孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャ問題への、スー・チーさんら民主化運動関係者の積極的関与を望む

2012-06-14 22:53:59 | ミャンマー

(ロヒンギャ族の襲撃に備えて武装する仏教徒住民 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/7177820521/

【「ロヒンギャ族をミャンマーから追い出せ」】
ミャンマー西部ラカイン州での仏教徒とイスラム教徒の衝突が起きたこと、そして、このイスラム教徒というのがミャンマー国内では市民権が与えられていない“存在を否定された民族”ロヒンギャ族であることは、6月10日ブログ「ミャンマー 民主化の試金石 “存在を否定された民族” ロヒンギャ族への対応」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120610)で取り上げたところです。

ミャンマーからは国民として認められていないロヒンギャ族は、隣国バングラデシュに逃げても厄介者として追い返され、海に出てタイに逃れると海上に放置され・・・という状況で、国連も世界で最も迫害されている少数民族のひとつとみなしています。

****ミャンマー非常事態宣言 西部で宗教対立、暴力連鎖****
ミャンマー西部ラカイン州で、仏教徒とイスラム教徒が衝突し、暴力の連鎖により24人が死傷している。多民族国家が抱える民族問題の根深さを象徴するこの出来事は、内外に国家の不安定さを印象づけ、海外投資や州内の経済特別区(チャウピュ)の開発にも影響する。このためテイン・セイン大統領は同州に非常事態宣言を発し、事態の沈静化に躍起だ。

事の発端は、イスラム教徒のロヒンギャ族の若者がある町で、仏教徒であるラカイン族の少女を暴行したと伝えられたこと。報復としてラカイン族は3日、ロヒンギャ族が乗ったバスを襲撃し、10人を殺害した。
8日にはロヒンギャ族が暴徒化し、千人以上がラカイン族の22村を襲撃して7人を殺害し、住宅や店舗など約500軒に放火した。混乱は州都シットウェにも拡大し、10日にラカイン族の家屋が焼かれ負傷者が出た。最大都市ヤンゴンでは仏教徒約600人が、「ロヒンギャ族をミャンマーから追い出せ」と叫んだ。

大統領は10日夜、就任以来初めて非常事態を宣言し、双方に自制を呼びかけた。同州には陸・海軍が出動し、僧院や空港を中心に厳戒態勢が敷かれている。

この国では仏教徒が89%、イスラム教徒は4%にすぎない。ビルマ族が68%を占め、135民族が共存しており、大統領は「民族の融和」へ、少数民族の反政府武装勢力と和平交渉を進めている。だが、北部カチン州などでは銃声がやまない。そこへ発生した今回の問題はしかし、民族・宗教間の衝突、しかも政府がロヒンギャ族を自国の民族として承認していないという点で、性格を異にする。

ミャンマーには80万人近いロヒンギャ族がおり、ほとんどがイスラム教を国教とするバングラデシュに面したラカイン州に暮らす。その歴史をたどると諸説あり、例えば15世紀頃、現在のバングラデシュから流入したというものだ。

ミャンマー政府は、ロヒンギャ族を「移民」と認識し、強制労働や武力攻撃により弾圧した。このため25万~30万人がバングラデシュに逃れ、そこからタイやマレーシアに渡った者も少なくない。多くは「不法移民」として扱われている。

バングラデシュ政府は彼らをミャンマーに送還し、帰還を拒否した者を公設キャンプなどにとどめている。政府は今回、国境の警備を強化し、11日にはシットウェから8隻の船でたどり着いたロヒンギャ族300人以上を、押し戻した。【6月12日 産経】
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“15世紀頃、現在のバングラデシュから流入した”ということであれば、すでに500年以上が経過しており、もはや“流入”でも“移民”でもありません。
ロヒンギャと仏教徒の確執には、イギリス植民政策も関与しているとも言われています。

“ビルマ人の歴史学者によれば、アラカン王国を形成していた人々が代々継承してきた農地が、英国の植民地政策のひとつである「ザミーンダール制度」で奪われ、チッタゴンからのベンガル系イスラム教徒の労働移民にあてがわれた。この頃より、仏教徒対イスラム教徒という対立構造が、この国境地帯で熟成していったと説明している。
日本軍の進軍によって英領行政が破綻すると、失地回復したアラカン人はミャンマー軍に協力し、ロヒンギャの迫害と追放を開始した。”【ウィキペディア】

【「国境封鎖で人々の命を深刻な危険に追いやっている」】
今回の衝突で、ロヒンギャのなかにはバングラデシュへ避難しようとする動きもありますが、バングラデシュ側は避難民を追い返す措置をとっています。

****ミャンマー難民1500人追い返す バングラデシュ****
ミャンマー西部ラカイン(ヤカイン)州でイスラム教徒のロヒンギャ族と仏教徒の対立が激化している問題で、AFP通信によると、バングラデシュ国境警備当局は13日までの3日間で同国側に逃れてきた計660人以上のロヒンギャ族が乗った計16隻の船を海上などで発見、ミャンマー側に追い返した。
大半は女性や子どもで、下痢などを訴えていたという。AP通信は追い返されたロヒンギャ族は1500人に上ると伝えた。

バングラデシュに難民などとして居住するロヒンギャ族は20万人以上とされるが、同国政府は「難民受け入れは国益にならない」(モニ外相)とし、ラカイン州での民族対立の激化後、国境の監視態勢を強化している。

これに対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は懸念を表明。人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは12日、「国境封鎖で人々の命を深刻な危険に追いやっている」として同国政府に難民受け入れを求める声明を出した。【6月14日 朝日】
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経済的に余裕のないバングラデシュに多くを期待することはできません。先ずは、ミャンマーが市民権付与を含めて、ロヒンギャの問題に向き合うべきでしょう。

【「過激派が警官と一緒に家に放火しイスラム教徒を虐殺している」】
現在どのような状況にあるのかはわかりませんし、仏教徒(ヤカイン族、ラカイン族、アラカン族などと呼ばれており、ミャンマー国内的にはいわゆる少数民族にあたります)の側には彼らの言い分もあるかと思います。
ただ、国籍を持たない“非国民”であるロヒンギャの置かれている状況が相当に困難なものであろうことは想像できます。

****過激派が「イスラム教徒虐殺」=ロヒンギャ族が訴え―ミャンマー****
「過激派が警官と一緒に家に放火しイスラム教徒を虐殺している」。
ミャンマー西部ラカイン州の宗教衝突について、イスラム教徒である在日ビルマロヒンギャ協会のゾー・ミン・トゥ会長(39)が、現地からの情報を基に危機的状況を訴えている。実態解明を急ぐよう国際社会に求めるが、殺害が続いているとみられ、焦りを募らせている。

13日に都内で時事通信などに語った。同州では、多数派の仏教徒ラカイン族と少数派のイスラム教徒ロヒンギャ族が暮らす。ビルマ民族中心の中央政府は同じ仏教徒のラカイン族を優遇し、ロヒンギャは国籍も認められず、差別されてきた。

5月下旬、イスラム教徒3人に仏教徒の少女がレイプ・殺害された。6月3日には仏教徒300人が報復でイスラム教徒が乗ったバスを襲撃、10人を惨殺した。イスラム教徒はロヒンギャ以外にもおり、少女を襲ったのが「ロヒンギャかは分からない」(会長)が、8日の金曜礼拝で集まったロヒンギャを仏教徒が襲撃した。

会長が得た情報では、この日、襲撃後に捕らえられた仏教徒をロヒンギャの群集が警察署に連行しようとした際、仏教徒の警官が自分たちに対する襲撃と勘違いして発砲。死者が出たため、州都シットウェをはじめ各地に騒乱が拡大した。

現地では水や食料の入手も困難だが、州当局は仏教徒にしか物資を配給しない。ロヒンギャの家庭は急速に困窮しており、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は「人道危機」と警告。会長は「時には不法移民、時には犯罪者。ミャンマー政府はロヒンギャに種々の汚名を着せてきたが、どれでもない。われわれは人間だ。人権を認めてほしい」と涙ながらに訴えた。【6月14日 時事】 
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【「敬愛するアウンサンスーチー女史にロヒンギャ人の声を代弁していただきたいのです」】
難民支援NGO"Dream for Children"公式ブログ(代表:亀田浩史氏)には、今回の衝突が起こる以前から、ロヒンギャ難民のスー・チーさんらへの嘆願が紹介されていました。

****アウンサンスーチーにロヒンギャ人が嘆願*****
(5月)23日夜、ロヒンギャ難民の活動家が、ビルマ(ミャンマー)内外に暮らす200万人のロヒンギャ人の支援をアウンサンスーチーを含む議員に求めた。

「敬愛するアウンサンスーチー女史にロヒンギャ人の声を代弁していただきたいのです。ロヒンギャ人が奪われた権利、かつてのロヒンギャ人が有していた権利を再獲得できるよう声をあげていただきたいのです。」
ビルマロヒンギャ人協会タイ代表のマウンチョーヌーはこう語った。

ロヒンギャ人は西ビルマのアラカンに住むムスリムだ。彼らは市民権を得られず、多くの差別に直面している。例えば、結婚の許可を得るのに3年かかる。村から自由に出ることもできない。当局からもその他の人権侵害を受ける。

結婚の許可を得られたとしても、子供を3人以上つくらないという同意書にサインしなければならない。公式な許可なく結婚した場合、夫は懲役5年の刑に問われることもある。アラカン州北部のブティマウン刑務所には、この罪に問われた人が収容されている。

しかし、植民地時代には、イギリスと戦う見返りとして、ロヒンギャ人は他の民族と対等の権利を与えられていた。
「1946年、アウンサンスーチー女史の父アウンサン将軍が私が住む地域にやってきました。将軍は、『あなたたちに自由を与える。その代わりに、私に協力してほしい。』と言いました。」
とマウンチョーヌーは語る。(後略)【5月25日 難民支援NGO"Dream for Children"公式ブログ】
http://ameblo.jp/dream-for-children/entry-11260015861.html***************************

【「アウンサンスーチーはロヒンギャ人のことに対して、何も口にせず、何も行動しません」】
イギリスの植民地支配からの独立運動を指導した故アウン・サン将軍と少数民族代表が1947年に交わした「パンロン合意」では、連邦国家の枠内で少数民族の自治を保障することになっています。
ロヒンギャ難民が期待する民主化運動指導者であり、かつ、国父アウン・サン将軍の娘でもあるスー・チーさんへの嘆願ですが、そのスー・チーさんは現在外遊中です。

****スー・チー氏、欧州に出発…国内では批判も****
ミャンマーの民主政党・国民民主連盟(NLD)を率いるアウン・サン・スー・チー氏は13日、欧州5か国歴訪に出発した。

14日にスイスのジュネーブで国際労働機関(ILO)総会に臨み、16日にはノルウェーのオスロでノーベル平和賞受賞演説を行う。1991年に受賞したが、軍政の自宅軟禁下に置かれていたため、息子が代理出席していた。19日には英ロンドンで息子と67歳の誕生日を祝い、フランスも訪れて30日に帰国する予定だ。

ただ、スー・チー氏は最近、ミャンマー西部ラカイン州で激化する仏教徒住民とイスラム教徒のロヒンギャ族の対立を巡る発言で批判も招いており、半月にも及ぶ訪欧は中止すべきだとの声も国内で上がっている。【6月14日 読売】
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上記記事にあるスー・チーさんの“仏教徒住民とイスラム教徒のロヒンギャ族の対立を巡る発言”というのどういう発言で、そのような批判が起きているのかは知りません。

ただ、前出の難民支援NGO"Dream for Children"公式ブログ(代表:亀田浩史氏)には、ロヒンギャ難民のスー・チーさんへの失望の声が紹介されています。

****非常事態宣言のビルマ(ミャンマー)西部を国連高官が訪問****
・・・・バングラデシュに暮らすロヒンギャ難民の指導者は、ミャンマーの民主化運動指導者アウンサンスーチーがロヒンギャ人の苦境を無視していると糾弾した。

「アウンサンスーチーはロヒンギャ人のことに対して、何も口にせず、何も行動しません。1990年の総選挙で、私の両親を含む多くのロヒンギャ人がアウンサンスーチーに投票したにもかかわらずです。」
現在バングラデシュのテクナフのナヤパラ難民キャンプに暮らすモハマド・イスラムはこう語った。

アウンサンスーチーは13日ヨーロッパへ旅立った。スーチーの政党国民民主連盟のスポークスマンによると、スーチーは「仏教徒とイスラム教徒の両者に公平な支援」を行うよう指示したという。

スーチーは17日にオスロを訪れ、1991年のノーベル平和賞を正式に受賞する予定だ。スーチーは現段階では、「少数民族にも同情を」と訴えた以外は沈黙を保っている。民主化運動指導者の中にも、ロヒンギャ人はミャンマー国民ではないと見る人が多い。【6月14日 難民支援NGO"Dream for Children"公式ブログ】
http://ameblo.jp/dream-for-children/entry-11277051729.html************************

ロヒンギャに対する差別はヤカイン族だけでなく、民主化運動に関わる人々を含め、広くミャンマー社会一般に見られるものであると言われています。
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ビルマでは、南アジア系の人々を指す「カラー」(外国人の意)という侮蔑的な表現があるが、ロヒンギャはこれよりもさらに見下された扱いを受けることが多い。
この事実がはっきりと見て取れる最近の事例は、2009年2月に、イエミンアウン在香港ビルマ総領事が他国の領事たちに宛てた書簡の内容だ。

「・・・・実際、ロヒンギャは「ミャンマー国民」でもなく、ミャンマーに住む民族集団でもないのです。写真をご覧になれば、彼らの皮膚の色が「薄黒い」のがお分かりかと存じます。ミャンマー人の皮膚の色は白く透き通っていて、見た目にも美しいのです。・・・・彼らは鬼のように醜いのです」 【Human Rights Watch 「生死をさまよう人々」】”
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スー・チーさんの「少数民族にも同情を」という発言がどのような文脈でなされたものかわかりませんが、少数民族に必要なのは“同情”ではなく“対等な権利”です。
スー・チーさんなど民主化運動に携わる人々が、ロヒンギャの問題についても主体的・積極的に関与していくことを望みます。
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