映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「大いなる不在」藤竜也&森山未來

2024-07-22 06:51:21 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「大いなる不在」を映画館で観てきました。


映画「大いなる不在」藤竜也認知症の老人で、両親の離婚で疎遠になっていたその息子森山未來が演じるシリアスドラマである。監督は近浦啓で作品を観るのが初めてだ。認知症問題の映画は得意な部類ではないが、藤竜也が主演となると気になる。予告編を観ると、かなり重症のようだ。映画館内の周囲には70代より上で、ヨタヨタ歩くよくもまあ映画館に来るなという老人も目立つ。

映画は時間軸をずらしながら進む。施設に入った父と息子とのかみ合わない会話、父と再婚相手との家庭に息子が訪問した様子などを交互に映し出していく。いきなり機動隊のような面々が銃撃を恐れながら父親の家に侵入しようとするシーンで始まり何だと思うが、その謎は最後に明らかになる。

俳優の遠山卓(森山啓)は九州に住んでいる認知症でケア施設に入った父親陽二(藤竜也)の元へ訪れる。もともと大学教授だった陽二は卓の母親と離婚していた。長きにわたり父と息子は疎遠になっていたが、最近再会した。卓は妻夕希(真木よう子)とともに施設職員の説明を聞いたあと、陽二の自宅に向かう。そこで、再婚した直美(原日出子)と一緒に暮らしているはずだったのにいない。直美の携帯電話に連絡すると家の中で着信音が鳴る。

以前卓が訪問したときには、脈絡のない言葉を話す陽二の一方で後妻の直美は卓を歓待してくれた。家中にメモ書きが貼ってある。認知症映画にありがちで、あったことを忘れないためだ。改めて卓が父親に直美さんはどうしたの?と聞くと自殺したと言う。卓は真実は違うと察して家の中の日記を読み始める。


見応えある作品だ。しっかりとした脚本でセリフも練っている。
藤竜也は一世一代の名演技だ。セリフも多く、80歳を超えた俳優が容易にできるレベルではない。直近に主役を張った「高野豆腐店の春」よりかなり難易度が高いすばらしいとしかいいようがない。

理系の元大学教授でアマチュア無線が趣味。皮肉屋で人の話を素直に聞かない。認知症というより統合失調症的な誇大妄想を感じさせるセリフが目立つ。この大学教授は、いつどのようにして、頭の配線が狂ったのかと思わせる。夫婦仲良いように見えるが、妻に対して冷徹な一面もある。原日出子とのやりとりを見ながら、結婚の時点では藤竜也より格上だった愛妻芦川いずみさんのことを想う。


森山未來の役柄は俳優で一部の場面にその片鱗を見せている。でも、大勢の筋に影響はない。映画内の髪を束ねた自由人的な風貌と比較すると、話すセリフは常識人といった感じだ。自分が同じ立場だったら同じように話すだろう。長期間父親と暮らしていないので、父親の嗜好などはまったくわからない。それなのに父親の突飛な発言にも声を荒げることもなく寄り添う。

突然、父親の後妻の連れ子が来て応対したり、父の面倒も見た後妻の妹と連絡を取ろうとする。その部分には軽い謎を残しミステリー的要素も脚本ににじませる。真木よう子は脇にまわって、主役の時ほどの存在感はない。でも、悪くない。


初老の域に入った自分も映画を観て、今後について考えさせられる。ボケずにいられるにはどうしたら良いかと。舞台は北九州だ。ただ、九州らしいシーンは息子の卓が熊本に訪ねて行った時に映る。桜がきれいな季節に撮ったようだ。以前、自分が天草に行った帰りに熊本の三角から熊本駅まで特別列車A列車で行こうに乗った。海側を列車が優雅に走る。海に向こうに島原の山を見渡す景色だ。なつかしい。最後まで飽きずに観れてうれしい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「言えない秘密」 京本大我&古川琴音

2024-07-03 17:37:31 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「言えない秘密」を映画館で観てきました。


映画「言えない秘密」は、京本大我と古川琴音主演の青春ドラマ。台湾映画の同名映画のリメイクである。主人公の京本大我は初めて見る。京本政樹の息子だ。古川琴音濱口竜介監督「偶然と想像」とか今泉力也監督の作品で存在感を示してきた。芸能界では決して美女と言うルックスではないが,どこにでもいるその雰囲気に親しみを覚える。今回も古川琴音のパフォーマンスを期待して映画館に向かう。

主人公湊人(京本大我)は,音大の大学生。ロンドンにピアノで留学をして最近帰ってきたばかりで。解体が決まっている旧校舎にいると,素敵なピアノの音色が聞こえてくる。そこには今まであったことのない女子学生雪乃(古川琴音)がピアノを弾いていた。名前は教えてくれないし、携帯を持っていない。


恋人のように親しい女の子ひかり(横田真悠)からちょっかいを出されるが,湊人はピアノを弾いてた女の子の姿が気になってならない。するとその女子学生は教室に入ってきた。追いかけていくと古い校舎の中に入っていた。その後彼女は雪乃と自ら名乗り親しく付き合うようになる。ところが、ある時彼女は突然連絡が取れなくなる。自宅に行くと母親からくるなと言われる。

大学生の頃に目線を落として見ているとすんなり入っていけるラブストーリーだ。
ファンタジーの要素もある。

主人公がもともと付き合っている女性がそれなりに美人系であるのに対して,古川琴音普通の女の子ぽさを醸し出す。魅力的である。京本大我は父親の血を引いてイケメンだが最近どこにでもいる兄ちゃんという感じで普通

付き合っているのに突然いなくなってしまう設定は最近のラブストーリーではよくありがちだ。村上春樹の小説なんかにも多いパターンだけれども,今回はファンタジー的要素が入っていた。ひねりが効いている。それはそれで悪くはない。台湾映画のリメイクと言うが,テイストは先日見た「青春18 × 2」に近い。観客をかるくだましてやろうとする意思が強い。若い人には、こういうラブストーリーは受ける気がする。

主人公が音大の学生なだけに,ピアノを弾くシーンは多い。これはこれで軽快なピアノが聴けてよかった。品を変え、ショパンのピアノソナタが流れる。途中でピアノバトルと言って, 2つのグランドピアノで演奏の優劣を競うシーンがあった。これはこれで面白い。クリスマスのパーティーで主人公2人がロックンロールバンドをバックにダンスを踊るシーンがある。気分良さそうに見える。古川琴音も少しはピアノ練習をしたのだろうか。まともに弾けているようには見えた。

エンディングロールによると、主なロケ地は坂東市らしい。一瞬、どこかわからなくなったが,利根川を示す坂東太郎の坂東かなと思っていると、茨城県の合併でできた市だった。知らなかった。利根川だと群馬県を思い浮かべてしまうが違っていた。


映画の中で主演2人が肩寄せて自転車を気分良く走らせるシーンがある。
バックの清々しい風景やグリーンのサイディングの古めの校舎の雰囲気は自分の肌にあった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「明日を綴る写真館」 平泉成&市毛良枝

2024-06-20 18:12:36 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「明日を綴る写真館」を映画館で観てきました。


映画「明日を綴る写真館」は名バイプレイヤー平泉成が80歳にして初主演の作品だ。あるた梨沙による同名漫画を原作に、秋山純監督がメガホンを持つ。平泉成と過去に共演してきた主演クラスの盟友たちが脇役に回って共演している。佐藤浩市・吉瀬美智子・高橋克典・田中健・美保純・赤井英和・黒木瞳・市毛良枝とよくぞ集結したものだ。主人公が作品展に出展した写真を見て、若手人気写真家が感銘を受け弟子入りする話だ。心温まるストーリーと想像して映画館に向かう。

岡崎で写真館を営む鮫島(平泉成)が写真コンテストに出品した写真を見て、そのコンクールで最優秀賞を受賞したカメラマン・太一(佐野晶哉)が感銘を受ける。多忙なスケジュールの人気写真家なのに、新規の仕事をキャンセルして岡崎の写真館で弟子入りを志願する。鮫島の写真館に訪れる客と対話を重ね、深く関わる鮫島の姿を見て少しづつ写真を撮ることへの考え方を変えていくようになる。

欠点は多い映画だけど、映画を観た後味は良かった。
遠目に城が見える河川敷で写真を撮っている。いったいここはどこなんだろう?と考えていると、しばらくしてセリフで岡崎だとわかる。賞を連続して受賞する写真家が、地方で写真館を営むカメラマンのもとに弟子入りする構図は不自然だけど、それを言っちゃおしまいだ。

若手俳優がイマイチとの印象を持つし、80代と平泉成と70代の市毛良枝の子供がいくらなんでもこんなに若くはないだろうという不自然さもある。ピアノ基調の音楽がバックで流れつづける。フレーズは悪くないけど、ちょっと流れすぎ。ここまで多いと画面にあっていないフレーズもある。でも、それらの欠点を補うのがベテラン俳優の出番だ。

平泉成の独特の声は耳に残る。いったい何度であっただろう。芸名を知らなくても顔を見たことある人は多いだろう。人情味のある刑事役なんかお似合いだ。自分には西川美和監督「蛇イチゴ」の印象が強い。若い時に全盛時代の岡崎友紀とTV番組「なんたって18歳」でコンビを組んでいたと知り驚く。実は昔から見ていたんだ。ここでも渋い演技を見せてくれる。


市毛良枝が良かった。いかにもこれまでの日本人が理想とする専業主婦の雰囲気だ。好き勝手にやるカメラマンの主人公にピッタリ寄り添う。突然弟子入りしてきた若いカメラマンに対して、母親のように接するそのふるまいが素敵だ。余分なことだが、会社で自分の面倒を見てくれた女性に話し方までよく似ていてより好感度が上がった。


田中健が彼自身とわかるように目が慣れるまで時間がかかった。地元のケーキ屋の店主で、その娘である看板娘を平泉成が撮った写真を見て弟子入りしたのだ。店は流行っていない。店をたたもうかとした時にカメラマンの太一がこうやったらInstagramでよく見えると写真のコツを教える。一気に行列店に変貌する。平泉成はいい歳のとり方をしていて、幅広い役柄に起用されるけど、田中健の場合、逆かもしれない。


佐藤浩市は自らの遺影を撮って欲しいと来る役だ。白髪で最近の主演作「春に散る」「愛にイナズマ」と同じような雰囲気をもつ。その妻役の吉瀬美智子はいかにも主婦らしい感じで以前の美魔女的雰囲気がない。美保純はあの世に行く寸前の老婆の役だ。ポルノ時代から知っている自分は本人と気づくのに時間がかかる。赤井英和はラーメン屋の店主だ。自分が行きつけの飲み屋のママが女優で、どうやら赤井はセリフ覚えがよくないそうだ。それにはうってつけの役だ。

黒木瞳は先日「青春18×2」清原果耶の母親役で出会ったばかりだ。でも、それまで久しく会っていなかった。大女優的に自惚れて主役にこだわっていたのかなあ。脇にまわれば、まだまだ出番は多そうだ。自分とほぼ同世代なのにこの美貌はすごい。弟子入りしたカメラマンの母親役で、現在はウェディングプランナーをやっている設定だ。40代というのには無理があるが、50代半ばと言っても不自然ではない。吉永小百合を思えばまだまだやれる。


いいベテラン俳優が集まった。平泉成はまだまだやれそうだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」

2024-06-13 19:30:37 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」を映画館で観てきました。


映画「トンバン 音楽家加藤和彦とその時代」は愛称「トノバン」加藤和彦が歩む音楽人生をフォーククルセイダーズ時代から追っていくドキュメンタリーだ。盟友北山修、高橋幸宏、つのだひろをはじめとした音楽仲間やプロデューサーたちのインタビューや貴重な演奏フィルムを通じて加藤和彦の人生に迫る。言い出しっぺは亡くなった高橋幸宏のようだ。

自分が小学生だった時、ザ・フォーク・クルセダーズ「帰ってきたヨッパライ」が大ヒットした。小学校の教室でもみんな「オラは死んじまっただあ」と歌っていた。一緒に組むようになるいきさつを北山修が語り、一緒にデュエットした名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」の誕生秘話についても触れる。はしだのりひこはすでに亡くなっている。フォーク全盛時代の吉田拓郎や泉谷しげるのセッションをアレンジャーとして仕切り、まだアマチュアだった松任谷正隆をバックに起用する。

「サディスティック・ミカ・バンド」の演奏は英国でもBBCで放映されて評価される。高中正義や高橋幸宏といったミュージシャンもミカバンドで育っていく。映画に映るBBCの放送での演奏はエキサイティングだ。名プロデューサーだったクリストーマスのインタビューもある。なんとミカと不倫をして、離婚のきっかけを作った話は初めて知る。


ミカと離婚した後に安井かずみと再婚した。加藤和彦はよりハイセンスになり、音楽だけでなくファッションなど多方面にわたって影響力を持つようになる。ファッション界の大御所で安井かずみの親友だったコシノジュンコや料理界の重鎮三国清三シェフもコメントを寄せる。そのころ竹内まりやのデビューにも関わる。そして、集大成としてヨーロッパ3部作を発表するあたりまでを取り上げる。

常に先進的であった加藤和彦の人生がよくわかるドキュメンタリーだ。
最後の「あの素晴らしい愛をもう一度」はすばらしく、歌う老いた北山修の姿を見て思わず落涙してしまった。坂本美雨とウッドベースを弾きながら歌う石川紅奈にも感動した。


小学生の時に見た加藤和彦はのっぽのお兄さんというイメージだった。幼心に一発屋的な印象を持っていたが、「悲しくてたまらない」も名曲でヒットした。その後、ベッツイ&クリス「白い色は恋人の色」北山修と歌った「あの素晴らしい愛をもう一度」のアコースティック調の歌を作曲してすごい人なんだなあと思っていた。そんな頃からはや50年以上経つが、昨日のことのようだ。


70代前半には加藤和彦は音楽界で一目置かれていたと思う。ミカバンドでの活躍を経て、安井かずみと結婚した後はオシャレの雑誌などに2人が取り上げられる頻度が高くなる。その頃、雑誌で加藤和彦の家が取り上げられて◯千枚のレコードコレクションが写っていた記憶がある。すげえなあと思っただけであったが、そのコレクションのおかげで音楽的素養が広がったとこの映画を観て思う。自分はヨーロッパ3部作の存在を知らなかった。タンゴやオペラなどの素材を取り入れる。これは聴いてみたい。


⒈サディスティック・ミカ・バンド
サディスティック・ミカ・バンド時代が自分にとっては関わりが少ない。典型的なロックンロールのリズムの「サイクリングブギ」は当時聴いたが、普通にミカバンドのLPはじっくり聴いた訳ではなかった。ドラムス高橋幸宏、ギター高中正義の2人に加えて、キーボードの今井裕とベースの小原礼を加えたメンバーのエキサイティングなセッションに改めて驚く。正直言ってミカはお飾りのようだけど、バンドの音色は当時の日本最強だろう。

高中正義はこの後ソロデビューから延々と追い続けていくが、それ以前の世界に及ばなかったことを悔やむ。高中正義の加藤和彦を追悼するギターソロは感動する。


⒉フォークのアレンジャーと竹内まりや

吉田拓郎「結婚しようよ」のセッションに松任谷正隆が加わっていたのは、松任谷正隆のエッセイを読んで知っていた。加藤和彦が関わっていたバンドコンテストに松任谷正隆が参加して、加藤和彦が誘ったのだ。とんでもない恩人である。泉谷しげるの代表曲「春夏秋冬」のバックをアレンジしたのが加藤和彦で、映画の中ではレゲエを基調にしたアレンジの曲も流れている。ジャンルの幅の広さがよくわかる。当時は加藤詣と言って、若手ミュージシャンが加藤和彦のところへ挨拶に行くことのがよくあったと泉谷しげるが語る。


竹内まりやがデビューする際に、こういう音楽家と組みたいというリストのトップが加藤和彦だった。それが実現して満面の笑みを浮かべる竹内まりやの写真が印象的だ。ミカバンド時代の「サイクリングブギ」加藤和彦と竹内まりやが並んで歌い、横で高中正義がギターを弾く映像が登場すると思わずワクワクする。20代の竹内まりやがピョンピョン跳ねる。


⒊料理
現役当時は知らなかったが、加藤和彦は料理にもうんちくがある人だったようだ。「料理屋に行った時はいちばん高いものを注文しないとわからない」と。三国シェフは、料理と音楽は似ているとのたまう。いずれも素材の組み合わせが重要だとする。なるほど。加藤和彦の行きつけの京都の料理屋ささきでは太巻が名物だ。これだったら加藤が気にいるだろうというポタージュスープにうなぎを加えた一品が映る。

加藤和彦があらゆることにクリエイティブだったことがよくわかるドキュメンタリーだった。「世間の一歩先でなく、半歩先を目指す」と言っていたそうだ。この映画を観ると、常に現状にとどまらず、ずっと先を常に見据えていたのがよくわかる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「告白(コンフェクション)」 生田斗真&ヤン・イクチュン&山下敦弘

2024-06-02 15:17:47 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「告白(コンフェクション)」を映画館で観てきました。


映画「告白(コンフェクション)」は、雪山の山小屋を舞台にしたサスペンス映画だ。生田斗真と、韓国のヤン・イクチュンのW主演で,監督は山下敦弘である。原作は「カイジ」の福本伸行カワグチカイジのコンビ。映画と雪山サスペンスの相性は良い。古くは黒澤明が脚本に回った三船敏郎主演「銀嶺の果て」,井上靖原作「氷壁」,松本清張「ある遭難」など名作ぞろいで、いずれも面白い。それなので、雪山を舞台にしたサスペンス系と知ると、すぐさま映画館に向かいたくなる。

雪山で遭難しかかっている2人がいる, 2人は大学の山岳部の同期で卒業して16年になる。元留学生だったジョン(ヤンイクチュン)がもう自分はダメだと思い,思わず16年前に2人の同期で山で遭難をしたさゆりのことを自分が殺したと浅井(生田斗真)に告白する。


何とか九死に一生を得る頃吹雪が和らぎ、山小屋が見えてくる。2人はたどり着いて生き延びる。しばらくして,ジョンは人を殺した告白をしたことを後悔するようになる。2人の関係は徐々に悪化していき,気がつくと、疑心暗鬼の中ジョンが刃物を持って暴れ出す

ホラーのようなテイストを持つサスペンススリラーである。
雪山サスペンスであっても,雪山自体を映すシーンは多くはない。ほとんどは山小屋の中のシーンである。実質的に室内劇である。だからといって閉塞感に満ち溢れているわけではない。舞台でこれを演じようとしても不可能であろう。強烈な暴力描写は山小屋の中の空間を隙間まで最大限に使い切る。

山下敦弘監督は観客を驚かせる場面をいくつも揃えて,ドキドキさせる。恥ずかしながら,思わず大きい声を出す場面が2回ほどあった。お互いに疑心暗鬼にとらわれる男の狂気がこの映画のテーマだ。室内劇に終始して、前哨のストーリーは短いので最近には珍しい73分の放映時間だ。

ヤンイクチュン自ら監督と主演を演じたキネマ旬報ベストテンで1位となった「息もできない」からはや14年となる。高利貸しの取立て屋を演じて強烈な暴力描写で我々を驚かせた。韓国のヤミ金融って怖いなあと感じた。ある時期から日本映画への出演も増える。「あゝ荒野」も良かった。ここではホラー映画のゴーストのように不死身でしつこく追ってくる気味の悪い役柄をうまくこなした。


元留学生のヤンイクチュンは,殺したことを元同期が知ってしまったことを悔いている。もしかして誰かに話すのではないかと。生田斗真はそういった気配を感じて殺されるのではないかと逃げ回る。やがて将棋の駒がぶつかるかのように2人の間に格闘が生まれる。延々と山小屋の中でヤンイクチュンが常に追う。追っかけごっこは恐怖の波状攻撃のようにエスカレートする。その間、ハラハラドキドキする場面が続く。


果たしてこの映画はどうやってクロージングするのだろうかと考え始めていく。自分の推理は途中で外れる。一旦外したと思った後に,作者はひねりを加える。そして最後の結末は意外な感じで終わっていく。なかなかよく考えて作ったストーリーだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」

2024-05-27 18:35:39 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」を映画館で観てきました。


映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」は1972年11月革マル派の集団から中核派のスパイという疑いを持たれてリンチの末亡くなった早稲田大学2年生川口大三郎さんの話を中心に学内での内ゲバを描くドキュメンタリーである。監督は代島治彦だ。リンチの再現映像も組み込まれている。立花隆が綿密に調べて書いた「中核と革マル」を読んで、当時の大学構内での内ゲバの酷さは知っていた。自分は学生運動の連中は人間のクズと思っているクチで、大嫌いなやつらだが、怖いもの見たさで映画館に向かう。

早稲田大学第一文学部校舎の学内で、革マル派の闘士に囲まれた早稲田一文2年生川口大三郎さんがリンチを受ける再現映像からスタートする。当時、早稲田大学の自治会は革マル派によって牛耳られていた。川口さんは中核派からスパイで侵入している疑いをもたれて、オマエの同志は誰だと拷問を受けている。次々にゲバ棒で叩かれる。リンチは延々と続き、そろそろ終えようとした時に、川口さんがグッタリする。あわてて蘇生措置をしてもむずかしい。唖然とする革マル派の闘士を映し出す。


再現映像の後は、当時の学生集会などの映像が実際に残されていて、それをドキュメンタリータッチに編集する。「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」を書いた樋田毅をはじめとした当時の闘士たちの証言だけでなく、池上彰や佐藤優などもコメントを寄せる。この当時、それぞれの派同士の内ゲバで、100人以上が亡くなった。悲惨である。当時学生運動にうつつを抜かしたのは本当にクズな連中だ。

思ったよりもリアルで興味深い映画だった。
1960年代から1970年代の学生運動の歴史も日本現代史の暗部として語り継ぐべきものだとおもう。この映画を観ても、何てクズな奴らだと思うけど、みんな狂っていたのだ。川本三郎「マイバックページ」のように、現代の俳優が演じて当時の出来事を映すのもいいが、この映画には早稲田大学内での学生集会を映す8ミリ映像が多い。よくぞ残していたものだ。長髪の学生たちの風貌が、いかにも70年代前半だ。川口さん死亡事故のあと革マル派のトップ田中敏夫が吊し上げをくらう映像もある。そのため、リアル感が強くなる。


文学部にできた新しい自治会のトップである原作を書いた樋田毅が、革命であれば暴力も肯定する革マル派に対抗して非暴力思想で一般学生を集めた。樋田の立場が映画の基調になる。ただ、非武装の考え方自体が気にくわないと思うかつての闘士である論客もいるようだ。

映画内でインタビューを受ける当時の闘士は比較的現代のリベラルと言われる人たちだ。著者の樋田毅朝日新聞で長年幹部だったし、岡本厚「世界」の編集長の後岩波書店の社長になる。革マル側で親友を襲撃で亡くした石田英敬はフーコーを扱う元東大教授だ。

その他の元闘士も含めてインタビューされている部屋は大量の書物に囲まれたそれなりのレベルの生活をしていると思しき印象を受ける。それぞれの顔に鋭角的雰囲気を感じない。穏やかな印象だ。まさに「リベラル」という名で現在も金儲けしている人種だ。ピケティ的な言い方をすると「バラモン左翼」と言っても良いだろう。そんな嫌味な部分は強くても、当時を回想するみんなの言い分が興味深い。


たった5~7年くらいしか自分の歳と変わらないのに、70年代後半に入学した自分の大学にはほとんど学生運動系の立て看板はなかった。教室の中に飛び込んでくる変な左翼学生を数回見たが,ほとんどいない。早稲田では見たことはある。でも、学生運動に毒された早稲田に進学した高校の同期はいない。

一体70年代前半の異常な学生は何だったのだろう。ところが,自分と同じ時期に大学に通った佐藤優や百田尚樹のような同志社の同窓生の文章を読むと,学内に左翼学生が大勢いたようだ。ずいぶんと東西とで違ってたものだ。京都にはやっぱり左翼が多いのかなあ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「碁盤斬り」 草なぎ剛&白石和彌

2024-05-22 21:21:39 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「碁盤斬り」を映画館で観てきました。


映画「碁盤斬り」草なぎ剛主演の時代劇。メガホンは時代劇初の白石和彌監督が取る。監督の作品は必ず観るようにしている。予告編で古典的仇討ちの色彩を感じ取る。ストーリーには碁が絡む。大枠としては、太宰治「走れメロス」のような物語の構成である。時代劇となると年齢層が上がる。根強い時代劇ファンが映画館にも目立つ。これはこれで良いことだ。

江戸の貧乏長屋に暮らす浪人柳田格之進(草なぎ剛)とその娘お絹(清原果耶)は故郷の彦根を離れて暮らす。ひょんなご縁で大店の主人萬屋源兵衛(國村隼)と囲碁を通じて親しくなる。


故郷から同僚の武士(奥野瑛太)が来訪して過去に彦根を離れた理由がわかり,仇討ちをしようと旅立とうとする。萬屋の主人と碁をうっている部屋でなくなった50両のお金のありかがわからず,柳田に盗みの嫌疑がかかる。清廉潔白の柳田は無罪を主張するが,お金は見つからない。吉原遊郭の主(小泉今日子)にお絹を人質にして50両を借り、萬屋の弥吉に金を渡して仇討ちの旅に出て行く。

典型的な時代劇を現代の人気俳優と人気監督で撮った作品である。
十分堪能させてもらった。

松本幸四郎のわざとらしい演技でレベルを落とした「鬼平犯科帳」よりは出来が良い。演技派として力をつけている草なぎ剛もよく見えた。

時代に応じて的確にセットに落とし込んでいる。やじ馬町人が多い貧乏長屋も女郎が多い吉原遊郭の雰囲気も巧みに映像に反映されている。すると背景がよくできているので登場人物の存在がリアルになる。陰影を強調した撮影もよかった。

⒈碁盤斬りの題名
残念ながら自分は囲碁には明るくない。碁盤の上に映し出される対決の形勢は全く白黒で見分けがつかない。的外れかもしれないが,今回は囲碁を巧みにストーリーの中に盛り込んだ話だと感じる。國村隼と戦う場面だけでなく、最終的に斉藤工と草なぎ剛が碁で対決する場面なども含めて,形勢の有利不利をうまくストーリーの中に盛り込んでいた。

囲碁場面が多いので,題名が出たと思ったら,意外なところで題名の根拠がわかる。これはうまい!


⒉時代劇の典型
毎度同じような題材になるのは仕方ないだろう。それをわかって誰もが見に来ている。今回は仇討ちだ。亡くなった妻は自ら身投げしたわけだが,そのきっかけを作った男(斎藤工)を討つのが今回のテーマである。仇となる武士が弱いと,話が盛り上がらなくなる。相手も剣で相当な力を発揮する。囲碁もうまい。手怖い相手でないと観ていてドキドキしない斎藤工は割とチャライ役をやることも多いが,今回は荒くれ者の役をうまくこなしたと思う。


加えて、市村正親賭け碁の胴元の親玉を演じる。この使い方もうまい。いかにも江戸時代の任侠の男だ。現代時代劇としてはワンランク上の出演者が揃えられた。

⒊走れメロス
太宰治「走れメロス」では,主人公が妹の結婚式を見届けるために3日その場を離れて戻ってくると約束をする。もし戻ってこなかったら、親友の男を殺してもいいと言って、主人公は旅立つのだ。今回は,もし自分が戻って来れなかったら,娘を小泉今日子が主の吉原遊郭の遊女として働かせても良いと言う約束のもとに旅立つ。


小泉今日子に貫禄を感じる。清原果耶は自分が好きだった「青春18×2」で魅力的な主人公を演じた。それに比べると影が薄いが、演技の幅を広げた印象を持つ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「辰巳」 遠藤雄弥

2024-05-16 18:19:01 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「辰巳」 を映画館で観てきました。


映画「辰巳」裏社会に生きる若者の仲間割れを描く現代のヤクザ映画。「ONODA 」小野田少尉を演じた遠藤雄弥が主演の辰巳を演じる。小路紘史監督の作品は初めて、監督自らのオリジナル脚本である。遠藤雄弥とちょい役で出る足立智充以外は知らない俳優ばかりだ。公開して久しいが、ずっと気にはなっていた。低予算の自主映画で感じる陳腐さを心配したが、その懸念は吹き飛んだ。

裏稼業で働く孤独な辰巳(遠藤雄弥)は、ある日元恋人・京子(龜田七海)の殺害現場に遭遇する。一緒にいた京子の妹・葵(森田想)を連れて、命からがら逃げる辰巳。片や、最愛の家族を失い、復讐を誓う葵は、京子殺害の犯人を追う。生意気な葵と反目し合いながらも復讐の旅に同行することになった辰巳は、彼女に協力するうち、ある感情が芽生えていく(作品情報引用)


序盤戦から電圧が体に響くレベルの高い作品となっている。よかった。
で生きるヤクザ集団の話だ。といっても、規模の大きなヤクザ集団の抗争をとり上げるわけではない。傘下組織レベルの男たちが仲間割れして殺しあうのだ。主人公辰巳は殺人があった後の始末が主な仕事だ。

取引する麻薬の数の辻褄が合わず、誰が犯人かと疑心暗鬼になり、巻き添いをくって女性が殺される。一方で殺した男の兄弟が殺された女の妹に殺される。徐々に殺し合いで入り乱れていくのだ。ある意味、辰巳も双方の争いに割をくった形だ。


理屈で動いているような連中ではない。ヤクザではない女も一緒だ。やっていることが全てハチャメチャでまともじゃない。瞬間湯沸かし器のように怒って暴れるアナーキーな連中ばかりだ。その連中を手持ちカメラで追う。臨場感がすごい。

あまり知られていない俳優が揃って低予算だと、軽い映画になって物足りないことが多い。ここではそうならない。俳優にもカネを使っていない上、ロケ地は廃車工場とか、セメント工場とか波止場で、高級車をつぶしたり海外ロケが多い韓国アクション映画のような予算取りではない。

それでもヤクザ役の俳優たちの熱気がすごく、パワー全開である。不自然さを感じさせない演技力で昇華する。演技力小路紘史監督の演出力も効いているのだろう。今回1番の悪役倉本朋幸「仁義なき戦い 広島死闘編」での千葉真一のように凶暴で猛獣性を兼ね備えていた。各俳優にこれをきっかけにメジャーになろうとする上昇志向を感じた。


最後に向けて,新宿歌舞伎町の風林会館近く裏手のごちゃごちゃした路地が映し出されるのに気がついた。あやしいエリアだ。自分も何度か行っている「上海小吃」という中華料理屋がある。気の利いた人が接待をしてくれたこともある店だ。店内がバトルの場面で使われているので驚いた。エンディングロールで「上海小吃」の名前が出てきて間違いないと確信した。よくロケさせてくれたなあ。そのおかげでこの映画の詰めが一層よく見えた
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「鬼平犯科帳 血闘」 松本幸四郎&中村ゆり

2024-05-12 07:55:44 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「鬼平犯科帳 血闘」を映画館で観てきました。


映画「鬼平犯科帳 血闘」は、池波正太郎の原作を映画化した松本幸四郎主演の時代劇。同じく、池波正太郎原作の「藤枝梅安2」のラストで、突如として松本幸四郎が登場し,次回「鬼平犯科帳」が映画化されることがわかった。

鬼平こと長谷川平蔵は実在の人物である。1780年代後半に放火犯や盗賊を取り締まる火付盗賊改方として活躍をした。歴史資料を見て注目したのが池波正太郎である。その原作をもとに松本幸四郎の伯父にあたる中村吉右衛門がテレビシリーズで人気を得た。昨年の「藤枝梅安」がよくこの作品の公開を楽しみにしていた。早速映画館に向かう。

長谷川平蔵(松本幸四郎)が若かりし頃に世話になった居酒屋の娘・おまさ(中村ゆり)が密偵になりたいと申し出て来る。平蔵はその願いを退けるが、おまさは平蔵が芋酒や『加賀や』の主人と盗賊の二つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)を探していることを知り、独断で探索に乗り出す。九平を探すうちに凶賊・網切の甚五郎(北村有起哉)の企みを知ったおまさは首尾よく網切一味の中へ入り込む。しかし、おまさは絶体絶命の危機に陥る。(作品情報 引用)


典型的な時代劇。でも,期待したほどではなかった。
お偉いさんでありながら,普段は民衆の中に入り込み一緒に遊ぶ。大衆的な奉行的人物を日本人は好む。鬼平が登場するとなると,映画館の中の年齢層が一気に上がる。下手すると最年少ではないかと、60代の自分が思う位だ。時代劇なので、娯楽として楽しめれば良い。夜に「火盗」という提灯を下げた男たちが出てチャンバラ劇を演じるのは楽しい。そう思うけど,「藤枝梅安」があまりに良かったので,逆に期待はずれだなあ。


鬼平こと長谷川平蔵がしゃべる言葉が極めてわざとらしいべらんめぇ調で喋ってるつもりだが、不自然だ。松本幸四郎お坊っちゃん育ちで,こんなセリフを話すにはちょっと場違いかもしれない。極悪な盗賊の頭が相手なので,剣の修羅場も多々ある。面倒な相手のところに,鬼平が1人で行くなんておかしいなと思ったり、こんな場面は現実にはありえないだろうな、と思う部分は多々ある。時代劇なので、それは仕方ないだろう。松本幸四郎の剣のさばきは決して悪いわけではない。ミスキャストだとも思わないけれども、響いてこない。

その一方で、中村ゆり,松本穂香,志田未来の3人の女性陣が良かった。特に中村ゆり腰が据わっている。度胸がある。そんな要素を備え、しかもこの美貌である。考えてみると,中村ゆりの近作はほとんど見ている。元々美形だが、40代になり見るたびごとにその魅力を増している。この作品での中村ゆりは特に美しい。銀座の高級クラブのママのような雰囲気と貫禄すら感じる。

自分を「引き込み女」と称する。引き込み女とは盗賊が強奪に入るお店に、事前に使用人として入り込んで盗賊の手助けをする女である。鬼平の若い時から、よく知っている居酒屋の娘おまきと言う女を演じている。おまきは、盗賊の集団に密偵として入る。最終的に危機一髪を鬼平が助ける構図である。


松本穂香,志田未来、いずれも民衆の着物姿が様になっている。しかもかっこいい。一瞬どっちがどっちだかわからなくなる位この2人が似て見える。美しい女性陣3人を見るだけでもいいと思って、映画館に向かうのも悪くないだろう。

CGであるが、江戸の浅草付近を俯瞰的に映すのは良い感じだ。仮に東京スカイツリーが江戸時代にあったらこんな感じに上から見えるだろうとする映像が出る。グルメだった池波正太郎を意識して、居酒屋の芋酒や軍鶏鍋も映す。馬による移動はあるかもしれないが、クルマのない時代にピンチになった鬼平を助けに助っ人がすぐさま到着する光景はありえないと思うけど、娯楽の時代劇だからいいんじゃない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「悪は存在しない」 濱口竜介

2024-05-04 15:47:14 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「悪は存在しない」を映画館で観てきました。


映画「悪は存在しない」濱口竜介監督の新作。ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞しており、前評判が高い。音楽家の石橋英子から即興の音楽に合わせた映像づくりを持ちかけられたようだ。でも、「ドライブマイカー」で名を上げた濱口竜介監督の作品なのに、この上映館数の少なさはどうして?と思ってしまう。出演者に知っている名前がいない。ここまでになるのは珍しい。素人も多いようだ。

長野県の高原地帯の集落で巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)は、自然に囲まれて慎ましく暮らしていた。しかし、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだ。住民説明会で主催者側の男女が計画の説明をするが、運営方法や合併浄化槽の位置などで紛糾する。


芸能事務所の社長やコンサルタントを含めて打合せをして、交渉妥結のための妙案をもって再度住民に会いにいく。


期待したほどまでは引き寄せられなかった。
コロナの補助金目当てで田舎の集落に施設を作ろうとする芸能事務所と地元住民との対峙がテーマである。交渉する芸能事務所の面々にも焦点をあてる。登場人物の描写には時間をかける。最終局面の前におおよそのことがわかってくる。いくらコロナ補助金目当てとはいえ、何でこんな施設をつくるのかな?という疑問が浮上する。でも、それは置いておこう。

最初は集落の人間をマッタリと映す。なんだかよくわからないなあと思っていると、住民説明会の映像になる。最初の見どころだ。施設をつくるにあたってはよくありがちなやりとりが続く。説明側が劣勢だ。あとは劣勢のリカバリーのために、芸能事務所の社長と相談して、住民の中心人物を管理人で雇おうとする案をもって再訪する。でも、事務所側の2人はノっていない。こんな事務所辞めてしまおうと思っている。ある意味最後の仕事だと思って、現地に乗り込むのだ。

主役は高原地帯の集落で生活する親子で住民を中心にストーリーは流れる。ただ,一方的な視点ではなく,反対側の芸能事務所側の人物像にも迫っている。その辺は気配りがされている。最後の仕事だと思って、集落に乗り込んでいった芸能事務所の男が,現地で便利屋的存在の主人公を見習って薪を割るシーンがある。最初はうまくいかない。失敗が続いた後に,コツを学んで薪をスパッと割る。妙にこのシーンには腑が落ちる。


ただ,最後に向けては正直よくわからない。別に映画の意味を求めなくてもいいと思うけれども,何をどう考えているのか?この辺はよくわからない。濱口竜介監督の今までの作品にも訳もわからない行動を起こす登場人物がいた。ここまでよくわからない人物ではなかった。ファンタジータッチにしたかったのか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」 井浦新&杉田雷麟 

2024-03-24 19:38:09 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」映画館で見てきました。


映画「青春ジャック止められるか、俺たちを2」は1983年の若松プロに入ろうと志願した脚本家井上淳一の若き日の成長物語である。自らメガホンを持つ。「福田村事件」でも脚本を書いていた井上は左翼思想を感じさせる男だ。荒井晴彦中心に討論会形式でまとめた本「映画評論家の逆襲」での左巻き発言は、どうも好きになれない。

それなので,今回見ようかどうか迷ったが,若松プロの監督志望の女性を描いた「止められるか、俺たちを」の1作目が良かったので、とりあえず観てみようかという軽い感じで映画館に向かう。最近出番が多い若手の芋生悠の存在も気になる。でも、予想外によかった。

1983年、ピンクの巨匠若松孝二監督(井浦新)が名古屋で自分の作品を上映するシネマスコーレという名の映画館を経営しようとする。ビデオ機器のセールスマンだった木全(東出昌大)が人伝てで紹介されて映画館の支配人に起用される。バイト志望を募ったところ、映画研の女性金本(芋生悠)が入ってきた。名画座として、二本立ての名画を上映しても、客がなかなか入らない。新東宝から名古屋でピンク映画の上映館を探していると言う話を聞きつけ,若松監督は番組編成を変えた。


シネマスコーレに挨拶で来ていた若松監督に向かって河合塾の予備校生の井上(杉田雷麟)が弟子入りを志願する。東京に帰ろうとする若松監督が乗る新幹線に井上が飛び乗り,東京で助監督業をするがうまくいかない。1度は名古屋に帰っていたが、若松監督と和解して監督が頼まれた河合塾のセールスプロモーションの短編映画を大学生になった井上が監督として作品を作ることになる。


久々に笑いころげる映画に出会った。
若松監督のパフォーマンスを巧みに演じた井浦新の演技がむちゃくちゃ面白かった。何度もハラを抱えて笑った

前回も門脇麦演じる女性映画監督の成長物語であった。この映画も同様に予備校生から大学に進学する脚本家井上淳一の成長物語である。左巻きの強い井上の嫌な部分は感じない。在日韓国人の外国人登録のための指紋について言及する場面があるが,さほどいやらしくはない。まだ大学生なのに、助監督を頼まれても、大人の仕事ができるわけがない。ドジを踏んでばかりで、若松監督に怒られる。1度は放り出されるが、また戻され、鍛えられる。でも完全に任せられない。その任せる任せない部分のパフォーマンスが実に面白い。映画館内も笑いの渦となる。


若松孝二も慈善事業で映画館経営をやっている訳ではない。映画館名シネマスコーレは「映画の学校」を意味する。東出昌大演じる映画の支配人が,大林信彦監督作品の3本立てのような普通の映画の名画座としようとするが,それでは儲からない。若松監督はピンク映画を中心の上映に染めようとするのだ。客の入りは、ピンク映画と普通の映画では全く違う。それでも支配人は普通に戻そうとする。この辺の映画館の上映事情が語られている。


固有名詞が実際の名前で呼ばれる映画である。河合塾もその通りの名前で出てくる。結局,監督志望の井上が作った脚本は,偏差値30の女の子が予備校で頑張って、東大に入ろうとする話である。演技指導を井上監督に任せているはずなのに、見ていると、若松監督が口出しをしてくる。仕方ないだろう。ただ,若松監督のパフォーマンスにあまりに理不尽な話が多すぎるので、笑えてしまうのだ。



理屈っぽい井上監督の自戒のような言葉が,井浦新演じる若松監督のセリフによって語られる。人の映画を批判してばかりとか、結局監督でモノにならず、脚本家になろうとしたけど、うまくいかなかったとか、井上監督を評価するそんな話が出てくる。「映画は言葉でなく映像で語れ」とか。「理屈は映像では伝わらない」など若松監督語録の気になる言葉が随分と多い映画だった。

新宿ゴールデン街でばったりあったということで,若松監督が赤塚不二夫を出演させようとしてどこかに出番はないかと電報を持ってくる郵便局員役で登場させる。それがモデルになった映画の実際の映像として、エンディングロールのところで本物の赤塚不二雄が出てきたときには、さすがに感動した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「ゴールドボーイ」岡田将生&羽村仁成

2024-03-10 16:13:32 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ゴールドボーイ」を映画館で観てきました。


映画「ゴールドボーイ」岡田将生主演のクライムサスペンス映画で、金子修介監督がメガホンをもつ。「ばかもの」から金子監督とは相性は悪くない。最近辛気臭い映画が多く、急に鑑賞ペースが落ちてしまう。中国人作家による原作の映画化という割には評価は悪くない。娯楽作品を観てみるかという感覚で選択する。

岬の先の絶壁の上で記念写真を撮っている夫婦と義理の息子東昇(岡田将生)がいる。結婚のプロポーズをした記念の場所を見るためにきた3人だが,写真を撮った後突如として息子が両親を崖から突き落とす。警察に電話をして,父親が意識が朦朧となり妻を引っ張るように崖から落ちたと義理の息子が証言した。

犯人が最初にわかってしまう展開だ。でも、単純ではない。遠く離れた浜辺に2人の少年と少女がいて、浜辺で記念撮影をしていた。ところが撮った動画に崖から夫婦を突き落とす証拠映像が映っていた。

崖から落ちた主人は沖縄でも有名な企業グループの東オーナーだった。TVニュースで報道されているのを確認した3人はこの義理の息子から金を奪いとることを思いつく。


展開のテンポがよく,最後まで楽しめるサスペンスだ。
人間関係は複雑にもかかわらず,わかりにくくはない。脚本港岳彦のうまさであろう。ネタバレサイトは見ずに映画館に行くのが望ましい。自分も一定以上の話はしない。中国人作家による原作があるとはいえ、今回海の匂いを感じる沖縄を舞台にしたのは正解だったと思う。

岡田将生が主演でクレジットトップであるが,実質的には安室少年(羽村仁成)が主人公である。gold boyも少年のことだ。脅されている岡田のほうも妻から離婚を申し出されている事情がある。夫婦関係は冷え切っていた。


一方で少年は父親(北村一輝)と母親(黒木華)が離婚をしていた。その後妻と少年との関係が悪かった。浜辺で少年と一緒にいた先輩浩は母親のつれ子夏生(星乃あんな)と一緒にいるが,その家庭も複雑だった。

息つく間もなく次から次に殺人事件が起きていく。オー!こうくるかと思う場面も多い。主人公の少年は中学から高校受験の時期に既に微分方程式を解いてしまう数学的能力を持っている設定だ。悪知恵を次から次に実現させていく。


沖縄県警の刑事役を江口洋介が演じる。殺された夫婦やその娘とは親戚関係にある。謎解きとして鋭い能力を持った刑事ではない。ただここで警察としての江口洋介の存在がなければ,話がおかしくなる。悪役としての岡田将生の存在もいい感じだ。一緒に悪さをはたらく少女星乃あんな存在感がある。この年齢で殺人に絡む演技は容易ではない。将来の有望株の登場である。

おもしろかったが、それなりに欠点もある。音楽が弱かったのが残念。挿入曲として、マーラー5番の名フレーズを使った。でも、日本映画でこれを使ってうまくいった試しがない。倖田來未のエンディング曲はいい。どんでん返しが続いたあと最後に向けてはどう決着させるのかと思ったが,帳尻を合わせた感じだ。こうなるかなあ?と思いながら,最後の場面を追っていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「夜明けのすべて」 松村北斗&上白石萌音&三宅唱

2024-02-18 08:22:04 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「夜明けのすべて」を映画館で観てきました。


映画「夜明けのすべて」は、「ケイコ目を澄ませて」で映画界の各種賞を総なめした三宅唱監督瀬尾まいこの原作を映画化した作品である。病気系の話で暗いかなと思ったけど、妙に評判のいい映画で気になってしまう。軽い障がいを持った役柄を演じる主演の2人は松村北斗と上白石萌音である。上白石萌音の顔を見て、主演作を観るのは吹替えの「君の名は」はあっても「舞妓はレディ」以来10年ぶりだということに気づく。光石研、渋川清彦、最近注目の若手芋生悠といったメンバーが脇を固める。

月に一度、PMS(月経前症候群)イライラが抑えられなくなる藤沢(上白石萌音)は新卒で入社した会社を発作によるトラブルで辞めた。結局子ども向けの理科実験道具などの科学グッズをつくる栗田科学で商品管理をする。転職で入社してきた山添(松村北斗)が周囲に挨拶もせずに炭酸水をガブガブ飲むのを見て、いつものように必要以上に癇癪を起こしてしまう。

注意された山添もまたパニック障害を抱えていて、定期的に通院していた。恋人(芋生悠)がいるにもかかわらず、電車にも乗れない状況になっていた。最初はぎくしゃくしていた2人の関係も,病気持ちはお互い様と面倒見の良い藤沢から接近して,お互いのアパートへ訪れるようにもなる。栗田社長(光石研)をはじめとした職場の人たちも2人の病気を理解して、移動プラネタリウムのプロジェクトに取り組んでいる。


柔らかいムードが流れる障がいを持った人の成長物語だ。
2人の障がいの発作を示すシーンはあっても,血生臭い暴力シーンは一切ない。ベタベタした恋愛シーンや濡れ場もない。不快に思うシーンはない。2人が周囲の理解のもと徐々に自らの障がいを克服していく姿が映される。恋愛か友情かのようなコメントも目立つけど,そんな事は言ってられない事情が2人にはある。いかにも文化庁からの支援を受けている映画らしい健全さが売りだ。カーネギーの「人を動かす」の実例みたいな逸話も多い。

PMSという障がいがあることを人生で初めて知った。毎月1度の生理に付き合わざるを得ない女性は誰もが知っているのかもしれない。若い頃、私は生理がキツイと言ってピルを飲んでいる女の子と付き合ったことがある。こちらはラッキーと思っていたが、もしかしてPMSだったのか?確かに癇癪持ちだった。

主人公藤沢は普段はおせっかいで,周囲に気を使いすぎる位の女性である。ところが発作を起こすと,二重人格のように豹変する。周囲に起きるちょっとむかついたことにあからさまに憤慨するのだ。新卒で勤めた会社でも,先輩社員のコピー機の扱いに尋常じゃない怒りを表して周囲をびっくりさせる。自分でも気がついて薬を飲むと睡眠薬の効果が強く寝過ごしてしまう。ある意味不器用だ。

上白石萌音二重人格的な藤沢のパフォーマンスを巧みに演じた。藤沢の山添のアパートに乗り込んでいく積極性は単なるおせっかいだけではなく恋愛の要素が全然なかったとは言えないと感じる。積極的な女の子の一面を持つ。


パニック障害はよく聞くが,具体的な症状については知らない。電車に乗れない位の状況になっているとは思わない。2年前にラーメンを食べているときに突然発作を起こしてから、前の会社も辞めた。映画では, 会社内で薬をなくしてパニックを起こす山添のシーンがある。もともと転職した仕事に関心を持っているわけではなかった。やる気なく働いていた。ところが,病名は違っても障がいを持つ仲間として藤沢と接しているうちにお互いのことを思いやる気持ちが芽生えてきた。

PMS障害を起こしそうになった藤沢を会社の外に連れて行って,深呼吸をさせたり、体調の悪い藤沢の家まで届け物をしたり気配りもできるようになった。脳の中の配線がつながったような変貌を見せるようになる。会社のプロジェクトにも積極的に参画するようになる。パニック障害になった山添の症状が大幅に改善して成長している。普段はモテモテの松村北斗も好演である。髪を切られるシーンが笑える。


脇を固める光石研や渋川清彦の役も心に闇を抱えている。親族をなくして精神的に参っている人たちのサークルに2人とも入っている。そこで自分の悩みを語り合うのだ。この映画ではその部分についての深いツッコミはなかったが,そのシーンがあるだけに障がいを持つ2人を支えていく姿がよくわかる。それにしても、光石研は適役だ。最近はキャノンのCMで課長役を演じているけど、誰もが好感を持つと思われる笑顔が素晴らしい


原作と違う仕事の内容にして、移動プラネタリウムを題材にするのは三宅唱監督としては会心の出来だったに違いない。上白石萌音の朗読も良かった。藤沢が母親の介護のために転職しようとリクルーターと会っている場面など,現代若者事情もよくわかるように映画に盛り込まれている感じがした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「罪と悪」 高良健吾

2024-02-15 19:44:11 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「罪と悪」を映画館で観てきました。


映画「罪と悪」は数々の作品で助監督をつとめてきた齊藤勇起監督のオリジナルの脚本による初長編作品だ。クリントイーストウッド「ミスティックリバー」を思わせる3人の主人公を取り巻く物語というコメントが目につく。後味は最高にわるい作品だけど心に残る。それなので公開以来「罪と悪」が気になっていた。田舎町の3人の中学生が犯した罪と20年の月日を経た現代の3人の動静を描くクライムサスペンス映画である。

20年前、14歳の少年正樹の遺体が川ぺりの橋の下で発見された。中学のサッカー部員仲間の春・晃・朔は、正樹を殺した犯人と確信した男の家に押しかける。もみ合いの末、男は3人によって殺され家は燃やされる。1人が犯人だと名乗りでる。


刑事になった晃(大東駿介)は父の死をきっかけに地元に戻り、農業を営む朔(石田卓也)と再会する。朔は引きこもりになった双子の兄弟と暮らしていた。晃が捜査中に出くわしたある少年の死体が橋の下で見つかる。少年は半グレ集団の仲間の1人だった。晃は少年の殺害事件の捜査をするために、怪しい世界に生きる昔の仲間春(高良健吾)の事務所を訪れる。


クライムサスペンスとしてはまあまあの出来
20年前中学生の時に仲良し4人組の1人が殺されて、こいつが犯人だという不穏な老人を仲間3人で殺してしまう。でも、罪は高良健吾演じる春が1人でかぶって少年院に行く。20年の月日が流れて決着がついていると思わせるが、そうではなかった。現在春がからんでいる裏仕事にからめてストーリーが展開する。高良健吾がメインだ。

20年前の殺人と現在起きている事件の関わりだけに焦点を合わせるだけでない。現代風ヤクザ半グレ映画のようにもアレンジする。いったん罪をかぶった春が、若者を集めて、半グレ集団のように生きている。親分の貫禄もある。コンビニもやれば、土木工事の下請けもやるし、夜の酒場でクラブも経営する。こんな奴は身近にいそうだ。以前はヤクザがしのぎでやっていたことを引き受ける奴らだ。スーツを着て一見はパリッとしているように見える本物のヤクザ集団との争いもストーリーに組み込む。


登場人物を昔のヤクザ映画のような「いかにも」の風貌とせず、現代風ワルっぽくする。暴対法がうるさいので、社会の中に潜んでいるワルはこんな奴らか。いずれも実生活で絡みたくない奴らだ。刑事役も登場するが、裏社会の問題は警察に頼らず裏社会で解決する構図だ。佐藤浩市は普通の老人ぽいヤクザの真の親玉で、椎名桔平は悪と通じている菅原文太「県警対組織暴力」で演じたような警察官だ。村上淳は現代風スーツ姿のヤクザだ。


ただ、高良健吾以外は一時的に登場する佐藤浩市と椎名桔平を除いては見慣れた俳優がいない。そのためか、20年前と現代それぞれに登場人物が多く、この顔誰だっけかとアタマの整理がつきづらい面はあった。

最後に向けて、監督が予想外の結果を導き出そうとしたどんでん返しもある。自分の理解度の問題もあるだろうが、正直なところ真相もネタバレサイトを見て納得した次第。確かに色んなシーンで伏線を張っていてそれを回収している。決して悪くはないが、もう一歩複雑にさせすぎない工夫が必要な印象を受ける。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「カラオケ行こ!」綾野剛&山下敦弘

2024-01-19 17:17:36 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「カラオケ行こ!」を映画館で観てきました。


映画「カラオケ行こ!」は山下敦弘監督綾野剛とコンビを組んだコメディ映画である。和山やまの漫画が原作でカラオケが上手くなるために、ヤクザが合唱部部長の中学生に指導を受ける話である。昨年末の荒井晴彦監督「花腐し」のラストで主演の綾野剛がさとうほなみとあまり上手くないカラオケを披露した。今だに歌声が耳に焼きついている。昨年、山下敦弘監督は台湾映画のリメイク「1秒先の彼女」のメガホンを持った。自分的には相性が良い映画だった。このコンビが組めばなんとかなるだろうと映画館に向かう。

大阪の中学で合唱部部長の岡聡実(齋藤潤)は合唱コンクールの会場でヤクザの成田狂児(綾野剛)に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者への罰ゲームを回避するためだ。変声期に入ってスランプ気味の聡実が狂児やヤクザ仲間のレッスンに付き合ううちに奇妙な友情が生まれてくる。狂児の勝負曲はX JAPANの「紅」だ。

ヤクザの存在が関わっても、実はシンプルな青春コメディだ。
軽めの役を受けもった綾野剛がノッてる。中学生との絡みがおもしろい。


序盤に軽い沈滞部分があっても、途中からエンジンがかかる。裏社会がからむと映画の舞台設定が大阪になってしまうことが多い。でも、その大阪のヤクザがいかにも裏社会的な犯罪行為に走る映画ではない。ヤクザたちが一瞬恫喝的に突っ張っても、音痴を克服するテーマなのでストーリーが笑いの世界に入っていく。中学生がカラオケ屋でヤクザの歌を一言で評価をする場面が実に楽しい。一方で、純朴な中学生たちの合唱部青春物語を並行する。スレていない。それだけにまとまりがつく。エロ系の描写や激しい流血シーンなどはなく,中学生でも安心して見れる映画になっている。


エンディングの曲に背筋がゾクッとした。女性ボーカルグループLittle Glee Monsterの「虹」だ。これが抜群に良かった。みずみずしい歌声が心に響く。観客の誰もが席をたたなかった。自分と同じような気分になったのであろう。そして、エンディングロールの最後に改めて綾野剛が登場する。

⒈綾野剛
ずいぶんと綾野剛の映画を観ているけど、悪徳警官やヤクザ、半グレの役が多い。どれもこれも激しい格闘シーンがあるから肉体的にはたいへんだ。今回ヤクザ役と言ってもこの映画には立ち回りはほとんどない。いつもより楽だったんじゃないかな?中学生との掛け合いトークが楽しそうだ。大阪弁のセリフにキレがある。ぼそぼそ話をしていた「花腐し」とは大違いだ。この役柄にノッてる感じがした。

「花腐し」の最後で山口百恵「さよならの向こう側」を歌う時にはびっくりした。率直にあまりうまくないと思ったが今回はその流れを引きずっている。ひたすらX JAPANの曲にこだわっていても,中学生からこの曲を歌ったほうがいいんじゃないかとリストを用意される。そこで実際に「ルビーの指環」などのリストの曲を歌ってしまうシーンも目線を下げていい感じだ。


⒉山下敦弘
数多い山下敦弘監督の作品でも函館が舞台の「オーバーフェンス」と大阪ミナミで撮った「味園ユニバース」の2つが1番好きだ。「味園ユニバース」はまさに大阪千日前を舞台にした作品で,歌と大阪弁が前面に出てくる。大阪芸大出身の山下敦弘だけに大阪弁を駆使した映画はのれるのかもしれない。毎回コミカルなテイストを組み込むのが得意だ。

改めて素性を確認したら,山下敦弘は愛知県出身,綾野剛は岐阜県出身でいずれも中部エリア出身で関西人ではない。しかも,エンディングロールで今回のロケ地を確認したら,どうも千葉中心の関東のようだ。合唱団も府中となっていた。よくもまぁこんな大阪テイストの映画が撮れたものだ。妙に感心した。

中学生の主人公は映画クラブの同級生と一緒に「カサブランカ」を観ている。
まさにハンフリーボガード「君の瞳に乾杯」の場面だ。山下敦弘の趣味だろうか?


⒊そして自分
先日協力会社の人たちと浅草寺に参拝に行った。隅田川のほとりで会食した後,映画「PERFECT DAYS」でも出てくる東武浅草駅そばで一杯休憩をしつつ,「花腐し」にも出てくる四谷荒木町で飲もうかと迷い,結局銀座に突入した。ホステスとデュエットしたりジルバ踊ったりやり放題だったが、「花腐し」を観た昨年末から「さよならの向こう側」の曲フレーズが耳について離れない。練習中だけどなかなか思い通りにいかない。綾野剛がうまく歌えないとは偉そうに言える立場ではない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする