(ポーランド・グダニスクで22日行われたサッカー欧州選手権2012準々決勝、ドイツ対ギリシャ戦で大興奮のメルケル独首相 試合は4-2でドイツの勝利 ここでもギリシャはドイツに勝てない・・・【6月23日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2885769/9162711)
【“緊縮見直し”には、EU側が応じる可能性のない主張が多数】
ギリシャでは17日の再選挙で緊縮策持続を訴える新民主主義党(ND)が、反緊縮派の急進左派連合に勝利し、 “ギリシャのユーロ離脱”という最悪の状況を“ひとます”回避したことで、EUなどの関係国は安堵しているところです。
しかし、“緊縮策持続”とは言いつつも、緊縮策の痛みへの国民の強い反発をかわすため、連立与党3党は財政緊縮策見直しの政策合意書を発表しています。
その中には、EU側が応じる可能性のない主張が多数盛り込まれており、今後の交渉の成り行きが懸念されています。
****ギリシャ:緊縮策見直し、新政権合意…EUの反発必至****
ギリシャの連立与党3党は23日、新政権の政策合意書を発表した。欧州連合(EU)・国際通貨基金(IMF)に求める財政緊縮策見直しの目標として、14年までの期限を2年延長し、再延長も可能にするほか、新たな給与・年金削減を中止し、引き上げられた消費税率を再び下げるなど、EU側が応じる可能性のない主張が多数盛り込まれている。重い課題を背負った政権の運営は難航必至だ。
3党は新政権の目的を「危機に立ち向かい、成長への道を開き、ギリシャが欧州の道から外れず、ユーロ圏での地位を危うくすることなく、救済策の諸条件を見直す」とした。
再選挙中から「緊縮策廃止」を掲げた第2党・急進左派連合に対抗するため、3党とも大幅な見直しを公約し、合意書には大半が盛り込まれている。
3党協議で調整がもめたのは(1)政権の任期(2)民営化の範囲(3)税制見直し。政権任期は、第1党の中道右派・新民主主義党が「議員任期と同じ4年」、第3党の中道左派・全ギリシャ社会主義運動と第6党・民主左派が「2年」を主張。左派2党は「14年の欧州議会選挙まで」を想定していたが、左派が譲歩して「憲法の規定通り」で落ち着いた。
民営化は、経済政策を成長重視に切り替えたい新民主が、範囲の拡充・加速を主張し、民主左派が「公的部門の公共性は維持すべきだ」と注文したが「民営化によって解雇しない」を条件に折り合った。
税制では、13%から23%まで引き上げられてきた消費税率を再び下げることや、国民の怒りが大きい追徴課税について「納税は収入の25%まで」として上限を設けるなどの緩和策で早々に一致。
新民主の「法人税率引き下げ」と、民主左派の「高所得者課税の強化」の公約が対立したが、法人税率は据え置き、高所得者課税は先送りすることで妥協した。
合意内容すべての実現は不可能で、EUとの再交渉のスケジュール目標も不明。左派2党は選挙後、再交渉団の早期結成を表明したが今は沈黙している。【6月24日 毎日】
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選挙公約したばかりですし、国民向けに“見直し”のポーズは取らざるを得ないところでしょうか。
ギリシャ側がどの程度“見直し”に固執するのか、EU側がどの程度譲歩できるのか・・・それによっては支援中断、ギリシャ経済の破綻というシナリオもあり得る状況で、まだまだ不安定な情勢は続きます。
【「今はギリシャ側が行動すべき」】
“EUとしてはギリシャ情勢安定のため、緊縮策へのギリシャ国民の反発を和らげる必要もある。緊縮策緩和に向けた再交渉を公約するサマラス党首を念頭に、ウェスターウェレ独外相は同日、財政再建目標の達成を先延ばしする可能性に言及。28、29日のEU首脳会議でも緩和策が主要議題になるとみられる”【6月19日 産経】とも言われていますが、特に、ドイツ国内にはギリシャ救済への不満もあります。
****ギリシャ、合意した改革を迅速に進めるべき=独財務相****
ドイツのショイブレ財務相は24日、ビルド紙日曜版に対し、ギリシャの新政権がさらなる支援を求めることを止め、既に決まっている金融支援と引き換えに合意した一連の改革を迅速に進めるべきとの見方を示した。
同紙はドイツ、フランス、スペイン、イタリア4カ国の4000人を対象とした世論調査結果を掲載。ギリシャのユーロ離脱を望む声がドイツとフランスでそれぞれ78%、65%に達したほか、スペインで51%、イタリアで49%が離脱を支持していることが示された。
ショイブレ財務相は同紙に対し、通常にない強い口調で、世論調査にも反映されているように、債務危機でギリシャは欧州大半の信頼を失ったと指摘。「今はギリシャ側が行動すべき。欧州の人々の信頼を取り戻すのはギリシャ次第。これは具体的な行動を通じてのみ達成される」と強調した。
同財務相はまた、「(アントニオ)サマラス新首相が直面する最も重要な課題は、ギリシャに対して誰かがさらにどのくらいのことをできるかを問うことではなく、合意したプログラムを遅らせずに迅速に実行することだ」と述べた。
ギリシャの新政権を担う連立与党3党は21日、支援策の条件となっている財政緊縮目標の達成期限を2年延期するよう求める方針で合意。
欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領は、ウェルト紙日曜版のインタビューでこの方針に水を差し、「期限をめぐってさらに柔軟性を設けることは加盟国からの財政的な努力がさらに必要となるということを肝に銘じなければならない」と指摘。「支援を受けるギリシャやその他の国の目標が延期されれば、さらなる融資が必要となり、それは明らかに一部の加盟国にとって問題を引き起こす」と述べた。【6月25日 ロイター】
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【首相と財務相、健康問題を理由にEU首脳会議を欠席】
緊縮策“見直し”についてどのように議論されるのか注目されていた28~29日のEU首脳会議ですが、ギリシャの新首相と財務相がそろって健康上の理由で欠席することになりました。
また、首相と財務相の体調不良を受けて、EU・IMF側も調査団のアテネ訪問を延期しています。
****ギリシャ首相と次期財務相が入院、EU首脳会議を欠席へ 「トロイカ」はアテネ訪問延期****
ギリシャ政府によると、サマラス新首相と新政権の財務相に任命されたラパノス氏が、2人とも健康問題を理由に28―29日の欧州連合(EU)首脳会議を欠席する見通し。今回のEU首脳会議では、ギリシャが国際社会に対し、救済条件の緩和を要請する予定だった。
サマラス首相は23日に目の手術を受けた。ラパノス次期財務相は22日、財務相就任の宣誓を行う前に、嘔吐、激しい腹痛、めまいを訴えていた。
ギリシャ政府スポークスマンによると、EU首脳会議には、サマラス首相らに代わってアブラモプロス外相とザニヤス暫定内閣財務相が出席する。
また、EU、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)で構成する「トロイカ」は、25日に予定していた調査団のアテネ訪問を延期することになった。
「トロイカ」当局者はサマラス首相およびラパノス次期財務相と会談し、支援条件としてギリシャに求めている改革の状況について調査する計画だった。
IMFのスポークスマンは、欧州局デピュティディレクターのポウル・トムセン氏のアテネ訪問を延期すると発表。新たな日程は未定としている。
EUスポークスマンも、「トロイカ」のアテネ訪問が延期されたことを確認した。
ギリシャ政府スポークスマンによると、サマラス首相は網膜の問題で手術を受けたが、手術は成功し、25日に退院する予定。「サマラス首相は、旅行を取りやめ、2―3日静養するよう医師から指示された」と述べた。
病院側は、サマラス首相の状態について「良好で回復している」と明らかにした。
財務相に正式就任する直前に入院したラパノス氏について、医師は23日に、検査を受けたが容態は落ち着き、回復していると述べていた。それ以上の詳細については明らかにされていない。【6月25日 ロイター】
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当然に、今この時期に見直し交渉難航を国民にさらすのは得策ではないとの判断で、病気を理由に欠席したのでは・・・とも思えますが、実際のところは分かりません。
ギリシャ側の対応については、遅かれ早かれ、白黒決着をつける必要に迫られています。
【キプロス 「EUの支援が必要なら、銀行の資本増強向けに限りたい」】
ギリシャの成り行き次第では、格段に経済規模が大きいスペインも・・・ということが懸念されています。
当のスペイン政府は25日、ユーロ圏諸国に最高で1000億ユーロ(約9兆9800億円)の救済支援を正式に要請しています。
経済規模が小さいので言及されることが少ないのですが、キプロスもギリシャと一蓮托生の状況にあります。
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地中海のキプロス島は、もともとギリシャ系キリスト教徒とトルコ系イスラム教徒が混住。オスマン・トルコ領、英国領を経て1960年に「キプロス共和国」として独立。ギリシャへの併合を求める勢力が74年にクーデターを起こしたのを機に、トルコが自国系住民の保護を名目に北部(全土の37%)を占領、分断された。トルコ系住民が大量に入植した北部は83年に「北キプロス・トルコ共和国」の独立を宣言したが、トルコ以外は承認していない。キプロス共和国は04年に欧州連合(EU)に加盟、08年にユーロを導入した。【6月24日 毎日】
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南の「キプロス共和国」はギリシャ系住民が約8割を占めていることから容易に想像できるように、ギリシャ経済と強く結び付いており、ギリシャ経済危機でキプロスの金融も追い込まれています。
****キプロス:ロシアへの支援要請も検討 6800億円必要****
金融機関の資本増強が急務となっているユーロ圏のキプロスが、政府の財政再建分を含め、最大で68億ユーロ(約6800億円)の支援が必要と算定していることがわかった。政府与党幹部が毎日新聞の取材に明らかにした。キプロスが加盟する欧州連合(EU)に加え、関係が深いロシアへの支援要請も検討している。EUから支援を受けることが決まれば、ギリシャ、スペインなどに次いで5カ国目となる。
首都ニコシアで取材に応じた労働人民進歩党のクリストドリデュス欧州部長は「明確な数字を出せる段階にない」と断ったうえで、ギリシャ国債の評価損で経営難に陥った銀行の資本増強に約18億ユーロ、公的債務の返済に30億〜50億ユーロの支援がそれぞれ必要と述べた。支援必要額は、国内総生産(GDP)の約4割に当たる。キプロス第2位のポピュラー銀行への資本増強の期限は6月末で、決断時期が迫っている。
クリストドリデュス氏は「EUの支援が必要なら、銀行の資本増強向けに限りたい」と強調。GDP比で70%を超す公的債務の手当てには「EU外の第三国からの融資」を充てる考えを示した。ロシアなどを念頭に置いていることを示唆した。
EU以外に支援を要請するのは「財政再建向けの融資をEUに要請すれば、税率引き上げなど、さまざまな条件を課される恐れがあるためだ」と指摘した。金融機関の資本増強に限ってEUから支援を受けることが決まったスペインが、財政再建資金を含めた支援を受けたギリシャなどと違い、厳しい条件を課されなかったことが念頭にあるとみられる。
ギリシャ系住民が約8割を占めるキプロスは、ギリシャ国債の評価減で30億ユーロ以上の損失を被り、銀行が資本不足に陥っている。また、格付け会社が、国債の長期信用格付けを投機的等級に引き下げたため、市場で資金調達ができない状態だ。
キプロスは7月1日から輪番制のEU議長国に就任する。EU議長国が、域外国からの支援に頼ることになれば、EUによる加盟国支援のあり方に疑問が生じる可能性もある。【6月24日 毎日】
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【欧米とロシアの間で困難なかじ取り】
EU議長国がロシアから支援を受けるというのは、EUとしては面子が潰れる話しでしょう。
しかし、どうしてロシアがここに登場するのかよくわからなかったのですが、下記記事でキプロスとロシアの繋がりが理解できました。
****キプロス:「緊縮」迫るEUに不信感 域外のロシアに傾斜****
欧州を席巻する債務危機の大波が、地中海に浮かぶ小国キプロスを襲った。国際支援に頼らざるを得ないキプロスだが、「カネ」と引き換えに「緊縮」を迫る欧州連合(EU)への不信感は強く、EU域外の大国ロシアとの関係を深める。
不景気に救いの手を差し伸べるようにロシア人観光客数は過去最高を記録する勢い。南部の高級リゾート地リマソルは「リトル・モスクワ」と称されるほどの活況だ。
(中略)ロシア語週刊誌の女性編集長、カルダッシュさんによると、人口約80万人で、ロシア語圏出身者は約5万人。10年に23万人だったロシア人観光客は11年に5割増の33万人に達した。ロシア人観光客は滞在中、1人当たり平均900ユーロ(約9万円)を使う。近くのイスラエルからの観光客の平均は300ユーロだけに重要な収入源だ。
ロシアに対するキプロスの期待は観光分野だけではない。EU加盟27カ国中、最も低い法人税率(10%)のキプロスにとって、金融・不動産分野でのロシアからの投資拡大は経済の再生を図る上でも極めて重要だ。
「EUよりロシアからの支援を望みます。ロシアなら税制に口出ししないでしょうから」。旅行業を営むクリストドリドゥさんは、EUがアイルランドへの支援と引き換えに法人税引き上げなどを求めた点を指摘。キプロスを舞台に国際的な金融サービスを展開してきたロシアならEUのような条件を突きつけないだろうと読む。
フリストフィアス大統領率いる与党・労働人民進歩党は共産主義的な左翼政党。大統領は旧ソ連時代にモスクワの大学で学ぶなど、ロシアとの間に太いパイプを持ち、昨年は、ロシアから25億ユーロの融資を取り付けた。
両国関係は第一次世界大戦まで続いたオスマン・トルコ支配下の時代にまでさかのぼる。
イスラム勢力下に置かれたキプロスのギリシャ系キリスト教徒にとって、同じ東方正教会を擁するロシアは重要な保護者だった。04年には国連安保理で、キプロスが反対する米欧主導の南北統一決議案に拒否権を行使。キプロスを強力に後押しした。(中略)
ロシアにとってキプロスの位置づけは、自国に有利なビジネス環境や、ロシアの伝統的な「南下政策」によるトルコとの対立など、現実的な要素が絡んでいる。
キプロスは「世界の火薬庫」である中東とロシア、欧州を結ぶ要衝に位置する。地中海の哨戒活動などで重要な役割を果たす英軍基地や、ギリシャ軍の基地があり、一方、北キプロスにはトルコ軍が駐留する。支援をめぐり、キプロスは今後、微妙な緊張関係にある欧米とロシアの間で困難なかじ取りを迫られることも予想される。【6月24日 毎日】
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「南下政策」をとるロシアは、16世紀から約350年間にわたりオスマン・トルコと幾たびも戦争を繰り返してきていますので、トルコが後ろ盾となっている“北”と対立する“南”をロシアが支援するというのは、歴史的に自然な流れと言えます。