映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「笑う故郷」

2018-05-30 16:24:02 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「笑う故郷」はアルゼンチン、スペイン合作の作品である。


ノーベル文学賞を受賞した作家が故郷のアルゼンチンの小さな町に帰った時に起こるドタバタを描いている。
平昌オリンピックでメダルをとった選手たちが故郷に帰るとパレードで大歓迎される。そんな構図はテレビで見てきた。仙台で10万人を超える見学者が出たという羽生さん、北海道のそれぞれの町で歓迎を受けた高木姉妹やカーリングの選手など。この映画のノーベル賞作家ダニエルもいったんは歓待を受けるが、そのあとはあまりいいことが続かない。それどころか大変な災いを被る。そんな話である。

スペインマドリードに住むノーベル文学賞を受賞した主人公ダニエルは自作が書けずモヤモヤしていた。そんな彼には講演依頼が殺到するが、引き受けることはなかった。長年戻っていない故郷アルゼンチンの町から名誉市民として表彰したいという便りがくる。これだけはという思いから、1人向かうこととなる。 ブエノスアイレスから車で7時間もかかる道を車で向かうが途中でタイヤがパンク。前途多難と心配する。


現地に着くと、市民が集まる中歓迎集会が開かれ、ミスコンの女王、市長から表彰を受け、たいへんな名誉とダニエルは感激する。そのあとは消防車で凱旋パレードだ。そのあと、昔好きだった彼女と再会する。


彼女は同じ幼なじみのアントニオと結婚していた。他にも美術展のコンクールの審査員になったり、方々から金の無心を受けたりと忙しい。しかも、ホテルの部屋にファンだという若い女の子が乱入してくる。

それにしても、途中から主人公が故郷の人から受ける仕打ちはやってられないの一言だ。でもそれらの話が最後のオチでゲームセットになる。ここでは書かないが、これこそ笑えてしまう。

この作品を見て思い出すのは、中国の作家魯迅「故郷」である。自分が中学校を卒業してから40年以上たつのに 中学3年生の教科書に今でもあるというのもすごい。実際訳もいいのか趣がある。国語の授業でのやり取りがいまだに脳裏に残る。主人公がしばらく離れていた故郷に帰ってみると、荒れ果てていて昔の面影がない。仲良しだった旧友も落ちぶれている。こんなはずではなかったという話はまさにこの映画「笑う故郷」に通じるではないか。おそらくは、原題『名誉市民』と違うこの題をつけた人は明らかに「魯迅」を意識したと感じる。

「思うに希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」(魯迅 故郷の一節)
このフレーズは印象的であった。このフレーズに対しての感想を述べたら、国語の女教師から絶賛された思い出があるので忘れられない。

何で魯迅の「故郷」が中学校3年の教科書に今もあるのか?小中学校時代、成績が悪い人もいい人もいて、いい意味でフラットな立場だったのが、進学校に進学する人もいれば、昔であればそのまま中卒で就職する者もいる。その人たちがいずれ故郷に戻り、再会するときまでに、それぞれが道をつくってほしいという希望を教育者たちがもっているからなのであろうか?

この映画を見てそんなことを思った。
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映画「ファントムスレッド」 ダニエル・デイ・ルイス&ポール・トーマス・アンダーソン

2018-05-27 19:25:55 | 映画(洋画:2016年以降主演男性)
映画「ファントムスレッド」を映画館で観てきました。

オスカー男優賞3回受賞のダニエル・デイ・ルイスポール・トーマス・アンダーソン監督と新作を出したという。しかも、ダニエル・デイ・ルイスにとって引退作品になるとなれば、観に行くしかない。2人がコンビを組んだ「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」で見せた猛獣のように荒れ狂う石油掘削師を演じたダニエル・デイ・ルイスには驚いた。あまりの衝撃にブログにアップアップできていない。

今回は1950年代のロンドンを舞台にオートクチュールばりの高級仕立て屋のデザイナー兼オーナーをダニエル・デイ・ルイスが演じる。ジョニー・グリーンウッドの実に優雅な音楽をバックに、田舎のウェイトレスだった若い娘と主人公の交流を描く。今回のダニエル・デイ・ルイスは繊細で荒々しさはない。優雅に映画が進んでいく中で、途中で偏愛のムードが広がる。ミステリーではないが、そのムードを残したままで映画は終盤に進む。美しいドレスが見れるという視覚的要素に加えて、ストリングスとピアノ基調の音楽があまりにも素晴らしく快適な瞬間が過ごせる映画である。


1950年代のロンドン。英国ファッションの中心に君臨し、社交界から脚光を浴びる高級仕立て屋ウッドコックのデザイナー兼オーナーのレイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ・ルイス)は姉シリル(レスリー・マンヴィル)とともに経営していた。


仕事に疲れたレイノルズは休養をとろうと郊外の別荘に向かった時、町のレストランでウェイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会い魅かれる。素朴な彼女を別荘に誘ったあと、彼女を新たなロンドンに迎え入れる。彼女をモデルに昼夜問わず取り憑かれたようにドレスを作り続けた。

しかし、アルマの気持ちを無視して無神経な態度を繰り返すレイノルズに不満を募らせたアルマは、ある日とんでもない行動に出るのであるが。。。

1.偏愛
2人が出会ったのは田舎のレストラン、朝食のオーダーを取りに来たアルマにレイノルズが魅かれるのが最初だ。デートの後別荘に行き、レイノルズは採寸してドレスをつくってあげる。そうしていくうちにロンドンの自宅兼仕事場の一角で暮らすようになる。この映画の最初に若い女性がかまっているのをレイノルズが嫌がるシーンがある。姉と一緒に仕事をしているが、こうして女が代わるのを姉は容認している。

そうして、2人の関係は深まっていくが、レイノルズには取り巻きが多いし、社交界からももてはやされている。2人きりということはない。姉が小姑のように若い娘をいじめるかというとさほどでもない。それでも、2人きりになれないもどかしさを感じ、アルマは2人きりの会食の時間をつくろうとするが、それはそれでレイノルズのルーティーンにあわない。そうしていくうちにアルマはあることを思いつく。

毒キノコを切り刻んで飲み物の中に入れるのだ。ベルギーの王女のウェディングドレスの製作に取り掛かっていたレイノルズは効いてきた毒キノコの毒のせいで倒れたら、ウェディングドレスを汚してしまう。みんなは大慌て。


そこでアルマは献身の看病をする。それだったら、そんなことしなくてもいいのにと思うが、違う。自分だけのものにするための1つの行為なのだ。これも高等な手段としか言いようにない。まさに偏愛だ。しかも、この映画はこの逸話だけでは終わらない。飼いならす女になるアルマが見物だ。

2.ポール・トーマス・アンダーソン
前回「インヒアレント・ヴォイス」は私立探偵ホアキン・フェニックスを主演にした70年代の音楽を基調にその時代のムードが漂う猥雑な感じだった。今回は優雅な世界を描くせいか、TV「皇室アルバム」のバックにバロックが流れるがごとく、やさしく美しいストリングスが素敵な音楽をバックに映像を映す。故フィリップ・シーモア・ホフマンを新興宗教の教祖様にした「マスター」も視覚的な要素を楽しめたが、この映画もより高尚な雰囲気が漂う美しさを持つ。

ポール・トーマス・アンダーソンインタビューより
作品については、「本作はゴシックロマンスに近いといえる。そういうジャンルで人気なのは、『レベッカ』や『ガス燈』などだ。ロマンスと危険な要素という組み合わせが魅力的な作品だね。我々は、そこにユーモアを加えた。昔のゴシックロマンスにはユーモアが欠けているから、本作は“ゴシックロマンス・コメディ・ドラマ”かもね(笑)」(映画com引用)


『レベッカ』や『ガス燈』ジョーン・フォンテイン、イングリッド・バーグマンいずれも映画界の歴史を代表する美女だ。そこでは2人とも恐怖におびえる。その2つとミステリー的要素は通じるが、今回我々をドキドキひやひやさせるのはアルマのヴィッキー・クリープスである。しかも前の2人ほど美女ではない。姉役のレスリー・マンヴィルは巧い演技をみせるが、「レベッカ」の怖いお手伝いさんダンヴァース夫人的色彩に見えてそうならないのがミソ。それもあってかヴィッキー・クリープスが際立ち、オスカー俳優ダニエル・デイ・ルイスと均衡する演技すら見せる。いい感じだ。
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映画「孤狼の血」役所広司と松坂桃李

2018-05-23 20:01:13 | 映画(日本 2015年以降主演男性)
映画「孤狼の血」を映画館で観てきました。

昭和の広島を舞台にしたやくざ映画というと「仁義なき戦い」を連想する。しかも、白石和彌監督の一連の作品「日本で一番悪い奴ら」「彼女がその名を知らない鳥たち」はいずれも自分もお気に入りだ。今回は広島県の架空の街呉原市のマル暴担当刑事の2人役所広司と松坂桃李が主人公、それを江口洋介、真木よう子、石橋蓮司、ピエール瀧などが脇を固める。観てみると、予想以上におもしろい。ストーリーは単純そうで、そうはならない意外性がある。

昭和63年、広島の呉原では暴力団組織が街を牛耳り、新勢力である広島の巨大組織五十子会系「加古村組」と地元の「尾谷組」がにらみ合っていた。ある日、加古村組関連の金融会社の社員が行方不明になる。ベテラン刑事の刑事二課主任・大上章吾(役所広司)巡査部長は、そこに殺人事件の匂いをかぎ取り、新米の日岡秀一(松坂桃李)巡査と共に捜査に乗り出す。


いきなり養豚場が映し出され、若い男がリンチにあっている。豚のクソを食べさせられたり、ひどいもんだ。指を詰められたりした挙句殺される。これが金融会社の社員だ。その人間が行方不明になり、マル暴の2人が動き出しているが、怪しいと思われる組関係者はなかなか口を割らない。携帯電話のない黒電話で、捜査員たちがたむろう部屋では机でみんなタバコを吸っている。いかにも昭和らしい猥雑な雰囲気の中話が進んでいく。

1.「ベテランと未熟者」の対比を描く刑事もの
若い刑事とベテラン刑事がチームを組んで犯罪捜査にあたる。このパターンは古今東西の警察アクション映画の定番だ。日本でいえば、黒澤明監督「野良犬」志村喬と三船敏郎のコンビ、デンゼルワシントンが悪徳刑事を演じてアカデミー賞主演男優賞を受賞した「トレーニングデイ」が自分のお気に入りだ。いずれも「ベテランと未熟者」の対比を見事に描いている。


この映画はむしろ「トレーニングデイ」に近い。役所広司の悪徳刑事ぶりが、麻薬組織の元締めに入り込み、金や麻薬を平気で横領するデンゼルワシントンの腐敗刑事ぶりに通じる。銃を乱射し、イーサンホンク演じる若い刑事に平気で強い麻薬を吸わせる。ここではいつものデンゼル・ワシントンと違い徹底的にワルに徹していた。多分作者は影響を受けたのではないか?

2.役所広司の悪徳刑事ぶり
ヤクザから平気で金をもらったり、捜査のためには平気で放火したり家屋に不法侵入する。行方不明の男を探してくれとやってきた女を取調室でやってしまう。このパフォーマンスは深作欣二監督、菅原文太主演「県警対組織暴力」で、松方弘樹演じるやくざ組織の幹部とつるみ、若いヤクザを手玉に取る刑事ぶりを思わず連想してしまう。


県警本部から派遣された松坂桃李演じる若い刑事は、本当は役所広司演じる刑事を内偵するように本部の警視から指示されている。いい加減で腐敗に満ち溢れている大上刑事に嫌気がさし、何度も処分してくれと警視に訴えるが、大上刑事は泳がされたままだ。そして行為もエスカレートしていくのだ。ヤクザがペニスに入れ込んだ真珠を素っ裸にして抜き取ってしまうシーンには笑える。

それを演じる役所広司もうまい。深作欣二作品での菅原文太よりも悪い存在かもしれない。やりすぎという感じもあるが、ワルを演じる役所広司の存在が強烈なスパイスとなって効いてくるのだ。
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