(10月12日 アフガニスタン・カルザイ大統領とアメリカのケリー国務長官 “flickr”より By U.S. Department of State http://www.flickr.com/photos/9364837@N06/10233577223/in/photolist-gAiKYB-gAitLD-gAicuw-gAi8sG-gzCpYK-gzBwfB-gy5GJZ-gtyoBy-gtyoJC-gtyEEn-gtxW7P-gA8bg8-gypvkb-gA8Fwk-gAiMfh-gA7yMm-gA7Ffb-gA7CmA)
【ロヤ・ジルガを1カ月以内に招集して最終判断】
アフガニスタンでは国際治安支援部隊(ISAF)の14年末までに撤退しますが、完全に米軍がいなくなったときアフガニスタンの治安がアフガニスタン治安部隊だけで維持できるのか懸念もあります。
アメリカは、米軍の一部を残すための協議をアフガニスタン・カルザイ政権と行っていますが、米兵の犯罪を裁く裁判権の問題はクリアされていません。
****米軍駐留継続へ部分合意 アフガン、裁判権は留保****
米国のケリー国務長官は12日夜、訪問先のアフガニスタンでカルザイ大統領と会談し、将来的に米軍を残すための協定締結へ向け一部で合意した。
ただ、米国が求める米兵の裁判権の問題では合意できず、最終判断はアフガンの伝統的な国民大会議「ロヤ・ジルガ」に委ねることになった。
米政府は2001年の対テロ戦開始以来、アフガンの治安を担ってきた国際治安支援部隊(ISAF)の任期が切れる来年末以降も、米軍の一部を残すため、前提となる安全保障協定についてアフガン側と1年近く交渉してきた。
アフガン側は、国境紛争を抱える隣国パキスタンを念頭に「第三国から侵略を受けた場合の米国による防衛義務」などを盛り込むよう要求。
米軍の作戦による市民の巻き添えに対し、主権侵害だと反発を強め、米政権内では完全撤退の可能性も検討されてきた。
ケリー氏は11日夜に首都カブールを電撃訪問。カルザイ氏と一昼夜にわたり、断続的に会談を続けた。記者会見でカルザイ氏は、第三国からの攻撃への対応や作戦中の主権の尊重などポイントを列挙したうえで、「ある種の合意に達した」と評価。ケリー氏も「これまで協議を続けてきた問題は解決した」と語った。
ただ、米側が駐留の前提条件としている、罪を犯した米兵に対する裁判権の放棄について、カルザイ氏が「アフガン政府の権限を越えている」として判断を留保。他の合意内容も含め、ロヤ・ジルガを1カ月以内に招集して最終判断を仰ぐ方針を示した。
ロヤ・ジルガの代表は国会議員や地方代表らで、国会内では野党を含め米軍の駐留継続を求める声が強い。ただ、03年に米軍が軍事介入したイラクでは、裁判権の問題で国会承認が得られず、米軍が11年に完全撤退した経緯もある。
最盛期に10万人まで達したアフガン駐留米軍は撤退が進み、5万人程度に半減している。15年以降の駐留規模や年数など協定の詳細は明らかになっていない。
治安が悪化しているアフガンでは米軍が完全撤退した場合、国連や日本などの援助活動が困難になるとの見方がある。中国やロシア、イラン、パキスタンなど周辺国も米軍駐留の行方を注視している。
米軍の完全撤退を求める反政府勢力タリバーンとの和平交渉は開始が遠のく可能性がある。【10月14日 朝日】
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なお、この件に関して【朝日】は“部分合意”という見出し表現ですが、【産経】は“大筋合意”、【毎日】は“最終合意できず”と微妙にニュアンスが異なります。
“罪に問われた米兵の訴追権を米側が持つことについて、アフガン国内では「主権侵害」との反発が強い。ケリー長官は会見で、「米兵の訴追方法は(米軍が駐留する)日本や欧州ですでに確立している。アフガニスタンだけを特別視することはできない」と述べ、理解を求めた。”【10月13日 毎日】とのことですが、日本でも米兵の犯罪が起きると裁判権のあり方が大きな問題になります。
まして誤爆による民間人犠牲などで反米感情が強いアフガニスタンでは・・・ということで難題です。
内向き志向が強まるアメリカでは、アフガニスタンがゴネるなら完全撤退すればいい・・・という声も強まるでしょう。
記事にもあるように、イラクではこの問題でアメリカは完全撤退することになりました。
カルザイ大統領としては、アメリカに妥協しずらい事情もあります。
“アフガンでは過去、クーデターや内戦の混乱のさなかに何人もの指導者が「外国の手先」との烙印(らくいん)を押されて処刑、殺害されている。カルザイ氏は自らの判断で譲歩すれば、来年の大統領退任後に自身への反発が強まりかねないことを警戒していると指摘される。”【10月14日 産経】
ロヤ・ジルガに判断を預ける形で、自らの関与はできるだけ減らしたい意向のようです。
アメリカにとっては、「第三国から侵略を受けた場合の米国による防衛義務」も難題です。
隣国パキスタンはアフガニスタンを自らの影響下に置くことを欲しており、そのためにタリバンとの関係も維持していると見られています。インドと関係が近いと言われるアフガニスタン政府とは確執もあり、将来アフガニスタンとパキスタンが衝突する可能性もあります。
「防衛義務」の規定によっては、そのときアメリカはパキスタンと交戦する事態に巻き込まれることにもなります。
アメリカは汚職・不正が蔓延し、治安も維持できてない、また、何かとアメリカを批判することも多いカルザイ政権の統治能力に以前から不信感を持っており、カルザイ大統領は国民に強い反米感情を政権維持に利用したい思惑があります。
そうした両者の不信感もあって、米軍駐留継続は難しい交渉となっています。
タリバンとの和平交渉においても、アメリカとカルザイ大統領が主導権を争っているような面もあります。
最近の下記事件なども、両者の間がしっくりいっていないことの表れではないでしょうか。
****米軍、タリバン幹部拘束=アフガン当局から横取り?****
米国務省のハーフ副報道官は11日の記者会見で、パキスタンの反政府勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の幹部ラティフ・メスード容疑者を米軍が拘束したと明らかにした。TTP指導者ハキムラ・メスード容疑者の腹心だという。
ハーフ氏は、いつ、どこで拘束されたかなど詳細は明かさなかった。しかし、ワシントン・ポスト紙は10日、アフガニスタン当局者の話として、アフガン政府の車列で同国東部を移動していたラティフ容疑者を米軍部隊が無理やり連れ去ったと報じた。
アフガン情報機関はラティフ容疑者を和平協議の交渉役にしようとし、数カ月に及ぶやりとりの末、同容疑者が情報機関要員との面会に同意。その会合に向かう途中で連れ去られたという。米軍の介入を知ったカルザイ・アフガン大統領は激怒したと同紙は伝えている。【10月12日 時事】
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【拡大するタリバンの勢力】
一方、タリバン側の動向については、アメリカの増派を伴う大規模作戦で一時抑え込まれたその勢力がまた拡大しつつあるとも報じられています。
****タリバーン、勢力じわり****
アフガニスタンでは、米軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)が来年末の任期切れを前に撤退作業を進めている。しかし、敗走したはずのタリバーンはじわじわと勢力を広げる。
首都カブールと第2の都市・南部カンダハルを結ぶ国道は、01年末のタリバーン政権崩壊後、復興の目玉として米国、日本などが資金を出して修復工事が行われ03年に完成。しかし、間もなくタリバーンの影響下に入った。国連や国際NGOの車がほとんど入れない危険地帯となったままだ。
ここを走るのは、住民にとっても命がけだ。国道の中間地点にあるガズニ州出身のカブール大学の男子学生サディキさん(25)はこの道をバスで帰省する際、2回に1回はタリバーンの検問に遭うと証言する。
「タリバーンは政府関係者を捜して殺す。彼らが嫌う思想を学んでいるという理由で学生も敵と見なしている。学生証はもちろん、本を持っているだけでアウト。携帯電話を見つけるとわざわざ登録されている番号にかけ、持ち主の素性を確認する念の入れようだ」
故郷の村では最近、バスから連れ去られた男性の遺体が見つかった。鼻と耳が切り落とされ、「政府と通じた者はこういう運命が待っている」と警告文がはられていた。
■地元警察の死者増加
ISAFに代わりタリバーンとの戦闘や治安維持の前面に立つようになったのは、アフガンの国軍や警察だ。計35万人でタリバーンの兵力の10倍程度とみられるが、自爆テロやゲリラ攻撃を繰り返すタリバーンに苦戦を強いられている。
民間団体「アイカジュアルティーズ」のまとめでは、年間500人を超えていた外国部隊の死者数は昨年402人、今年は8月までに122人と減少した。一方でアフガン内務省によると警察官の死傷者は今年既に1500人を超えた。
犠牲者の大半は、地方警察官と呼ばれる地元採用組だ。アフガンでは03年から軍閥配下の兵士の武装解除が進み、日本政府も1億ドル以上を拠出。約6万人から武器を回収し、職業訓練を施して社会復帰させた。
しかし、農村部でのタリバーンの勢力拡大に対抗するため、村人に再び武器を与え警察組織の一部とする制度が10年に導入された。地方警察官は一部の州でタリバーンとの戦闘で成果をあげる一方、住民への暴力行為が頻発。南部を中心に集団でタリバーンに寝返る例も報告されている。
米国やカルザイ政権は来年末以降も米軍の一部を残すかどうか協議している。タリバーンとの和解も模索するが、合意に至らぬまま時間切れが迫る。(カブール=武石英史郎)【9月11日 朝日】
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西部ヘラートのアメリカ総領事館も襲撃を受けています。
****アフガニスタン:米国総領事館襲撃 タリバンが犯行声明****
アフガニスタン西部ヘラートで13日、武装集団が米国総領事館の入り口を襲撃し、治安部隊と交戦した。現地からの報道によると、アフガン人警官2人と警備員1人が死亡、約20人が負傷した。在カブール米国大使館によると、総領事館の職員は全員無事という。旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。
アフガニスタンでは来年末までに米軍など駐留外国軍が任務を終了し、撤退することになっている。だが、タリバンは、首都カブールや国内南部や東部だけでなく、これまで比較的安全とされた北部や西部での攻撃を強めている。アフガン戦争は来月で開戦から12年になるが、治安情勢は厳しさを増している。
ヘラートでは2011年に駐留外国軍からアフガン軍・警察に治安権限が移譲された。だが、今回の襲撃を受け、駐留米軍が総領事館に配備された。【9月14日 毎日】
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何かと批判が多いカルザイ政権ですが、タリバン抜きの政治体制のもで女性の社会進出や、少数民族の権利拡大などでは、一定に前進も見られます。ただ、当然に抵抗もあります。
また、タリバンとの和解が成立しないまま時間切れで米軍撤退となったとき、タリバンの復権という話になると、情勢はまた一変します。
本当は、そのあたりの話をするつもりでしたが、前置きが長くなったので明日以降の別機会に。