(香港 6月4日 過去最高となる18万人(警察発表8万5千人)が集まった天安門事件犠牲者追悼集会 北京の天安門広場でこうした光景が見られる日が来るのでしょうか? “flickr”より By Leung Ching Yau Alex http://www.flickr.com/photos/cyalex/7337698932/ )
【「関連法規と政策に基づいて表示できない」】
6月4日は、89年の中国・天安門事件から23年目にあたります。
事件に関する動きについては、6月1日ブログ「中国 天安門事件から23年 事件を巡る様々な動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120601)で取り上げたばかりですが、その続報です。
以前から、中国当局は天安門事件に関する情報管理を厳しく行い、国民にその実態を知らせないようにしていますが、6月4日当日には、その情報管理もエスカレートしたようです。
****「今日」「広場」も検索NG 天安門23年で中国当局****
「6月4日(月)、曇り、おはよう」――。天安門事件から23年を迎えた4日、中国版ツイッター「微博」では、こんな文章も「公開に適しない」として削除された。「6月4日」を敏感な言葉と位置付け、当局が管理を厳格化している表れとみられる。
また、「今日」「広場」「民主」といった単語の検索も制限された。普段から中国のネット上で制限されている「天安門」などに加え、事件の歴史を思い起こさせる「戦車」「運動」も検索できなかった。
さらに規制は隠語にも広がっており、「5月35日」(5月31日+4日)や8の2乗を表す言葉(答えが64=6月4日)も「関連法規と政策に基づいて表示できない」。ろうそくの絵文字も削除された。【6月4日 朝日】
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たまたま上海株式市場の総合指数下落幅が、“64.89”ポイントなったことで、いささか滑稽なほどの騒ぎも起こったようです。
****天安門事件の日付が上海株指数に…検索制限騒ぎ*****
上海株式市場で4日、市場全体の値動きを示す総合指数の下落幅が、中国の民主化運動が武力弾圧された天安門事件の日付1989年6月4日と同じ64・89ポイントとなった。
事件からちょうど23年後の偶然の一致は中国のネット上で大きな反響を呼び、関連語の検索などが制限される騒ぎとなった。
4日の終値は前週末の2373・44から2308・55に落ち込み、下落幅は同市場で今年最大だった。4日午後、ネット上で数字の一致が指摘されると、「偶然にしては出来過ぎ」「政府の事件への対応に不満を持つ者の人為的操作では」などの臆測が広がった。
天安門事件は中国で通称「六四」と呼ばれるが、こうした事件の関連語は数日前から中国版ツイッター「微博」で削除の対象となっていた。香港各紙によると、上海市場の話題が広がると、「株式市場」や、上海証券取引所を指す「上証」などの経済用語もネット上で検索できなくなったという。【6月5日 読売】
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【「いつか文化大革命のように再評価されると思う」】
教育の場では一切触れられないことや、こうした情報管理の“甲斐あって”、6月1日ブログで取り上げたように、事件を知らない若者も多く存在するようです。
ただ、香港や台湾との人の往来が増えれば、今後、当局のコントロールが及ばない形での情報拡散もありえます。
****天安門事件、香港は忘れない 過去最大規模の追悼集会****
中国の天安門事件から23年となる4日、軍に撃たれ犠牲となった学生らを追悼する集会が香港のビクトリア公園であった。軟禁されていた中国の人権活動家、陳光誠氏が先月渡米して人権問題に関心が高まったこともあり、会場には主催者発表で過去最高となる18万人(警察発表8万5千人)が集まった。
参加者の多くはインターネット上の呼びかけに応え、黒い服を着ていた。民主をたたえる歌を共に歌い、事件の犠牲者らを悼むろうそくをひとり一人がともした。
集会には、当時北京の大学生で戦車にひかれ両足を失った方政さん(46)が、移住先の米国から参加。「たくさんの人が事件を忘れないでくれている。北京の人に代わって、本当にありがとうと言いたい」と述べ、会場中が「事件の再評価を」「6月4日を忘れるな」と叫んだ。
大陸から来る中国人も増えており、司会者が「手を挙げて」と呼びかけると、会場のあちこちで手を振る人が見られた。
中国では天安門事件について報道されることはなく、若者で事件を詳しく知る人は多くない。一方でネット規制を越えて天安門事件を調べ、興味を持つ若者はいる。湖南省から来た会社員男性(28)は観光中に集会を知り、駆けつけた。「いつか文化大革命のように再評価されると思う」と話した。
香港への中国人観光客の個人旅行が2003年に解禁されて以降、大陸客が年々増加。昨年は前年比24%増の2800万人に達した。追悼集会の主催者によると、会場で募る寄付金に香港ドルに加えて人民元紙幣が交じる割合が、年々増えているという。【6月5日 朝日】
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台湾では馬英九総統が4日、天安門事件23年に対する所感を発表しています。
その中で、「事件が残した歴史の傷は癒えていない。中国大陸の人権をめぐる国際社会の印象は事件の年のままにとどまっている」と指摘し、天安門事件の再評価を「政治改革の一歩」とするよう中国の指導部に呼びかけています。【6月5日 朝日より】
【「事件は中国共産党の歴史上最も重大な過ちだった」】
中国共産党は、天安門事件で民主化を求めた学生らの行動を反革命的「動乱」としていますが、今のところはこの評価は変わっていません。
****天安門事件から23年 胡政権、「動乱」評価変えぬまま****
1989年に中国の民主化を求めた若者らを共産党が弾圧した「天安門事件」から、4日で23年となる。今年の共産党大会で引退する胡錦濤(フー・チンタオ)指導部は、民主化運動を「動乱」とした党の評価を変えぬまま、党への批判の動きを引き続き封じ込めている。
3日午後、ネット上では黒いシャツを着て各地で事件の犠牲者を追悼する行動が呼びかけられた。しかし、天安門広場ではいつもより多くの警察車両が巡回し、こうした動きを抑え込んだ。北京市内の人権活動家の自宅には3日朝から警察が張り付いて外出を禁じるなど、例年通り厳しい監視態勢が敷かれている。
事件で子供を失った遺族でつくるグループ「天安門の母」は、胡錦濤政権下で迎える最後の命日を前に声明を発表。「(胡政権下で)中国は高度の経済成長を遂げた。政治制度改革を始めるチャンスだったのに、硬直化した官僚は中国の平和的な変革を実現する歴史的なチャンスを無駄にした」と批判した。【6月4日 朝日】
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香港の人権団体「中国人権民主化運動情報センター」によると、犠牲者が埋葬された北京市内の墓地「万安公墓」に向かった遺族数人が当局に一時拘束され、合同の墓参は許されなかったそうです。
また、アメリカ国務省のトナー副報道官が、事件に関係して服役中のすべての活動家の釈放を中国政府に求めたことに対して、中国外務省の劉為民報道局参事官は4日の定例記者会見で「中国の内政に粗暴に干渉している」と米国への不満を表明しています。【6月4日 毎日より】
温家宝首相はかねてより事件の再評価を求めているとも言われていますが、現実の政治を動かすには至っていません。
そんななかで、事件当時の国家主席だった楊尚昆氏が生前、「事件は中国共産党の歴史上最も重大な過ちだった」と語っていたとも報じられています。
****天安門事件「最大の過ち」…当時の主席が生前に****
香港の人権団体・中国人権民主化運動ニュースセンターは4日、1989年の天安門事件当時中国の国家主席だった楊尚昆氏が生前、「事件は中国共産党の歴史上最も重大な過ちだった」と語っていたと伝えた。
楊氏と98年に面会した元人民解放軍医の親族が同センターに明かした。楊氏は「自分は過ちを修正することはできないが、将来には必ず修正されるだろう」とも語っていたという。
楊氏は98年9月に91歳で死去した。天安門事件では、軍による民主化運動弾圧を支持したとされている。【6月5日 読売】
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【「メディアの相互批判は大変革を促す」】
生前に自らの口からその旨を明らかにして欲しかったとの思いもありますが、共産党指導部内でも、天安門事件再評価を含めて、政治改革を巡る意見の対立があるようです。
そうした対立は多くの場合、今秋の世代交代を控えた権力闘争と連動して密室の中で行わますが、いろんな思惑で、その一端がときにメディア上で明らかにされることもあります。
****中国メディア間で非難・謝罪の応酬 指導部の対立反映か****
中国メディアの間で、非難や謝罪といった異例の応酬が相次いでいる。共産党機関紙系の新聞の論調に対し、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の人脈に連なる別の中国紙までが批判を展開。今秋の世代交代を控えた指導部内で、路線対立が激化している表れとの見方が出ている。
「いかなる国家も腐敗を根絶することはできない」
党機関紙、人民日報系の環球時報は先月29日、そう評論で訴えた。「鍵となるのは、民衆が許容できる程度に抑え込むことができるかだ」とした上で、「現段階で腐敗を徹底的になくすことに現実性はない」と国民に当局の取り締まり状況に対する理解を求めた。
これにかみついたのが、党エリート養成機関、共産主義青年団(共青団)の機関紙、中国青年報だった。
「制度と民主以外に反腐敗の道はない」との題で2日後、「中央の指導者は腐敗は絶対に容赦しないと強調している。腐敗を絶対に容赦しないのはこの時代の普遍的な価値だ」と指摘。「人々をぼうぜんとさせる誤った議論が少なからず見受けられる」と環球時報を名指しで批判した。
人民日報をはじめとした中国のメディア全般を担当するのは党序列第5位の李長春(リー・チャンチュン)・政治局常務委員。この論調を、胡主席の出身母体である共青団の機関紙が批判する、という異例の構図と受け止められている。
中国では、獄中の作家劉暁波(リウ・シアオポー)氏の2010年12月のノーベル平和賞受賞などを経て、言論への引き締めが強まっていたが、保守的な勢力の代表格で重慶市党委員会書記だった薄熙来(ポー・シーライ)氏が失脚。これまで抑えつけられていた改革派が、保守的なメディアに反論し始めているとの見方だ。
一方、環球時報の評論をめぐっては別の「事件」も起きた。中国版ツイッター「微博」の2大ポータルサイトの一つ「騰訊」が先月30日、環球時報に謝罪する声明を出した。騰訊が転載時に「中国は腐敗を根絶することはできないと民衆は理解すべきだ」と簡約化して見出しをつけたことが、「良くない影響を招いた」とされた。
また、広東省の週刊紙・時代週報の社長は先月29日、北京市共産党委員会の機関紙・北京日報の本社を訪れて謝罪した。
北京日報が先月18日に掲載した「主旋律を奏でることが中国メディアの社会的責任」と題する文章を、時代週報は紙面座談会で批判的に取り上げていた。北京日報の社長名を挙げ、「観点が非常に古くさい。文化大革命のころの観点だ」ともしていた。
言論の自由度が高い広東省の新聞やネットメディアが、保守的な主要メディアの論調に果敢に挑んだものの、結局は頭を下げた形。関係者によると、時代週報には当局から謝罪するよう働きかけがあったという。保守派の巻き返しとみられている。
ネット上では「メディアの相互批判は大変革を促す」といった歓迎の声や「北京日報の社長こそ市民に謝罪すべきだ」などの書き込みが相次いでいる。【6月5日 朝日】
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共産党一党支配という大枠の中での“コップの中の嵐”に過ぎないと言えばそれまでですが、言論の自由度が増し、天安門事件再評価や政治改革の実現につながる動きが出てくれば、日中間の相互理解・意思疎通も、もう少しは改善されるのではないかとも思うのですが。