(首都モガディシオ 一般庶民の“レストラン” “flickr”より By CDRD project in Somalia http://www.flickr.com/photos/somcdrd/7152445957/ )
【「アルシャバーブのテロ活動が東アフリカの安定と米国の安全保障上の利益を脅かしている」】
アフリカ東部・ソマリアでは依然として実質的無政府状態が続き、イスラム過激組織「アルシャバブ」は首都モガディシオからは撤退したものの、未だ大きな勢力を維持して広いエリアを実効支配しています。
これに対し、直接介入は避けているアメリカが、「アルシャバブ」指導者の居所情報提供に対し最高700万ドルの懸賞金を払うことを発表しています。
****ソマリア過激派司令官に懸賞金=居場所情報に最高5億円超―米*****
米国務省は7日、ソマリアのイスラム過激組織アルシャバーブの創始者アフメド・アブディ・アウ・モハメド司令官(34)の居場所特定につながる情報に懸賞金最高700万ドル(約5億5000万円)、ほか6人の幹部についてそれぞれ300万~500万ドルを提供すると発表した。
国務省がアルシャバーブ幹部を懸賞金制度の対象にするのは初めて。国務省は声明で「アルシャバーブのテロ活動が東アフリカの安定と米国の安全保障上の利益を脅かしている」と指摘した。【6月8日 時事】
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このアメリカの懸賞金を嘲るように、「アルシャバブ」側も、オバマ大統領とクリントン国務長官の居場所に関する情報提供への報償として「ラクダ」を贈呈すると表明しています。
****米大統領の居所情報に「ラクダ10頭」 ソマリア過激派 ****
アフリカ北東部ソマリアに拠点を築く国際テロ組織アルカイダ系の「シャバブ」を名乗る武装勢力は10日までに、米国のオバマ大統領とクリントン国務長官の居場所に関する情報提供への報償として「ラクダ」を贈呈すると表明した。
イスラム過激派系のウェブサイトに載せた音声の声明で述べた。報償のラクダは、オバマ氏に関する情報提供に対し「10頭」、クリントン氏の場合は「2頭」としている。
米政府が先に、シャバブ幹部の捕そくなどにつながる重要情報の提供に対する報奨金を発表したことをあざけった対抗手段ともみられる。(後略)【6月10日 CNN】
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【「今のモガディシュは、イラクのバグダッドやアフガニスタンのカブールよりは安全になった」】
前述のように「アルシャバブ」は首都から撤退し、ひところに比べると暫定政府側も一息ついた状態ですが、その首都モガディシオがリゾート地として蘇りつつあるという、“ウソのような話”があります。
****天国? 地獄? 新しいソマリア・リゾート****
「世界で最も危険な都市」の一つと長年恐れられたソマリアの首都モガディシュが、イメージを一新しようとしている。インド洋の楽園として、だ。
この数カ月間にモガディシュの海岸を訪れた外国人記者たちは、モガディシュの海の美しさや活きのいいロブスターをほめちぎってきた。レストランやホテルを始めた起業家もいる。
モガディシュのある地区は、「立入危険区域」から「見逃せない観光スポット」に生まれ変わったと、この地区の新しいレストランを紹介するAP通信の記事はいう(ただし客はセキュリティ・チェックを受けなければならないし、店内には武装したボディーガードがいる)。
「そばにあるラウンジの長椅子では、海水浴に来た男性が日光浴。全身を覆う水着姿て海に飛び込むイスラム教徒の女性もいる。メニューにはアイスクリームやシーフード、水パイプなどが並び、ないのは政府に禁止されたアルコールだけだ」
アルカイダとつながりのあるイスラム過激派組織「アルシャバブ」は昨年、政府軍とアフリカ連合(AU)軍部隊の反攻でモガディシュから追放された。
数十年もの内戦の間に世界に散ったソマリア難民も帰国し始めた。隣国ケニアに避難していた外国の大使館や国連職員も同様だという。
先週末には、アメリカのアフリカ担当国務次官補ジョニー・カーソンもモガディシュを訪問した。1993年、米軍が戦闘ヘリ2機と18人の兵士を失う大失態を演じ『ブラックホーク・ダウン』という映画にもなった戦闘以来、最も位の高い政権幹部だ。
実際は、外国記者たちが興奮するほどの楽園とはまだ言えない。多くの建物は銃弾でハチの巣にされ、あるいは爆弾で瓦礫と化したままだ。自爆テロもあるし道路脇には爆弾も仕掛けられている。
3月には、閉鎖されていた国立劇場も20年ぶりに再開した。だが数週間後、アルシャバブとつながりのある民兵たちの自爆テロで8人の死者が出た。
だが、ソマリア政府の広報担当者アブディラマン・オマール・オスマンは楽観的だ。今のモガディシュは、イラクのバグダッドやアフガニスタンのカブールよりは安全になったし、観光客誘致のため観光大臣も任命するかもしれないという。【6月14日 Newsweek】
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「アルシャバブ」は首都撤退後はゲリラ戦術を実行しており、3月末の報道では、“モガディシオでは1日平均5回の爆弾テロが起きている。昨年10月には教育省の入り口で爆発があり、80人以上が死亡。今月14日も大統領府近くで多数の死傷者を出す自爆テロが起きた。戦線の拡大とともに広がった防衛線のすき間から潜入を繰り返しているようだ。”【3月25日 朝日】と報じられています。
また、4月4日には首相演説中の自爆テロにより、ソマリア五輪委員会の会長とソマリア・サッカー連盟の会長を含む4人が死亡しています。
“今のモガディシュは、イラクのバグダッドやアフガニスタンのカブールよりは安全になった”・・・・本当でしょうか?
まあ、起業家は数年先を見越して投資する必要がありますので、今後はマガディシオの治安は改善するという予測のうえでの話でしょう。実際そのように改善すれば喜ばしいことです。
4月9日ブログ「ソマリア 8月で暫定政府の権限切れ、新政府樹立をめざす 欧米企業の資源開発打診も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120409)でも取り上げたように、欧米企業が、ソマリアや近海に埋蔵されている可能性がある地下資源の獲得に乗り出し始めているという動きもあります。
ただ、“国連は先月(2月)、ソマリアで飢饉の脱出を宣言した。しかし、大半の地域では、シャバブが国際機関を敵視しているため、依然として200万人に必要な食糧援助が届いていない。国内避難民と海外へ逃れた難民は計約230万人に上る。”【3月25日 朝日】という状況での“インド洋の楽園”の話には、とまどいを感じます。
自爆テロが頻発するような都市に一体誰が観光に訪れるのでしょうか?海外ジャーナリストと国内一部特権階層が対象でしょうか?
銃で守られたリゾートと、その外に暮らす食糧援助も受けられない多くの国民の対比には、めまいすら感じます。
【「どこに金が消えたのか我々も知りたい」】
ソマリア暫定政府には観光開発より重要な課題があります。
****ソマリアへの国際援助金、100億円超消える****
内戦によって20年以上無政府状態が続くソマリアで、過去2年間で主に国際援助からなる1.3億ドル(約104億円)の歳入が暫定政府の会計に計上されず、使途不明になっていることが分かった。世界銀行の調査として米メディア「ボイス・オブ・アメリカ」などが伝えた。
世銀の調査によると、2009年に8300万ドル、10年4800万ドル分の使途が分からない。暫定政府では会計システムが機能せず、透明性が欠如しているとしている。調査担当者は「援助金がしばしば暫定政府の個人に渡されていた。多くが中央銀行に預けられなかった」と指摘する。
暫定政府のアフメド大統領は記者会見で「本当に政府に対して渡された金か、国際社会に調査してもらいたい。どこに金が消えたのか我々も知りたい」と語った。【6月6日 朝日】
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ソマリアだけでなく、アフガニスタンなど内戦状態ある国々に共通した問題です。
“暫定政府の個人”に渡った国債援助金が、政権に近い“起業家”を経由して“インド洋の楽園”になる、あるいは特定勢力の武器となる・・・・といったことのないように、確実な調査を期待したいものです。
こうしたことがクリアできない限り、仮に「アルシャバブ」が撃退されても、第2、第3の「アルシャバブ」が出現するのは必定です。