(不凍港ウラジオストク ソ連時代は軍港として立ち入りが禁止されていました。 日本との交易に関しては以前より玄関口として機能していましたが、中古車市場の縮小やここ数年の日露関係の外交上の悪化により、最近は定期船や航空便が廃止・減便され、関係はしぼんでいます。しかし、天然ガス輸出基地として、再度“玄関口”として重要性を増す可能性も。 “flickr”より By SRAS http://www.flickr.com/photos/39013022@N02/5379201418/ )
【タンカーは対岸の日本に1日半で着く】
近年、日本のロシアからの資源輸入が急速に増大しています。
06年から本格輸入が始まったロシアからの原油輸入は、11年には全輸入の4.4%を、また、09年から本格輸入が始まったロシアからの液化天然ガス(LNG)輸入は、11年には全輸入の9.1%に増加しています。
また、ロシアの極東開発事業への日本企業の参画も進んでいます。
日本にすれば、課題とされてきた中東に大きく依存する原油の調達先の多様化にもなりますし、何と言っても“近さ”があります。
中東からだと20日かかるうえ、イランが封鎖をほのめかすホルムズ海峡や海賊の心配のあるマラッカ海峡も通ります。
サハリンからなら、日本まで船で3、4日。更に、昨年サハリンからの天然ガスパイプラインが完成したウラジオストクからなら1日半で日本に着きます。
また、日本は東京電力福島第一原発の事故後、エネルギー政策の根本的な見直しを余儀なくされており、当面は天然ガスによる火力発電の比重を高めざるを得ないという、需要増大という事情もあります。
極東開発を至上命題とするロシアからすれば、輸出相手は当初想定された中国・韓国から日本に変わりつつあり、特に、単なる資源輸出にとどまらず、付加価値をつけて国際的に通用する製品を生み出し、極東の経済開発につなげようとするうえで、日本企業の技術力に関心を寄せています。【6月3日 朝日より】
****東へ 日本へ オイルロード4800キロ〈動く極東〉****
■エネルギー編:上
・・・・ロシア極東・沿海地方の小さな入り江に面した石油積み出し専用のコジミノ港。切り立った丘の上の貯蔵タンクから下の桟橋に停泊する10万トン級のタンカーへ、石油を注入する作業が続く。タンカー1隻を満杯にするのに半日以上。だが、いったん出航すれば、タンカーは対岸の日本に1日半で着く。
ロシアの沿海地方南部は、経済成長するアジア太平洋地域に向けて開かれた窓だ。ここにはるか彼方(かなた)からエネルギーを運び、資源輸出と、その資源を利用して地元産業開発を図る。政府の大号令で、大規模プロジェクトが進んでいる。
ロシアの石油輸出は2000年代初頭まで欧州方面に限定されていた。コジミノ港が出荷を始めたのは09年末。東シベリアの石油を日本海に運ぶ4800キロの「東シベリア太平洋石油パイプライン」は途中までしかつながっていなかったが、今春、その延長工事がほぼ完了した。11月には全区間で稼働する見通しだ。
今は途中でシベリア鉄道に積み替え、3~4日かけて運ばれている。直送されれば、コジミノ港の年間出荷量は来年から倍の3千万トンになる。港で、設備増強の工事が急ピッチで進む。
■ナホトカに輸出・加工基地
一方、人口17万の地元ナホトカ市は、このパイプライン完成を機に建設が始まる石油輸出・加工基地をつくる構想で変貌(へんぼう)を遂げつつある。
コジミノ港の隣の港の一角にある400ヘクタールを超える広大な空き地に石油化学工場を建設するという。沿海地方政府によると、主にプラスチック素材のポリエチレン、ポリプロピレンを製造。順次タイヤ工場、自動車部品工場など関連産業を広げていく計画だ。関連で1万5千人前後の新規雇用が生まれるという。(中略)
ロシアの資源輸出のもうひとつの柱、天然ガスも同じだ。
昨年9月には、沿海地方のウラジオストクとサハリンをつなぐ1800キロのガスパイプラインが開通。今年は、さらに東シベリアで開発計画が進むチャヤンダ・ガス田とウラジオストクを約3千キロのパイプラインで結ぶ工事が始まる。
18年には、パイプラインの終点でロシアで2番目の液化天然ガス(LNG)工場が稼働し、天然ガス輸出が始まる計画だ。 (中略)
■日本企業も参加の動き
こうしたロシアの国家プロジェクトに、日本は深くかかわっている。
コジミノ港では、東日本大震災後の混乱でいったん落ち込んだ日本への石油出荷は、今年1~4月に170万トンを超えて全体の33%に。国別で1位になった。
日本の課題は石油の中東依存緩和。同港運営会社のドルギフ副社長は「われわれは石油輸入元の多様化に貢献できる」と胸を張る。石油化学工場計画でも、プラント建設、出資などで日本企業の名があがる。
ウラジオストクのLNG工場建設では昨年、日本の経済産業省がロシア政府系企業「ガスプロム」と事業化調査することで合意。伊藤忠商事などが加わった。ガス化学工場計画にも複数の日本商社が絡む。
ガスプロムの東シベリア・極東部門幹部は「日本企業に期待するのは技術だけではない。我々にとっては、彼らがアジア太平洋で(資源や製品の)販路を持っていることが重要なのだ」と話した。【6月3日 朝日】
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天然ガスについては、ロシア側には日本を輸出先にせざるを得ない事情もあります。
“主な売り先だった欧州は財政危機で、今後の需要増は期待できない。さらに非在来型の天然ガスであるシェールガスが、技術革新によって地中深くから取り出せるようになり、米国での天然ガス価格は1年前のほぼ半額になった。米国向けの中東カタール産LNGが欧州に回るようになり、ロシア産天然ガスとの価格競争が激化していた。
ただ、極東でも中国、韓国とは微妙だ。09年末にトルクメニスタンからのパイプラインを稼働させた中国とは、価格交渉が平行線。北朝鮮経由で韓国とパイプラインをつなぐ構想は、実質的な進展がない。”【同上】
しかし、サハリンはともかく、“ウラジオストクのLNGについてガスプロムは、東シベリアのチャヤンダ・ガス田から天然ガスを運んでくることを前提にしている。しかし、山地や凍土が多く、コストがかかる。天然ガスを約3千キロも運んだ上に、高額な費用がかかるLNG工場を建てることに、コスト面で不安視する声がある。”【同上】との指摘もあります。
【「電力線でつなぐと相互依存が強まる」】
【朝日】記事は、原油・天然ガスだけでなく、電力輸出も進んでいることを紹介しています。
現在、ロシアの極東・シベリア地方で、ダムや水力発電所の建設ラッシュがおきているそうで、中国への電力輸出が行われています。
当然、日本を輸出先として視野にいれた動きが、ロシア・日本双方にありますが、電力については送電網という技術的問題もありますが、日本においては電力会社が発電と送配電を一括し「地域独占」する制度的問題もあります。
また、領土問題の存在など日ロの複雑な関係から、供給停止の可能性を懸念する声もあります。原油・天然ガスも同じですが、備蓄のできない電力は特にその点が懸念されます。
ただ、“国際電力網なら影響が多国間に及ぶので、ロシアも供給を止めにくい。「電力線でつなぐと相互依存が強まる。ロシアとの関係強化のためにも、事業化の可能性を考えておいてよい」(国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男・前事務局長)”【6月4日 朝日】との指摘もあります。
個人的には、後者の考え方に賛成です。
膠着した領土問題の前進は、相互依存の強化の過程で実現するしかないのでは・・・と考えます。
【「汚職」が日本の企業進出の妨げ】
しかし、原油にせよ、天然ガスにせよ、また将来の電力にせよ、日本側としてはロシアとの協調体制・共同開発は多くのメリットがありますが、それが大きな流れとなるためにはロシア側の国家的協力が不可欠ともなります。
サハリンでも、外国企業とロシア政府・ガスプロムの間で、当初の計画をロシア側事情で反故にするようなトラブルが生じています。
また、ロシア社会の汚職体質も問題となります。
****シベリア鉄道、貨物輸送 「みかじめ料」高額要求****
経済交流阻害 日本、露に抗議
ユーラシア大陸の東西をつなぐ物流網で、ロシア政府が国家収入獲得の戦略インフラと位置づけるシベリア鉄道で、貨物輸送を依頼した日本などの業者が正規運賃以外に、「荷物を安全に送り届けるため」として「護衛料」の支払いを強制されていたことがわかった。日本政府は日露経済交流の阻害要因として、ロシア政府に正式に抗議を申し入れた。
露極東のウラジオストクとモスクワを結ぶ全長約9300キロのシベリア鉄道をめぐっては、近年、アジアと欧州をつなぐ大動脈として注目を集め、管理する国営ロシア鉄道が、貨物輸送の高速化に着手。日本政府も、海運以外の欧州への物流ルートを確保することは戦略的利益につながるとして、輸送網の整備について協力を表明してきた。
しかし、実際の運用面では問題点も多く、複雑な税関手続きや振動などによる荷物の破損の危険性、所要日数と運行の遅れなどが関係者から指摘されてきた。
外交筋によると、「護衛料」は、シベリア鉄道で列車が荷物を輸送しているときに発生。途中駅などの「複数のポイント」で、国営の鉄道関係者とみられる人物が、日本の業者を含む依頼業者に対して、「荷物を護送した経費」などと料金を要求してくるのだという。
外交筋は「みかじめ料に近い性格のもので、高額な料金を要求されている」と指摘。護衛料が法外なため、「シベリア鉄道経由ではなく海路のルートに変えた業者も多々ある」という。
この点について、アジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合のためロシア西部カザンを訪れた枝野幸男経済産業相が5日、ベロウソフ露経済発展相と二国間会談を行った際、正式に抗議を申し入れた。
枝野氏は、「問題を解決すればさらに投資が拡大するのだから、前向きに受け止めてほしい」と要求すると、ベロウソフ氏は「護衛料が付加的にかかるのはおかしい」と述べ、違法性の疑いを指摘したという。今後、双方の政府間で問題の解決のために取り組むことを確認した。
ロシアは昨年、世界貿易機関(WTO)会合で、加盟が承認され、国内批准手続きを終えて、今年中にWTOへ正式に加盟することとを予定。役人の汚職も社会問題化しており、貿易ルールの透明性を図ろうと改革に取り組んでいる。【6月7日 産経】
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【反政府抗議運動封じ込めに動くプーチン政権】
こうした状況では、いくらメリットがあるとは言っても、共同の事業はできません。
ロシア社会に蔓延する汚職・不正は、ロシア国内的にも大きな問題となっています。
根強く続く反プーチンの動きは、国際的に問題となる人権侵害とかプーチン強権支配とかいったことではなく、プーチン政権自体が、先の下院選挙不正疑惑に見られるように、汚職・不正が蔓延する腐敗構造の根幹とみなされていることによります。
政権側は、こうしたプーチン批判封じ込めのため、デモ規制を強化する法案を成立させています。
****ロシア上院:デモ規制強化法案可決 罰金、大幅引き上げ****
ロシア上院は6日、国内で広がる反政府抗議運動を封じる狙いで、デモ規制を強化する法案を賛成多数で可決した。野党は法案が「集会の自由」に反すると反対していたが、議会で多数を占める政権与党「統一ロシア」が強引に通過させた。
下院は5日、可決していた。プーチン大統領は早急に署名し、12日に予定されている大規模デモまでに法律を発効させて、抑え込む構えだ。
法案は、暴力など違法行為に発展したデモ参加者への罰金を大幅に引き上げた。現行のデモ参加者500〜1000ルーブル(約1200〜2400円)▽主催団体1000〜2000ルーブルから、法案では参加者1万〜30万ルーブル▽主催団体25万〜100万ルーブル−−へ増額。
また、新たに非公式団体がデモを主催した場合、団体責任者も罰則対象に加える。参加者のマスク着用を禁じるなど、規則を軒並み強化している。
一方、新たな罰則では違反者が罰金を払わないで、社会奉仕活動で償う選択肢を設定しており、与党は当初の規制案から一定の譲歩に応じた。
12日に予定されている大規模デモを巡り、モスクワ市は近く開催許可を判断する。反プーチン勢力は許可が得られなくても、強行する意向を示しており、混乱する恐れもある。【6月6日 毎日】
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日本や欧米的な見方からすれば、明らかに進むべき方向を間違えているように見えるロシアです。