映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「蛇の道」 柴咲コウ&黒沢清

2024-06-16 08:49:28 | 映画(フランス映画 )
映画「蛇の道」を映画館で観てきました。


映画「蛇の道」黒沢清監督が1998年の同名作品をフランスロケでセルフリメイクした新作だ。予告編で外国映画だと観ていたら、柴咲コウが出てきて驚いた。いつもと違う表情をする柴咲コウが妙によく見えて、公開したら行こうと思っていた。黒沢清監督作品にも好き嫌いがある。「トウキョウソナタ」「クリーピー」は好感もてるけど、前作「スパイの妻」は歴史考証に問題ありと感じてあまり好きになれなかった。今回は予告編での怪しげな雰囲気が気になり映画館に向かう。

いきなり柴咲コウと組んだダミアンボナールがスタンガンで男を気絶させて拉致してトランクに入れて車で運ぶシーンからスタートする。郊外の倉庫に連れ出して、鎖で手足をしばったまま尋問をはじめる。


アルベール(ダミアンボナール)は8歳の愛娘が財団に殺されたことを恨んでいた。医師の小夜子(柴咲コウ)は財団に所属するラヴァル(マチュー・アマルリック)拉致に協力する。ラヴェル拷問の末に財団のゲラン(グレゴワール・コラン)の名前がでて拉致する。その後も怪しげな奴はいないかと聞き、警備主任だったクリスチャンも拉致して同じように監禁して拷問する。やがて、財団が人身売買にかかわっていたこともわかり、真実究明が近づいてくる。


監禁モノはちょっと苦手な題材である。
予想ほど面白いとまではいかなかった。ストーリーには関心が持てない。


良かったのは柴咲コウ。これまでにない魅力を感じさせてくれた。40代になってきれいになったのかもしれない。共演するフランス人の俳優はいずれも背が高くて体型がガッチリだ。相対的に小柄なのに、映画のストーリーが進むうちに大きく見えるようになる。日本人俳優と話す以外はフランス語なので、大量のフランス語のセリフを覚えた。よく頑張ったと感じる。


映画ポスターでは、草原の緑が強調されている。しかし、監禁モノの映画なので倉庫のようなところでの立ち回りが中心で、街のシーン以外はフランスらしさは少ない。予告編では、怪しげな雰囲気に魅力を感じた。でも、ヴィジュアル的に引き寄せられる部分は少ない。西島秀俊がわざわざ出演しているが,セリフの内容も含めて存在感がない。黒沢清に付き合いがあった俳優とは言え,この起用はもったいない感じがした。

2021年の映画の中でもダミアンボナールが出演した「悪なき殺人」はピカイチのミステリーだったので、目が映像に慣れてきたらすぐわかった。あの時は変人の役柄だった。マチュー・アマルリックもフランス映画ではよく出会うおなじみの顔だ。拉致した男たちを監禁していくが、そもそも財団がどんなところかわからないので内容的に理解がしづらい。最後に向けては軽いどんでん返しもあるけど、のれたわけではなかった。


いくつかの解説を読むと、自分の理解を超越するすごい解釈が書いてあるけど、映画を観ている時にそのレベルまでは感じることは自分にはできない。
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映画「パリブレスト」

2024-04-15 19:51:50 | 映画(フランス映画 )
映画「パリブレスト 夢をかなえたスイーツ」を映画館で観てきました。


映画「パリブレスト夢をかなえたスイーツ」はフランスの実在のパティシエであるヤシッドイシェムラエンの幼少期からの人生を描いた作品である。監督は本作が長編デビューのセバスチャン・テュラール。素敵なデザートの映像を観て気になっていた。グルメ映画の色彩は当然もつが、貧困家庭から這い上がろうとする少年の生き様を描く。デザートは美しいけど、話は泥くさい。

ヤシッド(リアド・ベライシュ)は育児放棄の実母と別れ、里親に預けられた。里親の家ではお菓子づくりに精を出していて、ヤシッドも関心をもつ。やがて,少年養護施設に預けられ周囲の不良たちの中に入って生活する。ちょっとした策略でパリの高級レストランに潜り込み見習いとして、働き始める。パティシエシェフとしての修行をする。


2013年ヤシッドはコートジボワールのレストランで副シェフとして働いていた。ヤシッドが作ったパリブレストが美食家の絶賛を浴び,さらに上のランクを目指そうとしていたが,同僚の嫉妬でクビになってしまう。路頭に迷うヤシッドを美食家であるホテル経営者が助ける。

グルメ映画というよりも,最悪の生活環境から這い上がって、パティシエになる少年の成長物語である。映画としては普通。

いきなり、ヤシッドがスーパーで万引きをするシーンが出てくる。実母は乳児を抱えて貧困を彷徨っている。ヤシッドを連れて役所に行き、里親を悪者にして金をせしめるとんでもない女だ。里親はやさしくしてくれるが、実母に振り回される。少年養護施設にもまともな奴はいない。そんな中、子供の頃からあこがれているパティシエシェフの元へ飛び込む。それも騙し騙しもぐり込むのだ。育ちの悪さを示すような逸話が続いていく。


成長物語につきものの主人公を窮地に落とし込む場面はこれでもかと続く。少年養護施設の周りは低層社会を象徴する札付きの不良だらけである。しかもパリにバイトに行って終電に乗り遅れると,駅で寝ざるを得ないバイト代を寮長に没収されることもある。せっかくコートジボワールのレストランで認められたのに,ライバルの副シェフに嫌がらせをされる。果物担当だったヤシッドのフルーツにカビの生えたものを入れ込まれるのだ。ムカついても遅し、クビになってしまうなどなど最悪だ。

そんなムードが続くけど、映像に映るデザートは実にきれいだ。きっとおいしいだろうなあと舌なめずりする。最初に修行についたシェフも,ともかく食べる前の目の刺激が大事だと強調する。そして食感の良さを訴える。3つを超える食材の組み合わせはダメとシェフは言っていた。


いくつかの関門があるが、ヤシッドはうまく乗り越えていく。実話を元にしているようだが、名パティシエになる素質はあったのであろう。そんなにデザートにはこだわりのない自分でも引き寄せられる美的センスはあった。

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映画「12日の殺人」

2024-03-17 18:28:26 | 映画(フランス映画 )
映画「12日の殺人」を映画館で見てきました。


映画「12日の殺人」はフランスのサスペンス映画である。2021年に「悪なき殺人」というドミニク・モル監督によるサスペンス作品があり、これは面白かった。年間通じてもベストクラスのレベルだった。その同じ監督が作った新作でセザール賞も6部門で受賞している。楽しみにしていた作品である。

フランスのグルノーブル2016年10月12日の深夜、女子大学生クララがパーティーの帰りに何者かによって襲われ,ガソリンをかけられ火をつけられて焼死体となって発見された。昇進したばかりの刑事ヨアンとベテラン刑事マルソーが捜査を担当する。2人はクララの周囲の容疑者となり得る男たちに聞き込みをする。クララの男関係は派手で,事情徴収を受けた男たちは全員クララと関係を持っていた。しかし,警察は容疑者を特定することができない。


残念ながら、期待したほどは面白くなかった。
深夜まで一緒にパーティーをしていた女友達と襲われる直前までスマホで会話をしていた。その女友達から男関係を確認して,現在の彼氏,セックスフレンドと思しき男などに次々とヒアリングしていく。惚れっぽい女だったらしい。被害者の男関係は入り乱れている。どの男たちも怪しい。でもアリバイがあり決め手がない犯行現場の近くに住む男や以前妻に暴行を働いて逮捕された経歴のある男など捜査線に浮上する男は、大勢いるけれども決め手はない。


自分が大好きな韓国クライムサスペンスの名作に「殺人の記憶」がある。未解決事件をスリリングに追っていく作品だ。ソン・ガンホの名演技が光る。出足からドキドキハラハラする展開が続いていく。その作品と比べると,フランス映画らしく抑えた基調という事は理解できるが,もう一つ平坦すぎて面白さを感じなかった。それぞれにコイツが犯人と思わせる緊張感が弱かった。監督の前作はストーリーの起伏が面白かったけれども、今回はそういうテイストが全くなかった。


だからといって,それぞれの演技が悪かったわけではない。主役刑事はストイックな仕事ぶりを示すために自転車競技場でもくもくと走る。ベテラン刑事は家庭環境が複雑で、離婚の危機に陥っている。ある容疑者を犯人と決めつけボコボコにするやりすぎの場面もある。最後に向けては夜中にずっと張り込む女性刑事も登場させる。ただ,それによってこちらが感じるようなものはなかった。

ここに来て忙しくなったこともあるが、映画運がない。
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映画「落下の解剖学」ザンドラ・ヒュラー&ジュスティーヌ・トリエ

2024-02-23 16:58:05 | 映画(フランス映画 )
映画「落下の解剖学」を映画館で観てきました。


映画「落下の解剖学」フランス映画、2023年カンヌ映画祭パルムドールを受賞した。今春のゴールデングローブ賞でも脚本賞を受賞した前評判の高いミステリーだ。アカデミー賞作品賞候補にも名を連ねる。フランス人女性監督ジュスティーヌ・トリエとパートナーであるアルチュール・アラリ(「ONODA 一万夜を越えて」)との共同脚本だ。 俳優陣は知らないメンバーがほとんど。ミステリーなので事前情報は最小限で映画館に早々に向かう。

フランス山岳地帯の雪が降り積もる山荘でドイツ人の人気作家サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)は、作家志望の教師の夫、視覚障がいのある息子ダニエル、ボーダーコリー犬と暮らす。

山荘の中で妻サンドラが学生からインタビューを受けているが、夫が大音響で音楽をかけていてうるさくいったん延期する。ダニエルと犬が散歩に出て戻ってくると、夫が自宅前で血に染まって倒れているのを見つける。山荘には他に人はおらず検死や現場検証を経て、殺人の疑いを持たれたサンドラが拘束される。夫の頭に外傷があったのだ。サンドラは旧知の男性に弁護を依頼した。ダニエルの障がいもあって、殺人犯としては異例だがサンドラは一旦釈放される。


舞台は法廷に移り、検察側は被告人を容赦なく追及する。サンドラと夫にしばしば諍いがあったことや、サンドラがバイセクシャルだったことなど私生活の秘密が法廷で暴露される。それでも、弁護側は追及を交わして夫の自殺を主張する。優位と思われた時に、捜査員から音声の入ったUSBが証拠として出される。

よくできたミステリーである。評価が高いのは理解できる。
観客にインテリと思しき女性陣もいて、むずかしそうな先入観をもったが、扱われているのは万国共通の家庭内の事情である。誰もが実生活で遭遇するような夫婦ケンカの延長と言ってもいい。難解ではない。夫婦共に物書きなのに、妻の方が売れているとか、子どもの目の負傷以降夫婦生活がなくなった後で、妻の不貞が起きるとか同じ題材で日本でつくってもリメイクできそうだ。

フランス映画なのに主人公ザンドラデュラーが英語で話しているなと感じていたら、ドイツ人だという。フランス映画でしかもドイツ人に英語で会話させるのは意図的に監督が指示したらしい。

雪山の人里離れた山荘で妻の他に犯人になる人物がいない。結局、事故死の可能性はあっても、妻サンドラによる殺人か自殺かというどちらかになるのだ。現場検証もやった上でありとあらゆる犯行証拠を見つけようとする。夫婦間の諍いや妻の不貞にも随分と入り込む。依頼したサンドラの既知の弁護士とサンドラとの微妙な男女関係のきわどさもストーリーに味をつける。


法廷物としても観れる映画である。ただ、今回フランスの法廷の特異性を初めて知った。証人が証言する途中で、裁判長の指名がなくても、被告人、弁護人、検察官がフリートークのように割り込んで発言する。他国の法廷物とテンポが違う。検察官役の追及が憎たらしくてうまかった。

ストーリー展開は観ているものを飽きさせない。妻による殺人か自殺かでシーソーゲームのような攻防になり、いったん自殺説が強くなった時に、重要な証拠が飛び出す。USBの入った音声だ。妻は突然形勢不利になる。人格的に否定される証言も目立ってくる。


そして、最終的に本当のキーパーソンの証言となる。どうなるんだろう?どっちになってもおかしくない。妻サンドラもソワソワする。ビリーワイルダーの名作「情婦」マレーネディートリッヒがまさに「検察側の証言」で出廷した時と同じような胸騒ぎがした。証言する前にある事件が起きて驚かされる。ネタバレはしないが、決着はついたけど本当は違うんじゃないかと妙な余韻を残したのは悪くない。

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映画「ラ・メゾン 小説家と娼婦」アナ・ジラルド

2024-01-07 06:35:54 | 映画(フランス映画 )
映画「ラ・メゾン 小説家と娼婦」を映画館で観てきました。


映画「ラ・メゾン」は自らの娼婦体験を小説にしたフランス人女性エマ・ベッケルの物語。もちろん18禁作品だ。女性監督アニッサ・ボンヌフォンがメガホンを持ち、作家エマ役でアナ・ジラルドが主演である。日本でもAV女優の経験がある作家鈴木涼美がいるけど、フランスの方がもっと大胆なことする。女性スタッフ中心にできた映画だけに、映画館の観客には女性も混じっている。

フランス人の27歳の作家エマは実際に娼館で体験したことを小説の題材にしようとベルリンの高級娼館「ラ・メゾン」で働く。そこで出会った顧客とのプレイを中心に、同僚の娼婦のパフォーマンスも映し出す話だ。


美形の作家が娼館で出会う男との体験を中心に映像が進む。
日活ポルノのように登場人物の人間関係で物語ができるわけでない。色んな顧客とのプレイを次から次に映していくが、それぞれの男女の絡みの時間は短い。一時代前の外国ポルノ映画のハードコア的な要素はない。ちょっと古いけど、溝口健二監督「赤線地帯」のように、それぞれの娼婦がその道に入らざるを得ない家庭事情はまったく語られない。最近の日本映画に多い貧困で風俗に流れるテーマの暗さがない。待合にいる娼婦たちはある意味おおらかだ。


高級娼館には5人前後の人種が入り混じった女性たちがいる。ペドロアルモドバル監督作品での常連ロッシ・デ・パルマもそのうちの1人を演じる。最初に面通しして、主人公アナ・ジラルドをはじめとした美女たちの挑発を受けて男が女性を選ぶ。費用は200ユーロで、キスや生など20ユーロのオプションもある。作家のエマは徐々にプレイに慣れてくる。短い体験のつもりがイヤなことがあっても、なかなか辞めない。エマは娼館での出来事を休憩時間にノートに書く。メモが増えていくが執筆まで至らずそのまま2年つとめる。

色んな顧客がくる。女性を見ながら自分でいたす男、彼女ができたけど自信がなく教えを乞いにくる男、SMプレイもあり、禁止なのに無理やりドラッグを使わせる客もいる。レズビアンではないけど、好奇心で女性の愛撫を求めるエレガントな女性もくる。手を変え品を変えた顧客のシーンがあるので、似たようなシーンが続いても観ていて退屈はしない


娼館の中は英語が共通語になっている。ドイツ語ではない。ところが、この英語は聞き取りづらい。字幕と英語のセリフに合致が見出せない。逆にフランス語はわかりやすい。こちらはアタマに入っていく。

あまりいい映画やっていないので、暇つぶしにはなるといった感じだな。
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映画「ポトフ 美食家と料理人」 ジュリエット・ビノシュ&トラン・アン・ユン

2023-12-19 21:50:06 | 映画(フランス映画 )
映画「ポトフ 美食家と料理人」を映画館で観てきました。


映画「ポトフ」は美食家の男性と女性シェフのカップルを描いたベテラン女優ジュリエットビノシュ主演のフランス映画だ。ベトナムのトランアンユンカンヌ映画祭で監督賞を受賞している。

料理としてポトフを知ったのは大学生の時、広尾の日赤病院前の東京女学館横の通りを隔てた場所にあるヴィクトリア洋菓子店という洋食屋も兼ねたお店で食べた。時おり自分もブログの番外編でおいしい食べ物を取り上げるが、ここの洋食は絶品だった。今だにここで食べたOXタンシチュー、ミンチソテー、ポトフを上回る洋食に出会わない伝説の店だ。フランス風野菜スープであるポトフという言葉には今でも心を動かさられる。


トランアンユン監督の初期の「青いパパイアの香り」「夏至」には登場人物が料理をつくる印象的な場面がある。しかも、ジュリエットビノシュ「イングリッシュペイシェント」以来、自分が時代を遡りながらブログでもほぼ取りあげてレオンカラックス作品や「存在の耐えられない軽さ」を追いかけている。絶対に見逃せない作品だ。

フランスの郊外、美食家のドダン(ブノワ・マジメル)と彼のレシピを最高の味で提供する料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)は森の中にある同じ住まいの別部屋で暮らしていた。ドダンの求婚をようやく受け入れて皆の祝福を受け、ユーラシア皇太子のために出すポトフのレシピをともに考案していくが。。。直近でウージェニーは、体調の異変を感じていた。


断言できる!史上最強のグルメ映画だ。
作品情報にそのような外国マスコミのコメントが書いているが、これは大げさではない。それは映画が始まって約30分強で確信できる。

TV「料理の鉄人」キッチンスタジアムを思わせる厨房には、生魚、野菜、お肉と食材が満載である。それをジュリエットビノシュ演じるウージェニーと女性2人の助手が3人で下ごしらえをする。ウージェニーが手ぎわよく捌いていき、煮たり、焼いたりしていく。ものすごく手が込んだ作品だ。それ自体が美しい絵になっている。完成品になる前から色合いがきれいだ。調理場面を映すカメラアングルも抜群だし、料理をつくる時に発する音に食欲を感じる。明らかに今まで観たグルメ系の映画を凌駕する。

何も情報がないので、家庭料理でこんなの作っちゃうの?これだけ揃えたら食材の費用はすごいだろうなあ?こんな量を助手を含めた4人で食べるの?と思っていたら、ダイニングには連れ合いのドダンに加えて4人の男性がいた。解説に美食家となっているので、そうコメントしたけど、こいつら何者なんだろう?貴族なの?今でもそう思う。

ダイニングでとりわけしたものを食べていく。何ておいしそうなんだろう!
これには驚いた。


あえて料理映画の名作といわれる「バベットの晩餐会」と比較する。
パリから戦乱を避けてデンマークでメイドとして働く主人公が宝くじに当たったので、最高の食材で雇い主をもてなす話だ。自分は最高の料理映画と思っている。そこでは、そのメイドが手ぎわよく一人で料理をつくる。それ自体がすごいけど、今回の「ポトフ」の前半戦の方が動的だ。助手2人と一部連れ合いに手伝わせてつくっていく姿の方が、「料理の鉄人」で鉄人シェフたちが助手を従わせてつくるような躍動感を感じる。

同じく台湾出身のアカデミー賞監督アンリー監督が台湾時代につくった「恋人たちの食卓」の美的感覚もすごい。ただし、これも一人でつくっている。飼っている鳥をしめて捌く。包丁の手捌きなども映像にうつるがすごい。比較した両作品いずれも完成した料理が美しいし、名作であることには変わりがない。でも、カメラワークの躍動感と究極のフレンチのすばらしさで「ポトフ」を最高の料理映画と推挙する。トランアンユン監督の手腕といえよう。


そういえば、比較作品を振り返って気づいたことがある。「バベットの晩餐会」「ポトフ」はいずれも女性シェフで、時代設定は奇しくもほぼ同時期である。「ポトフ」の解説に1885年のフランスとなっているが、そのセリフはない。ただ、1830年代半ばのワインを50年海底で寝かせたワインを飲むシーンがありそれで想像するのだ。「バベットの晩餐会」もパリの混乱でメイドが脱出してからの年数で推測する。

帝国主義の英国、ドイツは良くてもフランスとしては決していい時代ではない。その中でもまだ落ち着いていたのであろうか?トランアンユンの母国ベトナムフランスが主権を持つのも同じ年で2年後に仏領インドシナ連邦フランスの植民地統治となる。動きがある時代だ。そんな時代に厨房にガス?オーブンがあったのはすごいと思った。日本はほとんどないだろうなあ。

トランアンユン「夏至」などはグリーンがきれいな映画である。この映画も同じような感覚を持つが、印象派の絵画を連想させるような色とりどりの色彩で映し出す場面が続く。うなるような美しい映像だ。


主人公2人が主体の映画であっても、助手になる若い2人の女の子の使い方がうまい気がした。この辺りはトランアンユンの初期の作品を感じさせるうまさだろう。ただ、終盤に向けては少しストーリーがだれたかな?料理映画としては5点でも映画としては4点だね。最後に向けてのキッチン内の風景をぐるりと見せるカメラアングルは悪くないけど。
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映画「理想郷」ドゥニ・メノーシェ

2023-11-10 05:18:07 | 映画(フランス映画 )
映画「理想郷」を映画館で観てきました。


映画「理想郷」はスペインの田舎町に終の住まいを求めて移住したフランス人夫婦が地元民に疎外されるシリアスドラマだ。「おもかげ」ロドリゴ・ソロゴイェンの監督・脚本作品である。昨年の東京国際映画祭でグランプリを受賞した。「苦い涙」など最近出番の多いフランス人俳優ドゥニ・メノーシェが移住した夫婦の夫を演じる。欧州の田舎での閉鎖性は先日公開の「ヨーロッパ新世紀」でも取り上げられていた。アジア人移民を拒絶する村が題材だった。この映画は外部から来た移住者への閉鎖性というよりも、言うことを聞かない移住者へのイジメ映画の色彩が強い。

スペインのガリシア地方の山村に、理想の住処を求めてフランス人夫婦アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とオルガ(マリナ・フォイス)が移住する。その村には風力発電建設のための土地買収の話が来ている。アントワーヌは反対の立場であった。アントワーヌは少数派で、隣地に住む兄弟は補償金が入るのに、このままでは他のエリアに候補地が行ってしまうと当惑する。そして、あの手この手でアントワーヌ家に嫌がらせを執拗にするのだ。その嫌がらせはどんどんエスカレートしていく。


ヘビー級の重くて暗い映画だ。
隣家からの徹底したイジメを見せつける。陰湿さはよくあるいじめっ子を題材とした映画と変わらない。でも、訳もわからず、いいかがりをつけて集団で個人をいじめる日本の学校でのイジメとは違う。理由がある。よそ者を拒絶する住民の振る舞いがテーマでも、「ヨーロッパ新世紀」が描く田舎社会の閉鎖性とは違う。地元民がすすめる土地の収用に同意すれば、ここまで嫌がらせはしないだろう。

たしかに隣家の兄弟の行為は異常でも、移住してきたこのフランス人夫婦に問題がないわけではない。この2人もかなり変人だ。ここまで意固地になって反対しなくてもいいのでは?別の村に移り住んでもいいのでは?と思ってしまう。既存の住民の利害を考えてあげるべきだと感じる。この補償金では再移住は無理と判断するとアントワーヌはいうが、詳細がわからないと判断しづらい。

それにしても、考え得る限りの嫌がらせが次々と映像に映る。気が滅入っていく。家の周りで立ちしょんするのは序の口で、井戸にバッテリーを入れたせいで、アントワーヌ夫妻が栽培するトマトがむちゃくちゃになる。


道路の真ん中にクルマを置いて待ち伏せして通さない意地悪もする。アントワーヌはハンディカメラでその愚行を撮影して対抗しようとする。地元警察に訴えるが、よくある近隣問題と相手にされない。そして、思い切って、アントワーヌは村の住民が集まるバーで隣の兄弟に直談判する。これが最初の長回しの映像になる。


観るのに目を背けたくなるシーンが多いけど、映画のレベルは高い。嫌がらせ兄弟と対峙する長回しは尋常ではない演技力が要求される。映画の中盤以降に、夫婦の娘が村を訪れて母親に「こんな村は出たほうがいい。何でこの地にずっといるの?フランスに帰った方がいいよ。」と延々とケンカしながら説得する長回しも用意されている。それぞれの立場を踏まえたセリフである。常識から逸脱したセリフではない。


長時間の長回し場面が2つあるので、最近よくある150分を超える上映時間になってもおかしくない。うまくまとめている。内容は盛りだくさんだ。いずれにしても息が詰まるシリアスドラマであった。サスペンススリラーの要素もあって観客を適度にじらす。行方不明の夫の姿を見せそうで見せない。気が滅入っている時は観ない方がいいかもしれない。
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映画「私がやりました」 フランソワオゾン

2023-11-04 20:46:42 | 映画(フランス映画 )
映画「私がやりました」を映画館で観てきました。


映画「私がやりました」はフランスの奇才フランソワ・オゾン監督のコメディタッチのサスペンス映画である。新作となると観に行く監督だ。本年公開でも「苦い涙」という作品があった。男色系で室内劇ということで、自分には合わないだろうと思ったけど、予想通りだった。でも、今回はフランソワオゾン監督が元来得意とするミステリータッチのようだ。期待して映画館に向かう。

1935年のパリ、大物映画プロデューサーが自宅で殺された。その日に家にいき出演交渉を受けていた若手女優マドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)に警察は疑いを持つが本人は否定する。ところが、一転マドレーヌは自分がやったと自白する。裁判ではルームメイトの弁護士(ポーリーヌレベッカ・マルデール)に言われた通りに、プロデューサーに強引に迫られての正当防衛だと主張する。結局、陪審員の受けも良く無罪となり、悲劇のヒロインとして仕事が殺到する。

ところが、豪華な新居に移った2人のもとを一世を風靡したかつての大女優オデット(イザベル・ユペール)がプロデューサー殺しの真犯人は自分だと名乗りでる。


あきずに100分を駆け抜けるテンポのいいフレンチコメディである。
歴代のフランソワオゾン監督の作品と比較してもおもしろい。前作の「苦い涙」ではサスペンスの味わいがなく、しかも室内劇で強い閉塞感があった。男色系の異常人物を登場させ気持ちが悪かった。

元来フランソワオゾンはコメディーの匂いがするサスペンスタッチのストーリーが得意である。最近干されて新作が出ていないウディ・アレン監督の作風を連想する。若手2人の主演女優の会話のテンポが良く,ベテランのイザベルユベールは貫禄でグロリアスワンソンのような無声映画時代の大女優を演じる。早口言葉でうさん臭い姿が映画の雰囲気を盛り上げる。脇役のベテランコメディ男優もコミカルに演じる。


主人公のマドレーヌは4ヶ月も賃料滞納して,大家から強く支払いを求められている。せっかくの有名映画プロデューサーからのお金になる出演依頼も,愛人になるおまけ付きのオーダーなので断っていた。当然ぶ然としてプロデューサーの家を出たわけであった。それなのに,突然刑事がマドレーヌの部屋を訪問して,殺害されたその日にプロデューサの家にいただろうと問い詰めてくる。

当然やってないわけだから否定する。しかし、ここで同居人の新米弁護士と悪だくみを考えるのだ。それがまんまと成功する。やっていないのにやったと言ってしかも無実を勝ち取るのだ。


フランソワ・オゾン監督の作品では,ある一定のところまで話が主人公の思い通りになって,その後逆転降下するストーリーが多い。今回もその類である。突然現れた真犯人に一瞬おどおどする。でもしぶとい女性2人の悪だくみはそれでは終わらない。粘り強く往年の名女優と対峙していく。

この2人がいかに悪知恵を発揮させるのかという展開を楽しむわけである。元来,モリエールの時代からジャン・アヌイに至るまでフランスの戯曲にはこういう喜劇基調でストーリーの逆転を楽しむものが多い。元ネタもあるようだが,フランソワオゾン監督は良い素材を選んだ。

それに加えて今までの作品よりもお金がかかっている1935年のパリを再現させてビリーワイルダー監督の「ろくでなし」を公開している映画館を映し出す。また,大勢の傍聴人がいる法廷の場面, スイミングプールがある豪邸など様々な場面を用意して、視覚的にも我々の目を楽しまさせてくれる。終わり方も悪くない。簡潔に映画の素材をまとめた自分の好きなタイプの作品である。
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映画「仕立て屋の恋」パトリス・ルコント

2023-09-27 17:09:35 | 映画(フランス映画 )
映画「仕立て屋の恋」は1989年のフランス映画、92年キネマ旬報ベストテン第4位


映画「仕立て屋の恋」は今年映画「メグレと若い女の死」を簡潔な傑作につくりあげたパトリス・ルコント監督の作品だ。お見事な腕前だった。アルフレッドヒッチコック「裏窓」のように、真向かいのアパルトマンの部屋を覗き見する仕立て屋の男が主人公で、ミステリータッチのシリアスドラマに仕上げている。ふと、パトリスルコント監督の昔の作品をつい観てみたくなる。原作は一連のメグレ警部の物語を書いたフランスの作家ジョルジュ・シムノンによる味わいのある作品「Les fiançailles de M. Hire」だ。

仕立て屋のイール(ミシェルブラン)は自分の部屋から向かいのアパルトマンに住むエリーゼ(サンドリーヌボネール)の部屋を覗き見するのを日課としていた。イールは美しいエリーゼに密かに想いを寄せていたが、エリーゼの部屋に彼氏のエミールが出入りしていた。イールは近隣で起きた殺人事件の犯人ではないかと刑事(アンドレウィルム)に疑われていた。以前性犯罪で捕まった前歴があったからだ。

ある日突然、エリーゼは向かいのマンションから自分へ視線が浴びせられていることに気づく。驚いたが、しばらくしてエリーゼから会いたいという連絡をイールがもらう。イールはエリーゼにある意図があるのを感じる。殺人事件当日のエリーゼの自宅内でのエミールの動きを気付いていると思ったからだ。


せつない物語だけど傑作である。
イールがまさに裏窓から眺めている光景は異様だ。ネクラな感じがする。頭は若ハゲで見栄えは悪い。逆にエリーゼの部屋からイールを見上げる映像は気味がわるい。アルフレッドヒッチコックの「裏窓」のように眺めている時間が延々と続くと思ったけど、そうではなかった。見られているエリーゼがイールの動きに気づくのである。普通であれば、変態と思われるのがオチだけど、エリーゼには秘密があった。逆に、エリーゼからアプローチが来る。

イールが犯人として疑われている殺人事件エリーゼの恋人エミールがからんでいるようなのだ。何かを知っているのか感触を確かめようとしている。エリーゼがイールに近づいてから続く2人のやりとりが見どころの一つである。

これからの動きについては言わない。あまりにせつなくて悲しい。
自分だったらイールと違う行動をとるなと思っても、物語だから仕方ない。思い通りにならないどころか、濡れ衣を着せられるのだ。原作者ジョルジュ・シムノン「それはないよ」と言ってあげたくなる。


それにしてもサンドリーヌボネールは美しい。この後も長い間フランス映画界で活躍してきた。特に2004年の「灯台守の恋」海風の荒々しさが伝わる傑作だ。昨年自分一押しの「あのこと」で母親役を演じた。

最近異様に上映時間が長くなっている。あえて時間を長くするがごとくのムダなエピソードを交えすぎだ。映画90分論の蓮實重彦の気持ちはよくわかる。こんな感じで簡潔にまとめるパトリスルコント監督をもっと評価したい。
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映画「ダンサーインParis」 マリオン・バルボー

2023-09-18 18:36:51 | 映画(フランス映画 )
映画「ダンサーインParis」を映画館で観てきました。


映画「ダンサーインParis」はフランス映画、公演中に致命的なケガをしたバレリーナの復活物語だ。「スパニッシュアパートメント」セドリック・クラピッシュ監督がメガホンをとる。予告編で美貌のバレリーナが大けがをするシーンは何度か観ている。でも、絶望から復帰する場面に明るい希望とコメディの匂いを感じる。フランスでは140万人も観たという。何かあるのでは?と感じて映画館に向かう。

パリ・オペラ座の若きバレリーナエリーゼ(マリオン・バルボー)は本番前に楽屋裏で恋人が別の女と逢瀬をしているところを見てしまう。精神状態に乱れを生じて、公演中に転倒して骨折してしまう。医者からは下手をすると一生ダンスができなくなると言われてエリーゼは落胆する。


そのエリーゼを友人サブリナ(スエラ・ヤクーブ)が料理人である自分の彼氏の手伝いをしないかと誘う。ブルターニュにあるレジデンスに行き、足首のリハビリをしながら手伝う。そこに、ホフェッシュ・シェクター(本人)率いるコンテンポラリーダンスのダンスカンパニーが公演前の合宿に来ていた。足首の様子を見ながら恐る恐るダンスチームの練習に加わるようになる。

居心地のいいフランス映画だった。
オドレイ・トトゥ「アメリ」「タイピスト」のような現代フランス映画のロマンチックコメディが好きだ。この映画もその要素をもつ。基調はバレリーナの復活ストーリーでそこに恋物語が加わっていても、小さな笑い話を数多くストーリーの中に組み込む。脇役のコミカルな使い方がうまい。一緒にブルターニュに行った料理人のカップルやリハビリの療法士、エリーゼの父親、レジデンスの女性オーナーなど脇役の活躍が目立つ。主役マリオン・バルボーはあくまで現役バレリーナなので、しっかりプロ俳優がフォローしている。

バレエ映画の名作といえばナタリーポートマン「ブラックスワン」だ。ミラクルス演じるライバルとの葛藤を交えながら、徐々に精神が錯乱してくる。主人公エリーゼは足をケガしていったんはバレエ界から退いた状態に近い。ライバルとの葛藤はない。一芸を極めるストーリーではライバルとの葛藤が肝となることが多い。でも、ここではゆったりと周囲に支えられながらエリーゼは復活していく。周囲にイヤな奴はいない。やさしいフランス語が使われて、映画解釈で観客に妙な要求もしない。それ自体に心が温まり、居心地が良くなる。

いきなり真四角の大画面にバレエの公演場面がでてくる。なかなか迫力ある。そして、エリーゼことマリオンバルボーが華麗に踊る。最初のケガでバレエが見れないのは残念だけど、マリオンバルボーのしなやかな姿体がいろんなところで観られる。後半戦はコンテンポラリーダンスだ。なじみは薄いけど、「一芸は万芸に通ず」そのものでマリオンバルボーはしっかりこなす。ソロダンスではないので、メンバーどうしのコンビネーションが重要と映像から察する。お見事だ。


ダンス指導するホフェッシュ・シェクターは本物のプロだ。英語で指導する。対応するマリオンもきれいな英語で応答する。フランス人は英語を話さないという話を日本人がすることが多い。ずっと昔からよく言ったもんだ。この間も娘の友人が新婚旅行に行って、土産話でそう言っていたと聞き、お前それって都市伝説だよと娘に教えた。


ブルターニュでエリーゼが過ごすレジデンスは、日本でいえば合宿所ないしは研修所的な場所だ。そこでエリーゼは料理の下ごしらえをする。出てくる食事は美的感覚にも優れる。宿舎から散歩して海に向かうと、海岸に沿って断崖が広がる。そこから見るサンセットの映像が美しい。大画面なのでなおさらだ。
だんだん暗くなっていき恋人同士が戯れ合う。確かにこれはムードがある。


ブルターニュでのリハビリ期間が重要なので、原題と違う「ダンサーインParis」の題名にはすこし抵抗がある。それでも、エリーゼの住む階上のアパルトマンの周囲にはいかにもパリらしい建物が建ち並ぶ。エッフェル塔を遠くに見渡す夜景などベランダから映し出す美景を見ながらパリに行きたいと感じる。
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映画「サントメール ある被告」 アリス・ディオップ

2023-07-19 20:03:59 | 映画(フランス映画 )
映画「サントメール ある被告」を映画館で観てきました。


映画「サントメール ある被告」ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)と新人監督賞を受賞したフランス映画である。監督はセネガル系フランス人のアリス・ディオップである。名門ソルボンヌ大学を卒業した才媛でドキュメンタリー畑だという。評論家筋の評判もよく、好きな法廷劇ということもあり映画館に向かう。

パリの大学で講師をしているラマ(カイジ・カガメ)が、フランス北部海辺の町サントメールでの裁判を傍聴に出かける。セネガル出身の女性ロランス・コリー(ガスラジー・マランダ)が生後15ヶ月になる自分の娘を浜辺に置き去りにして命をおとしたことで捕まり法廷で裁かれるのだ。
裁判長の女性(ヴァレリー・ドレヴィル)が無表情のロランスになぜわが子を殺したのかと言っても「わかりません。裁判で知りたいです。」という。裁判長からこれまでの人生についての尋問がはじまる。


男性の自分には正直なところこの映画はそんなによく見えなかった。女性向きなのかもしれない。出産を経験する女性だからロランスの振る舞いに何かを感じられるのではないか。

映画を観終わってから知ったのであるが、実際の裁判記録をもとに脚本を書いたという。謎解き要素が強い法廷室内劇というより、アリス・ディオップ監督は実際の裁判の展開を意識したドキュメンタリー仕立てにしたかったのかもしれない。アフリカ系のガスラジー・マランダ裁判長の質問に淡々と答えるその表情が演技を通り越した世界に見える。この無表情な顔立ちが、黒澤明「天国と地獄」で横浜の猥雑な飲み屋で山崎努とダンスしながら麻薬を受け渡す女性を連想してしまう。どちらも仏頂面で自分の脳裏にこびりつく顔だ。

裁判が始まる前に、大学で講義するラマを追いかける映像が映る。先入観なしにこの映画を観たので、誰なんだろうか?事件に関係あるのか?と思ってしまう。単に被告と裁判長や検察官とのやりとりを追いかけるだけでなく傍観者たる1人の女性ラマを媒介させる。もちろんラマは証言するわけではない。でも、ロランスの母親に声をかけられる。そして、懐妊しているのを母親に読みとられる。ラマの表情がロランスの裁判証言とともに変化する中で、懐妊している女性の心の動きを映像でみせる。実際の裁判を傍聴したという監督の生き写しかもしれない。


ロランスをハラませたのが初老の白人系フランス人だというのと同様に、ラマにも白人系フランス人の彼氏?がいる。アフリカ系と白人のカップルというのは最近の欧米映画ではよく見られる。ひと時代前では考えられない。日本にいるわれわれが気づかない間に人種が入り混じるようになっているのであろうか?

ロランスはアフリカ系といっても難民ではなく、生活に困ってそだったわけでない。大学にも行っている。ただ、父親は外で女をつくって母親に育てられる。精神的には屈折している。誰かに頼るということができないタイプだ。自分の懐妊も外には漏らさずに、出産も自らひっそりと行う。そんなロランスの裁判での陳述にはウソが多い。話の前後で矛盾がいくつも生まれる。自分からみると、どうしようもない女に見えてくる。

ただ、この映画はそういうロランスをかばう。このまま極刑にしてもいいことないと弁護士が法廷で発言する。

昨年「あのこと」というフランス映画の傑作があった。まだ中絶がフランスで認められていない時に自らお腹の子を処置しようとする女性の話だ。改めて調べてみると、フランスでは中絶は解禁され、ピルの流通も日本より進んでいる。そんな女性解放が進んだフランスでも、孤独になってこういう悲劇を起こす女性がいるのをアリス・ディオップ監督は訴えたいのだろう。

Je ne sais pas(わかりません)というフランス語を何度かロランスが話す。自分でも使ったことがあるフランス語の言葉だ。何度か話すロランスの言葉の抑揚に若干変化があるのに気づく。
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映画「苦い涙」 フランソワオゾン

2023-06-06 05:23:24 | 映画(フランス映画 )
映画「苦い涙」を映画館で観てきました。


映画「苦い涙」はフランスの人気監督フランソワ・オゾン監督の新作である。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの名作「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」のリメイクとのこと。予告編にはゲイのフランソワ・オゾン監督だけに男色系映画の雰囲気がある。今回は往年の美人女優イザベルアジャーニが出ている。健在ぶりを示すのか?数々の絶賛の声も気になり映画館に向かう。今回は作品情報を引用する。

1972年のドイツケルン、著名な映画監督ピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は、恋人と別れて激しく落ち込んでいた。助手のカール(ステファン・クレポン)をしもべのように扱いながら、事務所も兼ねたアパルトマンで暮らしている。

ある日、3年ぶりに親友で大女優のシドニー(イザベル・アジャーニ)が青年アミール(ハリル・ガルビア)を連れてやって来る。艶やかな美しさのアミールに、一目で恋に落ちるピーター。彼はアミールに才能を見出し、自分のアパルトマンに住まわせ、映画の世界で活躍できるように手助けするが…。(作品情報引用)


室内空間で演じる演劇のようなスタイルだ。
男色系で室内劇というのは自分にとっていちばん苦手なタイプである。フランソワ・オゾン監督の作品はむしろ好きな方で、イザベルアジャーニも出演するので男色系でもうまくバランスが取れていると思っていた。インテリアの色彩感覚や音楽のセンスは抜群である。「悪なき殺人」など数々の映画で主役を張るドゥニ・メノーシェの演技は舞台劇としてハイレベルだ。でも自分にはちょっと合わない。まあ、こういう選択のミスもあるだろう。

先日観た「ザ・ホエール」に構造が似ている気がした。主人公がずっと室内にいて、男色系の室内劇というのは同じである。「ザ・ホエール」の場合、主人公は200kgを超える大巨漢だが、こちらもそれなりのデブ。ともにゲイの恋人と別れて寂しい。身の回りを世話する人がそれぞれいる。ゲイになる前につくったがいて、いろんな来訪客が主人公の部屋に訪問した一部始終がストーリーの根幹というのにも共通点がある。

何か共通の元ネタがあるのであろうか?ただ、美少年「ザ・ホエール」の場合いない。ここでは主人公が美少年への想いに狂っていくという構図だ。美少年がしばらく離れていき、強烈に悲しむ。


上映時間85分と90分以内にまとめるのはフランソワ・オゾン監督らしい。時間内に内容は凝縮している。ただ元ネタがあるせいか、フランソワ・オゾン監督作品特有のミステリー的要素がないのは残念。久々登場のイザベル・アジャーニの美貌は70近くなっても劣っていない。20代前半で撮ったライアンオニール共演「ザ・ドライバー」クールビューティーぶりを思わず連想する。
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映画「アダマン号に乗って」

2023-05-17 19:39:56 | 映画(フランス映画 )
ドキュメンタリー映画「アダマン号に乗って」を映画館で観てきました。


映画「アダマン号に乗って」セーヌ川に浮かぶ船上のデイケア施設で精神科の患者たちが送る日々を描いたドキュメンタリーだ。ベルリン映画祭で最高賞を受賞して、日本の評論家筋の評判もいい。公開すぐさま行こうとは思わなかったが、時間が空いたので覗いてみる。映画の雰囲気は想像できたが、ほぼ予想通りだった。


個人のプライバシーの問題があって、なかなか衆目にはさらされていない世界ではある。こういったドキュメンタリーにまとめる事自体は画期的なことだと思う。ある事情があって、こういった精神科の病院の内情には若干の知識がある。日本もフランスも大きくは変わらない。映画のうたい文句に自由を感じるなどと言う言葉もあるが、日本の精神科のデイケア施設もこんなものではないか。


輪になってそれぞれの患者たちが、自分の体験談を話したりするのは日本の施設でも同じようなことをしている。アダマン号というデイケア施設に通う人たちの病気の程度は、強い精神疾患を持っている人たちから若干精神の安定を崩している人たちまで程度はいろいろだ。中には相手と目を合わせない自閉症患者もいる。表情を見ると、ほぼ全員精神科の薬を飲んでいるのは間違いない。目を見ればわかる。ある男性が,「お互い体験談を語ったりする機会を設けてくれるのはありがたいが,薬を飲まないとどうにもならない」と言っていた。


音楽では、エレキギターを弾いたり、ピアノを弾いて自ら作曲をしたり、普通の人ではできないことをたやすくできてしまう人がいる。美術関係にしても、普通の人が描ける以上のレベルの絵画を描いている。その絵を他の人たちにどういう趣旨で書いたかを説明している。


普通の人と大きな差があるわけではない。ただ、何らかの理由で精神のバランスを崩してしまったのだ。その時点ではこのように安定している状態ではなかったであろう。病院に入院した時は、かなり荒れ放題だったかもしれない。世間一般が精神病院で描いているイメージの治療をするのはやむを得ないのかもしれない。

それでも、今それぞれに向上心を持って生きているのは素晴らしいことだ。それをニコラ・フィリベール監督とカメラが解説もなく舐めるように追っていく。
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映画「午前4時にパリの夜は明ける」シャルロット・ゲンズブール

2023-05-03 20:29:03 | 映画(フランス映画 )
映画「午前4時にパリの夜は明ける」を映画館で観てきました。


映画「午前4時にパリの夜は明ける」は女優シャルロット・ゲンズブール主演で夫に去られてラジオの深夜放送のアシスタントをやることになった子持ちの女性を描いた作品だ。原題「Les passagers de la nuit(夜の乗客)」とは違う邦題だけど、「午前4時のパリ」という響きとラジオの深夜放送を題材にしていることで関心を持つ。1981年に自分はパリに行ったことがあるのでパリの街がどう描かれるのかも気になる。

1984年のパリ、専業主婦だったエリザベート(シャルロット・ゲンズブール)のもとを夫が去り、娘と息子の2人を養うことになった。深夜放送「夜の乗客」のDJヴァンダ(エマニュエル・ベアール)のアシスタントに職を得たエリザベートは、番組で知り合った家出して外で寝泊まりする少女タルラを家に招き入れ一緒に暮らすようになる。独身に戻ったエリザベートの恋と息子とタルラがお互い惹きつけられることを中心にストーリーを描く。


期待したほどではなかった。
1980年代のパリ市内の映像がかなり組み込まれている。まだ携帯電話がない時代である。もともと建築規制の強いパリではずいぶんと古い建物も残っている。エリザベートが住むアパートメントや近隣の建物は80年代以前に作られたものなのであろう。息子と居候の少女が屋上にはしごで上がってパリの街を眺めるシーンがいい感じだ。この時代の空気感は映画では感じられる。


1981年のパリで、シャンゼリゼ通りから見る凱旋門の迫力がすごかったこと、映画「ファントマ」で一気に好きになったシトロエンがたくさん走っていたこと。(この映画では見当たらない。)タクシーの運転手にベトナム人が多かったこと。シャンゼリゼ通りのはずれの映画館大島渚「愛のコリーダ」の無修正版を見て、藤竜也のあそこを確認したこと。ムーランルージュで酔っ払いながら、ショーの前のダンスタイムで踊ったこと。フォーブルサントノレ通りでエルメス、ジバンシイ、シャネルのブランド品を買いあさったこと(今はしない)思い出した。

自分も70年代は随分と深夜放送を聞いたものだった。それなので,その要素が映画の中に盛り込まれているのではないかと想像していた。このDJ番組はリスナーが直接放送局に電話してDJと語り合う設定である。電話をアシスタントのエリザベートが受けるのである。一部そのシーンがあったが、あまり踏み込んで放送内容には突っ込まなかったのは残念だ。午前4時の空気感はあまりなかった。


夫に捨てられたエリザベートの生活は娘と息子を抱えて決して楽ではない。ラジオ局のアシスタントに加えて図書館でもバイトをする。ただこのエリザベートはかなり尻軽である。図書館でナンパされた男とその日のうちにすぐ寝たり,仕事のことでDJから怒られ落胆しているところをラジオ局の同僚に慰められるとすぐさまキスして抱き合ったりする。15禁となっているのは、シャルロット・ゲンズブールが何度もメイクラブするシーンがあるからだろう。でも、いい年してあまりの尻軽には、観ていてあまり気分がいいものではなかった。

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映画「ベネデッタ」 ポール・ヴァーホーヴェン

2023-02-23 07:23:38 | 映画(フランス映画 )
映画「ベネデッタ」を映画館で観てきました。



映画「ベネデッタ」は奇才ポールヴァーホーヴェン監督の「ELLE」以来の新作である。17世紀に修道院の院長だった修道女ベネデッタの物語である。日経新聞の映画評で宮台真司が宗教的な背景も書いて、絶賛している。寺の墓はあれど、無宗教の自分はその解説を読んでもさっぱりわからない。ただ、「氷の微笑」以来長年の付き合いになったポールヴァーホーヴェン監督の作品だけは見逃せない。「ベネデッタ」の題名文字は70年代前半の東映エログロ路線を連想させる。

17世紀、修道院に1人の特殊能力を持った少女ベネデッタが親がカネを積んで入所する。やがて大きくなったベネデッタ(ヴィルジニーエフィラ)はキリストと対面して、しかも聖痕も受けたと認められて修道院の院長になる。ベネデッタは町の有力者になった。ところが罷免された前院長(シャーロットランプリング)の娘がベネデッタの傷は自分でつけたヤラセで、前院長はベネデッタが入所させた女(ダフネパタキア)とレズビアンの関係にあるとされて窮地に立たされる話である。


この映画の感想も難しい。17世紀欧州の物語だけど、内容はすんなり頭に入る。言葉はフランス語だ。宗教上の世界で若干現実から飛躍した場面があっても、わからなくなることはない。修道院をめぐる権力闘争と教会の権威、きびしい聖職生活の中でのレズビアンでの性的発散、ぺストの流行まで描かれる。ベネデッタはベストが流行しないように街の中に他のエリアの人たちが入ることを禁ずる

ポールヴァーホーヴェン監督は強烈な女主人公をいつも用意する。当然、主役ヴィルジニーエフィラは期待に応えている。窮地に陥りそうになると、男のような声で反発する。ダイナミックなボディを何度もあらわにして、予想通りのエロティックなシーンが用意されている。ただ、「ショーガール」の水中ファックシーンを思わせるような主役の性的歓喜の声があっても、衝撃を受けるほどの激しいシーンはなかった。18禁だけど、エロきわどいシーンは多い訳ではない。でも、40歳過ぎでこのナイスバディを保つのはすごい!


シャロンストーン「氷の微笑」では、エロスとヴァイオレンスに当時30代だった自分はものすごく衝撃を受けた。戦争を描いてスケールの大きな「ブラックブック」でも主役の女性カリス・ファン・ハウテンをいたぶるきわどいシーンがあった。ポールヴァーホーヴェンの作品でいちばんよくできた映画だった。そのレベルからすると驚きは少ない。
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