映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「大いなる不在」藤竜也&森山未來

2024-07-22 06:51:21 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「大いなる不在」を映画館で観てきました。


映画「大いなる不在」藤竜也認知症の老人で、両親の離婚で疎遠になっていたその息子森山未來が演じるシリアスドラマである。監督は近浦啓で作品を観るのが初めてだ。認知症問題の映画は得意な部類ではないが、藤竜也が主演となると気になる。予告編を観ると、かなり重症のようだ。映画館内の周囲には70代より上で、ヨタヨタ歩くよくもまあ映画館に来るなという老人も目立つ。

映画は時間軸をずらしながら進む。施設に入った父と息子とのかみ合わない会話、父と再婚相手との家庭に息子が訪問した様子などを交互に映し出していく。いきなり機動隊のような面々が銃撃を恐れながら父親の家に侵入しようとするシーンで始まり何だと思うが、その謎は最後に明らかになる。

俳優の遠山卓(森山啓)は九州に住んでいる認知症でケア施設に入った父親陽二(藤竜也)の元へ訪れる。もともと大学教授だった陽二は卓の母親と離婚していた。長きにわたり父と息子は疎遠になっていたが、最近再会した。卓は妻夕希(真木よう子)とともに施設職員の説明を聞いたあと、陽二の自宅に向かう。そこで、再婚した直美(原日出子)と一緒に暮らしているはずだったのにいない。直美の携帯電話に連絡すると家の中で着信音が鳴る。

以前卓が訪問したときには、脈絡のない言葉を話す陽二の一方で後妻の直美は卓を歓待してくれた。家中にメモ書きが貼ってある。認知症映画にありがちで、あったことを忘れないためだ。改めて卓が父親に直美さんはどうしたの?と聞くと自殺したと言う。卓は真実は違うと察して家の中の日記を読み始める。


見応えある作品だ。しっかりとした脚本でセリフも練っている。
藤竜也は一世一代の名演技だ。セリフも多く、80歳を超えた俳優が容易にできるレベルではない。直近に主役を張った「高野豆腐店の春」よりかなり難易度が高いすばらしいとしかいいようがない。

理系の元大学教授でアマチュア無線が趣味。皮肉屋で人の話を素直に聞かない。認知症というより統合失調症的な誇大妄想を感じさせるセリフが目立つ。この大学教授は、いつどのようにして、頭の配線が狂ったのかと思わせる。夫婦仲良いように見えるが、妻に対して冷徹な一面もある。原日出子とのやりとりを見ながら、結婚の時点では藤竜也より格上だった愛妻芦川いずみさんのことを想う。


森山未來の役柄は俳優で一部の場面にその片鱗を見せている。でも、大勢の筋に影響はない。映画内の髪を束ねた自由人的な風貌と比較すると、話すセリフは常識人といった感じだ。自分が同じ立場だったら同じように話すだろう。長期間父親と暮らしていないので、父親の嗜好などはまったくわからない。それなのに父親の突飛な発言にも声を荒げることもなく寄り添う。

突然、父親の後妻の連れ子が来て応対したり、父の面倒も見た後妻の妹と連絡を取ろうとする。その部分には軽い謎を残しミステリー的要素も脚本ににじませる。真木よう子は脇にまわって、主役の時ほどの存在感はない。でも、悪くない。


初老の域に入った自分も映画を観て、今後について考えさせられる。ボケずにいられるにはどうしたら良いかと。舞台は北九州だ。ただ、九州らしいシーンは息子の卓が熊本に訪ねて行った時に映る。桜がきれいな季節に撮ったようだ。以前、自分が天草に行った帰りに熊本の三角から熊本駅まで特別列車A列車で行こうに乗った。海側を列車が優雅に走る。海に向こうに島原の山を見渡す景色だ。なつかしい。最後まで飽きずに観れてうれしい。
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映画「お母さんが一緒」 江口のりこ&古川琴音&橋口亮輔

2024-07-20 08:33:02 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「お母さんが一緒」を映画館で観てきました。


映画「お母さんが一緒」橋口亮輔監督がキネマ旬報ベストテン1位の「恋人たち」以来9年ぶりに放つ新作である。ずいぶんと長い間が空いたものだ。親孝行で連れてきた面倒くさい母親の傍らで罵り合う三姉妹の姿を描く。大好きな江口のりこ「あまろっく」に続く主演というだけで気になり、最近でも「言えない秘密」でキャリアを広げている古川琴音の共演というのも惹かれる。

もともとペヤンヌマキによる舞台劇だった作品を橋口亮輔監督が脚色した。個人的に室内劇のような映画は苦手で、それだけが気になっていた。でも、観終わるとその懸念は遠ざかる。旅館という空間を使い切り閉鎖感はない母親は出てこない。めんどくさい人というだけだ。三姉妹のトーク炸裂を要旨にまとめずらいので作品情報を引用する。

親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。長女・弥生(江口のりこ)は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女・愛美(内田慈)は優等生の長女と比べられてきたせいで自分の能力を発揮できなかったと心の底で恨んでいる。そんな二人を冷めた目で観察する三女・清美(古川琴音)。三姉妹に共通しているのは、「母親みたいな人生を送りたくない」ということ。

母親の誕生日をお祝いしようと、三姉妹は夕食の席で花やケーキを準備していた。母親へのプレゼントとして長女の弥生は高価なストールを、次女の愛美は得意の歌を用意し、三女・清美は姉たちにも内緒にしていた彼氏・タカヒロ(青山フォール勝ち)との結婚をサプライズで発表すべくタカヒロ本人を紹介するつもりだったが。(作品情報 引用)


女のイヤな面が炸裂する演技巧者による短編のような小品だ。男性が観てもおもしろい。
もともとの舞台劇は知らない。ただ、原作と配役を見比べて、配役に合わせたキャラクター設定になるように橋口亮輔監督が脚色している印象をうける。このあたりがうまく、コメディ的要素が強くなる。笑える場面は多い。サプライズも少しづつ織り交ぜる。

母の誕生祝いで、温泉旅館に来た三姉妹。江口のりこは40歳、内田慈は35歳、古川琴音は29歳の設定だ。いずれも独身だ。旅館に着くやいなや、何でこの旅館を選んだのかと長女と次女で面倒な罵り合いが始まる。


長女の江口の性格はひねくれていて、次女を非難する。会社でいちばん嫌われるタイプのいかにもハイミス的女だ。母親はもっと面倒くさい女らしい。ところが、三女の突然の結婚宣言を機に場が一変する。おおらかで普通の若い女性で、結婚に希望を持っている。チャンスは何度かあっても、結婚に至らなかった上の2人は素直に喜べない。上の2人は男運が悪かったようだ。

普通に家庭を持っている夫なら、この手の悪口は聞き慣れているかもしれないが、結婚したがらないと言われる若い男性は映画を観て女性に失望してしまうかもしれない。長女と次女の言動も常に矛盾している。


三女の結婚相手が妙にさっぱりとして好男子なのも対照的だ。夜にはこの付き合いが終わってしまうのではないかという言い合いがあって、三女が落胆してしまう。それなのに翌日酒も飲んでいないのに結婚相手が前夜のことは覚えていないというアッケラカンとした場面には能天気で笑える。


40代にさしかかる独身という役をやらせると、江口のりこは天下一品だ。うまいなあとうなってしまう。江口のりこは中卒でこの道に入った女性なのに、「あまろっく」では京大出で会社にリストラされた女性で、この映画でもいい大学へ入って就職してという設定だ。何でもできてしまうところに自分のキャラを確立した強みを感じる。

旅館の送迎車が佐賀ナンバーで、三女の結婚相手のクルマが長崎ナンバーだ。しらべると原作のペヤンヌマキ長崎県出身のようだ。言葉は自分には博多弁にきこえるけど長崎弁なんだろう。でも、ロケ地の温泉を調べるとなんと山梨だ。貸切の温泉旅館でおもしろい映画をつくったものだ。
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映画「YOLO 百元の恋」ジア・リン

2024-07-17 22:20:23 | 映画(自分好みベスト100)
映画「YOLO 百元の恋」を映画館で観てきました。


映画「YOLO 百元の恋」安藤サクラ主演「百円の恋」の恋の中国版リメイクである。なんと730億円もの興行収入の大ヒットだという。2023年の日本のランキングはスラムダンクの158億円だけにちょっとレベルが違う。「百円の恋」は自分の映画歴の中でも上位に入る好きな作品だ。自堕落な生活をしていた安藤サクラがトレーニングを始めてからシェイプアップした姿を見せるシーンには躍動感がある。

基調は同じストーリーと聞いていたが、今回主演と監督を兼ねるジア・リン(ジャー・リン)がなんと50kgの減量を成し遂げたという。残念ながら上映館は少ないが、閉館寸前の東映の映画館に向かう。気分が高揚するいい映画だ。


食品店を営む父母と暮らす32歳のドゥローイン(ジアリン)は長い間家に引きこもって、食べては寝ての繰り返しでブクブク太っている。離婚した妹が子供の小学校通学のため出戻りとなり、大げんかしてドゥは家を出ていく。一人暮らしになったドゥは居酒屋でバイトをする。そこでボクシングジムのトレーナーのハオクン(ライチャイン)と出会う。ハオクンはジムから練習生を集めるノルマを課せられていて、ドゥも引っ張られる。


成り行きでハオクンがドゥの部屋に潜り込み、ハオクンが大事な試合にでるのをバックアップする。でも、結局試合に負けたハオクンとケンカ別れしてしまう。その後もいやなことが続き、吹っ切れるためにボクシングを本格的にやりたいとジムに志願する。


最高のリメイクだ。必見である。
安藤サクラ「百円の恋」は傑作であるが、実際には低予算で作られている気がする。それを安藤サクラの超越した個人プレイでカバーしている。今回は中国のコメディアンであるジア・リンが自ら監督兼主演で大活躍する。基本ストーリーは同じでも、ボクシングジムの勧誘イベントや、TV局でのオンエア場面など原作にない場面も多い。それなりの予算がかけられている。

何せ主人公を演じるジアリン(ジャー・リン)は1年かけてやせていくのだ。映画の最後にその1年間の減量続けた軌跡が映像となっている。よくぞやせたものだ。最後に向けて、試合の控え室から廊下に颯爽と外に出る時のシェイプアップした姿はかっこいい安藤サクラも自堕落な状態からやせたがこんなレベルではない。ライザップのCMで見る体験前後の姿のようなもの。それよりもすごい。

太ると人間は老け顔になるのだろうか。元々のジアリンの顔は30代40代を飛び越えて50代ぐらいの人相である。それがやせて一気に若返るのを見ると,シェイプアップのためにボクシングをやろうとする中国人が増えるはずだ。中国ではコメディアンだというジアリンのもともとの姿を知っている人たちはアッと驚いたはずだ。


安藤サクラもそうだったが、ジアリン訓練された鋭いパンチをくり出す。一昨年岸井ゆきの「ケイコ 目を澄まして」が高い評価を受けたが、自分は過大評価と思っていた。岸井のパンチが貧弱すぎるのである。これでは相手は倒せないでしょう。もっと鍛錬してから出て欲しかった。あの映画をよく評価するやつはおかしいと思っていた。


「百円の恋」と基調のストーリーは同じである。もともと観客に高揚感を呼び起こすストーリーだ。中国人も同様に感動しただろう。シェイプアップした安藤サクラを見ていて、自分のようにワクワクさせられた日本人は多いといっても大ヒットではない

コメディ的要素は「百円の恋」よりもこの映画の方が強い。中国で興行収入730億の超大ヒットになるのは,それもあるのか。ここまで笑える中国映画って自分は観ていなかったのかもしれない。この興行収入はただ人口の多い少ないだけの要素ではないと感じる。丹念につくった観客に親切ないい映画だった。
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アメリカ副大統領候補とヒルビリーエレジー

2024-07-17 07:10:18 | 映画(洋画:2019年以降主演男性)
共和党の大統領候補トランプ前大統領が副大統領候補にヴァンス(バンス)上院議員を選出したと報道されている。


一瞬、その名前を見てぴんとこなかったが,プロフィールを確認して、以前ネットフリックスで見た「ヒルビリーエレジー」の主人公だと確認できた。ちょうどコロナ期真っ只中で,エイミー・アダムスとグレンクローズの2人のメジャー女優が実質主演を務めている。メガホンは超一流のロンハワード監督がとる。主人公の母と祖母である2人の演技のレベルは高かった。


オハイオ州のある家庭が舞台になり、ヘロイン中毒でトラブルを常に抱えている母親がエイミーアダムズで、その母親で主人公であるヴァンス候補から見ると祖母にあたる向こう気が強い気質の激しい女性を「危険な情事」グレンクローズが演じる。アカデミー賞級の演技だった。名門イェール大学の法科大学院で学ぶ主人公が都会生活で戸惑う姿や薬物中毒で入院している母親のために急遽オハイオに帰る場面も取り上げられる。このヴァンス候補の著書「ヒルビリーエレジー」はベストセラーになったようだ。


トランプ前大統領への狙撃事件には驚いたが、日本の左翼系論者が多いTV番組で女性キャスターの勇み足もあった。ライバルのバイデン大統領をはじめとして、事件に対して同情心を持った論調なのにその逆を行っている。周囲がみんなトランプ嫌いと思い込んでいる。何気ない一言が予想以上に波紋を呼んで、プライドの高い女性だけにショックを受けているのではないか。

それにしてもトランプ候補も巧みにヴァンス上院議員を副大統領候補に選んだものである。女性、アフリカ系といった観点でなく、オハイオ州の下層家庭出身の39歳を選んだ。イラク出兵にも参加している。安易な選択はしていない。それが吉とでるかは秋にならないとわからない。
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映画「メイ・ディセンバー ゆれる真実」 ジュリアンムーア&ナタリーポートマン

2024-07-14 17:40:39 | 映画(洋画 2022年以降主演女性)
映画「メイディセンバー」を映画館で観てきました。


映画「メイ・ディセンバー ゆれる真実」ジュリアン・ムーアとナタリー・ポートマンのメジャー女優の共演で、監督は「キャロル」トッド・ヘインズだ。ジュリアンムーアはトッドヘインズと「エデンより彼方へ」で組んでいる。アメリカ映画には珍しく紅葉が美しく色彩設計にすぐれた映画だった。

36歳の女性が13歳の少年との戯れで懐妊する。そのために懲役刑を受け服役後結婚する2人の話が映画化される。主演女優が実在のカップルの元へ取材に訪れる話だ。教師と教え子の情事は実話であり、「メイ・ディセンバー事件」と呼ばれた。以前観たケイト・ブランシェット主演「あるスキャンダルの覚え書き」を思い出す。どうやら事件をモデルに映画化されたようだ。

人気女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が、次回作で演じる実在の人物グレイシー(ジュリアン・ムーア)とその夫ジョー(チャールズメルトン)に取材をするため2人の家を訪れる。グレイシーは36歳のときに、13歳の韓国系少年ジョーとの情事で懐妊して子供を獄中出産した。出獄後、2人は結婚し、平穏な家庭を営んでいる。23年後映画化が決定されて、主演のエリザベスは何かを探るように当事者2人とその家族と生活を共にする。


観た感触は普通の映画。
でもセリフのいくつかが後で尾を引く映画だ。


アメリカの地方都市にいる普通の家庭の様相だ。当然、アメリカ映画らしく周囲の風景は美しく室内のインテリアはすばらしい。映像のトーンは暗めで光の加減を落としたまま進んでいく。でも、いったいこの家族は何でこんなすごい家に住んでいるの?どうやって生計を立てているの?と思ってしまうほど素敵な家だ。そこには事件の当事者2人やその子どもだけでなく、前夫との間に生まれた息子もいる。

若かりし日の想い出を再現フィルムで追うことはしない。事件の当事者を演じる人気女優(ナタリーポートマン)が23年後の家庭に接して、少しづつ当事者の思いに迫ろうとする。ガツガツ取材するわけではない。演じる本人との対話だけでなく、周囲と語り合う中でいくつかのことがわかる。映画の中で、強烈な事件が起きるわけでない。


それだけに、当事者2人、前夫との間に生まれた息子、そして演じる女優それぞれの何気なく発した言葉が伏線で、映画が終わるまでに別のセリフや行為で回収する。映画を観ている時には気づきにくいが、観終わってしばらくして自分の脳裏に色んなセリフが浮かび上がっていく。ナタリーポートマンが現地の学生との懇談会で「SEXシーン」についてどうか?と質問を受ける。公私の境界線があやふやになることがあると答える。これはのちのある行為への伏線となる。

個人的には「キャロル」に流れるアメリカ映画らしいムードが好きだ。ケイトブランシェットとルーニーマーラの同性愛が基調でも衣装、美術すべてにおいて洗練された美的感覚に魅せられる。残念ながら、ムードの良さは感じても「キャロル」までのレベルには感じられなかった。ケイトとルーニーの関係をジュリアンムーアとナタリーポートマンの関係に対比してしまう。当然2人の演技レベルは高い。映画ポスターにある鏡の前で2人並ぶシーンはドキッとする。でも、一部の評論家が言う傑作とまでは思わない。


この事件を題材にした「あるスキャンダルの覚え書き」は女教師のケイトブランシェットが少年と交わる設定だ。この映画はジュディデンチとケイトとの関係もあってなかなか奥の深い映画だった。あの傑作と比べるともう一歩かな。トッドヘインズ監督が意識的にしたのかどうか、クレイシーの息子のオンチな歌が2曲も流れるだけでなく、音楽がうるさすぎる印象をもつ。グレイシーの息子は曲者、ナタリーポートマンは息子のお願いを巧みに交わす。いかにもいい女の振る舞いだ。
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映画「密輸 1970」 キムヘス

2024-07-13 07:18:32 | 映画(韓国映画)
映画「密輸1970」を映画館で観てきました

映画「密輸1970」は海に密輸品を投げ込み海女さんがそれをピックアップしてこっそり運ぶ話が題材の韓国映画だ。海女さんをこんなことで活用する発想自体に驚く。監督は「モガディシュ脱出までの14日間」で凄まじいアクションを見せてくれたリュスンワンだ。韓国では随分とヒットしたらしい。

主演のキム・ヘス「国家が破綻する日」「コインロッカーの女」などで主演を張ったベテラン女優で、出演作は割と観ている。70年代半ばのドン臭い派手な格好で立ち回る。同じく海女さんのリーダーであるヨムジョンハは広末涼子系ルックスのいい女。2人をはじめとして韓国の人気俳優を揃える。

1970年代中盤、韓国の貿易港クンチョンで海女さんのグループが、工場の汚染水の影響で獲った海産物が売り物にならず困っている。その頃、税関を通さないために海に投げ込んだ密輸品を海女さんに引き揚げてもらう話がくる。リーダーのジンスク(ヨムジョンハ)は仲間の生活を考えてやむなく引き受けてうまくいった。ところが、税関の取締りにあい逮捕されてジンスクは刑務所生活だ。

危機一髪逃げたチュンジャ(キムヘス)はソウルで裏流通で一旗あげる。2年が経ち、チュンジャは釜山で密輸ルートをおさえていたクオン(チョインソン)と知り合い、故郷クンチョンに戻ってきて以前のような密輸を再度企てる。ジンスクは反発するが、生活のためにもう一度海女さんに引き揚げを手伝わせる。それには税関も黙っていなかった。


娯楽として十分楽しめる作品だ。
夏には疾走する船が漂う海や海底が前面に映像に出る作品の方が観ていて涼しげで気分がいい。映画のバックに流れる音楽が、昭和50年(1975年)前後の東映映画やTVのアクション番組のムードを漂わせる。リズムギターの音色がまさにそうだ。韓国演歌も昭和の匂いだ。監督はかなり東映映画を観ているのではないか。


わざとやっているのだろうが、女性陣の風貌もまったく洗練されていない。チリチリパーマで服装のセンスがバタくさい。ソウルオリンピック前の貧しかった韓国の姿そのものだ。このノスタルジックな雰囲気に惹かれる人も多いだろう。亡くなった自分の父親はこの時期韓国によく遊びに行っていた。当時の韓国人は幼少時日本語教育を受けていたせいか流暢に日本語を話す人が多く、運び屋をお願いされたこともあったそうだ。日本人の自分が観ても、コンプライアンス感皆無のこの世界を見るのが楽しい。雰囲気がBC級映画のたたずまいだが、ストーリーは韓国映画らしく単純ではない。

キムヘス演じるチュンジャは幼い頃から家政婦をやっていて金儲けには貪欲だ。常に悪知恵を働かせる。危機一髪の場面をいつもすり抜ける。昨日の敵が今日の友になったり、敵味方交錯して訳がわからなくなるのも東映のヤクザ映画と似たようなものだ。密輸を絡めてチンピラと税関が通じていて、カネにめざとい奴らが悪いことをする。収賄もアリアリだ。最近の韓国はどうなんだろうか。


それにしても、この海女さんたちが海底を潜水するシーンはどうやって撮ったんだろう。全部海なのかなあ?それともプールにセットしたのか?いずれにせよ、長い時間素潜りで海底の密輸品をもあさる海女さんたちに脱帽するしかない。酸素ボンベをつけたチンピラと海女さんが海底で対決して、チンピラのボンベをはずすシーンもどうなっちゃうんだろうと思わせる。
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映画「ブリーディング・ラブ はじまりの旅」 ユアン&クララ・マクレガー

2024-07-12 08:15:55 | 映画(洋画 2022年以降主演女性)
映画「ブリーディング・ラブ」を映画館で観てきました。


映画「ブリーディングラブ」ユアンマクレガーの実の娘クララ・マクレガーが企画した脚本を父娘共演のロードムービーにした作品である。監督はオランダ人女性のエマ・ウェステンバーグだ。有害薬物とアルコールの依存症になった娘が母親との離婚で別で暮らす実父とトラックでアメリカの荒野を走っていく。もともとロードムービーが好きで、父娘の交情というテーマは娘がいる自分にはなじみやすい。

実生活でも父母の離婚を経験しているクララの企画で、かわいい娘のプロジェクトにはアメリカのメジャー俳優であるユアンマクレガーも喜んで参加したのであろう。ユアンの親バカになる気持ちはよくわかる。あえてエンディングロールのクレジットトップを娘に譲る

しばらく疎遠だった父(ユアンマクレガー)の車に娘(クララマクレガー)が同乗してサンディエゴから広い荒野の一本道をニューメキシコへ1400キロ走って向かう。走っていく道の周囲には見渡す限り何もない。途中で寄る小さな町でのできごとを語っていく。娘は酒の小瓶に目がない。レストランで別の客の酒に手を出して店員に注意される。途中、アルコール中毒者の禁酒会に立ち寄るあたりで、若くしてアル中になってしまったことを観客にわからせる。娘をリハビリ療養施設に連れていくことが父の目的だと、偶然娘がわかった途端に姿を消す。


普通のロードムービーに複雑な家庭事情を結びつける。
ユアンマクレガー主演でなかったら日本で劇場公開もされなかったであろう。アメリカでは配信のみだったらしい。疎遠だった父娘が2人で旅立つ目的が明示されるわけではない。手持ちカメラで2人を追うが、よくわからないままに前半は比較的退屈だった。途中から逸話を重ねつつ、娘が小さい時の父娘の映像を織り交ぜる。そして、尻上がりに離れた2人の交情に焦点を持ってくる。


ジョンウェインが活躍する西部劇の舞台を思わせる荒野をひたすら走る。公衆用トイレもあるわけがない。トイレが近い娘は草むらでオシッコをする。そこで何かに刺されてしまって性器に違和感を感じる。薬局に行こうとして小さな町に寄っても、早い時間に店じまいしてどこもやっていない。そんな時、父が通りで娼婦に誘われる。そんな気はまったくないが、彼女に娘のアソコを見てくれといい見てもらうシーンが笑える。この辺りから、徐々に展開のリズムがよくなっていく

一緒に暮らした子どもの頃は父娘仲良くても、その家庭を捨てて父は出て行った。本来疎遠である2人がこうして一緒に行くわけがない。きっと娘の素行があまりにも悪いのであろう。本来は頼りにできない元夫に預けざるを得ない状況と察するしかない。あり得ない話ではない。ニューメキシコにある回復のための療養施設にむかっているとは娘はわからずにいる。でも父の真意があるきっかけでわかる。ここで泊まっているモーテルを飛び出す娘、不在であわてる父親。微妙な2人をカメラが追う。娘の彷徨いを思わず心配してしまう。


ラストに向けてはいい感じにまとめた。
ちょうど自分の家でも娘が旅立つ。映画を観て何か感じるものはあった。
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映画「ルックバック」河合優実&吉田美月喜

2024-07-11 06:46:44 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ルックバック」を映画館で観てきました。


アニメ映画「ルックバック」藤本タツキの漫画の映画化作品である。監督脚本は押山清高。他の作品と違い料金1700円均一である。アニメ系はあまり観ない自分も珍しいので気になる。先日観た「先生の白い嘘」とは好対照に評価が高い。何か特殊な仕掛けでもあるのかと勘ぐるが、入り口でコンパクトな漫画本を渡される。映画を観てからのぞくと、登場人物の名前は違えどほぼ映画の内容だった。

漫画家を目指す少女たちが主人公とわかっている以外は先入観なく映画に見入る。「ハケンアニメ」「パクマン」のような漫画やアニメでの名声を得ようと奮闘する若者の物語は好きで相性がいい。人気急上昇中の河合優実が主人公の吹き替えを担当する。


小学校4年生の藤野(河合優実)は学年新聞に4コマ漫画を発表して好評だった。ある時、先生から今度隣のクラスの京本(吉田美月喜)に一部掲載場所を譲ってくれないかと頼まれる。京本は不登校の女の子だった。不登校の子に絵が描けるかと藤野が思っていると、京本が描いた絵の精度の高さに驚く。藤野は一気にやる気をなくしてしまい連載をやめる。

卒業式の日、藤野は先生から京本の卒業証書を自宅まで持っていくように頼まれる。同じ学年新聞で投稿した仲ではないかと言われ渋々自宅に行く。呼び出しに出ないので家に入り込むと凄まじい量のスケッチブックがあるのに驚く。証書を置いて外に出ると、藤野に気づいた京本が慌てて出てくる。そして、自分は藤野の4コマ漫画のファンだったと告白する。意気投合して雑誌の賞を目指そうと2人はコンビを組むようになる。


長い期間を描く作品だけど、短編小説のような味わいだ。
目線を小学生から高校生のレベルにグイッと下げてみると、伝わるものが多々ある。ただ、一般の評価はちょっと過大評価だと感じる。

2人がコンビを組むようになる序盤戦から中盤にかけての盛り上がりには高揚感に近いものを感じる。でも、映画の肝と言うべき究極の場面設定だけに焦点がいって強引さを感じる。藤野の京本に対する態度が偉そうに感じて自分は好きになれない。逆に引きこもりだった京本は田舎弁を話していて素朴さに好感を持つ。応援したくなる。吹き替えの吉田美月喜が良かった。不用意に長い映画が多い最近の傾向には嫌気もさすのに、これは1時間にまとめる。それはいいけど、少しネタ不足で終わっているのかなと感じる。


この映画を観ても泣けなかった。究極の場面を唐突に感じてしまう。出版社に認められて連載をするようになった後でもっともっと逸話が作れたのかもしれない。もし2人が協力して漫画を描いた高校時代あたりの逸話がもっとあれば、京本に感情移入して自分も胸に沁みたのかもしれない。そんな感じを持つ。

と言いながら、来場者プレゼントの本を読み返すと、藤野の空想通りになって欲しかったとツイツイ気持ちが高ぶる。われながら支離滅裂だ。1700円でもプレゼント本付きで安く感じる。
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Netflix映画「ファミリーアフェア」 ニコール・キッドマン&ザック・エフロン

2024-07-10 08:01:45 | 映画(洋画 2022年以降主演女性)
Netflix映画「ファミリーアフェア」はアメリカ映画


Netflix映画「ファミリーアフェア」ザックエフロンとニコールキッドマンのビッグネームが揃うラブコメディだ。超豪華出演者で思わず観てしまう。若手のジョーイキングがザックエフロン演じるハリウッドスターのマネジャー役でニコールキッドマンの娘を演じる。ニコールキッドマンの義母役にはキャシー・ベイツで、オスカー主演女優賞の揃い踏みとはNetflixの資金力を感じさせる。「ファミリーアフェア」というとスライ&ファミリーストーンの同名全米No.1ヒット曲を連想するがまったく流れない。

ザラ(ジョーイキング)は人気ハリウッド俳優クリス(ザックエフロン)のアシスタント。クリスは女を取っ替え引っ替えでザラは後始末をさせられている。その割には自分が軽い扱いを受けていることでクリスとケンカ別れをしてしまう。その後、反省したクリスがザラの家に謝りに行くと、美人の母親ブルック(ニコールキッドマン)がいて話し込む。母親は夫と死別していた。意気投合した2人はそのままベッドにいく。その頃、帰宅したザラが母親の寝室で行為に進む2人を見て卒倒する。


暇つぶし向けの人気スターによるラブコメディ
ストーリーは単純で、大きなサプライズもない。設定は強引だが、最終的にはこんな感じなんだろうなあという方向に進む。アメリカのラブコメディだけに美術やヴィジュアル系はまさに完璧スターのパフォーマンスを軽い気持ちで楽しむ作品だ。

ザックエフロンとニコールキッドマン共演では「ペーパーボーイ 真夏の引力」という映画があったことを思い出す。ニコールキッドマンは刑務所内の囚人を好きになるエロい女だった。そんなアバズレ系の女を演じるのは上手い。今回はそういう匂いは消して、魅力的な女性になりきる。

50代半ばになっても美貌は衰えないので、男女の性的交わりのシーンがあっても不自然ではない。11年前の「ペーパーボーイ」の頃とそんなに風貌は変わっていない。ところで、自分も歳をとって、整形している顔に共通性があるのがわかってきた。先日銀座の高級クラブに行った時、ニコールキッドマンと同世代の美人ママの顔の目尻に整形の匂いを感じた。日米人種が違っても整形すると同じように見えるんだなとこの映画を見て感じる。

ちょうど映画「アイアンクロー」でプロレスラーを演じたばかりのザックエフロンは筋肉もりもりのムキムキ男に変身している。男性ホルモンでも注入されたがごとく、顔つきも濃くなり剛健な感じだ。まだ若かった11年前の雰囲気とはずいぶんと違う。ここでは女にだらしないハリウッドスターになりきる。



いかにもアメリカンラブコメディの登場人物がお似合いのジョーイキングは、キャンキャンとうるさい女の子。長身のニコールキッドマンからこんな華奢な女の子が産まれるのかというツッコミもあるが良いだろう。クリスの撮影にも同行して、スクリプターのようにカメラの前に陣取る。外国の監督からのクリスへの演技指導を同時通訳のように翻訳するのに、まったく違う訳を伝えるのには笑える。母親と自分の上司の恋をなんとか阻止しようとドタバタする役柄だ。


ジョーイキング演じるザラの祖母がキャシーベイツだ。アカデミー賞主演女優賞受賞のスティーブンキング原作「ミザリー」で恐怖のストーカーを演じた時のような怖さはない。直近ではクリントイーストウッド監督「リチャードジュエル」で誤った疑惑を受けた主人公の母親役での毅然とした演技が脳裏に残る。うまいと思った。もともと老け顔なのかそんなに歳をとった感じがしない。ニコールキッドマンとの触れ合いはいい感じだ。
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映画「先生の白い嘘」奈緒

2024-07-07 17:20:46 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「先生の白い嘘」を映画館で観てきました。


映画「先生の白い嘘」鳥飼茜の同名漫画を奈緒主演で三木康一郎監督が映画化した作品。原作は未読。長身のモデル体型の美女というより普通の女の子が主演を張る作品の方が直近で目立つ。どこにでもいる系女子の杉咲花、古川琴音と続き奈緒主演のこの映画に着目する。予告編で奈緒が教員だということがわかるが、事前情報なく映画館に向かう。日本映画のドラマは最近貧困で気の毒系ばかりでどうかと思っていたが、久々に若者の性に着目する作品。うわさ通り奈緒の熱演が際立つ。

高校の国語教師の美鈴(奈緒)は親友の美奈子(三吉彩花)より早藤(風間俊介)と婚約した旨伝えられる。美鈴は6年前早藤に強引に犯されてから、よからぬ関係を無理やり強要されてきた。直近でも早藤との縁が切れず困っていた。その頃美鈴が担任をもつクラスの男子高校生新妻(猪狩)に年上女性とホテルに入ったといううわさがクラス内で広まる。個別に真相を確かめると、その話は真実だと聞かされる。美鈴は動揺してしまい隠していた本音を吐く。それをきっかけに新妻が美鈴に急接近するようになる。


予想より見応えのある作品だった。
途中までは往年の日活ポルノを思わせるストーリーだ。普段まじめな女教師の乱れなんてストーリーは多かった。女教師と生徒のイケナイ関係なんてAVにもありがちだ。ただ、この作品は15禁であっても濡れ場目当ての作品ではなく、もう一歩踏み込む。踏み込んだ先は面倒な展開だ。少し違うが、「こちらあみ子」を連想した。

何より奈緒の好演がすばらしい。「告白(コンフェクション)」では出番が少なかったのでなおさら役柄への没頭を感じる。友人の彼氏との性的付き合いから抜けられない女で、いつでも逃げれば良いのに抜けない。イヤでイヤで仕方ない男にハマる世界は韓国のキム・ギドク監督が得意とした世界だ。相手の彼女とは性的に何もしていないと聞き、自分の方が性的に優位に立っている気持ちがあるのだろうか?映画では露骨に見せないが、そんな気持ちをもっている気もする。でも最終はキレる


一方で映画内での憎まれ役風間俊介が、映画を観ている自分にもむかつかせるイヤな男を演じる。ここまで一般人で性格破壊の男はいない。秘密を握ったヤクザのような威嚇をみせる。しかも、粗暴でラストに向けてはやりすぎの展開だ。演じている風間も精神的にこの役はしんどかったのではないか。よくやったと思う。

三吉彩花「ダンスウイズミー」での躍動感ある好演が光る。美形なんだけど、背も高すぎな上にキャラが中途半端で主役をやらせてみる題材がないのかもしれない。今回は、随分と頑張っている印象を持つ。夜の営みをずっと避けてきた彼氏が急にやる気になって交わる演技では胸をもまれる。ブラジャーを取らなかったのは残念。ここで脱いだら良い役柄がもっと回ってくるのではと観ながら思っていた。


それにしても、この作品映画comの評価は3点未満と最低。これもビックリだ。意地悪でもされているのでは?どうも中途半端に性描写がある物語の一般評価が最近きびしい印象をうける。日本映画で若手が誰も脱がなくなるんじゃないかという懸念を最近持つ。
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映画「フェラーリ」アダム・ドライバー&ペネロペ・クルス&マイケル・マン

2024-07-07 07:25:18 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「フェラーリ」を映画館で観てきました。


映画「フェラーリ」マイケルマン監督、アダムドライバー主演でフェラーリの創業者エンツォ・フェラーリ1957年の動静に絞って描いた作品である。個人的にはマイケルマン監督もアダムドライバーも相性がよく、しかもペネロペクルスが出演することで楽しみにしていた作品である。2020年初頭の傑作「フォードvsフェラーリ」ではフォードの目線でライバル関係を描いていて、エンツォフェラーリ謎めいた気難しい存在だった。

1960年代に入ると、フェラーリが連戦連勝でフォードが挑戦する立場となる。その前の1957年はむしろエンツォフェラーリにとっては公私ともども試練の年であった。フェラーリ社の長い歴史の中でも重要な年に絞って、創業者フェラーリの動きを追っていく。

1947年にエンツォフェラーリ(アダムドライバー)は妻ラウラ(ペネロペ・クルス)との共同出資でフェラーリ社を設立した。前年1956年に難病の息子ディーノを24歳で亡くし、会社の金庫番である妻ラウラとの仲は冷えきっている。フェラーリには大戦中に知り合った愛人リナ(シャイリーン・ウッドリー)がいて、2人には息子ピエロがいた。ピエロがフェラーリ姓を名乗れるかの問題があった。


仕事上では資金ショートの局面に陥り、アメリカのフォード社からの出資話や同じイタリアのフィアットがそれに対抗してカネを出す話もある。カネの動きから愛人と息子の存在を知ったラウラとの関係が最悪となる時に、エンツォはイタリアを縦断するロードレース「ミッレミリア」に参戦する。エンツォは自薦他薦のレーサーから5人を選んでレースに臨む。


エンツォフェラーリの実像に迫るマイケルマンによる快作だ。
感動するといった映画ではない。エンツォフェラーリの暗部に着目する内容で、倦怠期の妻との関係、隠し子の存在、レースに対する冷徹な態度、予期せぬ事故など決して明るい映画とは言えない。

それでも、毎回ゴージャスな姿を見せるペネロペクルスが髪を振り乱して嫉妬するいつもと違う一面、テストコースでの走りをスピード感をもってとらえるカメラ、イタリア観光案内のように歴史ある街並みをひたすら走るレースの迫力など見どころは満載なので飽きさせない。さすがに男性客がいつもより目立ったが、女性が観ても楽しめる作品と感じる。


恥ずかしながら「ミッレミリア」のレースの存在は初めて知った。夜に出発して、なんと1600キロも一般道を走り抜くのだ。当然、1957年であれば現在よりは道は整備されていないであろう。そんな中で全速力で走り抜く。夜の描写が得意中の得意のマイケルマンが映すイタリアのレースの場面がすばらしく、レースの全容を俯瞰したカメラとレーサーに接近したカメラを使い分けて躍動感をだす。レーサーの人間模様にも迫る。

歴史ある建物がそのまま残っているイタリアの市内で、観客のエキストラが大挙して応援している中、レーシングカーを細い道で走らせる。この閉塞感も大画面で見ると迫力がある。こういうシーンも日本映画では無理だなあ。お見事である。


最近多い3時間近い放映時間にまとめてエンツォフェラーリの人生をもう少し長く捉えるようにすると中途半端になったかもしれない。当然、エンツォフェラーリを演じたアダムドライバー「パターソン」などのいかにもアメリカ人ぽい風貌でなくイタリアの大物ぽい雰囲気になりきる。レーサーの起用にはきびしく、「ブレーキを忘れろ」なと手厳しいエンツォの実像がよくわかる。役者としての大きな成長を感じる。


マイケルマン監督作品では個人的にはトムクルーズ「コラテラル」がいちばん好きだ。「パブリックエネミーズ」も自分のベスト100に入る。今回もレースシーンを丹念に描いて、家庭内の複雑な関係も巧みに映す。おおらかな顔を見せないペネロペクルスの使い方も上手い。さすがである。
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映画「言えない秘密」 京本大我&古川琴音

2024-07-03 17:37:31 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「言えない秘密」を映画館で観てきました。


映画「言えない秘密」は、京本大我と古川琴音主演の青春ドラマ。台湾映画の同名映画のリメイクである。主人公の京本大我は初めて見る。京本政樹の息子だ。古川琴音濱口竜介監督「偶然と想像」とか今泉力也監督の作品で存在感を示してきた。芸能界では決して美女と言うルックスではないが,どこにでもいるその雰囲気に親しみを覚える。今回も古川琴音のパフォーマンスを期待して映画館に向かう。

主人公湊人(京本大我)は,音大の大学生。ロンドンにピアノで留学をして最近帰ってきたばかりで。解体が決まっている旧校舎にいると,素敵なピアノの音色が聞こえてくる。そこには今まであったことのない女子学生雪乃(古川琴音)がピアノを弾いていた。名前は教えてくれないし、携帯を持っていない。


恋人のように親しい女の子ひかり(横田真悠)からちょっかいを出されるが,湊人はピアノを弾いてた女の子の姿が気になってならない。するとその女子学生は教室に入ってきた。追いかけていくと古い校舎の中に入っていた。その後彼女は雪乃と自ら名乗り親しく付き合うようになる。ところが、ある時彼女は突然連絡が取れなくなる。自宅に行くと母親からくるなと言われる。

大学生の頃に目線を落として見ているとすんなり入っていけるラブストーリーだ。
ファンタジーの要素もある。

主人公がもともと付き合っている女性がそれなりに美人系であるのに対して,古川琴音普通の女の子ぽさを醸し出す。魅力的である。京本大我は父親の血を引いてイケメンだが最近どこにでもいる兄ちゃんという感じで普通

付き合っているのに突然いなくなってしまう設定は最近のラブストーリーではよくありがちだ。村上春樹の小説なんかにも多いパターンだけれども,今回はファンタジー的要素が入っていた。ひねりが効いている。それはそれで悪くはない。台湾映画のリメイクと言うが,テイストは先日見た「青春18 × 2」に近い。観客をかるくだましてやろうとする意思が強い。若い人には、こういうラブストーリーは受ける気がする。

主人公が音大の学生なだけに,ピアノを弾くシーンは多い。これはこれで軽快なピアノが聴けてよかった。品を変え、ショパンのピアノソナタが流れる。途中でピアノバトルと言って, 2つのグランドピアノで演奏の優劣を競うシーンがあった。これはこれで面白い。クリスマスのパーティーで主人公2人がロックンロールバンドをバックにダンスを踊るシーンがある。気分良さそうに見える。古川琴音も少しはピアノ練習をしたのだろうか。まともに弾けているようには見えた。

エンディングロールによると、主なロケ地は坂東市らしい。一瞬、どこかわからなくなったが,利根川を示す坂東太郎の坂東かなと思っていると、茨城県の合併でできた市だった。知らなかった。利根川だと群馬県を思い浮かべてしまうが違っていた。


映画の中で主演2人が肩寄せて自転車を気分良く走らせるシーンがある。
バックの清々しい風景やグリーンのサイディングの古めの校舎の雰囲気は自分の肌にあった。
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