今宵楽しむのは、ジョナス・デスコットとアンサンブル・レザルゴノーツによるジョージ・フレデリック・ヘンデルの「主は言われた」(HWV232)です。「主は言われた」はイタリア時代のヘンデルの傑作で、1707年7月16日の「カルメル山の聖母」の祝日の晩課で初演されたとされます。一般的にその演奏は、壮麗な方向へ傾斜し、おおきめな編成でおこなわれます。
しかし、デスコットたちのアルバム「Händel, Lotti: Dixit Dominus」(Aparte Music AP361)に収録された「主は言われた」は、対照的にすべてパート1名(通奏低音をのぞく)という小さな編成での録音。じゅうらいの「主は言われた」(ひいてはヘンデル)のイメージを大きく変える演奏です。歌手の適性にはややバラツキがありますが、演奏そのものもなかなかきかせます。
ヘンデルの曲中でもっとも好きな第8曲、「彼は道のほとりの川からくんで飲み、それによって、そのこうべをあげるであろう」も美しい演奏。ただし、パート1名ゆえに、ソロ(第1、第2ソプラノ)とカペッラ(テノールとバスのトゥッティ)の音楽的遠近には欠けるところもあるかと。それはともかく、デスコットたちの録音は歓迎すべき挑戦(アンサンブル名にもふさわしい)といえます。録音は2023年です。