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(核兵器が製造されているとの噂があるイスラエルのネゲブ原子力研究センター “flickr”より By David Jones http://www.flickr.com/photos/46258685@N00/5813300682/in/photolist-9RGFL7-aMhTfM-du4VtW-aDzLF5-89TNTg-fPHvaZ-fPHvck-fQ13iS-fPHvaM-dcVAbb-dcVAaL-doAkqS-8tgVGy-82sYFf-dsKVJB-dsLngh-dTu3N7-7D8ALR-97zqGg-bTUM7r-bAesN8-9LDRtC-9f89Yk-9Ltqrc-doHDJR-9z7gRN-aM92Ng-aM9kHP-aM9bXk-aM9nqz-aM9iie-aM97Qi-aM9dVv-aM99RR-dYNx7T-8AK5wS-7ToCqv-7TrTUJ-7TrU1d-7TrUc1-7ToCvn-7TrUCy-7ToDdZ-7ToChK-7ToDjR-7TrU7G-7TrTgf-7TrTNf-7ToDxV-7ToBUk-7ToCbV)
【「不要な危機の終幕と新たな展望の幕開け」】
欧米との対話路線を重視し、それによる経済制裁緩和を期待するイラン・保守穏健派ロウハニ政権ですが、発足時は“そうは言っても、核開発問題で大幅な路線変更は難しいだろう。決定権もロウハニ大統領ではなく、ハメネイ最高指導者にあることだし・・・”という懐疑的な見方が欧米側に強くありました。
そうした懸念は今も基本的には変わりませんが、事態は想像された以上に前向き方向で進展しています。
イランはウランの濃縮レベルと遠心分離機の低減を提案しています。
****イラン核問題:ウラン濃度下げ提案 遠心分離機削減も****
イランの核開発問題を巡る欧米など6カ国との交渉で、イランは15日、ウランの濃縮レベルと遠心分離機の低減を提案した。AP通信が報じた。核兵器開発疑惑の完全払拭(ふっしょく)が焦点となるなか、欧米側はイランの提案を評価。国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国とイランの交渉は16日もジュネーブで行われ、協議の行方が注目される。
イランは、プロジェクターで資料を映し出す「パワーポイント」を使い、「不要な危機の終幕と新たな展望の幕開け」と題した提案を発表、ザリフ外相が英語で説明した。
ウラン濃縮を巡っては、核兵器製造が容易になる約20%の濃縮が欧米側の最大の懸念で、過去の交渉で濃縮停止を要求している。
イランは核拡散防止条約(NPT)が認める濃縮の権利を維持する形で、許容可能な範囲でレベル引き下げに応じたい構え。
濃縮に必要な遠心分離機約1万8000台(うち約1万台が稼働中)も減らし、疑惑解消を図りたい考えとみられる。
新たな提案を行うことで国際社会による全ての制裁解除を求めている。
こうした提案がされた15日の協議について、カーニー米大統領報道官は「希望がある」、米国務省のサキ報道官は「技術的議論をするための十分な情報が示された前向きな協議だ」と評価した。【10月16日 毎日】
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また、核施設の抜き打ち検査などの査察拡大を可能にする国際原子力機関(IAEA)の追加議定書の批准も提案しています。
****イラン核協議:「施設の査察拡大」追加議定書の批准提案****
イランの核開発問題を巡りジュネーブで開催中の国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国との協議で、イラン側が核施設の査察拡大を可能にする国際原子力機関(IAEA)の追加議定書の批准を提案していたことが16日、明らかになった。
イランはすでにIAEAの申告済み核施設の査察には応じており、追加議定書を批准すれば査察回数の増加や抜き打ち検査が可能になる。
欧米側は過去の協議で、追加議定書の批准を求めており、制裁回避を狙うイランにとって切り札とみられていた。イランは核兵器開発疑惑を解消させるため、透明性を高めることで国際社会による全ての制裁解除を図る狙いだ。(後略)【10月16日 毎日】
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イラン側のこうした柔軟姿勢に欧米側も好意的に反応しており、制裁緩和に向けた動きも出始めています。
****核協議:米、制裁緩和の可能性…イラン査察拡大提案受け****
イランが核問題に関する協議で核関連施設への査察拡大などを提案したことを受け、11月7、8日にジュネーブで開かれる再協議で、米側が制裁の一部緩和に応じる可能性が強まった。
オバマ政権は対イラン政策の重心を「圧力」から「関与」に移し、中東情勢の安定化の糸口をつかもうとしているようだ。
対イラン経済制裁は、国連安保理決議に基づく制裁のほかに、米国や欧州連合(EU)が独自に実施しているものがある。米独自の制裁は▽イラン包括制裁法(2010年)▽イラン脅威削減・シリア人権法(12年)▽13年度国防授権法−−などの国内法に加え、膨大な大統領令を根拠に発動されている。
米高官は協議に先立つ14日、記者団に対し、イランがウラン濃縮活動の縮小などに応じれば、制裁緩和の用意があると表明していた。実際にイラン側は濃縮レベルと遠心分離器の低減を提案したとみられ、制裁緩和が現実味を帯び始めた。
外交筋は「イランのロウハニ大統領に制裁解除の成果を与え、イラン国民のロウハニ氏への支持率を高めた方が、改革が進む可能性がある」と、制裁緩和の意義を説明する。
オバマ政権のイランに対する圧力緩和は、シリア内戦への対応にも表れ始めている。オバマ政権は今月初め、シリア和平に向けた第2回国際会議へのイランの参加を条件付きで容認する考えを初めて示した。
アサド政権の盟友イランをシリア和平に組み込む戦略は「全米イラン系米国人評議会」のトリタ・パルシ会長が主張してきた。
イランが核兵器を追求する理由は、米・イスラエルによる体制転覆の脅威への対抗だ。パルシ氏は「イランを中東の秩序形成に関与させ、体制転覆の恐怖を軽減した方が、核問題を打開しやすい」と主張しており、オバマ政権がこの戦略を試そうとしている可能性がある。
ただ、米上院外交委員会のメネンデス委員長(民主)が、ウラン濃縮活動の完全停止をイランに求めるなど、米議会内では圧力・制裁の緩和に対する反対論が根強い。
法律に基づく制裁の解除には議会の同意が必要なため、オバマ政権は、最初は議会の同意が必要ない大統領令に基づく制裁の撤廃から始めるとみられる。【10月17日 毎日】
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“ロウハニ大統領に制裁解除の成果を与え、イラン国民のロウハニ氏への支持率を高めた方が、改革が進む可能性がある”というのが、望ましい方向でしょう。
過去の改革派・ハタミ政権のときも、ハードルを高くしてイラン側の期待を潰した結果、改革派全体の退潮、保守強硬派の台頭を招いています。
当然ながら、イラン国内には対話路線への強い抵抗があり、その立場は脆弱です。
柔軟姿勢への見返りをなるべく早期に現実の施策として示すことで、援護射撃を行うことが必要でしょう。
****「米国に死を」時代遅れ?イラン標語に廃止論争***
対米関係改善を模索するイランで、改革派や市民が30年来の国家的標語として使用されている反米スローガン「Death to AMERICA」(アメリカに死を)の廃止を求め、議論が紛糾している。
保守強硬派は猛反発し、ロハニ大統領の対米融和路線を巡る国論の二分化が浮き彫りになっている。
「一部の者が対米関係について異を唱えているが、これは国益を損なう活動だ」。イラン国会で20日、保守派のラリジャニ国会議長がこう演説すると、半数の国会議員が「アメリカに死を!」や「アメリカくたばれ!」と叫び、議場は騒然となった。
高位イスラム法学者アフマド・ハタミ師も21日、「米国は害だ。反米スローガンの廃止要求は、忍耐のない証しだ」と演説した。
スローガン廃止を求めているのは、改革派や同派に近いラフサンジャニ元大統領ら。ラフサンジャニ師は9月末、ホームページで「死を望むスローガンは認められない。(前最高指導者の)ホメイニ師も廃止を認めていた」と記した自著の一節を掲載した。
国民人気が高く、ロハニ大統領も師事するラフサンジャニ師の影響力は強く、改革派各紙は連日、この問題を取り上げ、「関係改善が進む中、スローガンは消えるべきだ」(17日付シャルグ紙)と擁護。交流サイト「フェイスブック」でも、「時代遅れ」などと廃止を求める書き込みが多い。【10月23日 読売】
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【「曖昧にしておくことが、わが国の極めて明確な政策だ」】
一方、進展するイランと欧米の対話ムードに心中穏やかでないのが、イランの核開発を安全保障上の脅威として強く意識しているイスラエルです。
****イスラエル首相:米国務長官とイラン情勢協議へ****
イスラエルのネタニヤフ首相は23日、訪問先のイタリアの首都ローマでケリー米国務長官と会談し、イラン情勢を協議する。イスラエルにとって核開発を続けるイランは安全保障上の最大の脅威。
スイス・ジュネーブで今月中旬に開かれたイラン核協議の進展を受けて欧米が対イラン制裁を緩和・解除しないよう求めるとみられる。
ケリー長官との協議に先立ち、ネタニヤフ首相は22日、レッタ伊首相と会談。ネタニヤフ首相は、イランが低濃縮ウランから20%の中間段階を経ずに一気に核兵器に使用される90%の兵器級高濃縮ウランを製造することができると指摘した。
イランは今月15、16両日、主要6カ国とのジュネーブ協議で、ウランの濃縮レベルと遠心分離機の低減などを提案。今後のイランの出方次第で、米国が制裁の一部緩和に応じるのではないかとの観測が出ている。
ネタニヤフ首相とケリー長官との会談では泥沼化するシリア内戦への対応や、パレスチナ自治政府との和平交渉も話し合われるとみられる。ロイター通信によると、ネタニヤフ首相は最近、「シリアはイランの保護国になっている」と指摘、シリアに対するイランの影響力の拡大に懸念を表明している。【10月23日 毎日】
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イランと国際社会の対話が進み、イラン側が核開発の透明性を高めることになれば、その流れはイスラエルの不透明な核政策にもはねかえってきます。
すでに、イスラエルに対して核拡散防止条約(NPT)加盟を求める声なども強まってきています。
****限界に来た「しらばくれ政策」****
イスラエル:核保有国であることを長年認めずにきたが、イランの姿勢転換で国際的圧力が急上昇している
イランの外交姿勢に本格的な変化が表れ始めた。その上シリアが化学兵器の放棄を約束して、中東では古くて新しい叫びがこだましている。それは「ディモナを解体しろ」だ。
ディモナとは、イスラエル南部のネゲブ砂漠にある街のこと。近くのネゲブ原子力研究センターでひそかに核兵器が製造されているとの噂から、ディモナはイスラエルの核施設の代名詞になってしまった。
アメリカとイランの間で対話が拡大し、イラン側が譲歩の見返りを要求する可能性が高まるなか、外交関係者の間ではイスラエルも幅広い交渉に加わるべきだという声が上がっている。
イスラエルの内部にさえ、核保有を「カミングアウト」するべきだという声が出ている。
イランのハサン・ロウハニ大統領は9月の国連総会で、中東を「非核地帯」にしようと訴えた。それだけに、これから本格化するイランの核開発をめぐる6力国との協議で、イランが同じことを要求したとしても「驚きではない」と、ゲーリー・セイモア元米政府調査官(軍縮・大量破壊兵器担当)は言う。
あり得ない、というのがイスラエル政府の反応だ。
イスラエルは、独裁的な近隣諸国に「破壊してやる」と脅されてきた民主的な法治国家だ。国際条約を守らずにきた国々に、「こっちが核を捨てるから、そっちも捨てろ」と言われても応じられるわけがない・・・・。
それにイスラエルは、60年代から核兵器の存在を認めも否定もしない「曖昧政策」を取ってきた。その起源は、65年3月10日に調印された「エシュコル・コマー覚書」にさかのぼる。
この覚書は、イスラエルのレビ・エシュコル首相と、米ジョンソン政権の国家安全保障会議(NSC)のロバート・コマーが交わしたもので、イスラエルは中東に最初に核兵器を「導入する」国にはならないと明記されている。
アメリカは見て見ぬふり
核兵器を「導入する国にならない」とは、核兵器を造らないということなのか、使わないということなのか、持っていることを明かさないということなのか。
その点を「曖昧にしておくことが、わが国の極めて明確な政策だ」と、イスラエルのユバルースタイニッツ国際関係相兼戦略担当相は語る。
イスラエルは現在、75~200発の核弾頭を保有しているとみられている。それでも核実験も核保有宣言もしていない以上、中東に核兵器を「導入」していないというのが、同盟国アメリカの見解だ。イスラエルは核拡散防止条約(NPT)に加入するべきだという批判も、アメリカは聞き流している。
スタイニッツは先週、「中東に平和が確立され、イスラエルを破壊するという声に終止符が打たれたら」、イスラエルは(NPTなどの)武器制限条約への調印を直ちに検討する用意があると語った。
「アラブ諸国とイランが武器を捨てれば中東には平和が訪れる。だがイスラエルが武器を捨てれば、中東にホロコースト(ユダヤ人大虐殺)が起きるだろう」
だが、イランの核開発問題で交渉による解決の可能性が見えてきた今、あらゆることが交渉のテーブルに載る可能性があると、外交関係者は言う。イスラエルが核保有を認め、NPTに加入することも例外ではない。
シリアはアメリカの軍事攻撃を回避するために先週、化学兵器禁止条約に正式に加盟した。その際、化学兵器を造った唯一の理由は、イスラエルの核兵器に対抗するためだったとしている。
当然、シリアのバシャル・アサド大統領は、イスラエルのNPT加盟を求めている。
これとほぼ同じタイミングで、イランの核開発交渉が始まった。それだけに、今後イスラエルにも核開発・保有をめぐって譲歩を求める声が高まるだろう。
セイモアはイランとの核交渉を担当していた時期、「非核地帯という言葉をよく聞いた」と言う。そして今回イラン側の交渉姿勢に変化があったとはいえ、提示される条件はマフムード・アハマディネジヤド前大統領時代の「焼き直し」レベルにすぎないとの見方を示す。
その一方で、イランが何を提案しようと、「アメリカが(イランの核開発問題に)イスラエルを含む中東全域の問題としてアプローチするとは思えない」と、セイモアは言う。
実際、9月の国際原子力機関(IAEA)総会では、アラブ諸国が中心となってイスラエルにNPT加盟と査察受け入れを求める決議案が提出されたが、アメリカの周到な根回しで否決されている。
しかし10年のNPT再検討会議では、中東の非核化に向けた国際会議を2年以内に開くという決議が採択されてしまった。以後アメリカは、いわゆる「中東非核化国際会議」の開催を阻止するため、相当な政治的資源を投じてきた。
中東の非核化は「長期的な構想だ」と、ある米国務省高官は言う。そしてアメリカは中東非核化国際会議の開催条件として、「中東地域の包括的かつ恒久的な平和と、地域国すべてによる武器管理・核不拡散義務の完全な遵守」を求めると言う。
その一方で、10月初めにはエジプト主導で国連の中東非核化会合が開かれ、イランやアラブ諸国のほか非イスラム諸国の政府高官も、イスラエルにNPT加盟と中東非核化国際会議の開催に向けた協力を求めた。
核の透明性確保に協力を
ロシア外務省のミハイル・ウリヤノフ安全保障・軍縮局長は、イスラエルは「協力的にならなければならない」と、厳しい言葉で協力を要請。そのほうがイスラエルのためになると、脅しめいた発言までしている
モントレー国際大学院(カリフォルニア州)のアブナー・コーエン教授は、イスラエルの曖昧政策は「政治的に時代遅れであり、規範的に欠陥があり、民主主義および道徳の面から見ると間違っている」と断じる。
そろそろイスラエルも、核兵器の保有を正直に認め、透明性の確保に協力するべきだ。「曖昧さや言い逃れに終始し、事実を認めないのは21世紀の正しい政策ではない」と、イスラエル出身のコーエンは言う。
だが、ほとんどのイスラエル人は、時代遅れで結構、と開き直っている。かつてエフライム・スネー元副国防相は言った。「イスラエルが何を持っているか推測したいなら、推測すればいい。そして怖がればいい」
それでいい、とアメリカも当面は思っているようだ。【10月29日号 Newsweek日本版】
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国際関係の安定のためには、透明性に基づいた信頼関係の構築が不可欠です。
「曖昧にしておくことが、わが国の極めて明確な政策だ」というのは、やはり独善的であり、「21世紀の正しい政策ではない」というべきでしょう。
「イスラエルが武器を捨てれば、中東にホロコースト(ユダヤ人大虐殺)が起きるだろう」という緊張関係を作り出している大きな原因は、イスラエル側の頑な姿勢にもあります。
お互いの透明性を高めて緊張を緩和することが、結果的には安全保障上の利益ともなります。
もっとも、記事にあるように、後ろ盾となっているアメリカがイスラエル擁護の姿勢を変えない以上、変化は期待できません。