岸田首相の自民党総裁選立候補断念と、次期総裁選におけるアメリカの圧力と影響について解説したい。日本の政治に対するアメリカの圧力は大きい。
岸田の立候補断念と総裁選における米国の圧力
岸田首相は自民党総裁選の立候補を断念し、来月12日告示、27日投開票の日程で総裁選が行われることが決定した。
告示から投票日前日までの期間は15日間と、総裁選挙のいまの規程が設けられて以降最も長く、自民党としては論戦を充実させ、信頼回復につなげたい考えだ。
派閥を解消した後の初めての総裁選とあって、現在10人程度の候補者が乱立するのではないかと見られている。
こうした状況だが、やはり気になるのは、岸田の実質的な辞任でもある総裁選立候補断念、さらに次期自民党の総裁の決定にアメリカ、
特に「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる軍産複合体をバックにした安全保障系の集団がどの程度関与しているかである。
アメリカの圧力を示す「CSIS」のレポート
この圧力が分かる格好の材料がある。それは、「CSIS(戦略国際問題研究所)」が発行するレポートである。
ちなみに「CSIS」は、リチャード・アーミテージや故ジョセフ・ナイ、またマイケル・グリーンなどの「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれ、
歴代政権に仕える日本担当チームが結集しているシンクタンクだ。現在のバイデン政権の対日外交政策にも大きな影響力がある。
そのため「CSIS」が日本に向けて出すレポートは、アメリカの意向を伝えるものとして理解され、日本の歴代の政権に対して影響力を持っている。
「CSIS」がこれまでどんなレポートを日本に対して出してきたのかその経緯を見ると、影響力の大きさが分かる。
すでに2年以上前の第605回の記事で紹介したが、重要なので再度掲載する。
安倍首相の辞任の少し前に出されたレポート
2020年8月28日、安倍首相は大腸炎の悪化を理由に突然と辞意を表明し、第4次安倍内閣は総辞職した。
その少し前の7月30日、「CSIS」は「日本における中国の影響:どこにでもあるが特定のエリアはない」という題名のレポートを発表した。
これは安倍政権下における中国の影響力を調査したレポートだ。
このレポートは、安倍政権を特に批判したものではない。レポートは日本における中国の影響力を調査したものだ。
中国はアメリカやヨーロッパをはじめあらゆる国々に経済的、政治的、そして文化的な影響力を強化する政策を実施しており、その多くはかなり成功している。
たとえば、中国政府が世界各地に開設した中国の文化センター「孔子学院」は、特にヨーロッパ諸国で中国の文化的な影響力の拡大に貢献している。
今回の「CSIS」のレポートは、中国のこうした文化的影響も含め、日本における中国の影響力を文化的、政治的、経済的な側面から調査して、分析したものだ。
このレポートは、日本における中国の影響力が限定的であるとしながらも、日本の政界における中国の影響については一部懸念を表明している。
中国の影響下にある政治家や高官が、安倍政権の内部にいるという批判だ。レポートには次のようにある。
「秋元司議員は自民党内部の親中派、二階派に所属している。この派閥は、別名「二階・今井派」とも呼ばれている。
内閣総理大臣補佐官で元経産省官僚の今井尚哉は、中国、ならびにそのインフラ建設の計画にはソフトなアプローチを採るべきだと安倍首相を説得した。
また、元和歌山県知事で和歌山の動物園に5匹のパンダを持ってきた二階幹事長は、2019年4月には特命使節として中国に派遣され、習近平主席と会見した。
そして、アメリカの(反対)意見にもかかわらず、日本が中国の「一帯一路」に協力すべだと主張した。二階は習近平主席の訪日も提唱した」
これは安倍政権そのもの対する批判ではないものの、安倍政権の内部には親中派が存在し、中国寄りの政策を実施しにているとする懸念を表明したものだ。
このレポートが出たのは2020年7月30日である。8月に入ると、それにタイミングを合わせたかのように、安倍首相辞任の可能性を探る記事や情報が急に増えた。
このタイミングを見ると、辞任は、このレポートで表明された安倍政権への懸念に対応したものである可能性が高い。
さらに過去のレポートの影響力
「CSIS」のレポートの影響力を示す例はこれだけではない。さらに過去にさかのぼると、多くの事例がある。その中でも代表的な例を紹介しよう。
2014年10月3日、「CSIS」は、「安倍の危険な愛国主義:なぜ日本の新しいナショナリズムは地域と日米同盟に問題となるのか」というレポートを発表した。
これは当時の安倍政権のナショナリズムが東アジア地域の安全保障、及び日米同盟を損なう可能性を警告したレポートだ。そこには次のような警告がある。
「残念ながら現在の東アジアの情勢では、安倍のナショナリズムはアメリカにとって大きな問題である。
もし安倍のナショナリズムが東シナ海において不必要に中国を挑発したりするならば、信頼できる同盟国というワシントンの日本に対する見方を損なう恐れがある」
そして、これを回避するために韓国との間にある「従軍慰安婦」の問題を解決するように提案をする。
「もし安倍の「従軍慰安婦」やその他の問題に対する姿勢が東京とソウルとの協調を損なうのであれば、この地域の軍事的な不確実性に対処するアメリカの能力を弱め、
同盟の強化に向けたアメリカの外交努力を損ねることになりかねない」
安倍政権の反応は速かった。このレポートが出た3週間後、日本政府は「国家安全保障会議」の谷口氏を特使として韓国に派遣し、この問題の解決の糸口を探った。
その後、日韓、日中は外相レベルの会談を実施し、懸案だった日韓、ならびに日中韓の首脳会談の実現した。
そして、2015年12月、協議を重ねた日韓両国は慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した「慰安婦問題日韓合意」を締結した。
もちろんこの合意は、残念ながら次のムン・ジェイン政権によって破棄されたものの、この当時は懸案だった慰安婦問題の最終的な解決として高く評価された。
「東京はこれらの政治問題の重要性をよく認識し、可能な分野で歴史問題の緊張を和らげる努力をすることは重要だ。
(中略)これは特に日韓関係で重要である。もし日韓両国が前向きであれば、大きな前進が期待できる。
日本が発揮する柔軟性は、日本の保守層がナショナルプライドを放棄することにはならない」
つまり、日韓関係を改善するために、安倍政権のほうから「従軍慰安婦」問題を解決せよということだ。
岸田立候補断念前に出されたレポート
では、今回はどうなのだろうか?
実は岸田が総裁選立候補断念を表明する1カ月と少し前の7月11日、やはり「CSIS」から日本の安全保障政策に向けたレポートが出されていた。
それは、次のレポートである。
・1989-2000:失われた目的と取り戻した目的
冷戦後、北朝鮮の核・ミサイル開発など身近な安全保障上の脅威が増大したため、日本は従来の自衛の概念を拡大し、地域の安全保障により重点を置くようになった。
しかし日本の連立政権は、米国との同盟関係よりも多国間外交とアジア重視を強調し始めた結果、日米同盟は不安定化する。
しかし、ワシントンは東京との対話を開始し、日米同盟の将来像を明確にし、日米関係の重要性に関する両首脳のコンセンサスを再構築した。
・2000-2012:対テロ戦争とアジアへのリバランス
2001年9月11日のテロ攻撃は、同盟協力の新たな章の幕開けとなる。小泉純一郎首相率いる日本は同時多発テロ後、米国を支援するために迅速に動く。
日本は海上自衛隊の艦船をインド洋に派遣する「特別措置法」や、約600人の陸上自衛隊員をイラクに派遣する「特別措置法」を可決した。
どちらの「特別措置法」も歴史的なものであり、自国の地域を超えた国際安全保障における日本の役割を促進するものだった。
日米安全保障協議委員会(2+2)プロセス-米国務・国防長官と日本の担当官との会合-は、日米同盟の進展の原動力となった。
しかし、鳩山由紀夫首相が民主党の初代首相に選ばれた。鳩山首相は「東アジア共同体」構想を外交政策の中心に据え、経済・安全保障協力を推進する多国間外交を重視した。
だが、オバマ大統領の「アジアへのリバランス(再均衡)」の下で、米国が地域情勢により集中的に取り組むという戦略的決定を下しため、同盟関係は調整され強化された。
日米安全保障パートナーシップの進化
https://features.csis.org/evolution-of-the-us-japan-security-partnership/
これはかなり短いレポートで、戦後の日米同盟の経緯を振り返りながら、2024年以降の同盟関係を展望したものである。
次項にその内容を簡単にまとめた。
・1951-1960:戦略的駆け引き
安保条約に基づき、日本は 国際連合憲章第7章第51条に基づく自衛権を保持した。
しかし日本は、戦後の占領下で米国によって制定された新憲法第9条の下で、主権的権利としての戦争も放棄した。
軽武装で経済成長に専念するという「吉田ドクトリン」を採用。専守防衛でアメリカが日本の防衛義務を負う。
・1960-1989:冷戦
冷戦状態でソ連の脅威が高まる中、日本がシーレーン防衛を担当する必要に迫られるも、日本は「吉田ドクトリン」の強化で対抗。
高度経済成長とバブル期の成長から日米貿易摩擦が深刻化し、同盟関係に影を落とす。
・2012-2024:同盟の統合
安倍政権は、限定的な状況下での集団的自衛権の行使を可能にするため、憲法第9条の解釈を変更した。
そして、米国に対する攻撃が日本の生存を脅かす場合、日本は米軍の作戦を直接支援することができるようになった。
新ガイドラインによって、日米両軍はより広範な事態を想定し、相互運用性を強化することが可能となった。
しかし、多くの点で、日本の防衛政策に対する戦後の制約は、安倍首相の時代になってもそのままであった。
一方岸田首相は、米国との防衛協力強化へのコミットメントを明確に示し、日本の防衛費を3倍に増額した。
以上である。そして、このレポートの結論には以下のようにある。
「日米両国は、インド太平洋の安定と秩序を維持するため、二国間および他のパートナーとの間でより統合された同盟関係を構築している。
憲法第9条をはじめとする重要な制約にもかかわらず、日本は吉田ドクトリンから脱却し、国と地域全体の安全を確保するために防衛への投資をさらに増やしていくだろう。
戦後の日米同盟の歴史が何らかの指針になるとすれば、このプロセスは、将来その秩序を損ないかねない新たな課題に対応して進化し続けるだろう」
憲法9条改正への圧力か?
さて、このレポートを見ると、憲法9条の制約のもと、専主防衛によって軽武装に止め、経済成長に専念する「吉田ドクトリン」から日本を脱却させ、
自衛隊を米軍と一体化させて、日本をアメリカの世界戦略に統合する過程を明白に示している。
そして、この過程では、憲法9条の存在がさらなる統合への障害になっていることが示されている。
このレポートが、岸田首相の総裁選立候補辞退の直接的な引き金になってかどうかは分からない。
ただ、憲法9条の改正がない限り、自衛隊を米軍にさらに統合して一体的に運用する次の段階には進むのは困難だと見ている可能性は大きい。
ということでは、20%台まで支持率が低迷した岸田政権では、憲法改正はまったく望めない。
ということでは、「CSIS」の「ジャパン・ハンドラー」が憲法改正ができる政権への交代を望んだとしても不思議ではない。
いずれは子飼いの小泉進次郎か?
では、憲法改正を実現できるものとして「ジャパン・ハンドラー」が望む人物は誰なのか?今回ではないかもしれないが、
いずれは首相が小泉進次郎であることを望んでいるのではないかと思う。
それというのも、小泉進次郎は、アメリカの軍産複合体・安全保障系勢力の子飼いである可能性が大きいからだ。
すでに広く知られているが、小泉進次郎の経歴を見るとその可能性がはっきり分かる。
1988年4月
関東学院六浦小学校入学、
以来中学・高校・大学と関東学院で過ごす
2004年3月
関東学院大学経済学部卒業
2006年5月
米国コロンビア大学大学院政治学部修士号取得
2006年6月
米国戦略国際問題研究所(CSIS)研究員
2007年9月
衆議院議員小泉純一郎秘書
2009年8月
衆議院議員
まず、偏差値40程度の関東学院大学から、超一流のコロンビア大学大学院への入学というのはちょっと難しいのではないかと思う。
いずれにせよ、コロンビア大学は、アメリカの情報機関と深く連携している大学のひとつである。コロンビア大学は、そうした大学の中心でもある。
「ジャパン・ハンドラー」の大御所のひとりであるジェラルド・カーティスは、コロンビア大学の教授である。
また、小泉進次郎は「CSIS」の研究員であった。このような経歴を見ると、小泉進次郎は「ジャパン・ハンドラー」の軍産複合体・安全保障系勢力と強いつながりがあり、
実質的に彼らの子飼いのような存在である可能性は否定できないように思う。
ということでは、今回の総裁選では比較的に短期の政権を担当する人物が選ばれるものの、その後はやはり小泉進次郎が自民党総裁、
そして首相になるように、誘導されるのではないかと思う。この結果、日本のアメリカへの隷属化はさらに深化するだろう。
ただ、ここに希望があるとすれば、トランプ政権の成立であろう。トランプは、「ジャパン・ハンドラー」を実質的に排除した。
トランプ政権になると、日米同盟の様相も大きく変化することだろう。それに期待したい。
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