
(“flickr”より By climatesafety http://www.flickr.com/photos/climatesafety/4456627835/ )
【氷河:10年ごとに平均11%以上ずつ縮小】
昨日ブログで地球温暖化の話を取り上げた流れで、温暖化でその利用価値が増している北極海の話です。
米国国立雪氷データ・センターによると、毎年9月に観測される北極圏の氷河の割合は、衛星による記録が始まった79年以降、10年ごとに平均11%以上ずつ縮小しています。
大西洋から北極海沿いのカナダ群島地帯を抜け太平洋に至る北極海航路の「北西航路」は、地球温暖化による海水温度の上昇で、現在でも夏場には氷が解けるようになっており、2050年までには1年を通して貨物輸送が可能になると見られています。
東京-ロンドン間は、パナマ運河経由で2万3000キロ、スエズ運河経由で2万1000キロですが、北西航路を使うと1万6000キロに短縮されます。
【フクシマによる原発離れで「ガス黄金時代」到来】
また、氷が減ることで、北極海沿岸や北極海海底の資源開発の可能性も増しています。
特に、フクシマの影響で原子力発電の伸びが予想より減る分の穴埋めとして、CO2が比較的少ない天然ガスが注目されています。
****世界の原発発電量:想定より半減 IEA事務局長見通し*****
国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男事務局長は6日、日本人記者団と会見し、2035年までに世界で新増設される原発の発電量について「360ギガワットを見込んでいたが、180ギガワットに落ち込む可能性がある」と述べ、想定より半減するとの見通しを示した。福島第1原発事故の影響を織り込んだ。
IEAは同日、35年の世界のエネルギー需要が08年比で約37%増加し、原油換算で168億トンになるとの予想を発表。原発の失速を想定し、今後、天然ガスの需要が63%増と急増、「ガス黄金時代」が到来するとした。
事務局長は半減の理由として(1)ドイツ、スイスなどが脱原発を打ち出した(2)先進国で形成する経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心に新規増設が難しくなると指摘。原発の電力供給比率は予想の14%から10%に減少すると分析した。ただ、中国やインドなどの原発新増設により世界全体の原発の発電量は増える見通し。
原発が担うはずだった分は天然ガス、石炭、風力や太陽光などの再生可能エネルギーが3分の1ずつ置き換わり、エネルギー価格の上昇を招く可能性が高いと予測。温室効果ガスの排出量も上昇する点も指摘した。【6月6日 毎日】
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【北極圏で生産したLNGを北極海航路で日本・中国へ】
そうした事情で、北極圏ノルウェーで生産された液化天然ガス(LNG)を、北極海航路を使って日本や中国に運ぶことが計画されています。
****北極圏 LNG開発加速****
温暖化で氷減り、アジア航路に期待
北緯70度。北極圏のノルウェー沿海で、世界最北といわれる液化天然ガス(LNG)基地が本格生産を始めた。東日本大震災の後、LNGは原子力の穴埋めとして注目が集まる。温暖化で北極海の氷が解けて日本や中国への航路が開く期待も資源開発を後押しする。
脱原発も追い風
ノルウェー最北部の漁港ハンメルフェスト沿岸、メルケア島。「バイキング時代以来、ほとんど無人」といわれたこの島に、炎を上げる煙突やガスタンク、冷却施設などが立ち並ぶ。
原料を掘り出すガス田スノービットは、さらに北西約140キロ。バレンツ海にある。「真冬の2ヵ月余りは暗い極夜。気温は零下20度を切る。潜水して船に上がると、瞬時に体がいてついて呼吸も難しい」(地元船舶会社で働くジョニー・ニコライセン氏)極地だ。
海上に操業プラットホームなどはない。水深約350メートルの海底ガス井に採掘装置を据え、パイプラインで島にガスを送る。島にある24時間体制の遠隔制御センターが司令塔だ。(中略)
輸入実績がある東京ガスは「天然ガスは二酸化炭素の排出量が石油より約25%少ない」と強調。新たなLNG輸入基地を15年度に茨城県日立市に稼働させる。予定を2年早めるという。
震災と原発事故で注目度は高まる。電源確保に追われる東京電力は「LNG輸入が増えるのは確実な情勢だ。可能な限り調達先を検討中」。
ドイツなどで原発依存を見直す動きが出ているが、太陽光や風力など再生可能エネルギーだけで、ただちに需要を満たせるわけではない。LNGへの依存が強まる可能性がある。
埋蔵量豊富 狙う各国
ノルウェー政府は日本市場を視野に入れる。「北極海航路が立ち上がればアジアも近くなり、日本などとの経済関係がさらに強まる」(外務省)からだ。
北極海ルートなら、横浜-オランダ・ロッテルダム間がスエズ運河経由より約4割短くなるという。
商業航海の実験はすでに活発化している。ノルウェー船級協会(DNV)によると昨年以降、鉄鉱石や軽油をノルウェー北部やロシアから中国などに運航する成功例が相次いだ。(中略)
米政府機関は、世界で発見されていないガスのうち約3割が北極圏に眠っていると推測する。ロシアはノルウェーに近い大型ガス田のシュトックマン、ルサノフなどの開発を計画。ノルウェーのストーレ外相は朝日新聞のインタビューに「北極圏の新たなシーレーンや資源開発が視野に入ってきた。外交政策的に極めて重要だ。先頭に立って存在感を示す必要がある」と話す。
北極圏には、米、カナダなどの旧西側諸国が連なる。政情不安がつきまとう中東などと比べて地政学的にも安定している。日本とノルウェーとの問係でみても、LNG大国・ロシアとの間に横たわる領土問題のような懸案事項もない。
ただし、ガスの採掘で、温室効果があるメタンの放出が増えるとの指摘もある。環境への配慮は重要な課題だ。
ノルウェーの環境団体ペローナのフレデリック・ハウゲ会長は「北極海は世界屈指のきれいな海。事故で大量のガスや油が漏れる危険性がある。操業や開発は極めて慎重にすべきだ」と話す。【5月23日 朝日】
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【ヒートアップする資源争奪戦】
ノルウェーに限らず、北極海沿岸国は資源開発に熱い視線を向けています。
ロシアは先日ノルウェーとの間で、長年揉めていたバレンツ海と北極海の大陸棚の領有権に関し、それを等分する合意文書に調印しました。こうしたロシア側の柔軟な姿勢の背景には資源開発に必要な欧米の先進技術導入の意図があると見られています。
****ロシア:北極圏問題で軟化 欧米技術、資源開発に欠かせず****
豊富な資源が眠る北極圏で、これまで強硬に自国の領有権を主張してきたロシアが最近、関係国との協調姿勢に転じている。北極海の商業航路が昨年、開かれるなど圏内の開発が本格化する中、欧米の先進技術が資源開発に欠かせないと認識したためだ。
ロシアは今月22、23日、同国で初めての北極問題に関する国際会議を開催した。プーチン首相は基調演説で「北極では地政学や経済的な権益が絡み合い、将来的な争いも予想されている。しかし、領有権問題は話し合いや国際法に基づき解決できる」と友好姿勢を打ち出した。
これに先立ち、今月(10年9月)15日にはノルウェーとの間で、40年間にわたり係争してきたバレンツ海と北極海の大陸棚を等分する合意文書に調印した。プーチン首相は、合意について「北極圏の関係国が受け入れ可能な譲歩を見いだす好例となる」とした。未画定の境界線問題を、ロシア、米国、カナダ、ノルウェー、デンマーク(自治領グリーンランドを領有)の北極海沿岸5カ国で、話し合い解決するとの意思を示すものだ。
ロシアは07年に北極点から約4000メートル真下の海底まで深海潜水艇を到達させて自国旗を立てるなど、領有権をめぐり強硬姿勢が目立っていた。昨春には北極圏の権益を守る部隊を軍内に創設する方針を打ち出したが、同部隊についても「船舶航行の安全を保障する部隊と装備を強化するが、北極へ派遣する計画はない」(外務省)と柔軟姿勢に転じている。
北極圏にはこれまで、地球上の未発見資源の4分の1が埋蔵されているとされてきたが、厳しい気候と厚い氷が開発の障害になってきたため、大きな領有権問題になっていなかった。ところが地球温暖化により夏季の氷が減ったことで開発熱が高まった。ドイツやロシアの商業船が昨年から、ベーリング海峡を通過航行している。
ロシアは北極圏開発の一環として、北シベリア・ヤマル半島沖のガス田開発に意欲を示す。氷の下にある資源の採掘には、北極圏の資源開発の経験があるノルウェーの資源大手「スタトオイル」などの技術が欠かせないといわれる。メドベージェフ露大統領も「ノルウェーの最先端の技術を我が国の石油・ガスの近代化に利用したい」と協力を呼びかけている。【10年9月26日 毎日】
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グリーンランドを有するデンマークも北極海資源争奪戦に名乗りをあげています。
****北極の「お宝」を狙うデンマークの野望*****
デンマーク政府は北極圏の領有権を主張する──今週流出したデンマーク外務省の文書によって明らかにされた。これで北極圏をめぐる各国の争いがさらにヒートアップしそうだ。
デンマークの主張は突如降って沸いた話のように聞こえるかもしれない。だが実際には、昨日今日の思いつきではない。北極を手に入れれば、棚ぼた式に大金が転がり込んでくる可能性がある。温暖化の影響で北極海を覆う氷河が溶け出すなか、海底の採掘が容易になるからだ。
流出した文書からは、デンマークがフォロエ島とグリーンランド近くの大陸棚における5つの地点で領有権を主張していることが分かる。そこに北極点も含まれていた。フォロエ島とグリーンランドはどちらも自治権をもつデンマーク領だ。
レネ・エスパーセン外相は17日、この文書について直接的なコメントを拒みつつも、デンマークが領有権を主張するのは「新しいことではない」と語った。デンマークは北極圏領有に向けた政策をどう進めるべきか、現在検討中だと認めた。「デンマークは北極点を含む海底の領有権を立証するだろう。だが目的は北極点そのものではない」
北極圏の領有を主張するのはデンマークが初めてではない。北極圏に接している各国、ロシア、アメリカ、カナダやノルウェーなども海底に目印を作るなどして領有権を主張してきた。07年8月には、ロシアの小型潜水艦が北極点の海底にロシア国旗を立てた(識者らは幼稚な行為だと一蹴した)。(後略)【5月20日 Newsweek】
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ロシア、アメリカ、カナダ、ノルウェー、デンマークといった北極海沿岸国だけでなく、中国も北極海資源に注目しています。
****中国、北極の資源に狙い…開発準備着々と*****
中国が北極の開発に向け、着々と準備を進めている。
中国は北極に眠る資源を将来の成長戦略の要ととらえており、獲得競争に向け足がかりを築く狙いだ。
新華社通信によると、中国の北極科学調査チームが8月31日、北極圏での約40日にわたる調査を終えた。調査は4回目で、発表によると、アラスカ沖のボーフォート海やベーリング海など130か所あまりで海氷データを収集し生態系を調べた。ただし北極における中国の最大の関心は資源開発であり、並行して資源探査も行った模様だ。
北極の海底にある原油や天然ガスは世界全体の埋蔵量の4分の1を占めるとされ、金やウランなどの鉱物資源も多い。中国は北極と南極の資源を「21世紀後半から22世紀にかけての経済成長を支える重要資源」(中国筋)と位置づけており、中国海軍の尹卓・少将は中国メディアに「中国が北極海開発の一角を占めるのは当然だ」と明言している。【10年9月4日 読売】
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資源あるところに中国あり・・・といった感もありますが、加熱気味の各国の熱い視線で北極海の氷の溶ける速度もあがりそうです。