美和さんは映画作品が公開されたときには必ず映画館に行く監督である。それなので、本作「すばらしき世界」が公開され朝一番ですぐ向かう。

役所広司が出演する以外の予備知識はなかった。殺人で13 年の刑を受けた男が出所して、生活保護を受けながら生活するも、職がなかなか得られず悪戦苦闘する話である。出所後の身元引受人夫婦が橋爪功と梶芽衣子、ドキュメンタリーでTV番組にしてしまおうとするディレクターが長澤まさみで中心スタッフが仲野大賀というのがキーとなる配役である。傑作を次から次へと生む西川美和監督作品だけにその他配役も芸達者が出演してくれる。


映画を観ていて一連の伊丹十三監督作品のような娯楽感がある。難解な部分もなく映画は心にすっと入る。ストーリーも途中でだれる部分はない。映画には数多くの逸話をちりばめている。いい方向に進んだかな?と思ったら、思いがけない障害を発生させる。緩急自在な西川美和監督のわれわれを楽しませる脚本作りには敬服する。

殺人で13 年の刑を受けてようやく出所できた。身元引受人のもとに厄介になりながら、役所に行き生活保護の申請を無理やり通し、アパートで1人暮らしをすることになった。でも、職を探そうとしたがうまくいかない。運転手ならできると失効した運転免許を復活させようと本試験所に行ったけど、うまく行くわけがない。


芸者の私生児として生まれ、認知されず母親からも見捨てられ養護施設に入る。きがつくと、ぐれて少年院に入り、出所してからも堅気でない生活に足を突っ込む。様々な罪を繰り返して刑務所暮らしは長きに渡る。

そんな男が出所したという情報がTVプロデューサーのもとに入る。そこで、作家として独立しようとしたがうまくいかず、ブラブラしている男に母親を探すという名目で番組を作ろうと連絡が入る。母親を探すというキーワードで接近したが、普通じゃない動きをする男に手を持てやますのであるが。。。


⒈一本気な主人公
不器用である。バカ正直な部分もあり、殺人の意思があるかどうかでもっと軽く済むところがそうは取られず、刑も重くなった。刑務所内でもイザコザを繰り返したようだ。住んだアパートの階下で外国人労働者たちが大騒ぎするのに対して、文句をつけてその親分的立場の半グレ男と一悶着を起こす。それとは別に、街で普通のカタギがチンピラに因縁をつけられているのを見ると放っておけない。この映画では、単なるワルにしないで、観客に共感を持たれるような元ヤクザに仕立てられている。


⒉現代世相が取り入れられる部分
八方塞がりで、何もかもうまくいかない時に昔の兄弟分についつい電話してしまう。ヤクザからすると、出所は実にめでたく歓待を受ける。でも、そのヤクザも、金を持ち逃げした手下が本来であれば追い詰められる存在なのに、手下が警察に逃げ込んで逆にこちらが追い込みをかけられる。ヤクザの取り扱いもそうは簡単にいかないと、ひと時代前と違う現代反体制社会事情を語る。

主人公が職を求めた介護施設で、障がい者の職員が働いていたが、普通の健常者職員からお前はなっていないと暴力を振るわれている。例の障がい者施設の殺傷事件は、ある意味ヒトラーナチスの優生政策を思わせる部分があると自分は感じるが、障がい者職員が迫害を受けているシーンもここで存在する。本来この映画は出所後受刑者が思い通りに生活できないことを示すという趣旨なのであろう。それに加えて軽く社会性がある部分もある。社会性が強いと鼻につくが、その体裁はない。

それにしてもよくできた映画である。女性監督なのにソープランドのシーンがあったり、取材もしっかりしているのであろう。丹念にディテイルもまとめていて、ヤクザの親分と姉さんの配役や男女関係のあやなども実によく捉えている。最後に向けてはすんなりにはいかない。こういう形でエンディングに結びつけるのもお見事だ。


エンディングロールのクレジットで安田成美の名前を見て、ドキッとした。そうか、主人公の元奥さん役か!顔を見ても全くわからなかった。久々である。最後西川美和監督のクレジットを見るまでずっと座席に座って余韻に浸った。
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映画「さらば愛しきアウトロー」 ロバートレッドフォード&デイヴィッド・ロウリー

2021-02-09 07:41:05 | 映画(洋画:2019年以降主演男性)
映画「さらば愛しきアウトロー」は2018年のデイヴィッド・ロウリー監督作品

セインツのブログアップ時も言及したが、蓮實重彦にはめずらしい新書本「見るレッスン」デイヴィッド・ロウリー監督を絶賛している。同時にこの「さらば愛しきアウトロー」についてもいいことばかりが書かれている。この作品の存在は知っていたが、往年のハンサムな姿からずいぶんと年老いたロバート・レッドフォードのしわだらけの顔立ちを見ると、正直ちょっと見る気にはなれなかった。

それでも、蓮實重彦がデイヴィッド・ロウリー監督を「アメリカ映画を刷新する」とまで絶賛するのに怖いもの見たさで思わず観てみる。amazon primeって便利だね。タダで観れる。

脱獄を繰りかえした一瞬紳士に見える老銀行強盗があっさりと銀行でお金を次から次へと相手も無傷で奪っていくという話だ。流れは淡々として60年代から70年代のアメリカ映画を思わせる。この映画の共演者は豪華だ。ロバート・レッドフォードがひょんなことで知り合う未亡人の恋人にオスカー女優シシー・スペイスク、「歌え!ロレッタ愛のために」で主演女優賞を受賞してからもう40年だ。強盗犯を追う刑事役に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」でオスカー主演男優賞を受賞したケイシー・アフレックだ。それに加えてダニー・クローバートム・ウエイツと役者が揃っている。


1981年のアメリカ。ポケットに入れた拳銃をチラリと見せるだけで、微笑みながら誰ひとり傷つけず、目的を遂げる銀行強盗がいた。彼の名はフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)、74歳。被害者のはずの銀行の窓口係や支店長は彼のことを、「紳士だった」「礼儀正しかった」と口々に誉めそやす。事件を担当することになったジョン・ハント刑事(ケイシー・アフレック)も、追いかければ追いかけるほどフォレストの生き方に魅了されていく。彼が堅気ではないと知りながらも、心を奪われてしまった恋人ジュエル(シシー・スペイスク)もいた。


そんな中、フォレストは仲間のテディ(ダニー・クローバー)とウォラー(トム・ウエイツ)と共に、かつてない“デカいヤマ”を計画し、まんまと成功させる。だが、“黄昏ギャング”と大々的に報道されたために、予想もしなかった危機にさらされる(作品情報引用)

1.蓮實重彦とデイヴィッド・ロウリー監督
この映画はロバート・レッドフォードの俳優としての最終作というのが売りのようだ。蓮實重彦は推薦文を書いてくれと言われ、レッドフォードをアピールしたいという声に、これはデイヴィッド・ロウリー監督の新作だと反発して書かなかったという。(蓮實重彦「見るレッスン」p.19)ましてや「映画90分説」(同 p.16)掲げる蓮實からすると、きっちり90分でおさめているこの映画の簡潔さも気に入っているだろう。「被写体に対する距離感の意識が抜群で安心感がある」(同 p.37)ここまで褒めるとはすごいものだ。老いた姿を隠そうとしないシシー・スペイスクヘの評価も高い。



2.ロバートレッドフォード
これで俳優業は卒業だという。さすがにもう限界だろう。彼と出会ってからの歴史も長い。「明日に向かって撃て」のロードショー時はまだ小学生だったので、中学生になってから名画座で観た。主題歌と言うべき「雨にぬれても」はポップスを聴くようになったきっかけの一つだ。中学生の時、「追憶」は有楽町に行ってロードショーで観た。スマートな大学生とバーバラ・ストレイザンド演じる学生運動の闘士との不自然な恋が今でも心に残る。主題歌はシングルを買って、何度も聴いた。そんな時期からもう47年も経つんだなあ。


主演作では全盛時代の「華麗なるギャツビー」もいいけど、いちばん好きなのは野球映画の「ナチュラル」だな。ロバート・レッドフォード監督作品それ自体では「リバー・ランズ・スルー・イット」と「モンタナの風に抱かれて」という地方を描いた映画の持つのんびりしたムードが流れる映画が好きだ。都会人的レッドフォードなのに田舎風景での出来事を描くのが上手い。正直メリルストリープ共演の「大いなる陰謀」のふけ姿を見て自分は限界だと思った。しかも、面白くなかった。それにしてもここまでよく頑張ったなあ。お世話になりました。

3.やる気のない刑事
ものすごく感動したという映画ではない。この老銀行泥棒、普通だったら一仕事終えたらもう止めてしまって姿をくらましても良さそうなのに止めない。へんな奴だ。それよりも注目したのが犯人を追うケイシー・アフレックが演じる刑事だ。黒人の妻を持った異色の刑事だ。ともかくやる気がない。どうでもいい感じだ。犯人を見つけようとする気がないようにさえ見える。FBIの邪魔が現れ、少しやる気を出す。そんな刑事をカメラが追う。


ケイシー・アフレックはそんな世捨て人のような役がうまい。

マンチェスター・バイ・ザシーもこんな感じだったなあ。デイヴィッド・ロウリー監督からすれば、ケイシー・アフレックは黒澤に対する三船のような存在になるのかもしれない。いいコンビだ。

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2020年キネマ旬報ベスト10をみて

2021-02-07 18:12:40 | 映画 ベスト
2020年度キネマ旬報ベスト10が発表になった。

コロナ騒ぎで休館になる時期もあり、例年よりも作品は少なくなったと思う。日本映画をベストで出せるほど見ていなかったので、年末は日本映画の「ラストレター」を含めた自分のなりの2020年好きな映画を年末ブログアップしたけど、日本映画「ラストレター」を除く9作のうち6作がダブっていた

2020年度キネマ旬報ベスト10洋画では1位の「パラサイト 半地下の家族」については文句のつけようがないだろう。アカデミー賞にも驚いたが、映画評で自分がもっとも信頼している週刊文春のシネマチャートで超久しぶりの25点満点をゲットした時の方がもっと驚いた。


2位の「はちどり」も韓国映画、瑞々しい中学生に感情流入してしまう。むごい話もあるが基調に流れるムードがいい。ブログ記事どう書こうかと迷うほど良かった。韓国映画のレベルは高い。


3位の「燃ゆる女の肖像」もよかった。ラストのヴィヴァルディの「四季」が響き渡ると同時に背筋に今年いちばんの電流が走った。


あと観たのは4位の「若草物語」、7位の「フォードvsフェラーリ」、8位の「ペインアンドグローリー」、9位の「1917命をかけた伝令」、10位の「テネット」であるが、4位にまで評価されたが、「若草物語」はそんなに好きではない。「テネット」も同様でブログ記事アップしていない。自分の好きな映画ベスト10にNetflix映画「ルディ・レイ・ムーア」とイタリア映画「盗まれたカラバッジョ」を入れたが、これは当然入らないとは思っていた。でも両方とも大好きだ。5位、6位の中国映画と「異端の鳥」はスケジュールが合わず見れていない。これはなんとか映画館にたどりつきたい。

自身で次点にした「鵞鳥湖の夜」や「リチャード・ジュエル」は10番台前半だ。さすがのイーストウッド作品も今回はそんなものかもしれない。
日本映画でスパイの妻はそこまでいいとは思えなかった。「朝が来る」が一位になってもいいくらいかと思っていた。「ラストレター」の評価は低かったのがちょっと意外だ。「アンダードック」「本気のしるし」は上映時間が長いので後回しになってしまった。上映館探していってみたい。
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映画「花束みたいな恋をした」菅田将暉&有村架純

2021-02-03 21:01:43 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「花束みたいな恋をした」を映画館で観てきました。


映画館に行き、観る作品を突然別のものにするなんてことは滅多にない。「ヤクザと家族」を観るつもりだったが、暗くギスギスしたのはこの気分にはどうかな?とふと感じてしまう。一連の出演作はつい観てしまう菅田将暉も出ているし、あっさり「花束みたいな恋をした」に変更する。「東京ラブストーリー」の坂元裕二の脚本というのも気になるところだ。

終電に乗り損なったときに知り合った大学生の恋人同士が2015年から2020年までの歩む道のりを映し出す。2人の恋の軌跡はビックリする様なものではない。妙に社会性があったり、アピールする部分が強い訳ではない。普通にありがちな話とも言える。そんなオーソドックスな若者の恋の物語を観るのはたまにはいいものだ。

2015年、明大前駅で京王線の最終電車にギリギリ乗ろうとしていた大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)は同じように乗り損なった男女と4人で居酒屋に行ってしまう。話しているうちにお互いの音楽や本の趣味が似ていることに気づく。そのまま帰ろうとしたときに絹が声をかけて、そのまま飲み明かすことになる。これをきっかけに2人は博物館や美術館にデートをするようになり、恋に落ちて行く。就活を一生懸命頑張ったけど、結局2人ともフリーターになってしまう。


麦はスケッチの才能があり、それを活かしてデザインの道を歩もうとしたが報酬が安くてこれでは生活できない。絹はアイスクリーム屋のバイトをしながら、簿記を勉強している。絹は麦のアパートに入り浸りだったが、いっそ一緒に住んだほうがいいじゃないかと同棲をはじめる。やがて、絹は医療事務の職を得た。麦も懸命に就職活動してネット通販関係の営業マンに職を得る。


定時で帰れる仕事と勤めはじめた麦だったが、何かと雑用もあり早く帰れない。約束していたデートも流れることもある。忙しさが募り、恋のはじめのようなときめきもなくなりつつあったのであるが。。。

⒈プロフィール
麦(菅田将暉)は普通の大学生で調布のアパートで一人住まいしている。何でもスケッチしてしまう才能があり、デザインの道に進みたい希望がある。プロカメラマンの事務所にも出入りしている。ガス会社のガスタンクに興味があり、それを映像にしてしまう。Googleストリートビューに写ったと大学でおちゃらけて自慢してまわる。ジャンケンのルールに疑問を感じている。


絹(有村架純)は広告会社に勤める父母と姉と暮らしている。グルメブログで大量のアクセスがあったことが自慢で、ラーメン屋をまわっている。本が好きである。その趣味は麦と偶然一致する。ジャンケンについても同じこと考えている。終電に乗り損なって麦の家に行くと、自分の本棚と同じような本揃いに驚く。気がつくと、同じ白いスニーカーを履いている。


この2人の恋に劇的な物語があるわけではない。殺人や傷害の事件が絡むというわけでもない。第三者が恋の邪魔をする訳でもない。菅田将暉の前作「糸」が盛り沢山な時事題材を用意して焦点が定まらずちょっと凡長な気がした。就活に苦労するなんて話はあれど、アベノミクスが定着した2015年スタートのお話ではドツボにハマる訳ではない。すごく身近で、自分の恋に照らし合わせて何かを感じるというタイプの作品だと思う。恋の抑揚がウソっぽくなくて、そこに親しみを感じる。

同棲して住むのが、調布駅徒歩30分だという多摩川べりの賃貸マンションだ。これはロケハンの勝利だ。よくぞ探してきたという眺望の良い部屋は、それ自体で一つのキャラクターだ。そこで2人は愛を育む。

それもいいけど、最後に向けての横浜の場面も好きだな。ちょっとわざとらしいけど、2人の恋愛当初と同じような別の恋が芽生えつつある2人を登場させる今回の設定は悪くない。でも、この続編があってもおかしくないような気もする。

⒉固有名詞にこだわるセリフ
こういう脚本は男性特有かなと感じる。オタクぽく妙に固有名詞にこだわる。好きな作家の名前が2人から会話で具体的に次から次へと出てくる。あそこにいる2人はカンブリア宮殿の村上龍と小池栄子みたいだとか、菊地成孔の名前も出てきたり、ここまで固有名詞にこだわる映画は最近少ない。坂元裕二は自分の好みを探ったのか、それともオタクの気があるのかなあ?

これって若者が観る映画だと思うけど、映画の宣伝で「東京ラブストーリー」の脚本家作品と言っても、あのTVを放映したのは生まれる前の若者の方が多いかもしれない。


映画の中の映画の手法で、二人が見る映画がアキ・カウリスマキ監督作品であった。きっと誰かが好きなのかな?「希望のかなた」はそんなに好きじゃなくてブログアップしていないんだよな。

⒊2人が知り合うきっかけとなった大物
これには驚いた。終電に乗り遅れた時、同じように乗り遅れた男女とともに飲み屋に入る。そこで、菅田将暉演じる麦が、飲んでいる有名人を見つける。「ここには神がいる」とみんなに同意を求める。他の男女は映画に関わる人だと分かると別の映画の話になる。そこはそれで終わって、お店を出て別れた後に、有村架純演じる絹が押井守の名前を出して、わたしもびっくりしたと麦に声をかける。気がつくと、もう一軒飲みに行っている。これが恋のきっかけだ。

なんと!実際に押井守氏が出てくる。おいおい、つい最近押井守氏の映画本を読んだばかりである。「押井守の映画50年50本」という本は実にためになった。

自分の出身高校の大先輩には山田洋次監督なんて映画界の大物がいるが、ここでいう神の押井守氏は高校の部活の大先輩である。かなり身近だ。押井氏と同じ代の先輩によれば、OBの集まりには来たことないとのこと。有名人が他に2人いるわれわれの部(班)のOB会名簿にはある。

まさに純粋の先輩だけに今日は得した気分だ。恋のキューピットになったとなれば先輩もうれしいだろう。世の中何があるかわからない。
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デンマーク映画「わたしの叔父さん」イェデ・スナゴー

2021-02-01 18:10:40 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
「わたしの叔父さん 」を映画館で観てきました。


映画「わたしの叔父さん」はデンマーク映画、2019年東京国際映画祭でのグランプリ作品である。引っかかる何かを感じて映画館に向かう。少女時代に親を亡くし、叔父と共に農場で乳牛とともに暮らす若い女性の前に若い青年が現れるという構図である。

デンマーク映画というと、バベットの晩餐会という傑作中の傑作がある。あとは、007シリーズで悪役を演じたマッツ・ミケルセンの「偽りなき者くらいしか思い浮かばない。これはなかなか重い映画だった。もちろん、それらとの共通する俳優はいない。北海道を連想させる広大に広がる大地で、農場で叔父とともに暮らす1人の若い女性を追う。

セリフは少ない。同じ北欧のアキ・カウリマスキ監督の作風を思わせる。朴訥で無口な出演者というのは同じであるが、主人公のクリスを演じるイェデ・スナゴーは色白で美しい北欧美人だ。こういうストーリーなのかな?と思って映像を追ったが、途中から意外な方向に進む。そして、無言で映像で観客に察しろと言わんばかりだ。たぶん、自分と同じことを考えていた観客が多かったと思うけど、肩透かしにあった気分になるであろう。後味は悪くはない。


少女時代に家族をなくし、クリス(イェデ・スナゴー)は農場を営む叔父(ペーダ・ハンセン・テューセン)と2人で暮らす。叔父は足が不自由で、朝起きる時から一日中クリスは叔父の面倒をみて農場の仕事をしている。周囲と関わりをもつことは少ない。携帯電話すら持っていなかった。農場に出入りするヨハネスは獣医である。元々はその道に進みたかったクリスは農場でヨハネスに教えてもらおうと向かった。


そこで1人の青年マイクと知り合う。美しいクリスに魅せられたマイクは教会で音楽の練習を見にくるように誘う。そして、水門のあるホテルでの食事に誘ってくれた。叔父に行ってもいいかと確認して出かけることになるのであるが。。。

映画を見終わってから解説を読んで驚いた。ここでの娘と叔父はなんと実際の叔父と姪の関係だという。しかも、叔父はまったくの素人のようだ。この叔父さんは足が悪いだけでなく身体も弱そうだ。こういう役者よく探してきたと思ったら、なんと実際に酪農経営をしている人らしい。ロケハンもよくできているなあと思ったけど、フラレ・ピーダセン監督はこれだけで優位に立てたと言えよう。

⒈広大な大自然と静かな流れ
乳牛を養う典型的な酪農農家だ。地平線まで広がる大地が延々と続く風景に群れをなした大量の鳥が飛ぶ。なかなかいい。携帯電話も持たず、女友達もいそうもない。そういう2人をカメラが追う。音楽はない。TVで流れる各種ニュースの音が響く。国内の政治だけでなく、アメリカのハリケーンや北朝鮮の水爆実験までニュース音声がバックグラウンドミュージックだ。

そんな中で、クリスが若い男性に求愛される。クリスも満更でない。そこで、ようやく音楽が鳴り響く。この音楽どこかで聞いたことのあるような音色だ。香港のウォン・カーウァイ監督「花様年華」で主人公2人を追いながら繰り返し流れるあの曲によく似ている気がした。

⒉デートと奇怪な動き(一部ネタバレあり)
男慣れしていないクリスはデートに行こうか迷うけど、結局行く。ずっと後ろに束ねていた髪をカールするためにスーパーでホットカーラーのブラシを買ってもらう。でも、なんと叔父さんを連れて行くのだ。こういうコブ付きデートというのは男がつらいよね。


そのあと、色々軽い諍いがあって彼氏が家に誘いに来る場面がある。そこでとるクリスのパフォーマンスに驚く。さすがに映画を見てのお楽しみだが、これって乳牛とともに暮らしているので未成熟ということを表現しているのかなあ?

あと最後もちょっとビックリだな
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