春の海に、今、太陽が落ちていこうとしています。
やがて、最後の光が沈み、
たちまち、周囲は闇に包まれてゆく・・・
そんな荘厳な一瞬を詠んだ句です。
作者は尾道生まれ。
こういう風景は見慣れたものだったのでしょう。
この句の主語は一体、どちらなんでしょう?
落日の影(闇)が、春の海を包み込んでいくのか?
春の海が、落日の影(ひかり)を包み込んでいるのか?
段々と暗くなっていく海と空。
そして海と空との境界も消えていく・・・
昼間、ふたつに分かれていたふたつの世界が、
また闇という一つに戻っていく。
毎日、繰り返される宇宙のドラマ。
どちらが主語ということのない、
原初の姿を表した句ではないでしょうか。
遅足