映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「本心」池松壮亮&田中裕子&三吉彩花

2024-11-14 20:01:55 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「本心」を映画館で観てきました。


映画「本心」平野啓一郎の同名小説を石井裕也監督が脚本映画化した作品だ。原作は未読。近未来の日本を舞台に、仮想空間で人間を作る技術で亡くなった人と触れ合える話が基調である。未来モノは苦手なジャンルだけど、石井裕也監督の新作でもあり母親との交情の映像が気になりのぞいてみることにする。

朔也(池松壮亮)は母(田中裕子)と2人暮らし。ある日、豪雨で氾濫した川に吸い込まれる母を助けようと飛び込む。しかし、目覚めると1年もの時間が過ぎていた。母は自ら命を絶つことが可能「自由死」という選択をしていた。飛び込む寸前に「大事な話があるの」と電話で伝えていた母が死を選んだ本心が知りたかった。

職のない朔也は他人の分身となって要望を遂行する「リアル・アバター」と呼ばれる仕事に就く。生前のパーソナルデータをAIに集約させ、仮想空間上に“人間”を作る技術VF(ヴァーチャル・フィギュア)を開発している野崎(妻夫木聡)と会う。

「本物以上のお母様を作れます」と聞き、VF制作に伴うデータ収集のため母の親友だった三好(三吉彩花)に接触する。朔也はVFゴーグルを装着すればいつでも母親に会えるようになる。三好と同居生活を送るが、「リアルアバター」のバイトでは面倒な依頼を受けるようになっていた。



あまりなじめない作品だった。
近未来という設定だが、ロケ中心で風景は現在とたいして変わらない。走っているクルマも普通の車だし、主人公の家も別に未来仕様でない。池松壮亮も三吉彩花も近未来のVFゴーグルをつけている以外は現代と同じだ。母親との心の触れ合いという点が残念ながら薄すぎて情感を生まない田中裕子を効果的に使っていない。


設定だけは近未来なので、工場がロボットで全自動化されて従業員がリストラされている。職がない人も多い。もともと主人公朔也は過去に傷害事件を起こしていて履歴では採用されない。川の側に与太者がたむろっていて、そのツテで「リアルアバター」となって、依頼者の言う通りに職務を遂行する。殺せなど犯罪や暴力も要求させるのだ。近未来には職がなくこの仕事をするしかないという設定だ。

でも、この近未来設定は意味がよくわからないことだらけだ。それだけに調子が狂う。依頼者が妙に高圧的だ。アバターの向こうから無理難題を言いつける。AI評価のクチコミにバッテンがついたらクビだ。まったく理不尽な話だけど、人手不足の現代からするとどうにも不自然だし、日本の人口が減る近未来に人手不足解消はないでしょう。直近でも「カスハラ」対策が強化されていることからすると、依頼主のコンプライアンスは強く要求されるだろうからこの映画の設定は近未来ではありえないと感じる。ピントがずれている。


話は戸惑うことだらけだ。前半は眠気も襲った。
近未来の映画はもっとそれらしくして欲しい。石井裕也監督も前作「愛にイナズマ」も良かったし、ここ3作続いた自分に合う作品とそうでないのと落差があるけど今回は残念。

ただ、今回良かったのは三吉彩花だ。「先生の白い嘘」ではオッパイをもまれていた。でも、ブラジャーどまり。思い切って乳房を見せてくれればと思っていたら、ここでは大サービスだ。ボリュームたっぷりの乳房横から乳首も見える。段階を経て次は正面になってもらえるとまた観に行く。
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映画「まる」堂本剛&荻上直子

2024-10-23 06:36:53 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「まる」を映画館で観てきました。


映画「まる」荻上直子監督の新作、KinKi Kidsの堂本剛が現代美術のアーティストの役柄を演じる。綾野剛、吉岡里帆、柄本明に加えて荻上直子作品常連の小林聡美が脇を固める。意図せずに一気に有名人になってしまった絵描きの男が世間の大騒ぎに戸惑うストーリーだ。何気に興味をそそる。

荻上直子監督の近作「川っぺりムコリッタ」は監督らしいほんわかムードで、「波紋」新興宗教にハマる女性に失踪した夫が帰ってくる人間ドラマであった。いずれもそれなりのレベルだがパンチが弱い印象を受けた。それでも直近公開作のラインナップからいくと、荻上直子作品が優先順位で上になる。

美大を卒業したもののアートで成功できず、人気現代美術家のアシスタントとして働く沢田(堂本剛)。独立する気力さえも失い、言われたことを淡々とこなすだけの日々を過ごしていた。そんなある日、彼は通勤途中の雨の坂道で自転車事故に遭い、右腕にケガをしたために職を失ってしまう。

部屋に帰ると、床には1匹の蟻がいた。その蟻に導かれるように描いた◯(まる)が知らぬ間にSNSで拡散され、彼は正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名人に。社会現象を巻き起こして誰もが知る存在となる「さわだ」だったが、徐々に◯にとらわれ始め……。(作品情報 引用)

自分の肌に合う心地よく観れる映画だった。
荻上直子監督の前2作よりはよく見えた。映画の中の堂本剛のキャラが好きだ。エンディングの歌が心を柔らかく包んでくれるのもいい感じだ。直近ではお気に入りの作品だ。

上昇志向のない主人公で、本来才能があるのに現代美術家のアシスタントに甘んじている。師事している美術家(吉田鋼太郎)にいいとこ取りされて、同僚の女性アシスタント(吉岡里帆)の方が上に搾取されていると言って腹を立てている。ところが、自転車事故で腕をケガして事務所をクビになってしまうのだ。


失意のまま、池のある公園で円周率3.14の桁下数字を唱える正体不明の老人(柄本明)からパンの真ん中をちぎってできた◯を見せられる。ボロい賃貸の部屋に帰って何気なく◯を描いてサワダの名前をサインしたものを古道具屋に持ち込む。しばらくして、それがいつの間にか世間で絶賛されていくのに気づくのだ。


堂本剛演じる沢田は特に自己主張しない男だ。アシスタントをクビになってから淡々とコンビニでバイトをする。有名になっても継続する。日本語がたどたどしく若者にからかわれるミャンマー出身の店員(森崎ウィン)といい掛け合いを見せる。隣の部屋には売れない漫画家(綾野剛)がいてやたらとちょっかいを出してくる。沢田はテンション高く一方的に話す漫画家の言葉を遮らず聞いている。イヤイヤながら外で付き合わされることもある。美術家の女性アシスタント(吉岡里帆)は口びるにピアスをして、搾取反対と町で集会を開く。沢田はただ見ているだけだ。


意味不明なキザな男が自宅に尋ねてきて◯の作品を書いてくれたら一枚につき100万支払うといい沢田は驚く。ある時、◯を描いた作品を画廊のギャラリーで発見する。声をかけると画廊の主人(小林聡美)が本人と知り驚いて、ギャラリーの個展のために描いてくれと依頼される。


黙々と作品を描いていく沢田(堂本剛)の傍に個性的な脇役を揃える。独特のキャラクターをもたせてこの映画をよりおもしろくさせる。荻上直子監督の俳優の使い方の上手さを感じる。彼女の作品にはいつも名優が集まる。

主人公の住処も含めて横浜がロケ地だとすぐわかる。宮川橋付近の福富町から宮川町あたりのディープゾーンが映る。画廊のロケ地は銀座のようだ。謎の老人がいる茶室の丸い障子や路地にチョークで書いた◯とかあらゆるところに◯を意識するところもいい。現代美術は比較的苦手なジャンルだけど、どの作品もよく見えた。


エンディングロールの堂本剛の歌はなかなかいい。カラオケではかなりKinKi Kidsの硝子の少年を女の子とデュエットで歌ったものだ。クレジットに片桐はいりの名前を見て、アレ?いたっけと思い作品情報を見たら、古道具屋のオヤジ役だったのだ。そうだったんだ。
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映画「若き見知らぬ者たち」 磯村勇斗&岸井ゆきの&福山翔大

2024-10-14 05:52:26 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「若き見知らぬ者たち」を映画館で観てきました。

映画「若き見知らぬ者たち」は「佐々木インマイン」の内山拓也の監督脚本作品である。直近の日本映画を引っ張る若手の磯村勇斗が主演で岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太が脇を固める。磯村勇斗と岸井ゆきのの共演というだけでそれなりのレベルを期待して事前情報なく映画館に向かう。

資金がなく貧相な映画になってしまうことが多い日本映画としてはフランス、香港、韓国の資本が入っているというのは良いこと。それでも、テーマは貧困、脳に障がいをもった母親の介護といった直近の日本映画に多い貧乏くさい内容が中心だ。

映画が始まり、3人の若者と母親らしき4人が出てくるが、それぞれの関係がよくわからないまま映画は進む。どうも母親(霧島れいか)は障がいを持っているようだ。まともに食事もままならない。次男(福山翔大)はトレーニングに励んでいる。食卓で食事をだす女性(岸井ゆきの)が誰なのかと思ったら長男(磯村勇斗)とメイクラブする。女性は看護師のようだ。長男はどこからかの督促状を持っている。金銭的に楽でなさそうだ。結局、説明的な進み方をしないで、時間をかけて個人間の関係がわかっていくようになる。

ここで作品情報を引用する。

風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父(豊原功補)の借金を返済し、難病を患う母・麻美(霧島れいか)の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたスナックで働いている。彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、同じく借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として、日々練習に明け暮れている。息の詰まるような生活に蝕まれながらも、彩人は恋人・日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えていた。(作品情報 引用)


途中から意外な展開を見せた後で思わぬ見せ場をつくる。
最近の日本映画得意の貧困ストーリーに介護まで加わるだけの話かと思ったら、主人公を一気に奈落の底まで落とす。これには驚く。苦難の道に陥るだけでない。ネタバレなのであとで語る。

それと、総合格闘技の選手という設定の次男の金網ファイトシーンがある。「これって本気じゃない」と思ってしまうほどのマジファイトとは想像していなかった。殴っているのは本気に見えるので驚く。どうも福山翔大は格闘技の練習をしたらしい。


「ドライブマイカー」の浮気した妻役で好演した霧島れいかが母親役だと最初は気づかなかった。食事している時から調味料を異常に混ぜたり、スーパーで万引きしたり、ぐちゃぐちゃにしたり、畑を荒らしたりするまさに要介護の母親だ。せっかくスナックを始めたのに、浪費でカネを使い果たした元警察官の夫に呆れかえっているうちに心を病んだのであろうか?はっきりと映画内で語っていないけど、母親に存在感をもたせる。


(ネタバレありなのでここから注意)
それにしても、主役(磯村勇斗)が途中で亡くなってしまうのにはビックリする。親友の結婚パーティに行く予定で、店を閉めようとしたら酔っぱらい3人が入ってきて強引に店で飲んでしまい、暴行を受けたあとで外で引きづり回された上に、痛めつけられてしまう。警察が来てストップするけど結局やられた主人公を連行するなんて強引な設定だと感じる。

実はこのあとツッコミどころ満載だ。
⒈閉店と言っているのに酔客を断りきれないという設定がそもそもそんなことあるのかな?店で暴れてケガをしているのに外へ飲みに連れ回すなんてことあるかしら?

⒉外で暴行を受けていて、警察が見つけて尋問する。結局倒れている方が連行されるけど、普通は争っている全員の素性を確認するために、現場に来た警察は全員の免許証(身分証明書)を確認して警察署に問い合わせて前科も含めた素性を確認するはずだ。結局暴行した連中が誰かはわかる。警官2人が主人公の死でうやむやにしようとする設定としてもおかしいんじゃない。

⒊結局主人公が亡くなって、葬儀が終わった後に親友だった染谷将太がスナックに行って歌うシーンがある。そもそもスナックが死んだその日のままなのもおかしいし、スナックには主人公が殴られて血が出ている跡もある。いくら何でもこれに気づかないのは変じゃない?それで捜査を再開するように訴えてもおかしくないし、今は防犯カメラもあって暴行した人間を追跡もできる。これは神奈川県警をバカにしているシーンだ。

4.父親が亡くなっているのは主人公が子供の時だ。今主人公が経営しているけど、その間どうしていたの?誰かスナックやる人がいないとおかしいよね。妻がやるようには見えない。しかも、父親の借金こんな長い間飛ばないでできるのかしら?自宅も一戸建てに住んでいるし?督促状は何?不思議?

あんまり疑問点ばかり言っても仕方ない。監督がまだ若くて仕方ないだろう。
出演者それぞれの演技自体は悪くないし、霧島れいかと福山翔大には敢闘賞をあげたい。今回の岸井ゆきのは見せ場がなかった。
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映画「本を綴る」

2024-10-06 21:49:13 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「本を綴る」を映画館で観てきました。


映画「本を綴る」は本屋が日本から次々となくなっていることに寂しさを感じる作家が栃木、京都、香川と町の本屋をまわる話である。ロードムービー的に各地で新しい出会いがある。監督はベテラン篠原哲雄で、脇役での登場が多いメンバーで構成されるまさにインディーズ系の映画だ。

破壊的な場面が多そうな映画とか今週の新作はのれそうにない新作が揃い、この映画を選択する。ヤクザ映画の殿堂だった跡地にある映画館では、東京で一館のみの公開で満席だった。年間本200冊読了が個人目標で今年はすでに達成している自分には本屋の話は親しみがもてる。

小説が書けなくなった作家一ノ関(矢柴俊博)は、全国の本屋を巡りながら本の書評や本屋のコラムを書くことを生業にしている。一ノ関にはベストセラーがあるが現在新作が書けていない。

那須の図書館でのイベントで講師となった一ノ関は図書館司書の石野(宮本真希)とともに森の中にある小さな本屋を訪れる。古書を探している時に、本に挟まった恋文を発見する。宛先は京都だ。送付先に届けるために京都へ向かう。


京都には学生時代の友人が書店の店長をやっていた。人伝に恋文の送付先の消息をたどると、本人は亡くなっていた。それでも孫娘花(遠藤久美子)が錦市場の近くで小料理屋をやっていることがわかり立ち寄る。花には婚約者がいたが、香川で人助けで溺れて亡くなっていた。香川に一度行ってみたらどうかと花を誘い出す。書店訪問で向かった香川で再会して花とともに婚約者の墓参りに向かう。

本屋愛に満ち溢れる心温まる快作である。
人気俳優がいない配役だ。それが公開館が少ない理由だろう。主役の矢柴俊博の出演作は観たことある作品が多いけど記憶にない。傑作という映画ではない。末梢神経を刺激するようなシーンもない。でも、本と書店に対する愛情がにじみ出ていてムードがあたたかい。好感がもてる。

古本に挟まっていた恋文を持参する話、作家の主人公が以前本で書いた廃村にかかわる人物を探す話などを書店巡礼にあわせて混ぜ合わせてストーリーの基調とする。主人公一ノ関はダム建設のために廃村になった町のことを書いてベストセラーとなったが、その村の住人からクレームを受けて新しい小説が書けなくなった。そんな挫折自体は驚くような話ではないが、うまく絡めた印象をもつ。

主人公が巡る各地の風景は建物も含めて十分目の保養になる。ロードムービー特有の楽しみだ。那須塩原市図書館みるるは広がりのある空間と階段のあるフロアに特徴がある良くできている設計だ。京都では廃線跡と思しき線路を歩く。香川県観音寺では今まで見たことのない海を見渡す絶景の場所にある高屋神社や海岸線に沈む夕陽の美しさが堪能できる。高屋神社は特にすばらしい。


⒈町の本屋への思い入れ
いきなり閉店した本屋の前で立ち止まる主人公の姿が映る。町の本屋の経営がきびしいのも時代の流れだろう。ものすごい勢いで本屋がなくなっている。残念だ。ネット販売で購入することも多いけど、本屋で実際に立ち読みしないとムダな本を購入してしまう。そういった意味では本屋がないのは困る。自分の主戦場は神保町の東京堂書店、新宿のブックファーストと紀伊國屋、池袋のジュンク堂だ。本屋は書店員の目利きが重要で、平置き本でそのセンスがわかる。

那須の本屋はこんな場所に来る人がいるのかな?という場所にある。京都や高松でも本屋を紹介する。なくなった本屋の本を引き取りミニバンで運んで販売するのも映し出す。


⒉京都の小料理屋の女将
この主人公が世帯持ちなのかどうかの言及はない。栃木、京都、高松それぞれの場所で美女に遭遇する。主役の矢柴俊博も気分よく仕事ができただろう。那須の図書館司書は宮本真希で、25年前に深作欣二監督作品「おもちゃ」に出演した時に観ている。歳はとったがより魅力的になった。

京都で古本の中に挟まった手紙の持ち主に会おうとして、結局亡くなっていて孫娘に会う。遠藤久美子が演じる。以前は出番も多かった。それにしても長らく映画を観ていて、小料理屋の女将役でこんなに素敵な女性を見たことがない。センスの良い着物で接客する姿がいい。建物も素敵だ。こんな店近くにあったら多少高くても通うだろうなあ。


エンディングロールで歌声が聴こえる。聴いたことある声だ。アスカだなと思ったけど自信がない。その直後にクレジットにASKAとあり感動する。色々と問題も起こしたが、健在ぶりがわかってうれしい。
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映画「Cloud クラウド」 菅田将暉&黒沢清

2024-10-01 06:42:58 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「Cloud クラウド」を映画館で観てきました。


映画「Cloud クラウド」黒沢清監督菅田将暉と組んだサスペンスタッチの新作である。菅田将暉だけでなく、共演者の窪田正孝、古川琴音、岡山天音、奥平大平など最近の映画でいずれも主演を張る豪華メンバーだ。正直言って、黒沢清監督の最近の「スパイの妻」「蛇の道」はいずれも自分にはイマイチな作品だった。本作は題材が転売ヤーというネット社会でやりやすくなった商売をクローズアップするので気になる。

吉井(菅田将暉)は町工場に勤めるかたわら「転売ヤー」として格安で仕入れた物品をネットでさばいて利ざやを得ている。工場主(荒川)から職場リーダーへの昇進を打診されたり、転売屋の先輩村岡(窪田正孝)からの共同事業の申出をいずれも断る。感情を押し殺すクールな男だ。転売に専念するために恋人の秋子(古川琴音)と田舎の湖の辺りにある家に移り住む。ただ、その頃から何かに追われる感覚に襲われるようになる。


移転先の事務所で従業員として佐野(奥平大兼)を雇い仕事を始めた矢先、寝ている時何者から家に物を投げつけられる嫌がらせを受ける。警察署に届けに行くと、逆にニセブランドを販売しているのではとのタレコミがあると聞き慌てる。ネット上SNSでは悪いコメントが増えてきていた。ニセブランド品を再転売したことで被害を受けたネットカフェ住民の三宅(岡山天音)などの被害者たちがお互いの素性がわからないままにネットで共闘する動きも出てくる。そして、実行犯が徒党を組んで吉井の棲家に乗り込んでいく。


これまでの黒沢清作品よりもおもしろく観れた。
恐怖の醸し出し方が巧みである。前半から中盤にかけて何度ものけぞった。


菅田将暉演じる主人公は現実にいそうな人物である。「安く仕入れて、高く売り、利ザヤを取る商行為」は何も悪いことではない。ただ、ニセブランド商品などを販売すると犯罪だ。そこにはコンプライアンス上の一線が引かれているのに、吉井は割と安易で買い側からクレームが出てくるわけだ。

吉井の身の回りで不審なことが起き始める。誰もが吉井を狙っている。そんな状況をスリラー的に見せてくれる。うらみからなる誹謗中傷がネットを通して増幅し、集団が狂気の状態だ。破壊集団へと姿を変え暴走するのだ。ネット社会の恐怖である。次第に吉井は追い詰められる。

窪田正孝や岡山天音は直近で演じている異常人物のテイストを取り入れてこの映画の役柄に没頭した。古川琴音もいつもながらのほんわかした雰囲気だが、サスペンスになると違う局面を見せる。今回、黒沢清の俳優の起用と使い方はうまいと感じる。


⒈安く仕入れた品物を売るのは別に違法行為ではない
映画が始まってすぐに,工場主がもともと1個あたり400,000円で作った電子治療器を1箱3000円で30箱主人公吉井に売るシーンがある。それを高く転売して主人公が儲けるわけだ。売らざるを得ない状況になった男女が買い取る吉井にクレームをつけるシーンがある。もともと原価は高かったんだよと。

なんで文句を言われなければいけないのかな?と見ていて思った。別に悪いことをしているわけではない。安くてイヤだったら他の人に売ればいい話だ。これを見て、いつもながら黒沢清は意味不明な場面を作るなあと感じる。巨匠になりすぎで周囲からおかしなことも指摘されないのかな?毎回常識ハズレのシーンがある。

例えば直近で大きく業績を伸ばしているドンキホーテも、普通の定番品とこういったバッタ品も含む安く仕入れて売るスポット商品を組み合わせて利益を上げてきたのだ。商売の道理に反していないのにこれをクレームの形にして,しかも最後の復讐場面でこの売り主を入れることが不思議だ。工場主も同様だ。

⒉ネット社会の狂気
転売屋吉井の評判はネット上で最悪になっていく。きっかけの1つは10,000円で仕入れた高級ブランドバックを100,000円で売ったのが偽ブランドだったこともある。安く買って高く売るのは通常の商行為と言ったが,さすがに偽ブランドになると違う。警察に今度調査しようかと言われて、慌てて損失覚悟で価格を大きく下げる。

この辺りから恨まれることが多くなっていく。ネットでこういった被害者たちが集結する状況になる。お互いに名前を知ることなく,一緒になって転売屋を攻撃するのだ。おそらくこんな事は世間でもあるだろう。それにしても、この暴挙に普通だったら関わらないような人間が加わってラストに向かう。かなり大げさだけど、現実の世界で絶対ないことではない。


(ここからネタバレに近い)
⒊助っ人佐野の謎の存在
湖のそばの一軒家に事務所を構えたときに,採用したのが奥平大兼が演じる佐野だ。学校を出てなかなか良い仕事に恵まれない男だったと言うが,この映画は最後に向かって急激にこの佐野の存在感が強くなっていく。

まず、吉井の事務所兼住処にものを投げつけた男を捕まえる。吉井に嫌な思いをさせられた男たちが徒党を組んで、集団で吉井を懲らしめようとする。そのときに、佐野が銃を持って吉井を守る「孤独のグルメ」松重豊が演じるいかにも謎の男から佐野が拳銃を引き取る場面がある。吉井を懲らしめようとした男たちを撃退する中で,転がっている死体を自分に任せれば全部処理すると言う。われわれに裏社会に通じた男と感じさせようとしている。


そんな佐野の正体が何か?、最後に向けて佐野の存在の真相がわかる場面が出てくるかと思っていたが,結局謎を残した。なんでこんなに吉井を助けるんだろう。

実は、自分のパソコンを覗かれたということで、吉井は佐野をクビにしている。縁がなくなったはずだ。それなのになんでこんなに身をもってかばうのか?普通ではあり得ないことが最後に続く。芥川龍之介「薮の中」では真犯人がわからないまま大きな謎として残った。同じような感覚で佐野の正体についても解釈できるのではないか。あえて深入りしない黒沢清のうまさをこの映画を見て感じる。
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映画「侍タイムスリッパー」

2024-09-27 15:24:16 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「侍タイムスリッパー」を映画館で観てきました。


映画「侍タイムスリッパー」はいわゆるインディーズ的サムライコメディである。 8月中旬に日経新聞の映画評をみてこれはおもしろそうと思っても、ほとんどやっていないし時間も合わない。縁がないのかな?と思っていたら、ここにきて一気に公開館が増えた。珍しいパターンで気になる。

幕末の侍が決闘している最中に落雷が起きて気がつくと時代劇の撮影所にいたなんて話だ。うらびれた映画館ではなく東京のど真ん中で劇場の大画面で観た。かなり映画を観ている自分でも知っている俳優はいないし、監督の安田淳一も知らない。先入観なくともかく観てみようという気持ちで観ると確かにおもしろい

とりあえず、作品情報を引用する。

幕末、京の夜。会津藩士高坂新左衛門(山口馬木也)は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。
やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所


新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。(作品情報 引用)

現代の京都が舞台なのに時代劇ファンでも楽しめるおもしろさだ。
気がつくとタイムスリップという映画は数多いが、気がつくと現代の時代劇撮影所に幕末から来てしまうなんて発想がおもしろい。目を覚めると時代劇撮影所内の江戸時代の町並みだ。そこで悪党が庶民をこらしめている場面に出くわす。思わず正義の味方の武士に加勢するので撮影中のスタッフが当惑するなんてお笑いだ。

最初のシーンだけ幕末だ。まさに薩摩の武士を斬ってやろうとする会津藩士が主人公だ。決闘中に稲妻で気づくと、時代劇撮影所なのだ。撮影中に割って入り邪魔をして、女性助監督から「どこの事務所の方ですか?」「別の撮影現場じゃないですか?」と言われる。まさか幕末からタイムスリップとは夢にも思わなかった。


途方に暮れて町を歩くと、決闘をした時の寺の門にたどり着くではないか!でもそこで寝てしまって朝起きると寺の住職に助けられるのだ。しかも、その寺は時代劇のロケで使われていて、撮影所の女性助監督に連絡がいくわけだ。結局、記憶喪失になった人として扱われる。そして寺のロケで役者が急病になり、急遽斬られ役で起用されるのだ。


斬られ役でふつうに展開していった後で、有名俳優から共演したいとオファーが来る。ここで幕末を引きずった出会いがある。ここからグッとおもしろくなる。この出会いの内容は映画を観てのお楽しみに願いたい。話が出来過ぎでも、その偶然がなんかありそうな気がするストーリーだ。最後に向けてはこの映画の結末をどう落ち着けるのか予想がつかず一瞬ドキドキしてしまう。そんな緊張感をもてる映画だ。

自主映画とはいえ、そうは見えない。いくつかのコメントで「カメラを止めるな」との共通性を言う人もいたが、それは違う。この映画の方がレベルはずっと上だ。撮影した映像はしっかりしていて、大劇場の大画面にも耐えられる映像だ。これは監督の安田淳一の力だろう。履歴をみると、撮影技術には長けているようだ。衣装も殺陣も無名揃いの俳優さんもよかった。


京都だからできた映画でもある。おもしろい台本なので、東映京都撮影所が場所を提供してくれたのも超ラッキーだろう。時代劇愛を感じる心意気がすばらしい。京都は歴史が古く、昔の建物の門がそのまま残っている設定も全く不自然でない。いくつかの寺からも協力してもらったのも運がいい。メンバーを見ると確かにカネがなさそう。でもいい映画ができてよかった
普段映画を観ない中高年以上の人に薦めたい作品だ。
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映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」吉沢亮&呉美保

2024-09-26 18:20:00 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」を映画館で観てきました。


映画「ぼくが生きてる2つの世界」は耳の聞こえない夫婦のもとに生まれた男の子(コーダ)を吉沢亮が演じる成長物語だ。呉美保監督「そこのみにて光り輝く」は自分が好きな映画で、あれほどの作品をつくる人の新作がないのを不思議に思っていた。どうやら2人の赤ちゃんを出産して軽い仕事しかしていなかったようだ。その呉美保監督が五十嵐大の原作に共鳴して、港岳彦の脚本で9年ぶりに撮った作品だ。呉美保監督作品は観たかったが、テーマ的に苦手な分野かと思っていた。ところが、こうやって観ると完成度も高く共感がもてる作品に仕上がっている。

映像は主人公五十嵐大が生まれた時から追っていく。

宮城県の港町に暮らす耳の聞こえない夫婦五十嵐陽介(今井彰人)と明子(忍足亜希子)の間に大という男の子が生まれる。元ヤクザの祖父(でんでん)と宗教にハマる祖母(烏丸せつこ)も同居しているが、耳の聞こえないことで何かと不自由が多い。それでも、幼い頃から大は手話を覚えて母親の通訳的存在になっていた。


小学生になると母親が耳が聞こえず言葉もしゃべれないことで周囲の目を意識するようになる。思春期になり、大(吉沢亮)は障がいをもつ両親に生まれたことに悩みをもち、意思が通じにくいことで母親につらくあたるようになる。第一志望の高校に落ちて反抗する気持ちはもっと強くなる。高校を卒業してフリーターとなったあと、20歳になって父の勧めもあって東京へ行く。俳優志望だったが挫折して、物書きの道を歩もうとする。

予想よりはるかによくできている映画だ。胸に沁みる場面も多く感慨深い作品だった。
まずは俳優陣がいい。主演の吉沢亮はもちろんのこと脇役陣も絶妙な演技を見せてくれる。耳が聞こえないことで起きる小さなエピソードをそれぞれに簡潔にまとめる脚本と編集がうまい。反抗期があっても母親からの強い愛情を息子が成長するにつれて感じるようになる。その長い間の母子の絆を丹念に描いていて、自分のハートを響かせる。呉美保監督のさすがの手腕であろう。

耳がきこえない両親の下に生まれながら、耳がきこえる子供たち「コーダ」と呼ぶ。日本には2万人を超える人たちがいるそうだ。アカデミー賞作品「コーダあいのうた」でも娘役はそれなりの葛藤を感じていたが、能天気な両親のもとでもう少し明るい展開だった。こちらの方が日本映画らしく暗めのエピソードが多いかもしれない。

幼少時からの細かいエピソードが盛りだくさんだ。耳が聞こえない本人はたいへんなのはもちろんだが、両親の代役もする息子も大変だったのがわかる。そのたいへんさと母子の感情の交流をうまく結びつける。あとは無音の使い方「コーダあいのうた」同様巧みに使い分けする。


⒈俳優陣の活躍
両親役の忍足亜希子と今井彰人はろう者俳優。「コーダあいのうた」と同様に実際に耳が聞こえなくて話せない人が演じていると真実味が増す。息子の大は赤ちゃんから幼児時代、青年になって吉沢亮と配役がかわっていくが、母親役は生後間もなくからずっと一緒だ。20代から50代まで演じられるのも彼女が若々しいからだろう。

監督の呉美保吉沢亮を主人公にしたかったと作品情報で読んだ。吉沢亮はその期待に応えている。手話を覚え、セリフでなく顔の表情などで感情を表現する術にもたけていた。宮城県の塩竈ロケが中心だ。人影の少ない駅のホームで吉沢亮と忍足亜希子が親子で触れ合うシーンも情感がある。


⒉脇役の巧さと子役への気配り
主人公や両親とともに祖父母の存在感が強い映画である。宗教にハマる祖母を烏丸せつこ、元ヤクザの祖父をでんでんと巧みに演じた。良い配役だと思う。烏丸せつこは映画がはじまってしばらく彼女だと気がつかなかった。我々の世代はボリュームたっぷりの裸体に興奮させられた世代なのでなおのことだ。たまに見るが昔のイメージと違う老いた姿を演じられるいい俳優になった。実際の祖母は手話を身につけなかったので少しは気が楽だったのでは。

祖父は昔「蛇の目のヤス」という異名があった元ヤクザだ。泥酔してケンカしたり、刺青を見せつけたり、祖母に暴力を振るったりする。でんでんは園子温監督「冷たい熱帯魚」凶暴なイメージがあまりにも強い。こんな役柄はでんでんが得意とするところだ。


おそらくは時間をかけてオーディションをしたと思われる子役の選択も、その後に吉沢亮の顔になることを意識して選んでいるのがよくわかる。実際吉沢亮に似ていてリアルな感じを強める。

⒊上京後の苦労
原作者五十嵐大が高校卒業してから歩んできた道は波瀾万丈である。俳優になろうと思っていたが、オーディションにはなかなか通らない。パチンコ屋のフロアでもバイトをしていた。途中入社の面接でも落ちてばかりだ。

結局、プロダクションで編集の仕事をするようになった経緯が面白い。面接をして、元ヤクザの祖父の話をしたら、ユースケサンタマリア演じる社長にウケて即採用だ。面倒な仕事が来ても「(難易度がそれなりの仕事でなく)必ず実力より高い仕事が来る。」と社長に言われつつ仕事する。編集プロダクションで働く一方、耳がきこえない人たちのサークルにも加わる。自分の小さい頃からの経験を活かしながら実際にライターの仕事をするようになったのは結果的にはよかったのだろう。

大が生まれる時に祖父母が心配していたのを母方の伯母さんが回顧して大(吉沢亮)に話すシーンがある。耳の聞こえない2人からふつうの子が生まれるかどうかの心配だ。結局、祖父母は子供の耳がきこえることでホッとした。それを聞いて生まれてきてよかったと感慨深げな表情をする吉沢亮を見てジーンときた。
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映画「ぼくのお日さま」 

2024-09-16 08:44:53 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ぼくのお日さま」を映画館で観てきました。


映画「ぼくのお日さま」フィギュアスケートを題材にした小学6年生の少年の成長物語だ。長編2作目の奥山大史監督作品で第77回カンヌ国際映画祭への出品作品だ。主役の少年少女は無名で観るのは初めて、主演級俳優であるコーチ役の池松壮亮、その恋人役の若葉竜也の2人が脇を固める。春先の雪解けの町の風景も映すが、全般的に雪国の風景をパステル調の映像にして見せてくれる。こんな町で育ったら自分はどうなったんだろう感じながら主人公の姿を追う。

雪が積もる田舎町に暮らす小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、すこし吃音がある。アイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)が「月の光」に合わせ氷の上を滑る姿に目を奪われる。さくらはコーチの荒川(池松壮亮)のもと、寡黙に淡々と練習をしていた。荒川は恋人・五十嵐(若葉竜也)の住む雪国の町に越してきたのだ。


荒川はリンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。荒川はフィギュア用のスケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあう。 徐々にうまくなったところで、荒川はタクヤとさくらにペアでアイスダンスの練習をしたらどうかと提案する。

思春期の少年少女のスケーティングを観てさわやかな印象をもつ。
フィギュアスケートを題材にしたこの映画に既視感はない。いい発想だ。奥山大史監督はフィギュアスケートを子ども時代にやっていたそうだ。男の子から少年になろうとする頃の主人公タクヤがまだかわいい。中学に入った時のシーンでは学生服がブカブカだ。同じく、少女になろうとするさくらは少しだけお姉さんでフィギュアスケートの練習をする姿が素敵だ。

雪景色と2人の少年少女がマッチした印象深いシーンがいくつもある。2人がアイスダンスをするシーンで目線を10代の感覚に落として観ると、あの時代にこんな楽しいことあればよかったなあとひたすらうらやましくなる。ドラマ仕立てとしては物足りない部分もあるが、映像美は肌に感じる。


⒈雪国の小さな町
雪がかなり降り積もる町だ。教室から校庭を見ると雪景色で、雪の積もった学校の屋上でたたずむシーンを観ていると別世界だ。そんな町にスケートリンクがある。山が見えているのに、海を見渡す坂の町が映ることもある。一緒の町には見えない。陸屋根の家も多く北海道と推測できたが、架空の街にしていいとこ取りをしているのは徐々にわかってくる。ロケハンに成功している映画だ。

映画を観終わって調べると、どうも小樽近郊のいくつかの場所を中心にロケ地にしているようだ。父が幼少期まで小樽だったのでなぜかうれしい。加えて、雪解けした春先の風景での小さな灯台や昔の赤い郵便ポストが印象的だ。


⒉ペアで踊るアイスダンス
主人公タクヤは雪国育ちでアイスホッケーをやっているので、スケートは普通にできる。ただし、フィギュアスケートは初心者である。しかも、フィギュア用の靴でないとクイックなどの技巧はできない。コーチからフィギュア用の靴を借りての基本指導よろしく徐々に熟達していく。

コーチから2人はアイスダンスをやらないかと言われた時、無口なさくらは本当はイヤだったように見える表情をした。でもだまってコーチに従った。2人の腕前には巧拙があったが、徐々に2人のタイミングがあってくる。タクヤも成長していく。

コーチが2人を凍った湖に連れていく。そこでアイスダンスを踊るのだ。池松壮亮が雪道を運転するクルマでかかるのは60年代のポップス「Goin' Out Of My Head」だ。誰しもが一度は聞いたことがあるだろう。それをバックグラウンドミュージックにして少年少女が湖で踊るアイスダンスのシーンは格別にすばらしい「Goin' Out Of My Head」の組み入れ方が絶妙だ。このシーンとスケートリンクでの2人のアイスダンスを観るだけで映画館に行った価値がある。

⒊少女の複雑な想い
さくらを演じる中西希亜良は鼻筋がきれいな美少女である。麻生久美子が12歳だったらこんな顔をしていたのかと思う顔立ちだ。清純でみずみずしい。演技は素人だけどオーディションで選ばれたようだ。さくらはフィギュアスケートの実技は何度も見せるが、セリフは少ない。自分の想いを表情で見せる。


コーチのへのひそかな恋心、仲間である少年へコーチが指導している姿への嫉妬心、ひそかに思いを寄せる先生が男同士でイチャイチャするのを偶然見た時の嫌悪感をいずれもセリフなくわれわれに表情で示す。この年齢の女の子の心理状態は複雑だ。当然演技は素人なのでむずかしいセリフが控えめでうまくまとめられていると思う。

対するタクヤも話し出すとたどたどしくしか話せない。ウブな感じで好印象を与える。コーチが男性同士のカップルだという男色系の匂いは抑えられた。それはよかった。最小限のセリフで魅せてくれた良品の映画である。
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映画「箱男」 永瀬正敏&浅野忠信

2024-08-27 20:16:58 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「箱男」を映画館で観てきました。


映画「箱男」安部公房が1973年に書いた原作を石井岳龍監督により映画化した作品。裏路地の片隅にあるダンボール箱から世間を覗く男をクローズアップする。安部公房の小説は好きではない。それでも昭和の匂いがする予告編で見る箱男のパフォーマンスが気になる。配役は豪華で永瀬正敏、浅野忠信、佐藤浩市の主演級が揃う。怖いものみたさの感覚で選択する。


ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。

しかし、『箱男』の存在を妨害する連中に囲まれる。箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野忠信)、箱男を追う元軍医の老人(佐藤浩市)、 診療所の看護師葉子(白本彩奈)がわたしを取り囲む。

よくわからない映画だった。
スケールの大きい娯楽作品を見た後で、単純明快でない世界に入り込むのは少々キツイ安部公房の世界だけにわけのわからない人物が登場する。わかって観たはずだが、快適な気分にはなりづらい映画だった。1973年という年号が出てきて、てっきりその時代だと思ったら違う。ノートパソコンに写真映像がおさめられたり、福沢諭吉の一万円札も出てくるので現代だ。室内の照明設計は同じ石井でも石井隆監督作品によくある怪しいネオン街片隅の店で見る薄気味悪い暗さだ。どんよりしたムードで映画は進行する。

「箱男を意識するものは箱男になる。」
世間から逃避した箱男はお気楽でいいなと思ってしまう気持ちはある。ダンボール箱の小窓から世間をながめて、ノートに思ったことを書き殴る。そんな観察自体はしてみたい気持ちもある。でも、風呂に入れないし、不潔だ。身体中がかゆくなるだろう。永瀬正敏が身体にかゆみに耐えられないシーンもある。町で寝そべるホームレスオジサンをいたぶる意味不明な人物がいるようだが、ここでも訳もわからず暴力を振るわれる。さすがに自分からは乖離してしまう世界だ。


ニセ医者も軍医も正体不明。世捨て人の箱男にこだわる。主人公はCONTAXのカメラで写真を撮るし、ニセ医者も町にいる箱男の写真を撮る。暗室でフィルム現像する。古さびれた医院の奇妙な空間になぜか美女が1人いる。セリフに意味不明な発言が多く、もう一歩のれない作品だった。


唯一の収穫は資格のない看護師役の白本彩菜だ。初めて知った。まだ若いけど、3人のメジャー俳優に囲まれても存在感を示す。ブラジャーをとって脱いでいくシーンにはドキドキするし、最近の屁理屈ばかりで脱がない女優陣の中で、美しい裸体と小ぶりなバストトップを見せてくれるのはうれしい。ボリューム感はないけど、男にやる気を起こさせるしなやかさを持つ。数百人の中からオーディションで選ばれたのはうなずける。白本彩菜の今後の活躍を期待する。
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映画「そして僕は途方に暮れる」 藤ヶ谷太輔

2024-08-21 17:17:27 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「そして僕は途方に暮れる」は2023年公開の藤ヶ谷太輔主演のドラマ映画。監督は三浦大輔だ。フリーターの若者が同棲相手とのケンカの後飛び出して、友人や先輩などの家に居候しては飛び出す話だ。公開した時この映画の主人公が滅多にいないだらしのない奴とのコメントを読んで、観るのをやめた作品だ。


Netflixのラインナップに入って何気なく作品紹介を観てこの主人公と自分にある共通点があるのに気づく。ちょっと観てやろうかと思った作品だ。豊川悦司、前田敦子、原田美枝子と脇役はそれなりに揃っている。

フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、長年同棲している恋人の里美(前田敦子)に合コンで知り合った女とのLINEのやり取りを見られてしまう。言い合いになり、家を飛び出してしまう。その夜から、同郷の友人、バイト先の先輩や後輩、姉のもとを渡り歩く。

どこへ行っても、ちょっとしたことでキレて飛び出していく繰り返しだ。仕方なく母(原田美枝子)が1人で暮らす北海道苫小牧の実家へ向かう。歓待されるが新興宗教にハマる母にあきれて飛び出す。1人になった裕一が偶然家を飛び出した父(豊川悦司)と久々に再会して誘われて父の家に居候することになる。

いかにもダメ男の物語。同情する要素はあまりない。
でも、登場人物のキャラクターの特徴をうまくつかんでいて割とあきずに観れた。
東京の片隅で暮らす若者と田舎暮らしの老人両方をそれぞれ追っていく。どちらも現実離れはしていない。大きな工場の煙突が目立つ苫小牧の寂れた感がいい。

⒈藤ヶ谷太輔(主人公 裕一)
居酒屋のバイトで暮らすフリーターで恋人名義のアパートで同棲する普通の若者。先輩の紹介の女の子とLINEのやり取りがバレて大目玉をくらって、キレてしまう。そして、一人暮らしの同郷の友人宅に居候させてもらった後も次々と住まいを変える

どこへ行っても、ちょっとしたことでキレる。まったく普通の若者なんだけど、自分のだらしなさを指摘されるとムカついてしまうのだ。荷物をまとめて飛び出してしまう。就職氷河期における非正規雇用の増加で、こんな奴が増えたのかもしれない。人手不足による労働需給の改善で仕事もある現状だけど、正規雇用の安定性とは無縁の若者は今もいる。藤ヶ谷太輔は現代の若者らしく演じる。


⒉原田美枝子(母)
夫が家を飛び出し息子と娘両方とも東京に行ってしまったので苫小牧で一人暮らしだ。クリーニング屋で働いている。冬の北海道は寒い。しかも、リウマチで足が悪い。息子のことを心配してたまに電話する。息子はでない。ところが、息子が実家に帰ってくるとわかるとうれしくて仕方ない。裕一くんは何食べたいと言ってやさしい。姉の話だと、息子はこれまで母親にカネの無尽をしてきたようだ。

そのまま居てもよかったのだろうが、母親はある新興宗教にハマっている。おそらく息子も心の痛手を持って実家に帰ってきたのかと思いあなたも楽になるよと入信を勧める。ありがちな話だ。ヤバイと思って息子は寒い北海道の夜に飛び出す。

原田美枝子は母親役で時おり映画で見かける。認知症の母親を演じた「百花」はよかった。「ぼくたちの家族」でも認知症の母親を演じている。温厚な母親だ。自分と同世代なので、どうしても若い頃のボリューム感あふれるヌードを思い出す。


⒊豊川悦司(父)
妻と別れて一人暮らし。朝から晩までパチンコ三昧で気楽に暮らす。以前カネを借りた人をパチンコ屋で見かけると逃げるように店を出る。偶然あった息子を家に引き込み説教するが、堕落した生活から抜け出す気はまったくない。でも、息子に「電話をすると何かが変わる」と、同棲していた彼女への電話をさせる。確かに変化が生まれる。このいい加減なオヤジとの出会いが何かを変える。この辺りが映画のキモかもしれない。


豊川悦司はいつもながらの長髪姿だ。毎日をパチンコ三昧で暮らす社会の底辺のお気楽男だ。「ラストレター」や「パラダイスネクスト」の役柄が近いかな。先日観たNetflixドラマ「地面師たち」でも同じ長髪だけど、セレブな香りがする。こんな感じで両刀遣いできる俳優も他にいない。昨年の「藤枝梅安」は抜群に良かったな。気がつくと、豊川悦司が出演する映画はほとんど観てしまっている。行きつけの新宿の飲み屋のママが大好きだからというわけではない。演じる役に一貫性がないのもいい。ここでは単なるグータラ男だけど存在感がある。
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映画「ブルーピリオド」眞栄田郷敦

2024-08-11 10:27:39 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「ブルーピリオド」を映画館で観てきました。


映画「ブルーピリオド」山口つばさの人気漫画の実写映画化作品だ。普通の高校生が200倍もの高倍率の東京藝術大学油絵科を目指す姿を描く。眞栄田郷敦が主人公矢口を演じる。一瞬ピンとこないが、千葉真一の次男だと気づく。予告編を何度も観ていたが、最初デカい文字で東京藝術大学と出てきて驚く。ドキュメンタリーかと一瞬思ったが東京芸大(以下簡略化する)を目指して奮闘努力する話のようだ。若い人が目標に向けて一意専心努力する話は好きで映画館に向かう。

高校2年生の矢口八虎(眞栄田郷敦)は仲間と酒を飲みながら夜更かしするのに成績は優秀な要領のいい高校生だ。母親(石田ひかり)からは家計がきびしいので国立大学に行ってくれと言われている。美術の佐伯先生(薬師丸ひろ子)から「自分の好きな風景」を課題に出されるが、ピンときていない。

そんなある時、美術教室で先輩の女子生徒が描く絵に目を奪われる。絵に関心を持ち、普段明け方までの夜遊びで見慣れた渋谷の朝を課題にして絵を描く。その後、関心が深まりロングヘアの同期鮎川(高橋文哉)が所属する美術部に入部する。年がら年中絵を描くようになり、美大志望を考える。家の家計を考え東京芸大の志望を考えるが実力は遠く及ばない。それでも、こっそり父親に頼み美大入試の予備校東京美術学院に入り、東京芸大受験を目指す。


若者が努力する姿は美しい。おもしろく観れた。
東京芸大が東大とは別の意味で超難関であることは誰もが認めている。「ドラゴン桜」とは違うおもしろみがある。既視感はない。原作者山口つばさ東京芸大出身の才女のようだ。単に取材だけでは描けない漫画だろう。主人公眞栄田郷敦と原作者の対談記事を映画を観た後に読んだが山口つばさは顔出ししていない。男と女と設定変わっているが、私小説的要素はあるだろう。本名は非公開のようだ。

これまでの自分の人生で東京芸大の美術系学科出身者には4人出会ったが、年上で同世代ではいない。出会った人たちが合格に向けてどんな努力をしたかは聞いていない。合格まで努力する話が新鮮だ。

主演の眞栄田郷敦がパワフルだ。父千葉真一も兄も格闘技系できっと本人も元来はアクション系だろう。映画を観て長身の江口のりこを見下ろすパターンは珍しいほど身体も大きい。東京リベンジャーズのような不良映画の方が得意なのかもしれない。でも巧みにこなした感じがする。意外に映画館には若者より自分の年齢に近いような熟年も目立ったが、薬師丸ひろ子と石田ひかりの登場には安心感を覚える。もちろん大ファンの江口のりこの美術予備校の教師もいい感じだ。

⒈高校生の渋谷での夜遊び
もともと主人公の矢口八虎は渋谷のスポーツバーで酒を飲みながら観戦して、その後始発までセンター街付近をウロウロする高校生として描かれる。自分も高校時代から文化祭や運動会の打ち上げで仲間と飲んでいたのでまったく抵抗がないOB含めた飲み会では宴会芸もやらされ飲まされた。この映画の高校生のように嘔吐する連中は自分も含めて多かった。

選挙権を18歳としたにも関わらず、飲酒は20歳のままにしているのは愚策と感じる。今回のオリンピックで体操の代表が飲酒と喫煙を理由に代表から外された。今の50代(40代?)から上は奇妙に思った人は多いだろう。自分たちはコンパなどで散々飲んだわけだから。ネット上などで議論されているが、結局は根本的に選挙権与えたのに飲酒が厳禁という矛盾かなと感じる。もっともこの映画は高校生の飲酒だけど。


⒉魅力的な薬師丸ひろ子
美術教師で生徒に対して気の利いたセリフを言う先生が出てきたなと思って、しばらくして薬師丸ひろ子と気づく。髪型がいつもと違い、これがまた魅力的な美術教師だ。萩原健太郎監督の年齢からすると、当然薬師丸ひろ子の全盛時は知らないはずだ。いい起用だと思う。

昔のながらの専業主婦的なお母さん役が多かった。新垣結衣「ハナミズキ」でも「三丁目の夕日」でも「あまちゃん」でもお母さんだ。今回のようなキャリアのある女性役は珍しい。別にファンというわけでもなかったのに、彼女が出てくると心ときめくのは同年代のよしみなのだろう。「セーラー服と機関銃」紅白歌合戦に出てきた時には涙が出た。


⒊高校の美術室と美術の予備校
高校時代、芸術科目は音楽選択だったので、石膏の像などがある美術教室は中学以来で記憶も薄くなっている。主人公は途中から美術部に入ってひたすら絵を描く。画面分割の手法で対比させる映像もいい。「オレは天才ではないので、天才と見分けがつかないくらい描いて」というセリフには予告編から惹かれる

原作者山口つばさも通っていたモデルになる美術の予備校があるようだ。友人と遊ぶシーンでは渋谷ロケだが、新宿ロケのシーンが増える。新宿に予備校があるのだろう。美大受験のためひたすら課題の絵を描く予備校教室という世界は自分が知らない。教師は江口のりこが演じる。親の収入が少なくて国立大学目指すというが、美術系予備校の学費は通常の文系理系よりはるかに高いだろうし、高くないと予備校は絶対もたないだろう。


4.東京芸大受験
エンディングロールでロケ地が気になっていた。さすがに東京芸大ではないようだ。多摩美や名古屋の芸術系の学校などが列挙されていた。スタッフのロケハンの苦労を感じる。

試験を受ける東京芸大入試の課題も容易ではない。数日間にわたる2次試験の課題の完成は精神的にも肉体的にも限界への挑戦だ。裸のモデルもずっとポーズをとるなら安いモデル料ではワリに合わない。過酷な試験というのは変わらないようです。音楽系は幼児の頃からすごい音楽の先生についてスパルタ教育が前提の世界だが、美術はどうなのかなあ?

ただ、この映画を観て違和感を感じたのは、共通のセンター試験に触れられていないこと。合格配点に共通試験が影響がないのか知識がないが、時間の関係で割愛したのか?と感じる。あとは、試験に受かったのはふり出しで大学入学したあとの方がもっと重要なのにと映画が終わった時感じた。実際には入学以降のことも漫画原作では続いているようなのでそれはそれでよかったと感じる。

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Netflix「地面師たち」 豊川悦司&綾野剛

2024-08-04 13:45:35 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
Netflix「地面師たち」を見ました。


Netflixドラマ「地面師たち」を一気に見た。渋谷駅ハチ公口上の大きな看板に「地面師たち」の広告があった。なんとなく気になる程度だったけど、Netflixの画面を見ると気になる。冷やかし半分で見ると、これが止まらない。原作は新庄耕の同名小説で、脚本監督は「SCOOP」「パクマン」大根仁だ。個人的にはファンである。それにしても配役は地面師集団のリーダー豊川悦司、綾野剛をはじめとしていずれも主役級で予算がふんだんに使えるNetflixならではの作品だ。これが抜群におもしろい!

恵比寿ガーデンプレイス裏の古い一軒家がある。その広い土地を巡り、地面師集団が狙いを定める。不動産業者に売りつけようとして架空の不動産取引を仕掛ける。首謀者のハリソン(豊川悦司)はバックで仕切り、デリヘルのドライバー上がりの辻本(綾野剛)、司法書士崩れの後藤(ピエール瀧)が買い主との交渉に立つ。情報屋の北村一輝となりすまし男を用意する手配師麗子(小池栄子)を含めた集団は売主に見せかけた男を用意して、予行演習をして土地決済に臨む。まんまと成功した後、軽いインターバルをあけて次の取引に向かう。


今度は港区高輪の土地だ。高輪ゲートウェイ駅近くの開発エリアに近い女性住職のお寺に目をつける。100億もの大型取引を大手に売りつけようとする。逆に、開発用地を狙っていた大手住宅メーカー開発部門にコネクションをつけ接近していく。開発部長青柳(山本耕史)も別の計画地での開発が没になり待ってましたとばかりだ。

むちゃくちゃ面白い!
これまで見た日本を舞台にしたネットフリックスドラマで1番面白いのではないか。

世間ではいいとされている鈴木涼平のNetflixドラマ「シティハンター」はストーリーが稚拙すぎていいと思えない。感想すら書く気になれなかった。裏社会を描いたNetflix映画もいくつかあったが物足りない。深みのあるストーリーやサスペンス仕立てで、その場の我々の予想を裏切る展開など抜群の出来だ。

実名を隠しているけれども,明らかに積◯ハウスの地面師事件を題材にしているのがわかる。自分も新聞報道だけでなく、書籍などで概要は大筋知っている。舞台になった五反田の土地は自分が生まれた産婦人科から歩いて3分の場所だから人ごとに思えなかった。

当然このドラマで狙った土地は五反田ではない。港区高輪のお寺を舞台に、なりすまし女住職を用意して100億の不動産取引を成立させようとする話だ。地面師たちのキャラクターの前提となるストーリーも用意して、単純にはまとめていないのも深みを持たせる。地面師の首謀者がその悪さを隠すためにこっそりと殺人を犯して関係者を消していく。そのあたりの過程も描く。最後まで残りそうな人物まで消えていく意外性もある。舞台設定をきっちり固めて制作費にお金をかけているのも映像から理解できてリアル感も増している。たいしたものだ。

自分がもうしばらくして鬼籍に入った時の棲家は高輪の寺だ。実は我が家の寺は高輪なのだ。祖父母も両親も眠る。自分につながることが多いので不思議な気分になる。


監督の大根仁も日本映画界にこの企画を出したけれども、断られたとインタビューで答えている。日本映画の場合いろんなしがらみがあって、作れない場合が多い。例えば、「ラストサムライ」「太陽」など皇室がらみのタブーに触れる映画も含めて海外資本でないとつくれない映画が多い。いつも残念だと思っている。今回は土地購入検討のライバルに野村や東急いるよと言ったり、モデル企業は別として実名がずいぶんと出る。Netflixだとやり放題だ。

地面師集団の首謀者豊川悦司は影の実力者らしい雰囲気を出していた。すべてに用意周到で抜け目がない。彼にしかできない役柄だ。綾野剛もいい。地面師になるまでのバックストーリーもよくできているし、偽造師(染谷将太)の使い方も上手い。刑事役のリリーフランキーもワルの匂いを嗅ぎつけるベテラン刑事らしさを醸しだす。コンビの池田エライザも最初はチャラく見えたが、途中から存在感をだした。


日本でメジャーの実力ある俳優が出演して、それなりの予算でいけば、レベルの高い韓国クライムサスペンスに劣らない上質の作品ができるいい例だろう。Netflix頑張れとエールを送りたい。
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映画「大いなる不在」藤竜也&森山未來

2024-07-22 06:51:21 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「大いなる不在」を映画館で観てきました。


映画「大いなる不在」藤竜也認知症の老人で、両親の離婚で疎遠になっていたその息子森山未來が演じるシリアスドラマである。監督は近浦啓で作品を観るのが初めてだ。認知症問題の映画は得意な部類ではないが、藤竜也が主演となると気になる。予告編を観ると、かなり重症のようだ。映画館内の周囲には70代より上で、ヨタヨタ歩くよくもまあ映画館に来るなという老人も目立つ。

映画は時間軸をずらしながら進む。施設に入った父と息子とのかみ合わない会話、父と再婚相手との家庭に息子が訪問した様子などを交互に映し出していく。いきなり機動隊のような面々が銃撃を恐れながら父親の家に侵入しようとするシーンで始まり何だと思うが、その謎は最後に明らかになる。

俳優の遠山卓(森山啓)は九州に住んでいる認知症でケア施設に入った父親陽二(藤竜也)の元へ訪れる。もともと大学教授だった陽二は卓の母親と離婚していた。長きにわたり父と息子は疎遠になっていたが、最近再会した。卓は妻夕希(真木よう子)とともに施設職員の説明を聞いたあと、陽二の自宅に向かう。そこで、再婚した直美(原日出子)と一緒に暮らしているはずだったのにいない。直美の携帯電話に連絡すると家の中で着信音が鳴る。

以前卓が訪問したときには、脈絡のない言葉を話す陽二の一方で後妻の直美は卓を歓待してくれた。家中にメモ書きが貼ってある。認知症映画にありがちで、あったことを忘れないためだ。改めて卓が父親に直美さんはどうしたの?と聞くと自殺したと言う。卓は真実は違うと察して家の中の日記を読み始める。


見応えある作品だ。しっかりとした脚本でセリフも練っている。
藤竜也は一世一代の名演技だ。セリフも多く、80歳を超えた俳優が容易にできるレベルではない。直近に主役を張った「高野豆腐店の春」よりかなり難易度が高いすばらしいとしかいいようがない。

理系の元大学教授でアマチュア無線が趣味。皮肉屋で人の話を素直に聞かない。認知症というより統合失調症的な誇大妄想を感じさせるセリフが目立つ。この大学教授は、いつどのようにして、頭の配線が狂ったのかと思わせる。夫婦仲良いように見えるが、妻に対して冷徹な一面もある。原日出子とのやりとりを見ながら、結婚の時点では藤竜也より格上だった愛妻芦川いずみさんのことを想う。


森山未來の役柄は俳優で一部の場面にその片鱗を見せている。でも、大勢の筋に影響はない。映画内の髪を束ねた自由人的な風貌と比較すると、話すセリフは常識人といった感じだ。自分が同じ立場だったら同じように話すだろう。長期間父親と暮らしていないので、父親の嗜好などはまったくわからない。それなのに父親の突飛な発言にも声を荒げることもなく寄り添う。

突然、父親の後妻の連れ子が来て応対したり、父の面倒も見た後妻の妹と連絡を取ろうとする。その部分には軽い謎を残しミステリー的要素も脚本ににじませる。真木よう子は脇にまわって、主役の時ほどの存在感はない。でも、悪くない。


初老の域に入った自分も映画を観て、今後について考えさせられる。ボケずにいられるにはどうしたら良いかと。舞台は北九州だ。ただ、九州らしいシーンは息子の卓が熊本に訪ねて行った時に映る。桜がきれいな季節に撮ったようだ。以前、自分が天草に行った帰りに熊本の三角から熊本駅まで特別列車A列車で行こうに乗った。海側を列車が優雅に走る。海に向こうに島原の山を見渡す景色だ。なつかしい。最後まで飽きずに観れてうれしい。
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映画「言えない秘密」 京本大我&古川琴音

2024-07-03 17:37:31 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「言えない秘密」を映画館で観てきました。


映画「言えない秘密」は、京本大我と古川琴音主演の青春ドラマ。台湾映画の同名映画のリメイクである。主人公の京本大我は初めて見る。京本政樹の息子だ。古川琴音濱口竜介監督「偶然と想像」とか今泉力也監督の作品で存在感を示してきた。芸能界では決して美女と言うルックスではないが,どこにでもいるその雰囲気に親しみを覚える。今回も古川琴音のパフォーマンスを期待して映画館に向かう。

主人公湊人(京本大我)は,音大の大学生。ロンドンにピアノで留学をして最近帰ってきたばかりで。解体が決まっている旧校舎にいると,素敵なピアノの音色が聞こえてくる。そこには今まであったことのない女子学生雪乃(古川琴音)がピアノを弾いていた。名前は教えてくれないし、携帯を持っていない。


恋人のように親しい女の子ひかり(横田真悠)からちょっかいを出されるが,湊人はピアノを弾いてた女の子の姿が気になってならない。するとその女子学生は教室に入ってきた。追いかけていくと古い校舎の中に入っていた。その後彼女は雪乃と自ら名乗り親しく付き合うようになる。ところが、ある時彼女は突然連絡が取れなくなる。自宅に行くと母親からくるなと言われる。

大学生の頃に目線を落として見ているとすんなり入っていけるラブストーリーだ。
ファンタジーの要素もある。

主人公がもともと付き合っている女性がそれなりに美人系であるのに対して,古川琴音普通の女の子ぽさを醸し出す。魅力的である。京本大我は父親の血を引いてイケメンだが最近どこにでもいる兄ちゃんという感じで普通

付き合っているのに突然いなくなってしまう設定は最近のラブストーリーではよくありがちだ。村上春樹の小説なんかにも多いパターンだけれども,今回はファンタジー的要素が入っていた。ひねりが効いている。それはそれで悪くはない。台湾映画のリメイクと言うが,テイストは先日見た「青春18 × 2」に近い。観客をかるくだましてやろうとする意思が強い。若い人には、こういうラブストーリーは受ける気がする。

主人公が音大の学生なだけに,ピアノを弾くシーンは多い。これはこれで軽快なピアノが聴けてよかった。品を変え、ショパンのピアノソナタが流れる。途中でピアノバトルと言って, 2つのグランドピアノで演奏の優劣を競うシーンがあった。これはこれで面白い。クリスマスのパーティーで主人公2人がロックンロールバンドをバックにダンスを踊るシーンがある。気分良さそうに見える。古川琴音も少しはピアノ練習をしたのだろうか。まともに弾けているようには見えた。

エンディングロールによると、主なロケ地は坂東市らしい。一瞬、どこかわからなくなったが,利根川を示す坂東太郎の坂東かなと思っていると、茨城県の合併でできた市だった。知らなかった。利根川だと群馬県を思い浮かべてしまうが違っていた。


映画の中で主演2人が肩寄せて自転車を気分良く走らせるシーンがある。
バックの清々しい風景やグリーンのサイディングの古めの校舎の雰囲気は自分の肌にあった。
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映画「明日を綴る写真館」 平泉成&市毛良枝

2024-06-20 18:12:36 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「明日を綴る写真館」を映画館で観てきました。


映画「明日を綴る写真館」は名バイプレイヤー平泉成が80歳にして初主演の作品だ。あるた梨沙による同名漫画を原作に、秋山純監督がメガホンを持つ。平泉成と過去に共演してきた主演クラスの盟友たちが脇役に回って共演している。佐藤浩市・吉瀬美智子・高橋克典・田中健・美保純・赤井英和・黒木瞳・市毛良枝とよくぞ集結したものだ。主人公が作品展に出展した写真を見て、若手人気写真家が感銘を受け弟子入りする話だ。心温まるストーリーと想像して映画館に向かう。

岡崎で写真館を営む鮫島(平泉成)が写真コンテストに出品した写真を見て、そのコンクールで最優秀賞を受賞したカメラマン・太一(佐野晶哉)が感銘を受ける。多忙なスケジュールの人気写真家なのに、新規の仕事をキャンセルして岡崎の写真館で弟子入りを志願する。鮫島の写真館に訪れる客と対話を重ね、深く関わる鮫島の姿を見て少しづつ写真を撮ることへの考え方を変えていくようになる。

欠点は多い映画だけど、映画を観た後味は良かった。
遠目に城が見える河川敷で写真を撮っている。いったいここはどこなんだろう?と考えていると、しばらくしてセリフで岡崎だとわかる。賞を連続して受賞する写真家が、地方で写真館を営むカメラマンのもとに弟子入りする構図は不自然だけど、それを言っちゃおしまいだ。

若手俳優がイマイチとの印象を持つし、80代と平泉成と70代の市毛良枝の子供がいくらなんでもこんなに若くはないだろうという不自然さもある。ピアノ基調の音楽がバックで流れつづける。フレーズは悪くないけど、ちょっと流れすぎ。ここまで多いと画面にあっていないフレーズもある。でも、それらの欠点を補うのがベテラン俳優の出番だ。

平泉成の独特の声は耳に残る。いったい何度であっただろう。芸名を知らなくても顔を見たことある人は多いだろう。人情味のある刑事役なんかお似合いだ。自分には西川美和監督「蛇イチゴ」の印象が強い。若い時に全盛時代の岡崎友紀とTV番組「なんたって18歳」でコンビを組んでいたと知り驚く。実は昔から見ていたんだ。ここでも渋い演技を見せてくれる。


市毛良枝が良かった。いかにもこれまでの日本人が理想とする専業主婦の雰囲気だ。好き勝手にやるカメラマンの主人公にピッタリ寄り添う。突然弟子入りしてきた若いカメラマンに対して、母親のように接するそのふるまいが素敵だ。余分なことだが、会社で自分の面倒を見てくれた女性に話し方までよく似ていてより好感度が上がった。


田中健が彼自身とわかるように目が慣れるまで時間がかかった。地元のケーキ屋の店主で、その娘である看板娘を平泉成が撮った写真を見て弟子入りしたのだ。店は流行っていない。店をたたもうかとした時にカメラマンの太一がこうやったらInstagramでよく見えると写真のコツを教える。一気に行列店に変貌する。平泉成はいい歳のとり方をしていて、幅広い役柄に起用されるけど、田中健の場合、逆かもしれない。


佐藤浩市は自らの遺影を撮って欲しいと来る役だ。白髪で最近の主演作「春に散る」「愛にイナズマ」と同じような雰囲気をもつ。その妻役の吉瀬美智子はいかにも主婦らしい感じで以前の美魔女的雰囲気がない。美保純はあの世に行く寸前の老婆の役だ。ポルノ時代から知っている自分は本人と気づくのに時間がかかる。赤井英和はラーメン屋の店主だ。自分が行きつけの飲み屋のママが女優で、どうやら赤井はセリフ覚えがよくないそうだ。それにはうってつけの役だ。

黒木瞳は先日「青春18×2」清原果耶の母親役で出会ったばかりだ。でも、それまで久しく会っていなかった。大女優的に自惚れて主役にこだわっていたのかなあ。脇にまわれば、まだまだ出番は多そうだ。自分とほぼ同世代なのにこの美貌はすごい。弟子入りしたカメラマンの母親役で、現在はウェディングプランナーをやっている設定だ。40代というのには無理があるが、50代半ばと言っても不自然ではない。吉永小百合を思えばまだまだやれる。


いいベテラン俳優が集まった。平泉成はまだまだやれそうだ。
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