(世界最大の砂漠湖、ケニアのトゥルカナ湖で遊ぶ子供たち “flickr”より By Ruary James Allan http://www.flickr.com/photos/ruaryj/6235426737/ )
【ダム建設で危機に瀕する世界最大の砂漠湖】
今後の世界情勢で“水資源”を巡る争いが大きな問題となるであろうというのは、大方の共通した認識です。
アメリカ国家情報長官室も3月22日、2040年までに世界の水不足が深刻化し、地域情勢の不安定化や紛争を招く恐れがあると分析した報告書を発表しています。水不足の主な要因として、人口増加、経済発展、気候変動を挙げています。
このブログでもメコン川やナイル川の水資源を巡る関係国の対立を何度か取り上げたことがります。
今日目にした報道は、アフリカ・ケニアに関するものです。
****世界最大の砂漠湖を脅かす隣国のダム、ケニア****
焼けるような日差しにキラキラと翡翠色の湖面が輝く。長さ250キロメートル、幅60キロに及ぶケニアのトゥルカナ湖は、世界最大の砂漠湖だ。
砂漠の中に宝石のようにきらめく壮大なこの湖だが、湖畔で漁や放牧をして暮らす人々の生活は今、北の隣国エチオピアで建造が進むダムに脅かされている。
「かけがえのない湖だ。驚くばかりに美しい。でも60年後には人も魚も消えて、死んだ湖と化してしまうだろう」と、地元議員のジョゼフ・レクトン氏は嘆く。
トゥルカナ湖の水の80%は、北から流れ込むオモ川が供給している。しかし2006年、エチオピアはオモ川上流でダム建造に着手した。ギベ3ダムは、完成すれば高さ243メートルに達するアフリカで最も高いダムとなり、210平方キロメートルの貯水湖を生み出す。中国資本を得て既に5割が完成した。
電力不足に悩むケニア政府は06年、ギベ3ダムが発電する電力のうち最大500メガワット(MW)をエチオピアから輸入することで合意したが、トゥルカナ湖畔に暮らす人々にとってこれは裏切り行為に思えた。
トゥルカナ湖の一部を世界遺産に指定した国連教育科学文化機関(ユネスコ)も、ダム計画を非難している。
■アラル海の悪夢、再来か
圧力団体「トゥルカナ湖友の会」を08年に創設した環境活動家のイカル・アンジェレー氏は、ダム貯水湖に水が溜まればトゥルカナ湖の水位は2~5メートル下がり、かつての状態に2度と戻ることはないだろうと語り、カザフスタンとウズベキスタンの間に横たわるアラル海の例を引き合いに出す。
1960年代より綿花栽培のため水がくみ上げられたアラル海は、湖面が大幅に縮小し消失の瀬戸際にある。アンジェレー氏は警告する。「(トゥルカナ湖が)アラル海の再現になるのは確実だ。ダム建設に合わせてオモ川下流にサトウキビと綿花農場が作られ始めたが、これら全てが湖に流入するべき水を奪うだろう」
ただでさえトゥルカナ湖には温暖化の魔の手が忍び寄っている。この地域では今や1年の大半で気温が40度を超えており、蒸発量の増加によって湖面はここ数年で数十メートル規模で縮小した。
■ダム完成前に調査を、建設後には協議組織を
水の希少性が増す中、地域では家畜や牧草地に必要な水源地の管理をめぐる争いも増えている。前年東アフリカを襲った干ばつと飢饉では、トゥルカナ湖周辺はケニア国内で最も大きな被害を受けた。
ケニア・ナイロビに本部がある国連環境計画のアヒム・シュタイナー事務局長は、トゥルカナ湖の生態系は「とても壊れやすい」と指摘する。しかし、ダムが湖に及ぼす影響について調べた資料は少ない。
「ダム建設と運用の結果、これまで数百年、数千年も続いてきた生態系が機能しなくなるのだとすれば、明らかに大きな問題だ。そんなことはケニア当局もエチオピア当局も望んでいない。実際にこれらのことが起きる前に、研究し、議論し、評価を行わなければならない」とシュタイナー氏。
一方、もはやダム建設を中止することは不可能と考え、完成後に何ができるか、対策を検討し始めた活動家らもいる。少時は湖でよく遊んだという「トゥルカナ湖保護キャンペーン」のギデオン・レパロ主任は、未来の子どもたちが同じ楽しみを味わえないことに心を痛めつつ、次のように述べた。
「はっきり言って、建設費用の残りを中国が出してダムが完成するのは時間の問題だ。だから次の行動計画は、ナイル川流域と同じような組織を設立し、上流で起きることに対する発言権を獲得することだ」 【6月11日 AFP】
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【民主化や人権改善に背を向ける“北京コンセンサス”の限界】
中国の資金援助によるダム建設ということで、援助先における民主化や人権問題・環境問題に殆んど配慮することなく、資源と国家的権益確保のためになされる中国外交がもたらす問題のひとつのようにも見えます。
ただ、ギベ3ダムに関しては上記記事以外に情報を持っていませんので、中国がどのようなスタンスでこれに関わっているのかはよくわかりません。
エチオピア政府だけでなく、電力供給を受けるケニア政府も賛同しての事業であるのは間違いないところです。
環境問題、あるいは現地の利害という観点で言えば、別に中国援助事業でなくとも、大規模開発は往々にして現地住民の利害に反する形で展開されます。日本のODAによる事業もその例外ではないでしょう。
特に、ダム建設は、八ツ場ダム建設に関する迷走にも見られるように、利害調整が難しい事業です。
そうした留意すべき点はありますが、中国援助によるダム・・・ということでは、ミャンマーにおけるダム建設が住民の反対で中止になった事例が想起されます。
現地の民意や利益を殆んど配慮せずに進められる中国式援助の在り方に対する批判は、かねてより強くあるところです。
****中国式投資 途上国「NO」 ミャンマー、ダム開発中止を表明****
■ザンビア、リビア、スーダン…次々方向転換
軍政から民政に移管したミャンマーのテイン・セイン大統領が9月末、北部カチン州で中国と共同建設している水力発電用大型ダム「ミッソンダム」の開発中止を表明した。多額の投資・援助で途上国を抱き込んできた中国だが、ミャンマーやリビア、ザンビアなどの政権交代に伴い、民主化や人権改善に背を向ける“北京コンセンサス”の限界が見え始めている。
同ダムは、ミャンマーの軍事政権と中国政府の間で契約が結ばれた。中国国有企業による投資総額は36億ドル(約2760億円)にのぼる。軍政幹部が開発推進を強硬に主張したとされ、中国政府からの賄賂の存在がささやかれていた、いわく付きの事業だ。
ミャンマーでは民政移管後、環境保護を訴える声が沸騰。テイン・セイン大統領は世論に応える形で「(ダムは)自然景観を破壊し、地域住民の暮らしを破壊する」などとして、軍政の決定を覆した。
これに対し、中国外務省の洪磊報道官は今月1日、「中国企業には、その国の法律に厳格に従って、責任と義務を履行するよう求めており、関係諸国には中国企業の合法で正当な権益を保障するよう促している」との談話を発表した。
こうした新たな体制側との“友好的協議”の訴えは、リビアでの石油利権を維持するため反カダフィ派に呼びかけたケースや、親中国のスーダンから独立した、石油権益が集中する南スーダンにおけるケースと重なる。
経済発展を維持するために世界中で資源エネルギーをむさぼる中国は、積極的にアフリカ大陸に進出してきた。そこに介在する賄賂が政権幹部を堕落させ、人権を無視して地元労働者を酷使する中国企業への反感も暴発寸前だ。
9月下旬、中国が鉱物資源を狙って20億ドル以上をつぎ込んできたアフリカ南部ザンビアで、反中国で知られる野党、愛国戦線のサタ党首が新大統領に就任した。
前政権は中国の投資が2万人の雇用を生んだと称賛していたが、米メディアによると、その陰では労働争議に絡む中国人経営者による射殺事件が頻発。「中国の投資は一般市民のためではない」というザンビア人労働者の嘆きは、中国との癒着が政権批判を助長したことを物語っている。
かつて、中国の体制内学者が、政府の支援を受けて海外で資源を獲得する中国企業の在り方を批判したことがある。「恩恵は国民に再分配しなければならない。そのために民主化と政治改革が求められる」。中国が“北京コンセンサス”を持ち込んだ途上国で、その指摘の正しさが証明されつつある。【11年10月4日 産経】
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最近では、イランにおける中国企業によるダム建設契約が解消されたニュースもありました。
このイランのダム建設契約解消のいきさつはよくわかりません。さすがの中国もイランと距離を置き始めたのでしょうか?
****イラン、中国企業との20億ドルの水力発電ダム建設契約解消****
中国国営メディアは31日、イラン政府が中国企業との20億ドル規模の水力発電ダム建設契約を解消したと報じた。
イランにとって中国は経済、外交上で最も重要な国の一つだが、今回の契約解消をきっかけに両国関係がぎくしゃくする可能性もある。
イランのアハマディネジャド大統領は来週開催される上海協力機構(SCO)首脳会議出席のため中国を訪問する予定になっており、胡錦濤国家主席との会談でイランの核開発問題も話し合われる見通し。
国営イラン通信(IRNA)は昨年3月、中国最大のダム建設会社、中国水利水電建設集団(601669.SS:株価, 企業情報, レポート)が、イラン西部ロレスターン州でダムを建設する契約をイランの水力発電会社Farabと結んだと報じていた。
これに対して共産党機関紙、人民日報系のタブロイド紙「環球時報」は、イラン政府が契約解消を決定したと報じた。
記事は情報源や解消の理由については触れていないが、イランのメディアの報道を引用し、イランの中央銀行は中国側が提示した資金調達の選択肢に「不満を抱いた」と伝えている。【5月31日 ロイター】
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【水不足、中国国内でも進行か】
ダム建設に伴う“水資源”の問題という点では、中国国内でも、国家的大プロジェクトとして建設された三峡ダムが上流のダム建設で水不足に陥っているとの報道もあります。
****三峡ダムが深刻な渇水状態、上流の大型ダム群が原因―香港紙****
2012年6月7日、環球時報によると、香港のサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙が6日、上流に建設された複数の大型ダムが原因で三峡ダムが深刻な渇水に陥っていると報じた。三峡ダムは世界最大級の水力発電所だが、水が不足すれば十分な発電ができない。
中国水力発電工程学会の張博庭(ジャン・ボーティン)副事務長などの専門家が現地の状況を検証し、上流に位置する複数の大型ダムが貯水し始めると、下流に位置する三峡ダムに必要とされる水量の確保がほぼ不可能であることを確認した。
上流のダムが貯水するようになったのに伴い、その下流域では深刻な干ばつによる被害が頻発するようになり、ハ陽湖や洞庭湖などの中国最大級の湖も水源が脅かされるようになっている。
長江水資源保護局の元局長は、ダムで発電に必要とされている水量は長江の総流量をすでに超えていると指摘。四川省の地質学者をはじめとする専門家からも、もし政府が大型ダムの運行計画を見直さなければ長江はいずれ干上がってしまうと警告している。【6月9日 Record China】
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国家的大プロジェクトである三峡ダムの運営に支障をきたすようなダム建設を上流で進めるというのは、その意図がよくわかりません。
予測できない事態が起きてしまったのか、あるいは統一的な開発計画なしに各地地方当局が勝手に事業を進めているのか・・・。
黄河の水不足(断流)が深刻で、長江(揚子江)の水をまわさないと・・・といった議論が以前ありましたが、今はどんな状況なのでしょうか?
北部の水不足解消のため、長江の水を3つのルートで北部に送るという「南水北調」計画が2002年に着工していますが、事業はあまり進んでいないとも聞きます。
“本来の計画では、2010年までには「南水北調」プロジェクトにより10億立方メートルの水資源が長江から北京市に送り込まれる予定になっていたが、プロジェクトの進捗状況などにより、実施が2014年にずれ込むことになった。これにより、ダムの貯水不足や地下水位の下降など、北京市の水資源を取りまく状況は今後一層厳しさを増すことが明確となった。”【09年5月11日Record China】
今年4月に銀川を旅行した際に、黄河の水は大丈夫なのかガイド氏に尋ねると、昔は問題があったが今は大丈夫だ・・・とのことでした。本当でしょうか?
いずれにしても、三峡ダムが水不足になるようでは、長江も水も十分ではないということで、中国の水問題は今後深刻化する可能性があります。