
【原文】
ごさんの時、甑落す事は、定まれる事にあらず。御胞衣えなとゞこほる時のまじなひなり。とゞこほらせ給はねば、この事なし。
下ざまより事起りて、させる本説なし。大原の里の甑を召すなり。古き宝蔵の絵に、賎しき人の子産みたる所に、甑落したるを書きたり。
下ざまより事起りて、させる本説なし。大原の里の甑を召すなり。古き宝蔵の絵に、賎しき人の子産みたる所に、甑落したるを書きたり。
【現代語訳】
天皇の正妻や二号、愛人が出産する際に、炊飯器を転げ落とす儀式は必須ではない。後産が長引かないようにする、単なるまじないなのだ。安産であれば必要ない。
元は庶民の風習であり、何の根拠もない。大原の里から炊飯器を取り寄せるのだが、これは「大原」と「大腹」の駄洒落である。宝物殿に安置してある古いタブローに、貧乏人の出産時に、炊飯器を転がしている様子が残っている。
元は庶民の風習であり、何の根拠もない。大原の里から炊飯器を取り寄せるのだが、これは「大原」と「大腹」の駄洒落である。宝物殿に安置してある古いタブローに、貧乏人の出産時に、炊飯器を転がしている様子が残っている。
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。