映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「西湖畔に生きる」 

2024-09-29 19:48:04 | 映画(中国映画)
映画「西湖畔に生きる」を映画館で観てきました。


映画「西湖畔に生きる」は中国映画、前作「春江水暖」で古い中国の雰囲気をにじませる映画を送り出したグー・シャオガン監督の作品である。前作は自分も魅せられた好きな映画である。前作同様杭州が舞台、直近でワンイーボー主演のダンス映画「熱烈」も都市開発が進み高層ビルが立ち並ぶ杭州を映し出していた。題名の西湖も出てくるが、郊外の中国茶の段々畑をドローン撮影で俯瞰して美しく映し出す。

杭州市の郊外に暮らす母・タイホア(ジアン・チンチン)と息子・ムーリエン(ウー・レイ)が2人きりの母子だ。10年前父は家を出て行方がわからず、タイホアは山の茶畑で茶摘みの仕事をしている。息子は大学出ても就職先が見つからず、やっと見つけた仕事も老人向け健康器具販売で詐欺まがいですぐ辞めた。タイホアは、茶畑の主人チェンと一緒に暮らすつもりが、その母親の逆鱗に触れ茶畑の仕事からを追い出される

一緒に辞めた茶畑での同僚の兄弟がいる会社に行こうと誘われて行くと、「足裏シート」を販売する会社だった。会社に行き集団で説明を聞き、違和感を当初持っていたタイホアも気がつくと周囲の熱狂に押されてマルチ商法の罠にハマっていた。


山水画の雰囲気を持つ風景の美しさと現代中国のドス黒い部分のコントラストが強い傑作だ。梅林茂の中華テイストの音楽が映像にピッタリと合う。
スタートから杭州郊外の緑あふれる段々畑をドローンで映す。小動物が動き回る田園風景の中で母子を映すカメラワークも柔らか「山水映画」の色彩が強いと思いきや一変する。


最近の日本では話題にならないが、まさしくマルチ商法の世界である。こういう悪い連中の拠点に行ったらマズイと言わんばかりだ。現代中国ではこういう詐欺がいまだに続いているのかもしれない。うさん臭い中国裏社会を描いた映画はどれもこれもおもしろい

⒈マルチ商法の手口
お茶摘みの同僚と一緒に勧誘される人たちが乗る大型バスに乗って行く。バスの中から洗脳が始まっているのだ。組織の女性が巨万の金が入ってくるよと集団全員に訴える。その勢いで現地に着くと、みんなを狂乱の渦に落とすショーのようになっている。足裏シートをたくさん売ってマネジャーになれば1000万元入ってくるよと主催者側が叫ぶと周囲は大歓声だ。母親のタイホアは疑心暗鬼だったのにだんだん周囲の勢いに同調するようになる。悪夢のような世界だ。

新興宗教にしろマルチ商法にしろ洗脳の構図は一緒だ。誘われて先方のホームグラウンドにいる時点でもうダメだ。この手の詐欺話は韓国映画に多いけど、中国でも詐欺は横行しているのか?前作は立ち退き問題を取り上げたが、今度は明らかな犯罪だ。


⒉詐欺に引っ掛かる母親と元に戻そうとする息子
最初の勧誘のシーンからしばらくして母親と息子がゴンドラのような小舟に乗って対面するシーンがある。もともとスッピンに近い母親がチリチリの髪でドギツイ化粧に変身する。完全に組織を信用している。息子は足裏シートを試すが、母親の部屋に行ってびっくりだ。商品の足裏シートの箱が部屋の中に大量にある。どうしたんだと聞くと、家を売って資金に充てたと。財産をぶっ込んだと聞き息子は大慌て。そして、組織を信じる母親の一方で懸命に母親を救おうとする。


こんなシーンを観ていると、安倍元総理の暗殺事件の犯人山上を連想してしまう。母親が統一教会に次から次へとお金を入れ込むことで、巡り巡って鉾先がとんでもない方に向かった。常軌を逸する行動でとても許されないことだが、犯人の気持ちは世間には通じて統一教会への締め付けが厳しくなった。この映画では息子はあの手この手でなんとか母親を助けようと奮闘する。

⒊西湖畔の美しさ
中国史の中でも古くから取り上げられる湖だ。杭州が舞台の映画「熱烈」では高層ビルが立ち並ぶ映像が多く、トレーニングシーンで湖畔が少し出ただけだった。マルチ商法の勧誘を西湖上の船で行ったり、歴史的な建造物の雷峰塔が出てきたりする。寺院を含めて建物の選択のセンスはいい。

この映画ではドローン撮影が効果的に使われている。先日観たノルウェーが舞台の「ソングオブアース」でもドローンから俯瞰して見る氷河や雪山の映像が良かった。時おり空を飛ぶ夢を自分が見て、地上を見渡して気がつくと目が覚める一歩手前のような風景が出てくる感じがいい。
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映画「憐れみの3章」 エマストーン

2024-09-28 19:07:55 | 映画(洋画 2022年以降主演女性)
映画「憐れみの3章」を映画館で観てきました。


映画「憐れみの3章」はアカデミー賞作品「哀れなるものたち」ヨルゴス・ランティモス監督の最新作である。「哀れなるものたち」同様にエマ・ストーンが出演し、ウィレム・デフォー、ジェシー・プレモンスとともに異なる3つの物語を演じる。ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督は毎回奇怪な発想の新作を発表している。これも異様な世界だ。

それぞれの要旨は次のようになっている。

第1話
日々の行動から食事、妻との性生活まで社長(ウィレム・デフォー)の指示にひたすら服従する男性(ジェシー・プレモンス)がありえない無理難題を突きつけられる話



第2話
海で遭難した海洋学者の妻(エマ・ストーン)が奇跡的に帰還したのに警官の夫(ジェシー・プレモンス)が妻に対して尋常じゃない要求をする話



第3話
カルト教団に取り憑かれて死んだ人物を生き返らせる特別な霊能者を探す女性(エマ・ストーン)の話



常人では理解しづらいわかりづらい話だ。
映画を観ながら、訳がわからないなあと感じていた。ヨルゴス・ランティモス監督は常人と違う発想をもっているようだ。自分はついて行けない。正直感想アップするか迷った。備忘録としておく。前回の「哀れなるものたち」は人造人間の話だけど、理解不能という流れでなかった。今回は困ったなあと思いながら席は立たず最後まで観る。本を読んでいるのであれば途中でやめてしまうような気分だ。映画宣伝に何度も観たくなると書いてあるが、もうコリゴリ

第1話より第2話の方がわかりやすい。海で遭難した妻がせっかく生きて戻ってきたのに夫は違う別人だと言い張る。「哀れなるものたち」もきわどいファックシーンが多かったが、第2話も変わらない。エマストーンも前回同様裸体を見せる。眉毛のメイクも前回同様だ。撮影時期が変わらなかったのだろうか?エマストーンは前作から妙に変貌してしまい、少し前のイメージが消え失せ色きちがいのようだ。

マットデイモンにそっくりのジェシー・プレモンス演じる警官も変に見えてくる。食欲がない。食事を出されても食べない。そんな時に妻に親指を詰めて炒めてくれと要求する。このあたりのシーンが強烈だ。


第3話もよくわからない。オ◯ム真理教ばりに超能力に狂う。死人を蘇生する霊能者を探し出す
ということで訳のわからない世界に入る。困ったものだ。
ただ、美貌の女性たちが次から次へと脱いでいくのはサービス精神旺盛かもしれない。でも意味不明?
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映画「侍タイムスリッパー」

2024-09-27 15:24:16 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「侍タイムスリッパー」を映画館で観てきました。


映画「侍タイムスリッパー」はいわゆるインディーズ的サムライコメディである。 8月中旬に日経新聞の映画評をみてこれはおもしろそうと思っても、ほとんどやっていないし時間も合わない。縁がないのかな?と思っていたら、ここにきて一気に公開館が増えた。珍しいパターンで気になる。

幕末の侍が決闘している最中に落雷が起きて気がつくと時代劇の撮影所にいたなんて話だ。うらびれた映画館ではなく東京のど真ん中で劇場の大画面で観た。かなり映画を観ている自分でも知っている俳優はいないし、監督の安田淳一も知らない。先入観なくともかく観てみようという気持ちで観ると確かにおもしろい

とりあえず、作品情報を引用する。

幕末、京の夜。会津藩士高坂新左衛門(山口馬木也)は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。
やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所


新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。(作品情報 引用)

現代の京都が舞台なのに時代劇ファンでも楽しめるおもしろさだ。
気がつくとタイムスリップという映画は数多いが、気がつくと現代の時代劇撮影所に幕末から来てしまうなんて発想がおもしろい。目を覚めると時代劇撮影所内の江戸時代の町並みだ。そこで悪党が庶民をこらしめている場面に出くわす。思わず正義の味方の武士に加勢するので撮影中のスタッフが当惑するなんてお笑いだ。

最初のシーンだけ幕末だ。まさに薩摩の武士を斬ってやろうとする会津藩士が主人公だ。決闘中に稲妻で気づくと、時代劇撮影所なのだ。撮影中に割って入り邪魔をして、女性助監督から「どこの事務所の方ですか?」「別の撮影現場じゃないですか?」と言われる。まさか幕末からタイムスリップとは夢にも思わなかった。


途方に暮れて町を歩くと、決闘をした時の寺の門にたどり着くではないか!でもそこで寝てしまって朝起きると寺の住職に助けられるのだ。しかも、その寺は時代劇のロケで使われていて、撮影所の女性助監督に連絡がいくわけだ。結局、記憶喪失になった人として扱われる。そして寺のロケで役者が急病になり、急遽斬られ役で起用されるのだ。


斬られ役でふつうに展開していった後で、有名俳優から共演したいとオファーが来る。ここで幕末を引きずった出会いがある。ここからグッとおもしろくなる。この出会いの内容は映画を観てのお楽しみに願いたい。話が出来過ぎでも、その偶然がなんかありそうな気がするストーリーだ。最後に向けてはこの映画の結末をどう落ち着けるのか予想がつかず一瞬ドキドキしてしまう。そんな緊張感をもてる映画だ。

自主映画とはいえ、そうは見えない。いくつかのコメントで「カメラを止めるな」との共通性を言う人もいたが、それは違う。この映画の方がレベルはずっと上だ。撮影した映像はしっかりしていて、大劇場の大画面にも耐えられる映像だ。これは監督の安田淳一の力だろう。履歴をみると、撮影技術には長けているようだ。衣装も殺陣も無名揃いの俳優さんもよかった。


京都だからできた映画でもある。おもしろい台本なので、東映京都撮影所が場所を提供してくれたのも超ラッキーだろう。時代劇愛を感じる心意気がすばらしい。京都は歴史が古く、昔の建物の門がそのまま残っている設定も全く不自然でない。いくつかの寺からも協力してもらったのも運がいい。メンバーを見ると確かにカネがなさそう。でもいい映画ができてよかった
普段映画を観ない中高年以上の人に薦めたい作品だ。
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映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」吉沢亮&呉美保

2024-09-26 18:20:00 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」を映画館で観てきました。


映画「ぼくが生きてる2つの世界」は耳の聞こえない夫婦のもとに生まれた男の子(コーダ)を吉沢亮が演じる成長物語だ。呉美保監督「そこのみにて光り輝く」は自分が好きな映画で、あれほどの作品をつくる人の新作がないのを不思議に思っていた。どうやら2人の赤ちゃんを出産して軽い仕事しかしていなかったようだ。その呉美保監督が五十嵐大の原作に共鳴して、港岳彦の脚本で9年ぶりに撮った作品だ。呉美保監督作品は観たかったが、テーマ的に苦手な分野かと思っていた。ところが、こうやって観ると完成度も高く共感がもてる作品に仕上がっている。

映像は主人公五十嵐大が生まれた時から追っていく。

宮城県の港町に暮らす耳の聞こえない夫婦五十嵐陽介(今井彰人)と明子(忍足亜希子)の間に大という男の子が生まれる。元ヤクザの祖父(でんでん)と宗教にハマる祖母(烏丸せつこ)も同居しているが、耳の聞こえないことで何かと不自由が多い。それでも、幼い頃から大は手話を覚えて母親の通訳的存在になっていた。


小学生になると母親が耳が聞こえず言葉もしゃべれないことで周囲の目を意識するようになる。思春期になり、大(吉沢亮)は障がいをもつ両親に生まれたことに悩みをもち、意思が通じにくいことで母親につらくあたるようになる。第一志望の高校に落ちて反抗する気持ちはもっと強くなる。高校を卒業してフリーターとなったあと、20歳になって父の勧めもあって東京へ行く。俳優志望だったが挫折して、物書きの道を歩もうとする。

予想よりはるかによくできている映画だ。胸に沁みる場面も多く感慨深い作品だった。
まずは俳優陣がいい。主演の吉沢亮はもちろんのこと脇役陣も絶妙な演技を見せてくれる。耳が聞こえないことで起きる小さなエピソードをそれぞれに簡潔にまとめる脚本と編集がうまい。反抗期があっても母親からの強い愛情を息子が成長するにつれて感じるようになる。その長い間の母子の絆を丹念に描いていて、自分のハートを響かせる。呉美保監督のさすがの手腕であろう。

耳がきこえない両親の下に生まれながら、耳がきこえる子供たち「コーダ」と呼ぶ。日本には2万人を超える人たちがいるそうだ。アカデミー賞作品「コーダあいのうた」でも娘役はそれなりの葛藤を感じていたが、能天気な両親のもとでもう少し明るい展開だった。こちらの方が日本映画らしく暗めのエピソードが多いかもしれない。

幼少時からの細かいエピソードが盛りだくさんだ。耳が聞こえない本人はたいへんなのはもちろんだが、両親の代役もする息子も大変だったのがわかる。そのたいへんさと母子の感情の交流をうまく結びつける。あとは無音の使い方「コーダあいのうた」同様巧みに使い分けする。


⒈俳優陣の活躍
両親役の忍足亜希子と今井彰人はろう者俳優。「コーダあいのうた」と同様に実際に耳が聞こえなくて話せない人が演じていると真実味が増す。息子の大は赤ちゃんから幼児時代、青年になって吉沢亮と配役がかわっていくが、母親役は生後間もなくからずっと一緒だ。20代から50代まで演じられるのも彼女が若々しいからだろう。

監督の呉美保吉沢亮を主人公にしたかったと作品情報で読んだ。吉沢亮はその期待に応えている。手話を覚え、セリフでなく顔の表情などで感情を表現する術にもたけていた。宮城県の塩竈ロケが中心だ。人影の少ない駅のホームで吉沢亮と忍足亜希子が親子で触れ合うシーンも情感がある。


⒉脇役の巧さと子役への気配り
主人公や両親とともに祖父母の存在感が強い映画である。宗教にハマる祖母を烏丸せつこ、元ヤクザの祖父をでんでんと巧みに演じた。良い配役だと思う。烏丸せつこは映画がはじまってしばらく彼女だと気がつかなかった。我々の世代はボリュームたっぷりの裸体に興奮させられた世代なのでなおのことだ。たまに見るが昔のイメージと違う老いた姿を演じられるいい俳優になった。実際の祖母は手話を身につけなかったので少しは気が楽だったのでは。

祖父は昔「蛇の目のヤス」という異名があった元ヤクザだ。泥酔してケンカしたり、刺青を見せつけたり、祖母に暴力を振るったりする。でんでんは園子温監督「冷たい熱帯魚」凶暴なイメージがあまりにも強い。こんな役柄はでんでんが得意とするところだ。


おそらくは時間をかけてオーディションをしたと思われる子役の選択も、その後に吉沢亮の顔になることを意識して選んでいるのがよくわかる。実際吉沢亮に似ていてリアルな感じを強める。

⒊上京後の苦労
原作者五十嵐大が高校卒業してから歩んできた道は波瀾万丈である。俳優になろうと思っていたが、オーディションにはなかなか通らない。パチンコ屋のフロアでもバイトをしていた。途中入社の面接でも落ちてばかりだ。

結局、プロダクションで編集の仕事をするようになった経緯が面白い。面接をして、元ヤクザの祖父の話をしたら、ユースケサンタマリア演じる社長にウケて即採用だ。面倒な仕事が来ても「(難易度がそれなりの仕事でなく)必ず実力より高い仕事が来る。」と社長に言われつつ仕事する。編集プロダクションで働く一方、耳がきこえない人たちのサークルにも加わる。自分の小さい頃からの経験を活かしながら実際にライターの仕事をするようになったのは結果的にはよかったのだろう。

大が生まれる時に祖父母が心配していたのを母方の伯母さんが回顧して大(吉沢亮)に話すシーンがある。耳の聞こえない2人からふつうの子が生まれるかどうかの心配だ。結局、祖父母は子供の耳がきこえることでホッとした。それを聞いて生まれてきてよかったと感慨深げな表情をする吉沢亮を見てジーンときた。
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映画「ソングオブアース」

2024-09-24 22:36:34 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「ソングオブアース」を映画館で観てきました。


映画「ソングオブアース」ノルウェー西部のオルデダーレン渓谷に住む夫婦の一年を追うドキュメンタリー作品。監督のマルグレート・オリンが自らの両親と美しい自然の春夏秋冬を映し出す。役所広司「パーフェクトデイズ」ヴィムベンダースが製作総指揮に名を連ねる。ノルウェーには行ったこともなく地名も知らない。地図で見るとノルウェー西部の海に接するヴェストラン県にある渓谷のようだ。はるか遠い。一生行かないであろうこの土地の魅力に魅せられる。

美しい自然の光景を大画面で堪能したい。音楽も含めてよかった。

ドローン撮影で氷河の渓谷から湖を俯瞰する。一時代前だったらこんな映像をとるのは難しかっただろう。冬は凍りつき、春から夏にかけてエメラルド色になるオルデバトネット湖と長年の蓄積で溶けてできた氷河が中心に映る。



84歳の父親は氷河や山の中に入っていく。1人でたたずむ父親を見ていったいどうやってその場所まで辿り着いたのかと思ってしまう。そして若き日からの暮らしを老人が語っていく。


夢で空中を飛びあがって地上を見ることがある。ハッとすると目が覚めるんだけど、山の頂上あたりをドローンで下を見ながら映す映像を観ているとそんな感覚をもつ。まさに夢のような世界だ。



冬から春にかけて、氷河が崩れ落ちる。溶けた雪は水量の多い滝のように流れる。夜になるとオーロラが空をつつむ。


秋には樹木は黄色に色づき野生の動物や鳥たちがその壮大な風景の中静かに動きまわる。なんて素晴らしいのだろう。
自分の余計なコメントもなしにしたい。
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Netflix「極悪女王」ゆりやんレトリィバァ&唐田えりか&剛力彩芽

2024-09-23 19:06:48 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
Netflixドラマ「極悪女王」は女子プロレスラーダンプ松本とクラッシュギャルズの長与千種、ライオネル飛鳥の3人を中心に繰り広げられる1980年代の物語である。


監督は白石和彌だ。文藝春秋出身のノンフィクションライター柳澤健「1974年のメリークリスマス」「2016年の文藝春秋」といった名作を書いている。その柳澤に「1985年のクラッシュギャルズ」という1980年代の女子プロレスについてそれぞれの私生活まで踏み込んだノンフィクションがある。これがムチャクチャおもしろい。自分は就職してまもない頃、当時は女子プロレスにまったく無縁だったのに引き込まれる

「極悪女王」は80年代の女子プロレスを描いたドラマで楽しみにしていた。ましてや大ファンの唐田えりかが出演するとなると見逃せない。配信開始後早々に観たが、大興奮しながらほぼ一気に観てしまう。よかった。「地面師たち」に引き続きNetflixはさすがだ。

ジャッキー佐藤とマキ上田ビューティーペアの黄金時代、高校生の松本香(ゆりやんレトリィバァ)は女子プロレスの魅力に取りつかれていた。1980年高校を卒業してパン屋への就職が決まると同時に女子プロレスの新人オーディションがあり挑戦する。そこにはのちにライオネル飛鳥となる北村智子(剛力彩芽)と長与千種(唐田えりか)も参加していた。何とかクリアして3人とも全日本女子プロレスに入門する。

運動神経のいい智子はすんなりプロデビューできるようになるが、長与と松本はプロデビューに至らない劣等生扱いだった。しかも、先輩のイジメも受けて長与は何度も挫けそうになる。やがて、試合に出られるようになっても立場は変わらない。これで辞めようかと思った時、長与千種は智子と観客も熱狂させる迫力ある試合をして認められる。2人はクラッシュギャルズとしてコンビを組む。


一方で松本香悪役として売り出そうとするが、悪役になりきれない試合しかできない。しかも、母親に迷惑をかけっぱなしの父親も放蕩が続き家庭内に面倒をかかえる。もともと、劣等生同士だった2人は仲が良かったのに、雑誌の取材で長与がダンプのことに何も触れないのに発奮して、突如極悪な悪役レスラーに変身してリングに現れる。先輩レスラーの反感もかいながらダンプ松本として悪役に徹するようになる。

すばらしいドラマだった。女優陣の鍛錬を身に沁みて感じる。
猛犬のようなダンプ松本を演じたゆりやんレトリィバァの迫力もすごいけど、ひいき目も若干あるが、唐田えりかにはビックリした。何とバリカンでアタマを刈って丸坊主になってしまうその心意気に敬意を表する。久々に見る剛力彩芽もプロレスファイトに没頭して見直してしまう。

女子プロレスを真剣に見ていなくても、今の50代半ばから上はビューティーペアの歌は知っているだろうし、クラッシュギャルズのファンも多いだろう。ダンプ松本がプロレスだけでなくコメディ番組などでも大暴れをしたのも知っているはずだ。オマケにジャガー横田は医者との間に高齢出産で産んだセガレの進学話で別の意味で有名だ。それぞれの固有名詞には誰もがなじみがあって、初めて出くわす人も少ないのではないか。

それだけにある意味フィクションであってもノンフィクションに近い「極悪女王」のストーリーにはすんなり入っていける。

⒈ダンプ松本(ゆりやんレトリィバァ)
もともとジャッキー佐藤の熱狂的ファンで試合の応援に行っていた。家庭環境は良くない。父親は外に女をつくり金欠の時だけ家に帰ってくる。母親は父親を甘やかして金を渡す。外でできた子にも香とつけてしまい呆れられる。他のプロレスラーも同じように家庭環境は悪い。プロレス界に入門してもなかなか芽が出ない。シーズン5のうち3まではさっぱりだ。それがシーズン4で変貌する。

顔に極悪ムードの化粧をして、竹刀を振り回す。観客席もグチャグチャにする。反則はやり放題。場外乱闘で椅子で相手の頭を叩くのは序の口でハサミで相手の頭を刺す。すさまじい流血だ。普段の生活でも同僚との関係を断つ。まさに猛犬のように荒々しくなる。長与千種との決戦は大流血だけど見ものの一つだ。


⒉唐田えりか(長与千種)
長崎の出身。両親とも家を飛び出して、親戚をたらい回し。小さい頃から空手をやっていた。ダンプ松本同様なかなかプロデビューをさせてもらえなかった。窃盗をしたのかと疑われイジメを受ける。もう辞めてやれと思って、ライオネル飛鳥との試合に気合を入れて臨むと観客から大ウケ。上層部からも見直されてクラッシュギャルズを組むことになり人気はピークになる。

ゆりやんレトリィバァ(ダンプ松本)が主演というクレジットだが、実質的には唐田えりかとダブル主演と言っていいだろう。今やメジャー監督に出世した濱口竜介監督の「寝ても覚めても」東出昌大の相手役になった時からずっとファンだ。不倫話でパッシングを受けたのは悲劇だったけど、よく耐えた。でも、がいても唐田えりかに惹かれる男の哀しい性はよくわかる。

その後映画に出てもカワイイ系ばかりだったけど、このドラマではプロレス技も次から次に繰り出し、かなり鍛錬したのがよくわかる。闘う相手への目つきも鋭いバリカンで丸坊主になったのには心から拍手を送りたい。ちょうどいい具合に東出も結婚することだし、世の女性陣の嫉妬もおさまるだろうからドンドンいい役を回してあげてほしい


⒊剛力彩芽(ライオネル飛鳥)
クラッシュギャルズでも人気があったのは長与千種の方だった。ただ、運動神経が良く、レスリングそれ自体ではライオネル飛鳥の方が一歩上の評価である。クラッシュギャルズとして歌を歌うことに徐々に疑問を感じてくる。もっとレスリングの練習をするべきだと長与千種と考えを異にする。

剛力彩芽がこのドラマに出演してプロレスラーを演じると知った時は意外に思った。そう言えば以前より見ないなあと思ったら、オスカープロモーションを飛び出していたことをすっかり忘れていた。さすがに出番は減るよね。流血シーンは唐田えりかの方が多いけど、剛力彩芽も頑張っていると思う。これをきっかけに飛躍できるといいね。


⒋ジャッキー佐藤とジャガー横田
ドラマがスタートする1980年はジャッキー佐藤がいちばんのスターだ。入門するダンプ松本も憧れていた。ところが、ジャガー横田がジャッキー佐藤との闘いに掟を破って勝ち、ジャッキー佐藤が引退することになる。そんな構図でスターの入れ替えが図られる。

プロレスは全部シナリオができているはずだが、シナリオをはずした真剣勝負に変わることもある。「ブック」という言葉が至る所に出てくる。わかっていて「ブック」を外すこともある。全日本女子プロレスの幹部松永兄弟の中でも意見が分かれて勝負が予定通りにならないこともある。そういった裏話も盛りだくさんなのも見どころだ。

ここで意外に思ったのは、ビューティーペアのジャッキー佐藤とマキ上田とが実はあまり仲が良くなかったシーンがあること。ジャッキー佐藤を演じる長身で美形の鴨志田媛夢という俳優は初めて観る。本物よりきれいだ。マキ上田は直近の出演作も多くおなじみになった芋生悠だ。

ジャガー横田水野絵梨奈が演じてずいぶんとベビーフェイスで現在TVで見せるドスの効いた貫禄ある姿と違うなあと感じる。ところが、昔の写真を見ると意外にもカワイイ系だった。思わず驚いてしまう。


ダンプ松本が主人公だけれども、ドラマを観終わったあとで改めて柳澤健の「1985年のクラッシュギャルズ」を読み直すと、色んな逸話がこの本から引用したような展開だと感じてしまう。本で言えば参考文献で引用元を記載するけど、何も書いていないのはどうかと感じてしまう。
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映画「本日公休」

2024-09-21 17:20:53 | 映画(アジア)
映画「本日公休」を映画館で観てきました。


映画「本日公休」は台湾映画。理髪店の女性店主の物語である。台湾のフー・ティエンユー監督が、自身の母親をモデルに書き上げた脚本で、台中にある実家の理髪店で撮影した。予告編で観る時からムードはやさしそうで気になっていた。日本映画はついつい社会の断層や貧困を取りいれないと気がすまない人が多く、ややこしい。貧相になってしまう。台湾映画にはそれがなく独特のムードで心が安らぐ。そんな癒しを求めて映画館に向かう。

台湾の台中で40年間1人で理髪店を営むアールイ(ルー・シャオフェン)は、常連客とのふれあいを生きがいに仕事を続けている。3人子どもがいて、台北でスタイリストをする長女シン(アニー・チェン)、街のヘアサロンで美容師をする次女リン(ファン・ジーヨウ)、定職に就かぬままの長男ナン(シー・ミンシュアイ)がいる。3人とも実家の店には寄らないのに、近くで自動車整備店を営む次女の別れた夫チュアン(フー・モンボー)が孫を連れて散髪に来る。


アールイは決まった周期に来店しない常連客に電話連絡している。ところが、引退して田舎に転居した後も散髪に来ていた歯科医の様子がおかしいようだ。アールイはお店を休み(本日公休)にしてクルマで出張散髪に向かう。

台湾の市中の人情映画、やわらかいムードで心地がいい。
孫もいる初老の理髪店のおばさんが主人公。いきなり下手な運転で愛車のボルボのバンパーをぶつけるシーンでよくいるおばさんだなと感じさせる。お店の客の大半は常連さんだ。くつろいで世間話をしている。自分がいなくなったらみんなどうするんだろうと心配する。

亡くなった妻が髪が白いと判別できないと心配して白髪染めにやって来る老人、親に内緒で前髪をたらしたヘアスタイルにして欲しいと中学生が来たり、軽い人間ドラマをいくつも積み重ねる。理髪店で常連客とのひそかな会話を織り交ぜるのは日台共通で人情劇によくあるパターン。ムードはやさしい。

街の美容院で美容師をしている次女が、「男は習慣の生き物だから(お店の)担当者をなかなか変えない」というセリフを言う。理髪店の娘だというフー・ティエンユー監督が子どもの頃から母親を見ていて実感で思うことなのだ。次女の女性常連客が別の男性美容師に担当を変える時にいみじくも言う言葉だ。女性と男性は違う。思わずなるほどと感じる。

そんな理髪店内で繰り広げられる物語に加えて、ロードムービーの色彩も残す。常連客だった歯科医の連絡が途絶えて心配になって愛用の理容道具を携えて出発するのだ。「本日公休」の札をかけて出発するが、主人公はスマホを家に忘れる。実家に立ち寄った子供たちがどうしたの?と大騒ぎ。途中で出会った農家の長髪の青年を散髪したり、道がわからなくなった時に道路で脱輪したり、いかにも運転が下手なおばさんの珍道中だ。


3人の子供たちの家庭状況にも触れる。現代台湾若者の人間模様だ。定職のない長男は高価な太陽光発電パネルを売り込みに来る。長女の彼氏がらみで不審な交通違反切符が実家に届いたり、離婚した次女と元夫が復縁しそうでしないうちに元夫に恋人ができたりいくつもの逸話を積み上げていく。


ネタバレに近いが、もう意思の疎通ができない歯科医だった顧客の病棟で頭を散髪する姿にはさすがにジーンとする。思いのほか大勢いる観客の年齢層は高く女性率も高かったが、この辺りはすすり泣く声が至るところから聞こえる。いかにも人情映画らしい観客のムードだった。

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映画「霧の旗(1977年)」 山口百恵

2024-09-19 20:42:26 | 映画(日本 昭和49~63年)
映画「霧の旗」を名画座で観て来ました。


映画「霧の旗」は1977年(昭和52年)に松本清張の原作を西河克己監督山口百恵が主演を演じたサスペンス映画だ。1965年に山田洋次監督、倍賞千恵子主演で製作されている。山田洋次監督では珍しいサスペンス映画でモノクロ画面に緊張感が感じられる傑作だ。倍賞千恵子の日経新聞「私の履歴書」でも悪女を演じた本人にとって「霧の旗(1965年版)」は思い入れの深い作品のようだ。今回名画座の山口百恵特集でも、山口百恵の悪女ぶりだけは観たかった。

北九州の小倉で、教員の兄柳田(関口宏)とタイピストの妹柳田桐子(山口百恵)が仲良く暮らす家に警察が来て、兄を殺人容疑で逮捕する。金貸しの老婆を殺した疑いだ。裁判では不利に展開する。そこで、妹桐子は上京して腕利き弁護士大塚(三國連太郎)の事務所に突然訪れて無罪を主張する兄の弁護を依頼する。しかし、裁判に必要なお金も用意できず、九州での裁判ということもあり断る。懇願したがダメだった。たまたま、別の取材で事務所にいた週刊誌記者阿部(三浦友和)が事情を聞きつけ、事務所を出た桐子に詳細を聞こうとするが桐子は断った。やがて兄は死刑判決を受けたあと獄中で亡くなる。

その後月日が流れ、大塚弁護士のところへ桐子から兄が亡くなった旨のハガキが届いた。気になった大塚弁護士は九州から裁判資料を取り寄せて内容を確認する。桐子は銀座のクラブでホステスになっていた。偶然阿部が客として来て桐子に気づく。桐子に一緒に真相究明しようと話をしても亡くなったあとだと取り合わない。


大塚弁護士にはレストラン経営者愛人河野(小山明子)がいた。その愛人はレストランのフロアマネジャー杉浦(夏夕介)とも関係があった。しかも、フロアマネジャーは桐子の銀座クラブの同僚信子(児島美ゆき)と付き合っている複雑な関係だった。最近つれない杉浦の様子を尾行してくれと頼まれて桐子がついていくと思わぬことに巻き込まれる。

まだ20歳になっていない山口百恵に強い色香の匂いを感じる作品だ。
前作のモノクロがカラー作品となりいくつか設定をかえている。当時コンビを組んでいた三浦友和雑誌記者を演じて、存在感を強くしているのが山田洋次版「霧の旗」と大きく違うところだ。映画の出来としては山田洋次版の方がよくできていると自分には思える。前作の興行収入はこけたそうで、逆に山口百恵全盛のこの作品はよかったそうだ。皮肉なものである。三浦友和をクローズアップするために不自然になっている場面も見受けられる。

山口百恵演じる柳田桐子はもともと兄の裁判の弁護をしてくれと懇願する田舎の女の子にすぎなかった。それが、上京して銀座のホステスになった後で、変貌をとげる。そして、兄の弁護をしてくれなかった大塚弁護士の不利益となる行動をとる悪女になるのだ。


実年齢で20歳になる前なのに、銀座ホステスの着物姿も見せて最終場面に向かっては大人の色香を放つようになる。自分にはこの当時の山口百恵河合優実に似て見える。百恵の魅力に触れられることがこの映画の見どころだろう。歌手山口百恵としての晩年は実に美しい。同世代だった自分があの当時気づいていない魅力に触れるのも古い映画のいいところだ。

⒈弁護士とその愛人
前作の弁護士役滝沢修三国連太郎の優劣はつけがたい。ともにそれぞれの個性を活かした卓越した演技を見せる。前作の弁護士の愛人役は新珠三千代で、倍賞千恵子の罠にハマる姿が実にうまかった。こんな役柄を他で演じたことが見たことない。今回は小山明子だ。悪くはないけど、新珠三千代に軍配があがる。でも、三国連太郎とのキスシーンがある。三国にとっては役得だ。大島渚夫人であることを忘れているような思いっきりを評価したい。


⒉気になった俳優
関口宏山口百恵の兄役だ。「オレがやっていない」と主張を続ける。山田洋次版では「太陽にほえろ」で人気となる露口茂だった。左翼系論者のおかしなコメントに相槌を合わせる日曜朝の番組で最近まで司会者だったあの姿を知っているだけにおもしろい。


児島美ゆきが山口百恵の銀座の店の同僚役だ。山口百恵のような銀座売れっ子らしい風格がなく場末のスナックによくいる姐ちゃんだ。ハレンチ学園一世を風靡した時代から時間がたっている。

⒊暴力表現と現代
大塚弁護士が桐子の兄が真犯人でないと確信する重要な場面がある。これが前作と違う。前作の方が前後の接続も含めてうまくつながる。弁護士事務所の大和田伸也が記者の三浦友和を殴るシーンがある。また三浦友和が山口百恵を殴る。別に悪漢を倒すためのアクションシーンでもない普通のやり取りでの暴力シーンには現代との大きなギャップを感じる。

部屋の台所に湯沸かし器があっていかにもひと時代前だ。倍賞千恵子の桐子は熊本から延々と列車を乗り継いで上京した。山口百恵は新幹線だ。このあたりのムードは新幹線前の方がムードがある。旧日劇と数寄屋橋の不二家が映る。われわれが若いころずっと見ていた風景だ。新宿の歌舞伎町ロケでは「ロンドン」をはじめとしたピンサロがたくさん映る。こんなにいっぱいあったんだと感じながら、昭和50年代前半の街の雰囲気を懐かしむ。

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映画「ぼくのお日さま」 

2024-09-16 08:44:53 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ぼくのお日さま」を映画館で観てきました。


映画「ぼくのお日さま」フィギュアスケートを題材にした小学6年生の少年の成長物語だ。長編2作目の奥山大史監督作品で第77回カンヌ国際映画祭への出品作品だ。主役の少年少女は無名で観るのは初めて、主演級俳優であるコーチ役の池松壮亮、その恋人役の若葉竜也の2人が脇を固める。春先の雪解けの町の風景も映すが、全般的に雪国の風景をパステル調の映像にして見せてくれる。こんな町で育ったら自分はどうなったんだろう感じながら主人公の姿を追う。

雪が積もる田舎町に暮らす小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、すこし吃音がある。アイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)が「月の光」に合わせ氷の上を滑る姿に目を奪われる。さくらはコーチの荒川(池松壮亮)のもと、寡黙に淡々と練習をしていた。荒川は恋人・五十嵐(若葉竜也)の住む雪国の町に越してきたのだ。


荒川はリンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。荒川はフィギュア用のスケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあう。 徐々にうまくなったところで、荒川はタクヤとさくらにペアでアイスダンスの練習をしたらどうかと提案する。

思春期の少年少女のスケーティングを観てさわやかな印象をもつ。
フィギュアスケートを題材にしたこの映画に既視感はない。いい発想だ。奥山大史監督はフィギュアスケートを子ども時代にやっていたそうだ。男の子から少年になろうとする頃の主人公タクヤがまだかわいい。中学に入った時のシーンでは学生服がブカブカだ。同じく、少女になろうとするさくらは少しだけお姉さんでフィギュアスケートの練習をする姿が素敵だ。

雪景色と2人の少年少女がマッチした印象深いシーンがいくつもある。2人がアイスダンスをするシーンで目線を10代の感覚に落として観ると、あの時代にこんな楽しいことあればよかったなあとひたすらうらやましくなる。ドラマ仕立てとしては物足りない部分もあるが、映像美は肌に感じる。


⒈雪国の小さな町
雪がかなり降り積もる町だ。教室から校庭を見ると雪景色で、雪の積もった学校の屋上でたたずむシーンを観ていると別世界だ。そんな町にスケートリンクがある。山が見えているのに、海を見渡す坂の町が映ることもある。一緒の町には見えない。陸屋根の家も多く北海道と推測できたが、架空の街にしていいとこ取りをしているのは徐々にわかってくる。ロケハンに成功している映画だ。

映画を観終わって調べると、どうも小樽近郊のいくつかの場所を中心にロケ地にしているようだ。父が幼少期まで小樽だったのでなぜかうれしい。加えて、雪解けした春先の風景での小さな灯台や昔の赤い郵便ポストが印象的だ。


⒉ペアで踊るアイスダンス
主人公タクヤは雪国育ちでアイスホッケーをやっているので、スケートは普通にできる。ただし、フィギュアスケートは初心者である。しかも、フィギュア用の靴でないとクイックなどの技巧はできない。コーチからフィギュア用の靴を借りての基本指導よろしく徐々に熟達していく。

コーチから2人はアイスダンスをやらないかと言われた時、無口なさくらは本当はイヤだったように見える表情をした。でもだまってコーチに従った。2人の腕前には巧拙があったが、徐々に2人のタイミングがあってくる。タクヤも成長していく。

コーチが2人を凍った湖に連れていく。そこでアイスダンスを踊るのだ。池松壮亮が雪道を運転するクルマでかかるのは60年代のポップス「Goin' Out Of My Head」だ。誰しもが一度は聞いたことがあるだろう。それをバックグラウンドミュージックにして少年少女が湖で踊るアイスダンスのシーンは格別にすばらしい「Goin' Out Of My Head」の組み入れ方が絶妙だ。このシーンとスケートリンクでの2人のアイスダンスを観るだけで映画館に行った価値がある。

⒊少女の複雑な想い
さくらを演じる中西希亜良は鼻筋がきれいな美少女である。麻生久美子が12歳だったらこんな顔をしていたのかと思う顔立ちだ。清純でみずみずしい。演技は素人だけどオーディションで選ばれたようだ。さくらはフィギュアスケートの実技は何度も見せるが、セリフは少ない。自分の想いを表情で見せる。


コーチのへのひそかな恋心、仲間である少年へコーチが指導している姿への嫉妬心、ひそかに思いを寄せる先生が男同士でイチャイチャするのを偶然見た時の嫌悪感をいずれもセリフなくわれわれに表情で示す。この年齢の女の子の心理状態は複雑だ。当然演技は素人なのでむずかしいセリフが控えめでうまくまとめられていると思う。

対するタクヤも話し出すとたどたどしくしか話せない。ウブな感じで好印象を与える。コーチが男性同士のカップルだという男色系の匂いは抑えられた。それはよかった。最小限のセリフで魅せてくれた良品の映画である。
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映画「ヒットマン」 グレンパウエル&リチャードリンクレイター

2024-09-13 21:08:23 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「ヒットマン」を映画館で観てきました。


映画「ヒットマン」は名匠リチャードリンクレイター監督の新作で、「恋するプリテンダー」「ツイスターズ」と主演作が続くグレンパウエルが「ヒットマン」を演じる。ヒットマンとは日本流では殺し屋だ。警察のおとり調査でグレンパウエルは殺し屋のふりをして殺しの依頼人を罠にはめて逮捕に導く。

自分と同世代のリチャードクリエンター監督「スクールズオブロック」「6歳のボクが、大人になるまで。」が最も有名だが、自分のベスト100に3作もある。正直言って作品全部が好きなわけではない。イマイチで次回に期待だなと思ってしまうこともある。俳優ストも明けようやくアメリカ映画らしいラインナップが揃った中で新作を楽しみにしていた。


ニューオーリンズで2匹の猫と静かに暮らすゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は、大学で心理学と哲学を教える傍ら、地元警察に技術スタッフとして協力していた。おとり捜査の警官が職務停止となり、ゲイリーが急遽代わりを務める。依頼者と面談して、具体的な殺害依頼を口頭で受けた時、やり取りを聞いていて待機していた警察が逮捕するパターンだ。ゲイリーは相手に合わせて変装をして接触する。意外な才能を発揮し相手を信用させて次々と依頼者を逮捕へ導く。

夫殺しを依頼してきた女性・マディソン(アドリア・アルホナ)は魅力的な女性であった。殺し屋ロンに扮して彼女に接触して事情を聞くうちに、逮捕するはずの相手に対し「この金で家を出て新しい人生を手に入れろ」と見逃す。その後意気投合した2人は会うようになる。マディソンはゲイリーを殺し屋と信じて付き合うのだ。


これは抜群におもしろい!
リチャード・リンクレイター監督らしくユーモアをたっぷり混ぜながら、ビリーワイルダー「深夜の告白」を連想する夫殺しを目論む美女を映画に放つ。フィルムノワールの要素も持たせるのもいい感じだ。セクシーな美女を登場させて往年のブライアン・デ・パルマ作品のようなエロチックサスペンスのムードも少しだす。

事前情報は少なく観た。最初は怖い男がぐだぐだ話すのを観ている時は何が何だか分からず、一体どうなるんだろうと思った。男たちの正体とストーリーの主旨がわかってからは頭にすんなり入っていける展開だ。主演作が続き絶好調のグレンパウエルがニセの殺し屋になりきって、「琴姫七変化」のようにいくつもの雰囲気を変えて登場する。Netflix「地面師たち」を観て身近に殺し屋っているんだなと感じたばかりで、世の中には裏社会でなくても殺し屋に頼む人って実際にいるんだなと感じる。


⒈巧みなストーリー展開と女への深入り
この映画ではリチャード・リンクレイターと並んでグレンパウエルも脚本にクレジットがある。映画の脚本を書くのに実際の事件報告書をじっくりと読んだらしい。わかったことも多いだろう。映画の中盤にかけていくつもの短い具体例をピックアップする。殺しの依頼主との数多くの出会いの後で美人の人妻マディソン(アドリア・アルホナ)と出会う。夫にムカついている。ゲイリーはバツイチの独身だ。いつもは情を移さないゲイリーが自分のおとり捜査に捕まったらかわいそうだと感じて、逃してしまうのだ。

ここでドラマがラブストーリーの要素も加えて一転する殺し屋「ロン」のまま付き合ってしまうのだ。大学講師としての普段の姿は無精髭を生やして、いつものグレンパウエルのようなお調子者で軟派なムードはない。離婚しようとしているマディソンとのメイクラブから面白くなっていく。もちろん警察には付き合っているとは言っていない。マディソンにも殺し屋の立場のままだ。自宅も教えない。色んな人たちにウソをつきながら交わしていく。ウソつきなのにあまりイヤな感じがしない。

外で2人がデートしている時にマディソンの夫とバッタリ出会ったりおもしろい遭遇をいくつか作って巧みにストーリーを組み立てる。ネタバレなので言わないが、こう展開するのかと仕上げに感心する。


⒉悪女映画
映画の歴史上色んな悪女を生んできた。夫殺しの題材ではビリーワイルダー監督の「深夜の告白」(原題 倍額保険)が保険金殺人を扱って映画界に影響を与えた。1944年のフィルムノワールの代表作だ。主演の人妻を演じるバーバラ・スタンウィックは同じ悪女でも「危険な情事」グレンクローズ「蜘蛛女」レナオリンとは違って正統派美女である。もちろん、「ヒットマン」はそのテイストを少しだけ入れたに過ぎないが、「夫殺し」、「保険金殺人」のキーワードでは共通する。

フィルムノワールでこういう危険な依頼をする女をファムファタールと呼ぶ。ラテンのテイストもあるアドリア・アルホナは初めて見るが、セクシーさとエロのフェロモンがムンムンするいい女で適役だ。


⒊リチャードリンクレイターとグレンパウエル
お金のかかったアメリカ映画らしい作品が増えてきたのはうれしい。でもこのリチャードリンクレイター作品はお金がかかっているというより、中ぐらいの予算で楽しい映画に作り上げるような工夫がなされている。ラブコメの要素もあり、サスペンスやフィルムノワールの要素もひっくるめた何でもありのムードがいい感じだ。終盤に向けてどう結末をもっていくのかドキドキしながら見ていた。「深夜の告白」時代ではなかった結末だろう。脚本を2人で楽しんでいる。

この2人は「エブリバディ・ウォンツ・サム」で組んでいる。80年代のミュージックで満ちあふれたこの映画が好きだ。当時は無名だったグレンパウエルも今や大スターになっている。今回はプロデューサーや脚本のクレジットにも名を連ねている。主演作が3作続いたけど今後にも期待する。
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映画「熱烈」 ワンイーボー

2024-09-09 07:51:47 | 映画(中国映画)
映画「熱烈」を映画館で観てきました。


映画「熱烈」は中国映画、若手スターのワンイーボー主演のブレイキン・ダンスを題材にした作品。監督は大鵬(ダーポン)となっていて相撲の大鵬を連想してしまう。パリオリンピック「ブレイキン」が競技種目となる。日本選手が金メダルをとり話題になった。TVではダイジェスト版しか見ておらず、ルールもよく知らない。ストリートダンスもオリンピック種目になるんだという実感だ。

ブレイキン自体と言うより現代中国の若者がダンスに歓喜する姿が予告編に映り気になる。文化大革命以降の改革路線に入る前は西洋かぶれと非難されたはずだ。今の北朝鮮みたいでありえない映像だ。世相が変わって良かったね。主演のワンイーボーは香港のトニー・レオンとの共演の「無名」、テストパイロットを演じた「ボーン・トゥ・フライ」を直近で観ている。97年生まれで古い中国は知らない世代だ。徐々に顔なじみになる。でも、日本人はあまり中国映画が好きではないからか観客の数はそれなりだ。


ブレイキンプロダンスチーム「感嘆符!」は、社長の一人息子である“カリスマダンサー”=ケビンが練習にも出ずやりたい放題。コーチ(ホアン・ボー)も形だけで口を出せず、チームは振りだけの代役を探さなければいけない状況に。コーチはかつてオーディションを受けた青年、陳爍(チェン・シュオ)(ワン・イーボー)のことを思い出す。陳爍は全国大会優勝の夢を持ってチームに加わり、仲間たちと練習を続け友情を築いていく。(作品情報 引用)

中国の若者パワーを感じさせる作品でスポーツ根性モノ的なテイストだ。
スポーツの成長物語に良くありがちな紆余屈折を途中でつくって最後につなぐ。ストーリーの基調は注目するほどでない。若者パワーに注目したい。ただ、説明の省略も多いせいか訳がわからなくなる場面もある。

ワンイーボーは主人公であっても、もともとはスターダンサーの代役的な存在だ。本大会は出れない前提でチームに加えてもらう。以前オーディションで落選しているので、本人も代役で十分だった。ところが、徐々に力をつけて来るのだ。あとは長州力に良く似ているコーチにも存在感を持たせる。


自分はダンスの巧拙がわからない。ヘッドスピンや体操のあん馬のような足の動きがすごいのだけはわかる。カメラワークもよく、ダンススピードの緩急なども含めて適切な編集をかさねて映像にしている。躍動感を感じる。ブレイキン自体中国で人気があるのだろうか?ともかくダンスバトル会場の熱気がすごい。演出もあるだろうが、日本映画ではここまでの熱気は出せないだろう。

会場の観客と演じるダンサーとに一体感があるのに好感が持てる。なぜか男女比率が男性に偏っているように見える。1人っ子政策の弊害で若者に男性が多いことも影響しているのであろうか。


⒈杭州の街にビックリ
浙江省の省都で人口約1200万の大都市だ。地図だけで見ると、比較的上海が近い。映像で映る高層ビルやショッピングセンターなど街の様子は近代的だ。2000年前後までの中国大陸の都市はここまで発展していなかった。ダンス会場の体育館もスケールが大きい。不動産市況の停滞はあまり感じられない。世界史でも習う随の時代にできた大運河の終点で、街の中心にある西湖は風光明媚で唐の時代から有名だ。映像は湖の近くでトレーニングする姿も映す。

⒉普段は副業だらけの主人公
ワンイーボー演じる主人公チェンの実家は中華料理屋で、父親はおらず母親が切り盛りする。おじさんがつくった蝋人形が置いてある。チェンは料理に使う野菜を市場に買い出しに出る。それだけでなく、商業施設のイベントでのキャラクターショーでヒーローを演じたり、クルマの洗車場で高級車を洗車したり、バリバリ副業する。その合間に乗客がいない電車の中などでヘッドスピンの稽古をするのだ。


主人公の母親も中華料理屋だけでなく、結婚式のウェディングシンガーをやったりする。自分が知っているだけでも、中国には昼夜働き詰めの中国人っていっぱいいる気がする。今の日本人が労働法の関係上副業がしづらいのとは大違いだ。楽天の三木谷社長も「早く帰れ」だけではまずいと言っているが、ユニクロの柳井社長の言うように今のままだと日本は滅びる。

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映画「ドッグマン」リュックベッソン&ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

2024-09-08 18:00:59 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「ドッグマン」は2024年公開のフランスの巨匠リュックベッソン監督作品だ。大好きなリュックベッソン監督作品なのに公開時に行けなかった。ポスターの女装の雰囲気に違和感を感じたからかもしれない。それでもAmazonプライムのラインナップに入ってきて思わず気になる。

以前2019年に同名の「ドッグマン」があり、マルチェロ・フォンテがカンヌ映画祭の主演男優賞を受賞する名演技だった。2019年度で個人的に上位に推す映画で、いじめられっ子の復讐というストーリーでスカッとした後味を残した。ストーリーはまったく違うが、主人公が虐待を受けた経験があることは共通する。


ある夜、警察に止められた一台のトラックに負傷した女装の男と荷台に十数匹の犬がいた。精神科医のデッカー(ジョージョー・T・ギッブス)は、女装の被疑者ダグラス(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と拘置所で面談する。通称「ドッグマン」に対してデッカーは現状のダグラスを知るために生い立ちを聞き出す。


少年時代のダグラスは闘犬を生業にしている強いDVの父親に逆らい犬小屋にしばらく監禁される。そして母親は逃げていく。父が放った銃弾で倒れている時に犬に助けられ警察に保護される。しかし、脊椎を痛め歩行不能になってしまう。養護施設に預けられた時に世話をしてくれる俳優希望の女性に憧れるが、離れ離れになる。そして、再度犬と暮らすようになる。

リュックベッソン監督が投げる鋭い変化球。
一緒に暮らす犬と心を通じ合いながら犬に助けられて生きていくドッグマンの人生をたどっていく。現実離れしている犬たちの活躍があっても不自然に感じない。ダメ元で見たのに気がつくと一気に最後まで観てしまう。さすがリュックベッソンだけに波瀾万丈の人生の中に見どころをいくつもつくる。犬たちの名演技に感心する。

⒈リュックベッソンのスピード感
緊張感あふれる「レオン」を経て、「トランスポーター」「TAXI」などのスピード感あふれるアクションを90分で簡潔にまとめていく作風が好きだった。今回はそのぶっ飛ばしていくようなスピード感はない。でも、自らが足の悪いドッグマンの代わりに、意思の通じる犬に悪さをさせたり、ドッグマンを痛めつけようとする悪党に対して犬がやっつけるところにスカッと楽しめる部分を感じる。


⒉少年期の虐待と異常な家族
ドッグマンことダグラスの父親は闘犬を仕事にしているのに犬が好きでない。兄も父親の加勢をしていてまともではない。母親はダグラス寄りでも、時おり父親から強い暴力を受ける。最低なオヤジだ。犬をかばったダグラスを犬がたくさんいる犬小屋に閉じ込めてしまう。犬たちはダグラスになつくが、汚い服を着さされたままだ。母親もかばいきれずに逃げ出す。また、犬のことで父親に逆らうと銃でダグラスの指を撃つ

結局、撃たれてとれたダグラスの指の入った袋を犬がパトカーまで運ぶ。驚いた警官を犬が誘導してダグラスの家まで行き、父と兄は逮捕されてようやく保護されるのだ。こんな感じで犬が窮地を救う場面がいくつもでる。犬に人間同様の知恵を与える。

⒊犬の名演技
出演している犬を巧みに飼育する人がいるのであろう。まるで人間の心がわかるように犬が動くシーンが多い。それぞれのショットで犬を誘導しているのであろうが、これは容易ではない。カメラも絶好の瞬間をとらえる。常にダグラスは犬に助けられている。犬に悪さもさせる。ギャングも怖くない。

金持ちの豪邸の居室にある貴金属が次から次に強盗にあう。監視カメラには人が映っていない。保険会社に盗難の届出があって一体どうしたのだろうと調べると、それぞれの防犯カメラに犬が短時間映っている。保険会社がその飼い主ダグラスを追うが、犬に返り討ちに遭う。なんて話が続いていく。ギャングの親分のチ◯コを噛むシーンに笑う。発想がおもしろい。


⒋女装になっての変貌
最初に出てきた時に女装だ。男色系のゲイの話かと勘違いしてしまうが違う。少年時代から犬好きでも、むしろ女性にあこがれるくらいだ。仕事がなくなった時に、職探しでようやく見つけた男装女性のショーをやるクラブになんとか入れてくれと頼み断られる。見るにみかねたオカマの女性たちに助けられてようやく入店。


そこでエディットピアフを真似したシャンソンを堂々と披露して喝采をうけるシーンは中盤すぎの見どころだ。思わずうなる。それでオカマクラブのレギュラーになるのだ。さすがリュックベッソンだけに英語主体の作品でもフランス流の見どころも残す。

ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの怪演と犬たちの名演技が光る。
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映画「ナミビアの砂漠」 河合優実

2024-09-06 17:18:42 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ナミビアの砂漠」を映画館で観てきました。


映画「ナミビアの砂漠」は若手女性監督の山中瑶子河合優実主演で21歳の女の子の偶像を描いた作品だ。2019年ラグビーワールドカップでニュージーランド対ナミビアの試合を特等席で観た。結果は言うまでもないが隣がナミビアの応援団がいて点が入るたびに大騒ぎしていた。ナミビアの砂漠と言っても映画のストーリーには関係ない。河合優実が動画で見ているだけだ。

以前から好きだったので河合優実の活躍が際立ってきたのはうれしい。前作「あんのこと」でも主役を張って、世の中にこんな不幸な女性がいるのかと思わせる貧困女性を演じた。その次作なので気になる。相手役の金子大地とは「サマーフィルムにのって」で共演している。TV番組「不適切にもほどがある」で一般の認知度も急激に高まった時期の公開となる。


カナ(河合優実)は脱毛サロンのスタッフとして働く21歳の女の子。ホンダ(寛一郎)と同棲しているが自由気ままに夜遊びしながら生きている。友人と会うと言ってハヤシ(金子大地)と浮気をしている。ハヤシからいったん別れを告げられるが、ホンダが出張で風俗遊びをしたのがバレたのもいい口実に気がつくとホンダの元を飛び出してハヤシと同棲することになる。
ホンダの親にも会い順調だったが、部屋の整理をしていてハヤシの秘密に気づいてしまう。その時からカナの精神が安定しなくなっていく。

河合優実を終始舐めまわすように追う映画だ。
ストーリーはどうってことがない。軽い起伏があってもビックリするほどではない。まだ若い女性監督が脚本を書いているので、人生経験も浅いからそんなに変化があるストーリーは書けないだろう。さすがに単調さにあきてしまいそうになると、河合優実に変化が生まれる。その繰り返しだ。もう少し短くまとめてもいい気もする。女性目線が強すぎてバランスは悪い。ただ、河合優実の頑張りには圧倒される。


⒈21歳の女の子
河合優実演じるカナの家庭環境は良くない。父親に反発して家を出て同棲している。喫煙者だ。鼻に穴をあけてピアスをしている。脱毛サロンで働いている時は丁寧な言葉遣いだが、普段は普通の21歳の女の子の話し方だ。ちゃっかり同棲相手に女友達と会うと言って浮気相手と会う。ホストクラブにもいく。河合優実が女性便器に座っている時に、男がまたがっておしっこするシーンが珍しい。「映画なんて観て何になるんだ」というセリフを思わず吐いてしまう。

⒉女性目線が強い。
河合優実暴言を吐くだけでなく、男性に暴力を振るうシーンがものすごく多い。急に理不尽な話をして男に突っかかる。困ったものだ。最初の同棲相手はカナに向かって土下座する。しかも、相手に中絶したとウソも言っているのにだ。男性のDVは否定しても女性の暴力は肯定する態度にしか見えない。若い山中瑶子監督が脚本書いているからそうなっちゃうのかな?そう言った意味で女性には受ける映画かもしれない。


⒊河合優実の頑張り
「あんのこと」ではシングルマザーに売春を強要されて勉強もろくにさせてくれなかった女の子で、ひたすら悲惨だった。ここでは家庭環境は良くないようでもそんな貧困さはない。大学には行かずに普通に働いている21歳の女の子を演じている印象だ。脱毛サロンでは実技も行う。ともかく終始出ずっぱりで大量のショットをこなしている。

同棲相手と取っ組み合うシーンはプロレスみたいだ。同棲相手の秘密がわかって精神も不安定になる。パワーがあるなあ。それはそれで敬意を表する。加えて、男性ファンへのプレゼントでやさしい乳首を拝めるとは予想していなかった。裸で寝て起きた時のシーンでサラッと見える。身を乗り出してしまう。


⒋唐田えりか登場
河合優実が同棲する部屋の隣室にいる女性である。幻想的なキャンプシーンで河合優実と火を囲む。この映画の中で存在感が強いわけではない。唐田えりかが出てくると思わず微笑みたい気分になる。いつもながらかわいい。次作に女子プロレスの物語を控えているという。楽しみだ。
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映画「インファナルアフェア」 トニーレオン&アンディラウ

2024-09-04 08:29:42 | 映画(アジア)
映画「インファナルアフェア」は2002年の香港映画。先週末より観たいと思う新作がない。たまにはこういう隙間時期も来る。Netflixを見ているとふと「インファナル・アフェア」が3作あることに気づく。あまりにも有名な映画だけれども2作目「インファナルアフェア 無間序曲」はブログアップしているが、1作目はアップしていなかった。

香港マフィアに警察から潜入して、逆に警察に香港マフィアのスパイが潜入する基本ストーリーはわかっていてもディテールは忘れていた。こうやって見終わると,アンディ・ラウとトニー・レオンの香港映画の2大スターにとって重要な転機になった作品と再認識する。


香港の街で育つラウ(アンディラウ)はヤンチャでサム(エリックツァン)が率いるマフィア組織に入ったが、警察内でスパイをすることを命じられて警察学校に入校する。一方で警察学校を辞めたヤン(トニーレオン)が上司のウォン(アンソニーウォン)に命じられてマフィア組織に潜入せよと言われる。成長した2人はともに組織の中で重要な存在となっていた。

マフィア側にいるヤンから大きな麻薬取引があるとウォン警視が密かに聞き厳戒態勢に入るが、逆にそのことは警察内にいるラウからサムに伝わっていた。その取引はお互いに失敗する。同時にそれぞれの内部に侵入者がいることがわかる。


不朽の名作、同時に20年以上前の香港の街を懐かしむ。
香港デモもあり、しばらく香港に行っていない。2010年くらいまで頻繁に香港に行っていた。ヴィクトリアハーバーを臨む屋上シーンとともに街中のシーンが映ると懐かしくなる。最近はずいぶんと物価が高くなったみたいで、円高で香港で安く物が買えた時期が今では信じられない。香港島と九龍エリア両方を合わせてもそんなに広いエリアではない。あ!この通り懐かしいなと思わず身を乗り出す。


こうやって観てみると、こんなシーンあったっけと思うシーンもいくつかある。最終に向けてアンディラウとトニーレオンがビルの屋上で対峙するシーンはあまりにも有名だ。でも、序盤戦でオーディオルームであっていたことは失念していた。恋人役であるケリーチャンとサミーチェンの香港を代表する美女2人とのやりとりも忘れていた。コメディ映画の盟友アンディラウとサミーチェンは近年「花椒の味」で共演した。自分が好きな映画だ。

ただ、メインストーリーである1作目よりに2作目の方が高圧電流が流れるような衝撃がある。一作目は意外にあっさりしている場面が多い。マフィア組織の闘争に激しさを感じるからであろう。また、マーチンスコセッシ監督が念願のアカデミー賞を受賞したリメイク映画「ディパーテッド」ではマット・デイモンとレオナルドディカプリオという2大スターの共演だが、何よりマフィアの親分ジャックニコルソン「バットマン」ジョーカー役と同じ狂気を感じて衝撃を受けた。だからと言って「インファナルアフェア」の存在感が低くなるわけでもない。

スパイ探しを依頼されるが実は自分がスパイだというジレンマに押しつぶされそうになる2人を観るのが映画の見どころだろう。自分の警察内での存在を知っている指示者であるアンソニーウォンが亡くなった後のトニーレオンの彷徨いやマフィアの親分エリックツァンが消えて警察の人間に成り切ろうとするアンディラウの転向など見応えのあるシーンは満載だ。


ともに還暦を過ぎた。アンディラウが1つ上だがほぼ同世代である。「インファナルアフェア」の公開時で40歳。ともに現在までキャリアを積み上げてきている。トニーレオンは昨年中国の若手スターワンイーボーとアクション映画「無名」を撮ったが、格闘シーンの激しさに驚く。まだまだやれる。

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