575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

軍艦も父も写真や花火の夜         脇本星浪

2008年08月11日 | Weblog
海軍の鎮守府一つ佐世保で私は小学校の門をくぐった。軍港を見下ろす山手の佐世保小学校か゜、幼年期のふわふわした魂に浮世のあれこれを詰め込んだのである。ニキビの丸顔の印象的なS先生は、(サイタ サイタ サクラガサイタ)を指しながら、日本国の強さを説いた。桜が満開の校庭に連れ出して、直下の軍艦の群れへ手を振らせた。そんなせもあって、私は好んで桜の花と軍艦を描いた。
 軍港へ下る坂道には、水仙の花が溢れていた。

   軍港の坂の水仙折るるなし

 さて、軍艦を父母のように慕っていた父だが、他界するまぎわまで軍艦の名を呼んでいた。うわごとのようにも思える、とぎれとぎれの言葉の端に、《那智・妙高・金剛・・・・・・》などがあった。
 「軍艦なんて泥舟と同じじゃないか。あっけなく沈んでしまうんだから」と、しばしば悪態をついたものだが、「軍艦は沈んでも、軍人の魂は輝いているのだよ」と反論をするのだった。
 巨大な打ち上げ花火を見上げつつも、「軍艦の巨砲に比べたら、花火なんて玩具みたいなものだ。」と父は笑っていた。

   軍艦も父も写真や花火の夜


★先日の「のっぽの飛行兵」を書かれた、俳人・脇本星浪さんの随筆(俳壇2006八月号より)を転載させていただきました。写真は佐世保港の夜景です。

                       ( 愚足 )
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