孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海、依然続く緊張  ベトナム漁船に中国監視船が威嚇射撃

2011-06-03 20:55:47 | 国際情勢

(今回同様に南シナ海領有権問題が緊張した07年12月、ベトナム・ハノイで行われた“異例”の対中国抗議デモの様子 
“デモ参加者の多くはベトナム国旗と同じデザインのTシャツを着用。Tシャツには「中国の覇権はアジアを脅かしている。(中国の)侵略に気を付けよう」といった言葉が書かれていた。「われわれ(ベトナム)は小さいが、中国の侵略には屈しない」との横断幕も掲げられた。
一方、ホーチミンの中国総領事館近くの公園でもデモがあり、参加者は「団結して、中国の拡張を阻止しよう」などと主張した。
ベトナムでは普通、抗議行動は直ちに弾圧されるが、今回の反中国デモは検挙されていない。”【07年12月16日 時事】
写真は“flickr”より By super_beckly  http://www.flickr.com/photos/9533345@N05/2114535241/ )

問題がくすぶる中国・フィリピン
5月24日ブログ「南シナ海 領有権主張を強める中国 難しいASEAN諸国の対応」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110524)で、南シナ海での広範な領有権の主張を強めている中国とASEAN加盟の関係諸国、特にフィリピンとベトナムの事例を取り上げましたが、その後もトラブルが続いています。

先ずフィリピンの方ですが、梁光烈・中国国防相が先月23日フィリピンを訪問、アキノ大統領との会談で問題棚上げが図られました。
****中国国防相と比大統領、対話継続で一致 南シナ海問題****
フィリピン訪問中の梁光烈・中国国防相が23日、アキノ大統領を表敬訪問し会談した。両国の領有権主張が対立する南シナ海問題については緊張緩和に向けて対話を続けることで一致した。

大統領府報道官によると、両者は、3月に起きたフィリピン資源探査船の中国艦艇による「妨害」など特定の事件には触れなかった。梁国防相は「両国間の問題は過ぎつつある」と述べたという。南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島などの領有をめぐる両国の主張は大きく隔たったままだが、両国が今秋にも実現を目指すアキノ大統領の初訪中に向け、問題を棚上げした形だ。【5月24日 朝日】
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しかし、5月31日には、南沙諸島で中国が建造物新設を始めたとして、フィリピン外務省が抗議しています。
****中国が南シナ海に建造物新設 フィリピンが抗議*****
フィリピン外務省は1日、中国と領有権の主張が対立している南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で中国が建造物の新設を始めたとして、中国大使館員を5月31日に呼んで抗議したことを明らかにした。

同省によると、フィリピン・パラワン島中央から西北西125カイリ(約232キロ)のイロキス礁付近で先月、中国の海軍艦艇と海洋調査会社の船が建設資材を下ろし、杭とブイの設置を始めたのが確認された。
フィリピンは同礁を自国の排他的経済水域(EEZ)内としており、ロサリオ外相は「2002年に中国と東南アジア諸国連合が南シナ海での新たな建設行為をしないと合意したことに反する行為だ」と中国を強く非難した。【6月1日 朝日】
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中国がベトナム探査船の調査用ケーブルを切断
ベトナムとは、対立はより深刻です。
ベトナムの探査船が中国監視船の妨害を受け、調査用ケーブルが切断されたとして、ベトナム側は強く中国を非難しています。領有権を主張する中国は、ベトナムこそ“侵犯行為”を止めるべきと応じています。

****南シナ海:ベトナムが中国批判 探査船妨害され****
ベトナム外務省によると、南シナ海の同国の排他的経済水域(EEZ)内で5月26日、調査活動を行っていたベトナムの探査船が中国監視船の妨害を受け、調査用ケーブルを切断された。ベトナムは「重大な主権侵害」と強く非難し、南シナ海領有をめぐり対立する中国とベトナムの緊張が高まっている。

ベトナム側によると現場は、同国中部フーイエン省沖約220キロの地点。資源探査活動中の国営石油会社の探査船が中国の監視船3隻の妨害を受けた。現場は中国とベトナムなど東南アジア各国との間で領有争いが起きている南沙、西沙諸島の中間に当たる海域。

中国の梁光烈国防相は5月23日、フィリピンのアキノ大統領との会談で南シナ海問題の平和的解決を確認したばかり。ベトナム外務省のグエン・フオン・ガー報道官は29日に緊急に記者会見し、事件が起きたのは中国と領有を争う海域ではなく、完全にベトナムのEEZ内だと強調。「中国は平和的解決を訴えながら、(自身の行動で)状況を複雑化させている。ベトナム海軍は領土保全のためあらゆる手を尽くす」と警告した。

◇中国「正常な監視活動」
ベトナム外務省が南シナ海で同国の探査船が中国監視船に妨害されたと発表したことについて、中国外務省の姜瑜副報道局長は31日、「正常な監視活動であり、ベトナム側は直ちに侵犯行為をやめるべきだ」と反論した。【5月31日 毎日】
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中国が、表向き領有権問題の2国間による「平和的解決」を呼びかけながら、その実は実力行使により力で各国を封じようとする“ダブルスタンダード(二重基準)” への批判もあります。

****中国、二重基準を露呈 越探査船への実力行使正当化****
南沙(英語名・スプラトリー)諸島などの領有権が争われている南シナ海で、中国がベトナム探査船の調査用ケーブルを切断した事件は、領有権問題の2国間による「平和的解決」を呼びかけながら、その実は実力行使により力で各国を封じようとする、ダブルスタンダード(二重基準)ぶりを如実に示すものだ。

国営ベトナム通信などによると、26日に中国の妨害があった海域は海南島の南600キロ、ベトナム・ニャチャンの東方120キロ。ベトナム国営石油会社ペトロベトナムの石油・天然ガス開発鉱区だった。
同社の探査船が中国の監視船3隻に妨害、威嚇された末、調査用ケーブルが切断されたことについて、同社幹部は「ケーブルは水深30メートルのところにあり、これを切断するには機材が必要で、切断は用意周到に計画されたものだ」とみる。

ベトナム政府は「ベトナム海軍は主権、領海保全のために必要ないかなる行動もとる」(外務省報道官)と中国側を強く牽制(けんせい)。また、中国は領有権問題の「平和的解決」を呼びかけながらも、実際の行動は情勢をいっそう複雑なものにしていると批判している。
これに対し、中国外務省は「中国が管轄する海域での正常な海洋取り締まり活動だ。この海域でベトナムが石油・天然ガスの(探査)活動を行うことは、中国の権益を損なう」と、実力行使を正当化している。

両国はベトナムが今月、国会議員選挙を南シナ海の実効支配地域でも実施したことをめぐり対立していた。また、中国は3月に南沙諸島でフィリピンの石油探査船を妨害。アキノ大統領は今月23日、中国の梁光烈国防相とマニラで会談した際に「南シナ海の緊張が高まれば軍拡競争を招く」と牽制している。【5月31日 産経】
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中国監視船がベトナム漁船を威嚇射撃
更に、ベトナム漁船が中国監視船から威嚇射撃を受けたという穏やかでないニュースも入っています。
****中国監視船、ベトナム漁船に威嚇射撃…南シナ海*****
ベトナム国営メディアは、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島周辺で操業中のベトナム漁船4隻が5月31日、中国国家海洋局の監視船とみられる3隻から威嚇射撃を受けたと伝えた。
けが人はなかったが、中国船は漁船が1日朝に同海域を離れるまで並走した。

漁船の船長は同紙に「船の近くに発砲された。中国船は漁船前方で停船し、衝突しそうになった」と話した。南シナ海では5月26日、ベトナムの資源探査船が中国監視船に調査用ケーブルを切断されたとしてベトナムが中国政府に抗議した。(後略)【6月2日 読売】
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おそらく関係諸国のなかで、中国と衝突する可能性が一番強いのがベトナムでしょう。
同じ社会主義国で、同じような開放経済政策をとる中国とベトナムですが、歴史的背景もあってベトナム側には根深い中国への警戒心があります。“大国”中国に腰が引けた感もある他国と異なり、ベトナム戦争でもアメリカに勝利したベトナムは、一歩も引かないところがあります。
実際、両国は冷戦体制のなかで戦火を交えた経験もあり、南シナ海での漁船操業ではこれまでも衝突を繰り返しています。
もちろん現実には、中国との経済関係を考え、実利を探る動きとはなりますが。

少し覚めた目で見ると、尖閣諸島沖中国漁船問題や東シナ海ガス田開発問題で対立した日本と中国ですが、さすがに中国も“漁船に威嚇射撃”といった手荒なことは日本にはまだ行っていません。
多少なりとも、大きな経済関係を抱える日中関係に配慮もあるのでしょう。
逆に言えば、それほど関係が強くない国に対しては、容赦ないところがあります。

【「太平洋国家」と「太平洋共同体」】
中国の勢力拡張を牽制するアメリカは、ゲーツ米国防長官が、財政赤字削減のなかにあっても、今後もアジア太平洋地域での米軍の展開能力は維持されるとの考えを示し、「アジアのパートナー国家や同盟国との関係を強化し続けていく」と発言しています。

****米国:アジア太平洋の米軍展開能力維持 ゲーツ国防長官*****
ゲーツ米国防長官は1日、シンガポールで行われる、防衛担当閣僚による「アジア安全保障会議」(3~5日)出席に先立ち、「米国の予算が(財政赤字削減のため)削減されるようなことがあっても、米国がアジアにおける責務をなおざりにすることはない」と述べ、今後もアジア太平洋地域での米軍の展開能力は維持されるとの考えを示した。

ゲーツ氏は「米国は太平洋国家であり、これからも太平洋国家であり続ける」と強調。「アジアのパートナー国家や同盟国との関係を強化し続けていく。その意味で米国の努力に全く怠りはない」と語った。
立ち寄ったハワイで記者団に語った。
ゲーツ長官は4日に予定されている演説でも、米国のアジア重視の姿勢を強調するものとみられる。北沢俊美防衛相や中国の梁光烈国防相との会談も予定されている。【6月2日 毎日】
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71年の極秘訪中以来、50回以上にわたり中国を訪ねているというアメリカの元国務長官キッシンジャーは、新著「中国論」で、“現代の中国の指導者たちは、孔子の儒教思想にも強い影響を受けている。いま中国指導部が目指しているのは、世界支配ではなく、儒教思想の「大同(大いなる調和)」だ。”と指摘し、アメリカは「中国の封じ込めや民主国家圏の確立」ではなく、中国と共に「太平洋共同体」を築くことを目指すべきだと述べているそうです。【6月1日号 Newsweek日本版より】

「大同(大いなる調和)」とは何でしょうか?中国版大東亜共栄圏みたいなものでしょうか?
中国を頂点にした朝貢属国のピラミッド的国家間秩序でしょうか?
冷徹な現実主義者であるキッシンジャーの目には自国の利害と相手大国の主張が映るだけで、周辺小国の主張などは映っていないようようにも思えます。
米中“大国”間のパワーゲームのなかで、周辺国の利害が軽んじられることがないように願いたいものです。

コメント
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