孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン首相の「民主化政策」 進むイスラム化 変わらぬ強権姿勢

2013-10-09 23:33:56 | 中東情勢

(自信に満ちたエルドアン首相 “flickr”より By stargundem http://www.flickr.com/photos/90977516@N03/10153919456/in/photolist-gtguuQ-gg3e4M-gg5U9Y-gmMZHu-ghCm7w-goVK7P-gkDRW8-gkSd1T-goJvwV-gjRJkZ-ggqjsj-gofMad-gur6E4-gur76e-gurHQ8-gur57p-gurJ8H-guqwsw-gurrg9-gur5qR-guqvxf-gurqQj-gsadrd)

強権姿勢に反発した今年夏の抗議行動
穏健なイスラム主義と民主主義を掲げる公正発展党(AKP)を率いるエルドアン首相は、トルコ経済の成長をリードし、イラク、シリア、イランとも関係を強め、イスラエル批判などの独自外交を展開、中東地域における存在感を高めてきました。

「アラブの春」にあっては、トルコはイスラム民主主義のモデル国とも言われました。

しかし、エジプトにあって同じように穏健イスラム主義を掲げたムスリム同胞団政権が崩壊、シリア内戦のスンニ派中心の反体制派支援でイラク・イランなどシーア派国家との関係悪化など、最近はその存在感・独自外交にも陰りが見えます。

更に、トルコでは今年夏、イスタンブールの公園再開発計画に対する反対運動がきっかけとなり、エルドアン首相の強権的政治手法を批判する大規模な抗議行動が展開されました。

抗議行動の中心となった公園の中では“日頃のイデオロギー的な激しい対立を超えて民主主義のために連帯する、(旧来のイスラム主義vs世俗主義といった対立や、多様な民族主義・宗教文化グループ間の対立を超えた)新しいトルコの市民のあり方”が模索されたという面もありますが、一方で、公園の外では暴徒化した破壊活動、イスラム的な服装の女性へのハラスメントなどもあったと言われています。
(6月28日ブログ「トルコ デモ参加者批判でイスラム主義支持勢力を糾合するエルドアン首相の思惑」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130628)

エルドアン首相は抗議行動に歩み寄ることなく、終始強気な姿勢を崩さず、力で抗議行動を抑え込んだ形になっています。その姿勢は欧米諸国のトルコ・エルドアン首相を見る目を厳しくしています。

****トルコ デモ参加の若者「おれたちは“ならず者”」****
近年の世界各地でのデモと同様、フェースブックやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が動員に大きな役割を果たしたトルコの大規模な反政府運動。

デモに参加する若者の間では、ネット上で自らを「略奪者」や「ならず者」を意味する「チャプルジュ」と名乗るのが流行した。

きっかけはデモ当初、同国のエルドアン首相が、「デモはチャプルジュやテロリストに操られている」などと発言したことだった。

デモは、警官隊が強制排除などに乗り出さない限りは平和的だっただけに、若者らは「おれたちは犯罪者ではない」と反発。あえて自分たちをチャプルジュと呼ぶことで首相を揶(や)揄(ゆ)したというわけだ。
デモに参加することを、チャプルジュをもじり「チャプリングする」と言い換える表現なども登場した。

今回のデモは、首相やそのイスラム系与党・公正発展党(AKP)が、”国是”である厳格な政教分離の原則に反して社会のイスラム化を進めようとしていることへの不満とともに、反政府的なジャーナリストを多数拘束するなど強権的な姿勢を強めていることへの反発が根底にあった。

「デモ隊をチャプルジュと呼ぶのは、国民を敵・味方でしかとらえていないからだ」。デモ参加者の大学生、セミーさん(23)はこう指摘し、デモに向きあおうとしない首相が、2011年以降の「アラブの春」で倒れたエジプトのムバラク元大統領やリビアのカダフィ大佐ら強権的な指導者と「そっくりだ」と笑う。

トルコ全体でみれば、地方を中心としたAKPの支持基盤は揺らいでいないとされる。首相が強気の姿勢を貫くゆえんといえるが、その分、デモを主導した世俗的な若者らとの溝は深まるばかりだ。【7月15日 産経】
******************

この若者らを中心とする抗議行動が、首相・与党の支配体制への国民批判を高めることになったのか、逆に、破壊活動・混乱状態などへの一般市民の批判や、沈黙を強いられた政権支持層の不満を集めて、更に支持基盤を強めたのか・・・そこはよくわかりません。【7月15日 産経】

【「正常化に向けた前進だ」】
エルドアン首相は、自らが考える「民主化政策」を打ち出しています。
そのなかで注目されるのは、イスラム主義の象徴ともみなされるスカーフについて、公の場での着用禁止をほぼ撤廃する形でイスラム化を進めている点と、トルコ領内に多く暮らすクルド人対策です。

****トルコ、イスラム女性公務員のヘッドスカーフを許可****
トルコで8日、同国で数十年にわたって適用されてきた女性イスラム教徒の公務員によるヘッドスカーフの着用を禁止する法令が廃止された。
同時に男性公務員は、あごひげを生やすことが許可される。

ヘッドスカーフとあごひげは、イスラム信仰のシンボルだが、同国ではムスタファ・ケマル・アタチュルク初代大統領によって禁じられていた。ただし裁判官・検察官・警察官・軍人には、今後も禁止措置が継続される。

ヘッドスカーフ着用禁止の解除は、イスラム系政府が推し進める多岐にわたる改革の一環。

トルコはイスラム教徒が人口の多数を占めながらも政教分離を貫いてきたが、レジェプ・タイップ・エルドアン首相率いるイスラム系政党・公正発展党(AKP)は、2002年に政権を獲得して以来、ヘッドスカーフ禁止令の全面的な解除を誓約。
同首相に対しては、同国を徐々にイスラム化しようとしているという批判の声が上がっている。

同禁止令の廃止が政府官報で発表されると、エルドアン首相は、「国家の精神に反する旧態依然の法令をようやく廃止した。正常化に向けた前進だ」と述べてこれを歓迎。一方の主要野党は、禁止令の廃止は政教分離に反すると批判している。【10月9日 AFP】
***************

****トルコ:首相「民主化政策」発表 クルド語教育も****
トルコのエルドアン首相が、少数民族クルドの使うクルド語の私立校での教育や、イスラム教徒の一部女性公務員にスカーフ着用などを認める「民主化政策」を発表した。

9月30日に記者会見したエルドアン首相は「過去最大の民主化パッケージだ」とアピール。クルド民族の人権拡大は右派の反発を招くと見られるが、スカーフ着用などを認め、支持基盤のイスラム保守派に配慮した格好だ。

トルコでは来年3月に統一地方選が予定されるが、シリア内戦の影響で南部国境付近の治安が悪化する中でクルドとの衝突を回避すると同時に、イスラム保守派の支持を固める狙いもありそうだ。

クルド人(推計2000万〜3000万人)はトルコのほかイラン、イラク、シリアなど広範囲に居住。「国家を持たない最大の民族」とも呼ばれる。少数派として各地で弾圧を受け、トルコでは公共の場でのクルド語使用などが禁じられていた。

今回、私立校でのクルド語教育を認可するほか、クルド系の小規模政党が、より議席を確保しやすい方向で選挙制度を見直す方針を盛り込んだ。

トルコからの分離・独立を訴え武装闘争を続けてきたクルドの非合法組織「クルド労働者党(PKK)」は5月以降、トルコ南東部から最大拠点のイラク北部クルド自治区へ段階的に撤収中。

しかし、AP通信などによると、エルドアン政権による人権拡大政策が不十分だとして先月、撤収を一時中断し、武装闘争の再開もありうると警告した。シリア情勢が混迷を深めるなか、首相としてはこれ以上の摩擦を回避したい思惑が働いた可能性もある。

また、憲法に政教分離を掲げ、国是とするトルコは、女性職員に公共の場でのスカーフ着用を禁止してきたが、今回、女性公務員の着用を認める。ただ、裁判官や検察官、軍人や治安当局員は除外した。【10月1日 毎日】
******************

もともとエルドアン首相・与党はクルド人を重要な支持勢力としていますが、今回の措置で更にその支持を固めようとするものでしょう。
一方で、スカーフ解禁で支持基盤中核のイスラム保守派にも配慮するという政治的目配りがなされています。
エルドアン首相自身はこの改革を「歴史的」と自画自賛しています。

しかし、“なんの審議もされず、エルドアン首相は質問も受け付けなかった。さらに、万一に備えたのだろうが、減り続ける一方の批判的なマスコミは記者会見への参加すら許されなかった。”【10月7日 英フィナンシャル・タイムズ紙 日経より】というように、批判されている強権的な姿勢は変わっていません。

今年夏に抗議行動を起こした若者らが、エルドアン首相の変わらぬ姿勢、イスラム化の促進にどのように対応するか注目されます。

“トルコの弱小な反対勢力は世俗的な共和国を目指したムスタファ・ケマル・アタチュルク(初代大統領)の意志を受け継ぐグループだが、エルドアン首相の独善的政治に対するチェック機能とはなっていない。しかし今夏、多様なトルコ都市部の市民の世論の盛り上がりは新しいトルコ市民像の台頭を印象づけた。こうした人々はアタチュルクの厳しい共和制からエルドアン首相の家父長的なサルタン(権力)に逃げ込んだりしない層だ。”【同上】

ストリートファイターとクモ
一方、同じ与党・公正発展党(AKP)にあっても、ギュル大統領はエルドアン首相とは若干スタンスが異なるようです。
ギュル大統領は先週、国会の開会にあたり、「権力の分散や報道の自由、効果的な対抗勢力も、民主主義に必要不可欠な要素だ」と述べています。

****エルドアン氏と対称的なギュル大統領****
トルコの現在の民主主義政治を率いる次の人物として、最も考えうるのは、AKPの共同創設者であり、エルドアン首相とは対称的な穏健派であるギュル大統領だろう。

エルドアン首相は大統領就任の意欲があるといわれているが、来年夏に任期満了を迎えるギュル氏がかわりに、より権力の大きい首相の座に就いて自分のライバルになるのは避けたいようだ。

エルドアン、ギュルの両者をよく知る人物は、荒っぽいイスタンブールの一角で育ったエルドアン首相は「ストリートファイター」で、海外で教育を受けたギュル大統領は「クモ」だと表現する。
「エルドアンが落ちてきて、クモの糸にかかるのを待っているかのようだ」と。

最近の状況からみると、エルドアン首相はサムソン(注:旧約聖書に登場する士師。怪力の持ち主で、最後にはつながれていた柱を倒して建物を倒壊させ死んだ)のように、AKPの牙城を崩壊させ、2人の権力だけでなく、トルコ自体を混乱に陥れるかもしれない。【10月7日 英フィナンシャル・タイムズ紙 日経より】
*****************

エルドアン首相とギュル大統領の関係は、かつてのプーチン首相とメドベージェフ大統領の関係のようにも見えますが、実際のところどのような関係にあるのか・・・わかりません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする