(6月15日 アテネ 暴徒化した群衆と警察の間を逃げ惑う旅行者 “flickr”より By Joseph Galanakis http://www.flickr.com/photos/iosgal/5836758029/ )
【「この採決が、ギリシャが二本足で立てる唯一のチャンスだ」】
財政危機のギリシャでは、きょう29日、EUからの支援の前提条件とされる、これまで以上の緊縮策を盛り込んだ財政再建法案が国会で審議されます。もし、否決された場合、(そのまま放置すれば)ギリシャは債務不履行(デフォルト)に陥る危険性が高く、そうなると連鎖的に欧州各国の金融危機、更には日本を含む世界全体の金融危機にもつながりかねません。
現在、日本時間で午後9時、ギリシャ時間で午後3時ですが、採決の状況については、日本のメディアにはまだ情報が入っていません。このブログを書き終える頃には結果が判明しているかも。
****ギリシャの財政再建法案、29日採決 国際金融に影響も****
財政危機に直面するギリシャで、財政再建法案が29日、国会で採決される。否決されれば欧州連合(EU)からの支援が止まり、国際的な金融危機の引き金をひく可能性がある。だが、緊縮策への国民の反発は強く、可決されるかどうか予断を許さない情勢だ。
採決前日の28日、アテネでは官民の労組が一斉にストライキに突入、混乱が続いている。停電でバスや地下鉄が運休。空港も機能していない。レストランや商店も閉店し、国会前のシンタグマ広場には、朝から市民らが続々集結。一部が暴徒化し、機動隊が催涙ガスで応戦、けが人が出た模様だ。夜には10万人超の大規模デモも予定されている。
法案は、さらなる増税や公務員のリストラに加え、電力公社や水道公社などの民営化が柱。2015年までに284億ユーロ(3兆2千億円)を削減し、民営化でさらに500億ユーロ(5兆7千億円)を捻出する。
パパンドレウ首相は27日夜始まった国会討論で演説し、「この採決が、ギリシャが二本足で立てる唯一のチャンスだ」と訴えた。
だが、昨年すでに増税や年金カットを受け入れた国民の反発は強い。首相率いる与党は国会(定数300)で155議席を占めるが、与党議員4人が造反する姿勢を示しており、過半数ラインの151票ぎりぎりの情勢になっている。
ギリシャは来月中旬に国債の償還日を迎えるが、投資家に払い戻す資金がない。総額1100億ユーロ(12兆6千億円)の支援を実施中のEUと国際通貨基金(IMF)が、可決を前提に5回目の入金として来月振り込む120億ユーロ(1兆3千億円)を充てる予定にしているため、法案が否決されれば、債務不履行(デフォルト)に陥る危険性が高い。ギリシャ国債を保有する欧州の金融機関が損失を被り、そこに投資する米国の投資信託などを通じて影響が広がる可能性がある。市場では「最悪の場合、第2のリーマン・ショックになる」との見方もある。【6月29日 朝日】
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“大きな痛みを伴う”度重なる緊縮策への国民の反発は上記記事にもあるように大きく、一部で治安部隊との衝突も起きています。
【「われわれはEUの支援など望んでいない。どうかお願いだから放っておいてくれ」】
****ギリシャで緊縮策に反対するデモ、警察が催涙ガス****
ギリシャで28日、政府の財政緊縮策に反対する主要労組がゼネスト入りする中、同じく政府の方針に抗議する1万人が首都アテネの国会議事堂前の広場でデモを行った。参加した一部の若者が火炎びんを投げ付けるなどして暴徒化し、警察の暴動鎮圧部隊が催涙ガスを発射する事態となった。
警察当局によると、午後3時ごろに発生したこの衝突で、少なくともデモ参加者1人が負傷した。
ギリシャ政府はデフォルト(債務不履行)回避のため、欧州連合(EU)などが支援の条件としている緊縮策の可決を目指す。緊縮策を盛り込んだ関連法案の採決は29日から行われる予定。デモ参加者の1人はAFP通信に対し、「われわれはEUの支援など望んでいない。どうかお願いだから放っておいてくれ」と話した。
28日に始まった労組による48時間のゼネストの影響で、アテネでは航空便や船舶の運航が停止し、公共交通機関もマヒ状態に陥っている。【6月29日 AFP】
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「われわれはEUの支援など望んでいない」・・・・“こんな危機を招いた政府が悪い”“これ以上の痛みには耐えられない”というのはわかりますが、さりとてEU支援なしにデフォルトの危機をどうしようと言うのでしょうか。外国人にはわからない解決の道があるのでしょうか?国家が破産すれば、現在の財政再建法案以上の“痛み”が国民を襲います。
「どうかお願いだから放っておいてくれ」・・・・と言われても、EUとしては放ってはおけない事態です。ギリシャのデフォルトはユーロ圏全体の崩壊にもつながりかねません。
【「代替のプランBがあるなどと誰にも思わせてはならない」】
仮に、ギリシャ国会が財政再建法案を否決した場合、EUとしてもギリシャのデフォルトをただ手をこまねいて見守る訳にはいかないでしょう。次の策を考慮せざるを得ないところです。
ただし、ギリシャに財政再建を行ってもらうために、今現在はその話はタブーのようです。
****EUがひた隠すギリシャ危機のプランB****
EUの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の採決が行われるが、EUが黙して語らない否決の場合の代替策とは
欧州連合(EU)からの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の審議が26日からギリシャ議会で行われている。新たな歳出削減などを盛り込んだこの法案を、もしもギリシャが否決したらどうなるのだろうか。
「代替のプランBがあるなどと誰にも思わせてはならない」と、ルクセンブルク首相でユーロ圏財務相会合の議長として統一通貨ユーロに参加する17カ国の会合を取り仕切るジャンクロード・ユンケルは言った。「そして実際、プランBは存在しない」。ギリシャ問題を話し合うために先週ブリュッセルで開催されたEU首脳会議の直後のことだ。
EUはギリシャのデフォルトを回避するために追加の救済策を実行する用意があるが、ギリシャ議会の採決待ちの状態だ。議会は29日、前提条件としてEUから求められた400億ドル規模の歳出削減と増税について採決しなければならない。ギリシャ議会が緊縮財政案を否決するようなことになった場合、今のところ代替案はいっさい残されていない、ギリシャはデフォルト(債務不履行)に陥るしかないと、EUは主張する。ブリュッセルではプランBについて話すことはタブーになっているのだ。
だが最悪の場合、ユーロやEUそのものの存在すら危うくなるという今の状況の中、EUが先のプランを考えていないことなど到底ありえない。だとすると、EUの「代替案なし」ははったりだろうか。
ギリシャはドラクマに戻るべき
シンクタンク「ヨーロッパ政策センター」のアナリスト、ジャニス・エマヌイリディスは、口先だけの問題ではないという。EUと各国リーダーたちは見事なまでに「プランBは存在せず」という筋書きに固執しているが、エマヌイリディスは「どんな場合でも、市場で起こりうるあらゆる事態に備えておくべきだ」と言う。29日にギリシャで何が起こるにせよ、EUは独自に代替案を用意しておく必要があると、彼は考えている。
理想を言えば、EUは改革案を策定すべきだと彼は言う。その中には「ユーロ債の導入や欧州財務省の創設、税制や社会制度で域内の政策を統一すること、EU予算を十分に拡大すること」が含まれるという。
それはいずれ、「1つの国家に匹敵するような経済・政治連合の誕生につながる。実現すればユーロ圏の危機を解決できるだけでなく、世界の発展においてヨーロッパが主導的役割を発揮するという戦略上の目標も達成できる」と彼は言う。
一方、経済アナリストで統一通貨ユーロに批判的なダニエル・ゲゲンは、ユーロを離脱する国が出てくるあり得るということをEUは受け入れるべきだと言う。ギリシャは当然そのケースになる。「(ギリシャの通貨)ドラクマに戻るべきだ」と、ゲゲンはギリシャ債務の再構築を提案する。
ゲゲンの言う「大きな懸念」は、債務危機がこのまま拡大を続けること。「ポルトガルにも既に問題が発生し、アイルランドやスペイン経済にも危険が潜んでいる」と彼は言う。「大変危ない状況だ」
ゲゲンの提案で問題なのは、これまでにもギリシャのユーロ離脱は何度か言われてきたものの、今のところユーロ離脱(あるいは追放)の仕組みそのものが存在しないことだ。あまりに繊細な問題なため、欧州中央銀行(ECB)広報官のウィリアム・レリベルドはこの問題について語ることを拒否した。ユーロ圏の解体について質問されても「ノーコメント」と繰り返している。
債務免除してもらって小さな国に
エマヌイリディスによれば、今のシステムにおいて残された唯一の方法は、ギリシャがユーロではなくEUそのものを離脱することだ。これはEUの基本条約に明記されている選択肢だが、エマヌイリディス自身もこれは現実的ではないと考えている。
ユーロから「離脱するためには何をすることが必要か、解決しておかなければならない問題が山ほどある」とエマヌイリディスは言う。「法律的な問題以外にも、解決の難しい実務上の問題がたくさんある。離脱する国もユーロ参加国の側も、数え切れないほどの妥協を覚悟しなければならない」
ゲゲンは、財務政策の異なる国々が統一通貨を導入するというユーロ圏モデルは持続不可能であり、EUはギリシャの経済崩壊の重荷を負うべきだと主張する。最低基準を満たせるかどうかの確証もなしにギリシャを統一通貨ユーロに迎えた以上は、「EUが責任を負って債務の多くを担わなければならない」と彼は言う。
ただし、度重なる救済という形ではない。それは底なしの穴にカネを投げ入れるようなものだと彼は表現する。
ギリシャはユーロ圏を去るべきだと彼は言う。そして連帯責任によって、EUが「ギリシャの債務の4分の3を免除する代わり、ギリシャはユーロ圏とは別に小さな債務国家として再スタートをきればいい」 だがこれはプランBではない。ゲゲンに言わせれば、これこそがプランAであるべきだ。【6月29日 テリ・シュルツ Newsweek】
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【「あまりの重責で、彼には無理だった」】
このギリシャの危機的状況を打開すべく事にあたっているのは名家出身のパパレンドウ首相ですが、どこかのやはり危機的状況の国の指導者同様、その評価は芳しくないようです。
****「統治も辞任もしない首相」ギリシャにも****
アメリカ生まれのパパレンドウ首相には、議会と国民の心を掌握する指導力もデフォルト危機に対処する経済知識もない
指導者失格 誠実な人柄で知られるパパンドレウには首相より大学教授が似合うとの声も
ギリシャのパパンドレウ首相は、父親も祖父もかつて首相を務めたという政界のサラブレッド。だが、ギリシャ政界に半世紀以上に渡って君臨してきた名門パパンドレウ家は今、「退場」の瀬戸際に追い込まれている。
膨大な国家債務を抱え、デフォルト(債務不履行)の危機に直面してから1年あまり。EU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)の支援を得るために数々の厳しい財政再建策を打ち出してきたにも関わらず、ギリシャ財政は再び破綻の縁に立たされている。(中略)
ギリシャがこの1年間、国際社会からの支援と引き換えに行ってきた歳出削減と増税は、ギリシャ経済を一段と悪化させた。失業者は増え、収入は目減りする一方。緊縮財政に反対するデモ隊が、議会の目の前にあるシンタグマ広場に何週間も座り込んでいる。世論調査で、国家が間違った方向に進んでいると答えた人は87%に達した。
事態をさらに困難にしているのが、欧州諸国の対応だ。EUはギリシャ政界が一致団結して財政再建に取り組まない限り、5回目の融資を行わないと脅しをかけている。7月までに融資が下りなければ、ギリシャはデフォルトに陥る。それなのに、パパンドレウ首相の父親が1974年に創設した与党・全ギリシャ社会主義運動の国会議員の中にも、緊縮財政法案に反対する者がいる。
経済政策の明確なビジョンなし
「手に負えない状態だ」と、政治科学を専門とするエール大学のギリシャ人教授、スタティス・カリャバスは言う。「債務危機は非常に深刻で、そもそも交渉の余地などなかった。政府は過去30年間に行うべきだった経済改革を1年間で実行しなければならなかった」
だが、なりふり構わぬ泥仕合が繰り広げられるギリシャ政界のなかでは珍しく、穏やかな対話を好むパパンドレウは6月中旬、異例の行動に出た。最大野党の党首で米アムハースト大学時代に学生寮のルームメイトだったアントニス・サマラスに、ある提案を持ちかけたのだ。
それは、自らの辞任と引き換えに、法案に賛成し、大連立政権に参画してほしいというもの。だが身内からの助言もあって、パパンドレウは自身の59回目の誕生日に当たる6月16日、大連立構想を撤回した。
ギリシャのエスノス紙によれば、弟のニックが「ジョージ、パパンドレウ家の政治家が辞任したことは一度もない」と諌めたという。「首相は辞任しないものだ」
「父親の後を継いで政治家になったのは、彼自身の選択ではなかったのかもしれない」と、ギリシャで活躍する小説家で評論家のアレクシス・スタマチスは言う。「あまりの重責で、彼には無理だった」
口うるさいユーロ圏の国々と交渉しながら、自国を危機から救う舵取りをするのは困難極まりない仕事だ。しかも、パパンドレウには明確な経済政策のビジョンがなかったと、04〜06年にパパンドレウのスピーチライターを務めた政治経済学者ヤニス・バロウファキスは指摘する。
「パパンドレウは今年、猛スピードで経済学を学ばなければならなかった」とバロウファキスは言う。「彼は今の危機が起きる直前に、首相に選ばれた男だ。04年に首相になっていたら、彼にとっても国民にとっても話は違っていただろう。だがこの危機の最中では、諸外国とうまくやっていく力量さえ失っている」
米ミネソタ州で生まれてアメリカとイギリスで教育を受け、外国語に堪能な社会学者のパパンドレウ。当初はヨーロッパ人とうまく付き合っていける人物と見られていた。外務大臣時代は欧州諸国の大臣たちに好かれ、彼らと親しい関係を築いていた。
反対にパパンドレウが苦労したのは、同じギリシャ人との付き合い方だ。ギリシャ国民は、パパンドレウのことを同胞とは見ていない。カフェインとタバコをこよなく愛する国にあって、パパンドレウは健康志向の強いサイクリング愛好家。プリウスを運転する自然エネルギー信奉者でもある。
熱弁を振るった父とは違い、パパンドレウの演説は穏やかで、人々を鼓舞する迫力がない。好戦的なギリシャ政界では異色だ。ギリシャ国民に向かっての演説より、国際会議で英語で演説しているときのほうが居心地が良さそうにも見える。【6月28日 ジョアンナ・カキシス、ニコラス・レオントポウロス Newsweek】
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