(インドのシン首相(左)とパキスタンのギラニ首相(右)が3月30日、インド北部モハリで開かれたクリケット世界大会の両国代表戦をそろって観戦。シン首相の招きにギラニ首相が応じたいわゆる「クリケット外交」ですが、お互いに核・通常兵器の増強を止めていません。“flickr”より By South Asian Foreign Relations http://www.flickr.com/photos/menik/5576144462/ )
【インド:核弾頭増加、世界最大の通常兵器輸入国】
最近注目を集めている軍拡競争としては、中国が領有権主張を強めている南シナ海地域があります。
増強される中国海軍力に対抗する形で、東南アジア諸国全体の国防予算は、2000年のおよそ1.5倍に膨れあがっています。更に、アメリカがこれら国々への軍事支援・軍事演習を強化しており、中国の進出を牽制しています。
南シナ海の話題はまた取り上げる機会もあるかと思いますが、今日取り上げるのは、軍拡競争が展開されているもうひとつの地域、インド・パキスタンです。
アメリカ、ロシアが新戦略兵器削減条約(新START)によって核弾頭および運搬手段を減らす取り組みを行っている一方で、長年の“宿敵”として緊張関係が続くインド、パキスタンは核弾頭保有を増加させています。
****印・パの核弾頭数増加…ストックホルム平和研*****
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は7日、米露が2010年に保有した核弾頭の数は前年より減少したものの、緊張関係にあるインドとパキスタンの保有数は増えたなどと指摘する11年版の年鑑を発表した。
核弾頭の保有数(推計)は1位のロシアが1万1000個、米国は8500個でそれぞれ前年より約1000個減った。フランス(300個)、中国(240個)、英国(225個)、イスラエル(80個)は前年と変わりなかった。一方、インドは80~110個(09年推計60~80個)、パキスタンも90~110個(同70~90個)で前年より増えた。
10年の世界全体の軍事支出は約1兆6300億ドルで前年(約1兆5310億ドル)から微増。1位の米国は6980億ドルで前年比370億ドル増え、2位の中国は推計1190億ドルで同190億ドル増えた。【6月8日 読売】
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兵器輸入という点でも、軍の近代化を目指すインドが中国を逆転して、世界最大の通常兵器輸入国となったそうです。
****兵器輸入、インド最大 近代化加速、中国を逆転*****
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は7日、2011年版年鑑を発表した。中国やインドなどの新興国は経済成長を背景に軍事支出を増大させ、軍の近代化を進めている。中国やパキスタンとの緊張が増すインドは戦闘機や潜水艦の調達を進めるなど、この5年間で中国を追い抜き、世界最大の通常兵器輸入国となった。
同年鑑によると、10年の軍事支出は米国が6980億ドルで世界全体の43%を占め、2位の中国(1190億ドル、7・3%)を大きく引き離している。
パキスタンとの間でカシミール問題を抱えるインドは、インド洋に進出する中国にも神経をとがらせており、戦闘機や潜水艦を調達して空・海軍力を増強している。05~09年の通常兵器輸入額では中国が世界全体の9%を占め1位、インドは7%で2位だったが、06~10年ではインドが9%、中国が6%と逆転した。
中国は自国製兵器の製造能力向上に努めており、軍事技術の盗用を恐れるロシアが中国への兵器輸出を抑えていることも中印逆転の一因になったようだ。(後略)【6月8日 産経】
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【パキスタン:支援国アメリカとの微妙な関係】
パキスタンの最大の支援国はアメリカです。対テロ戦争協力する見返りとしてのアメリカからの巨額の資金援助を受けるパキスタンですが、国民の間には根強い反米感情もあります。
特に最近は、無人機攻撃による民間人被害、CIAの請負業者とされる米国人がパキスタン人2名を射殺した事件、そしてパキスタ国内の軍事都市で米軍によって行われたウサマ・ビンラディン容疑者急襲殺害事件などによって、パキスタン政府とアメリカとの関係もぎくしゃくしています。
もっとも、アメリカが最大の支援国である実情に変わりはありませんので、表面的な対立は別にしても、決定的な関係破綻にはいたらないだろうと見られています。
アメリカも、ケリー米上院外交委員長(5月16日)やクリントン国務長官(5月27日)のパキスタン訪問で関係修復を図っています。
その結果、ビンラディン容疑者急襲殺害事件についても、現場で爆破された最新鋭ヘリの残骸が、パキスタン当局から米側に引き渡され、また、CIAの科学捜査チームに対して、殺害されたビンラディン容疑者の潜伏拠点の捜索を許可されるということで、一定の関係改善が見られています。
【中国接近でアメリカを牽制】
ただ、パキスタン側は中国と接近する姿勢を見せて、ビンラディン容疑者を“保護”していたのではないかとパキスタンへの不信感を強めているアメリカ側を牽制しています。
パキスタンのギラニ首相は5月18日、北京で中国の温家宝首相と会談、連携強化で一致したと報じられています。
****パキスタン首相:訪中、温首相と会談 連携強化で一致****
パキスタンのギラニ首相は18日、北京で中国の温家宝首相と会談した。国際テロ組織アルカイダの最高指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害で、同容疑者が潜伏していたパキスタンと米国との関係がきしむ中、ギラニ首相が中国に連携強化を求め、中国もパキスタンの立場に理解を示した。
温首相は「パキスタンは国際的なテロとの戦いで多大な犠牲を払い、重要な貢献をしてきた」と強調。「主権と領土は尊重されるべきで、国際社会は国内の安定を守ろうとするパキスタンの努力を理解しなければならない」と述べ、米国の対応を暗に批判した。
会談は、国交樹立60周年の節目として同容疑者の殺害以前から予定されていたが、パキスタンにとっては中国の存在を強調することで、パキスタンへの不信感を強める米国をけん制する形になった。
ギラニ首相は訪問に先立ち、中国の新華社通信との会見で「どんな困難な状況にあっても中国はパキスタンの側に立ってくれた」と語り、状況次第で支援と圧力を使い分ける米国を強くけん制した。米国がこれまで約束した対パキスタン支援75億ドルの拠出は滞っており、さらにビンラディン容疑者の潜伏をめぐって米議会で支援「打ち切り」要求の声が高まっている。
パキスタンは12日、中国の支援で建設されたチャシマ原発2号基(33万キロワット)の開所式を行ったばかり。中国はさらに原発2基を建設する構想を持っており、パキスタン側は確実な実行を求めているが、パキスタンと中国の「核」を巡る接近は米国を刺激している。また戦闘機の共同開発など軍事面での中国とパキスタンの協力は、敵対するインドの懸念を高めている。
一方、中国はウイグル独立派の非合法組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」をテロ組織に指定し、ビンラディン容疑者殺害の直後から「反テロで国際社会と協力していく」(中国外務省の姜瑜(きょうゆ)副報道局長)との立場を強調してきた。ただ中国には米国との摩擦を避けたいとの判断もあり、これまで踏み込んだ言及を避けていた。【5月18日 毎日】
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このギラニ首相と温家宝首相の会談で、パキスタン政府が南西部バルチスタン州のグワダル港に海軍基地を建設するよう中国政府に要請したとも報じられています。
****パキスタン:海軍基地建設を中国政府に要請…英紙報道*****
23日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、パキスタン政府が南西部バルチスタン州のグワダル港に海軍基地を建設するよう中国政府に要請したと報じた。中国海軍の艦船が利用することを想定しているという。ペルシャ湾に近い戦略的要衝だけに米国やインドなど関係国に波紋を広げそうだ。
パキスタンのムフタル国防相が同紙に語った。ギラニ・パキスタン首相が先週、首脳会談のため北京を訪問した際、中国に正式に伝えられたという。
グワダル沖のアラビア海は、ペルシャ湾岸からの石油やアフリカからの天然資源の輸送ルートに当たる。中国は近年、貿易港としての同港湾整備を財政的に支援した経緯があり、中国からパキスタンを経由してアラビア海に抜けるルートとして有力視されている。
中国はこれまで海外に軍事基地を求めない姿勢を示している。パキスタンは国際テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者殺害などで米国への反発を強めており、海軍基地建設の要請は、中国の海洋戦略への警戒を強める米国へのけん制との見方もある。【5月23日 毎日】
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【不安を抱かせるパキスタン社会の実情】
自爆テロが頻発し、イスラム過激派と軍情報機関とのつながりが指摘されるパキスタンについては、その保有する核の安全管理に疑念がもたれています。
イスラム過激派「パキスタン・タリバン運動」(TTP)はしばしば治安当局を対象にしたテロを実行していますが、5月22日には、南部カラチ郊外の海軍航空部隊基地がビンラディン容疑者殺害への報復として攻撃を受け、海軍兵ら13人が死亡、アメリカが供与したP3C哨戒機2機が破壊されています。
こうした直接的なテロの脅威以上に現実的問題があるのは、軍組織におけるイスラム過激派同調者の存在です。
軍情報機関によるビンラディン容疑者“保護”の問題は、改めてそうした問題をクローズアップさせています。
更に、欧米的価値観とは異なるパキスタン社会の有り様も、核管理や印パ対立に関する不安を増長させるものがあります。
****パキスタンで記者殺害 軍とアルカイダの関係を取材*****
パキスタン東部マンディバハウディンの運河で5月31日、情報サイト、アジアタイムズオンラインの記者サリム・シャハザドさん(40)が他殺体で見つかった。パキスタン軍とテロ組織の関係をめぐる記事を執筆、当局に脅されていたという。
地元メディアなどによると、シャハザドさんは5月29日、首都イスラマバードの自宅から市内のテレビ局に車で向かう途中、行方不明になっていた。遺体には暴行の跡があったという。
シャハザドさんはパキスタン軍と国際テロ組織アルカイダやタリバーンなど武装勢力の関係を取材。昨年、軍当局がタリバーン幹部を極秘裏に釈放したと報じた。その後、この件で軍統合情報局(ISI)から脅迫を受けたと国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチに伝えていた。先月はアルカイダとパキスタン海軍の関係をめぐる記事を書いていた。【6月1日 朝日】
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****命乞いする男性を兵士が射殺、映像がテレビに パキスタン*****
パキスタン最大の都市カラチで8日、州民兵組織の兵士が丸腰の男性を盗みの容疑で射殺する一部始終がテレビで放映された。
事件は、カラチ市内の高級住宅地クリフトンにある公園で、警備にあたっていた兵士らが、警察官の家族から金品を盗もうとした疑いで22歳の男性を至近距離から銃で撃ち、そのまま放置して死亡させたもの。警察は翌日、男性を撃った兵士らを逮捕したと発表したが、人権活動家らの間に衝撃が広がっている。
テレビで流れた映像には、5人の兵士が男性を取り囲む様子が映っている。そのうちの1人は銃口を若者の首筋にあてている。「撃たないでくれ」と嘆願する男性の手足に、兵士は銃を撃ちこんだ。
撃たれた男性は、その場に倒れ、周りで見ている兵士らに病院に連れて行ってほしいと懇願するうちに大量の出血で気を失った。(中略)
9日に営まれた射殺された男性の葬儀には数百人が集い、「警備兵は人殺しだ」と怒りの声をあげた。
テレビの記者だという男性の兄によると、撃たれて死亡した男性は学生で、家計を支えるために仕事を探していたという。「弟は礼節ある男で犯罪歴など全くない。彼が泥棒だなんて容疑は、全くばかげている」。また、暇をつぶしに公園に行っただけの弟を兵士らが銃で撃ち、見殺しにしたことに怒りを示し、「われわれが求めるのは正義だ」と述べ、公正な捜査を求めた。【6月10日 AFP】
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パキスタンだけでなく、多くの国でもあることなのでしょうが、こうしたニュースを目にすると、この国は大丈夫なのだろうか・・・という思いもするのも事実です。