孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ総選挙  与党が予想どおり圧勝するも、3分の2には届かず

2011-06-13 20:39:30 | 国際情勢

(選挙期間中の街かど 自信に満ちたエルドアン首相の大きな顔写真 バスには野党CHPの文字も “flickr”より By kalakeli  http://www.flickr.com/photos/kalakeli/5775316148/ )

【「交渉と合意形成を通じて新憲法を制定するよう、国民から託された」】
12日に行われたトルコ国会(1院制、定数550)の総選挙は、与党・公正発展党(AKP)が得票率を前回から更に上乗せし、予想どおり圧勝したものの、目標としていた新憲法を単独で制定できる3分の2の議席(367)に届かず、国民投票を実施する要件の330議席も下回る326議席と、現有議席を15議席減らす“微妙な”結果となりました。

****トルコ:総選挙で与党勝利 新憲法制定には議席足りず****
トルコ国会(1院制、定数550)の総選挙が12日投開票され、与党・公正発展党(AKP)が勝利した。開票率99.99%でAKPの得票率は49.9%で、前回07年選挙から3ポイント上乗せして02年から続く単独政権への「信任」を得た形。AKP党首のエルドアン首相が3期目再選となるのは確実な情勢だ。

ただ、獲得議席の326は前回の15減で、同党が目指した新憲法を単独で制定できる3分の2の議席(367)どころか、国民投票を実施する要件の330議席も下回った。今後は新憲法を巡る与野党協議に焦点が移る。

トルコ紙ヒュリエト・デーリー・ニューズ(電子版)によると、中道左派で世俗主義の最大野党・共和人民党(CHP)が得票率25.9%で135議席(前回112)、極右の民族主義者行動党(MHP)が13.0%で53議席(前回71)、無所属候補が6.6%で36議席(前回26)。当選した無所属候補はクルド民族主義の平和民主党(BDP)系の候補で、国会では同じ会派を形成する見通し。

エルドアン首相は同日夜、首都アンカラの党本部で「交渉と合意形成を通じて新憲法を制定するよう、国民から託された」と勝利演説した。現憲法は軍事政権下の82年に制定されており、どの政党も憲法を改める必要性を訴えた。

しかし、AKPが目指しているとされる、議院内閣制から大統領制への移行は「独裁を招く」などと野党が反対。CHPは、AKPの新憲法制定の意図や政権運営を「独裁的」と主張したほか、財政赤字と経常赤字が増大したことで「高失業率が続いた」と非難、AKPへの批判票を集めて議席を増やした。
BDP系の無所属候補も、少数民族クルド人の権利拡大に対する与党の取り組みを「不十分」だと訴えて議席を伸ばした。

これに対し、AKPは昨年の国内総生産(GDP)実質成長率が8.9%を記録した実績なども訴えたが、得票率は伸ばしながらも議席を減らした。【6月13日 毎日】
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【「イスラム政治の新たなモデル」】
トルコの選挙結果が注目されたのは、ひとつには、民主化運動が高揚する中東・北アフリカ諸国において、トルコの政治体制が「イスラム政治の新たなモデル」とみなされることが多いことにあります。

トルコにおいては、国民の99%がイスラム教徒ですが、1923年に成立したトルコ共和国の初代大統領ケマル・アタチュルクは国の近代化を進めるため「政教分離」などの原則を採り入れました。宗教については国家機関の宗務庁が監督。すべてのモスク(イスラム礼拝所)の導師を任命、導師は政治に関する発言は一切できないとされています。【6月12日 朝日より】
いわゆる“政教分離”を国是としています。

そうした中にあって支持率を伸ばしている与党・公正発展党(AKP)は、穏健なイスラム主義政党で、イスラムの価値観と政教分離をバランスさせながら国の舵取りを行っているとも見られています。
もっとも、与党・公正発展党(AKP)としては、現在より更にイスラム的価値観を重視する方向にもっていきたいのが本音で、その意味でも、新憲法を単独で制定できる3分の2の議席を獲得できるかどうかが注目されていました。

もうひとつ、トルコの政治が注目される理由は、高い経済成長率を実現させながら、外交的にもイスラム・アラブ社会と欧米社会の橋渡し的な立場で仲介にあたる機会が増え、その存在感が増していることにあります。

****トルコ政治 アラブが注目*****
きょう選挙 親イスラム与党躍進へ 宗教色抑制 好況追い風
トルコで12日、総選挙(一院制、定数550)が実施される。政教分離を国是とするが、好調な経済を背景に、親イスラム与党・公正発展党(AKP)の勝利は確実視されている。親イスラム政党の躍進は、民衆革命が成就したエジプトをはじめ国際社会の関心を集める。

「我々は国民に支持されて政権に就いた。道路建設を進め、高速鉄道を整備した。みなさんの収入も増えたでしょ」。3日、中部コンヤを訪れたエルドアン首相は数万人の支持者を前に力説した。
トルコの昨年の経済成長率は8・9%、1人当たりの国内総生産(GDP)は10年前の2倍以上の1万79ドルだった。「こんな好況を導いた政党はかつてなかった」。コンヤで部品工場を営むヤクプ・アクンさん(46)は話す。

反欧米を掲げたイスラム政党から派生したAKPだが、2002年の総選挙で政権を握ると、欧米と良好な関係を築いた。政治的には中道右派。イスラム法の導入はうたわず、「宗教は大事だけど厳しい宗教支配には反対」 (アクンさん)という多くの保守層の心をつかんだ。
5月中旬の世論調査によると、AKPの支持率は46%。世俗野党・共和人民党(CHP)の27%を引き離して独走状態だ。

ただ、AKPは禁酒といったイスラムの価値観を実現させたいとの意向もにじませる。結局は見送られたが、1月にはコンサート会湯などで24歳以下に酒を売ることを禁じる規制を設けようとした。
昨年10月には高等教育審議会が通達を出し、それまで禁じられていた大学での女性のスカーフ善用を認めた。
エルドアン首相は「青少年の保護は政府の義務だ」「服装を理由に学べないのは人権問題」と述べ、イスラムという言葉を使わずに正当化した。

総選挙では、現在331議席のAKPが3分の2(367議席)を取るかどうかが焦点。そうなれば単独での新憲法制定にも道が開ける。AKPは現在の議院内閣制から大統領制への移行も検討している。エルドアン首相自らが大統領に就任し、強大な権限を手にするためとの見方もある。
CHPのアティラ・力―卜議員は「もっともな理由で宗教の価値観を押しつけようとする」と批判。CHPの支持者も「いつか国民の自由が制限されるかも知れない」(美容室店長)と警戒する。

外交でも存在感
AKPは親イスラムという性格を生かして中東諸国と友好関係を強め、さらに欧米との「橋渡し」を担う。内戦状態に陥っているリビアをめぐっては、カダフイ政権と反体制側の仲介を試み、和平に向けた工程表を発表。反体制デモが続くシリア問題では、エルドアン首相はアサド大統領に電話して改革を求める一方、弾圧を逃れてトルコに越境した市民を保護する。

紛争当事者の双方と関係を保ち、対話を通じた解決を模索する姿勢は、09年に政治学者出身のダウトオール外相が就任してから顕著となった。バハチェシェヒル大学のシャヒン・アルパイ教授(政治学)は、「外交はAKP政権で最もリベラルな分野。周辺国の紛争を解決することは、トルコ自身に大きな利益となる」と話す。
一方、05年から始まったEU加盟交渉は停滞気味だ。AKP政権は加盟をあきらめたわけではないが、「欧州がトルコを受け入れようとしない」(アルパイ教授)。(イスタンブール=北川学)

穏健な改革の模範に
長期独裁政権が崩壊し、民主的な政権発足に向けた動きが本格化しているエジプトやチュニジアでは、AKPを「イスラム政治の新たなモデル」として注目している。

イスラムと政治の関係をめぐり、アラブ圈にはアルジェリアの苦い経験がある。複数政党制が導入された1991年の総選挙でイスラム政党「イスラム救国戦線」が圧勝したが、世俗主義を掲げる軍部が反発してクーデターを起こした。その後、テロが頻発、イスラム武装組織と軍部の衝突で多くの犠牲者が出た。
エジプトやチュニジアはこれを□実に「イスラム勢力を自由化すれば、アルジェリアと同じ混乱が起きる」と、ムスリム同胞団(エジプト)やナハダ(チュニジア)といったイスラム穏健派組織を非合法化してきた。

政変後、政治活動が自由化され、同胞団とナハダはそれぞれ政党を設立した。同胞団が結成した「自由公正党」は副党首にキリスト教徒を迎え、「市民政党」の体裁をとった。宗教色を抑えることで、「イスラム法を性急に導入するのでは」といづたキリスト教徒や世俗派の警戒心を解こうとしている。
「イスラム的価値観に沿った穏健な改革を求める」。同胞団などはAKPの影響を受けながら、イスラムの教えと、政治の現実のバランスを模索しようとしている。(カイロ=賞詞欣寛)【6月12日 朝日】
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イスラムの教えと、政治の現実をバランスさせているかどうかは、見る者の立場によります。
政教分離を徹底させたいと思う立場からすれば、与党・公正発展党(AKP)は政教分離を踏みにじる方向に動いている、将来は更に危険だ・・・ということにもなります。

確かに、与党・公正発展党(AKP)が新憲法を単独で制定できる3分の2の議席を獲得していたら、これまでとは異なる展開もあり得たかもしれません。
AKPが国民投票を実施する要件の330議席をも下回る326議席に終わったことは、AKPが圧倒的多数を握る政治情勢にあって、“バランス”の維持という点では国民の賢明な選択だったように思えます。

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