![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/45/448a8d9fad2c638ccc4a2572d9d2af88.jpg?random=beebd64c07c4f115228cab6768ae4d30)
(「海洋石油空母」とも評される、中国最大規模の石油掘削装置(オイルリグ)「海洋石油981」 これが南シナ海で実際に掘削を始めると、またひと揉めありそうな雰囲気です。 “flickr”より By louqm http://www.flickr.com/photos/louqm/4480749895/ )
【米:「緊張を高めるだけで、地域の平和には結びつかない」】
中国が南シナ海の領有権を強く主張するようになったことで、南沙諸島や西沙諸島の領有権を主張する南シナ海周辺国との軋轢が大きくなっていることは、6月3日ブログ「南シナ海、依然続く緊張 ベトナム漁船に中国監視船が威嚇射撃」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110603)で、また、周辺国を支援する形で、アメリカが中国の勢力拡大を牽制する動きを強めていることは、6月4日ブログ「アメリカ・中国 Gメール攻撃問題、南シナ海問題で“力比べ”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110604)で取り上げてきました。
6月3日ブログでも取り上げたように、5月26日、ベトナムが排他的経済水域を主張する領域で、調査活動を行っていたベトナムの探査船が中国監視船の妨害を受け、調査用ケーブルを切断される事件がありました。
また、5月31日には、南沙(スプラトリー)諸島周辺で操業中のベトナム漁船4隻が、中国国家海洋局の監視船とみられる3隻から威嚇射撃を受けたと報じられています。
フィリピン外務省は、中国と領有権の主張が対立している南沙(スプラトリー)諸島で中国が建造物の新設を始めたとして、中国大使館員を呼んで抗議しています。
特に中国への対抗姿勢を強めているのがベトナムです。ベトナム海軍は13日、中国を牽制する狙いで、ベトナム沖の南シナ海で実弾を使った軍事演習を実施しました。
****ベトナム:南シナ海で演習 中国をけん制、緊張高まる******
ベトナム海軍は13日、同国沖の南シナ海で実弾を使った軍事演習を実施した。領有を巡り対立する中国を刺激するのは必至で、南シナ海の緊張は一層高まりそうだ。
演習が行われたのはベトナム中部クアンナム省沖約40キロの海域。海軍当局者はAP通信に、大砲などを使った演習で毎年行われる通常のものと説明し、中国との対立とは無関係だと語った。
しかし南シナ海では、西沙諸島や南沙諸島周辺海域の領有を巡り中国とベトナム、フィリピンなどが対立。5月下旬以降、ベトナムの資源探査船と中国の船舶との小競り合いが続いている。ベトナム政府は中国への抗議を繰り返しており、この時期の軍事演習には中国をけん制する狙いがあるとみられる。
中国の南シナ海への進出をけん制したい米国は、ゲーツ国防長官が今月、東南アジア各国と協力して地域への軍事的関与を強める姿勢を示したばかり。しかしベトナムの軍事演習については「緊張を高めるだけで、地域の平和には結びつかない」(国務省)と懸念を表明し、間接的ながらベトナムに自制を求めた。(後略)【6月13日 毎日】
***************************
【ベトナム、反中国デモ容認】
中国とベトナムは、ともに事実上の共産党一党支配の体制で、また、ともに開放経済政策で高い経済成長を実現していますが、古代から中国の侵攻と支配、それに対する抵抗が繰り返された歴史があり、ベトナムの反中国感情は根強いものがあります。
インドシナ戦争(第1次)とベトナム戦争で中国はホー・チ・ミンのベトナム民主共和国を支援したものの、中ソ対立を背景に、カンボジア紛争ではポル・ポト政権の後ろ盾となり、1979年にベトナムと戦火を交えています。また、西沙諸島では74年、中国軍が南ベトナム軍の艦船1隻を撃沈し、88年には南沙諸島で軍事衝突が起こっています。【6月14日 産経より】
こうした歴史的背景もあって、ベトナムの首都ハノイと南部のホーチミン市では12日、5日に続いて再び市民による反中国デモが行われました。通常は市民の政治デモは厳しく取り締まられていますが、反中国デモについては事実上容認している格好です。
****ベトナムで反中デモ続く 独裁下で異例、政府が容認か*****
南シナ海の領有権を中国と争っているベトナムで12日、反中デモがあった。同国では5日にも同種のデモが起きており、2週連続。共産党独裁の下でデモを規制しているベトナムでは異例の頻度だ。政府はデモを容認しているとみられるが、規模が拡大することへの警戒心もうかがえる。
首都ハノイの中国大使館前で約50人、南部ホーチミンの中国総領事館付近でも数百人が集まった。南シナ海のスプラトリー(南沙)、パラセル(西沙)両諸島の領有権を主張し、「中国の侵略に反対」「打倒中国」などと叫んだ。ハノイでは学者や詩人、映画監督ら著名人も参加。中心部を行進し大使館前で約30分間抗議した後、警官らに促されて解散した。
ベトナム政府は、反体制的な言論が広がることを警戒し、インターネットを検閲している。フェイスブック利用は規制され、反体制的と指摘されたサイトの取り締まりもある。だが、デモ参加者らはネット上で呼びかけあって集まった。参加者への強制的な取り締まりもなく、政府の容認姿勢の表れと見られる。【6月13日 朝日】
**************************
また、中国とベトナムの間で“サイバー戦争”が繰り広げられているとの報道もあります。
****中越「サイバー戦」か 政府系サイトに双方攻撃*****
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島や西沙(同パラセル)諸島の領有権をめぐる対立が続く中国とベトナムが、インターネットの政府系サイトを攻撃しあう“サイバー戦争”を繰り広げているとする声明を、中国のハッカー軍団とみられる「紅客」と名乗るグループが10日までに明らかにした。
声明は、中国の地方政府系や国有企業系の複数のサイトが今月3日に、ベトナム側から先制攻撃を受けたと主張。中国のハッカーらがベトナムの政府系サイトに次々と“反撃”を行い、ベトナム人を蔑視する口ぎたない表現とともに、「南シナ海は中国の領土だ」などと訴えて中国の国旗を映し出す画面に塗り替えたという。声明の通りなら中越サイバー戦は中国が圧倒しているが、実際にベトナムから先制攻撃があったのかどうかなど詳細は分かっていない。
中国国防省は先月、ハッカーに対する防御を目的とした「ネット藍軍」と呼ばれるチームを人民解放軍に設置したことを明らかにしている。関係筋は、中越サイバー戦への同チームなど中国軍の関与は不明としながらも「中国からの組織的な攻撃が行われた」とみている。【6月11日 産経】
******************************
【「西フィリピン海」】
一方、ベトナム同様に中国との緊張が高まるフィリピンは、「南シナ海」という呼称を「西フィリピン海」に変更したそうです。
****南シナ海を「西フィリピン海」…中国に抗議の意*****
フィリピン政府は、中国と領有権問題で対立している南シナ海の名称を「西フィリピン海」に変更した。
AFP通信によると、フィリピン外務省はすでに1日から、この名称を使っており、大統領府は「どう呼ぶかは各国の自由だ。名称も自然なものだ」としている。
フィリピンは最近、中国が南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で新たに資源探査の準備を進め、フィリピン漁船の活動も妨害しているとして、中国への反発を強めている。名称変更により、領有権を強調し、中国に抗議の意思を示す狙いだ。ベトナムも南シナ海を「東海」と名付けている。【6月14日 読売】
*****************************
「日本海」にも韓国が反発していますが、確かに国名を含んだ呼称や、ある国から見た方角を前提にした呼称は、別の国からすれば面白くないところでしょう。
この際、国際的にはそうした問題を含んだ呼称はやめて全く中立的な呼称とし、国内的には各国が好き勝手に呼ぶという形がいいかもしれません。「アジア・友好の海」とか。
なお、フィリピン国防省は米海軍との軍事演習を今月下旬、フィリピン西部パラワン島東のスルー海で行うと発表しています。同演習には昨年はアメリカのイージス艦1隻が参加しましたが、今回は2隻に増やされています。
“演習に参加する米国の艦船が、南シナ海を通過するとみられ、米側が主張する「自由航行権」を誇示する目的もあるとされる”【6月13日 毎日】とも指摘されています。
ベトナム、フィリピンの他、台湾でも沿岸警備隊を強化する計画が報じられています。
****台湾、南シナ海の沿岸警備隊の武装強化を検討*****
台湾防衛当局の報道官は12日、台湾や中国などが領有権を主張している島がある南シナ海の沿岸警備隊に、ミサイル艇や戦車を装備させる計画があると述べた。
南沙(スプラトリー)諸島と東沙(プラタス)諸島にいる台湾の沿岸警備隊は軽火器しか装備しておらず、紛争が起きた際に対応できない恐れがあるため、沿岸警備隊に提案したという。報道官はミサイル艇や戦車の数については触れず、沿岸警備隊はまだ最終決定をしていないと述べた。(後略)【6月13日 AFP】
*****************************
【中国:「情勢次第で軍事的な助けを求める可能性を排除しない」】
こうした周辺国の動きに対し、中国も強気の姿勢を崩していません。
****南シナ海、強まる対決姿勢…中国は資源確保へ妨害強化も*****
中国が周辺諸国と南沙諸島などの領有権を争う南シナ海で13日、ベトナム海軍が実弾演習を強行したことで、中国がさらに、ベトナムに対する妨害行為をエスカレートさせる可能性がある。
ベトナムが、中国漁船による探査船への妨害行為について中国に強く抗議した9日、中国外務省の洪磊報道官は「ベトナムは中国の南沙諸島で違法に石油・天然ガスの探査を行い、中国漁船を追い払うなど、中国の主権と海洋権益を著しく侵犯した」との談話を発表し、一歩も引かない姿勢を鮮明にした。
中国にとって、経済発展を支える資源の確保は、社会の安定、さらには政権維持につながる重要課題だ。1990年代後半、武力行使もいとわない強硬姿勢を緩和し、周辺諸国との共同開発を強調してきた。しかし、需要に供給が追いつかず、資源輸入国に転じている現状に危機感を募らせ、再び独善的な性格をあらわにし始めた。
中国は、探査・掘削を進めようとするベトナムやフィリピンの動きに敏感に反応。7月から南シナ海で新たな探査を開始する計画とされる。中国メディアによると、すでに海底油田の掘削機が同海域に向けて曳航(えいこう)されているという。
中国の国際情報紙、環球時報(英語版)は、ベトナムの実弾演習を「中国に公然と反抗するための軍事力の誇示」と非難。中国が威嚇発砲など“力ずく”の対抗措置をとることも考えられる。【6月14日 産経】
*****************************
南シナ海に曳航されている海底油田掘削機は「海洋石油空母」と評されるものとか。
****中国:南シナ海で掘削へ…「海洋石油空母」移動中****
大型で海上移動が可能なことから「海洋石油空母」と評される、中国最大規模の石油掘削装置(オイルリグ)「海洋石油981」が5月下旬に上海を出発し、東シナ海を移動中であることが分かった。領有権をめぐって中国とベトナム、フィリピンなど沿岸各国の対立が激化している南シナ海で、今秋にも展開するとみられ、地域の緊張がさらにエスカレートする恐れがある。
中国国営新華社系の週刊誌「瞭望東方周刊」などが報じた。
「海洋石油981」は、中国石油大手の中国海洋石油が約60億元(約750億円)を投じて製造した中国初の海底3000メートル級半潜水式油井掘削装置で、最大掘削深度は1万2000メートル。中国海洋石油幹部は「情勢次第で軍事的な助けを求める可能性を排除しない」としている。(中略)
実際の掘削場所について、同誌は「南シナ海の北部」としているが、ベトナムなど沿岸国が領有権を主張する南沙諸島(英語名・スプラトリー諸島)などの近辺になる可能性もある。【6月8日 毎日】
****************************
【急がれる「行動規範」制定】
アメリカ上院では、挑発的な行動を繰り返す中国監視船の動きに対し、中国非難決議の採択が予定されています。
“南シナ海をめぐっては、昨年7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で、クリントン米国務長官が南シナ海の航行の自由は「米国の国益」と主張。中国側と激しいさや当てを演じた。
クリントン長官は今年7月、インドネシアのジャカルタで開かれるARFで中国船舶の挑発的な活動に懸念を示す方針だ。”【6月12日 産経】とも。
昨年7月のASEAN地域フォーラムでは反中国包囲網的な動きとなり、結果、関係国のアメリカへの傾斜を強めたとして、中国外交の失敗と評価されていましたが、最近の中国の動きを見ると、あまりそうした反省はないようです。
中国の軍備増強は周知のところですが、南シナ海周辺国も中国に対抗する形で軍拡競争が進んでいます。
“東南アジア諸国全体の国防予算は、2000年のおよそ1・5倍に膨れあがっている。11年の予算は、ベトナムが対前年70%増、国内総生産(GDP)の1・8%に相当する約26億ドルとみられる。フィリピンは同81%増の約20億ドル。タイは同10%以上増の約55億ドルで、軒並み国防予算を拡大している。
南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島、西沙(パラセル)諸島の領有権をめぐり中国と激しく対峙(たいじ)するベトナムの場合、軍装備の増強は顕著だ。”【6月10日 産経】
****南シナ海紛糾 膨張中国に自制を求めたい****
・・・・南シナ海が中国の“内海”になるのを阻むには、ASEANが一致団結することが肝要だ。
ASEANは5月初めの首脳会議で、南シナ海での紛争を話し合いで解決することを規定した「行動宣言」を、法的拘束力を伴う「行動規範」へ格上げするため、協議開始を決めた。
中国も「行動規範」の協議に応じるべきである。
南シナ海は日本に原油を運ぶ船舶が航行する要路、シーレーン(海上交通路)が通る海域だ。
ゲーツ米国防長官は先の安保会議で、南シナ海の自由航行権などを守るために、米国が軍事的関与を続けて行くと表明した。
利害を共有する日本も、米国と連携し、ASEAN諸国への支援をさらに強化する必要がある。【6月10日 読売】
*****************************