
(イラク・バグダッド 各家庭必需品の自家発電機に接続されたワイヤーでクモの巣状になった電柱 自家発電機というのは軽油などで動くものでは? 何のためのワイヤーかは、自家発電機のことを全くら知らないのでわかりません。 “flickr”より By Chewbaca5 http://www.flickr.com/photos/55188529@N04/5120058039/)
【“前途多難”なアフガニスタン】
オバマ米大統領が発表した、アフガニスタンから3万3000人を来年夏までに撤収するという計画については、各紙とも「大統領選へ内政シフト」(毎日)、「戦略より政治優先」(産経)、「大統領選へ出口演出」(朝日)といった、国内政治情勢を反映したものとの見方を示しています。
低迷する経済を背景に、10年近くに及ぶ戦争に疲れ、厭戦ムードが広がる米世論に配慮した決定で、“演説で示した3万3千人の撤退は、2012年9月に終わる。オバマ氏自身の再選がかかる大統領選を2カ月後に控えた時期だ。昨年の中間選挙でイラク戦争からの大規模な撤退実績を訴えたように、「計3万人の撤退」を有権者にアピールするねらいとみられる”【6月23日 朝日】といったものです。
今後のアフガニスタン情勢については、特にアフガニスタン軍・警察への不安がぬぐえず、これまでも十分な統治能力を示してきたとは言い難いカルザイ政権のもとで“前途多難”が予想されています。
【イラク:米軍全面撤退を前にテロ急増】
一方、アフガニスタンに先立って撤退が進むイラクについては、一時は17万人規模にまで膨れた米軍を、
(1)10年6月末までにイラクの都市部から戦闘部隊を撤収、郊外の基地に再配置
(2)10年9月末までに1万2千人の戦闘部隊をイラクから撤収
(3)10年8月末までにイラクでの戦闘任務を終了
(4)イラク治安部隊の訓練などにあたる残存部隊も含めて、11年末までにイラクから完全撤退
というスケジュールで撤退させており、今年末の最終段階の全面撤退を控えた時点にあります。
アフガニスタンに比べると、治安も安定し、マリキ政権もそれなりに機能していると見られるイラクですが、米軍全面撤退を前にして、最近テロ報道が急増しています。
今月に入ってからだけでも
イラク:米兵5人が死亡…各地でテロ相次ぐ【6月7日 毎日】
イラク中部で武装集団が州庁舎を襲撃、7人死亡【6月15日 AFP】
イラクで車爆弾テロ…26人死亡、30人負傷【6月22日 読売】
バグダッドで40人死亡 市場・モスクで自動車爆弾4発【6月24日 朝日】
といった状況です。
米軍基地や州庁舎が襲われており、今後の治安に不安が募りますが、一時は沈静化していたスンニ派勢力のシーア派に対する活動が活発になっていることも懸念されます。
スンニ派のアルカイダは、東部のディヤラ州や、北部でシリアと国境を接するニナワ州ではなお強い影響力を持っており、「かつてアルカイダはアラブ諸国からの送金に支えられていたが、いまでは銀行を襲撃したり、地元の商人や企業経営者を脅して資金を集めるなど、国内調達型になっている」【6月23日 朝日】とのことです。
一方、シーア派の民兵組織「マフディ軍」も、いまは武装解除していますが、いつでも武装闘争ができる状態です。
“バグダッドの北東部のイスラム教シーア派地域サドルシティーで5月下旬、数千人がパレードした。反米指導者ムクタダ・サドル師が率いる民兵組織「マフディ軍」である。真新しい制服にはイラク国旗があしらわれている。サドル師派幹部は「年末の米軍撤退を遅らせれば、武装闘争を再開する」と警告する” 【同上】
【イラク戦争で得られたもの】
治安問題については、少なくとも現在は、“06年、07年はバグダッドの遺体安置所には身元不明の他殺死体が毎日100以上を数えた”【同上】といった状況に比べればまだましとも言えます。
問題は、アメリカによるフセイン政権打倒、宗派間の内戦を経て、何が達成されたのか・・・という点です。
この問題について、【6月24日 朝日】は厳しいイラクの現状を伝えています。
ブッシュ元大統領が掲げた「自由で繁栄するイラクの建設」にもかかわらず、民主主義や自由は根付いていません。
****「自由と繁栄」どこに〈イラク戦争の傷痕 下―1〉*****
6月10日金曜日午前中、バグダッドのタハリール広場で、「腐敗撲滅」「政治的自由の尊重」「公共サービスの改善」などを掲げる数百人の市民デモが行われた。軍や警察が厳重に警戒する中、マリキ首相支持派の部族の集団が入ってきて、市民たちを広場から追い出した。
イラクでも1月にチュニジアやエジプトで始まった民主化運動に連動して、改革要求のデモが始まった。しかし、イラク戦争の後に民主主義や自由がもたらされたはずのイラクで、改革を求める声は様々な圧力を受けている。
バグダッド市内にある人権団体「アイナハック」で5月28日午後に開かれたデモの準備会合も弾圧に遭った。治安部隊の車両や装甲バスが横付けされ、数十人の治安部隊が建物に入った。会議をしていたアイナハックの代表アフマド・ナッジャルさん(60)ら13人の市民組織の代表が拘束され、連行された。
「特殊部隊が押し入ってきて、わたしたちに手錠をかけ、目隠しをして車に乗せた。まるでアルカイダを扱うように」とナッジャルさん。全員がイラク南部にある軍情報部の拘置施設に移送された。取調官に「政府を転覆したいのか」と質問された。「私たちは国のために市民の力を結集したいだけだ」と答えた。
ナッジャルさんらは6日後に釈放されたが、政府と軍による市民組織への露骨な弾圧である。「政治は宗派や民族の個別の利益に基づいて行われ、国や国民の利益を考えていない。国民にとっては失敗国家だ」と、ナッジャルさんは政治のあり方を批判する。
米国が主導したイラク戦争で旧フセイン政権が打倒された後、シーア派やクルド人など旧政権時代の反体制組織が権力についた。マリキ首相も反体制シーア派組織ダワ党を率いている。
ブッシュ元大統領は開戦に際して「自由で繁栄するイラクの建設」を掲げた。しかし、戦争から8年後の現実は、自由や繁栄とはほど遠い状況だ。【6月24日 朝日】
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十分に機能しない政治によって電力事情は改善されず、経済活動・市民生活の足かせとなっています。
****電力不足、農・工業に打撃〈イラク戦争の傷痕 下―2〉*****
イラクで国民不在の政治を象徴するのは、昨年3月に行われた総選挙の後、政党間の駆け引きによって新政権が発足するまでに8カ月かかったことである。
さらに政府の機能不全を示すのが、電気事情のひどさだ。バグダッド中心部のカラダ地区のムハンマド・アベドさん(38)の家では公共の電気は1日に4、5時間しか流れない。残りは発電機を持つ業者から3アンペアを月50ドルで買う。
アベドさんは4年前まで米国系会社の技師をしていたが、アルカイダ系組織に脅迫されて辞めた。定収のない生活で電気代は大きな負担だ。3アンペアでは照明と扇風機を動かすだけで、冷房は動かない。最高気温が50度近くになるバグダッドでは、扇風機だけでは耐え難い暑さだ。
外国の支援も、政府の出費も、電気事情の改善のために膨大につぎ込んだ。それでも改善しないのは、電気省の役人と請負業者が費用を着服し、事業にお金がいかないためという。
外国から買った大型発電機が設置されなかったり、発電所の改修事業の資金が足りなくて事業が遅れたりした例は珍しくない。元電気相が汚職の疑いで、捜査の対象となったこともある。
電気供給が回復しないことは、産業にも大きな影響を与える。かつてはラシッド通りにひしめいていた縫製や皮加工の家内工場は、戦後、2、3年ですべて閉鎖した。かつて60人の従業員を使っていたサアド・アリさん(48)は、いまは工場を閉め、小型の車で荷物の配送をしている。
工場を閉めた理由の一番は電気事情だか、それ以外に、外国製品に関税がないため、中国製品やトルコ製品などが安い値段で入ってきて、太刀打ちできない。「旧政権では国内の工場には優先的に電気が回ってきたし、国内製品を保護するための外国製品への関税も、国内生産への政府の援助もあった。いまは保護も支援もない」と語る。
バグダッド大学経済学部のマフムード・ダーギル教授は「国内の工業だけでなく、農業もひどい状況だ」と語る。「電気がないからポンプによる灌漑(かんがい)ができない。八百屋にいっても野菜や果物はトルコ、シリア、イラン産など外国産ばかりだ。チグリス・ユーフラテスという二つの大河を持ちながら、国内農業は死に絶えつつある」という。【6月24日 朝日】
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社会の閉そく感を強めるのは、コネやわいろの横行です。
****わいろ横行 絶望する若者〈イラク戦争の傷痕 下―3〉*****
国民にとって石油収入を握る国の公務員が最大の就職先となる。しかし、省庁はすべて政党や政治組織が抑えている。大臣ポストを握る政治組織の支持者か、幹部の縁故採用が主で「コネ」がなければ任用は難しい。
さらに公務員任用で幅をきかせているのが、わいろだ。どのような部署でも、役人に数百ドルから2千ドル、3千ドルのわいろを渡さねば、採用されない。
両親も教員で、自ら教員養成学校に通うアリさん(21)の家族はスンニ派で、バグダッド市内でシーア派武装組織マフディ軍に脅迫されて、家を追われてアンバル州に移った。母親は地元で教職に復帰するのに文部省の役人に2千ドルを渡した。父親は5回出願したが、採用されずに、最後は同じく2千ドルのわいろを渡して教職を得た。
就職だけでなく、旅券も、運転免許証も、病院の治療も、申請しても延々と待たされるが、しかるべき人物にわいろを渡せばすぐに手続きが終わる。関係者に350ドルを払って、新しい旅券を翌日出してもらった女性(65)の話も聞いた。「申請書類も出さなかったし、指紋も押さなかったのに」と女性はいう。
イラクで大規模なデモが始まった2月25日にちなんで「2・25の青年たち」という若者グループに参加するアミールさん(27)は「これは政治家や役人が権力や権限を独占して、自分たちの利益しか考えていないからだ。若者の多くは大学を出ても、コネやわいろによってしか動かない社会に絶望している」と語る。
タクシー運転手をしている若者(26)にインタビューした。「私はイラク軍の機械化部隊の兵士だ」と軍の身分証明書を見せた。兵士の給料80万ディナール(約7万円)の半分をもらうが、軍務にはつかない。入隊後半年で上司や司令官との話し合いで、そのような取り決めになった。
「どの部隊でも兵士の10%から20%は、私のように名前だけの幽霊兵隊だ」と若者は言った。兵士の給与の残りは幹部で分配する仕組みだ。警察や、一般の役所でも同様の仕組みが広がっているという。
腐敗がどこまで国をむしばんでいるかは想像もつかないほどだ。「富国強兵」政策を進めて、国民を犠牲にして戦争を繰り返す独裁者が倒された後、権力は宗派、民族で分割された。しかし、それぞれに自分たちの利益しか考えず、国民はやはり見捨てられている。【6月24日 朝日】
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比較的うまくいったイラクですらこのような状況です。
タリバンとの戦闘が終結しない、そして汚職まみれで非効率なカルザイ政権のアフガニスタンの今後はどのようになるのか・・・あまり楽観的にはなれません。