(5月6日のシリア・バニアスでのデモ風景 翌日5月7日にはダルアーを包囲していた政府軍戦車がバニアスを急襲、反政府デモ隊は人の盾で前進を阻もうとしたとの報道がありました。 “flickr”より By Syria-Frames-Of-Freedom http://www.flickr.com/photos/syrian-freedom-captured/5736129975/ )
【政治犯恩赦・・・不十分で遅すぎる】
イエメンではサレハ大統領が治療目的でサウジアラビアに出国。これが亡命なのか、帰国するのかでいろんな憶測がなされています。
もうひとつの反政府行動が火を噴いている国が、アサド大統領が強権支配するシリアです。
シリアについては、激化する治安当局と反体制デモの衝突について、5月5日ブログ「シリア 徹底弾圧に突き進む治安当局、虐殺再現の懸念も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110505)で、また、アサド政権の世俗主義を支持する都市部若者も少ないことを、5月8日ブログ「シリア 都市部若者にはイスラム主義の強いデモ勢力への反発も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110508)で取り上げました。
その後も、反政府抗議行動による犠牲者は増え続けています。
アサド政権側は、政治犯全員に恩赦を与える大統領令を出し、反体制デモ懐柔を行っていますが、反体制派の批判は収まっていません。
****シリア大統領が全政治犯に恩赦、反体制派は反発*****
シリアのバッシャール・アサド大統領は5月31日、政治犯全員に恩赦を与える大統領令を出した。恩赦の対象には反体制運動で中心的な役割を果たしているイスラム原理主義組織ムスリム同胞団のメンバーも含まれるとしている。国営シリア・アラブ通信が伝えた。
多数の死者が出た大規模な反体制デモから2か月後に出された大統領令について、民主化を協議し民衆蜂起への支持を表明するためトルコ・アンタリヤに集結していたシリアの各反体制団体は、「不十分で遅すぎる」としてただちに非難した。
民主化を求めて2005年に結成された改革派団体「ダマスカス宣言」の活動家は、「われわれは恩赦を数年前から要求してきた。遅すぎる」と話した。
ムスリム同胞団の団長は、大統領令を一蹴し、「われわれはシリアの人民とともに大統領の退陣を要求していく」と語った。
シリア人権連盟の代表者は、「われわれが何年も前から要求してきた恩赦がようやく実現した」と歓迎した上で、シリア政府に対し「人権への一層の配慮」を求めた。また、ムスリム同胞団への加入は犯罪であり、死刑に相当するとした大統領令49号の撤廃を求めた。ただし、実際には長期の禁固刑への減刑が慣例化しているという。
政府寄りのシリア紙アルワタンによると、この直前には、与党バース・アラブ社会党の幹部が、国民対話のための委員会を48時間以内に設置すると発表した。幹部によると、委員会には全政党のほか、政治・経済・社会的背景が異なるさまざまな国民が参加するという。【6月1日 AFP】
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【「ムチで打たれ、電気を流された跡が残り、首の骨が折られ、性器が切断されていた」】
反体制デモ参加の13歳少年が拷問によって死亡したとされる事件が明るみに出たことで、住民の怒りは更に強まっています。
****シリア:デモ参加の13歳、拷問死の疑い…政権は否定*****
シリアのアサド政権による民主化要求デモへの弾圧で、子どもに対する拘束や拷問が問題化している。拷問死したとされる少年について、反体制派は「当局の残虐行為の殉教者」と攻勢を強めているが、政権側は「にせ情報だ」と反論、大統領が事実関係の調査を約束するなど、国民の怒りを抑え込もうとしている。
国連児童基金(ユニセフ)によると、シリアの弾圧では、未確認ながら30人の子どもが死亡したとの情報がある。最近注目を集めているのが、民衆蜂起の発火点である南部ダルアーで死亡したハムザ・ハティーブ君(13)の事件だ。
シリア人でつくる複数の人権団体によると、ハムザ君は4月29日にデモに参加して拘束され、5月下旬に遺体となって家族のもとに返された。体には「ムチで打たれ、電気を流された跡が残り、首の骨が折られ、性器が切断されていた」といい、拷問死が疑われている。
一方、シリア国営テレビは5月31日、全面的に反論する番組を放映。ハムザ君は「デモに参加し、4月29日に銃撃され死亡した。拘束も拷問もない」と主張した。アサド大統領が遺族と面会し、調査を約束したとの情報もある。
ユニセフは5月31日、「シリアで子どもが負傷、拘束、殺害されたとの報告が増えている」と指摘。3月中旬にダルアーで始まった民主化要求デモも、政権批判の落書きをしたという少年15人が拘束されたのがきっかけだった。シリアによる弾圧では1000人以上が死亡、1万人が拘束されたとされる。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部ニューヨーク)は1日、50人以上の目撃証言に基づくダルアーでの弾圧状況についての報告書を公表。「当局の行為は人道に対する罪だ」と非難した。【6月2日 毎日】
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【弾圧の手も緩めず】
収まる気配のない反体制デモに、政権側は弾圧の手を緩めていません。
****シリア全土で反体制デモ、発砲で市民63人死亡****
シリア全土で3日、アサド大統領の強権支配に抗議する反体制デモが行われ、ロイター通信が人権団体関係者の話として伝えたところによると、中部ハマなどで治安部隊の発砲によって市民63人が死亡した。
ハマのデモには数万人が参加し、死者は53人に上った。
3日のデモは、南部ダラア近郊で13歳の少年が治安当局の拷問で死亡したとされる事件への抗議を込めて「子供たちの金曜日」と名付けられた。国連児童基金(ユニセフ)は、シリアでは子供30人以上がデモに参加して死亡したとしている。
アサド大統領は1日、数百人の政治犯を釈放するなどの懐柔策を見せているが、弾圧の手も緩めず、市民の反発は一層強まっている。【6月4日 読売】
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ハマはかつて、シリアで非合法化されているイスラム原理主義組織ムスリム同胞団の地盤だったことで知られる都市で、1982年には、現大統領の父親であるハフェズ・アサド大統領(当時)が、同胞団を中心とする武装グループを武力鎮圧し、数千から数万人の死者が出た「ハマの虐殺」が起きた場所です。
【国際社会の反応】
国際社会もこうしたシリア国内の犠牲者増大を懸念し、国連安保理での非難決議の動きもありますが、シリア友好国ロシアの反対などで実現していません。
****国連安保理:シリアのデモ弾圧非難決議案を再提出*****
民主化要求デモへの武力弾圧が続くシリアに対し、国連安全保障理事会の英仏独とポルトガルの4カ国が非難決議の草案をまとめて25日、他の理事国に配布した。国連外交筋が明らかにした。本格協議は30日以降の見通し。
この4カ国は4月にも非難声明の採択を目指したが、シリアの友好国ロシアなどの反発で失敗しており、今回もロシアが反発する可能性が高い。
草案は、武力弾圧を「人道への犯罪で地域の平和と安定への脅威だ」と指弾。アサド政権に対し政治犯の即時釈放や武力弾圧の即時停止を求めている。
シリアではデモ弾圧で3月以降、少なくとも900人が死亡している模様だ。【5月26日 毎日】
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ただ、アメリカやイスラエルなどには、シリアがハマスやヒズボラなどイスラム過激武装組織とのつながりが強く、これら組織を抑える役割も果たしていることから、アサド政権の崩壊による混乱は本音としては望んでいない・・・との事情もあることは以前のブログでもとりあげたところです。
【武装ギャングの襲撃? 治安機関内で反乱? 発砲を拒んだ警官を処刑?】
そうしたなかで、6日、「武装集団」により警官120人が殺害されたとの報道がなされています。
****シリア:治安部隊が襲撃受け、警官ら120人死亡****
シリア国営テレビは6日、反政府デモが続く同国北部ジスル・アッシュグールで治安部隊が武装勢力による襲撃を受け、警官ら120人が死亡したと報じた。シリアで伝えられた一連の衝突で、武力による反乱としては最大規模とみられる。シャール内相は「われわれは断固として対処する」と弾圧を予告した。
AP通信は、これまで平和的なデモが中心だった反政府運動にとって転換点になると指摘した。情報は錯綜(さくそう)しており、具体的に誰が殺害したのかは明確ではない。【6月7日 毎日】
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シリア国営通信は「数百人の武装ギャングが政府機関などを襲撃したため、市民の救助に向かった治安部隊員らが6日、待ち伏せ攻撃を受けた。市街地でもギャングが機関銃や手投げ弾などを使って治安機関の拠点を攻撃、銃を乱射した」「武装集団は虐殺を行い、死体をバラバラに切断したり川に投げ込んだりしている。政府ビルにも放火した」と報じています。
一方、“在外シリア反体制派からは「実際は治安機関内で反乱が起き、市民デモへの発砲を拒否した部隊員と政権支持派の戦闘」という情報が出ている”【6月7日 朝日】との報道もあります。
また、“ある活動家はキプロスの首都ニコシアで同日、AFPの取材に対し、「デモ隊への発砲を拒んだ警官が処刑されたようだ。治安当局本部で反乱が起きた」と話した。”【6月7日 AFP】との報道も。
治安部隊“120人”が死亡という大規模被害だけに、いろんな憶測が広まっていますが、真相はわかりません。