(青色がEU加盟国 オレンジが東方パートナー諸国 【ウィキペディア】)
【「ロシア離れ」に輸入制限で圧力】
旧ソ連のウクライナやモルドバは、東方拡大を進めてきたEUと、勢力圏再構築を狙うロシアの思惑がぶつかり合う場ともなっています。
経済的には、EUが自由貿易協定(FTA)をこれら国と締結しようとしているのに対し、ロシアは現行関税同盟の拡大版「ユーラシア連合」を計画しており、その影響力を駆使してEU接近を阻止しようとしています。
****露VS旧ソ連諸国「通商戦」 EUとのFTA締結阻止躍起…輸入制限し圧力****
旧ソ連のウクライナやモルドバが欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)締結に近づいているとの見方が強まり、ロシアがこれを阻止しようと躍起になっている。
ロシアはウクライナなどを自らが主導する「関税同盟」に取り込みたい考えで、両国からの輸入を制限して圧力をかけるなど、事態は“通商戦争”の様相を呈している。
ロシアとウクライナの間では8月中旬、ウクライナからのロシア向け輸出がほぼ全面的に停止した。露税関がウクライナ産品に差別的な手続きや検査を課し、政府間の協議で事態が正常化するまでの約1週間、国境地帯に大量の商品が滞留して多大な損失が出た。
また、ロシアの保健当局は今月、モルドバの特産品であるワインに許容値を超える有害物質が混入しているとし、輸入を禁止した。
ロシアとベラルーシ、カザフスタンの旧ソ連3カ国は、域内自由貿易と域外への共通関税を柱とする「関税同盟」を形成している。旧ソ連諸国の再統合を目指すプーチン露政権はこれを他国に拡大し、共通の経済・通貨政策を伴う「ユーラシア連合」を2015年にも発足させたい考えだ。
一方、ウクライナとモルドバ、グルジアの3カ国は、EUとのFTAを含む連合協定(AA)締結を目指しており、早ければ11月の首脳会合で調印にこぎ着ける可能性が出ている。
プーチン露大統領は、近隣諸国がEUとの関税障壁を取り払った場合、「関税同盟の国々は保護措置について考えざるを得ない」と発言、ウクライナなどからの製品輸入のストップが警告的な行動であることを強くにおわせた。
ロシアの「ユーラシア連合」構想も、域内大国のウクライナが加わらねば、経済統合の効果が乏しくならざるを得ない。ロシアはウクライナへの天然ガス供給価格を引き下げることも提示し取り込みを狙う。
一方のウクライナは輸出の約4分の1がロシア向けで、市場からの締め出しは経済が低迷するウクライナにとって大きな打撃となる。
欧州委員会のバローゾ委員長は11日の演説で、EUとの関係強化を目指す国々の「自主的な選択」を制約する試みは受け入れられないと述べ近隣諸国へ圧力を強めるロシアを批判した。
ロシアの強硬姿勢がウクライナの態度を硬化させている側面もあり、旧ソ連諸国をめぐる欧露の攻防は正念場を迎えている。【9月17日 産経】
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EUが目指す東欧への統合の深化、旧ソ連諸国の政治・経済改革を具体化していく枠組みが「東方パートナーシップ」という、EUとアルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、モルドバ、ウクライナ、ベラルーシとの間の連合協定です。
この「東方パートナーシップ」の首脳会議が11月下旬にリトアニアで予定されています。
バルト三国のひとつリトアニアは「ロシア離れ」を促す旗振り役とも言われ、ロシアはEU議長国でもあるリトアニアに対し輸入制限で圧力をかけています。
****ロシア:EU議長国への乳製品禁輸で波紋****
ロシアが今月上旬、欧州連合(EU)の現議長国リトアニアからの乳製品輸入を禁止し、波紋が広がっている。
リトアニアは、ウクライナなど旧ソ連3カ国のEU接近を具体化させる11月下旬の「東方パートナーシップ首脳会議」の開催国で、「ロシア離れ」を促す旗振り役。
EU側では今回の動きについて、ロシアの圧力策との見方が強い。旧ソ連諸国への影響力拡大を巡る両者間の確執が浮き彫りとなった格好だ。
ロシア政府が7日、リトアニアからのチーズなどの輸入を予告なしに禁止し、1週間以上が経過した。保健当局はあくまで「品質と衛生上の問題」とする。露メディアによると、リトアニアの乳製品は輸出量の8割がロシア向けとされ、小国のメーカーにとっては大きな痛手だ。
リトアニア政府は対抗措置として、世界貿易機関(WTO)への提訴も示唆。EUの執行機関・欧州委員会は「EUは食品の安全性には世界一厳しい基準を適用している」と間接的にロシアを批判した。
つばぜり合いの背景にあるのが、11月28、29日に開かれるEUの東方パートナー首脳会議だ。
2009年以来3回目で、ロシアと中央アジア諸国を除く旧ソ連の6カ国が参加する。
議題はEUとの関係強化や各国の民主化。今回は、ウクライナが、EU加盟への第一歩とされる「連合協定」を締結する見通しだ。さらにグルジア、モルドバも連合協定交渉を始めるとみられる。
自らの勢力圏とみなす旧ソ連諸国の相次ぐEU接近に、ロシアは内心穏やかではない。プーチン大統領は8日、記者会見で「ウクライナ政府が決定前に我々と協議することを希望する」と強調した。
この問題に詳しいロシアのジャリーヒンCIS(独立国家共同体)諸国研究所副所長は「ウクライナのEU接近は経済的動機からではなく、(安全保障面も含む)政治的動機によるもので、ロシアは歓迎できない」と指摘している。【10月16日 毎日】
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【ウクライナ:ティモシェンコ前首相を事実上の釈放】
「オレンジ革命」でロシアと袂を分かったウクライナは、ロシアとの強い経済関係が存在する一方で、しばしば「ガス戦争」を引き起こしてきました。
2010年2月には「親欧米」のティモシェンコ前首相を退け、「親ロシア」のヤヌコビッチ氏が大統領となり、ロシアとの関係改善が進んでいましたが、ここにきてEU接近を見せています。
しかし、EUは、ヤヌコビッチ大統領がティモシェンコ前首相を投獄したことを露骨な政敵排除として強く批判しており、ウクライナのEU接近の障害となっていました。
****ティモシェンコ前首相釈放へ ウクライナ、EU加盟に布石****
ウクライナのヤヌコビッチ大統領は18日までに、獄中にある政敵のティモシェンコ前首相(52)をドイツでの病気治療を名目に事実上釈放する方針を示した。
「親ロシア」とされていたヤヌコビッチ政権は欧州連合(EU)との統合路線にかじを切っており、11月末にも、EU加盟の前段となる連合協定(AA)を締結したい意向。EU側は、その前提条件として、ティモシェンコ氏の釈放を求めていた。
フランス通信(AFP)によると、ウクライナ議会で多数派を占める連立与党は18日、ティモシェンコ氏の海外での治療を可能にする法案を提出。ヤヌコビッチ大統領は「法案が可決された場合には署名する」と述べており、ティモシェンコ氏が出国する流れは、ほぼ確実になった。
ティモシェンコ氏は背中の痛みを訴えて治療を受けており、ドイツが受け入れを打診。ただ、大統領はティモシェンコ氏の刑の扱いについて具体的に言及しておらず、EU側との協議の行方には不明点も残る。
ティモシェンコ氏は2004年、ウクライナに親欧米政権を誕生させた「オレンジ革命」の立役者。10年の大統領選では僅差でヤヌコビッチ氏に敗れ、11年に職権乱用罪で禁錮7年の実刑を言い渡された。この判決は、国内外から「政敵排除」と猛批判されてきた経緯がある。
ヤヌコビッチ政権は11月末、リトアニアで行われるEUとの首脳会合で、自由貿易協定(FTA)を柱とするAAの締結にこぎ着けたい考えだ。EU側は、ティモシェンコ氏の収監問題が最大の障害としており、政権は「治療出国」の妥協策で切り抜けを図りたいものとみられる。
ウクライナをめぐっては、同国のEU接近を阻止したいロシアが、自国の主導する「関税同盟」への加入を要求して圧力を強めている。
今夏にはロシアの税関が一時、ウクライナ製品の輸入を事実上禁止する措置もとった。ウクライナがEUとの協定を締結した場合、ロシアとの関係は相当の悪化が予想される。【10月19日 産経】
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ティモシェンコ前首相も、2015年に行われる大統領選前に国外に出て政治生命が絶たれることは本意ではありませんが、EU統合の好機を逃すべきではないとして「提案を受け入れる」と明言しています。
このまま獄中にいるよりは、政界復帰の可能性がまだ見込めるということでしょう。
【ベラルーシ:中国接近でロシア牽制】
ロシアと「関税同盟」を結ぶベラルーシのルカシェンコ大統領は、「欧州最後の独裁者」と、その強権体質が欧州から強く非難されています。
ただ、「スラブの兄弟国」ロシアとの関係も順調ではなく、ルカシェンコ大統領はロシアを牽制して中国接近の動きも見せています。
****ベラルーシ、中国に急接近 経済危機背景 「国家再建へ唯一の選択肢」****
旧ソ連のベラルーシに対し、中国が影響力を強めている。ベラルーシのルカシェンコ大統領は今月中旬に中国を訪れ、15億ドル(約1500億円)相当の経済投資協定に署名。首都ミンスクでは「欧州最大」の中国工業団地の建設計画が始動した。
経済危機に悩むベラルーシがロシアに資金援助を断られ、中国へ接近した形だ。ロシアとベラルーシは「スラブの兄弟国」として緊密な関係にあるだけに、中国の進出ぶりはロシアをいらだたせそうだ。(中略)
欧州連合(EU)加盟国に隣接するベラルーシへの大規模進出は、「中国にとっての欧露両市場への橋頭堡(きょうとうほ)になりうる」(専門家)とも指摘される。早速、自動車大手の「浙江吉利控股集団」は、ベラルーシ国内で大型乗用車を合同生産することで合意した。
「欧州最後の独裁者」とも呼ばれるルカシェンコ大統領の下、ベラルーシは企業の操業停止、従業員の給料未払いなどの深刻な経済危機にあえぐ。
最大の支援国だったロシアは、国有企業の民営化といった改革の遅れなどを理由に今年、資金援助の継続を拒否した。
巨額融資の支払期限を今秋に控え、「中国との経済協力は国家再建のための唯一の選択肢」(露有力紙)だった。
ベラルーシの苦境に乗じた中国のしたたかな戦略といえるが、専門家は「ベラルーシは中国カードを切ることでロシアを振り向かせ、中露両国からさらなる援助を引きだそうとしている」とも指摘する。
中国は近年、中央アジア諸国への進出が著しく、カザフスタンの貿易高は昨年、ロシアを抜いて中国が1位になった。旧ソ連という“裏庭”で中国が影響力を強めていることに、「プーチン政権は懸念を抱いている」(外交筋)ともいわれる。【7月31日 産経】
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旧ソ連諸国も活路を見出すのに必死です。経済的な将来性、政治的な束縛などを考えると、そうそうロシアの言うことをきいている訳にもいきません。
プーチン大統領をもってしても、ロシアが旧ソ連諸国をたばねるのはなかなか難しそうです。