漆の実のみのる国〈上〉〈下〉
(文藝春秋)
藤沢 周平 (著)
藤原周平、最後の作品 1997年(平成9)1月(69歳)
平成9年5月20日第1刷
平成9年6月10日第4刷
内容(「BOOK」データベースより)
貧窮のどん底にあえぐ米沢藩。一汁一菜をもちい、木綿を着て、藩政たてなおしに心血をそそいだ上杉鷹山と執政たち。政治とは、民を富まし、しあわせな日々の暮しをあたえることにほかならない。藤沢さんが読者にのこした遺書とでもいうべきこの長篇小説は、無私に殉じたひとびとの、類いなくうつくしい物語である。
年末年始の奄美は寒かった。きょうも寒い。しかし、寒いと言ってもこのくらいですむのなら、ある程度貧しくても・・・などと考えながら読んだ。雪に閉ざされた地域の冬の厳しさは、歳ををとるににつけ、想像するだけでも 身にこたえるようだ。
長年の貧窮にあえぐ藩財政を立て直すため、10年後の収入を見込んで行なった、漆木百万本、桑木百万本、楮百万本を植栽事業は、天候不順のため思うように行かない。
天候不順ばかりではない、ワガ薩摩藩などの西南各藩が行なった専売事業である品質のよいハゼ蝋に押され市場価格も低迷する。奄美や沖縄にはリュウキュウハゼという上質のロウがとれる木があったのだ。
この小説と時代は少しずれるが、薩摩藩は、この米沢藩とは桁違いの借金の整理を奄美の砂糖の専売などであげた利益で行なった上、幕末、維新の雄藩といわれるほどの経済力をもつにいたった。
この小説では米沢藩の財政は最後までそのような展開にはならなかった。財政危機を打開した名君としての上杉鷹山のイメージを求めて読むと、小説のラストは落胆してしまう。しかし、そこにこの小説の深みがあるのだろう。それは現在の世の中に直結する。奄美の歴史に引き写しながら読んでもなかなかおもしろい。
漆の実のみのる国〈上〉 (文春文庫) 価格:¥ 540(税込) 発売日:2000-02 |
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