孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  国民和解法案をめぐり、タクシン元首相支持派と反タクシン派の対立再燃の情勢

2012-06-08 23:41:11 | 東南アジア

(タクシン元首相派「反独裁民主戦線」(UDD)によるバンコク都心部占拠の終結から2年を迎えた5月19日、UDDは都心部で3万人を超える大規模集会を開きました。 写真はその集会参加者。 背中の女性はインラック首相。 “flickr”より By Boy in the city http://www.flickr.com/photos/thelostboy/7226412110/

【「国民和解をうたいながら、タクシン氏の免責と帰国が本当の狙いだ」】
タイでは、タクシン元首相支持派(赤シャツ)と反タクシン派(黄シャツ)の対立が繰り返されており、タクシン元首相の妹であるインラック首相のもで、国民和解が最大の課題となっています。
(5月20日ブログ「タイ 個人的人気が続くインラック首相 「タクシン・反タクシン」と「深南部」での“国民和解”の課題」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120520

ただ、現実問題としては、タクシン元首相の意向を受けて、元首相の帰国・免責(タクシン元首相は、06年にクーデターで失脚後、汚職などの罪で実刑判決を受け、服役を逃れるため現在出国中)を可能とする方向での動きが始まっています。それに伴い、小康状態にもあった支持派と反タクシン派の対立が再燃する様相を見せています。

****タクシン氏免責法案審議へ タイ政治対立再燃の懸念****
タイの下院は31日、政治対立から起きた違法行為の免責を柱とする国民和解法案の審議を6月1日から始めることを決めた。タクシン元首相の有罪判決を無効にし、帰国に道を開く内容。反タクシン派は反発を強めており、政治対立が再燃する懸念が出ている。

法案は(1)タクシン派と反タクシン派の対立が続いた2005年9月から昨年5月までの政治集会などは違法としない(2)期間中の違法行為をめぐる捜査や訴追、公判を停止し、有罪による懲罰は無効にする、との内容になっている。

成立すれば、タクシン氏の汚職罪での有罪判決や他の疑惑が一切不問に付されるほか、空港占拠やデモ犠牲者をめぐる反タクシン派や政府・治安当局者などへの刑事責任の追及も打ち切られる。

最大野党の民主党などは「国民和解をうたいながら、タクシン氏の免責と帰国が本当の狙いだ」と主張、審議入りに反対していた。黄色をシンボルカラーとする反タクシン派も30日から集会を開始し、31日は1500人が国会の正面を封鎖する構えを見せた。1日も早朝から集まるとしており、過半数を占める与党議員の登院阻止に踏み切るとの見方が出ている。

関係が冷え切っていた反タクシン派の市民グループと民主党の「復縁」も伝えられる。空港占拠などの街頭デモで2008年にタクシン派政権を倒した両者の再共闘が実現すると、「赤」(タクシン派)と「黄」「青」(民主党)の対立が再燃する恐れがある。(バンコク=藤谷健) 【6月1日 朝日】
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結局、反タクシン派による、議員の登院を妨害する大規模抗議行動によって、1日の「国民和解法案」の審議開始は6日に延期されました。

****タイ国会、和解法案の審議開始延期 ****
タイ国会は1日、予定していた「国民和解法案」の審議開始を延期した。汚職罪での服役を拒んで国外逃亡中のタクシン元首相の帰国・復権のためだとして、国会議事堂周辺で抗議活動を展開している反タクシン派が、審議阻止へ議員の登院を妨害したため。審議入りは6日に変更され、別の場所で開く可能性がある。

和解法案は与野党議員団から計4法案が提出され、いずれもここ数年の政治絡みの違法行為を不問とする内容。与野党が紛糾の末、緊急を要する最優先の法案として同日からの審議が決まっていた。【6月1日 日経】
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【「憲法改正の最終目的はタクシン氏の帰国にある」】
「国民和解法案」の他、憲法改正の審議についても、反タクシン派からは「憲法改正の最終目的はタクシン氏の帰国にある」と批判されており、憲法裁判所が違憲性を調査するとして審議凍結を命令しています。

****タイ:国内で対立が再燃 タクシン元首相「帰国法案」巡り****
国外に逃亡しているタイのタクシン元首相の帰国を可能にする法案を巡り、タクシン派と反タクシン派による対立が再燃している。

タクシン派の与党は国会で強行審議を目指したが、野党の猛反発や反タクシン派の抗議活動で紛糾。タクシン派が法案と同様に成立を目指す憲法改正案についても、憲法裁判所が審議停止を命じ、混乱に拍車がかかっている。6日夜には、国会前に審議継続を求めるタクシン派が集結を始め緊張が高まっている。

タクシン氏は06年にクーデターで失脚後、汚職などの罪で実刑判決を受けた。服役を逃れるため出国中だが、昨年7月の総選挙でタクシン氏の妹のインラック政権が誕生して以降、帰国・復権に向けた動きが活発化した。

それを可能にする手段の一つが、5月下旬に国会に提出された「国民和解法案」だ。05年9月〜11年5月に起きた政治的な違法行為を免罪にする内容で成立すればタクシン氏にも恩赦が与えられる。

もう一つの手段とみられているのが憲法改正。現在審議が進むのは手続きを定めた条文案だが、反タクシン派は「憲法改正の最終目的はタクシン氏の帰国にある」と反発する。
与党側は5月末、和解法案の国会審議入りを強行しようとしたが、野党が抵抗。連動する形で国会前で反タクシン派が抗議デモを行ったため、国会は6月1日、審議延期を決めた。更にこの日、国会で審議中の憲法改正案について「反タクシン派寄り」と見られている憲法裁判所が、違憲性を調査するとして審議凍結を命令したため、憲法改正案も審議入りのめどが立たなくなっている。【6月6日 毎日】
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【「(憲法裁判所の審議凍結命令は)憲法を踏みにじる行為で、断じて許せない」】
憲法裁判所のこうした審議凍結命令に対し、こんどはタクシン元首相支持派が不満を強め、大規模集会を開いて抗議しています。

****タクシン派、国会前でデモ=改憲案めぐり対立―タイ****
タイの首都バンコクの国会前で7日、タクシン元首相支持派「反独裁民主統一戦線(UDD)」が大規模集会を開いた。タクシン元首相の妹インラック首相率いる現政府が提出した改憲法案について、憲法裁判所が国会に不当な圧力をかけて審議を遅らせていると主張し、同裁判事の罷免を求める署名集めなどを行った。

国会前では先週も、改憲法案とは別に国会に提出された国民和解に関する法案をめぐって、反タクシン派がタクシン氏の復権を目的としたものだとして反対する大規模デモを行っている。両派による対立が再び先鋭化する恐れも出始めた。

7日の国会前には朝からUDDメンバーら約5000人が集まり、周辺道路を封鎖して占拠。署名集めを行うとともに、路上にステージを設置して「憲法を踏みにじる行為で、断じて許せない」と訴えた。【6月7日 時事】 
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以上のように、タクシン元首相支持派(赤シャツ)、反タクシン派(黄シャツ)双方が街頭に繰り出し、実力で要求を押しとおそうとする情勢となってきており、対立の構図は一向に変わっていません。
東南アジア・ASEANの中心的存在であったタイは、この不毛の対立・政治的膠着によって、著しくその立場を弱めており、出口が見いだせない状態です。
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